美神の眷属が女神そっちのけで酒場に入り浸っているのは間違っているだろうか   作:ぴえんふー

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ダンジョン「!!!?????」


21話 不退転

 最初に音が消えた。

 

 光が消え。

 

 影が消え。

 

 あらゆるものが消えて――星の光が持つ暴力が地上に顕現した。

 

 地を迸る星光の烈火。

 熱は穢れた光へ

 剣は堕ちた星へ。

 空を駆ける筈の彗星の尾は光の大海となって地面を波打ち、射線上にあるあらゆるものを呑み込み、焼却する。

 

 それはオリヴァスの歪な右腕に握られた彗星の本体。

 穢れた天の使い、その欠片を宿した大地の剣。

 迷宮都市の滅亡を願い、死を振り撒き、英雄神話を終わらせんとする妄執を象るもの。

 

 

 やがて彗星は地上へと回帰し、光熱が階層中の大気を揺るがせた。

 

 

『『女神の(ゔぁな)』、『白鷹(ふれーす)』……!!!』

 

 

 周囲に光が戻る。

 

 晴れた景色。魔力の残滓により禍々しく白い燐光を大気に散らし続ける地獄が如き風景に繰り広げられていたのは、取り繕いようもない惨状だった。

 

 オリヴァスを起点に扇状へ広がる、隕鉄の軌跡が刻んだ爪痕。

 幻想的な風景を彩っていたかつての姿は見る影もない。

 湖の一部はあまりの高熱で蒸発し、余波をもろに受けた湖畔は枯れていた。

 水晶は溶解し残滓すらも燃やし尽くし、森はその剣圧と熱波が生み出した衝撃波により木々を根っこごと吹き飛ばし、焦土の一部と化している。

 

 

『『疾風(りおん)』……!!』

 

 

 パキィンと、光熱を宿し白く発光していたオリヴァスの右手に握られた剣が、結晶を撒き散らし小さくなる。

 

 オリヴァスの身の丈を優に超えていた醜悪な大剣は、甲高い音と共に一転して流麗な刀身を覗かせていた。

 

 鋼のしなやかさを思わせる緩やかな反り。

 刃を奔る波紋は流水の如く、変貌し切ったオリヴァスとは対照的にその手に握られる武器はあまりにも美しい。

 

 それこそ、かつての彼が対峙した剣士のようで。

 同時にどうしようもなく濃い『死の気配』を纏う、とある男への執着を現しているようだった。

 

 ……余人は知る由もない。

 オリヴァスという男が、『女神の白鷹』に執着する理由を。

 

 ましてやオリヴァス本人は知る由もない。

 

 どうして、死にたくなかったのか。

 どうして、怪物に成り果ててでも彼を殺そうと思ったのか。

 

 

 ()()()()()()()、こんなことになったのかも。

 

 

『――――』

 

 

 焼き切れた理性、獣性に押し退けられた人間としての側面が貌を出す。

 

 

 その瞬間だった。

 

 

「――――ハァッ!」

『――――!!!?』

 

 

 すとん、と怪人の白い首が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずん、と斬り落とした怪人の首が地面を転がる。

 真っ黒な焦土と化した大地に飛び散った血と一緒に、灰へ還って消えていく。

 

 遅れて地に伏した白い巨体だけを、その場に残して。

 

「……やっぱり……完全な、意識の外からの攻撃なら有効、ですか」

 

 しかし有効打になったがそれだけ。

 その命を絶つには至らない。

 人間が相手ならばこれで終わっただろう。首を断ち頭と体を切り離せばその時点でカタがつく。

 

 だが相手は、心身をモンスターへと変貌させた怪人。

 ましてやあの再生力となれば、なまなかな手では崩せない。

 

 

 やるならばやはり、最大火力で以て一度に吹き飛ばす他ないだろう。

 

 

「――ごほっ、ごほっ……あぁ、この咳は少しマズイな」

 

 べちゃり、と内臓がそのまま血反吐として絞り出されたような赤黒い血。

 自分の意識とは別に込み上げて来るそれが肺の空気と共に押し出され、そんな些細な動きにすら激痛を伴う現状の自分の身体に、鬱屈とした感情が湧いてくる。

 

 正直、今の自分の中身がどんなになっているかなんて想像もしたくない。

 

 けれどまだだ。

 まだ俺には、仕事が残っている。

 

 そもそも、首を刎ねた程度がなんの優位になろうか。

 それで死ぬのであれば、きっと俺以外の誰かが倒していたことだろう。

 

