日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編   作:アニキ イン ザ スペース

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「んっ! ここは何処だ……!?」

深緑色の天幕に妙に明るい照明の中、男は目を覚ます……今まで着ていた鎧は横に脱ぎ置かれ、寝間着の様な服を着てベッドに寝ている事に気付くが、左足には白くて硬い物が巻かれている為、起き上がる事出来なかった……。

「あっ……起きられましたか!? 無理に動かないで下さい!」

そう言いながら、白衣を着た異国の容姿の男が彼の元へと駆け寄って来る。

「ここは……それにそなたは?」

男は身体を動かせない事にもどかしさを感じながらも白衣の男に問い掛ける。

「ここはギムの街に建てられました日本国陸上自衛隊の野戦病院で、私はその医官です……しかし運が良い方だ、左足を骨折していますが、此処に収容された怪我人で五体満足なのは貴方だけですよ!」

「野戦病院!? ニホン国の……医者だと!!」

医官を名乗る男の言葉に驚きながらも、男はこれまで何が起こったのかを必死に思い出す……。

(そうだ……ベルザー卿の指示で兵達を率い街を出て、陣形の列に加わった時だ……突如、轟音と共に鏃の様な怪物が頭上を飛び去り、その音に驚いた馬から余が落馬した瞬間、衝撃と共に視界が真っ白になり左足に何かが圧し掛かる感覚を最後に意識を失った……一体何がっ!?)

これまでの事を思い出しているとテントの入口から2人の男が入って来る……1人はクワ・トイネ騎士の衣装を着た若いエルフで、もう1人は緑の斑模様の服を着た大柄な男で在った……。

「ほう……お目覚めの様ですな、ジライアス殿!」

若いエルフの騎士が男の名を呼ぶと、男ことジライアスは訝しい表情で若いエルフに問い返す!

「貴様……何故、余の名を!?」

ジライアスの問いに若いエルフは冷徹な表情で答える。

「貴方がロウリア王国の東ハーグリア領主、ザイドス・ド・ジライアスで在る事は調査済みです……そして、その土地は以前『アルース・リ・マンサ』と呼ばれていた事も……!」

「なっ……その名前を知っているとは、貴様は!?」

「えぇ……私はロウリアの侵略で故郷で在るアルース・リ・マンサを追われた者です!」

その言葉にジライアスはそれまでの表情とは打って変わり、驚愕の表情で彼の顔を見つめる……若いエルフは続けて話をしようとするが、隣にいた大柄な男が彼に呼び掛けそれを制した。

「イシウスさん……悪いが、コイツには先に聞かねぇといけねぇ事が有るんだ!」

「はっ! すみませんヤマウチ殿、そうでしたね……。」

大柄な男の言葉にイシウスと呼ばれた若いエルフはため息を付きながらも引き下がった……。

「これは失礼、ジライアスさん……そう言えば紹介がまだでしたね! 彼はクワ・トイネ公国、軍務局情報課のライグライン・イシウスで、私は日本国、防衛駐在官の山内 哲也と申します。」

山内は右手を胸に当てながら挨拶をした後、手にしていた封書から数枚の写真を取り出しジライアスに差し出した。

「コレは……紙の魔写なのか? はっ!!」

ジライアスは写真を見るや忽ち青ざめた表情となり、身体を振るわせながら山内の顔を伺う……。

「ジライアスさん、ロウリア軍の将官は皆んな逃げるか死ぬかして、マトモに話せるのはアンタしかいねぇんだ! だから教えてくれねぇか……ココで何をやっていたのかを!?」

山内が差し出した写真は特戦群の偵察隊が撮影した物で、そこには街の郊外で山の様に積まれたギム市民の死体を穴に投棄しているロウリア兵達の姿が写っていた……。



第二十一話 終戦への道

中央歴1639年(西暦2015年) 7月28日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村

 

 

昨日、ラジオの速報でギムの街が奪還された事を知り歓喜したナエノデンエンの村人達はそれを祝うべく村総出の祝勝会が開催された。

 

村人達は持ち寄った料理と酒を振る舞い、歌と踊りに興じながら翌日まで飲み明かす……そして翌朝。

 

「ふええぇぇ〜っ! おじょうさま〜ごめんらぁさ〜い! きょうはおしごとむりでしゅ〜! うにゃ〜!!」

 

ギムの解放を誰よりも喜んでいたメイドのリドルは羽目を外して飲み続けた為か、酒に強い筈のドワーフにも関わらず、呂律(ろれつ)が回らない言葉で呟くと酒瓶を枕にして床に眠ってしまう……祝宴の片付けを行っていた他のメイド達はそんな彼女に(あき)れつつもその寝顔を見て笑っていた……。

 

「ぐは〜っ! 久々に飲み過ぎたわぃ、コレだと今日は仕事にならんのぅ!」

 

ドワーフのダイスは自慢の赤髭を掻きながらそう言うと椅子に深く腰掛ける……すると彼の横の机にコーヒー入りのカップがそっと置かれた。

 

「お早う御座います、ダイスさん……コーヒーを淹れましたので、良かったらどうぞ!」

 

「おっ、これはヒルカワ殿にマキタ殿……しかし、良いのか!? これは貴重な飲み物だと聞いとるぞい!」

 

転移から半年近くが過ぎ、前世界で輸入に頼っていたコーヒー豆は今や店頭から姿を消し、一袋が万単位で高額取り引きされる程になっていた。

 

「これはこうゆう時の為の飲み物ですから、気になさらずにどうぞ!」

 

「そうか……すまんのう、では頂くとするか……。」

 

比留川の言葉にダイスはカップを手に取り、コーヒーを一口すすると深く息を付いた。

 

「くーっ、この風味と苦味が身体に沁みるわぃ!」

 

