日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編   作:アニキ イン ザ スペース

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その日、日の入り前に目を覚ました私は準備された軽い朝食を取った後、従士に鎧を着せて貰い出陣の準備を迎える。

初めての戦場……しかもギムの奪還と言う重責を前に興奮の余り寝付けないのでは……と、寝る前に思っていたが、ぐっすりと眠れた事に自分でも以外だと思った……。

愛馬に跨り同胞の騎士達と隊列を組むと、号令と共にエジェイの西門が軋む音を立てながら開き始める……我ら銀山羊騎士団の騎馬隊は東雲色に輝く空を背にしながらギム奪還の為、出陣を開始した。

昨日、戦場となった草原を横切ると無数のロウリア軍の亡骸が異臭と共に焼き焦げた臭いを漂わせ、あの恐ろしくも悍ましいニホンの攻撃が現実で有った事を思い知らされる……。

道中、敵の姿は全く見当たらず時折、雷鳴とは違う音が空に響き渡る……その時は、それが何なのか分からなかったが、我々騎士団は南方からギムの街を臨む丘の麓へと到着した。

麓には我々の兵士達を乗せ先に移動して来た巨大なニホン軍の荷車が何十両と止まっており、設営された陣地には馬達の為の秣や水の入った飼葉桶が準備されていた。

愛馬を休ませるべく兵に預け、設営された陣地へと歩いて行く……そこは天幕が張られ、中では大きな箱を持ち運んでいる者や車輪が付いた巨大な鉄の大鍋で調理を行なう者等、まるで活気溢れる市場を思い浮かべる光景に私は頬を緩ませる。
その様な中、近くの丘の上に多くの兵士達が集まっている姿を見かけた私は、その様子が気になり彼等の居る丘へと向かって行った……。

「あっ! これはトウミ様、見てくださいアレを……!」

丘の頂上に到着すると、部下の少年従士が私の元に駆け寄り、麓の向こう側を指さす……そこには鉄で覆われた巨大な荷車の様な物が奇妙な音と共に草原を疾走する姿が有った。

「何だ、アレは……!?」

「分かりません……でもニホン軍の『トラック』と言う動く荷車に乗った時に、我々の前を走っていました! 確か『戦車』と呼ばれていたかと……。」

「戦車……!?」

少年従士の言葉にトウミはオコシ団長が言っていた事を思い出す、ニホンは鋼で出来た地竜をこの地に連れて来ており……彼の国ではそれを『戦車』と呼んでいると言っていた。
その時は何かの冗談かと思い気にも留めていなかったが、まさか本当に存在しているとは思いもよらなかった……。

トウミとクワ・トイネの兵士達が見守る中、それは馬の全力疾走と同じ速さで草原を駆け抜け、巨体から想像出来無い程の機敏さで動き回る……そして急停止したかと思ったら、細長い筒から物凄い爆炎を噴き出した!

「きゃっ!!」

空気を震わせる程の轟音と腹の底にまで伝わる衝撃にトウミは子供の様な声を上げ身をすくめてしまう……次の瞬間、遠くに設置されていた木の櫓が粉々に吹き飛んだ!

「おお〜っ、コレは凄い! 噂以上のモノだっ!!」

兵士達が呆然とする中、一番前で見物していたオコシ団長が手を叩いて喝采する!

その光景にトウミは驚愕しながらも昔、祖父母から聞かせて貰った昔話を思い出す……。

「コレは……まるで神話に出て来る『鋼鉄の地竜』そのモノではないかっ!?」

彼女は目の前で停車している90式戦車のその武骨かつ雄々しき姿に幼い頃、祖父母から幾度なく聞いた「鋼の甲羅を纏い『日輪の炎』で押し寄せる魔王の軍勢を焼き払った」と言われる、伝説の神獣の姿を重ね合わせたので有った……。



第二十話 ギム奪還

中央歴1639年(西暦2015年) 7月27日 正午前 クワ・トイネ公国 ロウリア王国軍占領下のギムの街 東区域

 

 

ギムの街で東区域と呼ばれているこの場所はエジェイの街へと向かう街道への入口となっている事から、丸太で造られた即席の防護柵が建ち並び、鎧を着込み槍で武装したロウリア軍の兵士達が慌ただしく駆け回っているが、その動きは何処と無く浮き足立っており、それぞれの顔には不安の表情が伺えた……。

 

「ああっ! ココにもワイバーンがっ……どうやったらこんな事になると言うのだ!?」

 

古めかしい鎧を着込んだ老騎士は崩壊した家屋の上で絶命しているワイバーンの姿を見て悲観の言葉を漏らす。

彼が兵達を召集すべく屋敷から出ると突然、雷鳴の様な轟音が鳴り響き、街を飛行していたワイバーン達が血の雨と共に次々と落ちて来た! ロデニウス大陸最強で有るロウリア王国軍直属のワイバーンが斯くも無惨な姿を晒すとは、思いもよらぬ光景で有った……。

 

「お館様、お急ぎ下さい!」

 

古参の兵士長の言葉に老騎士は足を速め、東区域の指揮所へと向かった。

 

「おおぅ……ジライアス殿、無事で有ったかっ!!」

 

指揮所に入るや、左目に眼帯を付けた男が彼を出迎え、言葉を掛けて来た……。

 

「これはベルザー卿……!? んっ……まだ全員、集まって無かったのですか!?」

 

老騎士ことジライアスは自身が指揮所から一番遠い場所に居た事から自分が最後に来るものだと思っていた為、思わず声に出してしまう。

 

「あぁ……モンドラゴン殿は落ちて来たワイバーンの下敷きになって亡くなられた……それとガーグ殿とムスファー殿の2人はまだ連絡が付かぬのだ!」

 

「なんと……モンドラゴン殿がっ!?」

 

