日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編   作:アニキ イン ザ スペース

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第九話 2人の生存者

中央歴1639年(西暦2015年) 4月13日 クワ・トイネ公国 ギムの街から約20km程の街道

 

春の日差しを受け青々とした草木が広がる丘陵の街道を、馬に騎乗した山内達4人が一路、西へと進んでいく……丘の頂上から見渡す景色は地球のそれとは違いとても広く、そして美しかった……。

 

(地球よりも広く遠くを見渡せる大地に、空には2つの大きな月……そんな異世界で、エルフや獣人の女の子と一緒に冒険……もとい、任務を行うとは、予想だにしなかった……全く、出来の悪いファンタジー小説だな!)

 

馬上の田崎三曹がその様な事を思っている横では、双眼鏡で遠くを見ている山内三佐と古風な望遠鏡で同じ場所を見ていたヘラがお互いに険しい表情をしながら顔を見合わせる。

 

「どう言う事だ……朝からずっと街道を西へ進んでいるのに、ギムからの避難民と一人も出会わないなんて!」

 

ヘラの不安げな言葉通り道中、避難民どころか誰ともすれ違っていない……ここまで3つの集落を通過して来たが、村人が避難の準備を始めていた最初の集落以外、戦争の報が伝わっておらず、我々の話を聞いて初めて戦争が始まった事を知る有り様で有った。

 

(この世界は見た目より通信技術が発達している筈だが、小さな集落への伝達方法はどうなっているのか!? それより、10万近い住民が住んでいるギムの街から誰も逃げて来ていない事が気になる……。)

山内はそう思いながらも、3人と共に街道を西へと進み続ける。

 

 

「チチ―ナ、次の丘を登る前に近くにロウリアの斥候がいないか確認したい! 周りを見てくれないか!?」

 

丘を下って街道をしばらく進むと、ヘラがチチ―ナに周囲を探索する様に指示を出した。

 

「わかったにゃ!」

 

チチ―ナはそう答えると、ポケットから取り出した笛を口に咥え鳴らし始める……笛からは空気が抜ける様な音しか聞こえなかったが、少しすると空からバサバサと羽ばたく音と共に煌びやかな鷹の様な鳥が現れ、左腕にぶ厚い手袋を着けたチチ―ナの左腕に止まった。

 

「何だ!? コイツ、急に現れたぞ!!」

 

何も居なかったチチーナの左腕に突然大きな鷹が現れた為、田崎は驚きの声を上げる!

 

「この子はルリイロオオタカのタンケスだにゃ! さっきからずっと、あたし達の上を飛んでいたにゃん!!」

 

「!?……さっきから飛んでいたって! 空には鷹なんていなかった筈だが……。」

 

田崎は彼女の手に止まっている鷹を見ながら目を細める……まるでモルフォ蝶を思わせる鮮やかな青色の光沢を持つ鳥が空を飛んでいるなら見逃す筈は無いと思いながら首を傾げていると、ヘラが笑みを浮かべながら答える。

 

「そいつはただの鷹じゃ無くて、魔獣の一種なんだよ! だから姿を消しながら空を飛ぶなんて事が出来るのさ。」

 

「魔獣!?……姿を消すって、マジかよ!!」

 

田崎が再び驚く中、チチ―ナはタンケスに顔を寄せ目を閉じながら呪文を唱えると、左腕に止まっていたタンケスを放り出す様にして空へと解き放った。

 

「魔獣使いは従魔にした魔獣に魔法を掛けて意のままに操る事が出来るのさ、さらに視覚も共有出来て魔獣が見ているモノも判るんだ。」

 

ヘラは従魔術でタンケスと同期しているチチ―ナに変わって山内達に説明する、タンケスは風を捕らえ翼を広げると瑠璃色に輝いていた羽根が空の色に溶け込む様に消えて姿が見えなくなった。

 

「凄いな……これなら敵に気付かれずに上空から偵察が出来るのか!」

 

「そうでもないさ、魔法を使っている以上、魔術師の魔法探知に引っかかる恐れが有るからね……ここいらがギムの街から感知されないギリギリの場所だよ!」

 

