日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く   作:アニキ イン ザ スペース

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第十三話 2人の生存者

中央歴1639年(西暦2015年) 4月13日 クワ・トイネ公国 ギムの街から約20km程の街道

 

春の日差しを受け青々とした草木が広がる丘陵の街道を、馬に騎乗した山内達4人が一路、西へと進んでいく……丘の頂上から見渡す景色は地球のそれとは違いとても広く、そして美しかった……。

 

(地球よりも広く遠くを見渡せる大地に、空には2つの大きな月……そんな異世界で、エルフや獣人の女の子と一緒に冒険……もとい、任務を行うとは、予想だにしなかった……全く、出来の悪いファンタジー小説だな!)

 

馬上の田崎三曹がその様な事を思っている横では、双眼鏡で遠くを見ている山内三佐と古風な望遠鏡で同じ場所を見ていたヘラがお互いに険しい表情をしながら顔を見合わせる。

 

「どう言う事だ……朝からずっと街道を西へ進んでいるのに、ギムからの避難民と一人も出会わないなんて!」

 

ヘラの不安げな言葉通り道中、避難民どころか誰ともすれ違っていない……ここまで3つの集落を通過して来たが、村人が避難の準備を始めていた最初の集落以外、戦争の報が伝わっておらず、我々の話を聞いて初めて戦争が始まった事を知る有り様で有った。

 

(この世界は見た目より通信技術が発達している筈だが、小さな集落への伝達方法はどうなっているのか!? それより、10万近い住民が住んでいるギムの街から誰も逃げて来ていない事が気になる……。)

山内はそう思いながらも、3人と共に街道を西へと進み続ける。

 

 

「チチ―ナ、次の丘を登る前に近くにロウリアの斥候がいないか確認したい! 周りを見てくれないか!?」

 

丘を下って街道をしばらく進むと、ヘラがチチ―ナに周囲を探索する様に指示を出した。

 

「わかったにゃ!」

 

チチ―ナはそう答えると、ポケットから取り出した笛を口に咥え鳴らし始める……笛からは空気が抜ける様な音しか聞こえなかったが、少しすると空からバサバサと羽ばたく音と共に煌びやかな鷹の様な鳥が現れ、左腕にぶ厚い手袋を着けたチチ―ナの左腕に止まった。

 

「何だ!? コイツ、急に現れたぞ!!」

 

何も居なかったチチーナの左腕に突然大きな鷹が現れた為、田崎は驚きの声を上げる!

 

「この子はルリイロオオタカのタンケスだにゃ! さっきからずっと、あたし達の上を飛んでいたにゃん!!」

 

「!?……さっきから飛んでいたって! 空には鷹なんていなかった筈だが……。」

 

田崎は彼女の手に止まっている鷹を見ながら目を細める……まるでモルフォ蝶を思わせる鮮やかな青色の光沢を持つ鳥が空を飛んでいるなら見逃す筈は無いと思いながら首を傾げていると、ヘラが笑みを浮かべながら答える。

 

「そいつはただの鷹じゃ無くて、魔獣の一種なんだよ! だから姿を消しながら空を飛ぶなんて事が出来るのさ。」

 

「魔獣!?……姿を消すって、マジかよ!!」

 

田崎が再び驚く中、チチ―ナはタンケスに顔を寄せ目を閉じながら呪文を唱えると、左腕に止まっていたタンケスを放り出す様にして空へと解き放った。

 

「魔獣使いは従魔にした魔獣に魔法を掛けて意のままに操る事が出来るのさ、さらに視覚も共有出来て魔獣が見ているモノも判るんだ。」

 

ヘラは従魔術でタンケスと同期しているチチ―ナに変わって山内達に説明する、タンケスは風を捕らえ翼を広げると瑠璃色に輝いていた羽根が空の色に溶け込む様に消えて姿が見えなくなった。

 

「凄いな……これなら敵に気付かれずに上空から偵察が出来るのか!」

 

「そうでもないさ、魔法を使っている以上、魔術師の魔法探知に引っかかる恐れが有るからね……ここいらがギムの街から感知されないギリギリの場所だよ!」

 

感心する山内に対してヘラが問題点が有る事を指摘する、魔法にも電波の逆探知の様な物が有るのかと山内が思っていると、チチ―ナが何かを見つけたかの様に、顔を前に突き出す様な仕草をし始める。

