日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編   作:アニキ イン ザ スペース

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最初にそれを発見したのは「くにさき」から発艦したヘリコプターの搭乗員達で有った。

「くにさき」から飛び立ち、飛行中で有ったCH-101輸送ヘリコプターはマイハークの海岸に『くの字』状に海に向かって伸びている長さ1km、幅10m程の奇妙な浅瀬が在る事を発見し、報告を受けたJICAの職員と我々、陸上自衛隊施設科は翌日よりこの浅瀬の調査を開始した。

調査は数日に渡り行われたが、偶然ダイバー達が見つけた「奇妙な岩」の一部を海から引き揚げ調べたところ、驚くべき事が分かった。

それは自然石では無く人工的に作られた物で、消石灰に土と砂利を混ぜて作られコンクリートの代用品として使われていた「三和土(たたき)」に非常に似ている物で有る事が分かり、浅瀬自体も人工的に作られた構造物が崩壊した後に砂で覆われた物で有る事が判明した。

この構造物は崩壊と風化が酷すぎて、現時点では何時頃に何の目的で造られたのかも判明せず、現地のクワ・トイネの人々も何も知らないと言っていた……。

ただ、この浅瀬からそう離れていない高台にリング状の構造物の遺跡が有る事から何らかの関連が有るのかも知れない……。

そして、JICAの団長で有る比留川氏が現地住民から聞いた「この異世界の神話の時代に自分達の様に違う世界からやって来た人々の話が伝承として残っている!」と言う話も有る事から、これらも何らかの関係が有るのだろうか……。


―― 陸上自衛隊第4施設群隊長 諸星 淳一 一佐 会誌「RIKUYOU」施設隊奮闘記より抜粋 ――



第十五話 潜入、ギムの街

中央歴1639年(西暦2015年) 4月28日  クワ・トイネ公国 マイハーク湾の海岸

 

ロデニウス沖大海戦後、クワ・トイネ、クイラ両国を支援する日本の活動は本格化し、ここマイハークの海岸でも昨日到着したばかりの巨大重機が臨時埠頭を完成させるべく、ディーゼルの咆哮を響かせながら作業を行っていた。

 

日本の参戦以来、クワ・トイネ評議会よりマイハークにて日本との交渉を担当する様、任命されたクワ・トイネ評議会員で在り、ナエノデンエン領主ことレイキ・ゾラ・ノーグは、マイハークへ帰還した観戦武官のブルーアイから驚くべき報告を受けた後、視察の為に訪れたマイハーク海岸の様子を見て感嘆(かんたん)の言葉を(もら)した。

 

「これは……何と言えば良いのか、凄いとしか言いようが無いな……!」

 

ノーグは目の前で稼働する無数の巨大な重機の姿に思わず息を呑む。

 

海に浮かんだ鉄の起重機が、『消波(しょうは)ブロック』と呼ばれている奇妙な形の石を吊り上げ次々と海へと沈めた後に、海岸から大量の石を載せた『ダンプカー』なる巨大な荷車がその上に次々と石を落として行く光景は、正に『巨人が海に道を造っている』かの様に思えた。

 

ニホン軍とロウリア軍の海戦を観戦したブルーアイは「余りに現実離れした戦果をどう報告書に纏めて提出すれば良いのか解らない……。」と悩んでいたが、今の私も「魔法を使わずに巨大な石を持ち上げ、たった一夜で海に道を造り出す。」この光景をどう評議会で報告すれば良いのか考えると、彼の悩みを笑う事が出来なくなっていた……。

 

「ノーグ卿、このまま何も無ければ明後日までに予定した浅瀬の埋設工事(まいせつこうじ)が完了する予定です、それに併せて埠頭の設置工事も行いますので、概ね5日後には埠頭の工事は完了し部隊の陸揚げが可能となります!」

 

ノーグの案内役を務めている第4施設団の隊長で有る諸星 淳一 一佐が海岸の工事現場を指差しながら説明を行う。

 

