日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編   作:アニキ イン ザ スペース

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(ここは何処だ……何が起こっている!?)

ロウリア王国の国王で在るハーク・ロウリア34世は王宮を強襲した第一空挺団の隊員により拘束された……両手に手錠を()められ頭に頭巾(ずきん)(かぶ)せられると隊員達に(かつ)がれて、中庭で待機していたUH―60JAヘリコプターへと押し込まれる。

自衛隊員と国王を乗せたヘリコプターは中庭から離陸するとそれを見上げるロウリア兵を尻目(しりめ)に東の闇夜へと飛び去って行く……囚われの身となったロウリア王は両脇を屈強な第一空挺団の隊員に囲まれ、頭上からけたたましく聞こえるローター音に不快感を感じるも何とか王としての威厳(いげん)を保とうとし、暴れる事無く背筋を伸ばし着座(ちゃくざ)していた。

「余が乗っているのは馬車では無いな……それに何処へ向かっている!」

馬車とは異なる揺れ方と騒音にロウリア王は両脇に居る自衛隊員に問い掛けるが、自衛隊員達は口を噤んだまま何も話そうとはしなかった。

UH―60JAヘリコプターは「死の谷」の荒野を飛び越えクワ・トイネの領域に差し掛かって来る頃には朝日が昇り始め、東の空に光が差し始めた……。


城塞都市エジェイの東方、タイダル平野に建設されたエジェイ駐屯地には多くの人々が滑走路前に集まりヘリコプターの到着を待ち侘びていた。

「おっ、ヘリが見えて来たぞっ!」

まだ薄暗い西の空にヘリコプターの航法灯の明かりが見えてくるとUH―60JAヘリコプターはエジェイ駐屯地の周りを大きく旋回し人々が見守る中、ヘリポートへと着陸した。

着陸したUH―60JAヘリコプターのスライドドアが開くと空挺団の隊員に担がれた寝間着姿の男が降りて来た……男は地面に降ろされると隣にいた隊員がその顔を(さら)すべく頭に掛けられた頭巾を取り外した。

「イシウスさん、この男で間違い無いのか!?」

「えぇ……間違い有りません! この男こそロウリア国王、ハーク・ロウリア34世です!!」

山内 三佐の言葉にクワ・トイネ公国軍軍務局のエルフで在るイシウスはそう答える。

「まさか……オオウチダは本当にロウリアの王を捕らえたのかっ!」

部下からの報告を聞き、慌てながらエジェイ駐屯地へとやって来たクワ・トイネ公国軍西部方面師団司令のノウ将軍は敵の元首(げんしゅ)たる王が虜囚(りょしゅう)の身となり目の前に居る事に驚きの声を上げる……その様な中、山内はロウリア王に対しうやうやしく挨拶すると自己紹介を行う。

「ロウリア国王、ハーグ・ロウリア34世殿、ようこそクワ・トイネ公国へ! 自分は日本国外務省付き防衛駐在官、山内 哲也 陸上三佐と申します……早速ですが、陛下には我々と共にあちらの機体に御搭乗願(ごとうじょうねが)いたい!」

山内 三佐はそう言いながら後ろに駐機している紺色の大型機を指差すとロウリア王はその機体の巨大さに驚きと共に声を上げる!

「なっ……アレは『ムーの飛行機械』かっ!? まさか、二ホンとは『ムー国』の事だったのかっ!!」

ロウリア王が呟いた『ムー国』と言う言葉に山内 三佐は思わず反応し、眉をピクリと動かす……。

「ほう……陛下からその国の名が出て来るとは思いもよりませんでした、その話については後程(のちほど)、お伺いしましょう!」

山内 三佐はそう言うとロウリア王を同行者のイシウスと護衛の特戦群の隊員達と共にUS―2飛行艇に乗り込ませる。

「それでは陛下、公都までの空の旅をお楽しみ下さい!」

座席に座ったロウリア王に特戦群の田崎 三曹がシートベルトを装着させるのを確認すると山内 三佐も座席に座り、離陸への準備を始めた。

多くの人々が見守る中、ロウリア王を公都クワ・トイネへと護送すべくUS―2飛行艇は離陸を開始する。
US―2飛行艇はエジェイの街から飛来したワイバーンの編隊に速度を合わせて飛行していたが、徐々に速度と高度を上げ、ワイバーンの飛行限界高度に達すると彼らを振り切るかの様に北へと飛び去って行った……。

