日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編   作:アニキ イン ザ スペース

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――― ロータリーを装着したトラクターは人々が見守る中、力強いディーゼル音と共にナエノデンエン村の土地を次々と耕していく……掘り起こされた土の匂いは異世界と言えど地球のソレと変わりなく、一目で農耕に適した肥沃な土で有る事が判った。

そして播種機を搭載したトラクターが次々と小麦の種を蒔いていく光景に村人達が驚く中、オレは畑の中で有る事に気が付いた。

「雑草の芽が見当たらない……!?」

播種前に荒起こしした土地には、何らかの雑草の芽が先に顔を出し、その対処に毎回の如く頭を悩ませるものだが、おかしな事に発芽の遅い小麦の芽が伸びても雑草の芽は一向に現れなかったのだ……。

奇妙に思いながら畑の土を調べると、土の中にいくつもの発芽していない雑草の種を見つけ、どうして発芽していないのか首を傾げていると、今度は別の事に気が付く……土の中に新芽を食い荒らす有害な昆虫の類が全く見当たらないのだ!

オレはまさかと思い、村の森の中からダンゴムシに似た(信じられないが、容姿だけで無く、性質や食性まで地球に居るモノと全く同じで有る!)生物を捕まえ、見失わない様に甲羅に蛍光マーカーを塗ると、動きが活発になる夜間に新芽の生えた畑へと放ってみた……。

地面に落ちた虫達は、最初はウロウロと足下の周りを蠢いていたが、しばらくするとマーカーを塗った全ての虫達が好物の新芽には目をくれずに畑の外へと一目散に駆け出したので有る。

逃げる様に駆け出した虫達は畑の外でその歩みを止め、枯れ草を食べ始める……マーカーを頼りに虫達の数を数えると捕まえた数だけいたので、全ての虫達が同じ方向に逃げて来た事になる、試しに虫達を数匹捕まえて再度畑に放つと同じ様に畑から逃げ出してしまった。

肥沃かつ雑草と害虫を寄せ付けない奇跡の土地……。

正に神に祝福されし豊穣の大地……これまで学んで来た農学を嘲笑うかの様なこのふざけた土地に、オレは希望と好奇心、そして妬みを感じるので有った……。

牧田 祥吾 著 『クワ・トイネ探訪記 神に祝福されし豊穣の大地』より



第十四話 くっころ女騎士は実在した!?

中央歴1639年(西暦2015年) 4月25日 早朝 ロウリア王国 北部沿岸から北へ約25km、深度20mの海中

 

 

この異世界の海は、なだらかで遥か遠くまで見渡せる水平線を除けば、紺碧に輝く水面が果てし無く続く地球の海と変わらぬ光景が広がっている。

 

多くの魚達が回遊する海の中を一隻の黒くて巨大な鉄の鯨が、音も無くゆっくりとした速度で航行していた……。

 

そうりゅう型潜水艦 2番艦 うんりゅう

 

後に12隻建造されるそうりゅう型の2番艦で在る彼女は一昨日、ロデニウス大陸の北部沿岸域を哨戒中にロウリア王国の大船団を捕捉し司令部に報告後、東進を続ける大船団の追跡を密かに開始した。

 

『うんりゅう』は昼はスターリングエンジンを使用したAIP(非大気依存推進)システムを使用し、夜はシュノーケルを上げてディーゼルエンジンを起動させる事で水面からその姿を現す事無く時速6ノットの速度で大船団の追跡を行う……。

一見、水中を魚達と共に優雅に航行しているかの様に見える『うんりゅう』だが、海図すら無い未知の海域の航行を余儀なくされる隊員達は緊張の(おもむ)きでこの追跡を続けていた。

 

「艦長! 現在の海底までの深度、187m。」

 

隊員より深度測定器による測定の報告を聞いた『うんりゅう』の艦長である、宮畑 修也 二佐は軽く安堵(あんど)の息を漏らす。

 

静粛性を最重要視したそうりゅう型は自ら音波を発して周囲を探査するアクティブソナーは搭載しておらず、普段は事前に準備された海図を照らし合わせ、深度を推測しながら航行している。

その為、海図どころか周辺の地図すら存在しない異世界の海の中を航行するのは常に座礁の危険が有る以上、定期的に深度測定器を使用して水深に変化が無いか測定する必要が有った。

 

(この深さなら座礁する様な心配は無いな……おっと、そろそろ時間か!)

