日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編 作:アニキ イン ザ スペース
中央歴1639年(西暦2015年) 4月17日 日本国東京都新宿区市谷木村町 防衛省市ヶ谷庁舎
山内三佐により
「おっ! 小林君、ちょうどいい! 一本貰えないかな?」
男は喫煙をしている4つの桜星の肩章を付けた将官の男に何の遠慮も無く煙草を
「統幕長……いいですけど、また禁煙止めるんですか!?」
「大規模な海外派兵が始まるかも知れんのだ、肺ガン何んぞ気にしてられるか!」
そう言いながら、彼と同じ4つの桜星の肩章と左胸に
「小林君! 今入った情報だが、自衛隊のクワ・トイネへの派兵が閣議決定したよ!」
「なんと、本当ですか!!」
「あの画像が届いてから政府の状況が一変したよ、これまで派兵に反対していた法務大臣や国土交通大臣が賛成に回って閣議決定されたのは何よりだ!」
クワ・トイネ公国からの要請以来、閣議の重要議題で有る『クワ・トイネ公国への自衛隊派兵』は、自衛隊法と平和憲法と言う大きな壁が立ちはだかっていたが、3日前に山内三佐が撮影したギムの街の惨状が
「たしかにアレで風向きが大きく変わりました……そう言えば統幕長、昨日届いた例の写真は見ましたか?」
「ああ……見たよ、しかしロウリア軍はあんな酷い事をするとは。」
昨日届いた写真とは一昨日、エジェイ周辺を哨戒していたクワ・トイネ騎馬隊が、ギムの街から釈放され
エジェイに駐在する山内三佐が、クワ・トイネ公国軍から許可を取って撮影された被害者の写真は公都の日本大使館に送られ、その日の内に官邸へと写真データが送られて来たが、そこに写されていたのは治療をされないまま腫れ上がった傷と全身に暴行を受けた為に出来た
「総理は今頃、官邸で呼び出した反対派の野党党首にあの写真を見せて落としにかかっているよ! 本会議で賛成しないなら棄権する様にと……でなければ国民に判断を委ねるべくこの映像と写真を公開する!……って言っていたからね。」
「ほう……総理がその様な事を言うとは意外ですな!?」
その言葉に小林陸将が感心している横で、斎藤統幕長は吸い終わった煙草を吸い殻入れへと入れ、話を続ける……。
「それでも、今回の派兵はどう解釈しても憲法にも自衛隊法にも触れるから『超法規的措置』を取らざる得ないからね、それを議会に通そうとしているんだから総理も大変だよ!」
「事態に法が追い付いていない……この国では何時もの事ですが、多くの人々の命が危険に晒されている今では
小林陸将はこれまでの政府の動きの遅さに腹立たしく思っていた事も有ってか、つい本音を口にしてしまう。
「その事は総理が一番理解しているよ、そうそう……総理と防衛大臣から『国内なら動かせる部隊は先に動かして良い!』との通達が有ってね、今から会議を始めなければならないんだ! まぁ、内容は事前に作戦部で決めているけどね、会議には小林君も参加するんだから早く!!」
「えっ……!? そんないきなり、ちょっと待って下さい!!」
足早に喫煙室を出て行く斎藤統幕長を小林陸将は慌てて追いかけて行く……その後、開催された会議により自衛隊の一部の部隊はクワ・トイネ派兵の準備としての移動と集結を密かに開始するので有った。
中央歴1639年(西暦2015年) 4月21日 日本国東京都千代田区永田町 国会議事堂 衆議院議場
東京の街は初夏の様な天気を迎える中、ここ日本の政治の中枢で有る永田町の国会議事堂では、戦後初となるクワ・トイネ公国への海外派兵を巡る最終審議が行われていた。
これまで憲法を遵守し飢饉を耐え忍んで乗り越えるか、クワ・トイネを救いに行くのかで紛糾していた国会で有ったが、開戦時に発生したギムの虐殺現場を現地の防衛駐在武官がドローンで撮影したと言われる映像が政府内やマスコミ関係者に一部公開されると、保守系のメディアから「ロウリアの侵略と残虐行為は看過出来ない!」との論調が出始める様になり、世論もひっ迫して来た生活状況の影響か「クワ・トイネへの自衛隊派兵は止む無し!」との意見が多数を占める様になってきた……しかし、現行の自衛隊法では紛争地への自衛隊派兵が行えない為、超法規的措置を取らざる得ない状況に政府は決断を迫られていた。
