日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編   作:アニキ イン ザ スペース

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「全く、何がどうなっているんだ……!?」

農学者の牧田は頭を掻きながら、読んでいた紙を机へと放り投げる……。

異世界転移以来、気象庁を始め各機関が日本近辺の気象データを調査しており、日本国内の気候と年間気温は地球に居た時と余り変わらないとの予測が立てられていた。

しかし、この異世界……取り分けロデニウス大陸の気候はこれまでの気象学では説明が付かない事ばかりで、その中でもクワ・トイネ公国の気候は常識では考えられない事ばかりであった。

日本よりも南に位置し、標高も高い訳では無いのに、この時期の平均気温が23〜25度前後と地球で言う所の亜寒冷気候帯に近い気候になっているのだ……だが山脈を介した南部のクイラ王国の気温と気候は40度を超える過酷な乾燥帯で在り、これがこの土地本来の気候なのだろう……そして西のロウリア王国は国境の川を渡ると緑豊かなクワ・トイネと打って変わり、草木が疎らなサバンナの様な地形だったと使節団からの報告が有った。

「俺が気象学者だったら今頃、発狂しているかもな……。」

牧田はそう呟きながら、机に置いていたカップのお茶を飲み干し、一息つきなから考える……。

(地球でも海流の影響で気候が変化している区域が在ったが、このロデニウス大陸の気候の差は余りにも極端過ぎる……この異世界由来の魔法によるモノとも考えたが、村に住む魔術師の話によると、はるか昔には天候を変化させる魔術が有ったらしいが、効果が一時的な上に多くの術者の魔力を必要とするらしく、現在は存在だけが語られる『失われた魔術』だと話してくれたのを思い出す……。)

彼はそう考えながら、机に置いていたポスターケースから一枚の大きな紙を取り出す、紙の右端に『マル秘』の印字が書かれているそれは、これまで航空自衛隊が撮影したクワ・トイネ公国のほぼ全土とクイラ王国及びロウリア王国の一部の地形をデジタル合成した巨大な航空写真で有り、緑豊かなクワ・トイネ公国と他の国との差異が大きく表れている事が見て取れた。

「魔法で無いとすると、この世界の神……『緑の神』の御加護とやらが、大陸の天候をも作用しているって事になるのか!? 信じられねーけど、そう考えざる得ねぇよなぁ……。」

牧田はそう呟きながら窓の外を見つめる……そこには「緑の神」の加護を受けた土地で青々と育った麦の葉が、そよ風に靡く光景が地平線の向こうまで広がっていた……。



第十九話 ギム住民救出作戦

中央歴1639年(西暦2015年) 7月26日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村

 

エジェイの草原で激しい砲撃が繰り広げられる中、前線から東北東に約600km離れたナエノデンエン村ではJICA職員の団長で在る比留川とドワーフのダイスが、村に造られた新たな設備を見上げていた……。

 

「ほぉ……『風力発電機』と言っとったなぁ、以外と早く完成したのう!」

 

ドワーフのダイスは赤い顎髭を擦りながら、建てられた5基の小型風力発電機を興味深そうに眺める……。

 

「それとアッチは『太陽光発電』だったかのう……風の力を雷に変えるだけでも驚きなのに、太陽の光まで雷にするとはたまげたわぃ!」

 

村の住居や畑に不向きな傾斜地には、日本から持って来たソーラーパネルが設置され、ナエノデンエン村の新たな発電施設として既に稼働を開始していた。

 

「んで、その雷の力は向こうの透明な建物で使うと言う話じゃったなぁ……あんなにデッかくて硬い硝子を気兼ね無くココまで持って来るオマエさん達には毎度ながら驚かされるわぃ……。」

 

その様に言うダイスの視点の先には建てられたばかりの大きな温室試験場が在り、中では日本から持ち込まれた苗の植え込みが行われていた……。

 

 

「これはバナナの苗です、この他にもパイナップルやキウイにマンゴー、それにコーヒーやゴムの木なんかも植えますので、この温室もすぐに賑やかになりますよ!」

 

牧田の後輩で有る飯嶋が見学に来た領主代行のジョレーンとメイドのリドルに説明を行ないながら苗を地面に植え付けている。

今、植えているバナナも地球に居た時は南国から大量に輸入され、ありふれた果物で有ったが、今では沖縄や温室のみで育てられている希少な果物となってしまいスーパーからもその姿を消していた……。

 

「あのぅ……このバナナって、植えてから何時ぐらいで収穫出来るのでしょうか……?」

 

「通常は2〜3年程ですね、早ければ来年にも花を咲かせて甘い実を一杯つける事も有りますよ!」

 

「へぇ~! それよりもこのガラス張りの部屋……ちょっと暑いですぅ!」

 

ジョレーンの質問に飯嶋はにこやかな表情で答えると、今度はメイドのリドルが服の裾を扇ぎながら彼女に質問をして来た。

 

「えぇ……今ここで植えているのは暑い国の植物ばかりですから、建物をガラス張りにして太陽の熱で部屋を温めています……夜はそこに有るヒーターを使って温度を下げない様にしているんです!」

 

「ほぇ~!」

 

彼女の説明を理解しているとは思えないリドルの言葉に飯島は肩をすくめながらも植え込みを続ける……農林水産省の意向により当初の彼女の案よりも大規模に建設された温室試験場は巨大な透明アクリル板と鉄骨で建てられ、風力発電機と並び牧歌的な村の中で異彩を放つ建築物となった……。

 

(お父様……ニホンの人々は優しくて色々な事を教えてくれます、村にはガラス張りの不思議な建物が建ち、今日は美味しい実が成ると言う木の苗が植えられました……これがお父様が語ってくれたクワ・トイネの未来なのですね……。)

 

ジョレーンは急激に変わりゆく村の光景に戸惑いを感じながらも父の言葉を信じ、苗を植え続ける飯嶋の姿を見守るので有った……。

 

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 7月26日 夕刻前 クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ

 

 