 

宮畑二佐は時計を見ながらそう呟くと、指令所の部下達に指示を出す。

 

「周囲を確認する、潜望鏡上げ!」

 

宮畑二佐が指示を出すと指令所の天井からモーター音と共に非貫通式(ひかんつうしき)の潜望鏡が上がっていく音が聞こえてくる……海面から僅かに顔を出した潜望鏡はぐるりと周囲を一周すると、誰にも気付かれる事無く再び海中へと潜り『うんりゅう』の艦橋へと収容された。

 

「しかし、凄い数だな……。」

 

「船が七分で、海が三分……なんてモノじゃ無いですよ、コレは!?」

 

司令所の中央に設置された大型モニターには、先ほど潜望鏡で撮影された映像が映し出されており、そこには海を埋め尽くさんばかりの無数のロウリア船団の姿が有った。

 

「艦長、ロウリアの船団は『コグ』と呼ばれている大航海時代以前に使われていた帆船に類似した船と、帆とオールを併用した『ガレー船』に似た船で構成されています……おそらく、前者は兵員輸送用で後者は戦闘用かと思われます、まぁ武装と言っても見たところ弩砲(どほう)や投石器がメインで、大砲の類は搭載していません。」

 

同じくモニターを見ていた水雷長がその様に話すと、さっきまで海図盤に向かって電卓を叩いていた航海長がメモを手にしながら宮畑二佐に報告を行う。

 

「計測した所、ロウリア船団の速度は時速6ノットと変わりは有りません! ただ、このまま何の障害も無く航行すれば、4日以内にマイハークに到着します。」

 

「うむ……4400隻の大船団、そして10万を超える軍勢が海からクワ・トイネへ押し寄せて来るのか……コレを阻止しないと大変な事になるぞ!」

 

航海長の報告を聞いた宮畑二佐と水雷長はモニターに映る船団の数の余りの多さにため息を付く……。

 

「しかし、あの数の多さでは魚雷を全弾使っても……焼け石どころか足止めにすらなりませんよ!」

 

「流石に木造の船を沈めるのに魚雷は使いたくないな……ともあれ船団の撃退はマイハークに到着した第三護衛群が担当する事になる、本艦はこのまま船団の追跡を継続する。」

 

水雷長の言葉に宮畑二佐がその様に答える……すると艦外から「キュイ!キュイ!」と言う甲高い音が僅かながらに聞こえて来て、指令所の横で聴音作業をしていた隊員が悲鳴を上げる。

 

「うわっ……何だよ、アイツらまた来たのか!?」

 

突然の音に驚いた聴音手が慌ててヘッドフォンを頭から外しながら悪態を付く! それを見た宮畑二佐と司令所の隊員達は「あぁ……またか!」と言う表情で聴音手を見つめた。

 

潜航している『うんりゅう』の周りを何処からかやって来たイルカに似た無数の海洋生物が取り囲んでおり、地球のイルカと同じ様に好奇心旺盛なこの生き物が発する音波が『うんりゅう』の側面アレイ・ソナーに当たると、思いも寄らぬ騒音となり聴音作業を妨害してしまうので有る。

 

「コイツら、吸音タイルに音を当てて変化しているのを楽しんでいる見たいです……これじゃ聴音出来ませんよ!?」

 

聴音手は呆れ顔でその様に言うと、宮畑二佐を始め他の隊員達も苦笑いをする……。

 

異世界の海に生きる生物達が戯れる中、『うんりゅう』は静かに潜航しながら大船団の追跡を続け、その情報を逐次、マイハークに入港した第三護衛群へと報告を行った……。

 

そして翌日、護衛艦『いずも』を旗艦とする8隻の第三護衛群は、シャークン海将率いる4400隻もの大船団を迎え撃ち、1400隻もの敵船を撃沈、撤退に追い込んだ事でロウリア王国のクワ・トイネ侵攻の野望を打ち砕いた。

戦後日本で始めての大規模戦闘で有り、後に『ロデニウス沖大海戦』と呼ばれるこの大海戦の報は異世界国家へと広がり『日本』と言う未知の国の名を知らしめるので有った……。

 

 

同日 夕刻 クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ

 

