日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く   作:アニキ イン ザ スペース

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第十四話 アメリア姉妹の証言

中央歴1639年(西暦2015年) 4月13日 クワ・トイネ公国 ギムの街から北へ約15km程の『北の森』泉の拠点

 

先導するヘラの案内により山内達はロウリア軍に見つかる事無く『北の森』へとやって来た。

 

細い木々が生えている森の獣道を馬達と共に奥へと進んでいくと、やがて幹が太い巨大な木がそびえ立つ鬱蒼(うっそう)とした場所へと辿り着き、僅かな水が流れる小川の先に澄んだ小さな泉と開けた場所が見えて来た。

 

「ココがその場所だよ、今日はここで休むとしよう……解っていると思うが、泉の水はそのまま飲んでは駄目だから! それとさっきも言ったけど、ここで火は使えないから沸かして飲む事も出来ないからね!」

 

馬から降りたヘラは荷物を降ろしながら皆にそう話す……彼女はこの『北の森』に入る前にも、この森でやってはいけない事を繰り返し山内達に説明していた。

 

それは『火を起こして使う事』『火属性の魔法を使う事』『木を切り倒す事』……これらの行為はレントと呼ばれる森の怪物を強く刺激するとの事らしい。

 

道中、森の中ではリスの様な小動物しか見当たらずその様な怪物の気配は感じなかったが、用心に越した事は無いだろう……そう思っている山内の隣では、田崎が泉の水に試験紙を付けて飲用に適しているか調べていた。

 

「………水は大丈夫みたいですね、泉にも藻や水草が生えていますし、浄水すれば飲む事が出来ます!」

 

「それは重畳(じょうちょう)……俺はキャンプ用具を出しておく、それとお嬢さん達に食いもんを出してやれ、どうやら昨日から何も食べていないらしい。」

 

山内はそう言うと馬に載せていた荷物を取り出し始める……田崎はバックパックの袋を開き、浄水器を取り出すとチチ―ナが興味深そうな表情をして覗き込んできた。

 

「にゃ……? タザキ、それ何!?」

 

「これは浄水器、この管に泉の水を通すと飲める水になるんです!」

 

「にゃ~っ! 魔法を使わずにホントに飲めるようになるの!? スゴイにゃ!!」

 

驚いているチチ―ナを横目に田崎は浄水した水をアルミの容器に入れ、レトルト食品と一緒に発熱剤が入ったヒートパックの中に詰めて封をする。

 

「今度は何かにゃ? なんだかツルツルした袋だにゃ~!?」

 

「チチ―ナさん! それ熱くなりますから触らないで下さ……。」

 

―――プシューッ!!

 

「にゃーっ!!!!」

 

ヒートパックから勢い良く蒸気が噴き出した事に、顔を近づけていたチチ―ナは驚きの余り隣にいた田崎に抱きつき倒れ込んでしまう。

 

チチ―ナに飛び掛かられ、尻餅をついて倒れた田崎が柔らかい感触を感じて目を開けると、チチ―ナの胸の谷間が目の前に有り、自分の顔がその大きな胸に埋もれている事に気が付く。

 

「にゃ? にゃーっ!! タザキ、早く離れるにゃーっ!!!」

 

そう言いながらも驚きの余り腰が抜けたのか、田崎の上に乗っかったまま動かないチチ―ナを見ながら、山内は素早くスマートフォンを取り出しその光景を撮影する。

 

(……田崎三曹、実にいいショットが撮れたよ!)

 

顔を真っ赤にしながら田崎をポコポコと叩くチチ―ナを見ながら、山内はスマートフォンをポケットにしまい込み、笑いつつもそう呟いた。

 

 

トラブル(?)に見舞われながらも、田崎はヒートパックで温めていた戦闘糧食Ⅱ型の五目御飯とポテトサラダを紙皿に盛りつけ、プラスチックの匙と共に少女達に渡した。

 

「お姉ちゃんこれおいしい!」

 

最初は火を使わずに温かい食事が出て来た事に2人は驚いていたが、昨日から何も食べていない事も有ってか五目御飯を口にするや、彼女達は次々と口に入れ始める。

 

