日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編 作:アニキ イン ザ スペース
中央歴1639年(西暦2015年) 4月14日 クワ・トイネ公国 ギムの街から北へ約6km程の丘の上
ギムの街の北に有る『北の森』に朝日が昇り、
周囲が明るくなった事で暗視ゴーグルを外し、間隔を取りながら歩く2人は時々、軍用コンパスで方位を確認しながら道中の木々にスプレーを掛けていく……このスプレーは見た目は色が無い無色に見えるが、紫外線ライトで照らすと色が見える特殊な仕様で、帰る時の目印として使われる物で有った。
「地球と一緒でコンパスが使える世界で良かったですよ、もし使えなかったら確実に迷っていますね!」
軍用コンパスを手にした田崎が南の方向を確認しながら、スプレーで木に目印を付けている山内に話しかける。
「まぁ、地球の常識から考えてこの世界に磁場が無かったら、
その様な会話をしながら、森の中を歩き続け『泉の拠点』を出発してから3時間近くが経過した……先頭を歩いていた山内は立ち止まると田崎にハンドサインを送り、此方に来るよう指示をだした。
「ここから先は森が開けている、どうやら目的地に近い様だ……田崎、ここからは上履きを履いて行く、それと弾薬の装填を確認しろ!」
駆け寄ってきた田崎に山内がそう言うと、2人は足跡を残さない様にブーツの上に上履きを履き、手にしていたM4カービンのスライドレバーを引いて弾薬の装填を確認した後、セーフティロックを掛ける。
弾薬の装填を確認した2人は周囲を確認しながら開けた森の外へと移動を始める。
彼らの前には東西へと延びる小道が有り、人がいない事を確認すると素早く駆け抜け丘の頂上へと向かう……やがて丘を登り終え頂上に達すると、そこはギムの街を一望できる場所で在り、遠くに見える街からは、まだ無数の煙が立ち昇っているのが見えた……。
「どうやら、目的地に着いたようだな……しかし、こんなに見晴らしの良い場所に見張りはおろか、誰もいないとは……!?」
山内はそう
「よし、始めるぞ! 田崎、周囲の警戒を怠るな、コイツは離陸時が一番バレやすい!」
山内はそう言いながら迷彩柄のケースを開け、中から小型のクワッドコプターを取り出すと、各箇所が正常に稼働するか確認を始める。
彼が手にしているクワッドコプター……俗にドローンと呼ばれている小型機は、市販品をベースに防衛省の機関である技術研究本部・航空装備研究所にて改良されたワンオフ品で有り、市販品よりも優れた静音性と高性能なカメラ、そしてバッテリーと通信装置の強化により長距離の飛行が行える様になっていた。
設置型の送受信アンテナをギムの街に向けて設置し、モニターと一体になっているゲーム機の様なコントローラーを手に取ると、山内はドローンのスイッチを入れ飛行を開始した。
ドローンは離陸箇所を特定されない様に最初は木々の間を
山内はドローンを操縦しながら、クワ・トイネ公国に来る以前の事……同僚で有る、三津木と交わした会話を思い出していた……。
中央歴1639年(西暦2015年) 3月23日 日本国東京都新宿区市谷木村町 防衛省市ヶ谷庁舎
――― ロウリア王国のクワ・トイネ公国侵攻の可能性が政府より伝えられる中、ここ防衛省市ヶ谷庁舎では、この事態に対応すべく開催される臨時の幹部会議に参加する制服を着た2人の男達が、誰もいない廊下を会議室に向かい歩いていた。
一人は統合幕僚監部所属の
「三津木……俺も参加しろって言ったがこの会議、俺が顔出しして大丈夫なのか!?」
「あぁ、ここでの山内三佐の扱いは情報部で通っているから、別に怪しまれたりはしないさ! それよりも今回の会議の議題、半分は君が主役になるから。」
「ほぅ……そりゃ、どう言う事だ!?」
それまで早歩きで廊下を歩いていた2人は急に立ち止まり向かい合う。
「今回の議題の一つはクワ・トイネ公国への防衛駐在官の追加派遣……今、クワ・トイネの駐在官は久光一佐の1人しかいないんだ、だから今後の情報収集に備えて数人派遣する事になるんだが、どうしてもやって
「随分と