「モロボシ一佐、観戦武官からニホンの水軍によってロウリア船団が撃退されたとの報告を受けております……クワ・トイネ評議会を代表してニホン国に感謝の意を申し上げます! しかし、海に道を造るとは……本当に凄い!!」

 

ノーグは諸星に対し(うやうや)しく頭を下げ感謝の意を表しながら、目の前で行われている工事の感想を述べる。

 

モロボシ一佐の話では埠頭が完成次第、ニホンの重装備の部隊が派遣されるとの話らしい……恐らくはハンキ将軍が話していた『戦車』と呼ばれている鉄の魔獣がこの地へとやって来るので有ろうか……ロウリアの船団を撃退した事も踏まえ、ニホンが本気でクワ・トイネを救おうとしている事をノーグは工事の進捗を見守りながら実感するので有った……。

 

「しかし、ノーグ卿……我々の調査では、あの浅瀬は酷く風化しているとは言え人工的に造られたモノらしく、高台に有る遺跡と何らかの関連が有るかもしれないとの話が有ります……それを埋めてしまうのは、本当に良かったのでしょうか……!?」

 

埋め立てが進む海岸の浅瀬は、調査によりかなり昔に造られた古代の遺跡では無いかとの話が上がったが、それを埋め立てて良いとの許可をクワ・トイネ政府が出した事に、諸星は「彼等の過去に繋がるかもしれない貴重な遺跡をこのまま埋めてしまって良かったのか?」と言う個人的な意見に対し、ノーグはその問いに答える。

 

「その件に付きましては評議会でも議題となりましたが、今は一人でも多くの臣民を救うのが先決で、一刻も早い二ホンの増援が必要で有る以上、止む得ないとの判断が出ました……それと環状の遺跡についてですが、四半世紀以上前に『中央世界』と呼ばれている国から来た古代遺跡の調査を行っている学者達が、あの遺跡の調査に訪れた事が有りましたが、彼らでもアレが何なのか分からなかったとの話です……。」

 

「そうですか……。」

 

ノーグの言葉に諸星は工事が続く海岸を見つめながら言葉少なげに呟くので有った。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 4月30日 正午前 クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ 銀山羊騎士団司令部

 

国境の街、ギムがロウリア王国軍に占領されてから2週間が過ぎ、戦争の最前線となった城塞都市エジェイでは、街の広場にて人々の営みと共に各地から召集された兵士達の訓練が行われている光景が日常となる中、戦禍から逃れようと街を後にする人々の姿が見られるも、古くから住まう住民の殆どは強固に築かれた城壁を信じ、この街に留まっていた。

 

そんな広場を見下ろす一角に建てられ、現在は銀山羊騎士団の拠点と成っている屋敷の一室では、騎士団長で在るカラクワ・デ・オコシが古参の騎士達と共に、日本の防衛駐在官の身分でエジェイの街に駐在する山内 哲也 三佐と対談を行っていた。

 

「ギムの街からロウリアのワイバーンの部隊が後退したとは……それは本当ですか!?」

 

山内の一報にオコシ団長と同席の騎士達が驚きの声を上げる中、山内は封書の中から数枚の紙を取り出し机に並べる……プリントアウトされた紙にはギムの街の上空で編隊を組ながら国境の川方面へと向かって飛んで行く無数のワイバーンの姿が写されていた。

 

此方(こちら)はギム周辺で偵察活動を行っている我々の部隊が昨日、撮影したモノです! 報告によれば目視だけで、50騎程のワイバーンを確認したとの事です……。」

 

昨日、『北の森』を拠点として偵察活動を行っている特戦群の部隊から無線で一報を聞いた山内は魔獣使いのチチーナに頼み、ルリイロオオタカのタンケスを遣ってその日の内に撮影データを入手すると、持ち込んだ小型プリンターを使いオコシ団長に提示すべく写真の出力を行っていた。

並べられた紙に写された写真の鮮やかさにクワ・トイネ騎士達から溜息が漏れる。

 

(ニホンは色付きの魔写を薄い紙に写す事が出来ると調査団から聞いていたが、魔法に頼らずともこんなに鮮明に写せるのか……!)

