日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編   作:アニキ イン ザ スペース

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南向きの窓に掛けられたカーテンからわずかな日の光が差し込む一室……扉が開くのと同時に部屋の明かりが灯ると、背広を着た1人の初老の男が入って来た。

男はやや疲れた足取りでふかふかな白い絨毯を踏みしめながら書類が積まれた机を横切ると、窓際に置かれた重厚な革張りの椅子に身を預ける様に座り込み、深い溜息を付きながら天井を見上げた……。

(ふぅ……政争の果てに座る事が出来たこの椅子の有る部屋が唯一、落ち着ける場所になろうとは……。)

男は照明が付いた天井を眺めながら、その様に呟く……。

日本国の異世界転移と言う前代未聞の事態以来、男には休まる事の無い日々が続き、遂には自衛隊の海外派兵と言う国是とは相居られぬ決断を行なった事は、今も男の肩に重く伸し掛かっている……。

……男は深く深呼吸をした後、机に置いて有ったレジュメを手に取り読み始める……そこには昨日の報告会で発表された異世界についての報告が要訳されており、彼は目を細めながら報告書を読み上げる……。

報告書にはこれまで判明したこの異世界についての事が書かれており、取り分けこの惑星の大きさが地球の2.6倍近く有るにも拘わらず重力や大気圧は地球と全く変わらない等、専門家で無い彼ですら首を傾げる事が書かれているが、これらの解明には全てに共通して有る物が必要だと記載されていた……。

(……以後、詳細の解明については気象及び観測衛星による調査が必須となる……。)

男は頭を掻きながら、「未決」と書かれた書類入れから一冊のレジュメを取り出し、表紙を見るだけで中身は吟味せず、手にした印鑑を「内閣総理大臣」と書かれた空欄の箇所に捺印し「既決」と書かれた書類入れに放り込んだ……。

……男はゆっくりと立ち上がり背伸びをした後、カーテンの隙間から見える高層ビル街を眺めながら今後の事について思案し始める……そんな彼が内容を確認せずに捺印したレジュメの表紙にはこの様な題名が書かれていた……。

『人工衛星打ち上げ強化に伴う「種子島大型ロケット発射場」と「内之浦観測ロケット打ち上げ場」の拡張計画と今後のロケット量産体制について』



第十七話 エジェイ駐屯地建設

中央歴1639年(西暦2015年) 5月2日 クワ・トイネ公国 ギムの街から北へ約15km程の『北の森』泉の拠点

 

 

目が覚めるとそこは狭いテントの一室で有った……。

ギムの街を出て深夜過ぎに『泉の拠点』に戻って来た山内達は駐留している部隊からテントを借りると、疲れからか早々に眠りに付いてしまい、次に目が覚めた時には昼近くの時間となっていた……。

 

「んんっ……あぁ……また寝過ぎちまったな!?」

 

山内はそう呟きながら休んでいたテントから外へ出ると、待機中の隊員が挨拶の声を掛けて来る。

 

「おはようございます、山内 三佐……今コーヒーを()れますのでお待ち下さい!」

 

隊員の言葉を聞きながら周囲を見渡すと、田崎とヘラは既に起きておりコーヒーを手に談笑している姿が見える。

 

「起きたかいヤマウチ、エジェイへの出発がまだならチチーナをもう少し休ませてくれないか!? 夜中はポポイの看病に掛り切りで、寝るのが遅かったんだ。」

 

山内が起きたのを見たヘラが彼にそう話掛けると、彼女の後ろに有るテントがゴソゴソと動き出し、中から下着姿のチチーナがポポイを抱きながら顔を出して来た……。

 

「おはようだにゃ……出発がまだならもう少し寝かせてほしいにゃん……。」

 

チチーナはそう言うと再びテントの中に潜り込んで行く……その姿を見た山内は笑いながらコーヒーを隊員から受け取る。

 

「わかった、エジェイには日が落ちる前までに戻れれば良い、出発は昼過ぎにしよう……。」

 

田崎とヘラにそう伝えながら、山内はコーヒーを飲もうとカップに口を近づけると突然、これまで感じた事の無い奇妙な違和感を感じ始める……。

 

(何だ? この肌に貼り付く様な奇妙な感覚はっ……!?)