ダイスがコーヒーの味を満喫する中、比留川と牧田も席に着き、昨日のギムの奪還に付いてそれぞれ語り始めた……。

 

「もっと激戦になるかと心配していましたが、思った以上に早く事が終わってなによりです!」

 

「でも、まだ戦争自体は終わった訳じゃ無いからな〜。」

 

「そうじゃい! あの王の事じゃ、兵を揃えたらまた懲りずに攻めて来るぞぃ!!」

 

「はぁ……戦争を始めるのは簡単だが、終わらせるのは大変だとは良く言ったモノだ……政府はどうするんだろぅ!?」

 

比留川はそう言いながらコーヒーを口にし、ふっとため息をつく……そんな彼の心配を余所に、永田町では戦争の終結に向けての話し合いが行われていた……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 7月30日 日本国東京都千代田区永田町 首相官邸

 

異世界に転移して初めての夏を迎える日本は、周囲の影響で最高気温は幾分(いくぶん)か下がるで有ろうと言う気象庁の予想通り、東京の都市部の昼間でも30度前後の気温で落ち着いており、街を行く人々にも余裕の表情が伺えた……。

 

3日前、ギム奪還の報を受けた首相官邸だが、ギムの街の現状が伝わるに連れ、会議に出席していた大臣達の表情が(けわ)しくなっていく……。

 

「はい、現地で拘束した武装集団のメンバーを尋問した所、ギム市民の虐殺は副司令官で在るアデムと呼ばれる人物の主導(しゅどう)の元、行われたと証言しています……。」

 

「それで……街の住民の半数以上が虐殺されたと言う事か! なんてことだ……。」

 

現地入りしている防衛駐在官からの報告に内閣総理大臣は自身の決断の遅れが悲劇に(つな)がったのでは……と、自問しながら言葉を漏らす中、さらに報告が続く……。

 

「どうもそれだけでは無く、かなりの数の民間人がロウリア王国に拉致されているとの報告も有りました!」

 

「んっ……ちょっと待った! 拉致された人々は特戦群が救出したのでは無いのかっ!?」

 

特戦群が拉致された人々を全員救出し、首謀者を拘束したと言う快事を聞いていた副総理が身を乗り出して問い出すと、報告を担当している統合幕僚監部の三津木は副総理とは対照的に淡々と報告を行う。

 

「報告では特戦群が捕えた奴隷商人とは別に、王族や貴族の荘園(しょうえん)で働かせる為の農奴(のうど)として占領時の初期にロウリア本国へと拉致されたとの事です……正確な人数は現在、調査中です。」

 

「あぁ……何でこう彼等は、次から次へと将来に遺恨(いこん)を残す様な事をやってくれるのか!!」

 

その報告に法務大臣は戦後のやり取りが難しくなっていく事に嘆きながら頭を抱える……。

 

「法務大臣、今は戦後の事よりも戦争を早期に終結させる事が重要です! 外務大臣、外交面で何か動きは有りましたかな!?」

 

総理大臣は嘆く法務大臣をやんわり(いさ)めると、外務大臣に何か進展が有ったか問い出す。

 

「はい……会議の直前まで在日クワ・トイネ大使とその件で話し合いましたが、ロウリア王国は未だ外交魔信に応じる事が無く、逆に兵の招集(しょうしゅう)を強化する方向に動いているとの報告が有りました……。」

 

外務大臣の言葉に参加している大臣達の表情が更に険しくなった……。

 

「はぁ……やはりと言うか、相手は目的を全く達成出来ていない以上、そうなりますか……。」

 

総理は椅子を深く座り直しながらそう呟く……本来、異世界転移の混乱から脱却する為に使うはずの国家のリソースを今回の戦争に食い潰されている以上、長期化だけは何としても避けなければならないのだが、相手が停戦に応じる気配が全く無い事に総理は天井を見上げながらため息を付いた……。

 

その様な中、防衛大臣の隣の席に座っている統合幕僚長が発言を求め手を上げた。

 

「宜しいでしょうか……我々、自衛隊も作戦部を中心として早期に戦争を終結させる手段を模索(もさく)しています!」

 

斎藤 統合幕僚長がそう発言すると会議室のモニターにロウリア王国の地図が表示される……画面にはギムの街から王都ジン・ハークへと至る街道とそこに附随(ふずい)する各都市の名前が記載されていた。

 

「表示された地図を見る通り、ロウリアの首都ジン・ハークの西側には広大かつ未踏(みとう)の荒野が在る為、ギムと敵首都を直通する道は存在しません……その為、首都までの道は荒野を避ける様に作られた各都市を経由し、南に大きく()(えが)く様に()敷かれた街道のみとなっています。」

 

「見ての通り首都までの街道の距離は長く、道に沿った各都市を占領しながら敵首都を目指すやり方では距離と時間、そして兵站(へいたん)の面で負担が大き過ぎ、とても現実的では無いと結論づけています……。」

 

「ほぅ……するとナニかい、正攻法で攻めるのが無理だって言うのなら、プランBが有るって事だな!?」

 

副総理のやや意地悪じみた言葉に対し、斎藤 統合幕僚長は表情を変える事なく即答する。

 

「えぇ……まだ細部を詰めている途中ですが、早期に戦争を終結させるプランBは存在します!」

 

斎藤 統合幕僚長は作戦の概要(がいよう)を説明すると、その内容に大臣達がどよめく……その様な中、副総理は薄ら笑いを浮かべながら総理大臣に向かって話し出す。

 

「おもしれぇ! 今の日本にゃ、資源も時間も無ぇんだ……総理! どんなモンで有れ、俺はこのバクチに賭けてみますぜっ!!」

 

副総理の言葉を聞いた大臣達が呆れる中、総理大臣は静かに(うなず)く……そして、その後の会議にてロウリア王国との戦争を早期終結させる為の作戦が内閣に承認されると、陸海空の三軍は決戦へ向け動き始めた……。