感心する山内に対してヘラが問題点が有る事を指摘する、魔法にも電波の逆探知の様な物が有るのかと山内が思っていると、チチ―ナが何かを見つけたかの様に、顔を前に突き出す様な仕草をし始める。

 

「どうしたチチ―ナ、何か見つけたのか!?」

 

ヘラの問いに対し、タンケスと同期しているチチ―ナは遠くを見つめている様な表情で答える。

 

「丘の向こうの街道に……2人いるにゃ……女の子?……こっちに走って来てる……にゃっ、奥にロウリアの騎兵! 追われているんだにゃ!!!」

 

「騎兵の数は(いく)つだ! 他には何かいるのか!?」

 

「ひぃ…ふぅ……21だにゃ! 他には何もいないけど、このままだと追いつかれちゃうにゃ!!」

 

山内が騎兵の数を問うとチチ―ナは遠目な表情のままその数を答える。

 

「田崎、いくぞ!!」

 

「了解!!」

 

チチ―ナから騎兵の数を聞いた山内は田崎を連れ、馬を全速力で走らせ街道へと駆け出す。

 

「おい、待てよ!!」

 

山内達の突然の行動にヘラは驚きながら止めようとするも、それを振り切り、丘の稜線(りょうせん)を目指して走っていった……。

 

 

ギムの街へと至る街道から、黒地の旗に白い髑髏と首輪、そして鎖が描かれている不気味な旗印を掲げた騎兵の一団が土煙を上げ駆け抜けていく……ロウリア諸侯軍の騎士爵である人狩りジョコことベンセラス・ド・ジョコの息子で有るエストバン・ジョコは20騎の騎兵を連れてギムの街から逃げ出した避難民を捕らえるべく北東へと進んでいた。

 

昨日のギム攻略戦は彼の初陣で有ったにもかかわらず、運悪く副将アデムの近くに父親共々配属された為、楽しむかの様に巨大な魔獣をギムの住民達に(けしか)蹂躙(じゅうりん)する様を見て笑い続けるアデムの狂気じみた姿を見せ付けられるだけで一日が終わってしまった。

 

アデムは捕らえたギムの住民達を次々と残虐な方法で殺害する様を彼に見せ付けたが、取り分け囚われた敵将で在るモイジとその妻子の凄惨(せいさん)な最期を見せられた時は、余りの酷さに敵ながらも同情を禁じ得なかった……。

 

そして翌日、アデムより直々に指示が有り、ギムの街から逃亡した敗残兵と住民を一人残らず掃討する様にとの命令が出た。

 

「いいですか、ギムの街から誰も逃がしてはいけません……追いかけて捕まえるか殺しなさい! 釈放する住民は100名程こちらで準備していますので、後2~3日甚振(いたぶ)ってから釈放して上げますよ……ヒッヒッヒ」

 

狂気じみた笑みを浮かべながら指示を出すアデムに(おのの)きながら、父親で有るジョコより20騎の騎兵を預かったエストバンは彼らを連れ、まだ煙が立ち上るギムの街を出て街道を北東へと走りだす…… 程無(ほどな)くしてジョコ達は前方に歩いている人影を見つけた。

 

「若! 前方に2人、誰かいますぜ……ありゃ女だ!!」

 

前を走っていた騎兵の一人が、望遠鏡で彼女達を確認すると喜びながらエストバンに報告する。

 

「昨日はアデムの悪趣味に付き合わされて、お楽しみはお預けだったんだ! せっかくの女なんだから俺達で楽しんでもいいだろ!?」

 

「おぅ! 好きにしてもいいが、女は高く売れるから壊すんじゃねーぞ!!」

 

「ヒャッハ~ッ! そうこなくっちゃ!! おい、野郎共行くぞ!!」

 

エストバンの言葉を聞いて騎兵達は下品な雄叫びを上げながら馬で駆け出す……(ひずめ)の音に気付いたのか、彼女達は後ろを一瞬振り返ると慌てて走り出した。

 

「ヒャッハァァ~ッッ!!!」

 

「何処へ逃げようってんだい、お嬢ちゃん! 逃げ場なんて何処にもねーぜ!!」

 

隠れる場所も無い草原の街道を彼女達は必死に走って行くが、後ろから聞こえる蹄の音はだんだんと近づいて来る。

 