 

次の瞬間、『ザワザワザワザワ!!』と言う木の葉が(こす)れる様な音が周囲に鳴り響く!

 

「うおぉっ! 何だコレは!?」

 

「森全体が(うな)っているぞ!!」

 

「このざわめきは……まさか木霊(こだま)!?」

 

「なによっ! うるさくて二度寝出来ないにゃ!!」

 

突然の事に山内だけで無く、田崎とヘラ、そして待機中の隊員とテントで寝ていたチチーナもテントから顔を出して何事かと辺りを見渡す……すると隊員の1人が後ろを指差しながら大声を上げた!

 

「おいっ! レントがっ……『泉の見張り役』が動いているぞっ!!」

 

山内が振り返ると、そこにはバキバキと言う音を立てながら地面に根ざした足を引き抜き立ち上がるレントこと『泉の見張り役』の姿が在り、立ち上がったその姿は人どころか他の木々すら見下ろす程の巨大さに山内達は騒然となる……。

 

「で…デケェ!! この大きさで動くのかよ!?」

 

「信じられない……レントが動いているのを見れるなんて……。」

 

「にゃ〜っ!? せ……説明不要のデカさだにゃ!!」

 

田崎とヘラ、そしてチチーナが驚愕する中、山内は前に進み出てレントこと『泉の見張り役』に大声で問いかける。

 

「おいっ! 今のざわめきはアンタが動いた事と関係が有るのか!? 一体何が起こっているんだ!!!」

 

『泉の見張り役』は木が(きし)む音を立てながら山内の方に振り向くと、ゆっくりとした口調で話し始める……。

 

「うむ……森の東側で…ヒトが……禁忌(きんき)の炎を…使った………森の守護者として……(しょ)さねば…ならぬ………。」

 

その言葉を聞いた山内は嫌な予感を感じ取る……。

 

(森の東でヒトが禁忌の炎……!? まさかと思うが、コイツはマズイぞっ!!)

 

軋む音を立てながら『泉の見張り役』がゆっくりと歩き始めるのを見た山内は再度、大声を出して彼を呼び止める。

 

「待ってくれ! そいつには心当たりが有る、出来るのならば俺も連れてってくれないか!!」

 

「うむ………乗れ……。」

 

『泉の見張り役』は歩みを止め、巨大な枝で有る腕を彼の前に差し出す……山内は手元に有ったトランシーバーを手にすると、その腕に飛び乗りながら呆然としている田崎に指示を出す。

 

「田崎、チチーナを起こして出発の準備をしろ! 場所は無線で知らせるから、それまで待機だ!!」

 

「了解!……えっ、ちょっと待って下さい!? 場所を無線で連絡って、一体どうやって……!!!」

 

田崎はGPSが使えないのに、どうやって場所を知らせるのか山内に聞こうとするが、山内を肩に乗せた『泉の見張り役』は軋む音を立てながら、大股で木々を(また)いで行くと山内と共に森の奥深くへと行ってしまった……。

 

 

「何だっ! 木がレントを避けている……道を開けているのか!?」

 

山内は『泉の見張り役』の肩の上から、昔見たアニメ映画の様な光景が起こっている事に驚き目を丸くする……大きな木々が音も無く動いて出来た道を『泉の見張り役』はノッシノッシと巨体を揺らしながら歩いて行く……。

 

「なぁ、悪いがもう一つ頼みが有る! 森で粗相(そそう)を起こした連中は俺の知っている奴かも知れん、だから殺さないで欲しいんだっ!!」

 

「うむ……わかった…皆に……そう伝える……。」

 

『泉の見張り役』はそう言うと、頭を激しく揺らし枝葉が擦れる音を周囲に響かせる、その音は木々を通じて木霊の様に広がり、やがて森全体へと伝わった。

 

(ほう……これがレントの通信手段かぁ、アニメの話まんまで、カミさんが見たら歓喜するぜ!)

