日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編 作:アニキ イン ザ スペース
殆どの『魔獣』は『パランド号遭難事件』のクラーケンに見られる様に人間に害を為す非常に危険な生物ですが、一部の……例えばワイバーンと呼ばれる翼竜に似た『魔獣』は永きに渡る品種改良により、人を乗せて空を飛ぶ事が出来るようになった事で、この異世界では有益な『魔獣』として存在しています。
私達JICAの職員が異世界国家クワ・トイネへ到着した時に驚いた事の一つとして、地球に置ける中世期の西洋国家と同じ技術しか持たない国なのに、下水や排泄物と言った生活排水の処理が独自の方法ながら現代国家に近いレベルで公衆衛生が維持されている事でした。
その様な異世界国家の公衆衛生に貢献しているのはこの『スライム』と呼ばれるアメーバーの様な異世界独自の『魔獣』で、異世界の人々は光を嫌いながらもあらゆる有機物を餌とするこの『魔獣』を下水道やトイレのタンクに放つ事で汚水や排泄物の処理をさせています。
この生物は独自の青臭さを持つ以外は、病原菌の温床になる事も無く、非常に効率良く汚水等の処理が行えます。
ただし、餌で有る汚水等を与えるだけ肥大化し下水管やタンクを詰まらせる原因となる為、定期的に『スライム』をくみ取る必要が有ります。
それらの手間を踏まえてもこの生物の特徴は非常に有益で有り、国内に置いても汚水処理の改善に大きく貢献するものと思われます……。
JICA技術協力専門家(畜産学) 大屋 香澄 のビデオレポート 「異世界の生物」 より抜粋 ―
中央歴1639年(西暦2015年) 5月1日 20時13分 ロウリア軍占領下のギムの街 西区の地下水路跡
ギムの街に残された生存者達に会うべく、使われ無くなった西区の地下水路跡へと辿り着いた山内達は、取り外した鉄格子を元の場所に仮置きすると暗闇が続く水路の奥へと目を向ける……。
地下水路は幅、高さ共に3m程の広さでレンガによりアーチ状に組まれ、かなり頑丈に造られている。
月明かりが届かない位置まで歩くと、ヘラが鞄から魔導ランタンを取り出し呪文を唱える……するとランタンの明かりが灯り出し周囲を明るく照らし出した。
「おいっ、そんな物を
山内は魔法のアイテムを使っているヘラに向かってその様に問うと、彼女は魔導ランタンを手に取ってこう答える。
「此処の水路に使われているレンガの土は『魔素』を多く含んでいるから『魔力監視哨』でも探知は出来ないよ! それよりも……。」
ヘラは前置きをすると気になる事を皆に話し始める……。
「まずは
「成る程……この先には危険が有るかも知れないって事か!?」
「うん、そう考えるのが普通だね……!」
ヘラは山内に向かってそう言うと、今度はチチーナに向かって話し始める。
「ほらチチーナ! 次はアンタの番だよ!」
「うん……わかったにゃ!」
チチーナはそう返事をすると、腰のポシェットの中に手を入れ、中から平べったい尻尾を持つモルモットの様な生き物を取り出した。
「おや? これは随分とかわいい奴じゃないか!?」
田崎はチチーナが手に持つ生き物を興味深く眺めると、そのモルモットに似た生き物は鼻をヒクヒクさせながら「プイッ!プイッ!」と愛らしい声で鳴き始める。
「オビラモットのポポイだにゃん、この先に危険が無いか、この子に見て来てもらうにゃ!」
そう言いながらチチーナはポポイに顔を寄せ、呪文を唱え始める……彼女はポポイを従魔化する事で感覚を共有し自在に操れる様にするとポポイはチチーナの手から離れ、地下水路の奥へと駆け抜けて行った……。
「ほぅ……便利だな、俺達の国にも似た様なモノが在るが、使い勝手が悪くてな!」
山内は陸上自衛隊で試験運用されている偵察ドローンと比較して手軽に使える従魔を見てそう呟くと、従魔と同期したチチーナはポポイを暗闇の中へと進めさせ、地下水路の奥へと探索を行なう……。
「しばらく進んだ所で道が分岐してるにゃ……まずは左側へ……こっちは水が流れていないけど、少し進んだ所でレンガで完全に