 

机の上に置かれた写真を眺めながら、オコシ団長の隣に座っている副団長のフミスキが呟く……この異世界では魔写を撮影する際には魔素を多く含んだ木材や銀版、水晶等が『魔写材』として使われるが、魔素が全く無いペラぺラの紙きれに鮮明な色を写し出せる事に彼は驚きを隠せなかった。

 

「どれ……見せて貰おうか。」

 

オコシ団長は椅子から身を乗り出し机に並べた写真の1枚を手にすると、口髭を擦りながら興味深く見つめる……。

 

「ふむ……普通ならば、優位で有る筈のロウリア軍がワイバーンを本国へ引き返す理由など有りません、どうやらロデニウス沖の海戦でニホンがロウリアを撃退し勝利したと言う話は本当の事の様ですな。」

 

「なんと……!? その様な話、始めて聞きますぞっ!!」

 

オコシ団長の言葉に、周りの騎士達からどよめきが起きる中、彼は落ち着きを払いながら話を続ける。

 

「公都からの速報だが、信じ難い内容が報告されている故、まだ公表はされておらぬ! しかし、最前線からワイバーンの一群を後退せざるを得ない事態となっているのであれば、海戦の結果にも信憑性(しんぴょうせい)が有ると言うモノだ……ヤマウチ殿、実際の所はどうなのかな……?」

 

オコシ団長は向かいの席に座っている山内に発言を振ると、彼は飲み掛けていた紅茶のカップを机に置いて話し始める。

 

「わが国の政府が公表している件については間違い無く事実です、そもそも嘘を付いた所で戦況が好転する訳では有りませんので……。」

 

「なるほど……そこまで言われるのなら、あの尋常じゃない戦果は本当なのでしょう……しかし戦力だけでは無く、ギムの情報までも二ホン国に頼る事になろうとは……。」

 

目を伏せながらやや力なさげに話すオコシ団長の姿を見て「これは何か遭ったのか!?」と思った山内は、その理由を聞くべくオコシ団長に問い返す。

 

「待って下さい! 確かギムの街にはロウリア軍から逃れ、地下に潜伏してる人々から情報を得ていると以前に話されていましたが、何か遭ったのですか……!?」

 

「ギムの街で以前から建設されていた『魔力監視哨(まりょくかんししょう)』が完成した為、魔信でのやり取りが出来なくなったのです!」

 

オコシ団長の代わりに対談に同席していた顧問の魔術師がその様に話すのを聞いた山内は、再び封書を開き写真を取り出し始める。

 

「『魔力監視哨』……なるほど、それはこの写真に写る奇妙な建物の事ですか!? 我々が偵察を始める以前から建てられていた様なのですが、何の目的で建てられていたのか分からなかったのです!」

 

山内は封書の中から別の写真を取り出しオコシ団長達に差し出す……写真には半壊した塔の上にラッパに似たホーンアンテナの様な物とそれらを繋ぐ導波管(どうはかん)の様な管が無数に張り巡らされた奇妙な櫓が建てられている光景が写っていた。

 

「おおっ、これです! これは魔法を使用する際に発生する『魔力波』を測定して魔法が使用された方位と距離、そして使用された魔法の規模と種類を瞬時に知る事が出来る施設なんです……コイツに探知されるのを恐れてギムの生存者は魔信を発信出来なくなったのです!!」

 

写真を見た魔術師はやや興奮した様子で『魔力監視哨』の説明をすると、それを聞いた山内はおもむろに腕を組みながら考え始める……。

 

(もしギムの街の生存者と接触が出来れば……それは可能か!? いや……これはひょっとして……。)

 

山内は考えを(まと)め、先ほど考えた事を提案して発言すると、その内容に対談に参加している全員が腰を抜かさんばかりに驚くので有った……。

 

