日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く   作:アニキ イン ザ スペース

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第十一話 使節団と冒険者達

戻ってきた冒険者達の報告を聞く前に、3人を労うべく須藤はコーヒーを入れる事にした。

火を起こそうにも焚き木では煙でロウリア軍の斥候(せっこう)に見つかる危険が有り、冒険者達が使う魔導焜炉(まどうこんろ)では魔法を感知される恐れが有ると言うので、日本から持ってきたガスカセットコンロを使ってお湯を沸かし始める。

 

「ほう……これだけ強い炎を出しても煙を全く出さないのか!? それに魔力を全然感じないとは……。」

 

「炎の明かりが有るから夜中に使うのは危険だが、小さくて使い勝手も良さそうだ!」

 

冒険者達がカセットコンロに関心する中、ケトルの中の水が沸騰し始め白い蒸気を吹き出す……須藤はカバンの中から転移により貴重品となってしまったインスタントコーヒーを取り出し、冒険者達が準備したカップへと一匙ずつ入れお湯を注ぎこむ……。

 

「は~っ! この『こうひぃ』と言うお飲み物、ほんのりと香ばしい湯気の香りと苦くても芳酵(ほうこう)な味が身体に()みる様で、とても落ち着きますわ~!」

 

女祭司のルドミナは和んだ表情でコーヒーを飲んだ感想を口にする……。

 

「良ければコーヒーのお代わりと砂糖も有りますから。」

 

そう言いながら須藤は砂糖の入った紙製のスティックを取り出すと苦いのが苦手だったミルの顔が綻ぶ。

 

「ありがとうございます! でも、いいのですか……!?」

 

この世界で砂糖は、文明国と呼ばれる上位の国家の上流階級が口にする高級品で、ミル達が住む文明外国家の国々では手に入れるのも困難な代物で有る。

 

「とか言いながら、もう封を切って『こうひぃ』に入れているではゴザラぬか……全くオヌシは!」

 

「え~っ! だって、コレ苦いんだもん! そう言うサンジュンだって砂糖2個も入れてズルいよ!!」

 

ミルとサンジュンのやり取りに笑いながらも皆が落ち着いたと言う事で、須藤とローシュは偵察に行ったスターン達の報告を聞く事にした。

 

 

「そうか……嘘だと思いたかったが、それ程の軍勢が集結してるとなると戦争は間違いなく起きるな。」

 

ローシュは祖国で有るクワ・トイネが戦場と化す事に(うれ)いの表情を浮かべる……。

 

「それにロウリアの王都から二ホン使節団の手配書が回っている可能性も有る、そうなれば街道から国境を抜けるのは無理だろう……。」

 

スターンの報告を聞き終えたローシュは鞄から布に書かれた地図を取り出し地面に広げる。

 

(うへぇ……こんな絵にしか見えない地図で俺達は旅していたのかよ!)

 

城戸は測量術(そくりょうじゅつ)が普及する以前の古地図にしか見えない地図を見て呆れつつも、ローシュの言葉に耳を傾ける。

 

「今いるのがここ、ギムの街から25キロ程の地点……報告の通り東の街道はロウリア軍に抑えられて通れない、ならば……国境の川沿いを3日程北上した所に馬が渡れる浅瀬が有る、ここを抜ければ遠回りになるがクワ・トイネへ入国できます。」

 

ローシュは地図に描かれた川を指差し、川をなぞりながら指を地図の北側へと動かして須藤達に説明する。

 

「よろしいでしょうか!? 地図を見た所、北上するとギムやエジェイの街から遠ざかる様なので……例えば、この南に有る森から抜ける道は無いのですか?」

 

「スドウ殿、それは無理でゴザルな……南の森は『リーン・ノウの森』エルフ達の聖地で在っても、森が望まぬ者が入ろうものなら生きては出られぬ魔境(まきょう)でゴザルよ!」

 

「ま……魔境ですか……。」

 

屈強(くっきょう)な剣士で有るサンジュンから魔境と言う言葉が出てきた事に須藤は驚く……後に知る事で有るが、リーン・ノウの森には何らかの力が働いており、森の住民で在るハイエルフ達の案内無しで森に入れば『神森の戒め』と呼ばれる謎の力により方向感覚を失って森を彷徨って行く内に身体が徐々に衰弱して死に至ると言う話で有り、この不可思議な力によりロウリア軍の侵攻ルートが限られている事や、神話の時代には魔王軍の進軍すらも阻んだとも言われている。

 

「ロウリア軍は大群を持ってギムの街を強襲すると思われます、ならば時間を掛けて迂回する様な戦術は取る必要が無いので川の北側には兵はいないでしょう……ただしこのルートは対岸沿いに『北の森』を迂回するルートなので、時間も掛かる上に森の北側を出るまで集落が有りません。

