日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く 作:アニキ イン ザ スペース
中央歴1639年(西暦2015年) 3月31日 クワ・トイネ公国 マイハーク港沖上空
青く晴れ渡った大空の中を一機の飛行艇が4発のターボプロップエンジンの音を響かせ飛行している。
大きく白い胴体には機首と尾翼の部分が明るいオレンジ色に塗装された姿が目に付く機体……後継機の登場で間も無く退役を迎える海上自衛隊所属の救難飛行艇で有る「US-1A」は、最後の役目としてまだ飛行場が無いクワ・トイネへ降り立つ事の出来る旅客機の代わりとして使われ、臨時に設置された座席には陸上自衛隊の制服を着た大柄で体格の良い男が座っていた。
「間もなくマイハークに着水しますのでベルトの着用をお願いします!」
搭乗員の言葉に男は軽く
「どれ……異世界とやらを拝んでくるか!」
男はそう言いながらベルトを外し立ち上がると、開いたサイドハッチへと歩いて行く。
彼の名は
情報部別班……それは西暦1960年に日米安全保障条約が
通常、別班の隊員は「
そんな彼をDIA(アメリカ国防情報局)は、
『StormGazer』(嵐を見つめる者)と……。
機内には山内の他にもう一人、ベレー帽を被った若い男性の姿が有り、その
二人は連絡用のゴムボートへと乗り継ぎ、停泊中の輸送艦「おおすみ」へと乗艦して両手に荷物を抱えて甲板に上がると、そこには彼らの搭乗を待っている一機のヘリコプターが駐機していた。
「あれ?……山内三佐、このヘリって確か……。」
田崎達の目の前に有るヘリコプターは海上自衛隊で良く見られる白と灰色の塗装では無く、深い緑色に機首とテール部分に明るいオレンジ色が塗装されている機体だった。
「あぁ……コイツは『しらせ』に搭載されていたヘリの3号機だよ!」
彼らの目の前に有るヘリコプター……CH-101は、南極観測船「しらせ」に搭載される輸送ヘリとして購入された3機の内、予備機として国内に残っていた一機で有り、母船で有る「しらせ」を失った事で、ここクワ・トイネで輸送業務を担う新たな役目を果たしていた。
「俺達がこの世界に転移した時、『しらせ』は南極に居た……向こうで上手くやっていればいいんだが……。」
山内はそう言いながら田崎と共に機体に乗り込むと、CH-101はローターを回転させ公都クワ・トイネへと向け発艦を開始した。
晴れわたった空を山内達を乗せたCH-101はローター音を響かせ、イワトの谷と呼ばれている渓谷地帯を抜けていく……時速270kmで飛行するCH-101は途中、哨戒飛行を行っているクワ・トイネ公国軍のワイバーンの編隊を追い越し、その速度に騎乗している竜騎士達を驚かせながら西へと向かっていった。
やがて眼下には中世のヨーロッパの都市を髣髴とさせる公都クワ・トイネの美しい街並みが見え始める。
「ほぉ、これはウチの嫁さんが見たら喜びそうな街並みだな……次に来る時は観光で来たいぜ!」
山内が呑気な発言をしている間にCH-101は緩やかに高度を下げ、街を見下ろせる小高い丘に建てられた屋敷の庭園へと着陸した。
両手に荷物を抱え山内と共にヘリから降り立った田崎は、外壁に
「山内三佐、すごい屋敷ですね……まるで貴族か億万長者の邸宅みたいです!」
この屋敷は以前、貴族の邸宅として使用されていたが、後継者の不在で
「山内三佐ですね……ようこそ在クワ・トイネ日本大使館へ、中で大使がお待ちしております!」
日本大使館となった屋敷から、大使館の職員が山内達に駆け寄って来て、館内へと案内する……館内の中に入ると絵画や調度品等はクワ・トイネの物がそのまま残されており、新たに取り付けられた照明や電線は目立たない様に廊下の
山内は田崎を控え室に待たせ、案内の職員と共に大使達が待っている応接室へと向かった。
「田中大使、山内三佐が来られました!」
山内が応接室に入ると、中には田中 一久 在クワ・トイネ特命全権大使と防衛駐在官で有る
(たしか、あの二人は使節団のメンバーだったな……若い方が外務局のヤゴウ、もう一人は軍務局のハンキ将軍……だったかな?)
