日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編   作:アニキ イン ザ スペース

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プロローグ

なだらかな丘陵地帯(きゅうりょうちたい)一面に広がる広大な麦畑……大きな実を付けた麦の()初秋(しょしゅう)の風を受けてさざ波の(ごと)()れるその光景は、まるで金色(こんじき)に輝く大海(たいかい)(ごと)(はる)か地平線の向こうへと続いていた。

その麦穂(むぎほ)大海原(おおうなばら)を突っ切るかの様に引かれた線路の上を1両のディーゼル機関車が11両の客車を牽引(けんいん)しながら西へと走り抜けていく……。

 

この世界の東に位置するロデニウス大陸の北東に在る国、クワ・トイネ公国では北部中央の港町であるマイハークから最東端(さいとうたん)の町であるヤキノハータまで敷設(ふせつ)された長さ1500km以上に及ぶ線路を、およそ3日の日数をかけて移動する長距離旅客列車が運行しており、乗客として人族を始め、町エルフ、ドワーフ、獣人と多様な種族が乗り込む中、寝台列車と共に連結されたラウンジ車の席には多くの人々が集まり、列車の旅を楽しむべく様々な談笑(だんしょう)に花を咲かせていた。

 

「何処までも続く豊穣(ほうじょう)の大地、正に緑の神の御加護(ごかご)に感謝ですな……今週中にはここも収穫が始まるのでしょうか。」

 

「そうですね、この辺の麦は二ホンへ輸出する為に全てマイハークに運ばれるらしいですよ……そして、その二ホンの農業機械はこの広大な麦畑を数日もしない内に全て()り取ると言うのですから驚きです!」

 

「本当、二ホンの技術には驚かされますな……昔だったらマイハークまで馬車でもひと(つき)かかった道のりを、今じゃ3日(ほど)で移動できるのですからニホンの鉄道、様々(さまさま)ですよ!」

 

「……私は親族に会う為、マイハークで乗り継いでエジェイまで行くのですが、貴方はどちらへ?」

 

「私は子供達と一緒に新マイハーク港へ、二ホンの大きな船を見たいと子供達がせがむもので……。」

 

「おおっ、新マイハーク港へ観光ですか! 運が良ければ、ロウリアとパーパルディアの軍勢(ぐんぜい)を倒した二ホンの灰色の鉄船が見れるかもしれませんぞ! それと港に行くなら入国管理局の近くに『三毛猫亭(みけねこてい)』と言う日本のヨウショクと言う料理を出すお店が有りますのでお(すす)めしますぞ!」

 

「料理ならば、次の停車駅のナエノデンエンで販売しているシュリッペが絶品(ぜっぴん)だと言う話ですよ、なんでも列車の到着を見計(みはか)らって焼きたてを出していると言う話ですから!」

 

「ははっ……そう言われると食べたくなりますなぁ、(ため)しに買ってみますかな!?」

 

乗客達が思い思いの事を話していると、列車内のスピーカーより車内アナウンスが流れて来た。

 

「本日はヤキノハータ発、マイハーク行き寝台特急列車のご利用有難うございます……間も無く当列車は次のナエノデンエン駅にて貨物列車の通過(つうか)待ち合わせを行います(ため)……。」

 

「おやおや、(うわさ)をすれば……早速(さっそく)、財布の準備をしないと!」

 

「あれ? ナエノデンエンって、確か!?」

 

「ほら! 我が国が二ホン国と国交を結んで、最初に二ホンの農業機械が導入(どうにゅう)された村ですよ!」

 

乗客達がそう話している間に列車は分岐器(ぶんきき)通過(つうか)し、停車駅で有るナエノデンエンの旅客ホームへと停車した。

 

「ナエノデンエン~! ナエノデンエン~! 当列車は貨物列車通過(つうか)待ち合わせの為、約15分程停車いたします~! 乗客の皆さまは、列車を降りましての駅構内(こうない)散策(さんさく)、トイレ等は自由ですが、駅からは出られない様、お願いいたします。」

 

客車のドアが開くと中にいた乗客達がぞろぞろとホームへと降りていく、客車からホームへ出て背を伸ばし深呼吸する者、駅の売店で買い物をする者、さらにナエノデンエン駅を始め旅客ホームのある駅には清潔(せいけつ)な日本式の水洗トイレがある為、多くの乗客がここで用を済まそうと我先(われさき)にと入っていく。

そして客車から出て来た乗客達が落ち着いたのを待っていたかの様に、愛らしい衣装を身に着けた町エルフの少女達が駅に隣接(りんせつ)している店から現れた。

 

「焼きたての美味(おい)しいテリヤキシュリッペはいかがでしょうか~!」

 

町エルフの少女の売り子達はこの駅の名物であるシュリッペを入れた大きな番重(ばんじゅう)を持ちながら客車の方へと歩いていく。

シュリッペとは丸いパンに肉や根菜(こんさい)を切った物の上にチーズを乗せて焼いた、この国では良く食べられている料理で有るが、ここのシュリッペは日本国由来(ゆらい)調理法(りょうりほう)が使われているらしく、その美味しそうな(にお)いに釣られてか多くの人達がシュリッペを買い求めていた。

 

【挿絵表示】

 

駅周辺を見渡せば、旅客ホーム側の周辺(しゅうへん)はガラス張りの真新(まあたら)しい建物が目につき、舗装(ほそう)された道にはクワ・トイネではまだ珍しい乗用車が走る姿が有り、その横を自転車と言う日本から来た不思議な乗り物を乗りこなす若い女性達の姿が見られた……そして遠くに見える丘には、風を受けゆっくりと白い翼を回す風力発電機の巨大さに皆が驚きの声を上げた。