(ロウリア王はこの機体を見るや『ムーの飛行機械』と言っていた……ムーを知っていると言う事はロウリアは何らかの形で彼の国と接触していた様だな……。)

機内で特戦群の隊員に囲まれながら座席に座るロウリア王を見ながら山内 三佐はそう考える……のちに判明する事であるが、日本の転移以前にムーの特使がロウリア国内に飛行場建設を行なう交渉の為にロウリアを訪れており、その時ロウリア王はパーパルディア皇国との関係の悪化を恐れて建設の許可を行わなかったらしい。

日本がムー国の存在を知ったのは以外にも異世界転移後すぐで有った。

外務省の外郭団体(がいかくだんたい)で在るラヂオプレスやアマチュア無線家達が早くからムー国のラジオ放送を傍受していた事で、その存在が知られる様になり、後にクワ・トイネ公国と国交を結んだ事で詳細な情報と海図が入手できた為、外務省は近くムー国に使節団を派遣する予定だと言う、田中大使からの話を山内 三佐は聞いていた。

(さて……ロウリアの件はクワ・トイネに王様を引き渡せばあらかた終了だが、問題なのは受信したラジオ放送はムーだけでは無いと言う事だ!)

山内 三佐はラヂオプレスから提出された関係者向けのレポートに記載された、ラジオ放送を受信したもう一つの国家の事を思い出す……。

ムー国よりも遠くに在る為、電波が不鮮明で有りながらも断片的に受信出来た放送から、その国の名前と皇帝を元首とした戦時下の国家で有る事が判明していたが、それ以外の事は不明で有った……。

(グラ・バルガス帝国……名前と言い、何かイヤな予感しかしねぇぜっ!)

山内 三佐がそう思っている間にUS―2飛行艇は公都クワ・トイネの上空に差し掛かり、公都の傍らに在る大きな湖へと着水する体制へと入った……。

「今日は久々に良い日になりそうだ……。」

山内 三佐はそう呟くと、座席のシートベルトを絞め着水への準備を行う……ふと窓から外を見ると湖の湖畔(こはん)には(あふ)(かえ)る程の人々の姿が在り、皆がロウリア王を乗せた飛行艇が着水するのを待っていた。

そして着水したUS―2飛行艇から手錠を嵌められたロウリア王が機内から降りて来ると、クワ・トイネの人々から大きなどよめきが起きる。
虜囚となった王の姿を見て人々は戦争が終わった事を実感し、これまで曖昧(あいまい)で有った勝利と言う言葉が現実となった事に歓喜の声を上げた。

こうして一連の『ロウリア事変』はクワ・トイネ、クイラ、日本の三か国の勝利として終演を迎えた。



第二十二話 勲章式と豊穣祭

中央歴1639年(西暦2015年) 9月14日 クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ

 

 

間も無く収穫期を迎えるクワ・トイネの小麦畑は今年も大粒の麦の穂が頭を垂れて実る中、北へと続く街道を騎士の隊列が公都へと向け行進している。

 

掲げられた銀山羊騎士団の団旗を見るや人々は喝采(かっさい)の声を上げる。

 

「アレは銀山羊騎士団だ! 英雄達が帰って来たぞっ!!」

 

「クワ・トイネ万歳! 銀山羊騎士団万歳!!」

 

人々が騎士団の帰還を祝う中、銀山羊騎士団の隊列が公都クワ・トイネに到着するとその熱狂は最高潮になった。

 

騎士団が到着するや街の沿道(えんどう)は人々でごった返し、帰ってきた彼等に手を振りながら声援を送る。

 

凱旋(がいせん)する兵士達の頭上には色取り取りの花びらが撒かれ人々は声高(こわだか)に叫ぶ中、銀山羊騎士団の女騎士トウミも馬上から手を振りながら彼等に応える。

 

「見て……あの方がギム解放の英雄、トウミ様よ!」

 

「あれがトウミ様! ああっ、なんて素敵な御姿……。」

 

「きゃ〜っ! トウミ様〜!!」

 

(ふっ……凱旋しながら名前を呼ばれるのも悪くは無いものだな………んっ、ちょっと待て! どうして私の事を知っているのだっ!?)

