美神の眷属が女神そっちのけで酒場に入り浸っているのは間違っているだろうか   作:ぴえんふー

27 / 28
ありえない幕間劇「白鷹の凶日 前編」

 我らのファミリアは個人主義の極みであることはオラリオにおいて周知の事実。

 

 めちゃくちゃ雑に言えば仲が悪いわけだが、しかして何も情がないわけでもないのだ。

 

 確かに眷属間の連携における練度ははっきり言ってクソだし、遠征中に背後から狙ってくるし、事務仕事はやりたがらないし、その癖して飯は沢山食べるわ量が足りないわ酒を持ってこいわとはっきり言って迷惑極まりない。

 

 だが同時に他者に振り回された結果、自身の人生を狂わせられてしまう程度にはお人好しではあるため、本質的には決して冷徹でもないし外道というわけでもない。

 

 女神の神意に応えるために真っ直ぐに、それでいて不器用な人ばかりなのである。

 

 ……ここまで語っておいてアレだが、要するに何が言いたいかと言うとだ。

 

 

 誰かが困っていたり、死にそうになっていたりしたら余程のことが無い限り手を差し伸べてくれる人ばかりなのである。

 

 

 よって結論を言おう――俺は嫌われていない。

 

 

「あぁ? 話しかけてんじゃねぇ殺すぞ」

 

 

 ――――俺は嫌われていない。

 

 

「おい、白いのにブラックな奴が来たぞ」

「この場合、ブラックなのは仕事漬けという意味でいいのか」

「いや、フレイヤ様と度々出かけてるから業務じゃないな。アレは奉仕だ」

「ふとした時に見せる疲れた顔が意外と虫唾が走るな。久々に刻んでやろうか」

 

 

 ――――俺は嫌われていない。

 

 

「アルノ。今回は私がフレイヤ様の傍付きを仰せつかる。貴様が作成したというフレイヤ様の願いが記載されたリストを私に寄越せ……なに、既に更新してオッタルに渡した? オロスぞ貴様」

 

 

 ――――俺は、俺は。

 

 

「俺は嫌われてるのでしょうか」

「ふふふ」

「ふふふじゃないんですよ」

 

 せめて否定してくれないと。

 

「アルノがあの子達を素直にしてくれれば全て解決するわよ」

「あの人達の本音を聞くのもそれはそれで怖いんです」

「ふふふ」

「だからふふふじゃないんですよ」

「ふふふのふ」

「キレそう」

 

 場所は街の大通りを一望できるオラリオにいくつか点在する隠れ家的なカフェテラス。

 

 微かな羽音のような、途切れることのない都市の騒音を傍らに、窓から差し込む日光が向かいにいる銀の化身を優雅に照らす。

 

 加えて幸いと言えば良いのか不幸と言えばいいのか、本日の我らが女神はどうにも機嫌が良いらしく、ローブに覆い隠された肢体からは今にも踊り出しそうな陽気が溢れ出ている。

 

 反対に眼球から魂やら気力やらが抜けていく俺の無様を、女神はくすくすと楽し気にカップを

 

 いい御身分とはよく言ったものである。

 

「しいて言うならこうして私と一緒に外に出てるからじゃないかしら」

「一緒にならざるを得なくなった原因が何か言ってますが」

 

 お陰で俺は内からも外からも雁字搦めである。

 

 こうなるから色々と便宜を図ったのに。

 

「私の願いが詰まったリストを渡したりして?」

「バラさないでって頼んだのにあの人達は……!」

「お陰でオッタルは飛んで、ヘグニは神出鬼没のスワンボートレーサー、ヘディンはひと時の釣り名人になった。見事よアルノ」

「結果俺は黒焦げになったり遭難しかけたり島から島へ遠泳する羽目になったのですが」

 

 こうしてみると碌な目にあってないな俺。他の事例を上げれば枚挙にいとまがないが、ここ最近のはどれも酷い。

 

 一番穏やかだったのが団長が飛んでその火消し作業でオラリオを駆け回った件くらいなのが混沌を極めてる。

 