あと『北の森』を突っ切ってギムの街へ行くルートは道中、獣や怪物が出て危険な上に森は馬が通るのがやっとの小道なので馬車は置いていく事になります……。」

 

「……分かりました、機材を載せた馬車を置いて行く訳には行きません、『北の森』を迂回するルートで行きましょう!」

 

スターンの意見に須藤は頷く、『新世界技術流出防止法』の事も有り馬車に載せた無線機材を放置する事は出来ない(万が一の時は焼却処分する様に指示されている)為、国境の川の浅瀬を渡った後に『北の森』を迂回しながら川沿いを北上するルートで移動する事に同意する、ローシュの話だと北側の浅瀬は街道側の浅瀬と同じ3km程の川幅の浅瀬が有り、ここを最後に川幅は500m程に狭まるが川は深くなり流れも早くなる……ロウリア側の川岸は海まで高い崖が続き、クワ・トイネ側は川岸と森の間が狭い草地となっている為、馬や馬車での移動は可能で有るが道中に集落は無く、森を迂回し北側に在る集落まで約7日間の野宿を余儀なくされるとの事で有った。

 

「水は川沿いを移動するから問題無いとして、食料はビールズの街で買って来たから10日は大丈夫かな!?」

 

馬の鞍と馬車の荷物を確認するミルの言葉に城戸は天を仰ぎながら呟く……。

 

「当面は、固いパンとボソボソとしたチーズに干した肉と果物ばかりを食べる日々が続く訳ですね……あぁ、日本のラーメンが恋しくなるよ!」

 

「ほぉ、キド殿が恋しがる……その『らぁめん』とは如何(いか)なるモノでゴザルかっ!?」

 

城戸の発した食べ物の言葉に興味を持ったサンジュンが顔を寄せて来る。

 

「サ・サンジュンさん……インスタントで良ければクワ・トイネに戻った時にご馳走しますよ!」

 

「おおっ……それはかたじけない! クワ・トイネに戻った時の楽しみがデキたでゴザルのう!!」

 

「もぉっ! サンジュンばっかりズルいよ、ボクも食べてみたい!!」

 

再び始まったミルとサンジュンとのやり取りに皆が笑う中、須藤は城戸に声を掛ける。

 

「城戸君、方針も決まったから外務省に定期報告を入れるよ! 持山君、無線機は使えるね!」

 

「無線機の準備は出来ています……しかし、ソーラーパネルの充電が十分で無いので、交信は10分程が限度です!」

 

「ここ数日、曇り続きだったからね……仕方ない。」

 

須藤はそう答えると無線機のプレストークボタンを押し外務省と交信を行う……。

 

その後、日本国外務省ロウリア王国使節団は冒険者達と共にロウリア軍との接触を避けるべく、国境の川を北上し浅瀬を渡りクワ・トイネ公国入りした後、『北の森』を大きく迂回するルートを通り、4月24日に公都クワ・トイネの日本大使館に無事帰還する事が出来た。

その後、冒険者達に振る舞う一番美味いインスタントラーメンはどれかを決めるのに田中大使を巻き込んだ大使館職員達の騒動については別の機会に話すとしよう……。

 

 

同日 ロウリア王国 クワ・トイネ公国との国境付近 ロウリア王国東方征伐軍 先遣隊野営地

 

クワ・トイネとロウリアの国境の街道沿いに最初の東方征伐軍の野営地が設置されてから2カ月近くが経過し、日を増す事に増え続ける天幕が地を覆いつくす様は対岸側のクワ・トイネ公国軍の監視哨からも確認が出来る程で有り、監視を行うクワ・トイネの兵士達の不安を増長(ぞうちょう)させていた。

 

その様な野営地を黒と銀で装飾されたサーコートを着た2人の男達が道に垂れ流される汚水を避けながら歩く姿が有った。

 

「なぁ、親父……野営地に着いたばかりなのに、いったい何処に行くんだ!?」

 

「エストバン、儂の事は父上と呼べ! 今のお前は貴族なんだぞ……これから向かう所は、東方征伐軍の副将であるアデム様が滞在(たいざい)されている指揮所だ、くれぐれも非礼の無い様にしろ!」

 

人狩りジョコこと、ベンセラス・ド・ジョコは息子のエストバンにそう言いながら丘の上に設置された天幕へと歩いて行く。

 

(何だよ……貴族と言っても騎士爵じゃ、俺は後継ぎになれねえじゃねーか!)