 

 

同日 クワ・トイネ公国 マイハーク海岸 臨時埠頭

 

 

日本よりも南に在りながら、穏やかな夏日を向かえるマイハーク海岸では臨時埠頭の完成以降も浚渫船(しゅんせつせん)による港の増設工事が行われる中、日本から物資を積み込んだ船が次々と入港し、一部の船はクワ・トイネ産の穀物を積み込み日本へと出港して行く光景が見られた。

 

マイハーク海岸の内陸部に造られた農業用サイロに併設(へいせつ)された線路には、特製トレーラーに登載された巨大な車両をレールに移し替える作業が行われ、2台の大型クレーンを使って吊り上げられた車両は新設されたレールの上へと移される。

 

朱色と白に綺麗に塗り分けられた車両は長年使われていた為か傷んでいる箇所も見受けられるが、その巨大かつ無骨な姿にクワ・トイネの人々は思わず息を飲む……その様な中、赤銅色(しゃくどういろ)の肌をした初老の男が感慨深(かんがいぶか)い表情で車両を見ながら呟く。

 

「コイツとは本当に長い付き合いになった……まぁ、二度目の御奉公(ごほうこう)となれば、お互いまだ引退は出来ないな!」

 

男はそう言いながら、車両前面に掲げられたプレートを見ると、そこには『DD51 1188』と刻印(こくいん)がされていた……。

 

DD51形ディーゼル機関車、日本の高度成長期時代の終盤に生産され、長きに渡って国内の物流を支えて来たこの車両は一度は廃車になったが、東日本大震災を機に現役復活し男と共に被災地の救援へと活躍した……そして人知れずまた廃車になる所を今回の異世界転移の騒動により再び復帰を果たしたと言う数奇(すうき)な運命を辿(たど)った1両で在った。

 

……それから2日後、DD51形ディーゼル機関車はレールを始めとした多くの資材を満載した十数両の無蓋貨車(むがいかしゃ)牽引(けんいん)すべく、黒煙を高らかに上げゆっくりと力強く動き始める……列車は今年の収穫期が始まる前までに穀倉地帯で在るナエノデンエンへと向け、総延長300kmに及ぶ線路敷設の工事を行なう資材を運搬(うんぱん)すべく進み出した。

 

「まぁ、気張らずに行こうや!」

 

初老の運転士はそう呟きながら計器を見渡すと手慣れた手付きでマスコンを操作する……雪が積もる山線を苦労して登った4年前と違い、窓ガラスの向こうには緑の草木と色とり取りの花々が咲き誇る光景が広がっている。

 

「ほぅ……これは、今まで頑張ってくれたコイツに神様がくれたご褒美(ほうび)なんだろうな……。」

 

周囲の草花がたおやかに揺れる楽園の様な景色の中、ディーゼル機関車は短い汽笛を鳴らしながら一路南へと向かって行った……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 8月3日 ロウリア王国の都市 ビーズル

 

 

過酷な土地が多いロウリア王国の中でも比較的肥沃(ひかくてきひよく)な土地に(めぐ)まれ交通の要所(ようしょ)でも在る都市ビーズルはクワ・トイネ侵攻の中継拠点として機能していたがギム失陥後(しっかんご)、クワ・トイネ公国との国境から離れているにも関わらず日本、クワ・トイネ連合軍の襲撃を恐れ、街の東側では軍夫達による土塁(どるい)の工事が急ピッチで行われていた。

 

石造りの重厚(じゅうこう)な屋敷の会議室にて街の防衛を担当する将軍が参謀と共に広げた地図を見ながら工事の進捗(しんちょく)を確認していると、入り口の扉をノックする音が聞こえて来た。

 

「失礼します、閣下……王都より『魔封筒(まぶうとう)』が届いております!」

 

「来たか……どれ、此方に。」

 

将軍の言葉に入室して来た伝令は羊皮紙を手渡すと足早に部屋を去って行く……将軍は羊皮紙の封を解き魔法陣で封印された文章を読むべく呪文を唱えると、魔法陣が消え文字が浮かび上がって来る。

 

「…………………………」

 

書かれた文字を読み終えると男はため息を付きながら羊皮紙を参謀に手渡した。

 

「これは……やはり駄目でしたか。」

 

「大魔導師と言えど、所詮は象牙(ぞうげ)(とう)(こも)隠者(おんじゃ)()ぎぬと言う事だ……。」

 

参謀が手にしてる羊皮紙はロウリア王国の王宮主席魔導師(おうきゅうしゅせきまどうし)で在るヤミレイからの手紙で有り、そこにはビーズルへの魔術師の派遣依頼を断わる内容が書かれていた。

 

「しかし、このままでは十分な守備を得ぬまま敵と対峙するやも知れません! 我が王はビーズルを捨て石にする気なのか!?」

 

「参謀、口を(つつし)め……今や何処で誰が聞いているかも分からぬのだぞ!」

 

将軍は参謀を(たしな)めると、腕を組みながら深いため息をついた……。

 

先月末、ギムの街と連絡が取れなくなり当初は魔信の不調だろうと思われていたが、その2日後に東の街道から無数の諸侯連合軍の兵士達が着の身着のままの姿で現れ、彼等の証言によりギムが陥落(かんらく)した事を知らされた。

 

ギムより逃げおおせた将兵達の証言を元に、将軍はロウリア王にビーズル防衛の増援を請願(せいがん)するも、逆に虎の子で有るワイバーンの部隊を半数以上を王都に戻す様に要請され、代わりに送られる(はず)の諸侯の部隊も一向に来る様子が無かった……。

 