エジェイ攻略に向け西の草原で陣を構えていたロウリア王国諸部族連合軍が、日本国自衛隊の「後方支援」により消滅した衝撃が収まらぬ中、銀山羊騎士団の拠点となっている屋敷の廊下を騎士団長のオコシと防衛駐在官の山内が早足で駆け抜けて行く……。

 

「ヤマウチ殿、それは誠ですかっ!!」

 

「えぇ……奴が動き出したとの確かな情報が入りました! 詳しくは部屋でお話します。」

 

その様な会話の後、2人が防衛駐在官用に貸し出している一室に入ると、部屋の中央にはカメラと大型モニターが設置され、セッティングを行っていた田崎 三曹が入室した2人に対し挙手の敬礼を行う。

 

「ご苦労、田崎 三曹……………後はこっちでやる、頼んだぞ!」

 

山内の言葉に田崎は再度、挙手の敬礼を行い足早に部屋を出て行く……何時もと雰囲気が違う事にオコシ団長は「はて?」と首を傾げる。

 

「ヤマウチ殿、どうかされたのかな?」

 

「あぁ、彼には別令が有りまして……それより此方の席にどうぞ!」

 

山内に案内され、オコシ団長は大型モニターの前に置かれた椅子へと座る、目の前に有るモニターには半分割された画面が写っており、右側には「在クワ・トイネ日本大使館 音声のみ」と日本語と大陸共通語で書かれた文字が表示され、左側には会議室らしき部屋を背景に2人の男性の姿が映っている。

 

「昨日はどうもオコシ団長、来られましたか!」

 

モニターに映る男性の1人、大内田 陸将の動く姿にオコシ団長は思わず目を丸くする。

 

「これは……確か以前話されていた「てれび会議」ですか!? まさかこの様な……。」

 

「はい、現在は我々エジェイ駐屯地の作戦室と音声だけですが日本大使館の双方に(つな)がっています!」

 

「あぁ……まったく今日の『後方支援』と言い、まだ驚かされる事が有るとは……。」

 

オコシ団長は第一文明圏……それも最強の列強国で無ければ持つ事が出来無い設備が有る事に、もはや驚く事にも疲れた様子で有った。

 

「皆さん、揃いましたか!? 早速ですが会議の方を始めたいと思います……山内 三佐、(よろ)しいでしょうか?」

 

モニターの横に置かれて居るスピーカーから在クワ・トイネ日本大使で在る田中大使の声が聞こえて来ると、会議の進行役で在る山内が1枚の紙を取り出して発言を始める……。

 

「はい、先ずは本日正午前に、陸上自衛隊クワ・トイネ派遣隊にエジェイ防衛を担当するクワ・トイネ西部方面師団司令で在るノウ将軍より『後方支援』実施の依頼を受け、クワ・トイネ派遣隊はそれを受諾……その後、政府の方針に従いエジェイの西方で布陣(ふじん)するロウリア王国諸部族連合軍を称する武装集団に事前に退去する様に勧告を行いました……されどロウリアぐ……武装集団は退去する気配も無く陣形を組み始めた為、これを敵対行動と判断し1148(ヒトヒトヨンハチ)時にМLRSと99式自走砲の部隊による砲撃を開始……これにより武装集団は壊滅、無人観測機による調査では生存者は皆無との事です……現在、周辺は不発弾が多数残存する為、立入禁止区域とし第4対戦車ヘリコプター隊による上空からの哨戒が行われています。」

 

「2万を超える敵が壊滅?……生存者無し!? 全く信じられ無いのですが、事実なんですね……。」

 

モニターからクワ・トイネ外務局員で在るヤゴウの驚く声が聞こえる中、山内は報告を続ける……。

 

「……それと会議前に入った情報ですが、ギムの街に潜伏している住民の協力者より『人狩りジョコ』が率いる、黒鎖騎士団(こくさきしだん)の部隊に大きな動きが有ったとの報告が入り、明日未明に『人狩りジョコ』を含む黒鎖騎士団の部隊がギム市民をロウリア王都に移送するとの情報を得たとの事です……。」

 

「ジョコ!? あの……『人狩りジョコ』がっ! 奴が市民を連れてギムの街を出ると言うのですかっ!?」

 

『人狩りジョコ』の名を聞いたヤゴウの言葉には怒りに満ちていた。

 

『人狩りジョコ』は戦争前から度々、国境を越えクワ・トイネ辺境の集落から人々を拉致していた為、公国では軍を動員し、更に多額の懸賞金を賭け冒険者達にその行方を追わせていたが、ロウリア王国を拠点としているジョコを捕らえる事は出来なかった。

 

「我々の情報ではこの『人狩りジョコ』は、ロウリア王国……いえ、ロデニウス大陸全土で暗躍する人身売買組織の幹部格で、これまで拉致したクワ・トイネの人々の情報を握っているとの話です……もし奴を捕らえる事が出来れば捕らわれた人々の解放にも繋がるのですが……。」

 

ヤゴウの言葉と共に重いため息がモニター越しに聞こえて来る……場内が険しい空気に包まれ様とする中、モニターに映っていた白髪混じりの男性が手を上げる。

 

「エジェイ駐屯地の大内田です……ヤゴウさん、我々クワ・トイネ派遣隊も以前からこの人物を人身売買の容疑者としてその動向を調査していました……この件に付きましては担当者の次郎丸 一佐より報告が有ります。」

 

大内田 陸将は右隣に座っている鋭い眼光を持つ男性の紹介を行うと、男は挨拶を始める……。

 

「ご紹介に与かりました……今回の件を担当してます、次郎丸と申します。」

 

モニターの向こう側の日本大使館では防衛駐在官の久光 一佐が田中大使に耳打ちをする……大使はその言葉に目を見開き驚きの表情を浮かべた……。

 

先ほど挨拶をしていたこの男こと 次郎丸(じろうまる) (たける) 一等陸佐こそが陸上自衛隊特殊作戦群の司令官で在ると告げられたのだ、話でしか聞いた事の無い部隊のリーダーがこの会議に参加している事に大使は緊張の赴きで次郎丸 一佐の報告に耳を傾ける。