盟友の死を聞かされたジライアスだが、彼が感傷に浸る間も無く臨時の会合が開催される……とは言え、エジェイ攻略の諸部族連合軍の先遣隊から外され東区域の監理と防衛を指示されていただけの彼等には主立った情報が入っておらず、断片的な情報に噂と憶測が飛び交う事で会合は紛糾し始めた……。

 

「エジェイから敵の軍勢が出陣したと聞いたが、そもそも先遣隊はどうなったのだ!? 街を包囲したのではなかったのかっ!!」

 

「あの雷の様な音と共に街を飛んでいたワイバーンが次々と落ちて行った……凄く速い『灰色の何か』が飛んでいるのを見た! と言う報告も有ったが、一体何が起きていると言うのだ!!」

 

エジェイへ向かった諸部族連合軍の先遣隊がどうなったかも知らされず、街の上空を飛行していたワイバーンが訳も分からぬまま落ちて来たのを見てきた諸侯達の発言により会合が混迷する様を見てジライアスはやはりこうなるかとため息を付きながら会合を仕切るベルザー卿に話し掛ける。

 

「ところでベルザー卿、パンドール将軍からは何か指示は有ったのですか?」

 

「うむ……それが、閣下とは魔信での連絡がまだ取れておらぬのだ! 街の西側では大きな爆発が有ったらしいが、恐らく現地で事態の収拾を図って居られるのだろう……。」

 

ベルザー卿が不安げにその様に答える……当のパンドール将軍は航空自衛隊の爆撃により既に死亡しているが、空爆の混乱でその事は彼等には伝わっていなかった……その様な中、1人の伝令が指揮所へと駆け込んで来た!

 

「報告します! 斥候より敵軍を発見したとの報告です!」

 

「来たか! で……敵の規模は!?」

 

「はっ、兵の数はおよそ1000程、後30台程の攻城兵器が街道を沿って此方に向かって来ているとの事です!」

 

「1000の兵に30台の攻城兵器……!?」

 

ベルザー卿を始め、集まっていた諸侯達は思わず首を傾げてしまう……。

エジェイに潜伏している諜報員の報告では出撃した兵の数は約8000程との報告を受けており、パンドール将軍からは見つけ次第、野戦にて数の優位で包囲殲滅せよ! との事前連絡を受けている……しかし、現れた敵の数は1000人程度だと偵察隊にしては数が多過ぎるし、陽動にしては野戦では役に立たない攻城兵器の数が多過ぎる事に相手の意図を測りかねていた……。

 

「敵軍は何をやりたいのだ? 出陣した総数を合わせても数で我等に劣るのに勝てるとでも思っているのかっ!?」

 

その様な中、参加している諸侯の中で最も重厚な鎧を(まと)う巨漢の男が名乗りを上げる!

 

「ベルザー卿、ここは我等『鋼犀騎士団(こうさいきしだん)』にお任せ下さい! クワ・トイネの弱兵なぞ、鎧袖一触(がいしゅういっそく)で粉砕してくれましょう!!」

 

「おおぅ、バルザック殿!」

 

ロウリア諸侯軍の中でもその勇猛さが知られ、王国直属の騎士団と遜色無(そんしょくな)い装備の重騎兵で編成された『鋼犀騎士団』の団長で有るバルザックの言葉に、会合に参加している諸侯からどよめきが起きる……。

 

「残りの兵は何処かに潜んでいるのであろうが、出てこないのなら目の前の先遣隊を捻り潰せば良いだけの事だ! ベルザー卿、どうか出陣の許可を!!」

 

「うむぅ……其方もエジェイ攻略から外された事への鬱憤(うっぷん)を晴らす良い機会で有ろう……鋼犀騎士団長バルザックに命ずる! 配下の騎兵を率いて、敵の先遣隊を殲滅せよ!!」

 

「御意に……ならば首級(しゅきゅう)の首をば、(そろ)えて持ち帰って参りましょう!」

 

その言葉に諸侯達は笑い声を上げながら喝采する! ()くしてギムの東区域より、バルザック率いる800騎の重騎兵の一団が地鳴りの如き音と共に出陣を開始し、ロウリアの兵達はその行軍に勝利を確信する……だが、その動向を一挙手一投足(いちきょしゅいっとうそく)すら逃す事無く見つめる眼が遥か上空に有る事を、彼等は知る由も無かった……。

 

 

同日・同時刻 クワ・トイネ公国 ギムの街から東へ約7km離れた街道

 

 

ギムの街へと続く街道を敵の奇襲に対処すべく自衛隊が準備した73式大型トラックから降車した銀山羊騎士団の歩兵部隊が隊列を組んで歩いて行く中、彼等の前方には巨大な車輪を持つ鉄の車両の一群が徒歩の彼らと同じ速度でゆっくりと移動する姿が有った……。

 

全ての車両が装輪装甲車と言うこの一団は、中央即応連隊と富士教導団の偵察中隊、そして装備実験隊の試作車両により編成された通称『クワ・トイネ即応救援隊』で有り、中央即応連隊隊長の滝田(たきた) 裕之(ひろゆき) 一等陸佐の指揮の元、ギムへと向かう街道を進んでいた。

 

「おっ……騎兵の一群がこっちに来るのかっ! やっぱ便利だな〜、この新型ネットワークシステムは!!」

 

部隊の指揮車両で有る82式無線指揮車の車内では、中央即応連隊隊長で有る滝田 一佐が、手にした10式ネットワークシステムの端末に表示された画面を見ながら、にこやかな表情で呟く……。

 

現在、ワイバーンがいなくなったギムの街の上空を陸上自衛隊の無人偵察機『JUXSーS1』がロウリア軍の動きを観察しており、無人機から得られた情報は10式ネットワークシステムを通じて各部隊の端末に送信される事で、全ての部隊……さらに市ヶ谷の総司令部にまでギムの街の状況が伝わっていた……。