 ――――いや、団長が飛ぶってなんだよ。

 

「そんなアルノに伝えたい良い知らせと悪い知らせがあるの」

「……」

「そんな面倒臭そうな顔しない」

 

 そりゃそんな顔にだってなるだろう。

 それはこれまでの自身の振る舞いに関しては何とも思ってないことが今の言葉なわけで。

 

 自由にするのは構わないし、付き合うならとことんまで付き合おう。

 

 だがそれはそれとして毎度のごとく心臓に悪いイベントまで付随してくる特性を持ってるのは自覚して欲しいものである。

 

 例えば国を傾けたり、気紛れに戦争へ介入したり、オアシスをパブか何かに変貌させたりとか。

 

「……なんなりと」

「じゃあ良い知らせから。もう少しでこの茶会は終わるわ」

「……? 俺は別にフレイヤ様とこうしてお茶する時間は好きですよ」

「え?」

「ん?」

 

 何をきょとんとしているのだろうかこの美神は。

 

 俺は別にこの(ひと)のことが嫌いなわけじゃない。

 

 神の部分が介在しない真っ当な接し方をしていれば、ちゃんと好感を持つに足る神物(じんぶつ)なのだ。

 

「何やら認識の齟齬(そご)があった気がしますが……良い知らせというのはそれで?」

「……」

「フレイヤ様」

「……じゃあ悪い知らせを教えてあげる」

 

 

 こほん、と咳払いを一つ。

 

 

 少しズレた仮面を元の位置に直すような、いささか不格好ながらも愛らしい仕草だった。

 

 

 ズレたままで良いのに、と口にするのは野暮だろう。

 

 

 

 

「アルノ――今日、働くのはやめておきなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――とは言ったものの……どうすれば」

 

 ばりばりと、紙の上にペンを走らせる音が絶え間なく聞こえてくる。

 はたを織る様に一枚、それが終わればまた一枚、また一枚と。

 紙面に書き連ねる黒い羅列は文字と共に一定のリズムを刻んで、机の脇にいくつもの束と山を作り上げていく。

 

 場所は変わってギルド本部。

 オラリオ北西第七区、冒険者通りに存在する万神殿(パンテオン)に設けられた窓口にある一室を借りて、俺は『私用』への調査を進めている。

 

 その『私用』とは言わずもがな、先日のオリヴァスの一件に連なる『闇派閥』に関したものだった。

 

「レンリさん、何か言いました?」

「……いいえ、何でもありませんよチュールさん。なのでその手に持った枕を下ろしてください」

「眠たくなったら言ってください。たたでさえ寝不足、過労、業務過多で死んでもおかしくない状況なんですから」

「ノリ軽いですね……それに、そんな人を仕事大好きな作業機械のような扱いをする物言いは感心しませんよ」

「この前『戦場の聖女(デア・セイント)』に睡眠薬を強引に飲まされてましたよね」

「人に恥の上塗りして楽しいですか」

 

 対面するのは茶髪緑眼のハーフエルフ。

 黒いパンツとスーツという装いはまさしくギルド職員と言った出で立ちで、優し気に表情を象る眼鏡に隔てられた穏やかな瞳は、エルフ特有の鋭さが少ないながらもその容貌も相まって理知的な雰囲気を生み出している。

 

「それよりもこちら、ダイダロス通りの資料持ってきましたよ」

「……ありがとうございます。最近はただでさえてんてこ舞いなのに通常業務の合間に対応いただいてなんと言ったら……」

「いえいえ、レンリさんには『フレイヤ・ファミリア』の窓口代わりにしてしまってるので。これくらいだったら手伝いますよ」

「俺の同僚がホントにすみません」

 

 名をエイナ・チュール。

 先の発言からわかるように、俺の肩書を知ったうえで俺への手伝いを買って出てくれる女傑でもあった。

 