「ヒャッハハハハ~ッッ! 早く逃げないと捕まえちまうぞ~!! …………んっ!?」

 

騎兵の一人が、街道が続く東側の丘の稜線から、茶褐色の衣装を着た2人の男達が馬に乗って全速で向かって来ている事に気が付く。

 

「なんだありゃ? クワ・トイネの斥候かぁ……!?」

 

2人の男達を乗せた馬は走り疲れて倒れ込んだ少女達の前で止まり、その内の1人は馬から降りて少女達を(かば)うかの様に騎兵達の前に立ち塞がった。

 

「何だぁ、舐めやがって! たった2人で俺達と殺ろうてぇんのかぁ!!」

 

「ヒャ~ッ! 切り刻んでやるぜぃ!!」

 

騎兵達が叫びながら剣を鞘から抜くのと同時に、2人の男達はマントの後ろから黒色の奇妙な棒状の物を取り出して水平に構えた。

 

―――パスパスッ! パスパスパスパスパスッ!!

 

聞いた事の無い乾いた音がしたのと同時に、前を走っていた騎兵達が血を吹きながら次々と倒れ、落馬していく。

 

「―――なんだ、まさか魔法!? いかんっ!!散開し―――!!」

 

部下に指示を出そうとしたエストバンだが、自身も右肩と腹部に熱さと衝撃を感じた瞬間、そのまま意識を失い馬から滑り落ちる様に倒れてしまった。

 

山内と田崎は向かって来るロウリア騎兵に対し、手にしたM4カービンで次々と狙い撃ちにする、サプレッサーを装着したM4カービンは発火炎を出す事無く、くぐもった低い音と共に5.56mm弾が発射され、縦隊で密集していた騎兵達を撃ち倒していった。

 

馬から降りて銃を撃ち続けていた田崎はM4カービンの弾が空になるや、腰のホルスターからソーコムMk23ピストルを素早く取り出し、まだ向かって来る騎兵に向けて連射した! サプレッサーを付けたM4カービンと異なりその銃声は草原に大きく鳴り響き、その轟音は騎兵達の士気を完膚無きまでに砕いてしまった。

 

「ひいぃーっ! なんだありゃ!?」

 

「若がやられたぞっ!! 撤退だ!撤退ぃーっ!!」

 

残った騎兵達はパニックになって慌てて背を向け引き返し始めたが、馬上から足で馬を(なだ)めながらスコープ付きのM4カービンを構えた山内により全員が狙撃され地面へと倒れた。

 

銃声が止み、周囲には主を失い何処かへと駆け去って行く馬の(いなな)く声だけが草原に響く……田崎と山内は21人ものロウリア騎兵全員を撃ち倒すも、その2人の表情には人を殺めた罪悪感や高揚感すらも感じられず、まるで無常を観ずる僧侶の様な佇まいを漂わせていた……。

他にロウリア兵がいない事を確認した山内はM4カービンのマガジンを取り外し残りの残弾を数え、田崎に使用した弾数を伝える。

 

「こっちは27だ! 田崎、そっちは!?」

 

「31と13です、キッチリ使いきりました!」

 

田崎は手にしたソーコムMk23ピストルのマガジンを交換しながら返答する。

 

「俺は後始末をやっておく、お前は薬莢(やっきょう)を回収しろ!」

 

山内はそう言うと馬を走らせロウリアの騎兵達が倒れている場所へと向かって行く……マガジンの交換を終えた田崎は振り返りながら被っていたフードを脱ぎ、その美丈夫(びじょうふ)ぶりを(あら)わにすると、地面にへたり込んだまま何が起こったのか分からずに呆然(ぼうぜん)としている少女達に話しかける。

 

「君達、大丈夫かい? 怪我はしてない!?」

 

「た・助けていただいてあり……は・はわゎ……は・はい! 大丈夫です……!!」

 

助けてくれた礼を言おうとした少女達は、精悍(せいかん)な顔つきの異国の男性の容姿を見て顔を赤くしながらも答える。

 

「すまないけど、これを一緒に拾ってくれないかな!?」

 

「これを……ですか!?」

 

