日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編   作:アニキ イン ザ スペース

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「― その日、日付が変わると同時に夜空が白く光り、震源地不明の不可解(ふかかい)な地震が日本全土を()るがした……。 深夜に総理に叩き起こされ、官邸へと向かうべく車に乗り込もうとすると、ドアを開けようとした運転手が急に怯えるかの様に空を指差し始める……。 何事かと見上げると、そこには青白く輝く2つの月が夜空に浮かんでいた……いったい何がどうなっていると言うのだ!? ―」

― 内閣副総理大臣の手記より ―


第一話 異世界への船出

中央歴1639年(西暦2015年) 2月8日 日本国 栃木県 真岡市

 

 

日本国が異世界へ転移すると言う前代未聞の事態から2週間が経過し、今だ国内ではその混乱が収まり切れていない中、ここ栃木県真岡市の郊外の農地では夜になると収穫を迎えたイチゴのビニールハウスに電照栽培(でんしょうさいばい)の明かりが燈り、その柔らかな光で夜の田園地帯を照す例年通りの光景が広がっていた。

 

やがて日を跨いで丑三(うしみ)(どき)を過ぎた頃、静まり返った真夜中の農道を一台の軽トラックがゆっくりとした速度で走って来る、二人の男を乗せた軽トラックは電灯の付いたイチゴのビニールハウス付近の空地へと駐車してきた。

 

軽トラックはエンジンとライトを掛けたまま駐車を続けており、中に乗っている二人の男達は車から降りる事は無く、時おり外の様子を(うかが)うかの様に辺りを見回していた。

 

「なぁ、父さん……。」

 

軽トラックの助手席に座っていた若い男が運転席に座っている白髪の男に話しかける。

 

「収穫前の作物を盗んでいく奴って、どう考えても地元の人間だろ……隣町の連中はともかく、都会の奴らが今ココに来る事なんて出来ないはずだし!」

 

彼は車内のボードに後付けされたカーナビを指さす、カーナビのモニターには地図は映っておらず『GPS情報を受信できません、受信衛星数:0』と画面に表示されていた。

 

使えないのはカーナビだけでは無い、彼が手持ち無沙汰(ぶさた)に取り出してはポケットにしまうスマートフォンもそうだった……何でも携帯電話の無線基地局はGPS衛星から発信される精密な時間情報を受信する事で送受信のタイミングを確保して通信を行っていたが、異世界への転移によりGPS衛星からの電波を喪失した為、今ある携帯電話やスマートフォンは電話機能はおろかネットワークを含め、全ての携帯の無線通信サービスが使えない状況になっている。

 

転移後、各電話会社では時間情報をGPS衛星に頼らない方式に急遽(きゅうきょ)切り替えている為、都市部では(おおむ)ね携帯が使える様になっているが、地方で使える様になるにはまだ時間が掛かるらしい。

 

「そうかも知れんが実際、隣の県で畑泥棒が多発しているって報道がある以上、大事な畑をほっとく訳にはいかん! そもそも誰が盗みに来るかより盗ませない事が重要だからな。」

 

運転席の白髪の男はそう答えながら車の窓を少し開け、ポケットから煙草(たばこ)を取り出し吸い始める。

 

日本が異世界に転移してエネルギー・食料危機問題が叫ばれる様になってからガソリン・灯油代が急騰(きゅうとう)、販売制限がされる様になり、テレビでは国内全ての自動車の運行は許可制にするかの議論が話題を呼び、食料品については各地で買い占めや盗難が多発、畑で収穫前の作物が盗まれる事件が各地で発生した為、全国の農家では夜間の見回りを強化する等、対応に追われており、そしてここ栃木県で農家を営む比留川(ひるかわ)一家も収穫前のイチゴを守るべく日夜、交代で見回りを行っていた。

 

助手席に座る息子の克義(かつよし)がポケットに有るスマートフォンを出しては戻すを繰り返す姿を見て、運転席に座っている父親の宗一郎(そういちろう)はカーラジオのスイッチを入れた。

 

「…………その為、野党からの反発が高まっています……次のニュースです……昨日、東京入りしましたクワ・トイネ公国使節団(こうこくしせつだん)は……。」

 

ラジオからは昨日、東京に到着した異世界国家のクワ・トイネ公国使節団が本日、赤坂迎賓館(あかさかげいひんかん)にて日本政府との実務者協議(じつむしゃきょうぎ)を行うとのニュースが流れていた。

 