 

群衆の声に応えていた彼女だが、どうして人々が一騎士でしか無い自分の名を呼ぶのか奇妙に思っていたら、1枚の紙を手にした少年従士がトウミの元へと駆け寄って来る。

 

「トウミ様! トウミ様! これを見て下さい、街のあちこちでこの様なモノが配られています!!」

 

トウミは少年従士から紙を受け取って見てみると、それはニホンから輸入されているワラ半紙と呼ばれている用紙で、同じくニホンから導入された印刷機にて印刷された『銀山羊騎士団 ギムの街より凱旋』の見出しと鮮やかなカラー写真に写された彼女の姿が印刷されており、写真の下にはこの様に書かれていた。

 

「……ロウリア占領下のギムの街にて団旗を手にし突入する勇敢なる女騎士トウミ・デ・オコシ……だと!? 何だこれはっ!!!」

 

トウミはそう叫ぶ中、横で呑気(のんき)に手を振りながら声援に応えていたオコシ団長が笑いながら彼女に話し掛けて来た。

 

「ほっほっほっ……団長で在る余を差し置いて人気者とは! これで其方の婿捜(むこさが)しも楽になるかな!?」

 

「む・婿捜し……って!? 伯父上は何をっ!!」

 

伯父で在るオコシ団長の言葉にトウミは顔を真っ赤にして手にしていた紙で顔を隠そうとしたが、彼女は紙に印刷されている自分の姿を見て何か可怪しい事に気が付く……。

 

(そうだ、これはギムの街に突入した時の……しかし誰がこんな魔写を………あっ!?)

 

トウミの脳裏に『こんな事が出来る』人物の顔が浮かび上がると彼女は怒りと困惑(こんわく)が混じった表情でオコシ団長に向かって叫んだ!

 

「こんな事が出来るのは……まさかヤマウチ!? 伯父上、謀りましたねっ!!」

 

「はて……何の事かな!? ソレよりお主も民衆の声援に応えて手を振るが良い!」

 

トウミの叫びに対しオコシ団長はとぼけた表情で沿道の民衆に手を振り誤魔化(ごまか)していたが内心、彼女には申し訳無いと思っていた。

 

(トウミよ……スマンが今のクワ・トイネには英雄が必要なんじゃ! ニホン国のタナカ大使からこの様な提案が出た事には驚いたが、彼等も今後のクワ・トイネとの国交に配慮する必要が有る以上、儂はそれを引き受けたんじゃ……。)

 

それはエジェイ防衛戦でロウリア王国諸部族連合軍の先遣隊を壊滅させた後、ギム市民救出とギム奪還の話が行なわれた会議後にオコシ団長と山内 三佐、大内田 陸将と田中 大使にクワ・トイネ外務局のヤゴウと僅かな人数で話し合われた追加会談が発端(ほったん)となる……。

 

 

「なんとっ! トウミを……この戦争の英雄にすると言うのですか!?」

 

オコシ団長はモニター越しに話す田中 大使の発言に驚きながら前のめりになる。

 

「はい、我が日本国としましては今後のクワ・トイネ公国との国交を(かんが)み提案した次第です!」

 

田中 大使は冷徹な言葉でオコシ団長に語りかける……。

 

このまま日本任せでこの戦争を終結させてしまうと、クワ・トイネ公国は日本の保護国で有ると内外から認知(にんち)され、国家同士の関係だけでは無く、今後の諸外国との国交にも悪影響が出かねないとの懸念(けねん)が両国で話し合われ、対策としてクワ・トイネ側で何らかの戦果をアピール出来る存在が必要で有るとの結論になったと田中 大使は説明する。

 

「英雄を仕立て上げるなら、一軍の将で在るオコシ団長自身で良いのですが、今回はクワ・トイネの民衆に対して『より分かりやすく、若い』人物が必要で有ると我々は考えています!」

 

「それでトウミをか……。」

 

田中 大使の言葉にオコシ団長は自身の口髭を強く握りながら考え込む……。

 

彼は元々、姪で在るトウミが出征する事に反対していた為、危険な前線に向かわせる事に対し躊躇(ちゅうちょ)する中、彼女を『クワ・トイネの英雄』に推薦(すいせん)した山内 三佐がオコシ団長に話し掛ける。