田崎は地面に落ちた空薬莢を拾い少女達に見せると、彼女達は目の前に落ちている空薬莢を手に取り、それが少し熱い事に驚きながらも拾い始める……。

 

一方、倒れたロウリア騎兵達の元に駆け寄った山内は馬から降りると、ロウリア騎兵の遺体から矢筒を取り出し、中に入った矢の束を手にすると、倒れたロウリア騎兵の銃創に次々と矢を突き刺し始めた。

 

「…………ぐっ……何が……。」

 

山内が『後始末』を始めた頃、右肩と左わき腹に銃弾を受け気を失い落馬したエストバンが目を覚ますが、余りの痛みに体を動かす事が出来ずに(うめ)き声を上げる。

そんなエストバンの元に茶褐色の服を着た男……山内が彼を見下ろす様に姿を見せる。

 

「な……何だ……キサマ!」

 

「ん~!? まだ生きていたのか? 悪いがまだこっちの手の内を見せたくないんだ!」

 

山内はそう言いながら、手にした矢をエストバンの眉間に勢い良く突き刺すと、彼は声を上げる間も無く絶命する……こうして『後始末』を終えた山内は残った矢筒と矢を投げ捨て、その場を後にした……。

 

 

「何……今のは!?」

 

「スゴイにゃ! ヘンな音がしたかと思ったらロウリア兵がバタバタって倒れたにゃ、秒殺だにゃん!!」

 

山内達を追いかけてきたヘラとチチ―ナは丘の上からその戦闘を見届けていたが、山内達の一方的な戦闘能力を見て、驚愕(きょうがく)の余り立ち尽くしていた……。

 

(ヤマウチとタザキが持っている奇妙な筒の様な物……以前、パーパルディアの武官達が見せてくれた『魔導銃』に似ているが、アレはあんな(いびつ)な形はしていなかった……そもそもアレが魔道具なら魔力の無い彼らがどうやって………そうか! ヤゴウの言っていた『優れた技術』って、この事なのか!!)

 

ヘラは望遠鏡で山内が持っているM4カービンを見ながら、ヤゴウが言っていた事は嘘でなかった事を確信し、望遠鏡をしまうと山内達と合流すべく丘の街道を下り始めた。

 

「………こっちは終わった、田崎そっちは?」

 

「彼女達に手伝って貰ったので、全て回収できました!」

 

戻ってきた山内が田崎に状況を聞くと田崎は空薬莢が入った袋を山内に見せる……2人が互いの戦闘結果を報告し合っていると、馬に乗ったヘラ達が丘を下って山内達の元へとやって来た。

 

「ヤマウチ! ロウリア軍との接触は避けるんじゃ無かったのか!!」

 

「そうしたかったが、彼女達はようやく見つけたギムの街の生存者だ、見捨てる事は出来ん! それよりも早くココを離れた方が良さそうだ。」

 

山内がそう言うと、ヘラは心配そうな顔をしている生存者の少女達を見て、ため息を付く……勝手に飛び出して自分達にまで危険が及びかねない行動を取ったとは言え、同胞でも在る彼女達を助けてくれた以上、山内達に対して怒る事が出来なかった。

 

「そうだな………ならば、少し行った先で街道を外れて西に進もう、そこから15km程先に『北の森』と呼ばれている場所が有る、案内するよ!」

 

ヘラがそう提案すると『北の森』と言う言葉を聞いた生存者の少女達が怪訝(けげん)そうな顔をする、地元の人間で有る彼女の様子から見て、何やら(いわ)く付きの場所の様だと山内は考える。

 

「『北の森』は別名、レント……木人の森だからにゃ~! まぁ……ヘラ姉の言う通りにすればロウリア兵も来れない、安全な森だにゃん!」

 

「安全な森!? それより何だよ……その木人って? まさかヤバい奴じゃないだろうな!」

 

チチ―ナの言葉に、田崎がそう不安げに呟く……こうして山内達は助け出した2人の少女達を馬に乗せ、ヘラの案内の元『北の森』へと向かうのであった……。

 

 

同日 クワ・トイネ公国 ギムの街から北へ約15km程の『北の森』泉の拠点

 