 だからこれもきっと、必要なこと。

 

 

 必要なことなら――耐えるだけだ。

 

 

「……【フレス……ベルク】」

 

 小さく無数に展開した魔法を可能な限り散らせた。

 魔力を感知する機能を利用して惑わせ上手く潜伏する。取り分け俺とリューさんの反応に鋭敏なことから小さいながらもこの戦術は有効。

 そして、あわよくば迎撃に利用する。

 

 戦闘は、まだ終わっていないのだ。

 

「リューさん達は……まだ無事な森の中、うまく射線から引いてくれたみたいですね」

 

 移動しながら、鏃の散布を続ける。

 とはいえ出来て陽動、再生して以降の時間稼ぎくらいだろう。

 斬り飛ばした首が元に戻り本来の感覚が回復すればすぐに観測されることは予想できる。

 

 ……問題ない。

 元より、今こうしているこの時間こそが何かの間違いみたいなものだ。

 

 スキルでの強化が間に合わないと踏み、鏃の数を揃えて足りない火力を補ったことが思いのほか功を成しただけという、計算も戦略もあったもんじゃない行きあたりばったりな結果が上手く噛み合っただけ。

 

 無論、奇跡には代償は必要だ。

 

 そして――その代償は既に俺が支払っている。

 

「ごほっ、ごほっ……ふーっ、ふーっ……」

 

 吐血で止まりそうになる呼吸を強引に整える。

 酸素を少しでも取り込まないと、今にでもこの場で倒れ伏す予感があった。

 

 呼吸の度に飛びそうになる意識を、どうにか繋ぎ止める。

 ずたずたになった内臓が邪魔者となった血を吐き出そうとするたびに、体の外を観測する感覚も思考も呑み込んで溺れそうになる。

 

 しかも、それだけじゃないのがなんともタチが悪い。

 

「……ただで止められるわけないとは思っていましたが……これからって時にコレとは」

 

 今まで見ない様にしていた傷口を、改めて見据えた。

 

 オリヴァスの魔法を少しでも軽減すべく放った無数の【フレスベルク】とそれらの爆散鍵――そしてスキル。

 

 ……それが果たして、どれだけの効果があったのか。

 右腕はガワだけは辛うじて胴体と繋がっているだけの状態。

 肩口から激痛が迸っているというのに、それより下に感覚らしきものは存在しないというのは何とも寒々しい。

 

 外套は焼け焦げて虫食い状態に、手甲は熱によって砕けて熔解し、欠片が火傷の一部と癒着している所為で見るも無残な見てくれに成れ果てている。

 

 先程オリヴァスの首を刎ね飛ばせたのは、それこそ奇跡に近いだろう。 

 だがそんな奇跡のような一瞬の隙で動けたというのに必殺に至らなかったのは俺の未熟だ。

 あと少しのところで、命に届かなかった。

 

「……感覚がない……というか力が入らない。凄く痛いのに……でも、あそこで全滅するより百倍良い」

 

 刀を握っているという感覚すら希薄なのだからどうしようもない。

 

 こんな手で武器など掴んでいれば痛みがあって当然なのに、それすら感じない。

 

 ……ここで手放したら二度と、文字通り二度と握れなくなりそうなので死ぬ気で感覚のない右腕を全力で酷使しているが、それでもカタカタと得物が震えている。

 

 いや、震えているのは俺の右手か。

 

「せめてもう一仕事ぶんくらいは、もたせないと」

 

 外套の裾を切って、その切れ端を使って右手に強引に柄を巻き付け、握らせる。

 叫びだしたくなるのを、外套の切れ端を噛んで堪える。

 震えは、止まっていた。

 

「レンリさん! レンリさん!! どこにいる!?」

 

 そして少し離れたところに、聞いたこともないくらい切羽詰まったリューさんの声が耳に届く。

 

「リューさん、無事ですね」

「レンリさ…………ぇ?」

 

 そんな様子に見兼ねて声をかける。

 

 途端、普段の様子からは考えられない、まるで亡霊でも見たかのように力の籠っていない声が返ってきた。

 

「すぐに移動しましょう。オリヴァスはまだ生きている。感知を惑わせる仕掛けはしてますが、気休め程度です。だから早く、どこかに隠れないと」

「…………レンリさん……その腕は」

「アレを防ごうなんて考えた俺の自業自得です。あとは俺のステイタスの仕様みたいなものですので、お気になさらず」

「……っ! 治療を!」

「駄目です。もう何が起こるかわかりません。精神力(マインド)もポーションもまだ温存しておきたい。このまま行きます」

「ですがっ――」

「時間がないです、リューさん。大丈夫、これで刀を握れなくなるほど柔な鍛え方はしてません」

「……、……せめて肩に捕まってください。その程度なら、私も力になれる」

「もう十分過ぎるほど力になってくれてるんですけど……ありがとうございます」

 