 

「まず、現地にてロウリアの軍夫に偽装した協力者の報告では、容疑者は現在『王都で行われる祝祭に合わせて奴隷市を開く』為に、連行するギム市民の選別を行なっているとの事です、ただやたらと出発を急いでいる様子だったとの報告も有りました……!」

 

「うむ!?……これは、先遣隊が全滅したと聞いて気の早いネズミが逃げ始めましたかな??」

 

自慢の口髭を撫でながら呟くオコシ団長の言葉にモニターの向こうから笑い声が漏れてくる……しかし次郎丸 一佐は笑みすら浮かべる事無く淡々と報告を続ける。

 

「ギムの街を占領している他の武装集団に付いては現地の協力者、偵察隊共に大きな動きは無いとの報告を受けています、ただ……黒鎖騎士団の報告が上がる前に、武装集団副将のアデム直下の従魔使いの部隊がギムの街を出て国境の川を渡りロウリア側へと移動したとの報告が有りました。」

 

「なんとっ……アデムとは聞きたく無い名前で有るが、何故(なにゆえ)に!?」

 

残虐非道で知られる敵将アデムの言葉が出て来た事にオコシ団長を始めクワ・トイネ側の参加者から驚きの声が上がった。

 

「その件も協力者からの報告では、以前から彼等が従える魔獣の悪臭に各部隊からの苦情が有り、ロウリア……武装集団の本隊到着を期にロウリア側のキャンプに移動するとの話らしいです……。」

 

「成る程……ならばギムから敵の兵力が減ったと思って良いのかな!?」

 

オコシ団長の言葉に大内田 陸将も同じ様に考えていた……アデム率いる従魔使いの軍団はロウリア軍の中でもその実力が全くの未知数だった為、それらがギムの街から遠退(とおの)いた事に内心、胸を撫で下ろしていた……。

 

「では本題に入ります……『人狩りジョコ』が街を抜け出す今こそがチャンスと見ています! 我々、自衛隊は街を抜け出した敵を待ち伏せし、拉致された人々の救出とジョコの確保を行ないます!」

 

「!?……ジョコを捕らえて、拉致された人々を救出するのですか! そんな事は可能なのですかっ!?」

 

「はいっ……既に我々の偵察隊がジョコ追跡の為、ロウリア王国内へと向かっています!」

 

次郎丸 一佐の自信に満ちた発言にクワ・トイネ公国側の参加者からどよめきが起きる。

 

「ジョコの一団は明日の早朝にギムの街を出発すると思われます……山内 三佐、それまで現地の協力者に監視の依頼と連絡を密にする様、お願いしたい。」

 

「分かりました……それと次郎丸 一佐、此方(こちら)の任務は間も無く完了しますので、先に預かっていた田崎 三曹をお返しします! 正直、使える奴だったので返すのは惜しい気がしているのですが……。」

 

山内の言葉にそれまで無表情だった次郎丸 一佐の顔に笑みが浮ぶ……2人の会話が終わると、大内田 陸将が手を上げ発言を行う。

 

「大内田です……聞いての通り、容疑者で在るジョコを生け捕り住民を無事救出する為にはまず、ギムの街に居座る武装集団が動かない様に拘束する必要が有ります……そこで我々、クワ・トイネ派遣隊は…………。」

 

大内田 陸将が話したその内容にクワ・トイネ公国側の参加者は誰もが驚愕する……ただ1人、銀山羊騎士団のオコシ団長だけはその内容に満足するかの様に口髭を擦りながら笑みを浮かべるので有った……。

 

 

同日・夕刻過ぎ クワ・トイネ公国 ロウリア王国軍占領下のギムの街 西側区域

 

 

ロウリア王国軍占領下のギムの街でも、国境沿いに建てられた旧市街と呼ばれている西側の区域は建物の半数近くが火災で焼け落ち、現在もその殆どが放置されたままの状態で、侵攻の凄まじさを物語っていた……。

 

「このノロマ共めっ! さっさとしないから日が暮れちまったじゃねぇか!!」

 

旧市街の焼け残った屋敷の前で、黒いサーコートを着た禿頭の男が部下の奴隷番(どれいばん)に対し激しく怒鳴りつける姿が有った。

 

「そんな……馬車に詰め込むだけ詰めろって言ったのは親分ですぜっ! 詰め込むにも奴隷の数が多すぎますぜ!」

 

「あぁっ、もういい! 今日は奴隷共がくたばらない様に飯を食わせて休ませろ……明日、日が昇る前に出発する、それ迄に準備を済ませろ!!」

 

黒いサーコートを着た男はそう言いながら、屋敷へと戻って行く……部下の奴隷番達はどうしてこんなに急がせるのかその理由も分からないまま、牢馬車に載せたギムの市民達を降ろす為に手にした鞭を振るい始めた。

 

 

「くそっ……早くここから逃げなきゃいけねぇのに、どいつもこいつも全く言う通りに動かねぇ! 畜生!!」

 

男は屋敷の私室に入るなりそう言いながら、目の前に有った酒瓶を飲み干し床に叩き付けた……『人狩りジョコ』の悪名で知られるこの男は焦燥感(しょうそうかん)()られながら、これまで起こった事を思い出す……。

 

今日の昼の時間を過ぎた頃、諸用で屋敷に1人戻っていたジョコは道中、早馬(はやうま)の準備をしている副将アデムとその部下の魔獣使いが何やら話しているのを見かけ、柱の陰に隠れてその会話を聞こうと聞き耳を立てていた……。

 

「……そうです、エジェイに向かった諸部族連合の先遣隊は全滅しました、どうやらクワ・トイネ側に『魔導兵器』を使う列強国家が付いた様です。」

 

「!?……クワ・トイネ側に列強国家ですと!? アデム様、いったい何処の国がそんな事を!!」

 

「そこ(まで)は判りません……ただ諸部族連合軍の監視を行っていた者達の話では、陣形を組んだ2万の軍勢が凄まじい爆発に包まれ、何も出来ぬまま全滅したと……別の監視者からも同じ報告が上がっています、この様な事が出来るのは『魔導兵器』を持つ列強国家が介入して来たと考えた方が自然でしょう……。」

 

(諸部族連合軍が全滅!?……列強国家が介入?? いったい何を話しているんだっ!!?)