先導するヘラの案内により山内達はロウリア軍に見つかる事無く『北の森』へとやって来た。

 

細い木々が生えている森の獣道を馬達と共に奥へと進んでいくと、やがて幹が太い巨大な木がそびえ立つ鬱蒼(うっそう)とした場所へと辿り着き、僅かな水が流れる小川の先に澄んだ小さな泉と開けた場所が見えて来た。

 

「ココがその場所だよ、今日はここで休むとしよう……解っていると思うが、泉の水はそのまま飲んでは駄目だから! それとさっきも言ったけど、ここで火は使えないから沸かして飲む事も出来ないからね!」

 

馬から降りたヘラは荷物を降ろしながら皆にそう話す……彼女はこの『北の森』に入る前にも、この森でやってはいけない事を繰り返し山内達に説明していた。

 

それは『火を起こして使う事』『火属性の魔法を使う事』『木を切り倒す事』……これらの行為はレントと呼ばれる森の怪物を強く刺激するとの事らしい。

 

道中、森の中ではリスの様な小動物しか見当たらずその様な怪物の気配は感じなかったが、用心に越した事は無いだろう……そう思っている山内の隣では、田崎が泉の水に試験紙を付けて飲用に適しているか調べていた。

 

「………水は大丈夫みたいですね、泉にも藻や水草が生えていますし、浄水すれば飲む事が出来ます!」

 

「それは重畳(じょうちょう)……俺はキャンプ用具を出しておく、それとお嬢さん達に食いもんを出してやれ、どうやら昨日から何も食べていないらしい。」

 

山内はそう言うと馬に載せていた荷物を取り出し始める……田崎はバックパックの袋を開き、浄水器を取り出すとチチ―ナが興味深そうな表情をして覗き込んできた。

 

「にゃ……? タザキ、それ何!?」

 

「これは浄水器、この管に泉の水を通すと飲める水になるんです!」

 

「にゃ~っ! 魔法を使わずにホントに飲めるようになるの!? スゴイにゃ!!」

 

驚いているチチ―ナを横目に田崎は浄水した水をアルミの容器に入れ、レトルト食品と一緒に発熱剤が入ったヒートパックの中に詰めて封をする。

 

「今度は何かにゃ? なんだかツルツルした袋だにゃ~!?」

 

「チチ―ナさん! それ熱くなりますから触らないで下さ……。」

 

―――プシューッ!!

 

「にゃーっ!!!!」

 

ヒートパックから勢い良く蒸気が噴き出した事に、顔を近づけていたチチ―ナは驚きの余り隣にいた田崎に抱きつき倒れ込んでしまう。

 

チチ―ナに飛び掛かられ、尻餅をついて倒れた田崎が柔らかい感触を感じて目を開けると、チチ―ナの胸の谷間が目の前に有り、自分の顔がその大きな胸に埋もれている事に気が付く。

 

「にゃ? にゃーっ!! タザキ、早く離れるにゃーっ!!!」

 

そう言いながらも驚きの余り腰が抜けたのか、田崎の上に乗っかったまま動かないチチ―ナを見ながら、山内は素早くスマートフォンを取り出しその光景を撮影する。

 

(……田崎三曹、実にいいショットが撮れたよ!)

 

顔を真っ赤にしながら田崎をポコポコと叩くチチ―ナを見ながら、山内はスマートフォンをポケットにしまい込み、笑いつつもそう呟いた。

 

 

トラブル(?)に見舞われながらも、田崎はヒートパックで温めていた戦闘糧食Ⅱ型の五目御飯とポテトサラダを紙皿に盛りつけ、プラスチックの匙と共に少女達に渡した。

 

「お姉ちゃんこれおいしい!」

 

最初は火を使わずに温かい食事が出て来た事に2人は驚いていたが、昨日から何も食べていない事も有ってか五目御飯を口にするや、彼女達は次々と口に入れ始める。

 

「これもどうぞ、まだ熱いから気を付けて。」

 

田崎はそう言うとポタージュスープが入ったカップを彼女達に手渡す、2人がカップに口を付けるとその美味しさに笑顔を浮かべる……。

 

「チチ―ナさんもどうですか?」

 

少女達が顔を(ほころ)ばせながらスープを飲む姿を見て、物欲しそうな表情をしていたチチ―ナに田崎が聞いて見るとチチ―ナは頬を赤くしながら横を向いて答える。

 

「タ・タザキがそう言うなら……別に飲んでみてもいいにゃ……! にゃ!? ヘラ姉、何見て笑っているにゃー!!!」

 

(うん……これは見事な迄のツンデレだ!)