それまで魔獣と同期して棒立ちだったチチーナが突如身体をビクッ!と震わせ膝を付いて倒れ込む。
「にゃゃゃ〜っっ!! ポポイ逃げてっ!!!」
チチーナはそう叫ぶと隣にいた田崎に激しくしがみつく、何事かと思い彼女を見ると、その顔は青ざめ酷く怯えた表情をしていた。
「??……チチーナさん、どうかしたんですか!?」
「これは!? タザキ、チチーナの従魔に何か有ったんだ!!」
チチーナに抱きつかれ慌てる田崎に対し、ヘラがその様に答える。
同期している魔獣が極度の恐怖や痛みを感じると、それが魔獣使いにもそのまま伝わる事が有り、チチーナもそれを強く感じた為にパニックを起こしてしまったらしい……。
ヘラがそう話していると水路の奥からポポイが悲鳴を上げながら戻って来た……良く見ると尻尾に
「ああっ……ポポイ、ごめんなさい! 怖かったでしょ……。」
落ち着きを取り戻したチチーナは涙をポロポロ流しながら戻って来たポポイを抱きしめ、傷を治療しようとポシェットに手を伸ばそうとするが、水路の奥からただならぬ気配を感じその手を止めてしまう……。
「おいっ……何だよアレは!?」
ヘラが手にしている魔導ランタンに照らされた先には、水路を覆い尽す巨大な緑色の物体がゆっくりとした速度で山内達へと迫って来る!
「アレはスライム?……まさか、あんなデカい奴がいるなんて!?」
ヘラはそう言うと右手をスライムに向け、指で奇妙なハンドサインを描きながら呪文を唱え始める。
「 ცეცხლის სული,მომეცი შენი ძალა,აალებადი ისრები. 」
呪文を唱え終えるとヘラの右手に炎が現れ、火矢の如くスライムに向かって飛んで行く! 魔法の火矢はスライムに命中すると「パァン!」と音を立てて破裂した!!
「すげぇ! やっぱりこの手の魔法が存在したのか!!」
全身に焦げ目が付き動きが止まったスライムを見て、田崎は初めて見た攻撃魔法に驚きと興奮で湧き上がるが、表面の焦げ目がスライムの緑色の体内に吸収され再び動き出す姿を見ると、彼は目を丸くしながら
「げぇっ! また動き出したぞ!!」
「くっ……駄目だ、大き過ぎて魔法の火矢が効かない!」
驚く田崎の横で魔力を消費したヘラが肩で息をしながらそう叫ぶ、スライムは獲物を逃さない様にと水路いっぱいに広がりながら再び山内達に迫って来る。
「おいっ! スライムってトイレの中に居た奴だよな!? 行き先を完全に塞がれたぞっ!!」
「気を付けろ、アイツに捕まると服ごと身体を溶かされるぞ!!」
「くそっ! やっぱりそうなるのか!!」
スライムが危険で有る事を理解した山内は腰のベルトから無線機を取り出し、外で待機している一ノ瀬 一尉との通話を試みる。
「バッドアスよりフリッキーへ! 問題が発生した、これより水路入口まで後退する!!」
水路内にも係わらず送信先の一ノ瀬達が待機している位置と山内達が居る水路が直線上だった為、無線機の通信感度は良好だったが、その返信内容は山内達を
「フリッキーよりバッドアスへ……水路入口前にロウリア兵の巡回が向かっているのを確認! 今、外に出たら敵に見つかります!!」
外へ出ようと出口に向かい始めた山内達だが、一ノ瀬の報告に足を止めてしまう……その合間にもスライムはじりじりと彼らに迫ってくる。
「くそっ……コイツはマズいぞっ! ヘラ、あの化け物に弱点は無いのか!!」
「アイツは太陽や光が苦手なんだが、ああもデカいと魔導ランタンの明かり程度じゃ足止めにもならないよっ!」
「光……!? おいっ、田崎!!」
それを聞いた山内と田崎は顔を合わせ互いに頷くと、背中からM4カービンを取り出しスライムに向けて構える。
次の瞬間、地下水路内が
「うわっ、何だこの光は!?」
「すごくまぶしいにゃ!!」
山内と田崎が手にしたM4カービンのアタッチメントとして取り付けられたフラッシュライトの光がスライムに向けて照射される! 3000ルーメンを超える強烈な光を浴びたスライムは慌てるようにズルズルと後退りを始めた……。
その様子を見ていたヘラはスライムの中に大きな丸いモノが有る事に気が付くと、山内に向かって叫んだ!