「君にはクワ・トイネ公国の国境沿いに有るギムと言う街に向かって貰いたい……ここで国境に集結しているロウリア軍の規模と動向を調べて来るのが目的だが、実はもう一つやって貰いたい事が有ってね……もし戦争が勃発してギムの街が占領される状況になったら、その光景を可能な限り映像に収めて欲しい……これは君じゃ無いと出来ない任務だ!」
「はぁ!?…………なんだ三津木、てめぇ! 俺に人が死んでいる所を撮りに行けって言うのかぁ!!」
山内はそう言いながら怒りの形相で三津木を睨み付けるが、彼は眉一つ動かす事無く淡々と話を続ける……。
「山内……俺達が地球にいた時、世界で争いや虐殺が起こっても遠い世界の出来事として、ずっと見て見ぬふりをし続けて来た……そしてこのクワ・トイネ公国は異世界に飛ばされ孤立した俺達に最初に手を差し述べてくれた人々の国だ……なのに日本はこの異世界でも地球に居た時と同じ様に、また戦争から目を背け様としている……。」
「そこで俺が虐殺が起こなわれた現場をカメラに収め、お前が政治家共や国民にショック療法と称してそれを公開し、自衛隊の海外派兵へと繋げるってか!……完璧な作戦だな!! 事がそう上手く行かない事を除けばな……!」
落ち着きを取り戻した山内が、皮肉めいた話し方で三津木に言い返すも、三津木のその眠たそうな表情は変わる事は無かった……。
「今、クワ・トイネ経由で得られている情報は僅かだが、それでも判っている事はロウリア軍の圧倒的な兵力……そして、現地の指揮官が過去に幾度なく残虐な行為を行った問題の有る人物で有ると言う事だ……戦争が起これば虐殺は避けられないだろう、そして俺達や日本もそれを止める事は出来ない……。」
三津木は目を細めながら体格差の有る山内に対し、臆する事無くさらに話を続ける。
「もしクワ・トイネが滅亡すれば、これまでの権益を失うどころか国内で飢餓が起きかねない以上、政府は何とかしようと模索しているが、憲法論議に足を引っぱられて見動きが取れない状況だ! 君が現地で奴らの悪行を撮ってくれれば、後は俺達が政府に覚悟を決めて貰う様にさせるから……山内、クワ・トイネへ行ってくれないか!」
「………分かったよ、俺が行けばいいんだろう! どうせお前の事だ、ココに呼んだって事は幕僚長と参事官にも根回しが済んでいるんだろ。」
そう答えると、三津木が一瞬だけ意地の悪い表情を浮かべたのを山内は見逃さなかった。
(全く……ウクライナの時もそうだったが、コイツの言う事を聞いていたら命が100有っても足りねーぜ!)
――― そんな三津木との会話だったが、ドローンから送信される街の映像には、その三津木が予言した物……いや、それ以上に
(な・なんだこの人の数は……この倒れている人達が全員、街の住民なのか!!)
モニターに映し出されたギムの街は、今だ惨劇の
これこそ人の邪悪さが生み出した地上の地獄……そう例える以外の言葉しか無い悍ましい状況に、流石の山内も気分が悪くなってくる……。
(もういい……これで十分だ!)
ドローンの活動時間ギリギリまで街の惨状を映した後、山内はドローンの向きを変えて帰還させる、ドローンは離陸場所の丘へと一目散に飛行し操縦者である山内の目の前でホバリングをしながら停止した。
山内はホバリング中のドローンを手で掴み、電源をオフにして折りたたむとアンテナやコントローラーと一緒に入っていた迷彩柄のケースの中へ収納し始める……その時、周囲を見張っていた田崎が人が近づいて来ている事に気が付く!
「山内三佐、東の小道より誰か来ます!」
「くそっ、ドローンの飛行を見られたか!?」
山内は大急ぎでドローンをケースの中にしまい込み、銃を構えながら茂みの奥へと下がっていく……しばらくするとロウリア軍の部隊が魔術師を伴い、東の小道よりぞろぞろとやって来た。
「マズいな……100近くいるぞ!」
山内達は手にしたM4カービンのセーフティを解除し、茂みの中で身を潜める……もし、見つかったら最初に隊長らしき兵士と魔術師を倒し、敵が固まっている場所に手榴弾を投げて混乱している間に森に駆け込む……万が一の場合に備え、脱出プランを考えつつもロウリア兵を監視し始める。
ロウリア兵達はドローンを追って来たのだろうか? 周囲を見渡しながら、時おり空を見上げている……すると青色のローブを着た魔術師らしき男が、杖を掲げて何やら唱え始める……。
(む……あれがヘラが言っていた、人を探知する魔法か!?)