 

「一佐、この速度だと30分もしない内にやって来ますね……。」

 

「そうだな……ならば、ここで迎え撃つとしよう!」

 

副隊長の言葉に滝田 一佐はそう言うと、全車両に停止の指示を出し、後部ハッチから外へ出ると後続のクワ・トイネ軍歩兵部隊の元へ小走りで向かって行った。

 

クワ・トイネ即応救援隊の後方を徒歩で移動していた銀山羊騎士団の古参の戦士で有る千人隊長が滝田 一佐が駆け寄って来るのを見て、部隊を停止させ前へと歩み寄る。

 

「タキタ殿、行軍を止めた様ですが何か有りましたか!?」

 

「千人長、ロウリア軍の騎兵800騎が此方に向かって来ているのを確認しました!」

 

「おおっ! 遂に敵と接敵ですかっ!!」

 

千人隊長は歩兵の天敵とも言える騎兵が近付いて来ているにも関わらず、余裕の有る表情で答える。

 

「では当初の指示通り、我々は横隊を組んで敵を向かい撃ちます!」

 

「相分かった! 此方は円方陣でそちらの討ち漏らしを対処すれば良いですな……ニホンの『鉄の地竜』の力、見せて貰いますぞ!!」

 

叩き上げの古参兵で在りながら、柔軟な考えを持ち合わせる事でオコシ団長からの信頼も厚いこの男は、不安を言う部下達を(たしな)めながらここまで進んで来た。

そして彼自身、自衛隊の装甲車両を見るや『これこそ自軍に勝利を(もたら)す物』で有る事を直感し、滝田 一佐率いる『クワ・トイネ即応救援隊』に従う事こそが、勝利と部下達の生存に(つな)がると確信していた……。

 

「2号車より滝田 一佐へ、正面より武装集団の騎兵の一群を目視にて確認!」

 

「分かった、直ぐ戻る!」

 

滝田 一佐はそう言うと、クワ・トイネ式敬礼を行なう千人隊長に見守られながら、車両へと戻って行った……。

 

 

急いで82式無線指揮車前に戻って来た滝田 一佐は待っていた副隊長に状況の確認を行なう。

 

「今戻った、状況は!?」

 

「騎兵の一群は1キロ先の丘の上で停止しています、それと先程から騎兵の一騎が前に駆け寄り、何か叫んでいる様です!」

 

滝田 一佐が騎兵の一群が集結している丘を見ると、確かに(きら)びやかな鎧を来た騎士が、此方の手前500m程の位置で一騎だけ出て来ている。

 

「ほぅ……これは、どうやら『名乗り』を上げに来ている様だな、ならば!」

 

滝田 一佐はそう言うと、近くに停車していた試製機動戦闘車の車体の上に跨乗(こじょう)し車長に前進する様、指示を出す。

 

「あっ……隊長!?」

 

「ちょっと挨拶しに行くだけだっ……もし俺に何か有ったら、その時はお前が指揮を取れ!」

 

副隊長にそう伝えると、彼を乗せた試製機動戦闘車は両者が睨み合う中間地点へと向かった。

 

磨き上げた鉄と装飾が施された鎧を纏った鋼犀騎士団の団長で在るバルザックは敵と部下達に自らを誇示すべく、1人敵前へと駆け込んで目の前の敵陣営を見下ろす……。

 

「野戦では全く役に立たん攻城兵器を前に出し、兵達はその後ろに隠れるとは……クワ・トイネの兵士は戦を知らぬのか? 全く拍子抜けだっ!」

 

バルザックは眼下の敵軍を見ながらそう嘆くと、人を上に乗せた1台の破城鎚(はじょうつい)らしき物が此方に向かって来ているのに気が付く。

 

(むぅ……あの破城鎚、人が中で押してる様には見えぬっ! 一体、どうやって動いている!?)

 

彼は内心そう驚くも、後ろに部下達が控えている手前、動じる素振りを見せる事無く、武人らしい態度で破城鎚の上に座る人物と対峙した……。

 

「我こそは、ロウリア王国国王ハーク・ロウリア34世の忠臣『鋼犀騎士団』団長、ドゴス・ド・バルザックで有るっ! 破城鎚に座する者よ、名を名乗れっ!!」

 

バルザックは試製機動戦闘車の砲台に座っている滝田 一佐に対し名乗りを上げると、滝田 一佐はバルザックを見下ろしながら立ち上がり、返答する。

 

「自分は日本国陸上自衛隊 一等陸佐『クワ・トイネ即応救援隊』隊長、滝田 裕之だっ! さて……バルザック団長、御要件を伺おう……。」

 

バルザックは自分より高い目線で見下ろす滝田 一佐の態度に腹を立てながらも、話に聞いていたクワ・トイネの同盟国の名を聞いて反応する。

 

「ニホン国……!? あぁ、クワ・トイネと同盟を組んだ、馬鹿な国の事か!! フンッ! どんな(やから)かと思えば鎧は(おろ)か、帯剣すらしていない未開の野人とは……まぁ良い、此方はこれから殺す相手の名を聞きに来ただけの事よ!」

 

「……話はそれだけか? ならば此方も要件を言おう! ロウリア王国を名乗る武装集団に告ぐ、不法占拠しているギムの街から即刻に退去、又は武器を捨て投降せよ! 応じ無い場合は実力を持って排除する!!」

 

滝田 一佐がそう伝えると、バルザック団長は笑い声を上げながら、()き捨てる様に言い放った。

 