やがて夜を迎えた国会正門前には無数の報道関係者の車両が集まり、テレビではゴールデンタイムの時間帯にも関わらず民放1局を除いて特番が組まれる中、現地レポーターが2つの月と国会議事堂をバックに、これから戦後初となる海外派兵の
ここ衆議院議場では、間も無く行われる総理大臣の決議前演説を、議員を始め画面の向こうの視聴者達が見守る中、衆議院議長に指名された総理が
壇上に着いた総理は一礼をすると議場内の議員、そして国民へと語り始める……。
「我が国は異世界への転移と言う建国史上、類を見ない危機に直面し、前世界からの交信が断たれ、資源・食料危機の事態に
「しかし、この異世界でも我々が居た世界と同様に争いが有りました……ロデニウス大陸の西にロウリア王国を名乗る彼らは、大陸制覇の野望を抱くだけで無く、亜人と呼ばれる人々を根絶やしにすると言う、我々には受け入れ難い思想を持ち合わせていました……。 彼らは粗暴かつ
「我が国は『憲法第9条』の条文通り、争いや暴力を用いて事を解決する事を禁じています……しかし今、我々が彼らを救う決断をしなければ、彼の地では更に多くの人々が命を失う事となり、それは『全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する』と言う憲法前文に書かれた私達の理念に反する事にもなります! そして、この決断の遅れは我が日本を徐々に衰退と破滅へと追いやっているのです!!」
「この異世界には世界秩序を保つ役目を負う国連も超大国アメリカもいません! その為、我々自身が決断し行動しなければならないのです! 私は日本国内閣総理大臣としてロデニウス大陸に殺戮と破壊を
「これは
壇上の総理が発言を終え一礼すると、議場では大きな拍手が巻き起こった……その合間に一部の野党の議員が退席を始め、議場を去って行く姿が有った。
「議長より、現在の自衛隊法では武装集団の排除目的で海外への派遣は定義されておりません、よって本提言の採決は議員諸君の賛成により特例措置として議決するものと見なします……本提言に賛成の諸君の起立を求めます!」
衆議院議長の言葉により、退席した議員を除く与野党の全議員は一斉に立ち上がり、全会一致での採決が決まった。
「起立多数、よって本提言は可決する物と見なします。」
その言葉と同時に議場は大きな
夜遅くにも関わらず駅前では号外が配られ、人々が手に取る中、日本と言う国は一つの時代を終え、新たな時代の始まりを迎えるので有った……。
同時刻 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村 国際協力機構ナエノデンエン事務所
日本と同じく夜を迎えた、ナエノデンエン事務所の会議室では比留川を始めJICAの職員達が、机に置かれた短波ラジオの放送を
「これで、事業の継続が決まったな! まぁ当面、日本にも帰れなくもなるがな。」
「ははっ……確かにそれは言えるな。」
牧田と比留川がそう言いながらラジオを聞いていると、レジ袋を手にした諸星一佐が会議室へと入って来る。
「ようやく決まりましたね! こう言うのも何ですがほっとしましたよ……。」
そう言いながら、諸星一佐はレジ袋から缶ビールを取り出し机に置き始める。
「自衛官の私が言うのも
「諸星一佐、ここじゃ誰もそんな事を気にしませんよ……それでは乾杯と行きましょう!!」
「おう! それじゃ、我らの自衛隊に乾杯!!」
比留川達3人は手にした缶ビールのプルタブを開けて掲げると、乾杯の音頭と共にビールを喉に流し込む。
「ぷはーっ! 何か肩の重みと言うか、悩みから解放されたからビールが美味いぜ!!」
「お二方はそれで良いかも知れませんが、自分達はこれからもっと大変になりますよ!」
「ははっ……そうでしたね、これは失礼!」
諸星一佐の言葉に比留川と牧田は笑いながらも頭を下げる。