 

柱に隠れているジョコは脂汗を流しながら2人の会話を聞き続ける……。

 

「いいですか……相手が列強の『魔導兵器』を使っているのなら今のロウリア軍に勝ちの目は有りません! 連中は明日にでもギムの街に殺到して来るでしょう……そうなる前に貴方達は魔獣を連れ、今直ぐにビーズルの街へと退避するのです!」

 

御意(ぎょい)に……。」

 

「私はこれより王都に増援を要請する特使を装い、先にビーズルの街へと向かいます……そうそう、解っていると思いますが、この事は他言無用ですよ! ギムに残られる皆さんには殿(しんがり)になって貰わないと行けませんからね……ヒッヒッヒ!」

 

アデムの笑い声にジョコは恐怖の余り、自らの手で口を塞ぎ声が漏れ無い様に耐え続けた……今ここに居る事がバレたら間違い無くアデムが操る魔獣の餌にされてしまう! やがて2人が立ち去るのを確認したジョコはその場でへたり込んでしまう……。

 

(何だと……アデムの野郎は俺達をおとりにして、自分達だけ逃げようとしているのかっ!?)

 

しかもあのアデムが逃げ出す程の敵が間も無くギムの街へとやって来ると言うのだ、ジョコは頭を抱えながらどうすべきか考え始める。

 

(畜生……まずはギムの街から逃げ出さないと、しかし……敵前逃亡は一族皆殺しの刑だっ! それに手ぶらで帰る訳には……そうだっ!!)

 

ジョコは近々ロウリア王国の王都にてギム占領を祝う祭が開祭される事を思い出す……祝祭(しゅくさい)の出し物として奴隷市(どれいいち)が開催されるとでっち上げれば、怪しまれる事も無く戦利品の奴隷を連れてギムの街から抜け出す事が出来るだろう……。

 

「フヒヒヒッ……何だ、簡単じゃねーか! だったら持っていけるモノは持っていかねーとな!!」

 

ジョコは自分が冴えている事を自画自賛しながら屋敷に戻ると、部下の奴隷番に捕らえたギムの住民を早急に牢馬車に載せる様に指示を出した……しかし、欲張り過ぎて多くの市民を連れて行こうとしたため、本日中に出発が出来無いと知るや、短気な彼は部下に対し怒鳴り始めた! しかし、その大声はギムの街で地下活動を行う抵抗組織の知る所となり、出発の時刻から連れて行くギム市民の人数……更には護衛の人数までもが、特殊作戦群の知る所となった……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 7月27日 夜明け前 クワ・トイネ公国 エジェイ駐屯地

 

 

まだ夜空の星々が輝く中、エジェイ駐屯地内の明かりが付いた倉庫では赤土色の戦闘服を着た男達が白板と大型モニターが並べられた一画へと集まり次郎丸 一佐の元、出撃前のミーティングが行われていた。

 

「……今回の目的は、拉致されたギム市民の奪還と営利誘拐の首謀者で在るベンゼラス・ジョコの確保で有る! 偵察隊によると目標の一団は移動の準備を行っており、間も無くギムを出発するとの事だ。」

 

次郎丸 一佐が目の前の端末を操作すると、大型モニターに注釈が書かれた航空写真が表示される。

 

「まず我々はヘリコプターにてギムの街とロウリア国内の集落との中間地点となる街道へ移動し、そこでジョコの一群を待ち伏せ襲撃する! 相手側の戦力は騎兵が60騎程と奴隷番と呼ばれている兵士が100名程、これらを全て排除し、ギム市民の救出と移動の為の馬車の確保、そしてジョコを生きたまま拘束する。」

 

「……ギム市民の救出とジョコの確保後は鹵獲した馬車を使い、街道を北に外れて6キロ程離れた回収地点へと向かう……その後、輸送ヘリと合流し市民の収用を行う、問題は拉致されている市民の数が600名以上いるらしく、基地に有るヘリを全て飛ばしても二往復する必要が有り、もしその間に武装集団の追撃が有った場合は撤収が完了するまで我々だけで足止めを行う必要が有る!」

 

次郎丸 一佐の言葉に50名の特殊作戦群隊員達の表情が一瞬険しくなる……。

 

「交戦規定に付いてだが、人質となっている市民への誤射と移送を行なう馬車に対しての銃撃は厳禁だ! それと容疑者のジョコも必ず生かして捕らえる必要が有る為、殺傷しない様に……それ以外に付いては武器の使用制限は設け無い、障害となる物は全て排除しろ!!」

 

(ほぅ……スーダンの時は交戦は可能な限り避けろ……だったが、所変われば何とやら……か。)

 

山内 三佐の元を離れ、特殊作戦群に復帰した田崎 三曹は心の中でそう呟く……。

 

「交戦のチャンスは一度切り、失敗は許されない……質問が無ければ以上だ!!」

 

50人の特殊作戦群隊員達は一斉に立ち上がり各々、武器を手に取ると駐機しているUHー60JAヘリコプターに駆け込んで行く。

 

夜空が白み始める中、次郎丸 一佐と田崎 三曹、そして49名の特殊作戦群隊員達を乗せた5機のUHー60JAはローター音を響かせながら離陸を開始する……高度を上げ編隊を組んだ5機の機体は『北の森』の上空を経由し、荒野が広がるロウリア王国へと飛び立って行った……。

 

 

同日・午前09時06分 ロウリア王国 ギムの街から36キロ離れたビールズへと続く街道

 

 