日没を迎え、夕陽に照らされた城壁が大きな影を落とし始めると、エジェイの街に魔法を使った街灯が灯り始め、街は何時もと同じ夜を迎えた。

『北の森』から戻って来た山内と田崎は、西門をくぐり抜け乗っていた馬から降りると手綱を引きながらエジェイの街へと歩いて行く……。

 

「良く頑張ってくれた! 済まなかったな、行きよりも荷物が重くなって。」

 

労いの言葉を掛けた馬達の鞍には『北の森』に潜伏する偵察隊と連絡を行う為の長距離無線機とその電源で有る小型発電機、そしてその燃料で有るガソリン缶が積まれており、今後はクワ・トイネ軍から魔導通信機を借りる事無く独自に通信が可能となった。

 

「では、屋敷に戻ったら早速……!? 山内三佐、周囲に武装した兵士が多数……囲まれています!!」

 

「おう! その様だな……。」

 

異変に気付いた田崎がそう言うと、山内は目だけを動かして周囲を確認する……すると人混みの中から数十人の武装したクワ・トイネ兵が現れ、山内達の周囲を取り囲んだ。

 

「おやおや!? 俺達の帰りのお出迎え……って訳では無い様だな!」

 

山内がそう呟くと、兵士達の中から銀山羊騎士団の紋章の鎧を見に纏った女性が現れ、2人の前に立ち塞がると、睨むような表情で名乗りを上げる。

 

「我は銀山羊騎士団、フミスキ隊の騎士トウミ! 貴様が二ホン国の武官、ヤマウチだな!!」

 

「ああ……自分が日本国陸上自衛隊、防衛駐在官の山内三佐だ! 騎士様が兵士を連れて俺達の帰りの出迎えとは、随分と歓迎されている……って事かな!?」

 

「黙れっ! 貴様がロウリア騎兵の一群を打ち倒したなどと嘘の話を広めた醜行(しゅうこう)、クワ・トイネの騎士として看過(かんか)出来ぬぞ!!」

 

「はぁ……? 何の事だ!?」

 

「フンッ! 嘘を()いて武勲(ぶくん)偽称(ぎしょう)するなぞ、貴様には武人の誇りと言うモノは無いのかぁ!!」

 

女騎士のトウミがそう言うと腰に下げていた剣を抜き、剣先を山内に向ける。

 

「貴様が雇った冒険者を使って酒場で法螺話(ほらばなし)を広めていたのは既に調べが付いている……おいっ!」

 

トウミはそう言いながら横を向くと、そこには巨漢の兵士に襟首(えりくび)(つか)まれ持ち上げられたチチ―ナの姿が在り、酒を飲んでいるのか、ほろ酔いの表情で山内達に話しかける。

 

「ヤマウチごめ~ん! 酒場でつい、この前の事を話したら女騎士さまに聞かれちゃったにゃ~!!」

 

山内は酒に酔ったチチ―ナのへらへらとした言葉を聞いて呆れるも、この世界では貴族の筈の騎士が街の酒場に出入りするのか……等と思いながら、自身に剣を突き付けたトウミに対し平然とした態度で問いかける。

 

「ほう……ならば、この冒険者が嘘は言っていないと言ったらどうする!?」

 

「なんだとっ!」

 

「嘘じゃないにゃ~! ヤマウチ達は本当に『奇妙(きみょう)(つつ)』でロウリアの騎兵を次々と倒したんだにゃ~!!」

 

「ええぃ! 冒険者風情(ぼうけんしゃふぜい)が、まだ嘘を吐くのか!!」

 

トウミは酔ったチチーナの舌足(したた)らずな喋り方に(いら)ついていたのか、声を上げて怒鳴(どな)りつける! 山内はそれを見て内心笑いながらも、彼女に別の問いかけを行う。

 

「ところで騎士様……相手に剣を向けているならば、貴方もそれなりの覚悟は出来ているって事ですかな!?」

 

「何だと!?」

 

トウミがそう言った瞬間、山内は目に見えないほどの素早さで自身の右手を蛇の様に彼女の剣に(から)ませ(ちゅう)に弾き飛ばす!

 

(えっ!?)