 ……心苦しいが、苦渋に満ちたリューさんを黙殺し、肩を借りて移動を開始した。

 

 揺さぶられるたびに迸る痛みが、どうにかこの身体がまだ生にしがみついてくれていることを認識する。とんでもなく苦しいが、今はそれがなんともありがたい。

 

 やがて、森の中で控えているボールスさんの一団に目を向ける。

 そして目があった瞬間、その場に居た誰もが息を呑んでいた。

 

「生きて、いるのか」

「右腕っていうか、体の右側が……」

「俺達を庇って、ああなったってことか……?」

「なんで……あんなんになってまで、どうして」

 

 ……どよめく群衆を無視して、今ある戦力を分析し戦況と照らし合わせる。

 

 まずは人数、規模にしてみれば小、中規模パーティと言ったところか。

 死傷者は出ていないが、動ける人員は限られている。

 あまりいても俺がカバーしきれない可能性を考えると、この人数が最善だろう。

 

 ヘディンさんなどが居ればこれ以上の人数を戦術的に運用してくれるのだろうが、俺では最低限の指示を出すことが関の山か。

 

 そして、奥で怪我人の応急手当にあたっていたボールスさんと向き直った。

 

 その視線は黒焦げになって、肩口から血が滴る俺の右手に向けられている。

 

「ボールスさん、状況を聞いても良いですか」

「…………お前それ、動くのか」

「問題ありません。俺はこれで良いです。それよりも現状は? どうなっていますか」

「レンリさん、せめて今だけでも休息を――」

「駄目です。座ったら、きっと俺はもう目を覚まさない。だから……ボールスさん、今だけは、お願いします」

「……」

 

 真っ直ぐと、片方しか無いその瞳を見据える。

 そしてボールスさんは何か、苦虫を何十匹も噛み殺したかのように顔を顰めたあと、重々しく口を開いた。

 

「……怪我人はとっくに街の中に運び込んだ。動けるやつは軒並み食人花の対処に回ってる。この場には『血濡れのトロール』の一件でランクアップしたやつらも何人かいる……もっとも、アレが相手じゃどれだけ居ても足りねぇだろうが」

「いえ、十分です」

 

 むしろ思ってた以上に状況が充実していたことに、何様だとは思いつつ感心する。

 やはりこの手の咄嗟の人員管理においてボールスさんは有数の冒険者だ。

 

 俺には、どうにもそういったことは難しい。

 

「皆さんも注意してください。アレは恐らく召喚魔法の類。本命は奴の右手に握られている歪な剣です。爆発は恐らく発動に際した魔力の放出に過ぎません」

「……つまり?」

「あれは剣を振るってから本領を発揮する、ということです」

 

 そう口にすると此処に集まった冒険者はさぁっと蒼褪める。

 魔力操作も雑、出力調整も雑。

 あんなナリになっても並行詠唱を行えるということはそれなりの技量があるのだろうが、どうにも付け焼刃な技能である気がしてならない。

 

 それでもこの威力。

 委縮するなというのが無理な話だろう。

 

 

 だがそれこそが、奴のつけ入る隙になる。

 

 

「今から、アレを仕留める算段を今から説明します」

「ちょ、ちょっと待て!!!」

 

 群衆の中から、荒々しくも幼さを感じさせる声が耳に届く。

 視線を向ければ、種族特有の小さい体格に子どものような容貌。

 その小柄な肉体を補うためか手に携えた長槍を見て、すぐにそれが小人族(パルゥム)のものだと認識する。

 

 首を向けるのも億劫なので、視線だけを彼に寄越す。

 

 びくりと、その小さな身体がもっと小さくなったかのような錯覚を覚えた。

 

「……っ!! お、俺は参加するなんて言ってない! 『血濡れのトロール』の時と一緒だ! もうコトのレベルが『ロキ』とか『フレイヤ』のとこで対処に当たるものだろ! あんなの、これだけの戦力でやり合えって!? ふざけんのも大概にしろよ!!」

「援軍を呼ぶのは推奨できません。やつの感知能力は広大なうえ正確です。それに再生完了までに残された時間はそう多くない。仮に上層に行ってファミリアの救援を要請したところで、駆けつける頃には全滅するのが自明の理です」