 

山内とヘラは2人のやり取りをニヤニヤしながら眺めていると、気が付いたチチ―ナがヘラに食って掛かる……そうしている間に日が傾き『北の森』にも夜が訪れようとしていた。

 

 

少女達が食事を食べ終える頃には日が落ちて辺りは暗くなり始める……。

 

山内と田崎は三脚にスマートフォンを取り付け、その横に明るさを調整できるLEDライトを設置すると、少女達はLEDライトの明るさに「光の妖精がいるみたい!」と言って驚いていた。

 

山内は少女達をスマートフォンの画面内に収めると「録画」のボタンを押し、彼女達に話しかける。

 

「さて……話せる範囲で良いから聞かせてくれないかな? 昨日、ギムの街で何が起こったかを……。」

 

山内がそう言うと2人は顔を強張らせながらも、背の高い少女の方が話を始めた……。

 

2人は人間族の姉妹で、姉の方はアメリア、妹の方はカエラと名乗り、両人共に亜麻色の髪をした愛らしい少女で有った。

 

彼女達の両親はギムの街の西の区画で商人を営んでおり、ロウリア軍が攻めて来る以前から家族でエジェイの街に避難しようとしていたが、先に避難をしようとした人々がロウリアから越境して来た盗賊達に襲われる被害が多発した為、彼女を含め多くの人達がギムの街から脱出する事が出来なかったらしい。

 

街の顔役だった彼女達の父親が守備隊のモイジ将軍に直談判(じかだんぱん)をして今度、増援に来る騎士団から避難民を護衛する部隊を割り当てるとの約束を取り付けたが、増援の騎士団が到着する前にロウリア軍の侵攻が始まってしまった。

 

侵攻を知らせる鐘の音が鳴り、すぐさま逃げる様に伝えて来た軍の伝令がアメリア達の家族の元に来た時には、ロウリア軍のワイバーンが街の上空を我が物顔で飛び回っており、足の不自由な祖母を父親が背負いアメリア達も着の身着のままで逃げていく中、ワイバーンの火炎弾が街に降り注ぎ、舞い上がる火の粉と熱波に追い立てられながらも、彼女は妹の手を放さずに必死になって燃え盛る街を走って行く……ようやく街の東門を出た時に、彼女達は両親達とはぐれてしまった事に気が付くが、街を焦がす炎が後ろに迫り、引き返す事が出来なくなった。

 

両親の事を心配するも街を出ざる得なくなった2人は、一緒に逃げて来た人々と近くの森へとやって来たのだが、ロウリア軍の追手が森にまで迫ってきた為、人々が様々な場所に隠れる中、木登りが得意だった彼女は妹と一緒に目の前に有った大きな木に登って隠れる事にした。

 

やがて魔術師を引き連れたロウリア軍の一軍が現れ、魔術師が何やら呪文を唱えると隠れている人達がいる方向を指差し、ロウリア兵が次々に人達を見つけ出し連れ去っていった……しかし一番近くで隠れている筈の自分達は見つからずに済んだと言う……。

 

「ちょっと待ってくれ……何だ、その人を見つける魔法みたいなモノは!?」

 

山内は彼女の発言を止めて隠れている人を見つける魔法が有る事に驚くと、両手を組みながら話を聞いていたヘラがその事について答える。

 

「魔術師には、人の中にある『魔素』を探知して隠れていても見つけ出す魔法が有るんだ! 安心しな……多分、アンタらはこの魔法には引っ掛からないよ!」

 

「えっ……!?」

 

「ヤマウチとタザキから、何の魔力も感じないからにゃ~! 魔法で見つけるのは無理だにゃん!」

 

「だったら何故、彼女達は見つからなかったんだ!? 俺達みたいに……魔力が無い訳じゃ無いよな。」

 