「フンッ、笑わせるなっ! たかが1000にも満たぬ雑兵(ぞうひょう)で我等、鋼犀騎士団の相手になると思っているのかっ! 貴様もそこから()()()ろして、その首を斬り取ってくれるわっ!!!」

 

バルザック団長の発言に警戒していた試製機動戦闘車の車長が砲塔上部の登載機銃(とうさいきじゅう)を構えるが、滝田 一佐は手を伸ばしてそれを制止させる。

 

「バルザック団長、我々の要望が伝わらぬとはとても残念だ……そちらが攻撃に出次第、排除を開始する!」

 

「ほざいていろっ! 緑の野人めっ、クワ・トイネの連中共々皆殺しにしてくれる!!」

 

話し合いは決裂し、双方はそれぞれが自分達の陣へと戻って行く中、バルザックは滝田 一佐の言葉と行動に何か違和感を感じながらも部下達に突撃命令を出した……。

 

 

「各車、射撃準備! 搭乗員は降車し車両後方より騎兵を迎え撃て! 機動戦闘車は榴弾を装填!!」

 

自陣に戻り82式通信指揮車に乗り込んだ滝田 一佐は上部ハッチから身を乗り出して次々と指示を出す……そうこうしている内に敵陣から角笛の音が鳴り響き、鋼犀騎士団の重騎兵が雪崩(なだれ)を打って自陣へと駆け込んで来た!

 

「来たか……もう少し引きつけろ!」

 

滝田 一佐は冷静に指示を出しながら目を瞑ると静かに呟く……。

 

(バルザック団長……悪く思うな!)

 

そして目をカッと見開いた滝田 一佐は部隊に号令を発する!

 

「撃てっ!!」

 

横1列に並んだ96式装輪装甲車、87式偵察車に軽装甲機動車、そして試製機動戦闘車の車載機銃から弾丸が轟音と共に次々と放たれる。

 

「ニホンの攻城兵器は後回しだ、先にクワ・トイネの兵共を仕留めるぞっ!!」

 

「おおおおぉぉぉーっ!!」

 

バルザック団長の号令の元、全ての重騎兵が(とき)の声を上げながら自衛隊、クワ・トイネ合同軍の陣地へと全力で突撃を始める。

 

だが道中を半分過ぎた所で横一列に並んだニホンの破城鎚の筒から突如赤い炎が噴き出し、豪雨の如き光の飛礫(つぶて)が鋼犀騎士団へと降り注いだ!

 

「うおおぉーっ! 何が、何が起こっているのだーっ!!」

 

鉄の鎧と馬鎧(ばがい)を着込み、ロデニウス随一(ずいいち)(うた)われた重騎兵達が光の飛礫を受け次々と倒れて行く……その光景にバルザックは悲鳴に近い叫び声を上げるが次の瞬間、一番大きな破城鎚から炎が上がり彼の視界は一瞬で白く包まれた……。

 

バルザックが最後に見た光景は、くるくると入れ替わる空と大地だった……試製機動戦闘車の105mm砲から放たれた榴弾の直撃を受けた彼は文字通り爆裂四散(ばくれつしさん)し、他の部下共々、ギムの草原で屍を晒す事となった……。

 

 

「射撃止めー!」

 

滝田 一佐の指示が無線で各車両に届き、火を噴いていた砲口が沈黙する……目の前の街道には(おびただ)しい数の騎兵と馬の死骸が散乱しており、僅かながらに(うめ)く声が聞こえる……。

 

「生存者を探せ! 負傷者は応急処置の後、段列(だんれつ)(後続の支援部隊)に引き継がせる。」

 

滝田 一佐は副隊長にそう伝えると82式通信指揮車から降り、銀山羊騎士団の陣営へと歩いて行った……。

 

 

「あ……あぁっ、信じられんが、まさかこれ程とは……!」

 

後方からニホン軍の圧倒的な攻撃を見ていた銀山羊騎士団の千人隊長は驚愕を隠しきれずそう呟く……。

 

(……オコシ団長からは「地竜の部隊が同行していると思って気楽に行け!」とは言われたが、これはパーパルディアの地竜なんてモノじゃ無い! 例えるなら、神話の時代……魔王の軍勢を焼き払ったと云われる伝説の神獣……『鋼鉄の地竜』そのものだ……!)

 

その様に思っていると彼の元へ、戦闘を終えた滝田 一佐が再び向かって来た。

 

「お疲れ様です、千人長……武装集団の排除は完了しました! 負傷者は後続に任せて、ギムの街への移動を再開します。」

 

「あっ、あぁ……相分かった、我々も兵達を馬車に乗せ、そちらに同行する。」

 

千人隊長は笑みこそ浮かべているが、目は笑っていない滝田 一佐の表情から来る気迫の様なモノに圧倒されつつも返答を行なう……その後、銀山羊騎士団の兵達は73式大型トラックに乗車すると、クワ・トイネ即応救援隊と共に再びギムの街へと向かった……。

 

 

同日・交戦から小一時間後 クワ・トイネ公国 ロウリア軍占領下のギムの街 東区域

 

 

無数のロウリア軍旗が翻るギムの街の東区域は、丸太で造られた柵と櫓が建ち並び、多くの兵達が往来するその姿に(かつ)てはその繁栄ぶりが遠くからでも(うかが)えたと言う当時の面影は既に失われて等しかった……。

 

「おいっ……味方の騎兵だっ、門を開けろ!」

 

高見櫓(たかみやぐら)から東の地を監視していた兵士がそう叫ぶと門が開かれ、2騎の騎兵が門をくぐりギムの街へ入って行く……最初は戦況を報告しに来た伝令かと思っていたが、伝令が持つ旗は疎か帯剣すらしていない事に見張りの兵士達は首を傾げた……。

 

「何っ! 戻って来た騎兵は伝令では無いと言うのか!?」

 