「異世界の国と会談とはねぇ……日本がまるごと異世界とやらに転移したって言われても、今だ理解出来ねぇんだよな……しかし、こうなる前にお前が日本に帰って来てくれたのは本当に幸運だったよ!」

 

「ええ、父さん……あの時もし帰るのが遅れていたら、ホントどうなっていたのか……。」

 

助手席に座る息子の比留川(ひるかわ) 克義(かつよし)は日本が異世界に転移する以前はJICA(国際協力機構)の技術協力専門家としてミャンマーに赴任しており、転移する前日である1月23日の夜に運良く日本に帰国していたのだ。

 

「……ちょっと、外の空気を吸って来る。」

 

嫌煙家(けんえんか)で在る克義は煙たくなった車から降り、少し離れた場所で冷たい空気を吸うと、おもむろに夜空を見上げた。

 

「異世界に来たって実感できるのって、今のところアレだけなんだよな……。」

 

寒空の澄んだ空気の元、広がる満天の星空だが、そこにはこの時期にはっきりと見える筈の北斗七星の姿は無く、そして夜空に浮かぶ月も……地球の月とは違い2つ存在する……これこそ日本が以前の世界とは異なる場所に転移した事を証明する信じ難い光景であった。

 

「これから、いったいどうなるんだ……そしてどうすれば!?」

 

この先この国に襲い掛かるであろう食料難に対して、農業工学を専門とする彼はいったい何が必要か、自分に何が出来るのかを思案する……だが、農業機械を動かす為の燃料、農作物を育てる為の肥料……いずれも今まで海外から輸入していた物だ、これら無しにいったいどうすれば……克義は神秘的な輝きを放つ2つの月を見つめながら日本の未来を案じるのであった。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 2月19日 日本国 東京都 千代田区

 

その日、比留川 克義は慣れない背広姿で東北・北海道新幹線に乗り込み東京へと向かっていた。

昨日、畑の見回りを終えて就寝(しゅうしん)しようとしたところ、東京のJICA本部より実家の固定電話に電話が掛かって来て、外務省に向かう様に指示されたのである。

しかし、本部の有る麹町(こうじまち)や大手町ならまだしも、行き先が霞が関の外務省とはどう言う事なんだろうか……? その様な事を考えていると、胸ポケットにしまっていたスマートフォンのバイブレーションが鳴り響いた。

 

(おや? そうか……携帯が使える地域まで来たのか!)

 

スマートフォンを取り出し、SNSを見ると彼の同僚である牧田(まきた)からのメッセージが表示されていた。

 

【今、外務省についた! 途中、原発再稼働反対のデモ隊に出くわしたけど、数少なすぎてワロスwww】

 

(あ~! そう言えば昨日、原子力発電所の再稼働が閣議決定(かくぎけってい)されたってテレビで言っていたな……って、牧田も呼ばれているのか!?)

 

生産植物学を専門とする農学者である牧田は、これまでも何度か一緒に仕事をした事や歳も同じ事も有り、気兼ねなく話が出来る同僚の一人である。

そして牧田の到着から遅れる事30分後、比留川も霞が関に所在する外務省の1階エントランスに到着した。

 

「お~い! 比留川君、こっちだ!!」

 

エントランス内には複数の人々がいる中、前回のミャンマー派遣時に責任者を務めていた出渕主任(いずぶちしゅにん)が声を掛けて来た、彼の横にはさっきSNSでチャットを送ってきた牧田も一緒にいる。

 

「急な呼び出しで済まなかった、今回は外務省……もとい政府からの急を要する依頼と言う事で君達に来てもらう事になった。」

 

「政府の……ですか? ところで今回、呼び出されたのはいったい……?」

 

「その前に比留川、アレを見ろよ! 制服を着た陸海空の自衛隊、その横は商社と商船会社にゼネコンの面々……おや? 鉄道会社もいるな!? 感じからしてオレ達と同じ用件で呼ばれて来たみたいな……あ~! これって、国を挙げての大プロジェクトって奴!?」

 

出渕主任に質問をしようとしていた比留川に対し、牧田がエントランスの周囲を見渡しながら話に割り込んで来た。

 

「自衛隊にゼネコン!? だったら、なんで俺達が……!?」

 