 

一瞬の出来事にトウミは声を上げる間も無く、剣を弾かれた勢いで地面に尻もちを付いてしまう。

トウミの手から離れた剣はくるくると回りながら宙を舞い、落ちて来たところを山内はタイミング良く剣の持ち手を掴み取った。

 

手力陽流活人拳(てじからようりゅうかつじんけん) 秘奥義! 白刃巻(しらはま)()げ!! さて……もう一度お聴きしますが、お覚悟は出来ていますかな……?』

 

今度は山内が奪い取ったトウミの剣先を彼女に向ける……それを見た彼女の部下の兵士達は次々と剣を抜き、取り囲んだ包囲を狭めるべくジリジリと詰め寄って来た。

 

「やめろ! 者共、剣を降ろせ!! コレは私とこの男との問題だ、手を出すでは無い!!!」

 

尻もちをついた状態で奪われた自身の剣を目先に向けられると言う騎士に取っては屈辱的(くつじょくてき)な状況の中、それでも彼女は部下達に手を出さない様に指示を出した……。

 

流石に外交官で有る防衛駐在官に手を出すのはマズいと思ったか……? 山内がその様に思っていると、彼を睨んでいたトウミが覚悟の赴きでこう答える……。

 

「くっ……剣を奪われた挙げ句、こんな無様な事になろうとは……。 私も騎士で在る以上、覚悟は出来ている……殺すのなら……殺せ……。」

 

トウミの言葉を聞いた山内と田崎は驚きと高揚が入り混じった表情で互いの顔を見合わせる、そして一言一句(いちごんいっく)同じ言葉を心の中で大きく叫ぶ!

 

((くっころ女騎士! 実在したのかぁ!!))

 

「フッ……本当にこう言うのかよ……ハッハッハッハッ……!」

 

彼女の言葉を聞いた山内は(こら)え切れず笑い出すと、プライドの高いトウミは彼に対し怒りの声を上げる!

 

「貴様! 何が可笑(おか)しい!!」

 

「フフッ……これは失礼した! アンタの言葉がコチラの予想以上のモノだったからね……。」

 

山内はそう言いながら、右耳に着けているインコムのスイッチを押し、田崎に小声で伝える。

 

「田崎……隣にいる兵士の兜を奪って、こちらに向かって高く放り投げろ!」

 

「!?……了解!」

 

山内の指示に田崎も小声で答えると、彼の隣にいる新兵と思われる若い兵士が被っている鉄製の兜を素早く奪い取り、そのまま宙へと高く放り投げた……。

 

「あっ!?」

 

「えっ……!?」

 

取り囲む兵士達の目線が宙を舞う兜に向けられると、山内は剣を左手に持ち替え、手の空いた右手でホルスターから拳銃を取り出す。

 

『パンッ! パンッ!!』

 

山内は手にしたソーコムMk23ピストルで、兜が宙に止まった瞬間を狙って2発の弾を発射する。

街中に響く轟音と共に放たれた弾は2発共に兜に命中し、大きく弾かれて田崎が居る近くへと落ちてくる……。

 

田崎は何も言わずに兜を拾うと、今度はトウミの足下に放り投げた……途中、古参の兵士が彼の行動を止めようとしたが、田崎の右手にも山内と同じ物が握られている事に気付くと、驚きながら後退りする。

 

「こ・これは……!?」

 

トウミは足下に転がる兜を見て、驚きの余り大きく目を見開く! 弓矢の直撃を受けても弾く筈の鉄製の兜に4つの穴が空いており、その内の2つは兜を大きく破損させる程の貫通跡だった……。

 

「もう参戦を決めたから、これ以上隠す必要は無いよな……そう、コレが俺達の力だ!」

 

山内はそう言いながらピストルをホルスターに仕舞い、今度はマントで隠れた背中からM4カービンを取り出すと、横に居た田崎もサプレッサーを装着したM4カービンを取り出し、兵士達に見せ付ける様に掲げた。

 

「にゃ〜っ!! ソレだにゃ、ロウリア兵を皆殺しにした『奇妙な筒』だにゃ!!」

 

チチーナがそう叫ぶと、周りを囲っていた兵士達は山内と田崎が掲げる銃を見て、次々と驚きの声を上げる。

 

「あれは……まさか『魔導銃(まどうじゅう)』なのか!?」

 

「馬鹿なっ! 列強でも上位国じゃ無いと手にする事すら出来ない武器だぞっ!!」

 