ベルザー卿を始め諸侯達は兵からの報告を聞いて驚きの声を上げる。

 

兵によると戻って来た2騎の騎兵は鋼犀騎士団配下の重騎兵なのは間違い無いが、伝令旗を持ち合わせておらず武器すら所持していなかった……しかも2名とも激しく動揺している為、事情も聴けない有り様らしい。

 

「有り得ん、あの勇猛果敢な鋼犀騎士団の重騎兵が逃げ出すなどっ!!」

 

「重騎兵が歩兵に負けるなどあり得る訳が! まさか敵側に大魔導師でもいるのかっ……!?」

 

「それが、魔法監視哨からは大規模な魔法が使われた形跡は無いとの報告が有った……。」

 

「じゃあ、一体何が……!?」

 

指揮所の会合が再び紛糾し、諸侯達が喧々諤々(けんけんがくがく)となって話しすら(まと)まらない状況の中、伝令が慌てた様子で指揮所の中へと入って来た。

 

「ほ……報告します! 東区域の見張りが、クワ・トイネの旗を掲げた一群を確認したとの事です!!」

 

「な……何だと!!!」

 

伝令の報告にベルザー卿達は指揮所を飛び出し、東側の土地が見渡せる近くの高見櫓へと駆け込んで行く……櫓を登り見渡すと、1キロ程離れた先の草原に無数のクワ・トイネ公国軍の旗の元、整列した兵士と横一列に広く並んだ攻城兵器の一群の姿が有り、手にした望遠鏡を覗き状況を確認していたベルザー卿は、クワ・トイネの旗と一緒に何かが掲げられている事に気が付く。

 

「あれは……まさか、まさかっ! 鋼犀騎士団の隊旗にバルザックの兜かっ!?」

 

そこにはボロボロになった鋼犀騎士団の隊旗と装飾が施され銀色に輝く鋼犀騎士団団長バルザックの兜がクワ・トイネ公国軍の旗と共に掲げられており、それを見たベルザー卿はバルザックが戦死した事を確信し、(なげ)きながら顔を歪める……だが、相手側の陣地から大きな声が聞こえ始めると再び鬼の形相で敵陣を(にら)み始めた。

 

「あ〜、此方は日本国陸上自衛隊、クワ・トイネ即応救援隊で有る、ギムの街を不法占拠しているロウリア王国を名乗る武装集団に告ぐ、即時に武器を捨て降参するか、ギムの街を退去しアルース・ラーサ川の向こう岸まで退去されよ! さもなくば……。」

 

軽装甲機動車に付けられたスピーカーから発せられる警告の内容にベルザー卿は、手に持っていた望遠鏡をへし折るほどに憤慨(ふんがい)し大声で怒鳴り散らす!

 

「我等を賊扱いした上にギムから出て行けだと! 寡少(かしょう)の軍勢如きがふざけた事を吐かすな!!!!」

 

ベルザー卿はそう言いながら、自ら折った望遠鏡を床へと叩き付けた!

 

「ベルザー卿、如何がなさいますか……!?」

 

「おおぅ! ここはパンドール閣下からの事前の指示に従い、出せる兵を全て出して敵を包囲殲滅する! あの鋼犀騎士団を打ち倒した奴を相手にするのだ、数に物を言わせ全力で行くぞ!!」

 

ベルザー卿はジライアスの問いにそう答えると、周囲の諸侯達も出陣の言葉に同調し声を上げる……こうしてロウリア王国諸部族連合軍は24000の大兵力にて陸上自衛隊、クワ・トイネ連合軍を撃退すべく、ギムの街の東に広がる草原へと出陣を開始した。

 

 

「敵、来ましたね……。」

 

「あぁ……俺の趣味には合わんが、拾った敵軍の旗と兜を掲げるのは正解だった様だ、敵将らしき奴が慌てた表情で望遠鏡を(のぞ)いていたぞ!」

 

82式通信指揮車の上部ハッチから集結して来るロウリア王国軍の部隊を観察していた滝田 一佐は副隊長の言葉にそう答える。

 

「それと、どうやら我々が一番懸念(いちばんけねん)していた、市民を『人間の盾』にする戦術はやらない様だな。」

 

「えぇ……これで最悪のプランBは回避出来そうですね! 大内田 陸将の作戦は上手く行っています……。」

 

滝田 一佐と副隊長は大きく展開するロウリア王国軍の隊列を眺めながら、副隊長とその様に話し合う……。

 

大内田 陸将(正確には本国の作戦部が立案した!)が提示した『ギム奪還作戦』とは、エジェイの街に潜伏する敵の諜報員にギムへの出撃とその兵力をワザと伝え、日の出前に出発を行なう……道中、敵戦力が集結している東区域の陽動を行なうクワ・トイネ即応救援隊と銀山羊騎士団の歩兵部隊、南区域で強襲を行なう第七師団と銀山羊騎士団の騎士を中心とした騎兵部隊の二手に別れ移動を行なう。

 

その間に航空自衛隊による敵ワイバーンの掃討とギムの西区域に建てられたワイバーン厩舎の爆撃を行ない武装集団の行動を拘束し地上部隊の移動の支援を実施する。

 

ドローンの上空監視の元、ギムの東区域へ向かうクワ・トイネ即応救援隊と銀山羊騎士団の合同軍は敵の哨戒圏に入った所で敢えて歩兵を下車し徒歩で行軍させ、わざと敵に此方の戦力を把握させる事で敵部隊の迎撃を誘引(ゆういん)し、遊撃に来た敵軍をクワ・トイネ即応救援隊の火力で撃破する事で敵将に此方が強靭な少数精鋭部隊で在る様に思わせる。

 

こうしてギムの街に居座る武装集団の眼前に現れる事で、敵将に少数精鋭部隊への対抗策として大規模部隊による野戦での決戦を行なわせる様に仕向けさせ、敵の大軍を街の外へと出陣させる。

 

敵軍を野外での決戦に誘うのは、市街戦を避けギムの街に取り残されている市民に砲爆撃の被害が及ばない様にする為で、政府の方針を受けて市ヶ谷の作戦部から出された案らしい。 

 

こうして2万以上の敵兵がギムの街から現れ、我々を包囲すべく鶴翼陣形(かくよくじんけい)を整え始めている……どうやら大軍をおびき寄せる作戦部の案は上手く行った様だ……!