呪文を唱えた魔術師は手に持った杖を掲げながら周囲を見渡しているが、此方に気付く気配が無い……どうやらヘラが言っていた様に、魔力の無い自分達を見つける事が出来ない様だ。
その様子を見て安心していると、一人のロウリア兵が小走りで山内達が隠れている茂みへと向かって来た……。
「田崎……動くな!」
山内が田崎に小声でそう言うと、近づいて来たロウリア兵の男はズボンのボタンを外し自らの
(うへぇ、跳ねた滴がこっちに飛んで来た!!)
田崎がそう
山内達は尿の臭いが残り漂う茂みの中に潜み監視を続けていたが、やがてロウリア軍の部隊は集結すると、西の小道へと向かい丘を下っていった。
「何とかやり過ごせたな……ココにはもう用は無い! 田崎、拠点に戻るぞ!!」
そう言うと山内達は元来た森の中へと入り、道無き道を進んだ後、正午には無事に『北の森』の泉が在る拠点へと戻って来た。
同日 正午 クワ・トイネ公国 ギムの街から北へ約15km程の『北の森』泉の拠点
拠点へと戻って来た山内は荷物からタブレット端末を取り出し、ヘラが不思議そうに見守る中、昨日スマートフォンで撮った映像とドローンで空撮したギムの街の映像のデータを1枚のメモリーカードに収めるべく端末を操作していた。
「ヤマウチ……その黒い板見たいなの、魔道具なのか?」
作業を見ていたヘラが興味深そうに見ていたので、山内は端末の音量を上げ、映像ファイルのアイコンを軽く2回押してヘラに画面を見せると、昨日撮影したアメリア姉妹の映像が音声と共に端末から映し出されている事にヘラは目を丸くした。
「な……魔写が動いて言葉まで……ヤマウチ、何なんだこれは!!」
映像が映し出されているタブレット端末の機能を見て驚愕するヘラに、山内はケースに入ったメモリーカードを見せる。
「コイツはメモリーカードと言う、今見せた映像と同じモノがこの中に入っている……次はこれを1日でも早く公都の日本大使館に届けなければならない!」
「さっき見たモノがこの中に入っている!? 信じられない……本当なのか!」
ヘラは指の爪程の大きさしか無い、メモリーカードを不思議そうに見ながら首を傾げる……。
「ハンキ将軍の話ではワイバーンの伝令に渡せばエジェイから公都まで運んでくれると言っていた、今から馬を走らせてエジェイに戻りたい!」
「分かった……今から出て馬を急がせれば夕方にはエジェイに着くが、それで良ければ先導するぞ!」
ヘラは山内の依頼を受けて馬の準備をしようとすると、山内とヘラの会話を聞いていたチチ―ナが割り込んで来た。
「ちょっと待つにゃ! ねぇヤマウチ、その小っちゃいのを持って行くだけなら、この子が使えるにゃん!!」
チチ―ナはそう言いながら左腕を上げると、腕に止まったルリイロオオタカのタンケスが姿を現した。
「この子なら今から飛ばせば、夕方までには公都に辿り着ける事ができるにゃ~! ただ……。」
「ただ!?」
「この子には、どの場所や建物に送り届ければ良いのか魔法で教えるのだけど、それは具体的なイメージで伝える必要が有るにゃん!」
チチ―ナが言うには魔獣による伝令は帰巣本能を利用した伝書鳩と違い、魔法で教え込んだ場所に向かわせる事が出来る非常に優れた伝令で有るが、教え込むのは地図や住所と言ったものでは無く、周囲の山や地形の景色、建物の色や形と言ったビジュアル的なイメージを魔獣使いが理解し、魔法として教え込まないといけないらしい。
「つまり住所の様なモノでは無く、建物の色や形が直接解れば良いって事なのか? ならば……。」
山内はそう言うとポケットからスマートフォンを取り出し、画像ファイルから空撮した日本大使館の写真をチチ―ナに見せる。
「にゃーっ! ナニコレナニコレ!! こんなキレイで色つきの魔写を見るの初めてだにゃ~!!!」
スマートフォンの画像を見て思わず興奮するチチ―ナを見て、遠目から見ていたアメリア姉妹も近寄って画像を見ると驚きの声を上げていた。
「うん、大丈夫! これなら絶対届ける事が出来るにゃん!!」
他にも撮られた日本大使館の写真を数枚見ると、チチ―ナはタンケスに伝令用のハーネスを付け始め、
「これで準備出来たにゃん! ………タンケス、お願い!!」