「もしかしたら、魔獣使いの冒険者が言っていたのは本当の事なのか……!?」

 

驚く兵士達の様子を見た山内は、ハッタリが上手く行った事にほくそ笑みながらも、右手に持つM4カービンをトウミに見せつける。

 

「『魔導銃』が何か知らないが、コイツはさっき撃った奴よりも何倍も強力だぜ! 何なら、コイツも試して見るかい……!?」

 

山内の言った言葉にトウミは激しく動揺する、山内が手にする黒く歪な形をしたソレは、話しに聞いた列強の『魔導銃』とは少し形が異なるが、それでもドワーフの名工を持ってしても同じ物は作れないと思わせる程の緻密かつ精巧な造りの物で有る事は一目見ただけで理解できた……もし、これが言葉通り鉄兜を撃ち抜いた単筒(たんづつ)よりも強力な武器であれば、着ている鎧など身体ごと簡単に撃ち抜かれてしまうだろう……。

トウミはこの武器が自分達に向けられる事を考えると、ただ恐怖するしかなかった……。

 

「止めてくれ……もういい、分かった……。」

 

トウミが弱々しく答えるのを聞いた山内は、左手に持っていた剣をしゃがみ込んだままの彼女に返すとM4カービンを背中に戻し、馬の手綱を手に取りながら彼女に向かい話し掛ける。

 

「外交官たる友好国の武官に剣を向けるのは遺憾だが、此方も大人げ無い対応をしてしまった……まぁ、今回はお互い様と言う事で、無かった事にしてくれ!」

 

山内はそう言うと、田崎と共に馬を連れて歩き始める……途中、巨漢の兵士に掴まれたままのチチ―ナの襟首を掴むと、巨漢の兵士はムッとした表情を変えぬままチチ―ナから手を放し、山内に引き渡した。

 

取り囲んでいた兵士達は恐る恐る道を開け、山内達は何事も無かったかの様に通り過ぎて行く。

ようやく立ち上がる事が出来たトウミは剣を鞘に戻し、足下に転がっている壊れた鉄兜を手に取ると、してやられたと言う屈辱感と、力の差を見せつけられた恐怖で身体を震わせながら、歩き去って行く山内の姿を見つめていた……。

 

 

「にゃ~っ! ヤマウチ、降ろしてにゃ!!」

 

襟首を山内に掴まれ持ち上げられたままのチチーナがじたばたと手足を振り回す!

山内は襟首を掴んだ後ろからでも暴れるたびに大きく揺れる胸を見て「本当デケェなぁ……。」と思いながら、まだ酒が抜けていないチチーナに向かって話しだす。

 

「チチーナ……コッチはお前さんのやらかしで、いい迷惑を被ったんだ! チョイとお詫びが必要じゃ無いのかい!?」

 

山内は強面の表情のままニヤリと笑うと、さっきまで真っ赤だったチチーナの顔が真っ青になる!

 

「にゃーっ! アタシ、薄い枕絵(まくらえ)見たいな事、されちゃうの! されちゃうのっ!?」

 

チチーナの言葉に、こっちの世界でも似た様な言葉が有るのかよ……と思いながらも、山内は言葉を返す。

 

「残念だが後々、問題になりそうな事は御法度(ごはっと)なんでな! 今回は酒場での飲み食いの代金を全部受け持つ事で手打ちにしてやる! 田崎、悪いが俺達は先に行くから、馬達と荷物を頼む……場所は例の酒場だ!!」

 

「『踊る白馬亭』ですね、了解しました! チチーナ! 今日はゴチになりやす!!」

 

田崎はそう言うと2頭の馬達の手綱を引き、足早に宿泊している屋敷へと向かって行った。

 

「そんな〜、タザキ待つにゃ〜!!」

 

爽やかな笑顔を残して去って行く田崎の姿を涙目で見つめるチチーナに追い打ちを掛けるが如く、いつの間にか山内の横に居た野伏のヘラがニンマリとした表情で話し掛ける。

 

「話しは聞かせて(もら)った! 今日はチチーナの(おご)りで酒が美味い!!」

 

「にゃ〜っ! ヘラ姉まで!!!」

 

見た目以上に大酒飲みなヘラが加わった事ですっかり酔いが()めてしまったのか、チチーナは大声を上げて慌てふためく!