 

因みにプランBとは、ギム市民を人質にした「人間の盾」を確認した場合、クワ・トイネ即応救援隊は後退する素振りを見せて東側で敵を引き付けている間に、南側で待機している第七師団と銀山羊騎士団の部隊か損害覚悟の強襲を行なう強行策で有り、内容的に日本国としては避けたい策で有った。

 

……一方、陸上自衛隊の陽動策に付き合う事になった銀山羊騎士団の歩兵部隊はロウリア王国軍の大軍を前に兵達が()気付(けづ)きそうになる中を千人隊長が必死に兵を引き留めていた……。

 

「馬鹿もんっ! ギムの街の眼前まで無傷で来れたのだぞ……ここで怖じ気付いてどうする!!」

 

「しかし隊長……いくら何でも敵の数が多すぎます!」

 

「ああっ、正直に言えば俺も怖い……だがニホンの戦士を見て観ろ、あの大軍を見ても動じる素振りすら見せていない! 彼らにはきっと何か策が有るのだ……!?」

 

千人隊長がそう部下達に鼓舞していると、82式通信指揮車の上部ハッチより顔を出している滝田 一佐が大きな声で彼に話し掛けて来た。

 

「千人長、間も無く空爆が開始されます! 空に赤い煙が立ち昇ったら、部下達全員に耳を塞ぐ様に指示を出して下さい!!」

 

「クウバク……!? 赤い煙を見たら耳を塞ぐ様に言えば良いんだな? 分かった!!」

 

「はい、お願いします!」

 

滝田 一佐はそう伝えると、再び82式通信指揮車の車内へと入って行った……すると「ポンッ!」と言う音と共に上空に赤い煙が立ち昇った。

 

「むうっ……空に赤い煙がっ、クウバクが来るぞっ! 全員、耳を塞げっ〜!!」

 

千人隊長がそう叫ぶと、遠くから雷鳴の様な音が聞こえ始め、兵達は耳を塞ぎながら空を見渡す。

 

同じ頃、ロウリア王国諸部族連合軍の指揮官で在るベルザー卿も敵軍の陣地から赤い煙が立ち昇ったのを見ながら眉を(ひそ)める……。

 

(赤い狼煙……? 敵軍は何処かに合図を送っているのか!? いったい何を……。)

 

ベルザー卿は自軍の圧倒的な数に怯む気配も無く狼煙を上げ始めた敵軍の行動に妙な違和感を感じていると、兵の1人が空を指差しながら叫び始める!

 

「ベルザー卿! 北の空に竜の一群がっ、此方へ向かって来ます!!」

 

兵の声にベルザー卿が空を見上げると、竜とは思えない12機の怪物が雷鳴の様な音と共に急激に接近し、爆発する何かを次々とロウリア軍の頭上に落として行った。

 

「な……なんだこれはっ!? まさか我等は、敵に誘い出されっ……。」

 

その言葉を最後にベルザー卿は多くの兵士達と共に凄まじい爆風に巻き込まれ、その身を消滅させた……航空自衛隊第三飛行隊所属のFー2戦闘機12機は満載した500ポンド爆弾をロウリア王国諸部族連合軍の陣営に投下し、24000名の兵士達を文字通り壊滅させたので有った……。

 

 

同日・同時刻 クワ・トイネ公国 ギムの街から南東へ約10km離れた丘陵地帯

 

 

その頃、ギムの街を見下ろす事が出来る丘の麓に設営された陸上自衛隊、銀山羊騎士団の合同野戦指揮所では、オコシ団長を始め銀山羊騎士団の騎士達が空爆の様子を映した大型モニターの画面を食い入る様に見ながら驚愕する姿が有った……。

 

「おおっ! 見たか、今の……!?」

 

「あぁ……昨日の『後方支援』と言い、この『クウバク』もこれ程、凄まじいとは……。」

 

現地の上空を監視飛行している無人偵察機『JUXSーS1』からのリアルタイム画像にオコシ団長は驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべる……。

 

「むぅ……遠く離れた場所なのに、この様なモノが見れるのかっ!? それよりもオオウチダ将軍の策がこれ程までに上手く行くとは……。」

 

「あぁ、これは私では無く本国の作戦部が出した提案ですが……。兎に角、敵の主力を正面に引き摺り出し、殲滅する事に成功しました!」

 

大内田 陸将は苦笑いしながらその様に答えると、オコシ団長は口髭を擦りながらフミスキ副団長に話し掛ける。

 

「ならば、いよいよ我等の出番となる訳ですな……副団長、兵達はどうかな!?」

 

「ハッ! 全ての将兵は腹を満たし、何時でも出撃が可能です!!」

 

「うむっ……ニホンからの食事、アレは野戦食とは思えぬ程、美味で有ったな!」

 

オコシ団長はフミスキ副団長の言葉に思わず頷く……食の豊かさで知られているクワ・トイネ公国で有っても騎士団の野外での食事と言えば塩漬け肉と大麦の粥に固い黒パンが定番で有りロウリア王国軍と大差無いモノで有ったが、陸上自衛隊より野外炊具1号(22改)にて調理された肉と野菜がたっぷりのビーフシチューと柔らかい白パンが振る舞われ、出撃を前にした騎士達は予想を超えた食事の味に舌鼓(したつづみ)を打ちながら英気を養うので有った。