乾いた大地と赤い岩山が連なる荒涼とした大地……ここが嘗て『緑の神』の加護を受けた豊かな土地で在った事を今や知る者はいない……永き渡る戦乱により亜種族を迫害する思想がこの地に根付き、その加護を拝受(はいじゅ)するエルフ達は東の地へと去って行った……こうして加護を失ったロウリアの大地は赤茶けた荒野へと変貌(へんぼう)したのだ……。

 

乾いた土地と化したロウリアの街道を馬車の隊列が西へと向かって走って行く……『人狩りジョコ』率いる160名の黒鎖騎士団は拉致したギムの市民600人を連れ、土埃を舞い上げながらロウリア王国の街ビーズルへと向かっていた。

 

「ふぅ……何とか怪しまれずにギムの街を出る事が出来たな、ここまでくればもう大丈夫だろう!」

 

ジョコはギムの街から何も怪しまれずに出れた事を屋根付きの豪勢(ごうせい)な馬車の中で安堵の息を漏らしながらそう呟く……だが彼の心は決して晴れる事は無かった、自らの後継者と目し遠征に同行させた息子のエストバンが非業の戦死を遂げてしまったからだ……息子の遺体を発見した偵察隊の話では遺体にはロウリア軍で使用されてる模様と同じ矢が刺さっていたが、恐らく味方に偽装したクワ・トイネの部隊に騙し討ちを食らったのだろうと話していた……。

 

問題はこれだけでは無い……当初、捕らえたギム市民を搬送する為に準備して来た牢馬車を国王の命により簒奪(さんだつ)した食料を輸送する為に徴用され、王都との往来(おうらい)で傷んでしまった馬車の修繕費を自前で払わなければならなかった為に手持ちの軍資金が尽きかけていた。

 

「エストバンが死んでしまうとは……まぁ、世継ぎの変わりはまだいるから何とでもなる、それよりも早く王都で奴隷を売らないとこのままでは大赤字だっ! えーっと、連れて来た成人の数が………。」

 

ジョコは亡くなった息子のエストバンの事はさほど気に掛けず奴隷の売却益を算段しようとすると、前方から「パンパンパンパン」と言う音が聞こえ馬車が急に止まりだした。

 

「ぐあっ!」

 

馬車が急に止まった勢いでジョコは身体を馬車に打ちつけると、怒りながら馬車の窓から顔を出した。

 

「馬鹿野郎、急に止まるんじゃねぇ!!」

 

ジョコは馬車を引いている御者に向かって怒鳴り散らすが、御者は何が起こっているのか解らずに戸惑っていた……程なく前方から部下の騎兵が駆け込んで来る。

 

「親分、敵襲だっ! 道端に赤茶けた服を着た奴等が現れたと思ったら、前を走っていた連中が急にバタバタ倒れやがっ……ぐあっ!!」

 

「パンパンッ!」と言う破裂した様な音と共に状況を伝えに来た騎兵が馬から倒れ落ちる……街道の両脇から現れた特戦群の隊員達は手にした銃でジョコの手下達を的確に撃ち抜き始める!

 

「なっ……!?」

 

唖然とするジョコの前で手綱を引いていた御者も崩れ落ち、馬車に銃撃を受けたジョコは本能的に馬車に身を隠した。

 

「ひいいっ! いったい何が……何が起こっているんだっ!!」

 

外では破裂する様な大きな音が幾度となく響き時折、部下の叫び声も聞こえて来る……ジョコは震えながら馬車の中で引きこもっていると、窓から何かが馬車の中に投げ込まれ彼の足元に落ちて来た。

 

「えっ……!?」

 

次の瞬間、投げ込まれた閃光手榴弾(せんこうしゅりゅうだん)が凄まじい光と轟音を放ちながら炸裂し、ジョコの視力と聴力を奪ってしまう……そして馬車の扉が開くと彼は凄い力で外へと()()り出されてしまった。

 

「トムキャットよりキングジョーへ! ハゲもといジョコを発見した、繰り返す、ジョコを発見した!!」

 

赤茶色の偽装服を着た田崎 三曹がジョコを押さえつけたまま、キングジョーこと次郎丸 一佐へ報告を行なう。

 

「キングジョーよりトムキャット、良くやった! 直ちに拘束しろ!!」

 

「トムキャット了解……あっ、逃げるなこのハゲ!!」

 

田崎は()いずりながら逃げようとするジョコの後頭部を踏み付けると、持っていた拘束用(こうそくよう)のタイラップで素早く両腕を締め付けた! 他の隊員達は銃を構えたまま、周囲の探索を続けていく……。

 

「クリア! クリア!!」

 

「こちらもクリア! 敵影無し……制圧完了!!」

 

分隊長の報告を聞いた次郎丸 一佐は市民の救出とジョコの確保をエジェイ駐屯地へ報告する様、通信士に伝えるとバッグからメガホンを取り出し、牢馬車に捕らわれたギム市民に向かって話かける。

 

「……私達はクワ・トイネ政府の依頼で貴方がたの救出に来ました、日本国の陸上自衛隊です! これから全員をエジェイの街へ送る為、安全な場所に移動します……不自由をおかけしますが、もう少しだけ馬車に居てもらう様お願いします……。」

 

次郎丸 一佐の言葉に牢馬車のギム市民達は互いに顔を見合わせてしまう……いくら助けに来たと言われても赤茶けた服のおよそ戦士らしからぬ姿で有りながら、奇妙な杖で爆音と共にジョコの私兵達を次々と倒してしまう一団で在る、そんな凄まじい力を持っていながら自分達にはやたらと親切に話し掛ける事に人々は戸惑いを感じずにいられなかった中、1人の男が次郎丸 一佐に話し掛けてきた。

 

「ニホン国! まさか……ニホン国の人なのかっ!?」

 

「おぃ、アイツ等を知っているのか!?」

 

服はボロボロだったが、商人らしい身なりの男の言葉に周りの人々が耳を傾ける……。

 