 

山内はそう思いながら笑みを浮かべる……彼が見つめる鬱蒼(うっそう)とした深緑(しんりょく)の地には、ざわめきの如く鳴り続ける木霊と森の守護者が織りなす重い足音が森の奥深くへと響いていた……。

 

 

 

同時刻 クワ・トイネ公国 『北の森』の東側

 

 

「盾を持っている者は前にでろ! 円陣を崩すなぁ!!」

 

銀山羊騎士団の騎士で在るトウミは部下達に大声で指示を出す! 『北の森』東部の開けた場所で小休止を取っていた彼女と20人程の部下は突如、正体不明の存在から奇襲を受け騒然としていた。

 

彼女の目の前には部下の1人が白目を剥き大の字になって倒れており、その周りには無数のドングリと拳程の大きさの胡桃(くるみ)の実が落ちている……不幸にも彼は何処からともなく飛んできた巨大な胡桃の実が顔面に直撃して倒れてしまったのだ!

 

「くっ……何だ、ここは化け物の巣なのかっ!?」

 

トウミは飛んで来る巨大な木の実を避けながらも周囲を無数の怪物に囲まれた事に気が付く……そして彼女は冷静に対処すべく、これまでに起こった事を一つずつ思い起こし始める……。

 

 

……昨日、哨戒を行っていた騎馬隊より「ニホン国の武官と冒険者の一行が『北の森』に入って行くのを目撃した!」との報告が入り、私は叔父で在る騎士団長の反対を押し切って部下20名を引き連れ、ニホン国の武官を追うべく夜更け前にエジェイの西門を出発した。

 

「叔父上はニホン国の武人に甘すぎる……奴らが『北の森』に隠れて何をやっているのか、この私が暴いて見せる!」

 

以前、ニホンの武官に恥を掻かされた事も相まって、私は彼らの秘密を知ろうと部下達と共に馬を西へと走らせた。

 

道中、ロウリア軍のワイバーンの哨戒を避ける為、夜明け前にエジェイを出た事が幸いしたか、敵に見つかる事無く無事『北の森』に到着し、馬の足跡を見つけた事で喜び勇んで森の中へと入って行った……。

 

最初は順調に馬の足跡を追って行けたが、森の地面が泥濘(ぬかる)んでいる奥地に入ると足跡を見失ってしまい、道中に通り過ぎた開けた場所に戻ってしまった事に気が付くと、その足跡も自分達が付けたモノと混ざって区別が付かなくなってしまった。

 

道に迷ってしまった我々はここまで強行軍気味に移動した事も相まって、この開けた場所で小休止を取る事にした……。

 

「トウミ様、お水をお持ちしました。」

 

少年の従士から水の入った容器を受け取りながら、部下達が疲れた馬から荷物を降ろし古参の兵士が岩に腰掛けて煙草に火を付ける光景を見ていると、何処からかザワザワと言う奇妙な音が聞こえて来る……。

すると突然、無数のドングリの実が休憩中の我らに向かってばらばらと飛んできた!

 

(何だ? 現地の子供のいたずらか! それとも妖精……まさかゴブリンかっ!?)

 

飛んで来るドングリの実が顔に当たらない様、手で顔を覆いながら考えていると、煙草を咥えていた古参の兵士が立ち上がって怒りながらドングリの実が飛んで来る方向へと歩いて行く姿が見えた。

 

私は相手が子供だったら容赦する様に言おうとしたら、森の奥から何かが物凄い速度で飛んで来て彼の顔面に直撃した!

 

古参の兵士はそのまま大の字になって倒れ込み、彼の顔面に当たったモノが私の足元に転がって来る……それは今まで見たことの無い巨大な胡桃の実で有った……。

 

「トウミ様! 向こうの木の影に何か動いています!!」

 

従士の言葉に森の奥を見ると、木々の向こう側に何かが動いているのが見え、しかも一体では無く複数いる事が判ると部下達に動揺が広がる……。

 

「お前達、何をやっている! 早く盾を持って円陣を組むんだ!!」

 

私は自らの動揺を抑えながらドングリの実が飛び交う中、今にも混乱しそうな部下達に大声で指示を出した!

 

 

…………ここ迄起こった事を振り返るが、何処からとも無く飛んで来る木の実は止むことが無く、円陣を組んだ部下達が持つ盾に当たる度に大きな音を立てていた。

 

トウミはここまで冷静さを装ってはいるが、この未知なる事態に自分自身何処まで正気を保てるか不安でならなかった……。

 

「ザワザワザワザワ………!!」

 

(何だ!? このざわめきみたいな音……また聞こえて来たぞ!!)