 

山内とオコシ団長との対談は昼食を挿み午後になっても続けられ、クワ・トイネ側の出席者はオコシ団長とフミスキ副団長、そして顧問の魔術師の3名のみとなったが、日本側は山内一佐を始め、同行員の田崎三曹と雇われ冒険者で在る野伏のヘラと魔獣使いのチチ―ナが対談の席に座る事になり、山内が提案した「ギムの街に潜入し、生存者達と接触する」為の話し合いが行われる事になった……。

 

「にゃ~っ! お貴族様の屋敷の中って初めて入るけど凄くキレイだにゃ~! この白い器に入ったお茶もいい匂いがするにゃん!!」

 

「こらっ、チチ―ナ! あんまり行儀が悪いと屋敷から摘まみ出されるよ!!」

 

屋敷に入ってからキョロキョロと落ち着きが無く、机に置かれたカップに注がれたお茶の匂いを身を乗り出して嗅いでいたチチ―ナを隣に座っていたヘラが叱る姿を見て、向かいの席の副団長と魔術師は怪訝な表情をするも、オコシ団長は笑いながら出席者全員に話しかける。

 

「まぁまぁ……ヤマウチ殿はギムの街に潜入するには冒険者で在る其方(そなた)達の力が必要だと言っておる! 我々の事は気にせずにギムの街に入る方法について忌憚無(きたんな)く話して頂けたい……。」

 

オコシ団長がそう話すと、向かいの席に座っていた野伏のヘラが小さく手を上げ、話し始める……。

 

「じゃぁ……もう一度、確認したいんだけど、生存者が潜伏しているのはギムの街の西区に在る、使われなくなった地下水路で間違い無いのかい!?」

 

何時も通りのぶっきら棒な話し方をするヘラの質問にフミスキ副団長が少し渋い顔付きをしながらも答える。

 

「えぇ……これまで我々が連絡を取り合っていた生存者は西区の使われなくなった地下水路跡地を拠点にしてロウリア軍の目から逃れていると言っていた……しかし、どの場所に居るか具体的には聞いてはいないのだ……。」

 

フミスキ副団長の言葉にヘラは「なるほど……」と呟いた後、腕を組みながら参加者全員に話し掛ける。

 

「なら場所に付いては問題無いよ……その地下水路、少し昔だけど依頼を受けて仲間達と一緒に入った事が有るから案内が出来るかも知れない!」

 

「なんとっ、それは本当か!?」

 

山内を始め、参加者全員がヘラの言葉に驚きの声を上げる! 彼女の話だと今から30年程前に、とある商人から使われ無くなった旧地下水路の調査を依頼されて当時の仲間達と一緒に探索した事が有ると話してくれた。

 

「ヘラ、案内が出来ると言ったが当てが在るのか!?」

 

エルフで在るヘラが『30年前を少し昔……』と言う事に、山内は人間との年の感覚の違いに少し戸惑うも彼女に潜入の可能性を問うと、ヘラはかなり詳細に地下水路の事を話してくれた。

 

「街の外の北側に水路の排出口が有るんだ、恐らく今でも其処(そこ)から地下水路に入れるよ……水路の中は広くてほぼ一本道なんだが、アタシが調べた時には南西側の取水口は塞がれて水は流れて無かった……それと依頼者の商人から聞いた話だと、古い地下水路の図面は半世紀前の大火事で焼失して残っていないって言っていたから、今までロウリアの奴等にも知られずに隠れる事が出来たのだろうね!」

 

そんなヘラの言葉に山内は笑みを浮かべながら、オコシ団長に対し話を切り出す。

 

「オコシ団長……ならば我々でギムの街への潜入を試みます! 生存者と接触したら、ロウリアに探知されない通信手段を確保させる様にします。」

 

「なんとっ!? ヤマウチ殿、本当に行かれるのか……しかし同胞でも無い其方らが、ここまで危険を冒すとは余は信じられぬぞ!!」

 