だが何よりも気掛かりなのは、逃げて来た兵達の証言の異常さで有ろう……雷鳴の様な音と共に炎を吹きながら素早く飛ぶ灰色の竜、展開した部隊を吹き飛ばした謎の大爆発、そしてクワ・トイネ騎兵と共に現れた鉄で覆われた巨大な怪物……どれも疑わしい証言で有るにも関わらず、複数の兵達が同じ事を話すのでとても嘘だとは言い切れなかった。

 

一介(いっかい)の兵士から諸侯の(おさ)まで、皆が同じ事を口にしている……一体、ギムの街で何が有ったと言うのだ!?」

 

「一部では、パーパルディア皇国の軍が介入しているとの噂が立っております!」

 

「いや、それは有り得ん……そもそもパーパルディアは我々の……? 何だ、雷かっ!?」

 

兵達の証言や噂に辻褄(つじつま)を合わせるべく悩んでいると、外から雷の様な音が聞こえて来る事に気が付く……。

 

「はて……外は晴れている筈ですが? この鳴り止まない音は一体……!?」

 

参謀がそう答えると、ドアをノックする音が聞こえ伝令が慌てた様子で入って来た!

 

「報告します、正体不明騎の飛来を確認! 現在、街の上空を旋回しています!!」

 

「!?……何だ、その正体不明騎とは!!」

 

要領を得ない報告に将軍は語気を荒げながら聞き返すと、伝令は慌てながら追加の報告を行なう。

 

「はっ……報告では灰色の竜らしきモノが、雲を引きながら飛行しているとの事です!」

 

「雲を引きながら飛行だと……本当かっ!?」

 

自身が竜騎士だった為、雲を引きながら飛行するには特殊な条件が必要で有る事を知っていた彼は、その条件の1つでも有る高高度での飛行が行われていると考え、それを確かめるべく部屋を出てベランダへと駆け上る。

 

「なんと……あんな高度を! 高い、高いぞっ!?」

 

ベランダから空を見上げた将軍は点の様なモノが雲を引きながら街の上空を飛んでいる光景を見て驚愕(きょうがく)する……彼の目から見てソレはワイバーンの上昇限界高度よりも(はる)か上を飛行しているのだ!

 

「閣下! 迎撃のワイバーンが上がります!」

 

参謀の言葉に振り返ると、西のワイバーン厩舎より4騎のワイバーンが翼を羽ばたかせながら上昇を行なっていた……だが次の瞬間、巨大な矢の様なモノが高速で飛来し、上昇中のワイバーンに突き刺り爆散した!

 

「なっ! 何が起こった!?」

 

そう言う合間にも更に3本の巨大な矢が3騎のワイバーンに命中し、将軍が見ている前で肉片を散らしながら街へと墜落していく……。

 

「ああっ……将軍、アレはっ!?」

 

信じられぬ光景に唖然(あぜん)とする将軍と参謀の前を2機のF―15J改が爆音と共に飛び去って行く……彼は肩を震わせながら叫んだ!

 

「これが灰色の竜……!? 何なんだ! こんなモノを相手に、どうすれば良いのだっ!!!」

 

将軍がそう嘆く中、ワイバーンを撃墜したF―15J改は急上昇を行ない蒼空(そうくう)へと消えて行った……。

 

その後、将軍は再度王都へ応援を求めたが、事実を把握し切れていなかった王宮の動きは鈍く、8月29日になって敵部隊がギムから動き始めたとの報告を受け、ようやく伏兵(ふくへい)としての部隊をビーズルへと派遣した。

 

だが、この部隊の派遣により王都を手薄にした事がロウリア王国に取って致命的な(あやま)ちになろうとはこの時、誰も思わなかった……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 8月5日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村

 

 

夜明け前のひんやりとした空気がナエノデンエン村を包む中、日の出の気配を感じた獣人族のザンタスは寝床から起き上がる……。

 

時計も無く太陽を示す位置が時間の基準で有るクイラの地で生まれ育った彼に取って、日の出と共に起きる事は些細(ささい)な日常でしか無く、他の出稼ぎ仲間も同じ様に起き上がると、他愛ない会話を交えながら昨日の夜に用意した朝食のシュリッペを平らげた。

 

「……準備は出来たか!? じゃあ、行こう!」

 

ザンタスはそう言うと身支度を終えた出稼ぎ仲間達と共に宿舎を出て、川沿いに在る『国際協力機構ナエノデンエン事務所』へと歩き始めた。

 

「お早う御座います、コンドウの親方!」

 

「おう、今日も宜しく頼むぜっザンタスさん!」

 

事務所の駐車場にて白髪でニッカポッカを履いた男が気さくに挨拶をして来る……男の名は近藤(こんどう) 政伸(まさのぶ)橋梁工事(きょうりょうこうじ)の為に日本からやって来た建設作業員の1人で在る。

 

「皆んな集まってんな……なら車に乗ってくれ、今日も仕事は一杯あるぞ!!」

 

「へへっ……今日も稼がせて貰いますぜ!」

 

「ホント、村に帰る頃にはアタシたち大金持ちになっちまうね〜!」

 

そう笑いながら、獣人達は大型バンへと乗り込んでいく。

 

クイラ王国の寒村から出稼ぎに来た彼等は、ここナエノデンエン村で温室の建設等の手伝いを行っていたが、「銀貨2枚」の日当にてトアル村で行う鉄道橋建設の作業員を募集していると聞いて、ドワーフ以上の力自慢を誇る彼等全員がこぞって応募した。

 

「マイハークで荷積みの仕事を受けても銀貨1枚が関の山なのに、その倍貰えるんだせ!」

 

「しかも、昼食は村で出してくれるんじゃ!……最高じゃわぃ!!」

 

最貧国と称されるクイラ王国では多くの人がクワ・トイネ公国へと出稼ぎに行くが、日当で銀貨が出る仕事はそうそう在りつけない……そんな中、今回の仕事は彼等に取ってまず有り得ない破格の条件なのだ! 