「…………っ……!!!」

 

 ……子どもを正論で攻めたててるみたいで、気分が悪くなる。

 いやでも、トロールの現場に居合わせて生き残っている以上、小人族という種族の特性上きっと見た目にそぐわない年齢と経験を併せ持った冒険者なのだろう。

 

 思えば装備の長槍もどこか安っぽくはあるものの、どこぞの『勇者』を思わせる装飾をしている気がする。

 

「じゃ、じゃあ……! お前が俺達を護れよ……!」

「おい、よせ! お前自分が何言ってるのかわかってんのか!?」

「うるさい! このままじゃ全員死ぬんだぞ!? あの白髪野郎が死んだら次は俺達だ! こんなところであんな理不尽に殺されてたまるかっ!」

 

 俺に槍を向け声を上げる小人族の冒険者。

 

 それを俺は、黙って聞いている。

 

「なぁ!? 世界最速(レコードホルダー)の『女神の白鷹(ヴァナ・フレース)』さんなら出来るんだろ!!? なら同じようにこの理不尽を覆して見せろよ!!」

「……それ以上口を閉じろ、下郎。私が、レンリさんの制止を振り解く前に」

「うるせぇ! お前も同類だエルフ! ソイツに今にも死にそうな面させてねぇで何とかしやがれ! んな暇があるんだったら、アレが動けねぇうちにいくらでも――「言われなくとも、元よりそのつもりですよ」――対処の一つや二つ…………え?」

 

 協力は得られなかった。

 であれば、何で言い出しっぺのこの人が困惑しているのだろう、という疑問を抱く間も惜しい。

 

 ポーチより最後の精神力回復薬(マジック・ポーション)を取り出し、瓶ごと噛み砕いた。

 

「レンリさん……! 本気で言っているのですか!」

「良いんです、リューさん。正直、こうなることも、考えなかったわけじゃ――ごぼ」

「なっ――――!!!」

 

 喋り過ぎたのか、あるいはポーションが変な所に入ったのか、また喉から血がこみ上げてきた。

 

 それに合わせて、意識が遠のく。

 

「――、――!! 駄目だ、起きて! 起きてください、レンリさん! こんな死に方は許されない! 誰か、レンリさんが渡したマーメイドの生き血を――!」

 

 きぃん、と耳鳴りがする。

 虫の羽音のような甲高い音は拾うのに、それ以外の音を耳は拾わない。

 意識が闇と混濁して、視界は明滅を繰り返した。

 足が地面を捉える感覚すら希薄になって、ぐるぐると世界が回りだす。

 

 この感覚は、よく知っている。

 

 洗礼。

 ダンジョン。

 最初の深層。

 オシリス・ファミリアの残党。

 

 そして、アイツの――『血濡れのトロール』との決闘。

 

 じわじわと光を失い、暗黒が目に映る世界の輪郭を侵食してる。

 酷く恐ろしいのに、安らかで。

 もう頑張らなくて良いって、体が囁くように力が入らなくなっていく。

 

 これまでの戦闘においてその身で味わった『死』の誘惑そのもの。

 

 

 でも――俺に刻まれた『恩恵』は、まだ生きている。

 

 

 『直感』で失った感覚を補強する。

 この体に迫りくる喪失を、()()()()()()()()()()()アビリティの危機感知を強引に発動させて、体の感覚を取り戻す。

 

 

 『生き血』が入った瓶を掴んでるであろうリューさんの腕を掴んだ。

 

 

「っ!!! レンリさん! 意識が……!」

「……街の冒険者たちの被害を正確に確認できていない……以前と同じ轍は踏ませない……それが確認できるまで死んでもそれは使いません……それに……俺は、一人でもやります」

「「「「「…………」」」」」

「リューさん、彼らの誘導を。俺はオリヴァスの元へ向かいます」

 

 ……さっきは勝手に死ねなんて発破をかけるつもりで言った手前、説得力なんてないだろうが。

 

 それらを踏まえると、やはり俺に人を動かす才能はないだろう。

 

 その証拠に、隣で俺に肩を貸すリューさんは頑なに俺の身体を放そうとしない。

 

「もう、もうやめてください……! なぜそれほどに治療を拒むのです! 彼らの協力を得られないのなら、私が魔法の行使を止める理由は無い筈だ!」

「……別に死ぬつもりなんて毛頭ありませんよ。ただ、やり方を変えるだけです」

「それであなたが死なないという保証にはならない……!」

 