 

再び枝葉が擦れる様な音が聞こえると、森の奥から人の形をした巨大な『動く木』が次々とその姿を現した……。

 

「な・何だ……この化け物達は!?」

 

トウミと部下の兵士達が愕然とする中、『動く木』の一体が軋む音を立てながら彼女達の元へと近づいて来る……。

 

「う……うああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

1人の若い兵士が錯乱したのか、声を張り上げ大剣を振り回しながら『動く木』へと突進していく! 若い兵士の大剣は『動く木』の胴体に突き刺さるも『動く木』は全く動じる事無く、彼をその手で掴み取り空高く放り投げた! 投げ飛ばされた若い兵士は悲鳴を上げながら、木の枝に引っかかり身動きが取れなくなってしまった。

 

「おのれっ! 怪物めっ!!!」

 

部下達はそう叫ぶと一斉に『動く木』に襲いかかるも『動く木』は周囲に大量の葉っぱを飛ばし始め、兵士達の視界を遮り始める!

 

「怯むな! ただの目眩(めくら)ましだっ!!」

 

古参の兵士がそう叫ぶも無数の葉っぱに視界を遮られ、兵士達は前に進む事も武器を振り回す事も出来なかった。

 

「ン゙オ゙オ゙オ゙オォォォ〜ッ!!!」

 

『動く木』は低い唸り声を上げ、枝の様な両腕を地面に突き立てる、すると地面から無数の(つる)が凄い勢いで伸び始め、円陣を組んで密集していた兵士達を次々と(から)め取り身動きを取れなくしてしまった!

 

「おのれっ! こんなモノでこの私をっ!!」

 

トウミは迫り来る蔓を剣で斬り伏せながら奮戦するが、捌き切れなかった蔓が彼女の足元に絡み付き地面に倒れてしまう。

 

「あぁっ、剣がっ!?」

 

倒れた拍子に剣を落としてしまったトウミは拾おうと急いで手を伸ばすが、その手にも蔓が絡まり動きを封じられる。

 

トウミは振り返ると部下達全員が蔓に絡まれてしまい、彼女自身も絡み付いた無数の蔓に持ち上げられて、股を開いた状態で身動きが取れ無くなってしまった。

 

「くっ……部下達の前で、こんな格好で身動きも取れぬとは! もはや、これまでか……。」

 

彼女は目を伏せながら諦めの言葉を呟くと、何処からか聞き覚えの有る声が聞こえて来る……。

 

「いょう! こんな所で植物とお(たわむ)れとは、随分とお楽しみだな!!」

 

トウミは声が聞こえた方向を見上げると、そこには襲って来た『動く木』の倍近くは有ろうかと思われる巨大な『動く木』とその肩に彼女が追っていたニホン国の武官で在るヤマウチの姿が有った……。

 

「なっ……貴様、どうして!!」

 

「んっ……? どうしても何も、お前らが森で粗相をやらかしたと聞いて、ワザワザやって来たんだよ! それと感謝しろよ……俺が止めてなかったら今頃、森の肥やしになっていたぞ!!」

 

余りの事に呆然となっているトウミの目の前で、山内は『泉の見張り役』の手に乗り地面を降りると、足元に落ちていたまだ煙が(くすぶ)る煙草を見つけて手に取った。

 

「全く、この煙草の火一本で森が大火事に成りかねないからなぁ……!」

 

山内はそう言いながら指で煙草の火を揉み消し、吸い殻を『泉の見張り役』に見せると彼は満足そうに答える。

 

「うむ……ヤマウチ…感謝する……お前達……ニホン人………この森の…守護者……森を守る…仲間。」

 

「そいつはどういたしまして……!」

 

そんな山内と『動く木』が話し合っているのを見たトウミは山内を睨み付け問いかける。

 

「どう言う事だ、ヤマウチ! 何でその怪物と話が出来る!? やっぱり貴様は何か企んでいるなっ!!」

 

「ん~!? 何で話せるかは俺にもさっぱり分からん!……それよりも、このレントは『木の神』の祝福を受けた森の守護者かつ神の眷属だぜ! それを怪物呼ばりとは、失礼にも程が有るぜっ!!」

 