「これもどうぞ、まだ熱いから気を付けて。」

 

田崎はそう言うとポタージュスープが入ったカップを彼女達に手渡す、2人がカップに口を付けるとその美味しさに笑顔を浮かべる……。

 

「チチ―ナさんもどうですか?」

 

少女達が顔を(ほころ)ばせながらスープを飲む姿を見て、物欲しそうな表情をしていたチチ―ナに田崎が聞いて見るとチチ―ナは頬を赤くしながら横を向いて答える。

 

「タ・タザキがそう言うなら……別に飲んでみてもいいにゃ……! にゃ!? ヘラ姉、何見て笑っているにゃー!!!」

 

(うん……これは見事な迄のツンデレだ!)

 

山内とヘラは2人のやり取りをニヤニヤしながら眺めていると、気が付いたチチ―ナがヘラに食って掛かる……そうしている間に日が傾き『北の森』にも夜が訪れようとしていた。

 

 

少女達が食事を食べ終える頃には日が落ちて辺りは暗くなり始める……。

 

山内と田崎は三脚にスマートフォンを取り付け、その横に明るさを調整できるLEDライトを設置すると、少女達はLEDライトの明るさに「光の妖精がいるみたい!」と言って驚いていた。

 

山内は少女達をスマートフォンの画面内に収めると「録画」のボタンを押し、彼女達に話しかける。

 

「さて……話せる範囲で良いから聞かせてくれないかな? 昨日、ギムの街で何が起こったかを……。」

 

山内がそう言うと2人は顔を強張らせながらも、背の高い少女の方が話を始めた……。

 

2人は人間族の姉妹で、姉の方はアメリア、妹の方はカエラと名乗り、両人共に亜麻色の髪をした愛らしい少女で有った。

 

彼女達の両親はギムの街の西の区画で商人を営んでおり、ロウリア軍が攻めて来る以前から家族でエジェイの街に避難しようとしていたが、先に避難をしようとした人々がロウリアから越境して来た盗賊達に襲われる被害が多発した為、彼女を含め多くの人達がギムの街から脱出する事が出来なかったらしい。

 

街の顔役だった彼女達の父親が守備隊のモイジ将軍に直談判(じかだんぱん)をして今度、増援に来る騎士団から避難民を護衛する部隊を割り当てるとの約束を取り付けたが、増援の騎士団が到着する前にロウリア軍の侵攻が始まってしまった。

 

侵攻を知らせる鐘の音が鳴り、すぐさま逃げる様に伝えて来た軍の伝令がアメリア達の家族の元に来た時には、ロウリア軍のワイバーンが街の上空を我が物顔で飛び回っており、足の不自由な祖母を父親が背負いアメリア達も着の身着のままで逃げていく中、ワイバーンの火炎弾が街に降り注ぎ、舞い上がる火の粉と熱波に追い立てられながらも、彼女は妹の手を放さずに必死になって燃え盛る街を走って行く……ようやく街の東門を出た時に、彼女達は両親達とはぐれてしまった事に気が付くが、街を焦がす炎が後ろに迫り、引き返す事が出来なくなった。

 

両親の事を心配するも街を出ざる得なくなった2人は、一緒に逃げて来た人々と近くの森へとやって来たのだが、ロウリア軍の追手が森にまで迫ってきた為、人々が様々な場所に隠れる中、木登りが得意だった彼女は妹と一緒に目の前に有った大きな木に登って隠れる事にした。

 

やがて魔術師を引き連れたロウリア軍の一軍が現れ、魔術師が何やら呪文を唱えると隠れている人達がいる方向を指差し、ロウリア兵が次々に人達を見つけ出し連れ去っていった……しかし一番近くで隠れている筈の自分達は見つからずに済んだと言う……。

 

「ちょっと待ってくれ……何だ、その人を見つける魔法みたいなモノは!?」

 

山内は彼女の発言を止めて隠れている人を見つける魔法が有る事に驚くと、両手を組みながら話を聞いていたヘラがその事について答える。

 

「魔術師には、人の中にある『魔素』を探知して隠れていても見つけ出す魔法が有るんだ! 安心しな……多分、アンタらはこの魔法には引っ掛からないよ!」

 