「比留川君、異世界国家のクワ・トイネ公国の事はテレビでもやっているから知っていると思うが……一昨日、政府ではその国との国交樹立後に日本への食糧を輸出する為のインフラ整備を行う大規模なODA(政府開発援助)が決まってね……それで海外で農業機械に関する技術指導を行って来た実績のある君をここに呼んで来た! ()(かく)、今日行う会議は日本の明日が掛かっていると思って欲しい!!」

 

「はぁ……!?」

 

突飛(とっぴ)な出渕主任の話に対し、比留川はその意味を理解できずにいると、2人の外務省の官僚がセキュリティゲートを抜けてこちらにやって来た。

 

「ようやく来られたか……あちらの白髪の方は前島さん、今回のプロジェクトはあの方が担当される、そして横にいる方はクワ・トイネ公国との交渉を担当され、大使にも内定してる田中さんだ。」

 

出渕主任がその様に紹介すると挨拶もそこそこ、比留川達3人は外務省の職員に案内され用意された会議室へと向かう、そしてここで行われた会議は出渕主任が言った通り、日本の明日が掛かった重要な会議となったのであった。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 2月27日 日本国 東京都 中央区 晴海ふ頭

 

冬の終わりを告げるかの様な暖かな日差しが降り注ぐここ晴海ふ頭では多くの人、車両、荷物が集まり、間もなく国交を樹立するクワ・トイネ公国へのODA(政府開発援助)の物資を輸送艦で送る為の準備が行われていた。

JICAから農業機械の技術協力専門家と第一次派遣チームの団長としてクワ・トイネ公国への派遣が決まった比留川も、同行する自衛隊員達と共に運んできた機材を自衛隊の車両に移し替える作業を行っており、中でも農業用大型トラクターを自衛隊のトレーラーに載せ替える作業は、その搭載する車両の珍しさもあってか多くの人が集まり見守っていた。

 

「比留川さん、これダンボルギーニじゃないですか! 初めて見ましたよ!!」

 

一緒に作業を見守っていた自衛官がトラクターに付けられた荒ぶる雄山羊(アイベックス)のエンブレムを目にして比留川に話しかける。

 

ダンボルギーニ……イタリアでスーパーカーを製造するメーカーとして世間では知られているが、元々は大型農業機械を製造している会社で有り、そのトラクターはその性能と希少さから国内では『農道のスーパーカー』とも呼ばれていた。

異世界転移により輸入が途絶えた日本の代理店が、会社を解散する前に売り込みを掛けてきたのを、今回のプロジェクトに合わせて買い取った車両である。

比留川は車両担当の自衛隊員と共にトレーラーに積載されたトラクターが、ちゃんと荷締めバンドで固定されているのを確認した後、埠頭側に目を向けた。

 

「しかし、まさかコレをコイツに載せて行くとはねぇ……どう言う組み合わせなんだか……!?」

 

そこにはランプドアを展開し次々と大型トラックを艦内に載せていく巨大な灰色の艦艇が停泊していた。

 

おおすみ型輸送艦 2番艦 くにさき

 

全長178m、満載排水量14000トンのその巨体は横付けされた晴海ふ頭のH-Lバースを大きく占有し、見る者を圧倒していた。

今回、プロジェクトを主導するJICAより自衛隊への民生支援依頼が行われた事により、海上自衛隊の輸送艦である「くにさき」が派遣される事となった。

 

政府開発援助を行うに当たりクワ・トイネ公国に多くの物資・機材が送り込まれる事になるのだが、クワ・トイネ公国の港は水深が浅く日本の大型外航船が入港出来ない上に機材を陸揚げする港湾施設も無い為、海岸に上陸できるエアクッション型揚陸艇(LCAC)を要するおおすみ型輸送艦にて現地への輸送を行う事となり、さらに道中は未舗装の道を移動する事になる為、民間の一般車両では移動に支障が出るとの判断により、トラック等の車両についても陸上自衛隊の車両を使用する事となり、さらに現地での職員の宿舎や通信施設の建設も必要で有る事から、陸上自衛隊の施設科の部隊がJICAの職員達と同行する事となった。

 

こうして異世界初の政府開発援助の準備を慌ただしく終える頃には日は西へと傾き、夕陽を浴びながら晴海ふ頭に佇む「くにさき」は明日の出港を迎えた。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 2月28日 日本国 東京都 中央区 晴海ふ頭

 