 

「よ〜し! 行くぞ者共、いざ『踊る白馬亭』へ! 今日はチチーナの奢りで飲み明かすぞっ!!」

 

「もう、許してにゃ〜っ!!」

 

襟首を掴まれ持ち上げられたチチーナが叫ぶ中、山内とヘラは笑いながら酒場への道を歩いて行く……そして長い夜が過ぎ、閉店を迎えた酒場には満足いくまで飲み食いを行った意気揚々な3人と、支払った飲み代の金額に魂が抜けたかの様に呆然となっているチチ―ナの姿が有った……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 4月26日 正午前 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村 国際協力機構ナエノデンエン事務所

 

ロデニウス大陸北部沖の海域で海上自衛隊とロウリア王国の激戦が繰り広げられる中、戦場から600km以上離れた、ここナエノデンエン村では戦禍とは無縁な日常が続く中、村の南北を横切る川沿いに建てられた『国際協力機構ナエノデンエン事務所』の会議室にて、比留川と牧田らJICAの職員と公都クワ・トイネの日本大使館職員による無線を使った会議が行われていた。

 

「戦争中とはいえ、我々の都合で何度も会議を延期させてしまって申し訳ない……。」

 

会議室に備え付けられたスピーカーから田中大使の声が聞こえて来る、本来なら休館日で有る筈の土曜日まで会議を行う程に多忙な為か、大使の声には少し疲れが出ていた。

 

比留川はそんな大使の為にも今日の会議を早めに終わらせたいのだが、戦争が始まってから以前より依頼していたトラクター輸送用の大型トラックと温室の部材がいつ届くのか分からなくなってしまっている為、この件だけでもしっかり伝えないといけないと思っていたら、スピーカーから何やらゴソゴソ言う音と共に慌ただしい声が聞こえ始め、音が収まると再び田中大使の声が聞こえてきた。

 

「失礼、今届いた速報の内容に驚いてマイクを落としてしまいまして……。」

 

「何かあったのですか?」

 

「はい……先ほど、海上自衛隊が北部海域でロウリア王国の船団と交戦を開始したとの報告が有りました!」

 

田中大使の言葉に会議に参加していたJICA職員達から驚きの声が上がった。

 

「なんと、もう戦闘が始まったのか!」

 

「自衛隊は……自衛隊は勝っているのか!?」

 

JICAの職員達の言葉に田中大使は「続報が入り次第、直ぐにお知らせします。」と伝え、遅れている会議を進行させる。

……その後、会議は予定時間よりも早く終了し、終了後に届いた『自衛隊は翼竜(ワイバーン)の大群を壊滅させ、圧倒的な戦力でロウリア船団を撃退している!』と言う続報に会議室では大きな歓声が上がった……。

 

 

会議が終わり、比留川と牧田は片付けを終えて広くなった会議室でこれからどうするかを話し合っていた……。

 

「比留川! 無事に会議も終わって、自衛隊の活躍も聞けたんだ! 今日の事をジョレーンのお嬢様に報告した方が良いんじゃないか!?」

 

「そうだな牧田……でも、たった8隻の船で4000隻以上の大船団を撃退したなんて言っても、絶対信じて貰えないぞ!」

 

「それは確かに……おっ! ソレならいい考えが有るぜ、コレだよコレ!!」

 

とんでもない戦果を信じてもらう為に、牧田は『我に策有り!』と言わんばかりの表情で、棚の上に置いていた古めかしいデザインの短波ラジオを手に取り比留川に見せた。

 

 

同日 夕刻 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村 村の広場

 

「うむ……コレがお前さん達の『魔信放送受信器』かぃ! エラく小さいクセにデカい音が鳴るのぅ!?」

 

村の広場に設置され、外付けのスピーカーが接続された短波ラジオを見たドワーフのダイスは赤い顎髭を(さす)りながら感心していると、今日の仕事を終えた村人達がこれから放送が始まるとの話を聞いて次々と広場へと集まって来た……そんな村人達の姿を見ながら領主の娘で有るジョレーンは困惑の表情で横に居る比留川に話しかける。

 

「あのぅ……ヒルカワ様が嘘を吐くとは思いませんが、信じられません! 4000隻もの数の敵を相手に勝利するなんて……。」

 

