日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く 作:アニキ イン ザ スペース
中央歴1639年(西暦2015年) 4月22日 正午過ぎ クワ・トイネ公国 ギムの街から約20km程の街道
馬に跨った山内と田崎はエジェイの西門を抜け、ギムの街へと続く草原の道を再び『北の森』へと向かうべく進み始める……2人は敵や味方との接触を避けつつも街道沿いを進んで行くが、道中に立ち寄った村々には既に人の姿は無く、どの集落もロウリア軍に使われない様に全ての家々が焼かれており井戸も破壊されていた。廃墟となった集落を抜けて、以前ロウリア軍の騎兵達と交戦した丘陵地にたどり着くと、エジェイに戻る時には野ざらしのままだったロウリア騎兵の死体は敵によって回収されたのか無くなっており、辺りは風に靡く草木が地平線の向こうまで続く景色が続いていた……。
「ここまで何も無く来る事が出来たが……騎兵は兎も角、空からワイバーンに見つかったら一大事だ! 田崎、急ぐぞ!!」
馬上から双眼鏡で周囲を観察していた山内は田崎に向かってそう言うと空から微かにジェット機の音が聞こえて来た……彼は空を見上げ、ニヤリと笑みを浮かべながら馬の手綱を右に引き、急ぎ『北の森』へと向かって行った……。
中央歴1639年(西暦2015年) 4月23日 深夜 クワ・トイネ公国 『北の森』付近の草原
それから深夜を迎え、漆黒の夜に無数の星々が輝く空の下『北の森』に近い東の草原では、無線機を手にした山内と高く伸ばしたアンテナポールを真っ直ぐと両手で支えている田崎の2人が北の夜空を見上げていた。
「まだ、来ませんね……。」
田崎は左腕に嵌めた腕時計をちらりと見ると既に3時20分を過ぎており、彼はラジオビーコンを先端に取り付けた5m近いポールを真っ直ぐ支える為に1時間以上同じ姿勢を続けていた為か、疲れからか少しづつ傾くアンテナを真っ直ぐに立て直そうとしていると、山内が手にしている無線機からノイズ混じりの声が聞こえ始めた。
「………ちら……ーバー1、こちらウーバー1、バッドアス聞こえますか……。」
「来たっ!」と山内は小さく呟くと無線機のプレストークボタンを押して交信を開始する。
「こちらバッドアス、聞こえている、どうぞ!」
「ウーバー1より、バッドアスへ、そちらのビーコンを確認した、位置確認の為、レーザー照射されたし、どうぞ!」
「バッドアス了解、これよりレーザーを照射する!」
山内は無線でそう告げると、予め設置していたレーザーポインタ装置のスイッチを入れると、装置から暗視ゴーグルで判別できる非可視の光線が夜空を貫くかの様に光り出した。
「こちらウーバー1、レーザーを確認した、これより降下準備に取り掛かる!」
無線が終わると上空から微かな風の音とは別の唸る様な音が聞こえ始め、山内達が見上げると……夜空の中を沖縄から飛来してきた航空自衛隊のC-130H輸送機が2つの月明かりに照らされながら飛行しているのが見えた。
「田崎、アンテナはもういい……連中を出迎えるぞ!」
山内がそう言うと、上空を飛行しているC-130Hの後部から黒い小さな影がバラバラと飛び出して来た……その小さな黒い影はしばらくの間真っ直ぐと降下していたが、黒い落下傘を開くと夜空を舞うかの様に旋回しながら山内達がいる方向に向かって、一人また一人と地上へと降りて来た。
C-130Hから自由降下で地上に降りて来た1人が、
「自分は第2中隊、偵察班所属、
「一ノ瀬三尉、ようこそクワ・トイネへ! しかし、こう俺の悪名ばかり広がるのも困りものだな……。」
偵察班を名乗る一ノ瀬ら降下して来た8人の隊員達は田崎と同じ陸上自衛官の中でも最精鋭達が集う特殊作戦群の隊員達で有り、ギムの街を占領したロウリア軍の動向を監視すべく、クワ・トイネ公国にも知られる事無く密かに派遣されたので有った。
「山内三佐、輸送機より物料投下を行うと連絡が有りました!」
「分かった……おいっ、荷物が降って来るぞ! 皆、レーザーポインタから離れるんだ!!」
無線機を預かっていた田崎の報告に山内は全員に声を掛ける……しばらくすると夜空の中をC-130Hのシルエットが山内達の上空を通り過ぎると同時に一個の大型投下容器が地上へと投下され、パラシュートが開き降下するとレーザーポインタから10m程離れた場所にドスン!と言う大きな音と共に地面へと降りて来た。
「ウーバー1より、バッドアスへ……配送を完了、RTB(リターントウベース)!」