 

道中、獣人達は和気あいあいと話し合う中、彼等を乗せたバンは鉄道橋の建設現場へと到着した。

 

 

現場監督で有る近藤は獣人の作業員達にテキパキと指示を出す、男性達は運ばれて来た部材の対岸側への搬送(はんそう)、女性達には蛇籠(じゃかご)を組んで石を入れて貰う作業を行う様にした。

 

「よっと!」

 

ザンタスは人間の男性では持ち上げる事すら出来無い鉄材を軽々と持ち上げ、架設橋(かせつきょう)を渡りながら対岸へと運んで行く……。

 

「ザンタスよう! また張り切って、後で腰が痛てぇなんて言うんじゃね〜ぞ!」

 

「うるへ―! てめぇこそ、さつきから軽い荷物ばかり運びやがってコノヤロー!!」

 

そんな光景を眺めながら、視察に来た比留川と近藤は作業の状況に付いて話し合う……。

 

「近藤さん……獣人族の作業員を紹介したのは私ですが、どうです彼等は!?」

 

「いぇ……紹介してくれて本当に感謝していますよ、言葉は問題無く通じるし作業も直ぐに覚えてくれる、地球にいた時の外国人労働者よりも全然、役に立ってくれます!」

 

近藤は比留川の質問に笑いながら答えると、ザンタスが彼の元へとやって来る。

 

「コンドウの親方、言われた荷物は全て対岸に運びましたぜ! 次は何をすれば……!?」

 

ザンタスの言葉に近藤は腕時計をちらりと見つめながら答える……。

 

「いい時間だ、みんな昼メシにしよう! 比留川さん、一緒に如何がですか!?」

 

その言葉を聞くと獣人達は笑顔になりながら作業の手を止め、現場を離れる……全員が力仕事をしている筈なのに誰も疲れた表情をしていなかった。

 

その後も作業は続き、鉄道橋は予定通りの日に完成を迎える……。

 

そして8月後半には全てのレールが敷かれ、ついに目的地のナエノデンエンへと到達する……初めて見る列車の姿に村人達は驚きと共に喜びながらこれを盛大(せいだい)に迎えるので有った。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 8月15日 ロウリア王国 通称「死の谷(デスバレー)

 

 

異世界に転移して初めての終戦の日を迎える日本では、前年の倍を超える人々が暑い中を靖国神社へと参拝し、ロデニウス大陸に派遣された自衛隊員の無事を祈願(きがん)していた。

 

その頃、陸上自衛隊第四施設群の自衛官達はロウリア王国の中央に位置する前人未到(ぜんじんみとう)の荒野を照り続ける太陽の下、道無き道を進んでいた……。

 

「隊長、もう外気温は45度を超えています! これ以上は危険です!!」

 

「……分かった、向こうの崖で停車して気温が下がるのを待とう!」

 

第四施設群の隊長で在る 諸星 一佐の指示で車列は崖の(ふもと)に停車すると、隊員達は急いで天幕(てんまく)を張って即席(そくせき)の日陰を作り出すと逃げる様に中に入り込んだ……天幕内で送風機(そうふうき)を持ち出して風を送り込むも、乾いた熱風しか来ない事に、隊員達は閉口(へいこう)する。

 

「暑い……風が来ても熱風だし、ホントにこんな場所を通って行くの!?」

 

「えぇ、戦争を早く終わらせる為に……って言うけど、ちょっと無理が有ると思うわ……。」

 

女性自衛官で在る 有坂 樹里 二士と台 志保 一士 は余りの暑さに項垂(うなだ)れる……。

 

クワ・トイネ公国の国境の街ギムとロウリア王国の王都ジン・ハークを直線で結ぶルートには広大な荒野となっている名も無き大地が広がっている。

 

そこは北の山脈から乾いた空気が盆地に吹き付け、夏場には50度近くに達する気温の上に川や泉と言った水源は皆無な為、生き物の生息すら許さない想像を絶する土地で在った。

 

有史以来、人の立ち入りを拒み続けた無名の大地……前世界の地球で観測史上最大の気温を観測した場所にも似ていた事から、自衛隊ではこの地を『死の谷(デスバレー)』と呼称する様になった……。

 

8月初め、RF―4E偵察機により撮影された航空写真を元に作成された地図にて、この土地での移動の可否を確認する為に偵察隊が現地へと派遣された。

 

偵察隊は過酷な環境に苦しみながらも『死の谷(デスバレー)』を通り抜け、遠くに見える王都ジン・ハークを写真撮影し無事に帰還を果たした。

 

この事で盆地からの移動は可能で有ると証明されるも、余りにも過酷な環境の為、部隊が移動する際には途中で補給と休憩を行う為の拠点が必要で有ると判断され、第四施設群により現地での設営作業が行なわれた。

 

「日が落ちてもまだ暑いな……頭痛がしたら、熱中症の初期症状だから注意しろよ!」

 

第四施設群隊長の諸星 一佐の指示の中、隊員達は汗だくになりながら作業を続ける……2つの月に照らされ外は幾分と明るいが、気温が30度を下回る事が無く、日中に熱せられた砂から暑さが込み上げる……。

 

「ここを作り終えたら次は仮設ヘリポートの設営だ! 身体が持てば良いのだが……。」

 

初期から異世界で活動している陸上自衛隊第四施設群の中でも、この『死の谷(デスバレー)』での設営作業は熱中症で倒れる隊員が続出し、最も過酷な作業として隊史に記録される事となった……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 8月29日 クワ・トイネ公国 ギムの街

 

 

ロウリア王国の手から奪還(だっかん)されるも、多くの市民を失い復興がままならないギムの街の広場に無数のクワ・トイネ公国軍の旗が掲げられ、鎧を着込んだ騎士達が隊列を組みながら出陣の時を待っていた。

 