オコシ団長は驚愕しながらこの様に答えると、フミスキ副団長と魔術師も唖然とした表情で互いの顔を見合わせる……山内は彼らに対しこう答える。

 

「現在、我々の部隊は外部からギムの街を監視していますが、街の内情を少しでも知る事が出来れば、一日も早いギムの街の解放に繫がると自分は考えています……それに私個人、生き残った人々を見捨てる様な事はしたくないのです!」

 

その発言を聞いたオコシ団長は静かに頷きながら立ち上がり、右手を胸に当て山内に語り掛ける。

 

「ヤマウチ殿……其方は勇敢な上に優しさも持つ真の武人で在り、我等の味方で有る事をとても心強く思っている! ここ迄、ニホンの武人達に頼る事は心苦しいが、其方なら残されしギムの民を救ってくれると信じている……願わくば緑の神の加護が有らん事を!」

 

彼らの武運を願うオコシ団長の言葉に山内と田崎は立ち上がり、挙手の敬礼にてこれに答えるので有った……。

 

 

銀山羊騎士団との対談を終え、大部屋を出た4人は部屋へと戻るべく廊下を歩いていた。

 

「すまないな……ヘラ、こっちの思い付きに付き合わせてしまって。」

 

「気にする事は無いね……どうせ遅かれ早かれギムの街に行くつもりだったんだろ、だったら案内してやるよ!」

 

山内の言葉にヘラはあっけらかんとした表情で答えると、隣にいたチチ―ナが少し卑屈な様子でヘラに話しかけて来る……。

 

「あの……ヘラ姉、今回はヘラ姉が案内するんだから、アタシはお留守番でいいよね~!?」

 

「何言ってんだい! 水路や狭い所の探索は魔獣使いの十八番(おはこ)だろ……だからチチ―ナも一緒に来るんだ!!」

 

その言葉にチチ―ナの顔は真っ青になり、一緒にいた田崎の腕に抱きつき胸を押し付けながら叫んだ!

 

「にゃ~っ! もしギムの街でロウリア軍に捕まったりしたら、あんなことやこんなことされた後に魔獣のエサにされちゃうにゃ~!! ねぇ、タザキ! 何とか言ってよ!!!」

 

「うんっ、今はギムの街に潜入と聞いて『オラ、ワクワクしてきたぞっ!』って気分でね! この気持ちをチチ―ナと一緒に共有できたらいいかな~! って、思っているんだ!!」

 

彼女の予想に反し、爽やかな笑顔でその様に答えた田崎を見てチチ―ナは掴んでいた腕を放して立ちすくんでしまう……。

 

(にゃ……思い付きで喜んで危険に飛び込む変態はヤマウチとヘラ姉だけかと思っていたのに、タザキまで……。)

 

こうして、それぞれの部屋に戻った4人は準備を行った後、翌朝早くに特戦群の偵察隊が常駐する『泉の拠点』へと向かうべくエジェイの街を出て、朝靄に包まれた街道を駆け抜けていった……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 5月1日 正午過ぎ クワ・トイネ公国 北の森 泉の拠点

 

ギムの街へと続く街道を抜け『北の森』へとたどり着いた4人は馬から降り、ひんやりとした空気が立ち込める鬱蒼(うっそう)とした森の中を馬の手綱を引きながら『泉の拠点』へと向かって行く……その様な中、山内はギムの街に潜入する前に以前から気になっていた事を聞くべく、隣を歩くヘラに話し掛けた。

 

「ヘラ、ギムの街に行く前に気になっていた事が有るんだが……。」

 

「何だいヤマウチ? アタシの知っている事ならいいんだけど!?」

 

「あぁ……俺はギムの街をこの目で見てきたが、敵対的な相手と接する国境の街なのに、後方のエジェイよりも防御がお粗末過ぎるのが気になってな……。」

 

ヘラは馬の手綱を引きつつ、その質問に答える。

 

「そうだね、アタシも詳しい訳じゃ無いけど、こんな話を聞いた事が有るよ……。」

 