「それとお二方に通知が有ります……明日、明朝に我が第4施設群はマイハークへ移動します!」
「なんと、もう通知が来たのですか!?」
比留川は通知がこんなに早く来るとは思わなかったので少し驚く。
「どうやら以前から計画されていた様ですね……派兵が決まったのと一緒に指令が飛んで来ましたから!」
諸星一佐はビールを煽りながら、苦笑いしつつも話を続ける。
「自分はこのナエノデンエン村の美しさに魅了されて、この事務所が完成して隊員の半数以上がマイハークに戻ってもここに居続けていましたが、ここを出て行かねば為らないのはとても残念です……。」
「えっ!? あのぅ……諸星一佐って、まさか独断でこの村に滞在していたのですか!?」
比留川達は普段から精力的に作業に取り掛かる諸星一佐を見て、最前線で指揮を取るべくナエノデンエンに残っていた物と思っていた為、彼の言葉は意外で有った。
「自分はそこまで生真面目な人間じゃ有りませんよ……!」
諸星一佐は笑みを浮かべながらそう言うと、缶ビールの残りをぐいっと飲み干すも、その表情は何処か少し寂し気で有った……。
中央歴1639年(西暦2015年) 4月22日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村 国際協力機構ナエノデンエン事務所前
翌日、ナエノデンエン村の広場では、日本の参戦を聞きつけた村人達がマイハークへと向かう自衛隊の車両の周りへと集まり始める……この村に来た時には30台以上の大群で現れ、村人を驚かせた自衛隊の車両も、今はパジェロ1台と73式大型トラック2台を残すのみとなっていた。
「モロボシ殿、私達の争いに貴方達を巻き込んでしまって、何とお詫びすれば良いのか……。」
「ジョレーンさん……これは私達が決めた事ですから、気に掛ける必要は有りません! むしろ、これから皆さんのお役に立てる事を光栄に思っています。」
申し訳無さそうに話すジョレーンに対し諸星一佐は笑顔でそう答える……一方、73式大型トラックの前では、泣き続けているリドルに対し、有坂二士が困り顔になっている姿が有った。
「まったく! 泣く事はないでしょ……ロウリアの奴らを片付けて戦争終わらせたら、また戻って来るんだから!」
「だって! アリサカが戦争に行くって聞いたら、私、怖くて……。」
泣き止まないリドルに有坂一士はやれやれと言いながら、被っていた迷彩柄の作業帽をリドルに被せる。
「悪いけど、コレを預かっていてくれない……。」
リドルは深く被らかされた帽子を慌てて脱ぎ、涙を拭いながら顔を上げる。
「うん、分かった! でも必ず戻って来て……約束だよ!!」
帽子を抱きしめながら答えるリドルの姿を見ると、有坂は微笑みながらトラックの荷台へと乗り込んでいき、やがて出発の時間を迎える……。
「それでは行って参ります……比留川さん、温室の建設を手伝えないのは心残りになりますが、後はよろしくお願いいたします!」
「お気を付けて、諸星一佐!」
諸星一佐は比留川と固く握手をした後、待機していた車両へと乗り込む……3台の車両は彼の合図と共に出発を開始し、エンジン音を靡かせてナエノデンエン村を離れて行く……トラックの荷台に乗った有坂は他の自衛官達と共に荷台から身を乗り出しながら村人達に手を振る。
「諸星一佐……思ったより、いい人だったな……。」
「あぁ……しかし、これからはオレ達だけでやらなきゃならないから大変だな!」
「そうだな……。」
比留川と牧田達JICAの職員とジョレーンやリドル、そしてナエノデンエンの村人達も車両が見えなくなる迄、手を振り続けていた。
続く
今作は日本国召喚の書籍・漫画版共に端折られてしまった、日本政府の葛藤を多少なりとも書いてみました。
現行法で自衛隊派遣となると、相当無理がある事が改めて分かりました。
(法治国家で有る日本でどうやったら良いのか脳内シミュレーションしましたが、その結果が今回の話となりました・・・。)
次回は日本の参戦を向かえ、退役寸前のおじいちゃんと特戦群の精鋭達がクワ・トイネの地へと飛び立ちます。