やがて進軍のラッパが吹き鳴らされると、騎士の一群は西へと進軍を始め、国境の川……アルース・ラーサ川の浅瀬を渡りロウリア王国の領域へと踏み込んだ。

 

先遣隊(せんけんたい)を任された銀山羊騎士団の女騎士トウミは隊旗を掲げながら、クワ・トイネとは違うロウリアの黄土色の草原を見つめていると、横を歩いている槍持ちの少年従士が彼女に話掛けて来た。

 

「トウミ様、今回の遠征は二ホン軍の支援が無いと(うかが)っていますが、ロウリア軍はギムを占領した時よりもさらに多くの兵士をビーズルに配置していると聞いています! 我々はどの様にして戦うのでしょうか?」

 

一介の兵……ましてや従士たる彼が今回の作戦を知る由なぞ無く、トウミは少し思案してから彼の質問に答える……。

 

「ん〜!? そうだな……おいっ! 皆んな聞けっ!! 我等、勇猛なる銀山羊騎士団が敵の大軍に出くわしたらどうするかっ!!!」

 

その言葉に周囲の兵達が歩みを止め彼女の方に振り向くと、トウミはしたり顔をしながら言い放つ。

 

「決まっているだろう……尻尾を巻いて一目散(いちもくさん)に逃げるのさっ!!」

 

その言葉に部下の兵達はゲラゲラと笑い始める中、少年従士が狐につままれた様な表情になるのを見た彼女は少しバツの悪そうな表情をしながら彼に答える……。

 

「ははっ、からかってしまって悪かった……今回、私達は陽動(ようどう)が目的で出撃しているから、無理に敵と戦う必要は無いんだ!」

 

「えっ!?」

 

これまでロウリア領内の進軍しか知らされていなかった少年従士は彼女の口から初めて作戦内容を聞く事となった。

 

「今回は戦うにしても敵の斥候(せっこう)が相手で、それも追い払うだけで十分! もし敵の大軍と出会っても、戦わずに逃げながら相手の注意を此方に向ける……これが今回の作戦だ!」

 

「それとニホン軍は近くにはいないが、支援は受けている……ほら、アレを見ろ!」

 

トウミはそう言いながらは空を指差す……少年従士は彼女の指差した先を見つめると、空に灰色の鳥の様なモノが飛んでいるのが見える。

 

「アレはニホン軍の空飛ぶ使い魔で「雄蜂(ドローン)」と呼ばれている……彼等は魔法を使わずとも使い魔を飛ばして遠くの敵を見つける事が出来るんだ!」

 

彼女の説明を余所に少年従士は初めて見るドローンを畏怖(いふ)の心情で見続けている……無機質で羽ばたく事も無いソレは彼に取って「異質(いしつ)」そのモノで有った……。

 

銀山羊騎士団の先遣隊は行軍を再開すべく、トウミは目線を再びロウリアの草原へと目を向けた……。

 

出撃前、トウミは決戦に参戦出来ない事に不満を持っていたが、今はこの行軍を楽しんでいた……するとニホンより供与(きょうよ)された無線機を手にした兵士が彼女に報告を行なう。

 

「トウミ様……ニホン軍より通信です、約6km先の丘の麓に30騎程の騎兵を確認したとの報告が有りました!」

 

「ほぅ……数からして斥候の様だな!? ならば、ご挨拶と行こうではないかっ! 我ら銀山羊騎士団がビーズルへ一番乗りするとな!!」

 

「おおおおぉぉ―っ!!」

 

トウミの言葉に兵達は大きな掛け声を上げ、前進を開始する! 

 

トウミ率いる銀山羊騎士団の先遣隊は自衛隊から(もたら)された情報を元にビーズルから出撃してくるロウリア軍の斥候を次々と撃退し、相手の情報を遮断(しゃだん)する事に成功した。

 

彼女達の活躍によりロウリア側は日本、クワ・トイネ連合軍がビーズルに攻めて来ると思い込み、より一層の警戒をビーズルに向けた為、相手が道無き荒野を乗り越えて直接王都ジン・ハークへ向かって来るとは夢にも思わなかった……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 9月1日 ロウリア王国 通称「死の谷(デスバレー)

 

 

満天の星々が深夜の夜空を彩る中、不毛の地に建てられた施設から発電機とエアコンの室外機の音が鳴り響く……日中の移動は危険だと判断した作戦部の指示により荒野に造られた「避難場所」とも言える無数の施設に6000人近い第七師団の自衛隊員達が「死の谷(デスバレー)」の過酷な暑さから逃れていた。

 

やがて日付が翌日へと変わり2つの月が地平線へと消えて行く頃、ギムの街を出発した燃料タンク車の一団が「避難場所」へと到着すると、施設から自衛隊員達が次々と外へと出て来た。

 

隊員達は車両が日中の光で熱くならない様に被せていた白い布を外すと給油を開始し出撃の準備を始める……。

 

「ふぅ……真夜中だと言うのにまだ暑いのか!?」

 

隊員達と共に外へと出た大内田 陸将はその暑さに思わず(うな)ってしまう。

 

(昨日は日中の気温が50度を超えたと言っていたから、何とか夜明け前に盆地を越えて王都へ到着したいな……。)

 

星空の下、出撃の準備を行なう隊員達を見ながら大内田 陸将はそう考える……既に海・空の自衛隊は敵戦力に大打撃を与え、クワ・トイネ軍もビーズルへの敵の陽動に成功させている。

 

(全ての御膳立(おぜんだ)ては整った……後は敵に此方(こちら)意図(いと)を読まれぬ内にけりを付けるだけだ!)

