ブラック・ブレット Devils×Devil  〜悪魔を超えた悪魔、ブラブレ世界に舞い落ちる〜   作:ジョニー一等陸佐

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1th MATCH 始まり

 2021年。人類は存亡の危機に立たされた。

 人類滅亡の危機は天変地異でも核戦争でもなく未知の殺人ウイルスによってもたらされた。

 新型ウイルス『ガストレアウイルス』

 その新型ウイルスの最大の特徴にして脅威は致死率でも感染力でもなかった。

 生物に寄生し、その遺伝子を書き換える…それこそがガストレアウイルスの最大の特徴であり、脅威であった。

 ガストレアウイルスに感染した生物は遺伝子を書き換えられ、元の性質を保持したまま巨大化・狂暴化する。非常に強い再生能力や身体能力、赤い瞳、醜悪な容貌を持った全く別の生物…通称『ガストレア』に変貌するのだ。

 パンデミックが始まった時期、ガストレアウイルスを注射された実験用モルモットがあっという間に赤い瞳の醜悪な生物に変貌する映像がネットやSNS、テレビに流れお茶の間の度肝を抜いたものだ。

 あまりにも尋常ならざる性質に某国が開発した新型生物兵器という噂も流れたが、その真相は謎のまま…

 その新型ウイルスと怪物に対し、人類はあまりにも無力だった。

 感染を恐れ人々が避難するたびに被害は拡大し、ウイルスとガストレアは瞬く間に世界を飲み込んだ。

 世界各国は総力を結集してそれに対処しようとした。ある者はウイルスそのものに対する対処方法を見つけようと…ある者は人を食らい、化け物に変えるガストレアを倒そうと…しかし圧倒的な身体能力と再生能力を持つガストレアは必死の抵抗を嘲笑うかのように人々を喰らい…怪物に変えていき…その数は指数関数的に増えていった。

 結局人類は国土と人口の9割近くを失い、世界各国は各地の『モノリス』を閉じ自立防御の構えを取る。

 世界はガストレアが跋扈し、僅かに生き残った人類はモノリス内に閉じ込められることになった。

 そうして2021年、人類はガストレアに敗北に霊長の座を追われた。

 

 ――それから、10年。

 

 

 

 

 

 岡島純明は東京エリアの一画で一人歩いていた。

 いったいどうして自分はこんなところにいるのだろう。今自分が歩いているとこは自宅からは遠く、職場や行きつけの店があるわけでもない。酒を飲んだわけでも変なクスリをやったわけでもない。思考や意識は明瞭で、せいぜい若干の気怠さがあるぐらい。

 それなのに、自分がいまこのあたりに足を運んでいる経緯が全く分からなかった。

 とりあえずそこらにあった自販機でスポーツドリンクを買って、口にする。薄味すぎるのかちっとも味はせず、500ミリリットルをあっという間に飲み干した。

 

 「本当に、どうしてこんなところに…」

 

 「おい」

 

 不意に、背後から男の声がした。

 振り返り岡島はぎょっとする。そこにいたのはただの男ではなかった。

 日本人にしてはかなりの高身長、上下黒づくめの服装に季節外れの風にはためくロングコート。髪型はオールバック、その顔つきは見る者を威圧するほど厳めしい顔つき。さらに顔には横一文字の傷跡が走っており、それがさらに威圧感を与える。そして何よりも、服越しでもわかる鍛え抜かれた屈強な肉体。

 その壮年男性が一般人というものからほど遠い存在であることは岡島の目にも明らかだった。

 岡島は思わず後ずさる。

 

 「あ、あのぅ…どちら様で…」

 

 「お前、自分がどうなっているのか分かってるのか?」

 

 「へ?」

 

 「フンッ、その様子だと記憶も吹っ飛んでるようだな…もうどうしてやることもできん。何か言い残すことがあるんだったら今のうちに言うんだな」

 

 「い、一体何を言って…」

 

 戸惑う岡島だがもし勘の鋭いものが見れば男の鋭い眼光の中に僅かに、憐憫の感情があることに気付くだろう。

 男は続ける。

 

 「自分の姿を見ろ。そうすれば俺の言ってること、何があったのかが分かるはずだ」

 

 男の雰囲気に気圧されるように岡島は視線を見下ろし自分の姿を見て…愕然とした。

 

 「なっ…なんだあっ」

 

 視線の先には真っ赤に染まった腹部があった。いや、腹部だけではない。

 

 「うあああ、ワ…ワシの体が全身血塗れになっているっ」

 

 肩口から喉にまで引き裂かれたような大きな傷があり、今も出血し続けている。現に岡島が立っている道路の上はいつの間にか大きな血だまりが出来ていた。不可解なのはこれだけ大きなけがをしながらなぜ今まで気付かなかったのか、痛みを毛ほども感じていないのかということだった。

 そこで岡島は視界が暗転し、その場に倒れこむ。

 

 「そ、そうだ…思い出した…俺は無一文になってそれで…」

 