 

「オコシ団長……自分は彼女と決闘を行なったからハッキリ言えます! 彼女は並の騎士達よりも強く、部下からの信頼も厚い上に人気も有る! 今回の大任はまさに彼女の為に有ると思ってます!!」

 

「もちろん、彼女が前線に出るとなれば我々自衛隊は最大限の支援を行ないます……ギム奪還時には自分も彼女を援護すべく前線に立ちます!!」

 

「なんとっ!? ヤマウチ殿はそこ(まで)されると言うのか……!?」

 

トウミの援護の為に自らも前線に出る事を公言した山内 三佐の本気を知ったオコシ団長は腕を組みながらしばし考え込むと、公都の日本大使館に居る田中 大使に向かって伝える……。

 

「分かりました……明日のギム奪還時にはトウミを『一番旗手』に任命して最前列へと立たせましょう! その代わりニホン軍には彼女の護衛を必ず行なう様お願いします……もし彼女に何か有れば余は弟に(しめ)しが付かなくなります!!」

 

オコシ団長の決断を聞いた田中 大使は安堵の息をつくと共に彼の決断に感謝の意を伝えた。

 

「オコシ団長、ご決断感謝致します……後は我々にお任せ下さい……大内田 陸将、(よろ)しいですか!」

 

「はい、明日のギム奪還戦では彼女だけでなくクワ・トイネ全軍を第七師団の総力を上げて支援します……山内 三佐、貴官には特別にIFV1両と1個分隊を与える、彼女の直掩(ちょくえん)を頼むぞ!」

 

「有り難う御座います……こう言っては不謹慎(ふきんしん)ですが、これは楽しくなって来ました!」

 

山内 三佐の言葉にオコシ団長は苦笑いをするも、彼の言葉にどこか頼もしさと安心感を感じていた……。

 

斯くしてクワ・トイネ公国軍の女騎士 トウミ・デ・オコシは、彼女の知らぬ間にこの戦争の英雄として担ぎ上げられる事で、困惑する日々が始まるので有った。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 9月16日 クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 『大公の森』 クワ・トイネ大公宮

 

 

クワ・トイネ公国の最大の都市で在る公都クワ・トイネには街の3割程の面積を『大公(たいこう)(もり)』と呼ばれている森に(おお)われており、国政の議場となる『(はす)庭園(ていえん)』もこの森の中に所在(しょざい)している。

 

そしてこの森の一番奥深くには、公王の住居となる『大公宮(たいこうきゅう)』と呼ばれる建物が存在し、その一室で在る『迎賓(げいひん)()』にて公王主催の勲章式(くんしょうしき)が行われていた。

 

「ははっ! 何か俺達浮いていないか心配だな……。」

 

「あぁ……オレも着慣れない服を着て、御貴族様に囲まれていると緊張し過ぎて何か出しちまいそうだ……。」

 

(きら)びやかな貴族の礼服を着たクワ・トイネの来賓(らいひん)に囲まれる中、モーニングを着た比留川と牧田が小声でそう言い合っていると、横に居た田中 大使が彼等に話し掛ける。

 

「そんな事は有りませんよ! それより比留川さんと牧田さんは日本の民間での受章者なんですから、もっと堂々としていてください。」

 

田中 大使が2人にそう言うと勲章式の開始を告げる楽団の演奏が始まり参列者全員が起立を行なう……荘厳な装飾が施された扉が開くと公王で在る初老の男性とその妃が『迎賓の間』へと入場して来た……。

 

(おごそ)かな雰囲気の中で勲章式が始まり、名前が上がった人々に対し公王より勲章が授与される。

 

今回の勲章式は主に『ロウリア事変』で功績(こうせき)を上げた人物が受章の対象で有ったが『農業の近代化に著しく貢献した』功績で比留川と牧田、そして第四施設群の諸星 一佐の3人がクワ・トイネ評議会の推薦を受け勲章を受ける事となった。

 