「まさか! こんな木の怪物が、神の祝福を受けた眷属だと!? 貴様、嘘を付くのも……。」

 

蔓に絡まれ宙に持ち上げられた状態で有っても山内の言葉を信じず、『泉の見張り役』を怪物呼ばわりするトウミの足元に新たな蔓が絡み始め、彼女が着ている鎧の隙間へと入り込んで来る……。

 

「うあぁっ! 何だこれは、くっ……ヤマウチ貴様!! やめろ!!」

 

「んっ!? 止めろって、俺は何もしていないのだが……お〜い! 『泉の見張り役』!? コレはアンタがやってんのか……?」

 

トウミの言い掛かりを否定した山内は『泉の見張り役』に問い合せると、彼はゆっくりとした口調で答え始める……。

 

「うむ……このニンゲン…森の守護者たる…誇り高き我らを……怪物扱い…非礼……許さない……。」

 

『泉の見張り役』は怒りの表情を見せながらその様に言うと、トウミの身体に絡ませた蔓を這わせ始める。

 

「くっ……うあぁっ! 何処に入り込んで……止めてくれ、くすぐったいぞっ!!」

 

「アンタがレントを怪物なんて言って怒らせたから、もう俺じゃ止められないぜっ! 悪いが、奴の気が済むまでお仕置きを受けてくれ!」

 

山内はそう言いながらスマートフォンを取り出し、蔓に絡まれながら(もだ)えるトウミを撮影しながら、トランシーバーで田崎と連絡を取り合う。

 

「バッドアスよりトムキャットへ…………そうだ、レントが造った道に沿って行けばいい! それより早く来れば面白いモノが見れるぜ!!」

 

「やめてくれっ! あははっ……! もうこれ以上くすぐられると可怪(おか)しくなってしまう!! くっ……これ以上、こんな仕打ちを受けるのなら、いっそ殺してくれ……。」

 

 

その後、山内は馬を連れてやって来た田崎達と合流し、レントの束縛から解放されたトウミとその部下達を引き連れ、エジェイへ戻るべく『北の森』を後にした……。

 

 

 

同日 夕刻 クワ・トイネ公国 マイハーク海岸 臨時埠頭建設地

 

 

夕刻が迫るマイハーク海岸沖では、停泊している巨大な鋼鉄製の船の間を木製の小さな帆掛け船が港へと向かう姿が見える中、建設中の臨時埠頭の浅瀬からウェットスーツを着た1人の男が埋め立てられた土地へと上がって来た……。

 

「おーい! どうだった!?」

 

男は測量用の棒を手にしたまま、埋め立て地から測量を行っていた若い男に声を掛ける。

 

「測量した場所は全て許容範囲内です!」

 

男達はこれまで水中ブルドーザーを使用し平坦化作業を進めていた浅瀬が指示書通りの水深になっているかの調査を行っており、測量士で有る若い男の話を聞いたウェットスーツの男は安堵の表情を浮かべる。

 

「よしっ、これで報告を上げてくれ! 何とか今夜の大潮に間に合った。」

 

ウェットスーツの男はそう指示を出した後、マイハーク湾の沖へと視線を向ける……そこには巨大な鉄の構造物が海に浮かんでいた。

 

「アレを見るのは福島の事故以来か……しかし、またアレの為にこんな所で仕事をするとは思わなかった……。」

 

男が言うアレとは、福島第一原発の海岸から外洋タグボートに牽引され、3000km近く航行の末にマイハークへとやって来た、巨大海洋構造物メガフロートの姿で有った。

 

建造以来、様々な運命に翻弄され「福島第一原発事故」と言う日本最大の危機の中、臨時の貯水槽として影ながら貢献して来たメガフロートは、2度目の危機とも言える異世界転移に対処すべく、臨時埠頭の土台として最後の役目を果す為に海を渡りマイハークへとやって来たのだ。

 

やがて夜となり、マイハークの海岸が大潮を迎え海が満ちていく……事前に平坦化された浅瀬の上にタグボートで牽引されたメガフロートが覆い被さるかの様に移動すると、フロートへの注水が始まり巨大な構造物は浅瀬へと沈座した。

その後、フロート内の海水はコンクリートへと置き換えられ、メガフロートは新マイハーク港の埠頭の一部としてその生涯を終える事になった……。

 