 

「すごい! これが最初に二ホン国の恩恵(おんけい)を受けた村なのか……。」

 

その情景を見た人々は、ここが人口2000人程の村とは思えない繁栄(はんえい)ぶりに皆が驚嘆(きょうたん)の表情を浮かべていた。

旅客ホームの反対側にはサイロと呼ばれている巨大な鉄の塔が建ち並び、その下では収穫機と呼ばれている日本から来た巨大な農業機械が十数台並んでいる姿が見えた。

 

「おとうさんみて! ヤンボーがいっぱいならんでいる~!!」

 

客車にいた子供が線路の向こう側に見えた農業機械を指差し、はしゃぎながら喜んでいる。

ヤンボーとは日本でトラクターを始め各種農業機械を製作しているメーカーの名前で有るが、数多く導入されている為かこの国の人々はいつしか農業機械全般をメーカー名であるヤンボーと呼ぶようになっていた。

 

しばらくすると西の方角から汽笛(きてき)の音と共に2両のディーゼル機関車に牽引(けんいん)された貨物列車が見え始める、列車はディーゼルの低い(うな)りと鉄の貨車が引き合う音を(ひび)かせながらゆっくりとした速度でナエノデンエン駅へと近づいて来た。

 

「これは……一体、何両の鉄の荷車を引いているのだ!」

 

「見えるだけでも20……いや、もっと多く引っ張っているぞ!!」

 

「重い鉄の塊を何十両も引っ張って行く怪物が人の作りし物とは……まったく信じられん。」

 

「これはロウリアやパーパルディアが負ける訳だ……しかし、あんなモノを作り出す二ホンとは……。」

 

2両のディーゼル機関車が30両以上のタンクコンテナを乗せた貨物車を牽引(けんいん)しナエノデンエン駅を通過(つうか)する姿に乗客達は圧倒され、その余韻(よいん)は貨物列車が東の地平線に消えるまで続いた。

 

やがて駅のホームにチャイムが()(ひび)き、乗客達は客車へと乗り込んで行く……駅員達が乗り遅れの乗客がいないか駅のトイレの中まで探し終えた後、列車へ合図を送るとディーゼル機関車が大きな汽笛(きてき)を上げ動き出す。

駅員と売り子達が見送る中、旅客列車はホームをゆっくりと離れていき、西へと走り出していった。

 

駅を抜けた列車は再び()てしなく続く麦穂(むぎほ)海原(うなばら)を駆け抜けていく……ここは古来(こらい)より豊穣(ほうじょう)の女神に祝福(しゅくふく)されし約束の地……その名はクワ・トイネ公国、全ての物語はこの国に異世界から来た訪問者(ほうもんしゃ)がこの地を(おとず)れた事により始まった。

 

そして物語は始まる




用語

クワ・トイネ国営旅客鉄道

日本の鉄道会社の支援を得て開業した、クワ・トイネ公国初の国営鉄道会社。(貨物輸送鉄道は日本との共同経営)港湾都市マイハークを起点に西側は城塞都市エジェイ、東側は最東端の町ヤキノハータ間を日本から供与された寝台列車を使用して営業している。
近代化が著しいクワ・トイネ公国では国内の旅行ブームも相俟って、寝台列車の乗車券の購入は抽選になるほど人気が高い。

シュリッペ

クワ・トイネ公国でよく食べられる調理パン、ナエノデンエン駅で売られている味付けは、日本から伝わった照り焼きチキンとマヨネーズが使われているとの事。
(料理の名前はドイツの丸パンから来ています。)

新マイハーク港

大型貨物船を入港させる為に日本の支援を元に建設されたクワ・トイネ公国最大の貿易港、隣接しているマイハーク港は現在、観光地として日本人に人気が出ている。

ディーゼル機関車

鉄道の電化が進んでいないクワ・トイネには初期は日本から導入されたディーゼル機関車であるDD51系が使用されていたが、プロローグ時(パーパルディア戦争後)では輸入された新型のDD200やHD300系が貨客輸送の主力車両として導入されている。

ナエノデンエン

今回の物語の舞台となる、クワ・トイネ公国にて町エルフのノーグ家が治める人口700人程(パーパルディア戦争後で有るプロローグ時は2000人に増加)のマイハークから南へ約300km以上離れたサージレイ丘陵地と呼ばれる場所に在る村。
東京都の面積に匹敵する(未開墾の)広大かつ肥沃な土地を保有していた為、最初に日本国の農業機械が導入された村となった。
その為か他の地域と異なり早期から電気、水道が敷設されており、村の規模にも係わらず他の地域よりも著しく発展している。

三毛猫亭

元は新マイハーク港に入港する日本人向けの洋食屋だが、異国の料理ヨウショクが食べられると評判となり多くのクワ・トイネ人がやって来た結果、某異世界食堂小説を彷彿とさせる光景が店舗で見られる様になった。

ヤキノハータ

クワ・トイネ公国で最東端の町で東側の鉄道の終着駅、南方の大東洋諸国との交易を行う港が有るが、まだ町に電気は引かれていない模様。

ヤンボー

日本の農業機械メーカー、正式な社名は『株式会社山坊農機』で、この世界の日本では「熱き男の赤トラ」のキャッチコピーで知られている。
クワ・トイネ公国ではもっとも多く見られる農業機械メーカーの為、クワ・トイネの人々は農業機械全般の事をヤンボーと呼んでいる。

※ 今回、挿絵を試験的に描いてみました…。(ここまで描くのは久しぶりです!)
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