 

作戦の目標は奇襲による王都ジン・ハークの包囲と、ロウリア王を逮捕するまで武装集団の戦力を斬減(ざんげん)させつつ相手の注意を我々側に引き付ける……万が一、敵が目的を知りロウリア王が国の奥地へ逃げ込もうものなら今までの苦労が水の泡になるだけで無く、戦争が長引いてしまう……何としてもこの奇襲は成功させなければならない……。

 

「大内田 師団長、出撃の準備が完了しました!」

 

戦車連隊長の報告に大内田 陸将は静かに頷くと、前照灯を点灯させた車列へと歩き始めた。

 

「出発!!」

 

大内田 陸将が無線で訓示を述べた後、87式偵察警戒車を先頭に第七師団の車両が一列となって夜の荒野を進み始める……やがて夜が明け始め、車両の一団が盆地を抜け山の稜線(りょうせん)辿(たど)り着くと眼下にはロウリア王国の王都ジン・ハークが白い霧の中に浮かぶ姿が在った……。

 

(遂にここまで来たか……さて、ここからが正念場(しょうねんば)だぞ!)

 

大内田 陸将は心の中でそう呟くと、無線機を手に取り指示を出し始める。

 

「各戦車隊へ、斜面を降りた後、横隊にて散開……そのまま指示が有るまでジン・ハークへ向け前進せよ!」

 

「ナナイチ了解……戦車前へ!」

 

交信の後、けたたましい音と共に90式戦車が次々と斜面を降りて行く……のちに「ジン・ハーク攻防戦」と呼ばれる一大決戦が幕を開け「ロウリア事変」はクライマックスを迎えるのであった……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 9月2日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村

 

 

間も無く収穫期を迎えるナエノデンエン村に夕闇が迫る中、広場に多くの村人達……普段は広場に来る事の無い離れた集落の人々も詰めかけ、中央に設置された短波ラジオの放送を待ち侘びていた……。

 

「二ホンがロウリアの王都に攻め込んだ!」

 

今朝からナエノデンエン村の人達の間ではこの話が話題となり仕事がままならない状況となっていたが、夕方にニホンから発表が行なわれると知るや彼等は仕事を早く切り上げやって来た。

 

領主の娘、ジョレーンもメイドのリドルと共に放送が始まるのをラジオの前で待ち続けていた……。

 

もはや聴き慣れてしまったニホンの音楽の後、時報が鳴り終えるとラジオから夕方のニュースを伝えるアナウンサーの声が聞こえて来る。

 

「……午後6時のニュースをお送りします……速報です! 陸上自衛隊クワ・トイネ派遣隊により昨日から行われていた『自称ロウリア国』の首都包囲について内閣官房長官より緊急会見が行われる為、首相官邸より中継を行ないます……。」

 

アナウンサーの言葉の後、首相官邸の記者会見室へと切り替わるとシャッターが切れる音がラジオに鳴り響き、内閣官房長官が会見を始めた……。

 

「発表します……本日、深夜1時に陸上自衛隊第一空挺団により『自称ロウリア王国』の拠点の捜索を行なった所、ギムでの住民虐殺を行なった『武装集団』のリーダーで在る『ハーグ・ロウリア34世』を発見し、一連の事件の首謀者として『超法規的措置』にて逮捕・拘束しました……。」

 

ラジオの発表にナエノデンエンの村人達はどよめき立つ!

 

「……また先程、『自称ロウリア王国』の外務卿より『停戦交渉に(のぞ)む為、クワ・トイネ、クイラ、日本の3カ国に対するあらゆる敵対的行動を停止する』との発表が有りました……これを受け我が政府は……」

 

「……ニホン軍はロウリア王を捕らえたと言うのか!!」

 

「停戦交渉って……もうロウリアは攻めて来ないの!?」

 

「戦争が終わった……俺達は勝ったんだっ!!!」

 

その言葉を機に村人達から歓声が上がり、戦争が終わった事を皆が喜ぶ……人々が勝利に浮かれる中、母親達は出征(しゅっせい)した息子達が無事に戻って来る様『緑の神』に祈りを捧げた……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 9月5日 ロウリア王国 王都ジン・ハーク 北側の港

 

 

王都ジン・ハークの宮殿より約40km程北に位置し、ロデニウス大陸で最大の規模と栄華を誇った軍港も自衛隊の攻撃により全ての施設と軍艦を破壊され見るも無惨な状況となっていた。

 

破壊を免れた桟橋に停泊している商船の甲板より旅芸人の装束を着た1人の男が破壊され尽くした港を見つめながら苦々しい表情で呟く……。

 

「これが負けると言う事か、実に惨めだ……。」

 

そんな景色をうんざりとしながら見ていると、男の後ろで何か騒がしくなっている事に気付く……振り返ると商船の船長がローブを着た男と口論になっており、それを見た彼はやれやれといった顔つきで船長の元へと近付いて行く……。

 

「これは船長さん、どうかされましたかな……。」

 

男が笑顔を浮かべながら問い掛けると、ツバの広い帽子を被った商船の船長は困った表情で彼に話し出す。

 

「聞いてください……先に船に乗せた『魔獣』何ですが、船員達が怖がってるので魔獣使いに本当に安全なのか説明を求めたのですが、さっきから『問題無い』の一点張りで話にならないのですよっ!」

 

船長の疑問に男はにこやかな表情をしながら回答する。

 

「あぁ〜、その事ですか! 船底に居る『魔獣』達なら全て『冬眠魔法』を掛けていますので起きる事は有りません……ですから馬や牛等の家畜を船に積み込むよりもずっと安全・安心ですよ! それでもご不満がお有りならば船を替えてもいいのですけど……!?」

 

男の言葉を聞いた船長はあたふたと慌てだす……『魔獣』を積むと言うだけで、通常よりも高い運賃を彼から既に受け取っており万が一、返金となると大きな損失となってしまう。

 

「はいっ……い・今の説明で皆を納得させますので、どうかソレだけはっ!!」

 

船長の慌てぶりに男は内心笑いながらも彼を安心させるべくこう答える。

 