「えっ……!?」

 

「ヤマウチとタザキから、何の魔力も感じないからにゃ~! 魔法で見つけるのは無理だにゃん!」

 

「だったら何故、彼女達は見つからなかったんだ!? 俺達みたいに……魔力が無い訳じゃ無いよな。」

 

山内が不安げな表情のアメリア達を見つめると、再びヘラが答えだす。

 

「彼女達が見つからなかったのは、恐らく登って隠れていた木がレントの若木だったからだよ!」

 

ヘラが言うにはレントの木は自身に多くの魔素を蓄えており、魔素を餌とする魔獣から(かじ)られない様にする為に、自らの魔素を探知されない魔法を自身に掛けているらしい……アメリア達は木に登って隠れる事でレントの魔法の範囲に入っていたから魔術師の探知から逃れる事が出来たのだろうと言った。

 

「なるほど……しかし、レントって木人とか言うこの森に住んでいる怪物の事だったよな?」

 

「あぁ、そいつならそこにいるよ!」

 

そう言いながら、ヘラは近くに生えている一本の大木を指差す……山内はヘラが指差した木に何か違和感を感じ、ポケットからマグライトを取り出して木を照らし出すと、顔の様に見えた木の幹がマグライトの眩しさに「ウグッ……。」っと呻き声を上げて顔を動かした……。

 

「おい……田崎、今の見たか!?」

 

「えぇ……木の幹が動きました、これがレント?」

 

山内と田崎は目の前に怪物がいた事に驚き、それに全く気付けなかった事に恐怖した……何しろ自分達が持っている武器で倒せるとは思えない程の大きさの相手なのだ、しかしヘラが言っていた事を守っていれば、何もしてこない大人しい生き物で有る事に山内達は安堵する。

 

その後、アメリア達の証言に話を戻した所、彼女達はロウリア兵が去った後はその日を木の上で過ごし、翌日になって木から降り、森を出るとまだ煙が立ち上っているギムの街を見てからもう街へは戻れない事を理解すると、エジェイの街へ向かう事を決意して街道を歩き始めたが、ロウリアの騎兵に見つかるまでは誰とも出会わなかったとの事だ……。

 

「……ここまで話してくれて有り難う、テントを用意しているから今日はゆっくり休んでくれ。」

 

山内はアメリア達にそう言うと、スマートフォンの録画ボタンをオフにして片付け始める……彼女達の話だけで、ギムの街は驚くべき速さで制空権を奪われ、兵士達が侵攻して来た事が窺える……そして敵の指揮官は人々を逃がすつもりなぞ全く無かったのか、執拗に追い回している事を考えると、大使館から聞いた情報通り、冷酷かつ残虐な行動を平然と行う危険な人物で有る事は間違い無いだろう。

 

そう思いながら山内は既にテントの中で眠っているアメリア達を見届けると、自分達も寝る事をヘラに告げ、着ていたマントを布団替わりにして地面の上で眠り始める……そして一日の疲れからか、今日の出来事を思い返す間も無く山内は深い眠りへと就いた……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 4月14日 クワ・トイネ公国 ギムの街から北へ約15km程の『北の森』泉の拠点

 

深淵の眠りの中からパッっと目を見開き、山内は目を覚ます……時計を見ると午前5時30分を過ぎており、時差の関係からして今は4時30分頃だろうと考えながら起き始める……。

 

(いかんなぁ、疲れちまったから少し寝過ぎた様だ……。)

 

山内が起きるのと同時に田崎も起き始め、2人は顔を合わせた後、何も言わずに荷物から装備を取り出し準備を始める……。

 

「ヤマウチ、まだ日が昇っていないのに起きるのが早いな……。」

 

山内達が装備を取り出しているのを見ていたヘラが声を掛けて来た。

 

「アンタも寝ずの見張り番だった様だが、大丈夫なのか?」

 

「アタシは野伏だからね、一週間ぐらい寝なくても平気だよ!」

 