ヘラの話ではギムの街は城塞都市エジェイに居住していた商人達が抜け出して造った街らしい……エジェイの街はその昔、公王より西方の守護を任された当時の領主が、周辺の諸国が徒党を組んで侵攻した際の対策としてチョークポイントとなる場所に建設した城塞が起源で、街が造られた当時は西方諸国との交易拠点にもなっていたそうだ。

 

しかし、城壁に囲われた街は手狭(てぜま)な上に改築の度に税金を徴収(ちょうしゅう)される事に一部の商人達が反発し、遂には街を抜け出して国境の川沿いにキャンプを設営し独自に交易を始めたのがギムの街の始まりらしい……その後、規模を拡大したギムは交易の街として栄える事になるのだが、商人達の意見が街の治世に強く影響した為に西方諸国が初代ロウリア王に統一され、クワ・トイネに対して敵対的な態度を取る様になっても「今は敵対的でも、何れ態度を軟化(なんか)させる」と楽天的な推測を行い、侵攻が明らかになるまで、都市の防備を厳かにしていたとの事だ。

 

「……そう言う話を地下水路の探索を依頼していた商人が話していてね、その商人は敵対的なロウリア王が即位した事を警戒して街に城壁を建てる事を提案したけど相手にされなくて、そこで使われ無くなった地下水路を避難所として使える様にしたいと言っていたけど、まさか本当に使う羽目になるとはね……。」

 

「成る程、そう言う事か……。」

 

山内はそう呟くと「何処かの国でもあり得た話だ……。」と思いながら森の中を歩み続けた。

 

やがて森を抜けると周囲が開け、日の光を浴びて輝く泉が彼等の前に現れる……絶え間なく湧き水が溢れる清浄な泉と森の番人たる巨大なレントが大地に根を降ろす『泉の拠点』へと山内達は無事到着した。

 

 

「山内三佐、お疲れ様です……予定より早い到着ですね!」

 

偵察隊の隊長で在る、一ノ瀬 一尉が敬礼を行いながら山内達を出迎える……一ノ瀬は話に聞いた冒険者達が来たと言う事で彼女達に挨拶を行うが、何か様子がおかしい事に気が付く。

 

「貴方が『赤毛のヘラ』さんですね、お噂はかねがねお聞きしておりま……? あの……どうかしましたか!?」

 

ヘラは一ノ瀬の挨拶も耳に入らず、さっきから一点を見ながら動揺している……。

 

「ま・待ってくれ……いったいどうなっているんだ、どうしてこんな事が出来るんだ!!」

 

ヘラが見つめる先には森の番人たるレントの目の前に伐採された無数の材木が置かれており、その横で自衛隊員の一人がノコギリで木を切断している作業を行っている姿を見て、彼女は「こんな事、在り得ない……。」と震えながら呟いていた……。

 

「あ~! この材木なら『泉の見張り役』……レントに頼まれて伐採した倒木をここに置いているんです! 若木の成長を妨げている倒木を何とかして欲しいと言われまして……何でも彼らはこういう事では動けないらしいんですよ! で、切った倒木は好きに使って良いって言われましたので、シェルターを造る為にここに集めているんですよ!」

 

「えっ……レントに頼まれた!?」

 

一ノ瀬の言葉にヘラは素っ頓狂な声を出して驚く……この『北の森』で木を切り倒そうものなら、たちまちレントに捕まり殺されてしまう! しかし、この二ホンの兵士達に対しレントは動じないばかりか、彼らは『レントに頼まれて』木を伐採したと言っている……。

もしかしたらニホン人はハイエルフの様にレント達と言葉を交わせるのか……!?