「ヤマウチ! スライムの中に見える丸いモノ……あれがスライムの核、奴の弱点だ!!」
「あれか!!」
山内と田崎はスライムの核に向けて狙いを定めると、M4カービンの引き金を引き5.56mm弾を撃ち放つ! 弾丸はスライムの中をまるで弾道ゼラチンの様に突き抜けると、その内の一発がバスケットボール大の核に突き刺さった!!
核を撃ち抜かれたスライムの身体はその巨体を維持する事が出来ずに「べしゃっ!」と言う音と共に緑色の液体となって崩れ落ちた……。
「うわっ、げほっ!げほっ!!」
「ぐはっ……何だコリャ! 倒したのか!?」
「あぁ、その様だが! くせぇ……何て臭いだ!!」
崩壊したスライムの液体から発する臭いに4人は思わず
「バッドアスよりフリッキーへ……こっちの問題は解決した! そちらの様子はどうだ!?」
「フリッキーよりバッドアスへ、巡回の兵士達がそちらに気付いた様子は無し……どうぞ!」
「バッドアス了解! これより潜入を再開する、以上!!」
(やれやれ……チョイと危なかったが、何とかなったな!)
山内は無線機をベルトに戻し、床に転がった大きなスライムの核を見ながらそう呟いた……。
「おいっ、何やっているんだ!?」
山内はヘラがスライムの核に短剣を突き立てているのを見て彼女に尋ねると、ヘラはニヤリと笑いながらこう答える。
「お宝を取り出しているのさ……こんなにでっかいスライムの核を見たのは始めてだからねっ!!」
ヘラはそう言いながら短剣でスライムの核に切れ目を入れると、スイカサイズの赤いマスクメロンを思わせるスライムの核の表面が「バリッ!」と言う音と共に
「うひょー! ヤマウチ、これがお宝『スライムジェム』だよ!!」
「にゃっ!? こんな大きなスライムジェムを見るのは初めてだにゃん!!」
尻尾の治療を終えたポポイを抱きしめながら、チチーナは取り出されたスライムジェムの大きさに驚きの声を上げる!
「アタシだってこんな大きいのは初めて見たよ! ほらっ……ヤマウチ、これはアンタの物だっ!」
ヘラは笑いながら山内に向かってスライムジェムを放り投げると山内は慌てながらもジェムを受け取る。
「えっ!? おっとっと……急に渡すな!! ほぅ……コレは
山内は手にしたスライムジェムの色合いと輝きに目を見張りつつ彼女達に尋ねる。
「あのスライムを倒したのはヤマウチ達だからね……当然の権利さ!」
「そうだにゃ、これでヤマウチも大金持ちだにゃん!」
山内の言葉にヘラとチチーナは笑いながらこう答える。
何でもスライムは巨大化すると分裂する
さらにこのスライムジェムはこの異世界では非常に価値が有る魔石らしく、過去にヘラが手に入れたスライムジェムはこれの半分以下の大きさしか無かったが、それでも金貨100枚分の価値が有ったらしい……この大きさだと金貨500枚は下らないだろうと彼女達は言っていた。
(さて……どうしたものか、カミさんの土産に悪くは無いかもな……。)
山内はそう思いながらもスライムジェムを裏ポケットに入れ、3人と共に暗闇が続く地下水路の奥へと進み始めた……。
巨大スライムを撃退した山内達はしばらく道なりに地下水路の奥へと歩いて行くと、天井が高い広間へと辿り着いた。
「どうやら、ここは
周囲の壁を覆ったレンガの違いから田崎がそう推測していると、ヘラが何かを発見したらしく山内に来る様に呼び掛けた!