この二人が大使館に来ているという事はやはり事態は良くないのだろうと、山内はそう思い込む……。
「田中大使、山内三佐とは使節団を東京に案内した時にお会いしたとの事なので紹介は不要でしたね。」
先任の駐在官で有る久光一佐がその様に言うと、彼の隣に座っていた田中大使が頷く。
「山内三佐、よく来てくれました……ヤゴウさん、ハンキ将軍、彼が話していたギムの街へ派遣する防衛……駐在武官になります。」
田中大使が山内三佐の紹介を行うと、向かいのソファに座っているハンキ将軍は山内の顔を見て思いだしたかの様に話し出す。
「おおぅ……彼の事は憶えております、たしかトーキョーのホテルでクラーケンを魔写した紙を持って来た武官でしたな……しかし、宜しいのか!? ギムの街は何時、ロウリア王国の軍勢が攻めて来てもおかしくない状況なんですぞ!」
「はい、その事は彼も承知でこの任務に臨んでいます……今回の件、我々でも独自に情報を収集する必要が有ると判断しての行動となります。」
ハンキ将軍の問いに対し久光一佐は、顔の表情を変える事無く答える。
「彼が現地に向かう事で我が国の助けとなるのなら我々は協力を惜しみません! ロウリア王国は我が国の大使を追放した挙句、外交魔信にも応答しない状況です……交渉での解決が出来ない以上、今のクワ・トイネには二ホン国の助けだけが頼りなのです!!」
この一件で毎日、外務局と日本大使館を往復しているヤゴウは
「ヤゴウさん……国が危機に直面しているのは我々日本も同じです、実は今回の件でお願いしたい事がございますが宜しいでしょうか……。」
山内がヤゴウに依頼する内容を話すと彼は「……分かりました、直ぐに手配させます!」と返事をし、ハンキ将軍も「明日、我が軍の騎士団がギムへ向けて出発する、私から頼んで彼らに同行出来る様にしよう!」と山内に伝えた。
「ありがとうございます……我々も出発に間に合う様、急ぎ準備致します!」
山内はそう言うと席を立ち応接室を出て行く2人に敬礼をする……そして翌日、山内と田崎の2人は、クワ・トイネ公国軍の騎士団と共にギムの街へと向かう事となった。
中央歴1639年(西暦2015年) 4月1日 クワ・トイネ公国 公都クワトイネ
公都クワ・トイネの朝は日本より南に有る土地だと言うのに妙に肌寒く感じるが、クワ・トイネ公国随一の街と言う事も有り、多くの人々が街を行きかう姿が見られ、今日も何気ない日常が始まろうとしていた。
日本大使館が用意した馬に騎乗した山内と田崎は、出来るだけ現地の服装に合わせた地味な
「しかし世界が違うと言うのに馬は地球の馬と見た目も扱いも全く同じで、言葉も『馬』で通じると言うのは妙なもんだな……?」
「えぇ、そう言えば馬以外の生き物……大きな鳥に乗っている人もいましたね! まるでゲームに出てくるチョコ……。」
「田崎三曹、それ以上いけない!!」
アノ鳥の名を口に出そうとした田崎を山内が止めると、街の通りからラッパの音が鳴り響き、クワ・トイネの騎士団が隊列を組んでこちらへと行進する姿が見えて来た。
クワ・トイネ公国の国旗と色取り取りの紋章旗を掲げ、馬鎧を装着した巨大な軍用馬に騎乗した騎士達の一団が山内達の前を通り過ぎていく……。
(しかし何だ……こうも
その様に思いながら山内が苦笑いを浮かべていると案内役の騎兵が彼の元へ駆け寄ってくる。
「ヤマウチ殿、隊列が来ましたのでご案内致します!」
案内役の指示の元、山内と田崎は馬の脇腹を軽く蹴って前へ進ませると、街道を進む騎士団の隊列へと向かって行った。
「オコシ団長、二ホン国の武官をお連れしました!」
案内の騎兵は装飾を
「二ホン国の方よ良く来られた、余は
「日本国陸上自衛隊、防衛駐在官の山内 哲也と申します! 我々へのご協力、感謝致します。」
山内は被っていたフードを脱ぎ、右手を胸に当ててオコシ団長に会釈する。
「ハンキ将軍よりそなた達をギムまで案内する様、要請を受けておる……ギムまでは10日程の行軍となるが、どうかごゆるりとされるが良い!」
「有難う御座います、我々は隊列の後方にてご同行致しますので……。」
山内はそう言うと田崎と共に列の後方へと向かって行く……山内の姿が見えなくなった後、オコシの姪で有る女騎士のトウミがオコシ団長に近づき話しかける。
「伯父上、あんな
「恐らく戦になれば、全てを我らに押し付け逃げるのであろう! その様な者が武官を名乗るとは……。」
トウミの言葉に他の騎士達も同調する様に不満を漏らし始める。
「
不満を口に漏らす騎士達に対し、オコシ団長は自らの口髭をさすりながら答える……そして銀山羊騎士団の隊列は同行する山内達と共に
続く
前作「日本国召喚 異世界の異邦人」でも登場した、情報部別班のエージェント、山内 哲也 三佐が、特殊作戦群の 田崎 蓮 三曹と共にクワ・トイネの地へとやって来ました。
次回は彼らがギムの街へと向かう以前にロウリア王国へと向かった「日本国外務省ロウリア王国使節団」の話がメインとなります。
用語
銀山羊騎士団
クワ・トイネ公国北西部の穀倉地帯を領有する貴族、オコシ家の一族が率いる騎士団の名称。
現騎士団長は領主の従弟で有る、カラグワ・デ・オコシ卿。
クワ・トイネ公国の武装集団の中で唯一、1000人以上の兵士が常備兵として在籍しており、その全員が馬や陸鳥、馬車に搭乗し素早く移動する事で、クワ・トイネ公国軍の緊急展開部隊としての役割を果たしている。
今回の遠征では騎士団長の姪で有るトウミ・デ・オコシが病床の身で有る父親に代わり女騎士として従軍しており、オコシ卿の心配の種となっている。
情報部別班
その存在が度々、示唆されている自衛隊の秘密情報組織。
陸上幕僚監部運用支援・情報部別班と言う名称で呼ばれているが、それが正式な名称で有る確証は無く、この物語では「別班」と呼称されている。
「別班」は約100人程の極秘に選抜された自衛官で構成されており、その全員が例外無く、身分を偽装しており、本作のエージェントとして登場する山内も、普段は妻の苗字を名乗って公益財団法人の職員として働いており、自衛隊内では情報部の名ばかりの部門に配属している事で、内外共に目立つ事無く活動している。
所属する隊員の殆どが、各国に在籍している協力者や諜報員の指示・管理を行う部署に配属されており、現地にて諜報活動を行う隊員はごく少数で有るが精鋭揃いで、中でも山内は「日本人と思われる所属不明の工作員」として各国の情報機関がその正体を探ろうと躍起になっていたが、どの組織も彼の正体を暴く事は出来なかった。
ちなみに情報部別班の予算は会計検査院の監査を逃れる為に、在日米軍の駐留予算から捻出されている。