「あぁ……以前、公都に行った時に彼等が開いていた物産展を見に行った事が有る……魔法を使わずに熱い水を出す壺や太陽の様な光を発する燭台(しょくだい)……それに馬がいないのに早く走る荷車とか、信じられない物が色々展示されていたんだ! 成る程……ニホン国と言われれば今、起こった事も納得出来る……。」

 

「なぁ……だったら、彼等を信じて良いのか!?」

 

もう1人の男の言葉に人々は黙り込んでしまう……だが、ここから逃げ出すにも彼等の助けが無ければ、牢馬車から出る事すら出来無い以上、彼らを信じるしか無かった。

 

「余り時間が有りません! 安全な場所に移動する為、直ぐにココを出ます!!」

 

次郎丸 一佐はメガホンでそう伝えると、部下の隊員達へ移動の指示を出す……特戦群の隊員達は牢馬車に破損が無い事を確認すると御者席に乗り込み、馬の手綱を手に取った。

 

「よっと……!」

 

田崎 三曹は他の隊員達と一緒に拘束したジョコを馬車の中に放り込むと、御者席で事切れている御者を押し除け、手綱を手に取る。

 

「はぃやっ!」

 

彼がそう言いながら手綱を振ると、馬達が動き出し馬車を引き始める……馬車の中では手足を拘束され猿轡(さるぐつわ)をしたジョコがうめき声を上げながら藻掻(もが)いていた。

 

「このハゲ、大人しくしてろ!!」

 

隊員の1人がジョコの禿げた頭を叩くと「ペチッ!」と言う音が馬車に鳴り響く……特殊作戦群の隊員とギム市民、そしてジョコを乗せた31両の馬車の隊列は街道を外れ、回収地点で在る北の荒野へと向かって行った……。

 

 

同日・午前10時37分 ロウリア王国 街道から北へ6キロ離れた荒野

 

 

馬車の車列は岩山が切り広がった分水嶺(ぶんすいれい)を思わせる傾斜地をゆっくりとした歩みで登って行く……手綱を手にしている隊員達は途中で馬達がへばらないか心配していたが、全ての馬車が脱落する事無く無事に頂上へと辿り着いた。

 

「回収地点が見えたぞ……後は坂を下るだけだ、急ぐぞ!」

 

その様に言う次郎丸 一佐の眼下には、広く開けた土地と陸標代わりに目印にしていた巨大かつ奇妙な1本の大木が聳え立っていた。

 

「しかし、変な木だな……平時なら観光名所になるな!」

 

田崎 三曹もその木を見て思わず呟いてしまう……幹が異常に太く木の先端部のみに葉が付いていると言う地球に自生していたバオバブの木を彷彿とさせる姿をしているが、40m程の高さに対し幹の太さが60m以上と、木の高さより幹の方が大きいと言う不思議な大木で在った。

 

馬車の列を大木の前に停車させると、特戦群の隊員達は用意していた工具を使い牢馬車の鍵を破錠(はじょう)し、中に閉じ込められていた人々を外へと解放した……。

 

「ありがとうございます……まさか、助けが来てくれるとは思いませんでした!」

 

手枷を外して貰った女性は特戦群の隊員に礼をしながら安堵の表情を浮かべる……すると後ろから聞いた事の無い音がする事に気が付き、彼女が振り返ると東の空に6つの箱舟の様な物が空を浮かぶ様に飛ぶ姿が有った。

 

「な…何だよ、アレは……。」

 

「えっ! 船が……飛んでいる!?」

 

ギムの市民達が見つめる中、6機のCHー47JA輸送ヘリコプターが着陸し、後部の昇降ハッチが開いた。

 

「ここから乗ってください! 女性と子供が先です、急いで!!」

 

「時間が有りません! 早く早く早く!!!」

 

以前、救出したエルフ達が中々ヘリに乗ってくれなかった事を聞いていた特戦群の隊員達は、やや強引に市民達を機内へと押し入れる。

 

「次郎丸 一佐! このハゲはどうします?」

 

田崎 三曹は馬車から引き摺り降ろしたジョコを指さす。

 

「その野郎は最後だっ! 吊り下げてでも持って帰る!!」

 

次郎丸 一佐はそう言いながら、ジョコの馬車に有った数冊の分厚い本をパラパラとめくりながら確認する……。

 

(何て書いてるかは解らんが、書き方からして帳簿の様だな……これは、拉致された人々の手掛かりに成るかも知れんぞ!)

 

定員ギリギリまで人々を搭乗させた6機のCHー47JA輸送ヘリコプターは昇降ハッチを閉じると次々と離陸を開始し、東の空へと飛んでいった……。

 

「これで半分かぁ……後は、何事も……。」

 

「一佐、殿の偵察隊より入電! 2000以上のロウリア騎兵が此方に向かっているとの報告です!!」

 

通信兵からの報告に次郎丸 一佐は眉間にしわを寄せる。

 

「くそっ……想定より早い上に数も多過ぎる! キングジョーより各員へ、ヘリが戻って来るまで可能な限り敵を足止めする! 田崎 三曹、急いでクレイモアを設置しに行け!!」

 

「了解、行こう!」

 

田崎は他の隊員と共にクレイモア地雷を詰めたバッグを手にして、坂道方面へと走り出した。

 

 

その頃、王都より進軍中だった2000騎を超える規模のロウリア軍騎士団の一群が馬車の通った跡を辿(たど)りながら分水嶺の坂道を駆け登って行く姿が有った。

 

彼等はギムへ向かう道中、主を失い彷徨い歩く馬達と無数の屍を発見し、まだ息が有る者を見つけ出して何が起こったのか問い合わせる……生き残った奴隷番曰く、街道を移動中に赤茶けた服を着た集団が突如として現れ、仲間を次々と倒して行くと奴隷を載せた馬車を乗っ取り、街道を外れ北へと向かって行ったと息も絶え絶えに報告してくれた。

 

奴隷番が指さした先には、街道を()れ北方向へと向かった馬車の車輪跡が残っており、まだ遠くに行っていないと察した騎士団長の命により、全軍で追撃を開始したので有った……。

 