「ヤマウチ、こっちに来てくれないか…………これ、全部人間の骨だよ!?」
「これは…………恐らく殺されたギムの街の人々だな、死体の処理に困ったロウリア兵が、上の穴から落としたんだろう!」
山内はそう言いながら、天井に空いた穴から漏れる月明かりに照らされる骨の山を見つめる……骨の殆どは一部が溶けていて何処の部位だか判別出来ないが、特徴の有る
「あのスライム……何処から来たのか分からないけど、死体をいっぱい食べてあんなに大きくなったんだにゃ!」
「うぇっ……そうなのか!?」
チチーナの言葉を聞いた山内は、スライムジェムをカミさんのプレゼントにするのは止めておく事にした……それよりもこの場所に来てから誰かに見られている様な気配を感じ気にしていると、今度は田崎が何かを見つけ山内に報告してきた。
「山内 三佐、階段の上に扉が有ります!」
田崎が広間の奥に上へと昇る階段とその扉を見つけるが、それを見たヘラが山内達を呼び止める!
「待ってヤマウチ! あの扉、魔力を感じる……魔法で封印されているんだ!!」
ヘラは階段前で皆を待たせ、一人階段を上がって扉の前に立つと手をかざし精神を集中する……。
(扉の裏側に魔獣避けと
ヘラは両手を手話の様に動かしながら、解呪の呪文を唱え始める……すると扉の裏側に描かれていた魔方陣が表側に浮かび上がり、
「ヤマウチ、コレで扉が開く様になったよ……でも、ここからは!」
「あぁ……やはりヘラも感じていたか! 扉の奥にいる奴が敵かも知れないと……。」
山内はそう言いながら、階段を上がり扉の前に立つ……そしてM4カービンを手に取ると扉を開け、ヘラと共に扉の中へと入り込んだ。
山内とヘラが扉の中へ入ると、田崎とチチーナもそれに続き中へと入って行く……ヘラが魔導ランタンで周囲を照らすと無数の木箱と
「出できな! そこに隠れているのはわかっているんだよ!!」
ヘラが大声でそう叫ぶと、木箱の陰から武器を手にした無数の男達が姿を現す……そしてその中の1人、
「お前達は何者だ! どうやって此処に……まさか、あのスライムを倒して来たと言うのか!?」
その言葉を聞いて、山内はポケットからスライムジェムを取り出し、彼等に見せ付ける。
「コイツはそのスライムから取り出したモノだが、相当の価値が有るらしいなぁ!」
山内が手にしているスライムジェムの輝きと大きさに男達は驚きの声を上げる!
