日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く   作:アニキ イン ザ スペース

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第十七話 成層圏の老兵

中央歴1639年(西暦2015年) 4月22日 クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ 銀山羊騎士団司令部

 

日本の防衛駐在官として城塞都市エジェイに滞在する山内三佐はギムの街への偵察任務後も情報収集や都市の位置測定を行うの為の電波を発信する作業を行う中、今日も朝早くから銀山羊騎士団司令部となった屋敷に設置された長距離魔導通信機を借りて公都クワ・トイネの日本大使館に連絡を行っていた。

 

「はい……今の所、小規模な騎兵の偵察隊を見かけるだけで、特に目立った活動は確認されていません……ロウリアの占領軍は本国からの主力がギムに到着するのを待っているのかと思われます……。」

 

これ迄、集めて来た些細な情報を日本大使館の久光一佐に話す山内は、魔導通信機のスピーカー前に置いているタブレット端末に映し出された文字情報に目を通すと、タブレット端末を手に取って素早く文字を入力する、そして『送信』のボタンを指で押して、魔導マイクの前にタブレット端末を置いた……すると端末の画面に「送信中…」の文字が表示され、ゆっくりと送信率のパーセンテージが上がっていった。

 

山内が手にしているタブレット端末には工作員との連絡用に作られた、文字情報を音声通信に紛れ込ませて送受信するアプリケーションが起動しており、人間には聞こえない音波を使った符号信号を送る事で、短い文章の送受信を行い画像に文字を表示させて連絡を行う事が出来た。

 

魔導通信機の音声通信でもこのアプリケーションが使える為、山内達は重要な事柄はタブレット端末にテキスト表示させる事で、隣の部屋で聞き耳を立てているクワ・トイネ騎士達の盗聴を防いでいた。

 

通信を終えた山内はタブレット端末を田崎に渡し、長距離魔導通信機が設置されている横の壁をドンドンと強く叩きこう叫んだ。

 

「悪いニュースだ! 昨日、日本が参戦を表明した!! これから到着する日本の部隊を歓迎する準備を始めたほうがいいぞ!!」

 

壁の向こうでは聞き耳を立てていたクワ・トイネの騎士がひっくり返る大きな音と共に騒ぎ始める声が聞こえる中、山内は田崎と共に通信室を後にする。

 

「田崎、見ての通りだ……お前は出発の準備を急げ! 俺はヘラに話をつけて来る。」

 

山内はそう言うと足早に屋敷を出て行き、残された田崎がタブレット端末に表示されている文書を見ると、この様に書かれていた。

 

「――― ギムの街を占領するロウリア軍の監視を行う偵察隊派遣の為、当部隊との合流と現地での案内を行われたし……現地到着予定時刻、4月23日 03:00時 ―――」

 

 

屋敷を出た山内が冒険者ギルドに到着すると入り口前にはアメリア姉妹の姿が有り、山内を見ると2人は残念そうな表情をしながら軽く会釈をして早々と立ち去っていった。

 

「おや、今日はタザキはいないんだ……あの娘達も、せっかく来たのに無駄足になっちゃったね!」

 

ギルドの入口で様子を見ていたヘラが笑みを浮かべながら山内に話しかけて来る……。

 

「アンタが来る前にあの娘達と話していたんだけど、今はエジェイに住んでいる叔母の家に厄介になっているって言っていたよ、それ以外は……タザキの事をアレコレ聞かれてね……。」

 

ヘラは苦笑交じりでその様に話す、どうやら姉妹たちは自分達を助けてくれた田崎に夢中な様で、ほぼ毎日の様に屋敷や冒険者ギルドの前で待っている姿が見られ、今日も田崎に会うべく冒険者ギルドの前で待ち構えていた様だ……それを聞いた山内も思わず苦笑いしてしまう。

 

「それよりも話したい事が有る……前に話した『北の森』のあの場所を俺達で使う話だが、問題は無いか!?」

 

「あぁ……あの場所なら以前に話した通りアタシとチチ―ナ、それと一部の冒険者しか知らない場所で、知っている奴らもアタシの案内無しで行こうなんてしないよ……ところで、あの場所を何時まで使うんだい?」

 

「ギムの街を解放する迄だな……この後、直ぐに俺と田崎だけで出発するから、今回は現地の案内は不要でいい! それと悪いが、俺達が『北の森』にいる間は他の冒険者連中に来させない様にして欲しい。」

 

「分かったわヤマウチ……多分、無いとは思うけど知っている連中には連絡が取れたら『北の森』には行かない様に言っておくわ。」

 