「俺は、自分の損傷(キズ)を火力に変えられるんです」

 

 隣で息を呑む声が聞こえる。

 俺が頑なにこの傷を放置するのを理解したのだろう。

 とうに死んでる筈の傷で、どうして生きているのか。

 彼女の言う様に、どうして治療を拒むのか。

 

 ただただ、火力を確保する為に。

 

 これほどの傷が無ければ、敵の命に俺の剣が届かないことを確信しているからである。

 

「俺一人で仕留める方法ならあります」

「……!」

 

 静かに、それでいて強引にリューさんを引き剥がす。

 

「詠唱したタイミングでどうにかアレの体内に入り込むか喉を抉り取るかをして、『魔力暴発(イグニス・ファトゥス)』を引き起こす」

「……何を、言っているのです……?」

 

 魔法は魔力を高め詠唱という引き鉄を用いて放つ。

 だからこそ高い集中力が求められる。緻密な魔力操作技術が求められるのだ。

 だが、魔法に込められる魔力が術者の体内に存在する以上、常に暴発の危険性は存在する。

 早い話、魔力という火薬を砲弾として放つ砲身として己を代用するのが魔法という代物なのだ。

 

 『魔力暴発』とは即ち、火薬を砲台の内側から誤爆させる行為と同義。

 

 その規模は術者に依存し、それは攻撃に転用が可能である。

 

「無論、それだけで仕留められるとは思えません。よって俺も体の中から【フレスベルク】を発動し、体内で爆散させてそこから魔石を破壊する補助として機能させます」

「駄目だ! それでは『白髪鬼(ヴェンデッタ)』に張り付かなければならない! 特攻とどう違うというのです!」

「リューさんも知っているでしょう。俺は目的を果たすまで死ぬつもりはありません。体の中で刀を振るえるなら腹を掻っ捌いて出てきます」

 

 ――死んだら、それはそれだ。

 

 今回の負傷はひとえにオリヴァスの魔法がオラリオでも類を見ない魔法であったから。

 だが俺には()()()()()

 魔力暴発なら『洗礼』の合間に、強敵を仕留める手段として何度も使用してきた。

 

 それに耐える為のスキルも兼ね備えている。先程の小人族がいったことはある意味で正しい。

 

 この場で、俺以上の適任は存在しないのだ。

 

 だからこそ、オリヴァスの攻撃を一手に受けて彼らが避難し戦闘の余波が及ばない場所にまで誘導する。

 

 

 だが、それでも仕留め切れなかった場合。

 

 

 その時は――俺が知りうる最強の『剣』でかの怪人を消滅させる。

 

 

「な、なんでお前がそこまでしやがる……?」

「……」

 

 俺とリューさんのやり取りを見てか、小人族が狼狽を隠さずにそう口にする。

 その視線に込められた感情は、よくわからない。

 怖がっているようにも見えるし、理解できないものを見るようにすら見える。

 

 

 だがわかるのは、その『バケモノ』を見るような視線が、俺に向けられているということだけ。

 

 

「俺らなんか見捨てて、周りのことなんか考えなければお前だけでどうにか出来たんじゃねぇか……!?」

 

 それは、そうだ。

 確かに周囲を鑑みなければ解決できる方法はいくらでもある。

 端的な話、彼らを囮にしてしまえば良い。

 

 オリヴァスの魔法だってそうだ。

 少なくともあれだけの長文詠唱の魔法であれば、避けるだけなら容易だ。

 

 だが、そんなのなんになる。

 

 ()()()()()()()ことに、なんの意味があるのだろうか。

 

「――それでも」

 

 ボールスさんを見る。

 

 そして、リューさんを見る。

 

 それだけで、どこか力が湧いてくる。

 

 だからきっと、これで良いのだ。

 苦しんだぶん、報われるとは限らないけど。

 

 今なら、きっと報いてくれる人が居る。

 

 ならばそれは、何処にも無駄なんてありはしないのだ。

 

 

「――友達の大事なものは、俺の大事なものでもあるんです」

 

 

 無様に死んだら、それはそれだ。

 

 後悔もある。やり直せたらどれだけ良いか、そんな身も蓋もない考えを何度したかわからない。

 

 そうして死んだ場合、俺は今度こそ恩知らずの恥晒しとして無意味な人生を送った者として、忘れ去られるだろう。

 

 

 だが、それでも。

 

 

「足掻く意味がある限り、俺は足掻いていたい」

「――――」

「それはあなたも同じでしょう――憧れに、届くといいですね」

 