山内が不安げな表情のアメリア達を見つめると、再びヘラが答えだす。

 

「彼女達が見つからなかったのは、恐らく登って隠れていた木がレントの若木だったからだよ!」

 

ヘラが言うにはレントの木は自身に多くの魔素を蓄えており、魔素を餌とする魔獣から(かじ)られない様にする為に、自らの魔素を探知されない魔法を自身に掛けているらしい……アメリア達は木に登って隠れる事でレントの魔法の範囲に入っていたから魔術師の探知から逃れる事が出来たのだろうと言った。

 

「なるほど……しかし、レントって木人とか言うこの森に住んでいる怪物の事だったよな?」

 

「あぁ、そいつならそこにいるよ!」

 

そう言いながら、ヘラは近くに生えている一本の大木を指差す……山内はヘラが指差した木に何か違和感を感じ、ポケットからマグライトを取り出して木を照らし出すと、顔の様に見えた木の幹がマグライトの眩しさに「ウグッ……。」っと呻き声を上げて顔を動かした……。

 

「おい……田崎、今の見たか!?」

 

「えぇ……木の幹が動きました、これがレント?」

 

山内と田崎は目の前に怪物がいた事に驚き、それに全く気付けなかった事に恐怖した……何しろ自分達が持っている武器で倒せるとは思えない程の大きさの相手なのだ、しかしヘラが言っていた事を守っていれば、何もしてこない大人しい生き物で有る事に山内達は安堵する。

 

その後、アメリア達の証言に話を戻した所、彼女達はロウリア兵が去った後はその日を木の上で過ごし、翌日になって木から降り、森を出るとまだ煙が立ち上っているギムの街を見てからもう街へは戻れない事を理解し、エジェイの街へ向かう事を決意して街道を歩き始めたが、ロウリアの騎兵に見つかるまでは誰とも出会わなかったとの事だ……。

 

「……ここまで話してくれて有り難う、テントを用意しているから今日はゆっくり休んでくれ。」

 

山内はアメリア達にそう言うと、スマートフォンの録画ボタンをオフにして片付け始める……彼女達の話だけで、ギムの街は驚くべき速さで制空権を奪われ、兵士達が侵攻して来た事が窺える……そして敵の指揮官は人々を逃がすつもりなぞ全く無かったのか、執拗に追い回している事を考えると、大使館から聞いた情報通り、冷酷かつ残虐な行動を平然と行う危険な人物で有る事は間違い無いだろう。

 

そう思いながら山内は既にテントの中で眠っているアメリア達を見届けると、自分達も寝る事をヘラに告げ、着ていたマントを布団替わりにして地面の上で眠り始める……そして一日の疲れからか、今日の出来事を思い返す間も無く山内は深い眠りへと就いた……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 4月14日 クワ・トイネ公国 ギムの街から北へ約15km程の『北の森』泉の拠点

 

深淵の眠りの中からパッっと目を見開き、山内は目を覚ます……時計を見ると午前5時30分を過ぎており、時差の関係からして今は4時30分頃だろうと考えながら起き始める……。

 

(いかんなぁ、疲れちまったから少し寝過ぎた様だ……。)

 

山内が起きるのと同時に田崎も起き始め、2人は顔を合わせた後、何も言わずに荷物から装備を取り出し準備を始める……。

 

「ヤマウチ、まだ日が昇っていないのに起きるのが早いな……。」

 

山内達が装備を取り出しているのを見ていたヘラが声を掛けて来た。

 

「アンタも寝ずの見張り番だった様だが、大丈夫なのか?」

 

「アタシは野伏だからね、一週間ぐらい寝なくても平気だよ!」

 

ヘラの言葉を聞いた山内は辺りを見渡す、静寂過ぎる森と見張り役のヘラの他に座ったまま休んでいる4頭の馬と毛布に包まって寝ているチチ―ナ、そしてテントの中で眠っているアメリア姉妹……空を見上げると晴れている夜空が少しだけ白みがかっており、後2時間もすれば朝日が昇り始めるだろう……。

 

「ギムの街を一望できる丘ってのは、ここから南に約8kmの場所……で、いいんだな!?」

 