 

「どうしたチチ―ナ、何か見つけたのか!?」

 

ヘラの問いに対し、タンケスと同期しているチチ―ナは遠くを見つめている様な表情で答える。

 

「丘の向こうの街道に……2人いるにゃ……女の子?……こっちに走って来てる……にゃっ、奥にロウリアの騎兵! 追われているんだにゃ!!!」

 

「騎兵の数は(いく)つだ! 他には何かいるのか!?」

 

「ひぃ…ふぅ……21だにゃ! 他には何もいないけど、このままだと追いつかれちゃうにゃ!!」

 

山内が騎兵の数を問うとチチ―ナは遠目な表情のままその数を答える。

 

「田崎、いくぞ!!」

 

「了解!!」

 

チチ―ナから騎兵の数を聞いた山内は田崎を連れ、馬を全速力で走らせ街道へと駆け出す。

 

「おい、待てよ!!」

 

山内達の突然の行動にヘラは驚きながら止めようとするも、それを振り切り、丘の稜線(りょうせん)を目指して走っていった……。

 

 

ギムの街へと至る街道から、黒地の旗に白い髑髏と首輪、そして鎖が描かれている不気味な旗印を掲げた騎兵の一団が土煙を上げ駆け抜けていく……ロウリア諸侯軍の騎士爵である人狩りジョコことベンセラス・ド・ジョコの息子で有るエストバン・ジョコは20騎の騎兵を連れてギムの街から逃げ出した避難民を捕らえるべく北東へと進んでいた。

 

昨日のギム攻略戦は彼の初陣で有ったにもかかわらず、運悪く副将アデムの近くに父親共々配属された為、楽しむかの様に巨大な魔獣をギムの住民達に(けしか)蹂躙(じゅうりん)する様を見て笑い続けるアデムの狂気じみた姿を見せ付けられるだけで一日が終わってしまった。

 

アデムは捕らえたギムの住民達を次々と残虐な方法で殺害する様を彼に見せ付けたが、取り分け囚われた敵将で在るモイジとその妻子の凄惨(せいさん)な最期を見せられた時は、余りの酷さに敵ながらも同情を禁じ得なかった……。

 

そして翌日、アデムより直々に指示が有り、ギムの街から逃亡した敗残兵と住民を一人残らず掃討する様にとの命令が出た。

 

「いいですか、ギムの街から誰も逃がしてはいけません……追いかけて捕まえるか殺しなさい! 釈放する住民は100名程こちらで準備していますので、後2~3日甚振(いたぶ)ってから釈放して上げますよ……ヒッヒッヒ」

 

狂気じみた笑みを浮かべながら指示を出すアデムに(おのの)きながら、父親で有るジョコより20騎の騎兵を預かったエストバンは彼らを連れ、まだ煙が立ち上るギムの街を出て街道を北東へと走りだす…… 程無(ほどな)くしてジョコ達は前方に歩いている人影を見つけた。

 

「若! 前方に2人、誰かいますぜ……ありゃ女だ!!」

 

前を走っていた騎兵の一人が、望遠鏡で彼女達を確認すると喜びながらエストバンに報告する。

 

「昨日はアデムの悪趣味に付き合わされて、お楽しみはお預けだったんだ! せっかくの女なんだから俺達で楽しんでもいいだろ!?」

 

「おぅ! 好きにしてもいいが、女は高く売れるから壊すんじゃねーぞ!!」

 

「ヒャッハ~ッ! そうこなくっちゃ!! おい、野郎共行くぞ!!」

 

エストバンの言葉を聞いて騎兵達は下品な雄叫びを上げながら馬で駆け出す……(ひずめ)の音に気付いたのか、彼女達は後ろを一瞬振り返ると慌てて走り出した。

 

「ヒャッハァァ~ッッ!!!」

 

「何処へ逃げようってんだい、お嬢ちゃん! 逃げ場なんて何処にもねーぜ!!」

 

隠れる場所も無い草原の街道を彼女達は必死に走って行くが、後ろから聞こえる蹄の音はだんだんと近づいて来る。

 

「ヒャッハハハハ~ッッ! 早く逃げないと捕まえちまうぞ~!! …………んっ!?」

 

騎兵の一人が、街道が続く東側の丘の稜線から、茶褐色の衣装を着た2人の男達が馬に乗って全速で向かって来ている事に気が付く。

 