「にしても……歓楽街、メレンの港街、今日はダイダロス通り。連日なにを調べられてるので?」

「先日の冒険者が失踪する事件に関与している、と言えば伝わりますかね?」

「……まさかギルドから正式な依頼が?」

「いいえ。あくまで『私用』の範囲内、ということにしてあります。ノイマンさんからは早く解決しろと急かされてますけど」

 

 実際、私用が混じっているのも事実なのだからこちらとしては何も言うことはない。

 

 だが、物事には順序があるというのもまた事実。

 

 急ぐから下手な動きはするなと釘を刺して以来、妙な小言が減ったのは幸いだろう。

 

 ……だが、何もギルド長が死にそうな顔で頷かなくたって良いと思うのだ。

 

 俺のことを便利屋扱いするのは構わないが、時折俺の所属を忘れて自身の『駒』と()()()()()()()()()ので、その辺りの認識の齟齬を改めるという目的もあったことは否めないが。

 

「……よく無事でしたね、ギルド長は。色々な意味で」

「必死なんですよ。誰かを思いのまま捻じ伏せる力がないから権力を欲するのも理解出来ますし、そういう立場で自分がそういう人間だと自覚してるから誰にも頼れない……そう見ると何だか可哀想でしょう」

「そんなこと言えるフレイヤ様の眷属なんてあなたくらいでしょうけど……」

 

 まぁ俺以外に言ったら間違いなく殺されてる。オラリオの後先のことなど塵芥も考慮されずにぺしゃんこにされたに違いない。

 

 だがそれはそれとして、今は逸る気を抑えなくてはなすべきことも成せない。

 

 敵の情報網は未知数。戦力ですら第一級冒険者を優に超える存在を保有していたのだから、まるでダンジョンで発生する『未知』へ対面してるみたいに底が見えない。

 

 単純に見てもギルドや『ガネーシャ・ファミリア』の監視網を掻い潜り、こちらに気取られずに都市の地下まで活用するほどの手腕を持っているのだ。

 

 加えて、調査に関わって貰っている人員にはギルドからの介入を面倒がる面子だっているのだ。事は秘かにかつ慎重に運んでいきたい。

 

 

 何より、これまでずっと掴めなかった()()()の足取りがようやく掴めそうなのだから。

 

 

「にしても……これが、凶日?」

 

 先程『本拠地(ホーム)』へ送り届けた女神の言葉が頭を過る。

 

 物騒な響きの言葉を告げられたわけだが、俺の目の前にはある意味平和……いつも通りと言えばいつも通りな光景が広がっている。

 

 ここまで行くといつもの質の悪い揶揄いの類かと思ったが、冗談にしては言葉に真が乗っていたような気がしてならない。

 

 だが『私用』には違いない。

 

 それがたまたま都市の為になって、たまたま俺の目的と合致していたというだけで。

 

 俺としては必要以上の迷惑を掛けたくないという思惑以外に都市の為に動いてるつもりは微塵もないのだ、これが。

 

「レンリさん、お疲れだったら少しくらい休んでもいいんですよ? ほら、ちょうど此処に致死量の睡眠薬も用意してますので」

「ちょうどで用意して良いものじゃない」

「とある聖女様から『これくらいしないと効かない』と聞き及んでますので」

「致死量って死に致すって書くから致死なんですよ……少し、聞きたいことがあります」

 

 資料の束を捲り羊皮紙に内容を纏めていく手が止まったのを見かねたのか、チュールさんが首を傾げながら俺の顔を覗き込んでくる。

 

 ペンを置いて、彼女に向き直った。

 

 丁度良いというべきか、此処は冒険者の窓口。

 

 そして目の前には多くの冒険者の姿や目に見えない動きすら追えるギルド職員がいる。

 

 業務の小休止程度の質問相手としてはこれ以上の相手はいないだろう。

 

「今日……というかここ最近変わったことはないですか? あぁ、俺の追ってる事件とかじゃなくて、それ以外で」

「変わったこと、ですか。うーん……あ」

「む?」

 

 端正な顔立ちを小さく唸らせるチュールさんは思い当たる節があったのか、抱えていた紙束の中をぺらりぺらりと捲り始める。

 

