こうして零落の王墓を見てみると、随分古くなったものだ。
放り込んだ魔道具のお陰で人間や魔族、魔物には破壊不可能になっている建造物だが、それでも老朽には抗えない。
「未踏破のダンジョンを踏破せよ、って…合格者を出さない気だよね?」
「ゴーレムがあるので死亡者こそ出さない気でしょうが…合格させない心算ですね。」
統一王朝期、『クラーハイト』として設計に携わった零落の王墓。
最奥に放り込んだ
何方にせよ私が関わったので抜け穴になる場所は熟知している。
「……クラーハイトの、ダンジョン…」
「レンゲ、行ったことあるの?」
「一度だけ、『失墜の王城』に…罠も道も、悪意しか無かった…です……」
「ははは……」
悪かったな、悪意マシマシでダンジョンを作って!
しかし『失墜の王城』か。 これまで殆ど彼女の戦闘は見て来なかったが、実はレンゲもかなり腕が立つのかもしれない。
「そんなクラーハイトのダンジョンですから、一人では何かあると対処しきれないでしょう。 私は協力することに致します。」
「じゃ、私も。」
「私も、そうします……」
トーンの代わりに私が入っていたが、ここで別行動をして落ちるのは嫌だ。
まあ、一人で行動してもその気になれば余裕で突破できると思うのだが…それは流石に秘密だ。 実行したとしても怪しまれたら意味が無い。
既にクラウンはフリーレンに要注意マークを貼られているが、逆に言えば要注意認定されているのは魔族のクラウンだけなのだから。
「…たったこれだけか。」
「簡単なことだ、爺さん。 気に喰わなかったんだろう。」
残ったのは私__『シャーラ』、メトーデ、レンゲ、デンケン、リヒター、ラオフェンの六名。 原作よりは一人、私と言う異物が多いが、まあそれはそれとして良いだろう。 別に何かが変わる訳でも、変える訳でも無い。 炎で全て焼き払おうとするオリジナルと複製体が一匹ずつ増えるだけだ。
それって結構ヤバくない? よくよく考えてみれば
「ま、一次試験みたいに殺し合えるワケじゃないんだし…気楽で良いんじゃない?」
「そうだね、いざとなれば瓶を割れば生き残れる。 一次試験よりずっと親切だ。」
そうか、ラオフェンは人の死ぬ一次試験に憤っていたな。
それに比べればまだこの二次試験は死ぬ危険性が減る分は親切か。
ま、殺す気で罠がかかってるんですけどね。
「さて…何処から行けばいいんだっけ?」
「統一王朝期のダンジョンは全ての入り口が最深部に通じておる。一番魔力反応の少ない場所から行くのが良いだろう。」
「そうなると……此処でしょうか。」
メトーデが見上げたのは、右から二番目の入り口。
配置した魔物と魔道具は一番少ないが、罠は最も多かった覚えがある。 まあ、魔物は勝手に増えて住み着くので変動があったのだろうが…
レンゲがおずおずと手を挙げた。
「あの……そこ、小さくて動かない魔力が沢山あります。たぶん、罠じゃ…」
「…魔物は如何にかなりますが、罠となると難しいかもしれませんね。」
「ふむ。…レンゲ、一番罠が少なそうなのはどれだ?」
「その隣の…はい、そこです…」
魔物は結構居るが、罠は一番少ない。
ううん、バレたか。 まあ罠の動力源は大本がこのダンジョンと接続している
「じゃあ此処からか。…ったく、本当に大丈夫か?既に怪しいんだが…」
「ダンジョンなんてこんなものでしょ。特にクラーハイトだもの。」
「そんなにクラーハイトのダンジョンって悪辣なの?」
「は、はい……かなりの量の罠と仕掛けで、罠を避けたと思ったら魔物、魔物を倒したと思ったら罠…『失墜の王城』は本当に死ぬかと思いました…」
「よく生きて帰って来られましたね…『失墜の王城』はクラーハイトの中でも悪名高いダンジョンですのに。」
「ちょっと一階の入り口近くに入っただけなんです…お陰で無事に…」
『失墜の王城』は潜れば潜るほど難易度と罠と魔物の数が増えていくダンジョンだ。