「なんだありゃ? クワ・トイネの斥候かぁ……!?」

 

2人の男達を乗せた馬は走り疲れて倒れ込んだ少女達の前で止まり、その内の1人は馬から降りて少女達を(かば)うかの様に騎兵達の前に立ち塞がった。

 

「何だぁ、舐めやがって! たった2人で俺達と殺ろうてぇんのかぁ!!」

 

「ヒャ~ッ! 切り刻んでやるぜぃ!!」

 

騎兵達が叫びながら剣を鞘から抜くのと同時に、2人の男達はマントの後ろから黒色の奇妙な棒状の物を取り出して水平に構えた。

 

―――パスパスッ! パスパスパスパスパスッ!!

 

聞いた事の無い乾いた音がしたのと同時に、前を走っていた騎兵達が血を吹きながら次々と倒れ、落馬していく。

 

「―――なんだ、まさか魔法!? いかんっ!!散開し―――!!」

 

部下に指示を出そうとしたエストバンだが、自身も右肩と腹部に熱さと衝撃を感じた瞬間、そのまま意識を失い馬から滑り落ちる様に倒れてしまった。

 

山内と田崎は向かって来るロウリア騎兵に対し、手にしたM4カービンで次々と狙い撃ちにする、サプレッサーを装着したM4カービンは発火炎を出す事無く、くぐもった低い音と共に5.56mm弾が発射され、縦隊で密集していた騎兵達を撃ち倒していった。

 

馬から降りて銃を撃ち続けていた田崎はM4カービンの弾が空になるや、腰のホルスターからソーコムMk23ピストルを素早く取り出し、まだ向かって来る騎兵に向けて連射した! サプレッサーを付けたM4カービンと異なりその銃声は草原に大きく鳴り響き、その轟音は騎兵達の士気を完膚無きまでに砕いてしまった。

 

「ひいぃーっ! なんだありゃ!?」

 

「若がやられたぞっ!! 撤退だ!撤退ぃーっ!!」

 

残った騎兵達はパニックになって慌てて背を向け引き返し始めたが、馬上から足で馬を(なだ)めながらスコープ付きのM4カービンを構えた山内により全員が狙撃され地面へと倒れた。

 

銃声が止み、周囲には主を失い何処かへと駆け去って行く馬の(いなな)く声だけが草原に響く……田崎と山内は21人ものロウリア騎兵全員を撃ち倒すも、その2人の表情には人を殺めた罪悪感や高揚感すらも感じられず、まるで無常を観ずる僧侶の様な佇まいを漂わせていた……。

他にロウリア兵がいない事を確認した山内はM4カービンのマガジンを取り外し残りの残弾を数え、田崎に使用した弾数を伝える。

 

「こっちは27だ! 田崎、そっちは!?」

 

「31と13です、キッチリ使いきりました!」

 

田崎は手にしたソーコムMk23ピストルのマガジンを交換しながら返答する。

 

「俺は後始末をやっておく、お前は薬莢(やっきょう)を回収しろ!」

 

山内はそう言うと馬を走らせロウリアの騎兵達が倒れている場所へと向かって行く……マガジンの交換を終えた田崎は振り返りながら被っていたフードを脱ぎ、その美丈夫(びじょうふ)ぶりを(あら)わにすると、地面にへたり込んだまま何が起こったのか分からずに呆然(ぼうぜん)としている少女達に話しかける。

 

「君達、大丈夫かい? 怪我はしてない!?」

 

「た・助けていただいてあり……は・はわゎ……は・はい! 大丈夫です……!!」

 

助けてくれた礼を言おうとした少女達は、精悍(せいかん)な顔つきの異国の男性の容姿を見て顔を赤くしながらも答える。

 

「すまないけど、これを一緒に拾ってくれないかな!?」

 

「これを……ですか!?」

 

田崎は地面に落ちた空薬莢を拾い少女達に見せると、彼女達は目の前に落ちている空薬莢を手に取り、それが少し熱い事に驚きながらも拾い始める……。

 

一方、倒れたロウリア騎兵達の元に駆け寄った山内は馬から降りると、ロウリア騎兵の遺体から矢筒を取り出し、中に入った矢の束を手にすると、倒れたロウリア騎兵の銃創に次々と矢を突き刺し始めた。