ヘラの言葉を聞いた山内は辺りを見渡す、静寂過ぎる森と見張り役のヘラの他に座ったまま休んでいる4頭の馬と毛布に包まって寝ているチチ―ナ、そしてテントの中で眠っているアメリア姉妹……空を見上げると晴れている夜空が少しだけ白みがかっており、後2時間もすれば朝日が昇り始めるだろう……。

 

「ギムの街を一望できる丘ってのは、ここから南に約8kmの場所……で、いいんだな!?」

 

「そうだが……アンタ達、本当にアタシの案内無しで行くのかい!」

 

「あぁ……早朝までギムの街に着きたいからな! 昼までには戻って来るから、ここで待っていてくれ。」

 

装備を整えた山内と田崎の姿を見て、夜目が効くヘラは暗闇の中でもその異様な出で立ちに目を見張る……草木に似た衣装を見に纏い、頭には見た事の無い魔装具を付けている……そしてロウリア騎兵を皆殺しにした強力な魔導銃を持つその姿を見たヘラは、彼らが強力な戦士で有るのと同時に優秀な野伏でも有る事を理解する。

 

山内とヘラが話していると、毛布に(くる)まったチチ―ナが寝返りを打って寝言を呟く……寝言で自分の名前を呟いた事に田崎は一瞬、ドキッとする!

 

「もし夕方までに俺達が戻ってこなかったら、荷物を(まと)めてあの子達と一緒にエジェイに戻ってくれ! 俺達の荷物は日本大使館に渡せば報奨金が貰える。」

 

「…………分かった、ここで待っているよ、アンタ達に緑の神の加護が有らん事を……。」

 

ヘラが緑の神の言葉を口にすると、山内達は南に向かい森の中へと入って行く……暗闇の中でも見えるかの様に木々を避けながら歩いて行く山内達を目で追うも、やがて着用しているギリースーツが森の景色に溶け込み、その姿が見えなくなった。

 

続く




アメリア姉妹によりギムの街の惨状が明らかになる中、山内と田崎は真相を確かめるべく行動を開始します。
次回はギリースーツに身を包んだ山内達が森を抜け、ギムの街へと向かいます、そこで彼らが見たものとは……。


用語

北の森

ギムの街の北側に在り、西の国境の川沿いに沿って北に約160km程の範囲に群生する森林地帯、後述するレントの生息地でも有る為、地元の人間はこの森に入ろうとはしない。

北の森は神話の時代、ロデニウス大陸の北部に存在する小さな森だったが、魔王軍の残党で有るゴブリンの一団が南の荒野に居を構え、森の木々を切り倒した事でレント達の怒りを買い、ゴブリンとレント達との戦争へと発展した。
大地の魔素を養分として次々と繁殖するゴブリンに対抗する為、レント達は荒野の地に自らの若木を植え付け大地から魔素を根こそぎ吸い取ると言う方法で、大地の魔素を枯渇させた事でゴブリン達を全滅に追い込むが、数千年に渡る永き戦いは北部のみだった北の森がギムの街の近くまで広がり、更にはクワ・トイネ公国から多くの魔素を奪い取ってしまった。
(クワ・トイネ公国が他の国に比べて魔素の含有量が少ないのは、この戦争が原因で有る。)

レント(木人)

外伝でもその存在が示唆されている、長きに亘り樹齢を重ねた木々が木の神の祝福により魂が宿り動き出した森の番人と呼ばれている異世界の生物。
独自の言語を持ち、彼らと会話できるのはリーン・ノウの森に住まうハイエルフだけだと言われている。
普段は大地に根を張って周りの木々と同じく何事も無く過ごして居るが、森に危害を加える者が現れると動き出し、苛烈な報復(1体だけでも森の中では名うての冒険者パーティどころか軍隊でも敵わない程、強い)を行う事で、人々から恐れられている。
木の神の眷属の為、人類側に近い存在なのだが、言葉が通じない事も有り、近年では森に住まう手に負えない怪物として異世界の人々から認知されている。
(ちなみにロウリア軍は過去に何度か北の森にクワ・トイネ侵攻の為の拠点を作ろうとしたが、森の木々を切り倒した事でレントの怒りを買い、例外無く全滅している。)
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