一階でもまあ相当ではあるのだが…レンゲほどの魔力探知があれば早々と引き返せるか。 道理で『失墜の王城』の動力源になっている
アイツの魔力バチバチしてて静電気みたいだから好きじゃないんだよな、絶対に開発者が言う事じゃ無いんだけど……
「…ねえ、此処だけちょっと暗くない?」
「ああ、確かに…上か。」
上に浮かぶシャボンのような照明魔道具の中に、幾つか火の消えたものがあった。
うんうん、これは勇者が姫を魔王から助ける為に伝説の剣を携えて冒険する有名シリーズの中でもオープンワールドでワイルドだったりキングダムなあの二作品*1の中に登場する強くなるために立ち寄るギミック満載の場所をイメージして作ったんだよなあ…こういうところあった記憶がある。
「……あの魔道具って、火をつけたら燃えるんだっけ?」
「浮かぶ蝋燭だな。 しかし、あの高さだ。 出来るとしたら相当の手練れ…」
「…シャーラさん、できますか?」
「余裕」
なんせこの『シャーラ』は炎関連の魔法に特化した特攻魔法使いですからな、ははは。
その他の属性にはマジでポンコツだけど、炎を扱わせて競わせたらきっと多分恐らくもしかするとゼーリエにも勝てる可能性があるのかもしれないって信じてる。
つまり流石に無理ってこと。
「
揺らめく魔道具から少しずつ火を頂戴して、複数個、小さな炎の短剣を作り出す。
それぞれ火が消えている魔道具に狙いを定め、一気に近付けて火を灯す。
まさか自分で設計した仕掛けを自分で解くことになるとは、巡り会わせとは不思議なもんだ。
「お、ついたね。 随分明るくなった…」
「あの距離であの精度か……大したことだ。」
「炎関連の魔法限定だよ、他のじゃ出来ない。」
感心するリヒターに補足説明を加えて置いた。
近くの壁が地響きを立てて動き出す。
魔物の気配も罠の記憶も無し。 此処確か宝箱置いてあったな。
「…あ、宝箱だ。」
「鑑定魔法は?」
「宝箱だそうです。 どう分けますか?」
「儂は要らん。 功労者であるシャーラにやるのが善かろう。」
中身なんだっけ、と思いながら迷い無く開け放つ。
琥珀のネックレス。 換金すれば良い値段がつきそうだ。
まるごと収納魔法で杖と一緒にしまって、もとの通路に戻って来た。
「にしても……なんだか気味が悪いね。」
「如何言う意味だ、ラオフェン?」
「いやに作為的な仕掛けじゃない? 気付いてその手の魔法が得意な人間が居れば、直ぐに解除できてしまいそうな…しかも此方側に利益しかない。 墓泥棒が入るのを想定して作っているみたいだよ。」
「そうだな、罠かと思ったが本当に違う。 ただの宝物を保管するにしては分かりやすすぎる。」
まあねー、零落の王墓は君達が入るって分かってたんでねー。
だからRPG風に完全な善意と悪戯心を込めて作ったんだけど……『クラーハイト』として作って来たダンジョンがどれも意地悪すぎたか。
まあでも零落の王墓はちょっと私の中のゲーム達が暴れ出してしまって。 結果、こうなった。
「“クラーハイト”、面白いな。 もし今でも生きていたら一度会ってみたいもんだ。」
「……変わり者だね、リヒター。」
ごめんそれ私、既に会ってるよ。
・クラーハイト (ドイツ語で「明晰」)
統一王朝に仕えていた賢者。
当時建設された城や墓(現在のダンジョン)の設計を担当していた。
魔族や魔物、魔道具に対して造詣が深かった為、気味悪がられていたが、その英知と頭脳は現在でも高く評価されている。悪い意味で。
当然の様にオリ主である。
・ヴァサー (ドイツ語で「水」)
統一王朝期以前に活発に活動していた魔族。
二つ名は「水面のヴァサー」。
やっぱりこっちも当然の様にオリ主。
※
由来はドイツ語で「面」を意味する言葉から。
水鏡の悪魔の扱うものより高精度(水鏡の悪魔が生み出す複製体は見分けがつく)で、姿を含めて“完璧に本人そっくり”で“見分けがつかない”複製体を生み出す。また、“声も出せる”上に、“複製体同士での連携が可能”。
魔物に与える際に(わざと)性能を劣化させた模様。