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 5月4日 クワ・トイネ公国 マイハーク海岸 臨時埠頭

 

 

朝早くにマイハーク湾へと入港し、完成したばかりの臨時埠頭に船体を黒く塗った巨大な船が汽笛を上げながら接岸を行う。

 

「いやはや……近くで見ると、とんでもない大きさだな……。」

 

クワ・トイネ公国の代表としてマイハークの街に常駐している評議委員のノーグ卿は、目の前で停泊しているフェリー船「はくおう」を見上げながらその感想を口にする……この様な巨大船が国の所有物では無く民間からの借り物で有る事にも驚くが、それ以上に船の後部に有る巨大な扉から鉄の荷車……ニホン人達がトラックと呼んでいるモノが次々と出てくる光景に驚きの声を上げる。

 

「この船には一体何台の鉄の荷車……車が積んで有るのですか!?」

 

ノーグの言葉に隣で案内に行っている、第四施設群副隊長の卜部(うらべ) 三佐が彼の質問に答える。

 

「はい、この『はくおう』には82台の車両が搭載されています。 これらを全て陸揚げした後、今日中に8隻のフェリー船の接岸を予定していますので、民間の車両も含め1000台以上の車両が陸揚げされる予定です!」

 

「この巨大な鉄の荷車が、せ…1000台も!?」

 

「現在、陸揚げされている部隊は『中央即応連隊』と『教導団』と呼ばれている足の早い装輪車両で構成された部隊で、今日中に我々第四施設群と共にエジェイへと向かいます。」

 

卜部 三佐が説明する中、73式大型トラックに続いて『中央即応連隊』の96式装輪装甲車と『教導団』の87式偵察警戒車、そして対ワイバーン戦の切り札として配属された93式近距離地対空誘導弾が『はくおう』の船体から姿を現す。

 

(うむ……それ程の部隊をエジェイに向かわせるとは! 味方とは言え、我々はとんでもない国と手を組んでしまったのでは……。)

 

ノーグはその様に思いながら、次々と横切って行く車両の列に目を見張る……巨大な幌張りのトラックと共に、装甲車と呼ばれている全面が鉄に覆われている車両が同じ速度で走っている姿に驚きながらも、通り過ぎて行く車列の中に他とは雰囲気が違う車両が有る事に気が付く。

 

「ウラベ殿……アレが話に聞く『戦車』と言うモノでしょうか?」

 

ノーグが指差した車両を見た卜部 三佐は「あっ!?」と言う声を上げた後、やや戸惑った表情をしながら答える……。

 

「確かに、戦車に似ていますが少し違います……アレは機動戦闘車と呼ばれている、我が国の新兵器です!」

 

卜部 三佐がそう説明する中、車体に「装実」と書かれた2両の車両が2人の前を通り過ぎて行く……8輪のタイヤに全面が装甲化された車体、そして長砲身の戦車砲を搭載した楔型の砲塔に他の車両とは違う異質な力強さをノーグは感じ取る……。

 

試製機動戦闘車……後に「16式機動戦闘車」と言う名で陸上自衛隊に採用されるこの車両は実戦テストを兼ねてクワ・トイネへと送られてきたのだ。

 

「おおっ、新兵器まで持って来てくれるとは実に頼もしい! ニホンの援軍には感謝するばかりです!! そう言えば、今日はモロボシ殿の姿が見当たりませんが、どうかされたのでしょうか……!?」

 

感謝の言葉と共に諸星 一佐の事を聞かれた卜部 三佐は「あっ、忘れてた!」と呟きながらバツの悪そうな表情をする。

 

「すみません、入港した船の案内で伝えるのを忘れていました……諸星 一佐は駐屯地建設の為、エジェイへと向かわれまして……あっ! アレに諸星 一佐が乗っています!!」

 

卜部 三佐が指差す方向には、沖合いに停泊していた護衛艦『いずも』から発艦した4機のCH―47JA輸送ヘリコプターが飛び立つ姿が有り、ローター音を響かせながら2人の頭上を通過して行った……。

 

「何とっ!? アレでエジェイまで向かうと言うのか!! しかし、何とも奇妙な形の飛行機械だ……あの様なモノが空を飛ぶとは……。」

 