「そうだが……アンタ達、本当にアタシの案内無しで行くのかい!」

 

「あぁ……早朝までギムの街に着きたいからな! 昼までには戻って来るから、ここで待っていてくれ。」

 

装備を整えた山内と田崎の姿を見て、夜目が効くヘラは暗闇の中でもその異様な出で立ちに目を見張る……草木に似た衣装を見に纏い、頭には見た事の無い魔装具を付けている……そしてロウリア騎兵を皆殺しにした強力な魔導銃を持つその姿を見たヘラは、彼らが強力な戦士で有るのと同時に優秀な野伏でも有る事を理解する。

 

山内とヘラが話していると、毛布に(くる)まったチチ―ナが寝返りを打って寝言を呟く……寝言で自分の名前を呟いた事に田崎は一瞬、ドキッとする!

 

「もし夕方までに俺達が戻ってこなかったら、荷物を(まと)めてあの子達と一緒にエジェイに戻ってくれ! 俺達の荷物は日本大使館に渡せば報奨金が貰える。」

 

「…………分かった、ここで待っているよ、アンタ達に緑の神の加護が有らん事を……。」

 

ヘラが緑の神の言葉を口にすると、山内達は南に向かい森の中へと入って行く……暗闇の中でも見えるかの様に木々を避けながら歩いて行く山内達を目で追うも、やがて着用しているギリースーツが森の景色に溶け込み、その姿が見えなくなった。

 

続く




ついに『ロウリアヒャッハー!騎兵隊』vs『別班&特戦群』で戦闘が起きましたが、秒殺で終わりました……しかたないね!
次回はギリースーツに身を包んだ山内達が森を抜け、ギムの街へと向かいます、そこで彼らが見たものとは……。

用語

北の森

ギムの街の北側に在り、西の国境の川沿いに沿って北に約160km程の範囲に群生する森林地帯、後述するレントの生息地でも有る為、地元の人間はこの森に入ろうとはしない。

北の森は神話の時代、ロデニウス大陸の北部に存在する小さな森だったが、魔王軍の残党で有るゴブリンの一団が南の荒野に居を構え、森の木々を切り倒しレント達の怒りを買った事が原因でゴブリンとレント達との戦争へと発展した。
大地の魔素を養分として次々と繁殖するゴブリンに対抗する為、レント達は荒野の地に自らの若木を植え付け大地から魔素を根こそぎ吸い取ると言う方法で、大地の魔素を枯渇させた事でゴブリン達を全滅に追い込むが、数千年に渡る永き戦いは北部のみだった北の森がギムの街の近くまで広がり、更にはクワ・トイネ公国から多くの魔素を奪い取ってしまった。
(クワ・トイネ公国が他の国に比べて魔素の含有量が少ないのは、この戦争が原因で有る。)

ルリイロオオタカ

魔獣使いで有るチチ―ナの従魔で、全長60cm程の煌びやかな瑠璃色の羽根を持つ鷹に似た鳥型の魔獣で有り、飛行時に姿を消す特殊な能力を持っている。 魔獣使いと「同期」または「命令」を受ける事で、偵察や伝令等で活躍するが出来る為、未探索地を探検する冒険者や軍隊から重宝されている。


レント(木人)

外伝でもその存在が示唆されている、長きに亘り樹齢を重ねた木々が木の神の祝福により魂が宿り動き出した森の番人と呼ばれている異世界の生物。
独自の言語を持ち、彼らと会話できるのはリーン・ノウの森に住まうハイエルフだけだと言われている。
普段は大地に根を張って周りの木々と同じく何事も無く過ごして居るが、森に危害を加える者が現れると動き出し、苛烈な報復(1体だけでも森の中では名うての冒険者パーティどころか軍隊でも敵わない程、強い)を行う事で、人々から恐れられている。
木の神の眷属の為、人類側に近い存在なのだが、言葉が通じない事も有り、近年では森に住まう手に負えない怪物として異世界の人々から認知されている。
(ちなみにロウリア軍は過去に何度か北の森にクワ・トイネ侵攻の為の拠点を作ろうとしたが、森の木々を切り倒した事でレントの怒りを買い、例外無く全滅している。)
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