「なっ……アレは確かにスライムジェム! しかもあの大きさ、まさか本当にあのスライムを倒したと言うのか!!」
「馬鹿なっ! 奴を倒そうとして8人の仲間が犠牲になったんだぞ!! 小娘を連れた男如きで倒せる筈が無い!!!」
スライムジェムを見て騒ぎ始めた男達を見て、ヘラは呆れた顔で言い返す。
「ほぉ……人族の小僧共がアタシを小娘扱いとは、いい度胸だね! んっ……その顔と涙ボクロを見て思い出したよ! アンタ、ミカールの息子だね!!」
ヘラは顎髭を生やした中年の男に向かってそう言うと、男は慌てた様子でヘラを見つめる……。
「どうして父の名を? あっ……まさか貴方は『赤毛のヘラ』!?」
男は子供の頃に父から依頼を受けてやって来たエルフの女性が昔と変わらない姿で目の前にいる事に驚くと共に、男達に対して武器を納める様に指示を出した。
「お前達、早く武器を降ろせ……この方は昔、父がお世話になった冒険者こと『赤毛のヘラ』様だ!」
男達は『二つ名』を持つ冒険者の名前を聞いて、驚きながら手にした武器を降ろし始める……それを見た山内は確認を取るべくヘラに耳打ちをする。
「ヘラ……どうやら知り合いの様だが、彼等がギムの街の生存者で間違い無いのか!」
「あぁ……彼は以前、話した地下水路の探索を依頼した商人の息子だよ! 顔が父親そっくりだからちょっと驚いたけど。」
ヘラがそう言うと、二人の会話を
「あのぅ……ヘラ様、その者達は一体?」
「これは失礼した、自分は日本国陸上自衛隊所属の山内と言う者です、貴方達の生存確認の為にエジェイから参りました!」
山内は挙手の敬礼をしながら顎髭の男に向かって自己紹介をすると、彼は驚きの声を上げる。
「ニホン国!? 聞いた事が有ります……最後に魔信で交信した時、オコシ団長が話していました! ニホン国の援軍が来れば必ず自分達を助けに行く事が出来ると、そうか……貴方達が……。」
顎髭の男はそう言うと、山内達を地下の居住区へと案内し始める……到着した居住区には約60人程の人族とドワーフ、そしてエルフや獣人達が身を寄せ合っていたが、女子供を含め皆が疲れた表情を浮かべていた……。
「あぁ……まさか貴方は『赤毛のヘラ』様ですか!?」
1人の老婆が女性に支えられ足を引きずりながらヘラの元へと駆け寄って来る……ヘラは老婆を見て「奥様も元気な様で……。」と声を掛け、顎髭の男は老婆を「母さん」と言って気に掛けている……その様子を見て山内は有る事を思い出す。
(んっ……足の悪い老婆を母さんと呼び、オコシ団長と魔信で連絡を取り合える?…………そうか、街の有力者って!?)
「ちょっといいか! アンタには娘が2人いて、名前はアメリアとカマラって言う名前じゃ無いのか!?」
突然、娘の名前を聞いた顎髭の男は慌てながら山内の方へと振り返る!
「それは私の娘の名前だが、どうしてアンタが!?」
「あの娘達はロウリアが街を攻めて来た時にはぐれてしまって、行方が分らなくなってしまったのです……私の足が悪いせいでこんな事に……!」
その言葉を聞き、確証を得た山内はスマートフォンを取り出して2人に話掛ける。
「娘さん2人は現在、エジェイで叔母の家に滞在しており無事です!」
スマートフォンにアメリアとカマラが写った画像を表示して見せると、彼等は食い入るように画面を見つめながら涙を流し始める……。
「ああっ……あの、娘達は本当に無事何ですねっ!?」
「2人の事はもう駄目だと思って諦めていたんです……。」
老婆を支えていた女性も画面を見て泣き始める、どうやらあの娘達の母親らしい……。
「ロウリア軍に追われている所をヤマウチ達が助けてくれたんだにゃ! 2人で20人のロウリア兵を倒して凄かったにゃん!!」
「なんと……本当ですか、それは何と言って御礼を言えば良いのか……。」
チチーナの言葉を聞いたアメリアとカマラの父親で在る顎髭の男は山内の手を握り深々と頭を下げる……2人の姉妹の無事と言う明るい話題に、地下水路の生存者達はギム占領以来、久しく忘れていた笑顔を取り戻した。