昨夜遅くに降り注いだ通り雨が路面を濡らし肌寒さを感じる曇り空の中、クワ・トイネ公国政府開発援助の第一陣である輸送艦「くにさき」の出港式が行われた。

各関係者やメディアを集めてのセレモニーが終わり、輸送と設営を行う陸海の自衛隊員と比留川が所属するJICAの職員、そして初の在クワ・トイネ特命全権大使となった田中 一久ら外務省の職員達が人々に見送られて次々と「くにさき」へと乗り込んで行く……。

 

やがて「くにさき」が出港の汽笛を埠頭に大きく響かせるのと合わせて音楽隊が「軍艦マーチ」の演奏を始め、舫いを解かれた「くにさき」はゆっくりと埠頭から離れていく……乗船した自衛隊員が見送る人々に手を振る中、比留川達JICAの職員や田中大使を始め外務省の職員達も甲板に上がり一緒に手を振っていた。

 

「そう言えば、埠頭の向こう側の開けた土地、本来ならオリンピックの選手村になる予定だったんだよな……。」

 

比留川は晴海展示場跡地の開けた土地を見ながらそう(つぶや)く、異世界転移の混乱により東京オリンピックの中止が発表され、関連施設の建設が無くなった事も景気に大きく影響するだろうと報道で取り上げられていた。

 

「何とかここまで漕ぎ着けました、ここまで大きな騒乱が無かった事が奇跡です……今回の外交は国民の生死に関わる以上、失敗は許されません!」

 

比留川の横に居た田中大使が見送る人々を見つめながらそう言うと、比留川は田中大使に笑みを浮かべ答える。

 

「それにはまず、食の確保ですね……だったら、お任せ下さい!」

 

出港した「くにさき」がレインボーブリッジをくぐり抜けると、何時しか曇り空の隙間から差し始めた光芒(こうぼう)が海を照らしだす……目指すはロデニウス大陸のクワ・トイネ公国、「くにさき」は再度大きな汽笛を鳴らし未知の大海へと向かって行った。

 

続く




ようやく投稿できました、日本国召喚二次創作の第二作目となります。
前回が本編では書かれる事の無い在日外国人達の話がメインとなりましたが、今作は転移後最初の危機を題材としまして、日本と国交を結んだクワ・トイネ公国を舞台にJICAの職員であり農業機械の専門家で有る比留川を主人公として日本国召喚本編では語られないであろう物語を進めて行く予定です。
(次回から本篇でお馴染みの人々や女の子達も出てきますよ~!)

実は異世界転生・召喚ものでプロジェクトⅩみたいなモノを書きたかったと言うのが有りましたが、オリジナルでやっても日本国召喚とガブるし、今回も二次創作でええやろ……と言う事で懲りずに始めてみました。

しかし相変わらず小説を書く時の言葉の言い回しは難しい……。


※ 転移後、携帯電話が地方で使えなくなっている件について……。

本作でGPS衛星からの信号が途切れた為、携帯電話が使えないと言うシーンがありますが、これはかなり作者の憶測で書かれている事を予めご了承下さい。
(全てのGPS衛星の信号が切れるとこうなる!……と言った資料が見つからなかったのでホントにこうなるかは不明です!)

物語の始まりの2015年は第4世代移動通信システム(4G)が主流で、このシステムだと通信同期を確保する手段として各無線基地局ごとにGPSアンテナを設置しGPS衛星から発信される時間情報信号を受信していたとの事です。 一応、GPS信号が一時的に途切れた場合はバックアップの時間情報を発信する装置が無線基地局には設置されている様なのですが、時間精度の低いクオーツを使用している問題で限られた期間(概ね2~7日)しか維持できないようです。

なお現在、主流となりつつある第5世代移動通信システム(5G)では中継局(電話局)を経由して無線基地局へ時間情報を送るシステムになっている為、信号の送り元がGPS衛星に依存していない限りこの様な事は起きないだろうとの話です。


用語

JICA

正式名称は『独立行政法人国際協力機構』外務省が所管する。政府開発援助(ODA)の実施機関の一つであり、開発途上地域等の経済及び社会の発展に寄与し、国際協力の促進に資することを目的としている。
本編の主人公で有る、比留川や牧田はJICAの『技術協力専門家』として転移前はミャンマーで活躍していた。
又、本編では語られないが転移により海外に居た3万人近くの職員や協力隊員が音信不通状態となっている問題を抱えている。

ダンボルギー二

スーパーカーで有名な欧州の自動車メーカー、エンブレムは荒ぶるアイベックス、スーパーカーの他にトラクターの製造・販売も行っており、一部から「農家憧れの一台」「農道のスーパーカー」と呼ばれている。
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