ノーグがその様に感心する中、諸星 一佐を乗せたCH―47JAは青い麦畑が広がる平野を越え、南西へと向かって行った……。

 

 

 

同日 正午前 クワ・トイネ公国 タイダル平野

 

 

城塞都市エジェイの東に広がるタイダル平野に、緩やかな風が吹き抜け若草色の草木がさざ波の様に揺れ続ける……。

クワ・トイネ公国の南西部に位置するこの土地は、西に険峻な山の麓に築かれたエジェイの城壁を見渡す以外に何も無い平坦な土地で在る。

戦争とは無縁とも思われるこの平穏な地に何処からか聞き慣れない音が聞こえ始める……そして草原には音が鳴り響く空を見つめる4人の男達の姿が有った。

 

「ほう……アレがヘリコプターなるモノか!? 何とも奇妙な形をしているモノが空を飛ぼうとは……。」

 

「アレが魔法では無く自然の摂理で飛んでいるとは……全く信じられませぬ!」

 

銀山羊騎士団の副団長で在るフミスキと騎士団付きの魔術師が北東の空から飛来してくる4機の機体を不思議そうに眺めている。

 

「うむぅ、あの空飛ぶ船……以前、公都で見たモノとは大きく違いますな……ヤマウチ殿、アレで宜しいのかな?」

 

「はい、あの4機は我々の機体となります……恐れ入りますが着陸の支障となりますので、直掩のワイバーンをもう少し遠ざけて貰えますでしょうか!?」

 

飛来するCH―47JA輸送ヘリコプターを山内とオコシ団長達が見つめる中、エジェイから飛び立ったワイバーンの飛行隊が4機のCH―47JAに接近を試みるが、規律の取れた編隊飛行を行なう巨大な機体に圧倒されたワイバーンの部隊は近づく事が出来ず、やや遠ざかった位置でCH―47JAの編隊を囲う様に飛行していた。

 

やがて4機のCH―47JAは平野で待機していた田崎の誘導の元、草木を激しく揺らしながら地面へと着陸する。

そして後部のカーゴランプを開放すると搭乗していた隊員達が降りて来て、搭載していた車両や荷物の搬出を始めた。

 

(なんと……船が空を飛んで来るだけでも驚きなのに、動く荷車だけでは無く、あれ程の多くの荷物を積んでいるとは……!? ニホンの軍隊は我々が毎回苦労している兵站を空を飛ぶ事でああも容易く運んで来るのか!!)

 

副団長のフミスキは手際良く荷物を運んで行く自衛官の姿を見て驚きながらその様に感心していると、濃緑色の制服を着込んだ1人の男性が彼等の元へと歩いて来る姿が有り、山内が彼に向かって駆け寄っていく……。

 

「第四施設群の諸星 一佐ですね、自分は在クワ・トイネ日本大使館付き防衛駐在官の山内 哲也 三佐で在ります!」

 

山内は陸上自衛隊の91式制服を着込んだ諸星 一佐に対し挙手の敬礼を行う。

 

(ほぉ……最初に異世界国家に赴任しただけ有って、舐められ無い様にそれなりに着飾って来たか!?)

 

山内は鍔に装飾を施した佐官帽を被り、胸に金色のモールと色取り取りの略章を取り付けた諸星 一佐の制服を見て感心しながら笑みを浮かべる。

 

「山内 三佐、出迎えご苦労です……それより防衛駐在官と言う事は、貴官があのギムの街の撮影を行ったのか!?」

 

「いえ、自分はただ部下に恵まれているだけです……それより紹介致します、此方がクワ・トイネ公国軍、銀山羊騎士団団長のカラクワ・デ・オコシ卿です!」

 

山内は諸星 一佐の質問に対し謙虚に答えると、隣に居るオコシ団長の紹介を行なう……オコシ団長は右手を胸に当てながら恭しく礼を行なうと、諸星 一佐はそれに応えるべく挙手の敬礼を行なう。

 

「お初にお目に掛かります、自分は日本国陸上自衛隊、第四施設群隊長、諸星 淳一 一等陸佐で在ります!」

 

「モロボシ殿、ようこそエジェイへ……軍務局より貴公らを全面的に協力する様に指示を受けておる、何か有りましたら我らに遠慮無く伝え願いたい……。」

 