山内はヘラと話し有った後、屋敷に戻り準備を終えた田崎と共に馬に乗りエジェイの西門を抜けて『北の森』へと向かって行った……。

 

 

同日 正午前 日本国沖縄県石垣島 新石垣空港

 

山内達が『北の森』へと向かっている間、日本の首都で有る東京から南西に約2000km程離れた離島である沖縄県石垣島の新石垣空港では、2000m級の滑走路を見渡す事が出来る展望デッキに平日にもかかわらず多くの人々が集まっていた。

彼らの視線の先には誘導路を地上走行し滑走路へと向かう8機のまだら模様の飛行機の姿が有った。

 

3日前、転移により国内便の発着数がめっきり少なくなった新石垣空港に突如飛来して、駐機場の片隅で身を寄せ合うように駐機していたまだら模様の機体は、この日が来るのを待ちかねたかの様に滑走路に並ぶと、大きな音と共に次々と離陸を始め、大空へと飛び立って行く……飛び立つ機体を眺めていた展望デッキの人々は「本当に戦争が始まった……。」と口にしながら、轟音を響かせ上昇旋回していく機体を見つめていた。

 

新石垣空港を飛び立ったまだら模様の8機の機体……航空自衛隊第501飛行隊所属のRF-4EJ偵察機は編隊を組み上昇しながら高高度で空港の上空を通過すると、それぞれが指定された方位へと2機ずつに別れ、ロデニウス大陸が在る南へと向かっていった……。

 

4組に別れた分隊の内、408号機とペアを組んで飛行する380号機の操縦士で在る 座間(ざま) 京介(きょうすけ) 三佐は、落ち着いた様子で地球とは異なる平たい水平線と宇宙との境が見え始めている群青色の空の合間を見つめていた。

 

「地球よりも水平線が丸みを帯びていない事を除けば空の色も景色も全く同じか……さて、間も無く陸地が見えて来る筈だが……!?」

 

座間三佐がそう呟くと、南の海に緑色の大地が見え始め、後方を飛行している408号機より撮影を開始するとの無線連絡が入った。

 

 

日本国は兼ねてより、クワ・トイネ公国に対して鉄道・道路といった交通網の整備を行う為には、航空写真による精密な地図が必要で有ると説いており、クワ・トイネ国内での飛行場の建設と航空機の飛行許可の交渉を行っていた……しかし、ロウリア王国による軍事侵攻により、今度は派遣される自衛隊の作戦遂行に必要な現地の地図が求められる事となる。

 

……しかし、クワ・トイネ公国から提示された地図は、地球の時代で言う所の測量術が確立されていなかった大航海時代以前のレベルの物で、住居が書かれている都市の地図は兎も角、国土地図になると地形は曖昧で、都市間の距離についても「徒歩で十数日、馬で数日」と注釈が書かれているだけで、これを見た防衛駐在官の久光一佐は軽い眩暈を感じたと話していた……。

 

この様にクワ・トイネ公国の地図作成に急遽迫られた為、統合幕僚監部では航空自衛隊の偵察部隊で有る第501飛行隊の偵察機を移動演習の名目で、ロデニウス大陸に一番近い中規模空港で有る新石垣空港へと派遣決議前に集結させ、日本政府の派遣決定とクワ・トイネ政府の領空飛行受け入れの受諾により、待機していた8機のRF-4EJが直ちに出撃を開始した。

 

8機4組のRF-4EJの分隊はブリーフィング時にそれぞれの都市から発信された電波の位置測定から割り出された方位へと真っ直ぐ飛行する様に指示されており、公都クワ・トイネと港町マイハーク、そしてナエノデンエンと呼ばれる村への方位に向かう分隊と、戦地に近い城塞都市エジェイ方面へと向かう座間三佐らの分隊に別れ、それぞれが目的の方位へと飛行を続ける……。

 

やがて陸地へと達したRF-4EJは偵察ポッドに収容されたカメラにて地上の撮影を開始し、カメラのフィルムと航続距離が許す限りクワ・トイネの空を真っ直ぐ飛び続けるのであった……。

 

 

――― 2機のRF-4EJは城塞都市エジェイの方位へと向かいクワ・トイネの内陸部へと飛行を続けるが、先に撮影を行っていた408号機よりフィルムが切れるとの無線報告を受け、座間三佐は後部座席の 吾妻(あずま) 純一(じゅんいち) 二尉に地上撮影を行う様、指示を出す。

離陸してからここまで一言も発していなかった吾妻二尉は既に撮影の準備を終えていたのか「了解、撮影を開始します……。」と言葉少なげに返答し地上の撮影を開始する。

 