ジョレーンは屋敷を訪ねてきた比留川から、クワ・トイネに侵攻していたロウリア王国の大船団を二ホンの海軍が撃退したとの報告を聞いた時は驚きと喜びでこれを迎えた……しかし、彼の話を聞けば聞くほど、その内容の突拍子の無さに彼女は首を傾げざる得なかった……だが、領主で在る父から聞いた「ニホンは鉄で出来た船を海に浮かべ、ワイバーンよりも巨大な鉄竜を従えている!」と言う言葉を信じるなら、それも有り得るかと思っていると、比留川が彼女にある提案をして来た……。

 

「夕方に我が国で放送が始まります……放送を受信出来る装置が有りますので、村の皆さんと一緒に聴きましょう! そうすればハッキリする筈です……。」

 

比留川の自信有りげな言葉を聞いて、ジョレーンは屋敷の使いの者達に夕方に広場で放送が始まる事を村人達に伝える様に指示を出し、彼女自身もメイドのリドルを連れてラジオが設置された村の広場へとやって来た……。

 

「お嬢様……こんな音楽、初めて聴きます……。」

 

ラジオから流れる音楽を聞いて、リドルは不思議そうにスピーカーを見つめる……。

 

「ジョレーンさん、間もなく放送が始まる時間です!」

 

比留川は左手に付けた腕時計で時間を確認して彼女にそう伝えるとラジオの音楽が途切れ、時報を伝えるアナウンスが流れて来た。

ちなみに日本では転移以降、緊急放送用の短波ラジオ局が臨時開局されており、現在は公共第一ラジオ放送局の放送が24時間放送されている。

 

そして時報の音が鳴り終えると、男性アナウンサーの声にて夕方のニュースが始まる。

 

「午後5時になりました、ニュースをお伝えします……本日正午、日本から南西に3000km沖のロデニウス大陸北部の海域にて海上自衛隊第三護衛群と『ロウリア王国』を自称する武装集団の船団との間で武力衝突が発生し、武装集団側に多数の死傷者が発生した模様です……これより内閣官房長官の記者会見が行なわれる為、首相官邸より中継を行います……。」

 

ニュースの第一報を聞いた村人達はその内容を聞いてざわめき始める……。

 

「ニホンとロウリアが武力衝突! ホントなのか……!?」

 

「……静かにっ! また何か聞こえて来た!」

 

スピーカーからカメラのシャッター音が聴こえ始める……首相官邸の記者会見室では内閣官房長官が檀上に上がり、国旗に対し一礼すると演壇の前に立ち、記者達と向かい合った。

 

「あのぅ……『ないかくかんぼーちょーかん』」って、誰なんです!?」

 

「……日本で3番目ぐらいにエライ人です!」

 

リドルの質問に対し、比留川が大雑把(おおざっぱ)な回答で答えると、スピーカーから内閣官房長官の声が聴こえて来た。

 

「これより本日、正午にロデニウス大陸北部海域にて、海上自衛隊第三護衛群と『ロウリア王国』を自称する武装勢力の船団との間で起きました『武装組織強制排除行動』についての報告を致します……。」

 

村人達はスピーカーの前で固唾を呑みながら聴き続けるが、内閣官房長官が言う『武装組織強制排除行動』と言う聞き慣れない言葉に首を傾げるも、ラジオから語られる報告の内容に驚愕するので有った……。

 

いわく……二ホンの軍艦は目には見えない遥か向こうの船団の姿を捕らえ、鉄竜と鉄の軍艦を向かわせ船団に退却する様に(うなが)すも、これを拒絶され火矢による攻撃を受けた為、警告として1隻の敵船を沈めた……それに対しロウリア軍は250騎ものワイバーンの大群を向かわせ反撃に転じるも、二ホン軍は全てのワイバーンを返り討ちにし、返す刃でロウリア軍の大船団に攻勢を仕掛けたと言う……その数、8隻対4399隻!! しかし二ホン軍はこの絶望的とも言える数の差を物ともせず1400隻もの敵船を沈め、遂にロウリア軍を撤退させるに至らしめた、その後の報告で600名以上のロウリア兵を拘束し、その中にはロウリア軍の司令官も含まれていると言う……しかし何よりも信じられないのは、これだけの激戦を行いながら二ホンの損害は皆無だと言うのだ!