 岡島は走馬灯のように今までのことを思い出した。

 あの地獄のようなガストレア戦争は終戦後も、生き残った者たちに苦難を与えた。社会は当然大混乱に陥り、岡島が務めていた会社は倒産。新たな職も見つからず路頭に迷い、ギャンブルで稼ごうとして案の定負け続け、憂さ晴らしに大酒を飲み家族に当たり散らす…案の定、気付けば妻子は自分の下を離れ、自分は家を追い出されボロアパートの狭い部屋に押し込められていた。

 このままではいけない…

 ようやく我に返った岡島は必死になって職を探した。数えきれないほど受けた面接では人格を否定されるような愚弄をされ悔しさに襲われることもあった。それでもなんとかして、岡島は清掃員の職に採用された。辛い仕事だがある程度の給料は保証されている。生活さえ安定すれば妻子を呼び戻しやり直せるかもしれない…

 僅かに見えた希望に岡島はせめて声だけでも聴きたいと妻子の実家に電話を掛けようとした。そして…その時ふと上を見てしまったのが運の尽きだったかもしれない。

 人間サイズもある巨大な生物が――ガストレアがアパートの壁に張り付いていた。岡島がこちらに気付いた瞬間を見計らうようにそれは真っ赤な目をひらめかせて岡島に襲い掛かり、そして――

 

 「そ、そうだ…俺はあのガストレアに殺されかけて必死に逃げて、それでここまで来たんだ」

 

 「…その傷は明らかに致命傷だ。にもかかわらずここまで歩いてこれたことを考えると…どうやらそのガストレアにウイルス入りの体液を注入されたな」

 

 「ああ…」

 

 男に指摘されてから岡島は自分の体が熱く、内側から膨らむような圧迫感を始めて自覚した。

 ガストレアウイルスは寄生した生物のDNA情報を書き換える。

 今こうしている間にも岡島の体内のDNA情報は超高速で書き換えられ、異形の生物に成り果てようとしているのだろう。気付けば涙を流していた。

 

 「死を与える慈悲もある…せめて人間のうちに殺してやろう」

 

 「ま、待ってくれ…」

 

 もう体が思うように動かない。呂律は回らず、意識は朦朧とし、視覚や聴覚は男の姿や声を上手く捉えられない。

 それでも岡島は必死に目の前の男に言葉を紡ぐ。

 

 「頼みがある、お、俺の妻と子供に誤ってくれ…いままでごめん、って」

 

 「…分かった」

 

 それが岡島が人間として見ていた最後の光景だった。彼はついに人間でいられる限界点を超えた。

 彼の手足が急にしぼんだかと思うと代わりに真っ黒な細長い足が彼の体を突き破るように飛び出した。

 毛が生えた八本の長い脚、遅れて頭部の部分から真っ赤な単眼が現れる。腹部は巨大に膨らみ、口角からは2本の牙。その体色は黄色と黒のまだらで見る者に嫌悪感と警戒感を与える。

 巨大なクモのガストレア。それがガストレアウイルスに感染した岡島の成れの果ての姿だった。

 ガストレアの真っ赤な目が男の姿を捉え、口角の牙をカチカチと鳴らす。目の前の男を獲物と認識しているのは明らかだった。

 鋭く鳴いたかと思うとガストレアは低い視線で男めがけて猛スピードでジャンプする。

 だが男がその鋭い牙の餌食なることはなかった。男は跳躍しガストレアの上空を軽々と飛び越える。一般人が見えたらこれだけの大男がああも素早く、そして高く跳躍できるのかと驚くだろう。

 ガストレアがさっきまで男がいた場所を恐ろしいスピードで擦過。そのまま素早く体を反転させる。その向こうにはいつの間にか取り出したのか、水平二連のソードオフショットガンを片手で構える男の姿があった。

 ガストレアが出糸突起を男に向け糸を放ったのとショットガンの轟音が鳴り響いたのはほぼ同時だった。

 超高速で放たれた糸を、しかし男は瞬時にかわす。同時にショットガンを発射。散弾がガストレアの足や頭部の一部を吹き飛ばす。が、絶命には至っていないようでガストレアは大きく悲鳴を上げると牙の毒腺を開いて男めがけて突進する。

 

 「フンッ」 

 

 しかし男は慌てるでもなくガストレアの巨大な体と接触する寸前、その鍛え抜かれた脚を振り、ガストレアめがけて回し蹴りをお見舞いした。

 すさまじい音と共にガストレアの体は飛散し、あるいは潰れ。そのまま男の回し蹴りは周囲を巻き込み、付近にあった電柱に激突破壊し倒壊させ盛大な粉塵を巻き上げた。

 粉塵が収まるとあたりには飛散したガストレアの肉片や破片、倒壊した電柱とその下敷きになったガストレアがいた。ガストレアの体は完全に潰れ、ピクリとも動かない。絶命したのは明らかだった。

 すべてが終わり男がショットガンをコート内に収めると気配を感じ、振り返る。

 一人の少女がこちらを見つめているのが見えた。

 10歳前後だろうか、裏地にチェック柄のおしゃれなコートにミニスカート、そこの厚い編み上げ靴を履いており、髪型は少し大きめの髪留めで結ばれたツインテール。

 少女の目には驚きの感情があった。今までの戦闘を見ていたのだろう。

 少女が口を開く。 

 