 

「副団長! 兵達に整列する様、指示を出してくれ……オオウチダ将軍、宜しいですかな?」

 

オコシ団長は副団長に指示を出した後、大内田 陸将に向かいそう話し掛けると、彼は静かに頷いて答えた……。

 

 

直掩のFー2戦闘機が音を立て上空を通過する中、愛馬に騎乗したオコシ団長は整列した銀山羊騎士団の騎兵と第七師団の車両の列を満足げに見上げる。

 

(公都を出陣したあの日から、もう3ヶ月が過ぎるのか……圧倒的なロウリア軍と対峙すると聞いた時は死をも覚悟したが、まさか反撃を行なうだけで無くギムの奪還まで行なえるとは……。)

 

これまでの事を心の中で振り返ったオコシ団長は意を決し、整列した兵達に対し演説を始める……。

 

「勇敢たるクワ・トイネの騎士達並び、ニホンの戦士達よ! 自らの危険を顧みずギム解放の大義に参加した事を心から感謝する!!」

 

「諸君らも知っての通り、ギムの街を占拠する卑劣なロウリア軍はニホン軍の攻撃によりワイバーンを失い、主力で有る諸部族連合軍が壊滅した事によりその戦力を半減させた!」

 

「されど街には未だ2万を超える敵兵が待ち構えている……だが(おく)する事は無い! 『太陽神の使者』の再来たる友邦ニホン軍が『鋼鉄の地竜』たる戦車を率い、我等と共に戦ってくれるのだっ!!」

 

「オオウチダ将軍は敵の防壁を破壊し、我等が街に向かう突破路を切り開く事を約束してくれた! 我ら銀山羊騎士団はその剣で敵を街から駆逐し、ギムの街をこの手で取り戻すのだ!!」

 

「我々は必ず……必ずや勝利する! 勇敢なる諸君らに『緑の神』の加護が有らん事を!!」

 

オコシ団長が演説を終えるとクワ・トイネの騎兵達は抜刀し剣を高々と掲げながら鬨の声を上げ、車両の前で整列していた陸上自衛隊員達は合図と共に一斉に挙手の敬礼を行なった。

 

 

「ヤマウチ! 其方も参加していたのか……!?」

 

愛馬に跨り、銀山羊騎士団の隊旗を手にしたトウミが迷彩服を着た山内を見つけ声を掛けて来た。

 

「あぁ……向こうの住民に必ず助けに行くって、約束しちまったからな! それより旗持ちの一番手になったって聞いたぞ!」

 

「ふっ……私も意外だったよ、過保護な叔父がこんな大役を指示するとは……でも、これはクワ・トイネ騎士に取って最高の名誉なんだよ!」

 

トウミはそう自慢げに答えながら銀の糸で雄山羊の姿が刺繍(ししゅう)された騎士団の軍旗を高々と掲げる……戦場で軍旗を掲げ先陣を切る行為は、騎士にとって一番の名誉とされているが『一番旗手、一番死!』と呼ばれる程、危険な役割りでも有った……。

 

「アンタが強ぇ事はこの俺が身を持って知っている……だが、無理するんじゃねぇぞ!」

 

「あぁ……解っている! ヤマウチ、次はギムの街で会おう……其方にも『緑の神』の加護が有らん事を!」

 

2人はその様に言葉を交わし合うと、トウミは騎士団の最前列へと進み、山内は89式装甲戦闘車に乗り込むと共に出発の時を待った。

 

「出発!!」

 

大内田 陸将自らが車長として乗り込んだ90式戦車が第七師団の先陣を切り、銀山羊騎士団の騎兵隊がその後方へと続きながら北上を開始する……。

 

「この様な形とは言え、遂に我ら第七師団も戦闘を行なうのか……。」

 

大内田 陸将は90式戦車の上部ハッチからギムの街を(のぞ)みながらその様に呟く……この戦争の行方を決める戦いが間も無く始まろうとしていた。

 

 

同日・正午過ぎ クワ・トイネ公国 ロウリア軍占領下のギムの街 南区域

 

 

東区域と同様、ギムの街の南区域にもロウリア軍により丸太を打ち付けた急拵(きゅうごしら)えの柵が建てられており、クワ・トイネ公国軍を迎え撃つには十分過ぎる数の兵が待機している……だが雷鳴と共に墜落して来たワイバーンと西区域と東区域で起きた大爆発、それらが何故起こったのか何も知らされぬままの兵士達は不安を隠しきれず、再び聞こえて来た雷鳴の様な音に動揺しながら、強張った表情で南に広がる丘の稜線(りょうせん)を監視していた……。

 

「か……街道方面から砂塵が見えます! な……何だアレは、敵なのかっ!?」

 

高見櫓から南側を監視していたロウリア軍の兵士が、砂塵(さじん)を舞い上げながら疾走する巨大な鉄の怪物を見て仰天しながらも大声で敵襲を告げようとする。

 

その瞬間、横一列に並んだ鉄の怪物が轟音と共に一斉に炎を吹いた!

 

「なっ!?」

 

兵士がそう叫んだ次の瞬間、目の前に建てられた丸太の柵が爆発し、近くにいた兵士達を巻き込みながら柵を粉々に吹き飛ばした!