 進展があるかもしれないという期待半分、厄介事が来るかもしれないという恐怖半分が思わず声となって漏れだした。

 

「ギルドは掲示板にクエストを貼りだしてるんですが、よほどの進展がなかったり()()()()()()に関してはギルド側で失注として扱い、依頼書を破棄してるじゃないですか」

「勝手に解決してたり貼っていた本人が忘れたりしますからね」

「そこで……こちらなのですが」

 

 抱えていた書類の山からチュールさんは一つの束を取り出す。

 

 表題を確認すればそれは件の依頼書と思われるものをかき集めたものであった。

 

「えー、猫探しに、ドブさらい、落とし物に仇討ちにヘルメス様探してます、納品に中層未到達領域のマッピング……ん?」

 

 なんだろう。

 

 受け取った紙束を(めく)っていたら、とんでもないものを流し読みしてしまった気がする。

 

「わかります。わかります。けどもう一度読んでいてください」

 

 言われるがまま、もう一度最初から紙束の内容を捲り返し読み上げてみる。

 

 今度はゆっくり、指差しで確認しながら。

 

「…………え、神ヘルメスって失踪したんですか」

 

 何やってるんだあの(ひと)

 

「その失踪すら胡散臭いのは流石は神ヘルメスと言ったところなんですが……問題はその依頼主なんです」

 

 『この顔にピンと来たらヘルメス・ファミリアへ』と表題に書かれた依頼書を改めて見直す。

 不思議なことに、この依頼書に発注者の名前が記載されていない。

 

 整いながらも軽薄そうな顔立ちに羽根つき帽子を被った旅人風の男の似顔絵が添えられ、ヘルメス・ファミリアの本拠地に関する情報が記載されている。

 

 だが、俺はこの依頼書を書いた人間の姿がありありと脳裏に浮かんでいた。

 

「この筆跡、アスフィさんのものですね」

「それって、『万能者(ペルセウス)』ですか」

「……なんだか字体に溢れんばかりの怒りを感じますけど」

 

 依頼文が記載されている箇所に何度かインクが飛び散り、その都度書き足されているように文章全体が綴られている。

 

 まるで、書いてる途中でペンを何本もオシャカにしてしまったかのように。

 

 ……これかぁ、という妙な納得がすとんと胸で落ち着いた。

 

「……チュールさん、少し席を外します。この依頼書は頂いても?」

「構いませんが……受注する気ですか?」

「不本意ですけど。それに――」

 

 重くなった胸中が溜息となって漏れだしそうになるのを堪えつつ、その羊皮紙を手に取る。

 

 主神はともかく、アスフィさんには現在進行形でお世話になっているは事実。主神はともかく。

 

 だがどうしても、この依頼の行末を考えるとあのアスフィさんとは似ても似つかない軽薄な男神の顔が思い浮かぶのもまた紛れもない事実だ。

 

 そして何より――。

 

 

「嫌な、嫌な予感がするんです。ええ、凄く嫌な」

 

 

 それも猛烈な。

 

 それは見て見ぬふりをして遠ざけたところで、向こうから近づいてきそう厄介事の気配はいつまで経っても拭えなかった。

 




◇ランクアップの出来ごと
 Lv.3 → Lv.4
 オラリオ内外の『美神』による『女神同盟』が催した戦争遊戯への単独参加。

 発展アビリティは『剣士』。スキルは【戦地常在(ディース・アイン)】を獲得。

 Lv.3、Lv.4が混在するファミリアが徒党を組んで女神フレイヤの追放を目論み、総勢数百名対1で戦いを挑まれた。
 
 呪剣使い、テイマー、暗殺者などクセの強い有数の冒険者がいたものの、『灼零の蒼翼』を初披露した上でこれら全てを単独討伐。
 
 アルノ・レンリ一人で戦わせること、女神フレイヤを引き合いに出せるよう扇動した手腕。

 その裏には、胡散臭い笑みを浮かべてる語り手を気取る神が居た。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。