……その後、山内達は地下水路の生存者達と対談を行い、彼等の現状を知る事が出来た。
生存者達のリーダーで、アメリア姉妹の父親でも在る顎鬚の男の名はトビアスと言う名で、ギムの街の西区で大きな商店を経営しながら亡くなった父の遺産で有る地下水路跡の管理を引き継いでいた。
今ここに居る人々は彼の商店の従業員か取引先の同業者で、ギムの街がロウリア軍に襲撃された時、トビアスの案内でこの地下水路へと逃げてきたとの事だ。
これまで地下水路の出口から脱出しエジェイへ向かう事を試みたが、最初の調査でスライムに出くわした2名が命を落とし、次にスライムを
そして何時か救援が来る日を信じながら、ロウリア軍の目から逃れつつ情報を収集し、エジェイの街に駐留する騎士団へと報告を行っていたが、ロウリア軍が魔力監視哨を建設した為に魔信が行えなくなり、遂に孤立無援の状態になってしまったと彼は話していた……。
又、スライムが退治された事で、今からでも地下水路を抜けエジェイの街へ行けないか意見を出す者もいるが、山内は直ぐにそれは止める様に伝える。
「ギムからエジェイまで歩いてまる2日掛かる上に、道中の集落は焦土戦術で破壊されて水の補給すら望めません……それにロウリアの部隊が街道の周囲を巡回している以上、ここに居た方が遥かに安全です!」
「………確かに、此処には老人や子供もいます、言われている通りの状況ならば、彼等を連れてエジェイへ向かうのは無理が有るでしょう……それに彼等を此処に置いて行く事も出来ない以上、水や食料が有る此処に居た方が賢明でしょう!」
山内の言葉にトビアスはそう答えながら深くため息をつく……。
「トビアスさん……今回、我々は皆さんの生存を確認する為にやって来ました……残念ながら今の我々では此処に居る皆さん全員を救い出す事は出来ません。」
山内はその様に現状を伝えながら、背負っていたバッグの口を開き中を物色し始める。
「……代わりにロウリア軍から検知されない『無線機』と言う我々の通信手段をお渡しします。」
山内はバッグの中からハンディタイプのトランシーバーと大陸共通言語の文字で書かれた手書きの説明書を取り出してトビアスに手渡す……彼は渡された無線機が、これまで使っていた『魔信送受信機』と全く異なる形をしている事に戸惑いを感じながらも感謝の言葉を伝えた……。
「有り難う御座います……しかし、これはどうやって使えば宜しいのでしょうか!?」
「使い方は説明書に書かれていますが、実際に使ってみましょう……何処か北側を見渡せる場所は有るでしょうか?」
「それなら、これまで使っていた『魔信送受信機』が置いて有る隠し部屋が良いと思います! 建物自体はロウリア軍に接収され厩舎として使われていますが、地下水路跡と繋がっている隠し通路が有りますので、ロウリア兵に見つかる事も有りません!」
その言葉を聞いた山内は無線機を持ってトビアスと共に隠し部屋へ向かうも途中、通路が非常に狭くなっている箇所が有り、大柄な体格の彼では通り抜ける事が困難だった為、代わりに田崎を向かわせる事にした……。
「うはっ……確かにコレは山内 三佐では無理が有る!」
田崎は頭1つが入る程の幅しか無い狭い階段を身体を横にしながら上がっていく……階段を上り終えると、古い鉱石ラジオを
「タザキ殿、此方が北側に面した窓になります……。」
トビアスの案内に田崎が窓に近づき覗き込むと、月明かりに照らされた街の建物の向こうに『北の森』が見て取れ、窓の下では飲酒をしていると思われるロウリア兵達の笑い声が聞こえる……。
「ここなら声を聞かれる心配は無さそうですね、まずは通話出来るか試験を行います……では、この無線機を使う時はこの場所を押した後に、ランプが緑にしたのを確認して…………。」