他に勲章を受けた人物には、「日本国との交渉で国家に貢献した」功績で外務局員のヤゴウと軍務局のハンキ将軍、そしてクワ・トイネ評議員のノーグ卿が勲章を受け、「エジェイ防衛」の功績で西部方面師団司令のノウ将軍と「ギム奪還」の功績で中央即応連隊の滝田 一佐と銀山羊騎士団長のオコシ団長が、さらに「ロデニウス沖海戦」でロウリア海軍を撃退した功績で海上自衛隊第三護衛群の司令と各艦艇の艦長がそれぞれ勲章を受けた……そして1人の騎士の名が呼ばれる。

 

「騎士トウミ・デ・オコシ、前へ……。」

 

「はいっ!」

 

首相のカナタの呼び掛けに天蚕(てんさん)のドレスを着た1人の女性が公王の前に歩み寄ると参列者から「おおっ!」とどよめきが起きる。

 

公王の前へ立ち止まった彼女はドレスの(すそ)を軽く持ち上げると深々と挨拶を行なう……その(りん)とした彼女の(たたず)まいに参列者達はため息を混じえながら見惚(みほ)れる中、彼女は御座(ござ)の横に置かれたパネルを見て一瞬、顔を曇らせる。

 

(なっ、アレは……ヤマウチめっ! 最後までこの私を……!?)

 

それは一昨日、公都で配られたビラと同じギムの街に突入するトウミの姿が写された写真と同じ物で、大きくした写真がパネルに貼られて展示されていた。

 

先に聞いた話では、後世に残す為にこの写真を絵画として描き写し大公宮に展示するとの事で、この時トウミは『英雄を演出する為にここまでやるのか!』と半ば呆れてしまった。

 

トウミは様々な思いを顔に出さない様に心を静めると、カナタ首相より彼女の功績が発表される。

 

「騎士トウミ・デ・オコシよ、先の『ロウリア事変』にてギム奪還戦の一番旗手としてギム一番乗りを果たし、更にロウリア王国内に逆侵攻を行い、遊撃戦にて多大なる戦果を挙げた事で我が国の勝利に大きく貢献した! よって貴殿に『クワ・トイネ黄金武功騎士章(おうごんぶこうきししょう)』を授与(じゅよ)するものとする!!」

 

「……(つつし)んでお受け致します!」

 

参列者から再びどよめきが起きる……一騎士でしかないトウミが、ロデニウス沖大海戦で歴史的戦果を上げた第三護衛群司令と同じ勲章を授与される事に人々は驚きを隠せなかった! クワ・トイネ公王は彼女の首に勲章を掛ける際、小声で囁く……。

 

「トウミ、其方(そなた)には苦労を掛ける……。」

 

「陛下……もったいなき御言葉です……。」

 

公王は自らの又姪(まためい)でも在るトウミがこの戦争の英雄として担ぎ上げられている事に対し、申し訳無いと思い言葉を掛けるが、彼女は自らがそれを受け入れた事を示す様に短い言葉で返答する……。

 

 

トウミは先日まで、今回の勲章に不満を抱いていた……自身が政治的な理由で英雄として持ち上げられるだけで無く、この戦いの勝利に貢献したヤマウチやギム市民を救出したニホンの特殊部隊に対し、褒章(ほうしょう)(おろ)か名前すら上がって無かった事に彼女はその不満を爆発させた。

 

「カナタ首相、私は納得出来ません! ヤマウチの活躍がなければ、我々はこの戦争に勝つことすら出来なかったのですよ! 今回の褒章にどうして彼の名前が無いのですか!!」

 

昨日、首相官邸にてクワ・トイネ公国の首相で在るカナタへの報告会に参加した際、受章者のリストを見たトウミは山内 三佐と次郎丸 一佐の名前が無かった事を知るや、首相に対して詰め寄るが、カナタ首相は目を伏せながら彼女の問いに答える……。

 

「彼等への褒章はニホン国から行わない様、依頼が有りました……それに公式の場で彼等の名前を決して出さない様にとも言われています。」

 

「そんな……どうして!?」

 

首相の言葉にトウミは愕然とすると、横で見ていたオコシ団長が彼女に対し諌める様に語り出す……。

 

「トウミよ……ヤマウチもジロウマルも本来は表に出て来てはいけない責務(せきむ)の人間なんじゃ! それでも彼等は見ず知らずの我等の為に命懸けで戦ってくれた……彼等に本当に感謝しているのならばその言い分を受け入れるべきで有ろう……。」

 

「しかし、それでは彼等がっ!?」

 