 「今のは…お主が?」

 

 「そうだ…そういうお前は?」

 

 「うん、妾は『イニシエーター』の藍原延珠という。10歳にあがったぞ、もう立派なレディーだ」

 

 延珠と名乗った少女は威圧感のある男にしかし少しも怖気ついた様子を見せず、逆に誇らしげに自分の名を名乗る。

 

 「ほう…同業者か。ではお前の『プロモーター』も近くにいるんだな」

 

 男の言葉に延珠は頷く。

 

 「うむ、そのはずなのだがあの薄情者、『ふぃあんせ』の妾を捨て置いて先に行ってしまったのだ。ところでお主は…」

 

 なんだか物騒な言葉を混ぜながら話していると今度はパトカーのサイレン音が響いてきた。

 程なくして数台のパトカーが到着。

 警官達がパトカーから躍り出て現場を取り囲む。

 パトカーからは刑事と思しきコートを着た男や、まだ高校生と思しき顔つきの悪い学生服の男も出てきた。

 その高校生を確認したかと思うと延珠は彼の方に素早く歩み寄る。

 

 「蓮太郎!」

 

 「延珠、無事か!」

 

 蓮太郎と呼ばれた男も両手を広げ延珠のもとに走り寄るが次の瞬間繰り広げられたのは抱擁ではなく、延珠による股間への蹴りだった。

 

 「はうっ」

 

 蓮太郎は股間を抑えて蹲る。

 

 「妾を自転車から放り出しておいてよくもぬけぬけと妾の前に顔を出せたな…」

 

 「お、怒ってんのか?」

 

 「当たり前だ」

 

 「し、仕方ねえだろ、この仕事取れなかったら木更さんに尻を蹴りまわされるんだから…」

 

 そこで蓮太郎も男の存在に気付いたようだった。

 蓮太郎と刑事の2人は男に近づく。

 刑事が男に口を開いた。

 

 「勾田署の多田島だ。アンタも民警か?」

 

 「ああ、そういうお前たちは警察に…民警か」

 

 男の言葉に頷く蓮太郎。延珠の方を指差しながら口を開く。

 

 「『天童民間警備会社』の里見蓮太郎だ。アイツは俺の相棒の延珠。…こいつはアンタが?」

 

 民警。

 敗戦後しばらくして、ガストレア絡みの事件は民間警備会社、略して民警が処理するようになった。天井知らずの警察官や自衛官の死亡率を下げるため、ガストレア関連の事件は基本的に民警が対処しガストレアの駆除にあたるようになっていた。

 

 「ああ、あのガストレアが俺が殺った。パンデミックの心配もないだろう。もう立ち去らせてもらうぞ」 

 

 「オイオイ、せめて許可証ぐらい見せてくれよ。こっちは色々事後処理しなきゃいけないんだぜ」

 

 民警である蓮太郎は目の前の横一文字の傷が特徴的な大男を見るが、男は最早興味はないというように現場から立ち去ろうとする。それを引き留めようとする多田島。男が振り返り蓮太郎と目が合った。鋭い眼光に一瞬身構える蓮太郎。対する男は蓮太郎の目を見て何かに気付いた様子だった。男が蓮太郎に口を開く。

 

 「…里見蓮太郎といったか」

 

 「…そうだよ、そいつがどうした」

 

 「何でもない、確認しただけだ。覚えておこう。…ああそうだ、あのガストレア…もとは人間だったが形象崩壊する前に言い残したことがあったぞ」

 

 「何と?」

 

 「妻子にすまないと伝えてくれと」

 

 「…そうか」

 

 男は再び体を翻し、今度こそその場から立ち去ろうとする。

 

 「ああそうだ、名前だけは名乗らんとな」

 

 そこで顔を蓮太郎たちに向ける。

 

 「鬼龍」

 

 初めて男は自らの名を明らかにする。

 

 「宮沢鬼龍。お前と同じく民警をやっている者だ」

 

 そう言って男ーー鬼龍は2人に背を向け去って行く。

 

 「お前とはまた何処かで会うだろう…」

 

 立ち去る鬼龍の背中を2人は静かに見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 2031年。ガストレア戦争から10年後。

 敗戦し多くの者を失った人類は主要都市中心に、モノリスと呼ばれる超巨大建造物群で包囲された安全圏を形成。わずかに残された安全圏内で、生き残った人類は必死に復興に邁進し何とか文明の針を2020年代初頭まで巻き戻していた。

 その安全圏を形成し、人類をガストレアから守護する結界の役割を持つモノリスの外に出ればそこはまさに地獄。

 ガストレアが地に、空に跋扈する絶望の世界である。

 そんな過酷を超えた過酷な世界に1人立つ男、宮沢鬼龍。

 この男がこの絶望の世界に何をもたらすのか。

 それはまだ、彼自身含め誰も知らない…

 

 

 

 

 




◇この二次創作の目的は…?
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