 

「…………ぐっ……何が……。」

 

山内が『後始末』を始めた頃、右肩と左わき腹に銃弾を受け気を失い落馬したエストバンが目を覚ますが、余りの痛みに体を動かす事が出来ずに(うめ)き声を上げる。

そんなエストバンの元に茶褐色の服を着た男……山内が彼を見下ろす様に姿を見せる。

 

「な……何だ……キサマ!」

 

「ん~!? まだ生きていたのか? 悪いがまだこっちの手の内を見せたくないんだ!」

 

山内はそう言いながら、手にした矢をエストバンの眉間に勢い良く突き刺すと、彼は声を上げる間も無く絶命する……こうして『後始末』を終えた山内は残った矢筒と矢を投げ捨て、その場を後にした……。

 

 

「何……今のは!?」

 

「スゴイにゃ! ヘンな音がしたかと思ったらロウリア兵がバタバタって倒れたにゃ、秒殺だにゃん!!」

 

山内達を追いかけてきたヘラとチチ―ナは丘の上からその戦闘を見届けていたが、山内達の一方的な戦闘能力を見て、驚愕(きょうがく)の余り立ち尽くしていた……。

 

(ヤマウチとタザキが持っている奇妙な筒の様な物……以前、パーパルディアの武官達が見せてくれた『魔導銃』に似ているが、アレはあんな(いびつ)な形はしていなかった……そもそもアレが魔道具なら魔力の無い彼らがどうやって………そうか! ヤゴウの言っていた『優れた技術』って、この事なのか!!)

 

ヘラは望遠鏡で山内が持っているM4カービンを見ながら、ヤゴウが言っていた事は嘘でなかった事を確信し、望遠鏡をしまうと山内達と合流すべく丘の街道を下り始めた。

 

「………こっちは終わった、田崎そっちは?」

 

「彼女達に手伝って貰ったので、全て回収できました!」

 

戻ってきた山内が田崎に状況を聞くと田崎は空薬莢が入った袋を山内に見せる……2人が互いの戦闘結果を報告し合っていると、馬に乗ったヘラ達が丘を下って山内達の元へとやって来た。

 

「ヤマウチ! ロウリア軍との接触は避けるんじゃ無かったのか!!」

 

「そうしたかったが、彼女達はようやく見つけたギムの街の生存者だ、見捨てる事は出来ん! それよりも早くココを離れた方が良さそうだ。」

 

山内がそう言うと、ヘラは心配そうな顔をしている生存者の少女達を見て、ため息を付く……勝手に飛び出して自分達にまで危険が及びかねない行動を取ったとは言え、同胞でも在る彼女達を助けてくれた以上、山内達に対して怒る事が出来なかった。

 

「そうだな………ならば、少し行った先で街道を外れて西に進もう、そこから15km程先に『北の森』と呼ばれている場所が有る、案内するよ!」

 

ヘラがそう提案すると『北の森』と言う言葉を聞いた生存者の少女達が怪訝(けげん)そうな顔をする、地元の人間で有る彼女の様子から見て、何やら(いわ)く付きの場所の様だと山内は考える。

 

「『北の森』は別名、レント……木人の森だからにゃ~! まぁ……ヘラ姉の言う通りにすればロウリア兵も来れない、安全な森だにゃん!」

 

「安全な森!? それより何だよ……その木人って? まさかヤバい奴じゃないだろうな!」

 

チチ―ナの言葉に、田崎がそう不安げに呟く……こうして山内達は助け出した2人の少女達を馬に乗せ、ヘラの案内の元『北の森』へと向かうのであった……。

 

続く




ついに『ロウリアヒャッハー!騎兵隊』vs『別班&特戦群』で戦闘が起きましたが、秒殺で終わりました……しかたないね!
次回は助け出した姉妹達の証言によりギムの街で何が起きたのか明らかになります……。

用語

ルリイロオオタカ

魔獣使いで有るチチ―ナの従魔で、全長60cm程の煌びやかな瑠璃色の羽根を持つ鷹に似た鳥型の魔獣で有り、飛行時に姿を消す特殊な能力を持っている。 魔獣使いと「同期」または「命令」を受ける事で、偵察や伝令等で活躍するが出来る為、未探索地を探検する冒険者や軍隊から重宝されている。
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