諸星 一佐はオコシ団長の歓迎の言葉を受けるが、気になる事が有った為、山内に対し小声で尋ねてみる。

 

「山内 三佐……確かエジェイの指揮官はノウ将軍と言う方だと聞いていたが、此処には来ていないのか!?」

 

「あぁ……その件ですが……。」

 

山内の言葉が急に歯切れが悪くなった事に諸星 一佐が首を傾げると、オコシ団長がワザとらしく大きな咳をして2人の気を引き付ける……。

 

「オッホン!……これは失礼、この件については私からお話し致そう……申し訳無いがノウ将軍は此処には来られていない、彼は城塞都市エジェイの指揮官として城壁の守りに過剰と言わんばかりの自信を持っている為、折角やって来られた貴公らを邪魔者扱いしているのだ……。」

 

オコシ団長の言葉に山内はノウ将軍の執務室を訪問した際に邪険に扱われた時の事を思い出し、思わず苦い表情を浮かべる……それを見た諸星 一佐は思わず溜息をついてしまう……。

 

「はぁ……成る程、これは一筋縄には行かない様ですね! しかし会わない訳には行かないですし、どうしたら良いモノか……。」

 

諸星一佐は帽子を脱ぎながらそう呟くと、それを見ていたオコシ団長は笑いながら彼に答える。

 

「モロボシ殿、貴国は我が国の評議会からこの土地を自由に使って良いと許諾を得ているのだ! ノウ将軍が何を言おうと気にされる必要なぞ有りますまい……。」

 

「そうですね……あっ、そうそう! これから建設します『エジェイ駐屯地』の図面と想像図を描いた紙をお持ちしました。」

 

そう言いながら諸星 一佐は持っていた鞄から数枚の紙を取り出す……そこにはCADから出力したエジェイ駐屯地の図面と想像図が描かれており、オコシ団長達は興味深い表情でその図面に目を通す……。

 

「これは……砦の城壁が魔方陣を(かたど)っているのか! ニホンでは魔法防壁を実用化しているのですかっ!?」

 

「いえ、確かに魔方陣の様にも見えるかもしれませんが……これは魔法では無く三角形の陣地をあの様に構築する事で、敵の侵入をし辛くするのと同時に射線を交差させて敵を殲滅できる様にしているんです!」

 

星型陣形が描かれた図面を見るなり、顧問の魔術師は興奮の赴きで諸星一佐に魔方陣の仕組みを問うが、彼はそれを否定して戦術的な意味でこの様に造られていると答えると今度はフミスキ副団長が深く頷く。

 

「成る程……建造には手間が掛かりそうですが、これなら従来の城壁よりも敵の侵攻を(とど)める事が出来そうだ!」

 

3人がそう話していると荷物を降ろし終えたCH―47JAが再びローターを回転させ離陸を開始した……そして北東の空から新たな輸送ヘリコプターの編隊がタイダル平野へと向かって来る姿が見えてくる。

 

「ほう……また同じモノが飛んで来ましたか、しかしあの空飛ぶ船の音、まるで戦陣を奏でる太鼓の音の様ですな。」

 

オコシ団長は新たに飛んで来たヘリコプターのローター音を聞きながらその様に呟く……そして三日後、大量の資材を運んで来た第四施設群の本隊が中央即応連隊と共にタイダル平野へと到着し、エジェイ駐屯地の建設が本格的に開始されるので有った。

 

 

続く




ようやく第四施設群によるエジェイ駐屯地建設にこぎ着ける事が出来ました。
物語は終盤に向け、自衛隊・クワ・トイネ合同軍のギム開放と変わりゆくナエノデンエン村の姿を書いていきます。

用語

木霊

『北の森』に住まうレント達が使用する長距離伝達手段、レントが頭部の枝木を激しく振る事で周囲の木々に言葉(実際は言葉と言うより符号に近い為、言葉として認識されず自動翻訳機能を持っている日本人でも聞き取る事が出来ない。)を伝播させる事で遠くにいるレントやハイエルフと連絡を行う。
木霊は使用したレントを中心に放射状に広がり、木々が隣接する限り何処までも伝播していき、その枝木を激しく揺らす事からハイエルフ達より木霊と名付けられた。
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