 

ヘラは顔を引きつらせながら笑い始める……以前、二ホンを訪れたヤゴウから「二ホン人は基本大人しく善良だが、自分達の常識では計り知れない事を平然とやってのける」と言っていた事を彼女は思い出した……。

 

 

一ノ瀬の説明により、ようやく落ち着きを取り戻したヘラは田崎からコーヒーを受け取り、さっきまで取り乱していた事を恥じるかの様に深い溜息をつく……。

 

「スゲェなあ、あのエルフの人……写真で見るよりもべっぴんさんだ……。」

 

「ああ……隣のネコ耳の()も可愛いし、胸もマジデケェ!」

 

遠目から彼女達を見ていた特戦群の隊員達はその様に小声で話していると、田崎は釘を差すかの様に彼等に言い放つ。

 

「おいっ……小声で話している様だが、その距離だとエルフと獣人の彼女達には聞こえているぞ!!」

 

「うへぇ! マジかよ!?」

 

田崎の言葉に特戦群の隊員達が慌てて口を噤む姿を見て、ヘラとチチーナはクスリと笑みを浮かべた。

 

「さて……休んでいる所を悪いが、ギムの街に入る為の作戦を練らなきゃならねぇ! 一ノ瀬一尉、ギムの状況はどうなんだ!?」

 

山内の言葉に一ノ瀬は黒いケースから1枚の紙を取り出し地面に広げる……それが緻密に描かれた街の地図で有る事にヘラは目を見張った!

 

(これは、ギムの街の地図……建物の位置が1件づつ描かれているのか? 一体どうやって……!?)

 

「報告に有った街の西側の地下水路跡は我々の監視所からは見えませんが、事前の偵察で場所を特定出来ています……ココです!」

 

一ノ瀬が地図の地下水路の入口が有る箇所を指差すと、ヘラは頷いて答える……山内は「どうやら、場所は合っている様だと」思いながら話を切り出す。

 

「一ノ瀬 一尉……可能なら今夜にギムの街に行きたいが、街の警備はどうなっている?」

 

山内の言葉に一ノ瀬は手にしていたタブレット端末から画像データを読み出し、撮影されたロウリア兵の画像を見せながら答える。

 

「警備が厳しいのは前線となる街の東側だけで、西側の兵士は簒奪(さんだつ)した物資を本国へ運んで数が少ない為か、立哨(りっしょう)は行われておらず定期的な巡回だけです……それと昨日からロウリアに戦利品を持って行った部隊がギムに戻って来ているのが確認されていますので、行くなら早い方が良いかと思われます!」

 

それを聞いた山内は左手の腕時計をチラリと見た後に決断する。

 

「解った……ギムの街の地下水路跡への潜入は今夜2000時(フタマルマルマルじ)に決行する、潜入は俺と田崎 三曹、それと案内役のヘラとチチーナで行う! 一ノ瀬 一尉、入口迄の案内は出来るか!?」

 

「はいっ、案内は自分が行います……出来れば自分も潜入に参加したかったですが!」

 

一ノ瀬が笑いながらそう言うと、他の隊員達も「自分も行きたいで有ります!」と笑いながら声を上げる。

 

(ヤダもぅ……ヤマウチやタザキだけじゃ無く、ココに居るニホン人全員が、危険大好きの変態の集団なんだにゃ〜!!)

 

田崎に対して「俺と代われ!」と叫ぶ特戦群の隊員達をチチーナは呆れ顔で見ながらそう思った……。

 

その後、山内達は小休止と準備を挟み、一ノ瀬 一尉と彼の部下1名と共に夕闇が迫る森の中をギムの街へと向かって行った……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 5月1日 19時57分 ロウリア軍占領下のギムの街 西区の郊外

 

 

間もなく満月を迎える2つの月が輝く夜空の下、ギムの街の郊外へと到着した山内と田崎、そしてヘラとチチーナは、巡回を行うロウリア兵達の目から逃れるべく草むらへと身を隠していた……。

 

「バッドアスからフリッキーへ! 此処からはロウリア兵の様子が見えない……今、どうなっている!?」

 

山内は無線機で自らのコールサイン(バッドアス)を呼び、一ノ瀬のコールサイン(フリッキー)へと通信を行う……山内から500m程、離れた位置から部下と共に監視を行っていた一ノ瀬は双眼鏡を見ながら山内へと返信を行う。