 

エストバンはそう思いながらも父親の後を付いて行く……丘の上の天幕の前に到着すると、ジョコは天幕の前に立つアデムの部下の魔獣使いに謁見(えっけん)に来た事を告げる。

 

「どうぞお入り下さい、アデム様が中でお待ちしています……。」

 

灰色のローブの男は天幕の入口の布をめくり中へと案内する……灰色のローブから見えた魔獣使いの男の手は使役した魔獣の毒に侵されたのか、紫色に変色してただれている事に2人は驚く……ジョコ達が天幕の中へと入って行くと地図を広げたテーブルの横に甲冑を着こんだ細い吊り目の男の姿が有った。

 

「ベンセラス・ド・ジョコと我が黒鎖騎士団(こくさきしだん)! 騎兵82名と従兵103名を連れ只今、到着しました!!」

 

ジョコは恐怖で強張りつつ声が裏返りながらも、甲冑を着た吊り目の男……ロウリア王国東方征伐軍、副将のアデムに部隊の到着を報告する。

そんなジョコに対し、テーブルに置かれた蝋燭(ろうそく)の明かりに照らされるアデムの顔が不気味な笑みを浮かべる……。

 

「これはジョコ殿、到着が遅れた事は良いとしましょう……来なければ一族郎党(いちぞくろうとう)(まと)めて殺してしまう所でしたよ……!」

 

「ア…アデム様、お(たわむ)れを……。」

 

その狂気じみた目線にジョコは背に汗を流しながら恐怖を感じる……このアデムと言う常軌(じょうき)(いっ)した男の事を知っている以上、今の発言がとても冗談とは思えないのだ!

 

「そうそう……私達、先遣隊はパンドール将軍の本隊が来る前にギムの街を墜としますので、そのつもりでいて下さい……それと亜人の奴隷を捕らえる時は先に私に言って下さいね! でないと私、つい皆殺しにして仕舞いますので……クックック」

 

謁見を終え天幕を出たジョコは顔を青くしながら逃げる様に自分達の陣地へと戻って行く中、息子のエストバンが心配そうに声を掛ける。

 

「親父……大丈夫か!? しかし何なんだ、あのアデムとか言う不気味な野郎は!!」

 

「あ……あぁ、いいかエストバン! 間違っても、あの男を怒らせたり機嫌を損ねる様な事を起こすんじゃないぞ!!」

 

ジョコはこれまでもアデムの正気とは思えない行為を目の当たりにして来た……中でも長年、抵抗を続けて来た亜人達の砦を自らの魔獣を使って陥落(かんらく)させた時に『余興(よきょう)を行いましょう!』と言いながら捕らえた亜人の親達の前で、その子供を巨大な魔獣に生きたまま食わせると言う(おぞ)ましい行為を行い、同行していたジョコと諸侯達は気を失わんばかりに恐怖する中、アデムだけは酒を飲みながら笑い楽しんでいたのだ。

これ以外にも、戦場では魔獣を吶喊(とっかん)させ敵味方共に全滅させたとか、食料となる家畜の調達で数が足りないと言う理由で担当者を魔獣の餌にしたとか、アデムには狂っているとしか思えない話が絶えない……。

 

それでもロウリア王はアデムにクワ・トイネ征伐軍の副将の地位を与えたのだ、我が王は実力が伴えば後はどうでも良いと言うのだろうか……。

それから5日後、ジョコは燃え盛るギムの街で再びアデムの狂気を目の当たりにする事となった……。

 

続く




ついに戦争が始まりました……。
次回は、戦争の勃発により比留川達、JICAの職員とナエノデンエン村の人々に動揺が広がる中、情報部別班の山内は特戦群の田崎と共に城塞都市エジェイにて新たな冒険者達の案内の元、戦火に燃える国境の街へと向かいます。


用語

神森の戒め

『リーン・ノウの森』で起きる、現地の住民で在るハイエルフの案内無しで森の中に入ろうとすると、方向感覚の喪失と身体が徐々に衰弱し森から出られないまま死に至ると言う謎の症状。 これは森を危害を加えようとする人間や魔獣に対し、緑の神の退魔の加護が作用している為に発生する。

国境の川

クワ・トイネ公国とロウリア王国との西の国境線となっている、ロデニウス大陸最大の川。
クワ・トイネ公国の南部、リーン・ノウの森の最奥を源流とし、ロデニウス大陸北部までおよそ2000キロ近くの長さ誇る。
ギムの街周辺のみ3キロ程の川幅の浅瀬が在り、それ以下の場所はロウリア側は険しい崖で、クワ・トイネ側は河口付近まで森(北の森)が続いている為、双方を行き来するルートは陸路はギムの街付近の浅瀬のみとなっている。
「国境の川」と言う名称は両国が外交上の諍いを回避する為に付けられた通称で有り、クワ・トイネ公国での名称は「アルース・ラーサ川」と呼ばれており、ロウリア王国側では「大ロウリア川」と呼ばれている。

魔導焜炉

魔法陣が彫られた金属性の鍋状の物に魔石を触媒として湯を沸かせるだけの熱を発生させる事が出来る魔道具。
煙は出ないが火属性の魔力を放出する為、魔法感知には引っかかるので冒険者達はロウリア軍陣地の近くでは使用しなかった。
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