「あの者達はその名が世に知られぬ事で活躍出来る、それで多くの命が救われているのだ……解ってやってくれ。」

 

オコシ団長の言葉を聞き入れたトウミはこれ以上の討論(とうろん)()め、少し間を置いた後に意を決した様に答える。

 

「……わかりました、ヤマウチがそれで納得しているなら私も受け入れます……。」

 

 

()くして、自らが『クワ・トイネの英雄』になる事を受け入れたトウミの首に黄金に輝く勲章が掛けられ、彼女は公王に対し深々と礼を行うと参列者の席へと戻って行く……そして最後の受章者の名が呼び出される。

 

「ニホン国陸上自衛隊第七師団長オオウチダ カズキ陸将、前へ!」

 

「はっ!」

 

カナタ首相の名乗りに儀礼服(ぎれいふく)を着た男が前へ出ると、参列者の間でこれまでに無い緊張が走る……。

 

(あれがオオウチダ将軍……この戦争を終わらせた『緑の猛将』かっ!!)

 

参列者の目線は1人の男に釘付けとなる……エジェイへ侵攻した2万を超える諸部族連合軍の部隊を一瞬で吹き飛ばし、自ら『鉄の地竜』に搭乗して前線に立つと銀山羊騎士団と共にたった1日でギムの街を解放、そして前人未到の荒野を横断するや敵の王都に包囲戦を行いロウリア王を捕らえると言う、誠に信じ難い戦果で戦争を終結させた異国の将軍はその衣装から何時しか『緑の猛将』と呼ばれる様になった。

 

大内田が御座の前に立つと大公では無く、その後ろで立っていた白銀のフードで顔を隠した女性が大内田 陸将の前へと歩み出る……。

 

その光景に参列者が戸惑(とまど)う中、彼女は自らフードを外すと長い耳と銀色に輝く髪を持つ若いエルフの女性で在る事に参列者達から驚きの声が上がった。

 

「ま……まさか、ハイエルフ様!?」

 

ハイエルフ……公都に住まう『町エルフ』と異なり、聖地リーン・ノウの森で悠久(ゆうきゅう)の時を過ごす高貴なエルフとして知られ、公の場に姿を現す事の無い存在が目の前に居る事に参列者は騒然(そうぜん)となる。

 

「皆さま、ご静粛(せいしゅく)に……これよりオオウチダ 陸将の功績を発表後、勲章の授与を行います!」

 

カナタ首相の呼び掛けに『迎賓の間』は水を打ったかの様に静まり返る……そして御座から立ち上がった公王自らが大内田 陸将の功績を(うた)い上げた。

 

『貴殿、オオウチダ カズキ 陸将は『クワ・トイネ公国救援隊』司令官に就任後、エジェイの街を包囲したロウリア王国軍の諸部族連合軍を撃破し、その翌日に銀山羊騎士団と合同でギムの街を占拠するロウリア王国軍を放逐しギムの奪還に多大なる貢献を果たした、そしてロウリア王国王都に逆侵攻しロウリア国王ハーク・ロウリア34世を拘束すると言う、史上例の無い大戦果を上げた事でこの戦争を終結させ我が国に平和を取り戻してくれた!」

 

「この建国史上最大の功績を称え、クワ・トイネ公国評議会と公王の承認により貴殿に『名誉貴族』の称号を授与すると共に『ハイエルフ長老会』より『アルース・ラーサ勲章』を授与するものとする!」

 

再び参列者達がざわめき始める……大内田 陸将への名誉貴族の称号の授与は()(かく)、聞いた事の無い勲章が彼に授与される事に驚きを隠せなかった。

 

アルース・ラーサ勲章……聖地リーン・ノウの森の奥深くに建てられた『緑の神』が住まう神殿の名を(かん)したその勲章は、クワ・トイネ公国で勲章制度が制定される中、国家・国民に対し最も敬服(けいふく)すべき活躍を行なった人物に対し授与されるクワ・トイネ公国最高の勲章で有る。

 

評議会によって受章者を決める通常の賞と違い、リーン・ノウの森に住むハイエルフの長老達の全員一致が受章の条件の為、これまで受章者は誰もおらず、その賞の存在は長きに渡り忘れ去られていた……そして今回、遂にハイエルフの長老達の全員一致により初の受章へと相成った。

 

勲章の授与は公王では無くハイエルフの女性により行われた……非常に希少な鉱石で有る『白銀(ミスリル)』で造られ、無数の魔石が散りばめられたその勲章が大内田 陸将の首に掛けられると、参列者からこれまでに無いどよめきが起きる!