 

本能的に高見櫓の陰に隠れて無事だった兵士が顔を出すと、さっきまで遠くにいた鉄の怪物が壊した柵を乗り越え、その内の1両が此方へと向っている事に気が付いた。

 

「うあっ! うあああぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

兵士は大慌てで高見櫓から降りようとしたが、それよりも早く鉄の怪物が高見櫓に激突し、兵士は傾く高台から地面へと落転がり落ちた……。

 

「痛ぇ……畜生!」

 

兵士はそう言いながら地面から立ち上がろうとしたが、目の前に別の鉄の怪物が凄まじい速度で迫って来るのが見え、彼は驚きの余りその場でへたり込んでしまう。

 

「ひいっ! ひいいぃぃっ!!!!」

 

兵士は声にもならない悲鳴を上げ身構えるが、鉄の怪物は目の前で急停止し、彼を避ける様に迂回(うかい)しながら街へと向かって行った。

 

「………………」

 

当の兵士は余りの事にその場で失禁しながら気絶してしまいその後、南区域の数少ない生存者の1人となった……。

 

 

「降車! 散開し、突入する騎兵を援護しろ!!」

 

ギムの南区域へと到達した89式装甲戦闘車の後部ハッチが開くと次々と隊員が降りて来る……車体前部に排土板(はいどばん)排を登載した90式戦車が破壊した柵の瓦礫を取り除き、クワ・トイネ騎兵の突入路を確保する。

 

「道が出来たぞっ! 我に続け!!!」

 

軍旗を掲げたトウミはそう叫びながら、騎兵達と共にギムの街へと駆け込んで行く! 途中、大盾と槍を構えたロウリア軍の重装歩兵が立ちはだかるも、自衛隊の射撃でハチの巣にされると、残りの兵士達は武器を捨て慌てて逃げ出した。

 

「このまま中央広場へと行くぞっ!!」

 

トウミは先陣を切りながら騎兵達と共に街を通り抜け、中央広場への入口へと差し掛かる……すると無数の矢が彼女達へと振り注いだ!

 

「くっ!?」

 

トウミは自らに飛んで来た2本の矢を剣で()(かわ)すも、後続の騎兵と馬が矢を受け倒れ込んでしまう!!

 

「塔に弓兵がいるぞ! 全員、後た……!?」

 

彼女が騎兵達に後退を指示しようとすると、後方から太い矢の様なモノが白い煙を引きながら塔に向かって飛んで行くのが見え、ソレは塔に命中すると大爆発を起こした!

 

「あああぁっ!?」

 

その様子を見ていたクワ・トイネの騎士達は驚きの声を上げながら崩れ落ちる塔を見つめる……魔法監視哨の装置が増築されていた塔は89式装甲戦闘車から発射された重MATこと79式対舟艇対戦車誘導弾の直撃を受け、塔から弓を射っていたロウリア弓兵を巻き添えにしながら倒壊した。

 

「ふっ……やはりヤマウチか!? また助けられたな……。」

 

白い煙が(なび)く方向をトウミが振り返りながらそう呟くと、89式装甲戦闘車の砲塔ハッチから顔を出しながら手を振る山内の姿が在った……。

 

斯くしてギムの街の市街戦は南区域より日本、クワ・トイネ両軍の怒涛(どとう)の強襲が行なわれ、数で勝る筈のロウリア王国軍は押し寄せる自衛隊の装甲車両とクワ・トイネ騎士の前に士気が崩壊し、その多くが国境の川を渡りロウリア本国側へと逃走した……。

 

一部のロウリア兵は反撃を試みたが両軍の敵では無く、ある者は銃で撃ち抜かれ、またある者はクワ・トイネ騎士の剣で討ち倒された。

 

やがて夕方を迎える頃、街に掲げられていたロウリア王国の国旗は外され、『緑の神』の横顔が(えが)かれたクワ・トイネ国旗が再びギムの街に(ひるがえ)った……。

 

 

「多分……この辺だな!?」

 

山内と隊員達を乗せ、日の丸とクワ・トイネ国旗を掲げた89式装甲戦闘車がギムの街西区域の中心部に到達すると、停車し後部ハッチを開放した。

 

「降車! まだ敗残兵が居るやも知れん、全周警戒を怠るな!!」

 

降車した隊員達は指示通り、車両を囲う様に散開し警戒を行なう……遅れて降車した山内は被害を免れたとある建物へと歩いて行く……。

 

「ヤマウチ殿………ですか?」

 

建物の奥から声が聞こえると顎髭を生やした男が山内の元へと歩いて来る。

 

「はい……トビアスさん、お待たせしました!」

 

そう答えると生存者達のリーダーで在るトビアスは駆け寄り、山内の手を強く握りしめた。

 

「お待たせしたなんてとんでもない……来てくれた、本当に来てくれた! ありがとう……。」

 

トビアスは涙を流しながら手を握り続ける……すると建物の奥からは無事だったギムの街の人々が姿を現し外へと歩き出す……開戦以来、外へ出る事が出来なかった彼等は久しぶりに見る夕焼け空を見つめながら多くの犠牲の中、この街に平和が戻った事を実感した……。

 

中央歴1639年(西暦2015年)7月27日……ギムの街は日本、クワ・トイネ両国の手によりロウリア王国軍を駆逐し107日ぶりに解放された……この戦いは後に『ロウリア事変』と呼ばれるこの戦争のターニングポイントとなるので有った。

 

 

続く




第20話にて、物語のクライマックスとも言えるギムの街、解放作戦が実施されました。

この年ではまだ試作段階の16式機動戦闘車を引っ張り出したり、ドローンを飛ばしたりとやりたい放題やっていますが、このお話しは「国際協力機構 異世界を往く」で、まだ食料・資源問題が解決してないから、あとチョットだけ続くんじゃ……。

追記……銀山羊騎士団の歩兵部隊には装輪車両と速度を合わせる為に、自前の馬車では無く73式大型トラックに搭乗する様に変更しました。
この車両の正式名称は『3 1/2tトラック』ですが、読みにくいのでここでは旧名の『73式大型トラック』と呼称しています。
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