 

(いったい、何をどうすればこんな事が出来るのだ……。)

 

ラジオから流れる、嘘にしても盛り過ぎな発表に村人達は戸惑う……だが、広場に止めて在る巨大な二ホンのトラクターの姿を見ると、この荒唐無稽過(こうとうむけいす)ぎる内容も本当なのではと思えて来た……。

 

(こんな怪物めいたモノを何台もこの村に持ってくるだけで無く、俺達に使い方を教えてくれる人達だ……有り得ないとは言えない。)

 

村人達はそう思いながらも、ラジオから流れる記者会見を聴き続ける……。

 

「……また、武装勢力の船団を撤退させた事で、ロデニウス大陸の北部海域の制海権は現在、海上自衛隊が握っており、この事から武装勢力側は北部からの侵攻を断念せざるを得なくなったと防衛省では見ており……。」

 

「えっ……ヒルカワさん! 侵攻を断念って、ロウリアはもうクワ・トイネには来ないのですね!!」

 

ラジオを聴いていたリドルは比留川の手を強く握りしめながら訊ねる、そんな彼女に対し比留川も「ええ……」と戸惑いながら答えると、リドルは花が咲いたかの様な笑顔を見せ喜び始める。

 

「なら、もう怯えなくても……誰も傷つかなくてもいいんだ! あはっ……!」

 

そう言いながらリドルは喜びの余り、くるくると回りながら踊り始める……そんなリドルを見て戸惑い気味の比留川に対し、ダイスが話しかけて来る。

 

「やれやれ……まだギムは占領されていると言うのに気の早い娘じゃ! じゃがヒルカワ殿、アンタらのおかげでこのクワ・トイネにも希望の光が見えてきた……感謝しとるよ!」

 

ダイスはそう言いながら比留川と共に笑顔で踊るリドルを見つめる……いつしか他の若い娘達も踊りに加わり、手を取り合いながら輪となって踊り続ける……。

 

後の歴史家達により『ロデニウス沖海戦』こそ、日本を第三文明圏の新たな盟主に成る切っ掛けと、滅亡の危機に瀕したクワ・トイネ、クイラ両国に希望を与えた歴史の転換点で有ると歴史書に記載されるので有った……。

 

続く




ようやく、第14話が投稿出来ました。
色々しょうもない理由で筆がどうしても遅くなってしまいますけど、何とか最終回まで話を持って行きたいです!
今回はファンタジーなんだから『くっころ女騎士』を話に入れないと、2点減点の上に12000円の反則金を支払わなきゃいけないので、面倒くさいと言いながらも喜んで書いていました!
(しかし、女騎士らしい話し方をさせると、どうしても難しい言葉が多くなってルビ振らないといけないのでメンドクセェ……。)

次回は、山内と田崎、そしてヘラとチチ―ナの異世界混成パーティがロウリア占領下のギムの街へ潜入を行う話がメインになります。


用語

手力陽流活人拳

情報部別班のエージェントで在る、山内が『中野陸軍学校』の出身で有る彼の祖父「山内 太一郎」から学んだ格闘術。
記録に残る、日本最古の格闘術の一つで有ると言われている。

日本神話の神、手力男命を祀る古代力士の神事の型が起源とされ、歴代の継承者が時代に合わせて様々な徒手格闘術を取り入れた末に現在の形になったと言われ、その武術の特性から戦時中、中野陸軍学校の特別科目に取り入れられたとも伝えられている。
この武術は『武器を持った相手への対処』と『一対集団戦』に特化しており、相手を打ち倒すよりも窮地に立たされた時にどう切り抜けるかを重きを置いている。
この事から究極の活人拳とも呼ばれており、その技には刃物を持った相手の腕を折ってそのまま持っている刃物を相手に突き返す(骨砕返し)や相手の後ろに素早く回り込み凶器や銃撃への肉壁にする(人盾回し)、経絡を突いて相手の指の動きを止めて銃の引き金を引けなくする(握り止め)等が有り、中でも秘奥義の一つ(白刃巻き上げ)は両刃の剣であっても自身が着ている服の袖が相手の剣の刃で切れる事無く剣を奪い取る事が必須となる高難易度の技で有る。

明民書房 「神話から辿る日本の古武術」より抜粋 ―
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