「いいえ、その様な事はしませんので……そうそう、もしシオス王国では無くパーパルディア皇国まで直接行くとなるとどれくらい日数がかかりますか?」

 

「はぁ……!? この船はシオス王国行きですが、もしパーパルディア皇国に直行しますと、おおよそ10日程掛かるかと思います!」

 

「成る程、ソレだけ掛かりますか……おや、他の乗客もやって来た様ですね!」

 

男がそう言うと商人らしき一団が桟橋のタラップから船へと上って来る姿が見え、中でも豪華な服と指にいくつもの指輪をはめた成金風の太った中年の男がキョロキョロと辺りを見回しながら船に乗り込む様を見て、つい吹き出してしまう。

 

(プッ……何ですかアレは! 大方、戦争投資に失敗して借金取りから逃れるべく船に乗り込んだ、と言う所でしょうか……。)

 

男がそう思っていると商人達は船室へと入って行き、やがて船は出港の時間を迎える……桟橋からの舫いが解かれ、商船は目的地で在るシオス王国へと出港を開始する。

 

残骸と化した軍艦の横を通り抜け、港を出た商船は北へと進路を取り始める……船上には旅芸人の装束の男とローブを着た魔獣使いが、遠ざかって行くロデニウス大陸を見つめながら話し合っていた……。

 

「アデム様、これで追手から逃れた……と言う事で宜しいのでしょうか?」

 

「えぇ……ここまで来れば大丈夫でしょう、せっかくクワ・トイネ征伐軍副将と言う地位に就けたのに、この様な結果になるとは思いませんでした……今頃、クワ・トイネとニホンは私の事を血眼(ちまなこ)になって探しているでしょう!」

 

旅芸人の装束を着た男ことアデムは部下の魔獣使いの問いにそう答える……ギム市民虐殺の首謀者で在るアデムと部下の魔獣使い達は、エジェイ攻略戦の大敗後に軍を離脱し、魔獣を見世物としたサーカス団に擬装(ぎそう)した(のち)、商船に乗り込みロウリア王国から脱出したので有った。

 

「取り分けニホン国にはひと泡吹かせて上げないと気が済まないですね……。」

 

アデムは自身の野望の邪魔をした日本に対して並ならぬ憎悪を抱く様になり、復讐の機会を伺う様になっていた……そして次に行なう事を部下の魔獣使いに伝える。

 

「先ず、船長には行き先をシオス王国では無くパーパルディア皇国に変更する様にさせます……シオスの様な小国ではニホンの手が回っているかも知れませんし、奴らに(けしか)けるならパーパルディアの様な列強が良いでしょう!」

 

「それと……邪魔な乗客の皆さんには腹を空かせた魔獣の餌になって貰いますか!」

 

アデムはそう言うと不気味な笑みを浮かべ、パーパルディア皇国へと至る北の海を見つめながら新たな野心を抱き始めた。

 

それから一月以上が経過し、パーパルディア皇国のエストシラント港の桟橋の一角に長い間停泊したままのシオス王国船籍の商船に対し皇国軍の臨検(りんけん)が行なわれた……船に立ち入った兵士達は無数の人骨が散乱する凄惨たる船内を見て驚愕するので有った……。

 

 

続く




遂にロウリアとの戦争に終止符が打たれました。
その為か、時系列が進む事にアッチにコッチと場所を飛びまくるややこしい回となってしまいました。

今作ではロウリア王の逮捕に付きましては小説版のSATでは無く、コミック版と同じく第一空挺団より「超法規的措置」にて逮捕を行っています。
(警察庁が海外での逮捕権が無い事で最後までゴネたと言う裏設定の為。)

鉄道が開通したり、アデムが逃げ出したりして、物語は終演を迎えますが、まだまだ最終回じゃ無いのよ!


用語

死の谷(デスバレー)

ロウリア王国の国境付近の東側から王都ジン・ハーク付近まで広がる広大な盆地で、周囲を山で囲まれている。
原作ではロウリア側より『大草原』と呼称されていた場所で在るが、今作では生物の生存を拒む過酷な乾燥地帯の盆地となっている。
一年を通じて乾燥しており、夏場には50度に達する気温の上に川や泉等の水源も無い環境の為、これまで人が立ち入る事が全く無かった。
環境がアメリカ合衆国カリフォルニア州に存在するデスバレーに非常に酷似していた為、自衛隊内ではこの名前で呼ばれる様になり、後にクワ・トイネ、ロウリアでもこの地名が定着した。
陸上自衛隊第七師団はこの不毛地帯を通過する事で王都ジン・ハークへの奇襲を敢行し、ロウリア軍を一方的な防戦へと追い込んで戦争終結への糸口を掴んだ。

東ハーグリア

ロウリア王国東部に位置する、四半世紀程前に当時皇太子だったハーグ・ロウリア34世により行われた東征により平定した新興の領土で、現在の領主はザイドス・ド・ジライアス。
元はエルフ族の居住地で在り、アルース・リ・マンサと呼ばれていた。
『緑の神』の加護を受けた豊かな土地で在ったがエルフ達の追放後、徐々に土地が痩せて行き、ここ数年は不作続きとなっていた。
この土地での不作がロウリア王国のクワ・トイネ侵攻の引き金になったととも言われている。

魔封筒

魔法を使用した暗号書の一種で密書等で用いられる。
見た目は封がされた羊皮紙で有るが、特殊な呪文が羊皮紙に施されており、専用の解呪の呪文を唱えないと書かれている文字が読めない様になっている。
ロデニウス大陸の非文明国家では機密文書等に良く用いられているが、列強国クラスの魔法レベルになると簡単に解読されてしまう為、これらの国では複数の暗号魔法陣を掛け合わせて使用する「魔導暗号機」なる装置が使用されている。
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