「うむぅ……奴隷商のゴロツキが相手とは言え、これ程に戦えるクワ・トイネの部隊が居るとは……!?」

 

「魔法剣士の一団かもしれませぬ……しかし、数は少ない様なので我々は足の速さと物量で相手を容易に殲滅出来るでしょう!」

 

着飾ったプレートメイルを着た騎士団長に対し魔術師の衣装を着た参謀の男がそう答えると、先方を走る騎兵より魔信の報告が入った。

 

「先遣隊より報告、頂上より2キロ程先の大木の下に馬車の一団を確認!」

 

「ふむ……全軍に通達、敵を逃さぬ様に全速にて馬車の一団を包囲し、殲滅せよ!!」

 

騎士団長がそう指示を出すと進軍のラッパが鳴り響き、頂上で待機していた騎兵の一団が一斉に駆け降り始めた。

 

「う〜む! 馬車の周りには奴隷ばかりで、敵らしい姿が見えんぞ!?」

 

「はて……敵は奴隷を見捨てて逃げたのでしょうか?」

 

ロウリアの騎士団長と参謀は望遠鏡で敵の姿を探すも一向に見当たらない事に首を傾げていると、先頭を走る騎兵が「ドンッ!」と言う大きな爆発と共にバラバラに吹き飛んだ!!

 

「なっ……魔法かっ!? ええぃ構わん! そのまま突っ切って術者を見つけ次第、殺せ!!」

 

騎士団長はその様に指示を出すが、新たな爆発が次々と起き騎兵達を肉片へと変えていく……騎士団長の隣でその光景を見ていた参謀は何かが可怪しい事に気付く……。

 

(どう言う事だ……魔法なら術の詠唱時に魔力を感知出来る筈だが、全く感じ無いとは!?)

 

 

「次、8番!!」

 

ロウリア騎兵の侵入を確認した特戦群の隊員が無線式の起爆装置のスイッチを押すと設置されたM18クレイモア地雷が起爆する! 炸裂した地雷から700発の鉄球が放出され、突進して来るロウリア騎兵をズタズタに引き裂いた。

 

「ぐっ……おのれっ、左右に散開して魔術師を探せ!!」

 

騎士団長の新たな指示により後続の騎兵達は中央を回避し、左右に分かれ突進を行なう……だが、同じ様に左右に分かれ潜伏していた特戦群隊員達が銃を手にし待ち構えていた。

 

「来たぞ……各員、射撃開始! 撃て!!」

 

田崎を始め特戦群の隊員達は突進して来るロウリア騎兵に向かって射撃を開始する! M4カービンと5.56mm機関銃より放たれた銃弾は騎兵達を次々と薙ぎ倒していき、それを見たロウリア軍の騎士団長は驚愕の声を上げる。

 

「ば……馬鹿なっ、こんな……こんな事がっ!?」

 

頂上から手下の騎兵が倒れて行く姿を見て唖然としていた騎士団長だが次の瞬間、千切れる様な音と共に身体が真っ二つとなり、少し遅れて「ドーン!」と言う轟音が鳴り響いた。

 

「えっ……!? ひっ……ひいいぃぃっ!!!」

 

隣にいた参謀が上半身を失った騎士団長の姿を見て声にならない悲鳴を上げると、次は彼の頭が弾ける様に吹き飛んでしまった。

 

騎士団長達が立っていた頂上から1600m以上離れた場所にはM95sp対物狙撃銃を構える特戦群の狙撃手の姿が在り、指揮を取る者を見つけるや大口径の12.7mm弾を容赦無く撃ち込んだ。

 

M95sp対物狙撃銃は有名なバレットM82狙撃銃をブルパップ・ボルトアクション式に改良した銃で有り、コンパクトで有りながら非常に優れた射撃精度を誇る……普通の銃では弾すら届かない長射程の目標に命中させる事が可能で有り、狙撃手の優秀さも相俟(あいま)って、1600m以上離れた標的を一撃で見事に射抜いた……だが、ロウリア騎兵は指揮官を失っても止まる事無く、突進を続けて来るので有った。

 

「くそっ……指揮官らしい奴を倒しても、まだ突っ込んで来るぞ!」

 

次郎丸 一佐がそう毒づくと、置いていた無線機からコール音が鳴り響いた。

 

「…………ゴーストホークよりキングジョーへ、間も無く該当空域へ到着する!」

 

手に取った無線機からUHー60JAヘリコプターの通信が入る。

 

「キングジョーよりゴーストホークへ……此方はロウリア騎兵の襲撃を受けている、至急援護を要請する!」

 

「ゴーストホーク了解、敵に鉄のシャワーを浴びせてやる! そちらの位置を送られたし、どうぞ!!」

 

「キングジョーよりゴーストホーク、こちらの位置はスモークで送る……色は赤、間違っても味方を撃つんじゃねぞー!!」

 

次郎丸 一佐はそう伝えると、バッグの中から発煙筒を取り出しピンを抜いて地面へと投げる……発煙筒からは赤い煙が空へと立ち昇っていく……。

 

「キングジョーより各員へ……ヘリの援護が来る、各員はウサギ飛びで赤のスモークまで後退しろ!」

 

「……聞いたか、先に後退しろ!」

 

田崎 三曹がそう言うと隣にいた隊員は移動を始める……各隊員達は交代で射撃と移動を行ないながら、赤い煙が立ち昇る場所まで下がって行った。

 

「!?……来た!」

 

M4カービンの弾倉を交換していた田崎の前を2機のUHー60JAヘリコプターが低空飛行で飛び去ると、2機の機体はロウリア騎兵達の上を(かす)める様にして通過し大きく左旋回を始めた。

 

「うわっ! な、何だ……アレは!?」

 

「ワイバーンじゃ無い! それに何か載せているぞ!!」

 

初めてヘリコプターを見たロウリア騎兵達は驚きの余り馬脚を乱し大混乱に陥る……騎兵の中の1人が機体の横に付いている弩砲(バリスタ)の様な物が自分に向けられている事に気付くが、自らの運命がこの時点で決まっていた事を知る由は無かった……。