田崎はトビアスと『魔信送受信機』を扱っていたと思われる術士の男にトランシーバー型の無線機の扱い方を教えながら、通話試験を開始する。
「トムキャットより各局、トムキャットより各局へ! これよりギム水路跡拠点での通話試験を開始する、本日は月夜なり!……受信した局は応答されたし、どうぞ!!」
「…………フリッキーよりトムキャットへ……受信を確認した……感度良好、 どうぞ!」
「……タフボーイよりトムキャットへ! こちらも受信を確認、どうぞ!」
「………コンボよりトムキャットへ、受信を確認した! 今夜は満月なり、どうぞ!!」
「……トムキャットより各局へ、3局全て受信を確認! 交信終わり。」
待機中の一ノ瀬 一尉と丘の監視哨、そして『泉の拠点』の駐留地の3箇所全てで、無線が送受信する事を確認した田崎は笑顔を見せながらトビアスに無線機を手渡す。
「トビアスさん、ここからの通信は可能なのが確認出来ました、これで我々と交信が出来ます!」
「おおおっ!!」
田崎の言葉にトビアスは術士と共に喜びの声を上げながら無線機を受け取る……その後、2人は田崎より無線機の使い方を学び、自ら『北の森』の特戦群と交信を行う事で、ギムの街の生存者達は新たなる通信手段を確保するので有った。
こうして任務を成功させた山内はトビアスに予備の無線機とバッテリーを渡し、深夜の内にギムの街を出る事を彼に伝える……すると出発を見送るべく生存者達全員が山内達の元へと集まって来た……。
「……ヤマウチ殿、貴方のお陰で失っていた希望を取り戻す事が出来ました! 娘の事と言い感謝の言葉が絶えません……これから我々は、連絡が取れ無くなった他の生存者達を見つけ出し、解放の日までロウリア兵に見つからぬ様、此処で耐え忍んで行きます。」
「トビアスさん、自分も危険を冒して此処に来た甲斐が有りました……我々は必ず助けに来ます、それまで無事にいて下さい!」
山内とトビアスは手を固く握り握手を行なう……その時、山内はやり忘れた事を思い出し、笑いながら彼に話しだす。
「そうだ……トビアスさん、エジェイに居る娘さん達にメッセージを送りましょう!」
山内はそう言いながらスマートフォンを取り出すと、トビアスと生存者達の撮影を始め、トビアス達は彼の指示に従いながらスマートフォンの画像に収まった。
そして撮影を終えた彼等は自分達の姿が四角い薄い板に映って入る事に驚きながらも、そこに映った表情が笑顔で有る事に皆で笑い合っていた……。
山内達は貯水槽の扉を抜け、地下水路の出口へと戻るべく階段を降りて行く……途中、田崎とチチーナは振り返って人々に別れの挨拶を行なう。
「それでは皆さん、次に会う日を楽しみにしてます!」
「元気でいてにゃ〜っ!」
見送りの人々は彼らの無事を祈りながら手を振り続ける……階段を降りた4人は魔導ランタンの明かりを元に地下水路の暗闇の中へと向かって行き、やがて明かりが見え無くなると共にその姿も見え無くなった……。
山内達を見届けたトビアスは貯水槽の扉を閉め、術士に施錠の封印を行なう様命じながらこう呟く……。
「行ってしまわれたか……今は彼らの無事を『緑の神』に祈りましょう……。」
山内 三佐達が決行した『ギム潜入作戦』は「情報部別班」と「特戦群」の隊員が参加した関係上、日本とクワ・トイネ公国との秘密協定で「非公開」となり、長きに渡り人々に知られる事が無かった。
そして後世の情報公開による文書開示後も、参加した人物の所属とその名前は全て黒塗りとなっていた……。
続く
「マイハークの臨時埠頭が完成するまで話を進めると言ったな……アレは嘘だ!!」
またまた一万字を超えてしまったので、片手で釣り上げた読者を谷底に落とすと言う、メイトリックス大佐仕草を平然とやってのける中、文章をキレイに纏め切れない事に反省をしております・・・。
今回、地下水路の幅が3m(10フィート)だったのは、D&D規格に縛られた駄目なオッサンの悪習で有り、それにしてもヤード・ポンド法は滅ぶべきで有ります!