 長槍を握り締める小人族を見届けて、返事を待つことなく背を向ける。

 目指すのはオリヴァスの身体のある場所。

 リューさんの手を、強引に振り解いた。

 

「リューさんは皆さんの誘導を。殿は俺が」

「……っ、待ってください! なら私も一緒に……!」

「あなたが居るから行けるんです。何かあったら後は頼みますよ」

「違う、まだ何か手はある筈だ! 何か、もっと違う方法が……!」

「……」

 

 彼女の説得には骨が折れるだろう。

 

 

 だから、止むを得ない。

 

 

 刀の柄を、未だに俺に配慮を続ける彼女の首元に掲げて――。

 

 

 

 

「おいおい、おめーらはそれで良いのか!?」

 

 

 

 

 ――その瞬間。

 

 

「こんな駆け出しに発破かけられて! 俺らより先にくたばりそうなやつが真っ先に戦おうとしているのを、黙ってみているだけか!?」

 

 

 ――ボールスさんの、そんな荒々しい言葉が沈み切った一同の肩を震わせた。

 

 

「お、おいそうは言うけどよボールスぅ……! 一度戦ったらもう逃げられねぇんだぞ……!」

「あぁ!? それ俺が街に戻ろうとしたところを怪我人がいるとかなんとかで泣きついてきたテメェが言うのか? お陰で俺も逃げられずに袋の鼠だわ!」

「そ、そりゃあそうだけどよ……」

 

 

 ……なんであんなところに居るのかと思えば、そんなことをしていたのか。

 

 なんやかんや言いつつ、見捨てようとしないところが何ともボールスさんらしい。

 

 

「腰抜けで結構! どんだけ足が竦もうが、生きてナンボ! むしろこの死に急ぎ野郎と比べれば万倍マシだ! だからてめぇより他人が大事だなんて言ってるやつにはこう言ってやれ!」

 

 

 そして真っ直ぐと。

 

 

 ボールスさんは俺を見つめて、言い放った。

 

 

「――カッコつけてんじゃねぇぞバーカってな!!!」

 

 

 しん、と辺りを静寂が支配する。

 それは発言者であるボールスさんを浮かせるようなものではない。

 怖いだろう。

 護って欲しいと願うだろう。

 

 それでも、誰も逃げなかった。

 

 この場に居るのは大半は、誰もが同じ想いを抱き――それでもこの場に立っている。

 

「――――」

 

 空気が熱を孕むのを感じ取る。

 沈み切り、淀んでいた体を蝕むように心を縛りつけていたそれが、今はこの場にいる誰もの背中を押している。

 

 かちかち、と小さく鋼が震える。

 激励を受けてもなお収まりきらない恐れが、各々の武器を通じて伝わってくる。

 だけど目は誰も死んでいない。

 

 皆が皆、ボールスさんの言葉に武器を構え始めた。

 

 

「おら、言えよアルノ! 及び腰のやつらが何人かいるが、こっちは準備万端だぜ!」

「ボールスさん、腰が震えてますよ」

「こういう時ぐらい俺を担ぎ上げろよクソが!?」

「腰抜けでも良いんでしょう?」

「うるせっ!」

 

 

 小さくても、抗う。

 

 弱かろうと、戦う。

 

 無駄だろうと、吼える。

 

 そうすれば下を向いても、それでも前へと歩き続ける。

 

 無謀など百も承知。

 獣であったなら、それで終わっていただろう。

 人でなしならば、それを悪足掻きと嗤うだろう。

 

 だが、それでも。

 

 それでも叫び続ける心の名を――人は勇気と呼ぶ。

 

 

 

「決まりです――アレと食人花を西の湖へ。皆で、アレを打ち倒します」

 

 

 

 

 そしてそこでは――オリヴァスが再生を終えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 




戦地常在(ディース・アイン)
・戦闘続行効果
・戦闘時、全耐性蓄積換算
・戦闘続行時、発展アビリティ『魔防』の一時発現
・戦闘続行時、発展アビリティ『精癒』の一時発現
・補正効果はレベルに依存

スキル構成が『コイツは絶対に回復させない』という意思を感じる。
『直感』をPCの再起動みたいな感覚で気つけに使用する男。どの世界でも白髪のキャラは頭がおかしいらしい。

白髪はオッタルみたいに『頑丈』ってわけじゃなくて体力表記が『ブレイクゲージ形式』な感じ。
そこに『戦地常在』による戦闘続行を重ね掛けするとこうなる。
よって骨折は軽傷(違う。
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