偵察ポッドのフィルムを使いきった僚機で有る408号機が新石垣空港に戻るべく離脱を開始し、空と海の合間へと消えていく……ここからは座間三佐と吾妻二尉が機上する380号機の単独飛行となり、萌木色の大地が続くクワ・トイネ公国の内陸へと進んで行った……。

 

座間三佐達のRF-4EJ偵察機は航続距離を伸ばす為に、増槽と偵察ポッド以外の外装品は全て外され、自衛用のミサイルだけでなく20mmバルカン砲の弾薬すら搭載されていない……この作戦飛行で障害になるのは悪天候と『異世界由来の未知の存在』のみとブリーフィング時に言われたが、高度28000フィート(約8300m)を時速490ノット(約907km)で飛行するRF-4EJに追いつく事が出来る存在は未だ確認されておらず、非武装の偵察機は雲一つない戦地の空を悠然と飛行していた……。

 

「……まったく、このロートルにまだ乗り続ける羽目になるとはな……。」

 

長年使い込んで持ち手部分がすり減った操縦桿の感触を確かめながら、座間三佐はそう呟く……。

 

このRF-4EJはその古さから若手の整備員より「おじいちゃん」と呼ばれ、デジタル化が進んだこの世の中で、計器類や操縦方式はおろかカメラですら未だにフィルムで撮影してる時代遅れのアナログ偵察機で有る……そう遠くない将来に高精度なデジタル写真をリアルタイムで送信し、長時間飛行可能な無人偵察機と交代して全機退役する予定だった……。

長きに渡りこの機体と共にし、現役パイロットの中では最高齢に属する座間三佐もこの機体の退役と共にパイロットとしての現役を引退する予定だったが、異世界転移と言う前代未聞の出来事により後継機計画は無期延期となった為、当面はこの機体を運用し続ける事になり、これに合わせ座間三佐の現役引退も先送りされる事となった。

 

「……まぁ、重要なお役目を貰ったんだ! コイツとは最後まで付き合うとするか。」

 

座間三佐はそう思いながらも、そろそろ帰投する為の燃料が気になって来た頃、後部座席で撮影を行っていた吾妻二尉より「フィルムを使い切りました!」と報告が入った。

それを聞いた座間三佐は航空無線で帰投する旨を基地に報告すると、機体を大きく旋回させ帰投を開始した。

旋回中、地上に大きな街が見えたので、恐らくこれが目標にしていたエジェイの街だろうと思いながら、座間三佐達が乗るRF-4EJ・380号機は新石垣空港へと帰還した……。

 

その後も幾度と無く、501飛行隊の偵察機はロデニウス大陸へと渡り、撮影された航空写真のフィルムは現像後にデータ化され本土へと送信されて地図が作成されていく……。

この地図により統合幕僚監部は、クワ・トイネ派遣部隊の拠点を何処に建築するか検討を始め、数ある候補地の中から補給路となる街道や都市からも近く、ロウリアの武装集団の掃討と拠点制圧を行うのに相応しい場所として、城塞都市エジェイ東方に在るダイタル平野と呼ばれている土地が選定された。

 

続く




ついにその重い腰を上げた日本国がクワ・トイネ公国を救うべく動き始めました。
次回は、特戦群の偵察部隊を迎え入れるべく、山内達は再び北の森へと向かいます。


用語

可聴外音波符号信号送受信アプリ

(正確な名称が不明な為、この様な名称とする。)
本来、別班の諜報部員の連絡にはテレグラムやシグナルに類似する秘匿性の高いメッセージングソフトウェアを使用しているが、一般のAМ放送に紛れて発信される可聴外の音波や極秘の短波放送(俗にジャパニーズスロットマシーンと呼ばれている。)から発信される暗号文を復号する為のソフトウェアが別班により使用されている。
このソフトウェアはスマートフォンやタブレット端末の差し障り無いのアプリケーションに偽装されており、使用には(可聴外の音波を効率良く送受信する為に)外付けバッテリーに偽装したマイクとスピーカーが必要となる。
クワ・トイネ公国との国交時に研究用に持ち込まれた魔導通信機器を調査した際、この装置が使用出来る事が判明した為、山内はクワ・トイネ公国に持ち込んで使用している。


新石垣空港

沖縄県石垣市(石垣島東部)にある地方管理空港であり、定期便が発着する空港としては日本最南端の空港で有る。
(日本最南端と空港としては波照間島の波照間空港が在るが、滑走路が800m程しか無い為、戦闘機の発着陸に不向きなので今作では使用されていない。)
日本本土とロデニウス大陸の中間に位置する空港の為、参戦序盤には偵察機部隊の拠点として、又は輸送機の緊急着陸場所として使用された。
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