左腕に乗せたタンケスに顔を寄せ、チチ―ナは魔法で日本大使館のイメージを伝える……そうして「行けっ!!」と言う合図と共にタンケスを空高く放り上げ、飛び立ったのを見守るとチチ―ナはその場で倒れ込んだ。
「おいっ! チチ―ナ、大丈夫か!!」
ヘラ達が大の字になって倒れたチチ―ナに慌てて駆け寄ってくる。
「う~ん! タンケスに魔力を全部持って行かれて立てないにゃ~! ねぇ……タザキ、さっきのココアって飲み物、お代わりいいかにゃ!?」
「えっ……!? いいですよ、今作りますから!」
倒れたチチ―ナを見て、心配そうな顔をしていた田崎は笑顔でそう答えた……その後『北の森』の泉で再び一夜を明かした山内達は、翌朝早くギムの街の生存者で有るアメリア姉妹を連れ、エジェイの街へと帰還した。
同日 夕刻 クワ・トイネ公国 公都クワトイネ 在クワ・トイネ日本大使館
公都クワ・トイネに夕闇が迫る中、ここ在クワ・トイネ日本大使館2階の応接室では、恒例となりつつあるクワ・トイネ公国外務局員のヤゴウと田中大使による会合が行われており、田中大使はヤゴウによりクワ・トイネ公国が収集した情報をいち早く入手出来るのは非常に有難く思っているのだが、日本政府からは開戦以来、具体的な指示や方針が示されておらず、ヤゴウの言葉に答えられない心苦しい日々が続いていた……。
今日も夕刻となり応接室にてヤゴウと会合を始めようとした時、窓側から急にバサバサと言う大きな音が聞こえたので、驚いた田中大使とヤゴウが窓の有る方向を見ると、窓の向こうのベランダの柵に瑠璃色に輝く大きな鷹の様な鳥が止まっているのが見えた。
「これは、鷹ですか……? 青色に輝いて、何て綺麗な鳥なんだ……。」
田中大使はその鳥の美しさに思わず見とれてしまうが、ヤゴウはその鳥が何かを体に付けている事に気付く。
「田中大使……あの鳥、胸に何かを付けています、まさか伝令なのか!?」
ヤゴウの言葉に田中大使はベランダの扉を開けて、ゆっくりと鳥に近づくが鳥は微動だにせず、恐る恐る胸に付けた筒に手を伸ばすと「パチン!」と言う音と共に筒が鳥から離れ、ベランダへと転がり落ちた。
鳥は身を翻して何処かへと飛び去っていったが、田中大使はベランダに落ちた真鍮製の筒を拾うと、それが通信筒の一種で有る事を理解し、筒を引っ張って開けると中には山内三佐の名で自分と久光一佐宛てに書かれた手紙と1枚のメモリーカードが入っており、手紙にはこの様に書かれていた。
「――― ギムの街から逃げて来た避難民の証言とロウリア軍占領後のギムの街を空撮した映像を送ります、早急に本国へ転送されたし。―――」
「これは大変だ! 久光一佐に連絡を、それと通信部の担当者を!!」
田中大使が内線で各部署に連絡を取る姿をヤゴウが見守る中、山内から送られてきた映像データは洋上に待機させている海上自衛隊の艦艇を経由してデータ通信で送信され、夜までにその情報が首相官邸へと届けられた。
その後、田中大使、久光一佐、そしてヤゴウは山内から送られた映像データを大使館内で再生し視聴するも、ギムの街の凄惨な光景を目の当たりにしたヤゴウはその場で泣き崩れてしまった……。
続く
ギムの街に到着した山内達は、そこで起きた悲劇を日本に伝えるべく奔走し、ギムの惨状が日本国へと伝わりました……次回、クワ・トイネ公国を救うべく日本国政府は重大な決断を行います。
( 次回の投稿は来年の連休明けを予定しております。)
※ 山内が使用したドローンについて
この分野について他国に比べ遅れているとの指摘が多い自衛隊のドローンですが、2015年には、トランクに収用出来る固定翼型の近距離用ドローンが既に採用されていました。
(噂では、10式や16式の戦術ネットワークにリンクできるらしい。)
今回はこの固定翼機では無く、よりコンパクトに収用出来る、技研でカスタムされた市販のクワッドコプターをオリジナル兵器として使用しています。
また、この異世界は地球よりも地平線が先に(17km)有る為、無線出力が有れば近距離用ドローンで有っても遠くへ飛ばす事が出来る様です。
(ちなみに固定翼型ドローンも本作で登場し、活躍する予定です!)