 

「フリッキーよりバッドアスへ、地下水路跡入口の上にロウリア兵が5人、動きは無し……移動するまで待機されたし、どうぞ!」

 

「バッドアス了解!」

 

山内に待機を指示した一ノ瀬は引き続き周囲の監視を行う……彼の隣には狙撃手の部下がM24ライフルを構え何時でも射撃出来る様、待機していた。

 

やがて松明を手に持った5人のロウリア兵は移動を始め、街の中へと入って行った……。

 

「フリッキーからバッドアスへ……ロウリア兵が移動を開始した! 周囲に敵兵の姿無し、どうぞ!」

 

「バッドアス了解……これより地下水路跡入口へと移動する!」

 

通信を終えた山内は無線機をベルトに取り付け、3人に向かって頷くと月明かりを頼りに地下水路跡入口へと歩き出す……地下水路跡の入口付近は水が溜まっているが、靴底が濡れる程度の深さだった為、問題無く歩く事が出来た……。

そして地下水路跡の入口へと到着すると、錆びた鉄格子が水路への侵入を阻んでいたが、ヘラが左から3本目の格子に手を取り力を入れながら引き上げ始めた!

 

「ここの格子だけ回しながら引き上げると取れるんだ……ぐっ……錆びて前より固くなっている! 手伝って……!!」

 

ヘラの言葉に田崎が加勢に入ると格子は動き出し、外す事が出来た……格子を取り外すと、人1名が入れる程の隙間が出来た為、山内達は一人ずつ地下水路の中へと入って行く……。

 

「ここ迄はあっさりと行ったな……だが問題は此処からだ!」

 

カビ臭くひんやりとした空気が何処からか流れて来る地下水路跡の暗闇を見つめながら、山内達は地下水路の奥へと足を踏み入れた……。

 

続く




敵占領下のギムの街へと潜入を開始しました。
書くの遅いのは堪忍してや〜! って事で、次回は潜入に成功した山内達の話と、完成した臨時埠頭から「以外なモノ」が陸揚げされます。
本来ならもう少し続きを書くつもりでしたが、本編が一万字を超えた為、ここで区切らせて頂きます。
この物語は20話辺りで完結させる予定でしたが、この分だと24話辺りまで行きそうです!


用語


この物語の魔写について

この物語における『魔写』とは、魔法を介して術者が直接見ているもの、又は脳の記憶領域に残った記憶を魔素を多く含んだ素材(主に木板・銀板・水晶が使われる)に写し込む魔法で有り、一般的に白黒(正確にはセピア色)写真しか取れない。
魔導技術が発達している文明国では『魔導写真器』と呼ばれるカメラを髣髴とさせる魔道具を介して撮影を行う為、より鮮明なカラー写真の魔写が可能となっている。
脳内で創造した事を魔写で写し込む事も可能で有るが、魔法での脳の創造を司る部位への介入は今だ成功しておらず、ぼんやりとした魔写しか取れない為、実用的では無いとされている。


魔力監視哨

『日本国召喚』本編でも存在が語られる、周囲で魔法を検知する為の施設。
この物語では、一般的に高い櫓の上にホーンアンテナの様なラッパ上の筒とそれを繋ぐ導波管が特殊な魔石を組み合わせた解析装置に接続されており、アンテナと導波管は魔素を含有しない金属(基本的に銅)で作られている。
『魔力監視哨』は魔法を使用した際に放射される『魔力波』と呼ばれるこの異世界独自の波長を同時の魔導装置を使用して瞬時に回析する事で、魔法が使われた方向及び、その種類と強さを知る事が出来る。
一般的に『魔力波』は物質を透過する性質を持っているが、『魔素』を含む物質に対してはその属性によって反射、又は吸収されてしまう。
この性質を利用したのが『魔導レーダー』と呼ばれている魔導技術で有る。
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