 

「ブブヴヴヴヴヴヴゥゥゥゥゥンン!!!」

 

UHー60JAヘリコプターの左側に搭載されたM134ミニガンがロウリア騎兵の隊列に向かって凄まじい弾幕を放つ! ロウリア騎兵達は鉄の豪雨を浴び悲鳴はおろか苦痛も感じる事も無く身体を引き裂かれていった。

 

「ひいっ! こ……こんなの無理だぁ!!」

 

「逃げろ、逃げるんだぁ!!!」

 

ここまで仲間の屍すら乗り越えて突進して来たロウリア騎兵達だが、空からの凄まじい攻撃を目にして遂に撤退を始める……しかし、逃走先が狭い分水嶺の間の坂を上らなければならず、UHー60JAヘリコプターの執拗な追撃を受けた事で、2000騎を誇った精鋭のロウリア騎士団で生き残った騎兵は50騎にも満たなかった……。

 

 

激しい戦闘が終わり、東の空より迎えのヘリコプターの一群が見えてくる……着陸したCHー47JAは再びギム市民を乗せてエジェイへと飛び立っていく中、田崎 三曹は残った馬達を馬車から解放すべく(くつわ)を外しながら労いの声を掛ける。

 

「ご苦労さま……ここまで良くやってくれた! お前達を連れては行けないけど、お礼代わりに馬車から外してやるよ。」

 

田崎が最後の馬から轡を外し解放すると、馬は嬉しそうに田崎に顔を寄せた後、待っている仲間達の元へと向かって行った……。

 

一方、手足を拘束され猿轡を嵌められたままのジョコは涙を流しながらロウリア騎兵の屍が広がる荒野を見続ける……。

 

(こんな……こんな事があり得るのか……俺達は……どうして……。)

 

無数の騎兵の姿を見た時、ジョコは助けが来たと胸を踊らせたが、そのロウリア騎士団は目の前で壊滅し、彼の希望は完膚無きまで打ち砕かれた……まさか50人にも満たない数で2000の騎兵を撃ち倒すとは夢にも思って見なかった。

 

「おらっ! ハゲ野郎、行くぞ!!」

 

「ひいっ!!」

 

ジョコは両脇を特戦群隊員に抱えられUHー60JAへと乗せられると特戦群隊員と共に空へと飛び立った。

 

「と……飛んでいる、本当に飛んでいるのか!?」

 

ジョコは自らが囚われの身で有る事と空を飛んでいる恐怖で身をすくめながらも外を見ると、荒野の中を田崎が解放した馬達が群れをなして東へと駆けて行く姿が見えた。

 

……馬達は賢い、これまで馬車を引かせる為に散々こき使ってきたが、ひとたび解放されるや何も無い西のロウリアでは無く、水も草も豊富な東のクワ・トイネへと振り返る事すら無く向かって行く……。

 

ジョコは走り行く馬達を見ながらその様に思っていたが、自由になった馬達と違い、自分の今後の事を考えると気が重くなり、そのまま機体の席へと(うずくま)った……。

 

その後、『人狩りジョコ』ことベンゼラス・ド・ジョコは身柄をクワ・トイネ側へと引き渡され、裁判により死刑を求刑されたが、日本側より司法取引の提案がなされクワ・トイネ司法がそれを了承した事で、ジョコは自分が知る全ての情報を日本、クワ・トイネ両国に提示し、死刑を免れる事となった……その後、情報提供の功績からか刑務所ではそこそこの待遇を受けつつも彼は長い刑期を送る事となった……。

 

そして次郎丸 一佐が率いる、特殊作戦群は戦後もしばらくロデニウス大陸に残り、ジョコからの情報を元に大陸に蔓延(はびこ)る人身売買組織を壊滅させた事も付け加えて置こう……。

 

 

同日・同時刻 クワ・トイネ公国 ギムの街から南東へ約10km離れた丘陵地帯

 

 

群青の大空に雷とは違う轟音が幾度となく鳴り響き大地を揺るがす……。

ギムの街が展望出来る丘の上から、オコシ団長を始めとする銀山羊騎士団の面々が神妙な面持ちでギムの街の方向を見つめていた……。

 

「おおっ……また空に炎がっ!!」

 

騎士の1人がそう叫ぶと、遅れて「ドーン!」と言う爆音が聞こえて来る、爆発は幾度と続き大気を震わせる……やがて2機のFー15Jイーグル戦闘機が轟音と共に彼らの真上を通過して行った。

 

「うおっ! 何と言う速さ……これがハンキ将軍が言っていた、火を吹きながら飛ぶ鉄竜かっ!!」

 

「ワイバーンが全く相手にならぬ……まさかこれ程とは……!」

 

オコシ団長はそう言いながら遠ざかって行く機体を目で追いかける……。

2機のFー15Jは上昇旋回を行なうと再度ギムの街へと向かい、街の上空を右往左往しているロウリアのワイバーンを次々と火達磨へと変えていった……。

 

「オコシ団長、オオウチダ将軍がお呼びです!」

 

丘を駆けながらやって来た伝令の報告にオコシ団長はゆっくり頷くと、武人の表情で騎士達に伝える。

 

「行こう、皆の者! 我等の出番ぞっ!!」

 

そう言うとオコシ団長は騎士達を連れ、丘の下に設置された臨時指揮所へと歩いて行った……。

 

続く




今回はギム市民の奪還と奴隷商の首班を捕らえるべく活躍する特殊作戦群の話がメインとなりました。
作品投稿の方針として12000字を超えたら話を分割する様にしていましたが、物語も終演に近い為、今回は分割せずにこのまま1話にして纏めました。
特殊作戦群がハゲに厳しいのは別に恨みが有る訳では無く、作者の家訓が反映されているだけです!

次回、遂に陸上自衛隊第7師団とクワトイネ公国・銀山羊騎士団がギムの街の奪還に動き出し、物語はクライマックスを迎えます!
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