荷物を投下したC-130Hが北の空へと飛び去ってくのを見送った山内達は投下容器の前へと集まって来る……。
「これ、どれぐらいの重さが有るんだ……!?」
「このパレットのサイズだと約250kgぐらいだな……。」
「うへぇ……1人辺り25kg荷物の追加かよ!」
特戦群の隊員達は追加で持たされる荷物の量にうんざりとしながらも、投下容器の解体を行い中の荷物を取り出し始めた。
東の空が少しずつ白み始める頃、山内と特戦群の隊員達はパラシュートを纏め、投下容器のパレットを解体し残った荷物を背負子に詰め込み、空挺降下した痕跡を全て消し去り終えると、目的地で在る『北の森』へと出発を開始する。
「よ~し! これから『北の森』の泉が在る場所へ向かう! 万が一、道に迷った時はブラックライトでマーキングした木を探せ、森の奥で迷ったら帰れなくなるぞ!」
山内が皆にそう伝えると、暗視ゴーグルを装着した田崎を先頭に特戦群の隊員達は木々が深く生い茂る真っ暗な『北の森』へと入って行く……。
「山内三佐……今向かっている場所は敵も味方もやってこない『聖域』だと言う話ですが、どうして街の近くにその様な場所が在るのですか?」
一ノ瀬三尉の質問に、山内は「良い質問だな!」と言わんばかりの表情を浮かべながら答える。
「結論から言うと、この『北の森』に生息しているレントと言う生き物の生態が知られていないからだ……レントは木が進化した様な奇妙な生き物だが、見た目以上に強い上に自分達のテリトリーで在る森を破壊する連中には容赦をしねぇ……これまで森に入った奴らはその事を知らずに森の木を切ったり、火を起こすからレントの怒りに触れて森を追い出されてからは誰も『北の森』には入らなくなった……。 案内してくれた冒険者のヘラもレントの事は森に住むハイエルフの師匠から教わったと言っていた、それとレントは…………これは現地に着いてから話すとするか。」
山内はそう答えると、周囲が明るくなって来たので暗視ゴーグルのスイッチを切り頭から外した……彼らが目的地の泉に着くころには日が昇り、木々の間から見える空が明るくなり始める中、山内達は僅かな水が流れる小川の横を泉へと向かい歩いて行った。
同日 早朝 クワ・トイネ公国 ギムの街から北へ約15km程の『北の森』泉の拠点
木々の間から青空が見える時間帯となり、山内達は目的地で在る『北の森』の泉に到着した。
泉の傍には杭に手綱を付けられた2頭の馬達が大人しく佇んでいる姿が有り、隊員達はようやく到着したとホッとしながら荷物を載せた背負子を降ろし始めた。
「おーい! 休む前に紹介したい奴が居るんだ、皆こっちに来てくれ!!」
山内が巨大な大木の前に全員集まる様に指示を出すと一ノ瀬達、特戦群の隊員達は「紹介したい奴?」と言う言葉に首を傾げながらも山内の前に集まる。
「紹介するぜ、彼が木人ことレントの『泉の見張り役』だ!」
山内は目の前の巨木を指差すと、木の幹に有る目と口が開き、巨木はとても低くゆっくりとした声で喋り始めた。
「うむぅ…………しゃべれるニンゲン……いっぱい……おどろき…………こんごとも……ヨロシク……。」
「しゃ……喋ったぁ!!!!」
一ノ瀬三尉を始め、特戦群の隊員達は巨木が日本語で喋る事に、腰を抜かさんばかりに驚いているのを見た山内は笑いながら答える。
「実は昨日、この泉に到着した後、このレントに挨拶をすると返事を返して来てな……あん時は俺も田崎と一緒にビックリしたの何のって!」
一ノ瀬達、特戦群の隊員達は人間以外の生き物が言葉を話す事に呆然となっている中、山内は再び笑みを浮かべ話し始める。
「一ノ瀬三尉……これが異世界だ! どうだい、楽しくなって来ただろう……。」
山内の言葉に一ノ瀬三尉率いる特戦群の隊員達は互いに顔を見合わせた後、同じ様に笑みを浮かべた。
続く
山内達は特戦群の偵察部隊と合流を果たし、北の森を拠点として偵察活動を本格化しました。
次回からは、ロウリアとの戦いの向け自衛隊の部隊を送るべく日本と言う巨大な山が動き始めます。
用語
泉の見張り役
『北の森』の泉に定住?している、樹齢推定4000年のレント。
普段はその名の通り、森の中に在る泉付近に根を張って周囲の木々と共に過ごしている為、大木で有る以外、他の木と区別がつかない。
レントは独自の言語を持つ為、ハイエルフ以外の種族とは意思の疎通を取れないが、どういう訳か山内達とは会話が可能で有る。
彼らの名前は、自身が普段根を降ろしている場所の環境から 名前を取るらしく、稀に森から森へと大きく移動する個体はその都度名前が変わるとの事らしい。