次回こそ、臨時埠頭を完成させ話を早く進めたいと思います。
用語
オビラモット
体長25〜30cm程のモルモットの様な体躯とビーバーの様な平べったい尻尾を持ち合わせており、体内に魔石を宿している事から魔獣に分類されている異世界生物。
主にロデニウス大陸北部の森林地帯に生息している。
平べったい尻尾を使っての泳ぎが得意で、約1時間程は潜り続ける事が出来る為、遺跡や洞窟の探索に使われている。
比較的、簡単に捕まえて従魔に出来る事から、ペットとして飼われている事が多い。
ギムの街の地下水路
今回、山内達が潜入した地下水路は、ギムの街が発展するに伴い中心地が南側に移った事で行なわれた、街の再開発で閉鎖された西区(ギムの街では旧市街地となる)の地下水路跡が舞台となっている。
物語の30年以上前に、買い取った建物が地下水路跡に通じているのを見つけたトビアスの父親で有る商人のミカールが、発見した地下水路跡を倉庫を兼ねた緊急時の避難先として使用する事を考案するも、建設時の図面や資料が過去の火災で焼失した事を知り、『赤毛のヘラ』が所属した冒険者パーティに地下水路跡の探索を依頼した。
その後、2代に渡って地下水路跡の改装と維持を行っていたが、頑丈に作られていても古い施設なので水漏れやスライムの侵入等、維持が十分出来ていなかったらしい。
スライム
不定形の異世界生物で地球に生息する粘菌やアメーバーに似た特徴を持っているが、体内に『魔素』を溜め込み、成長して大きくなると『魔素』が結晶化する特徴を持つ。
太陽光下では細胞組織を維持出来ず崩壊を起こして死んでしまう為、松明の明かりすら避ける程に光を嫌う習性が有る事から、通常は光が当たらない洞窟や遺跡等に生息している。
普段は暗闇の中を餌を求めてゆっくりと移動しながら、苔や生物の死骸等の有機物を自らの身に取り込んで、消化・吸収を行い成長する。
スライムは成長するに従い体の中に今まで見えなかった『核』が可視化される様になるが、それと同時に巨体を維持する為に動きが活発化して、執拗に餌となる獲物を追い回したり待ち伏せを行うなど巧妙な行動を取る様になる。
その様なスライムを倒す場合は身体の中枢に有る『核』を破壊するのが一般的な方法だが、大型になるとスライムの分厚い細胞壁に守られている為、倒すのが困難であるが『核』部分は『スライムジェム』と呼ばれる魔石として高価で取引されている為、冒険者の間では人気の有る討伐対象となっている。
有機物なら何でも食する特性を活かし、この異世界では汚水や排泄物の処理に使われる等、身近な魔獣で有る反面、従魔化が困難な事で知られており、光が苦手な事も相まって従魔として使われているのは稀で有る。
パランド号遭難事件
異世界転移後、転移に巻き込まれた竹島を実行支配する大韓民国の『独島警備隊』に援助物資を輸送すべく、鳥取県の境港を出港後、隠岐の島沖の海域で異世界の怪魔『クラーケン』に襲撃され、乗員7名全員が行方不明となった韓国籍の庸船(実際は漁船に偽装した密輸船)『パランド号』遭難事故の名称。
この事件で『クラーケン』が海上自衛隊の潜水艦『けんりゅう』に退治されるまで旧日本海側では船舶の航行自粛が実施されていた。
(この出来事は、本作品の前日譚となる『日本国召喚 異世界の異邦人』のエピソードとなります。)