 

魔力を持たない大内田 陸将には解らないが、勲章には計り知れない魔力が秘められており、彼に強力な魔法防護が付与されている事にクワ・トイネの参列者達はただ驚くばかりで有った……。

 

「オオウチダ将軍……受章おめでとうございます、私達の国と同胞達を “ 再度 ” 救って頂いた事をリーン・ノウのエルフを代表し、心から御礼申します!」

 

(………再度!?)

 

大内田 陸将は彼女の言葉に違和感を感じるも、式に水を差す様な行為(こうい)無粋(ぶすい)だと思い、彼女に対し問い出す様な事はしなかった。

 

勲章を授与した大内田 陸将は挙手の敬礼を行い参列者の席へと戻っていく、ハイエルフの女性……いや、ハイエルフ長老会の長で『森の大神官』でも在る彼女は様々な思いを(めぐ)らせる……。

 

(……そう遠く無い未来に『古の魔法帝国』が復活すると森の御言葉が有りました……そして『太陽神の使者』も再来するとも……そう、きっと彼等が……。)

 

『森の大神官』は、やがて起こるで有ろう災禍を憂いながらも、太古の昔に世界を救った『太陽神の使者』と同じ太陽の旗印を持つ転移国家、日本に(わず)かな希望を見出(みいだ)すので有った……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 9月18日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村

 

 

初秋が過ぎ草木に秋の色が付き始めたクワ・トイネの草原を客車と貨車を牽引したディーゼル機関車が南へと向かって行く。

 

客車に乗っている乗客の殆どは『ロウリア事変』で村々から徴兵された若い男性達で、それぞれが村の近くで停車した列車から降りると待っていた家族と共に久しぶりの家路(いえじ)へと向かって行った。

 

「あぁ……こうゆう光景を見て、ようやく戦争が終わったなって、実感するよ!」

 

『そうだな、オレたちは今までラジオの情報でしか戦争の事を知らなかったからな……。』

 

比留川と牧田は客車の中から故郷へと戻る若者達の姿を見送るとその様に話し合う……やがて列車は現在の終点駅で在るナエノデンエンへと到着した。

 

比留川と牧田はナエノデンエン村の新たな玄関口となった駅のホームへ降りると到着を待ち侘びた多くの村人達が歓声を上げながら彼等を出迎えた。

 

「ヒルカワさん、マキタさん、おかえりなさい!」

 

「受章、おめでとうございます!」

 

比留川と牧田は出迎えに来た村人達の手を握りながら歓待に答える。

 

(……この村も最初に来た時と本当に大きく変わった……。)

 

新築された駅の周囲には無数の穀物用サイロが立ち並び、日本から導入された大型の収穫機が広場に整列する中、その向こうの丘の上では新たな大型風力発電機の建設が行なわれている……。

 

比留川は初めてこの美しい村に来た時の事を思い出し「これで良かったのか……!?」と村の変貌に疑問を感じていると、彼の名を呼ぶ声が聞こえて来た。

 

「ヒルカワ様、マキタ様、お帰りなさいませ、それと受賞おめでとうございます!」

 

ナエノデンエン領主の娘で在るジョレーンがメイドのリドルと大人のエルフの女性と共に比留川達の元へと歩み寄って来る。

 

「ジョレーンさん、ただ今戻りました……失礼ですが、そちらのお方は!?」

 

比留川はジョレーンの後ろに居る、何処か彼女に似ているエルフの女性について尋ねると、エルフの女性は自己紹介を始める。

 

「お初に御目に掛ります、ヒルカワ様……私はリーン・ノウ拝殿(はいでん)の神職で、レーキ・ゾラ・ノーグの妻、そしてジョレーンの母親で在る、シリカ・ゾラ・ノーグと申します、どうぞお見知り置きを……。」

 

その様に自己紹介を行うとシリカはスカートの裾を軽く持ち上げ深々と挨拶を行なった……彼女は南のリーン・ノウの森付近に在る拝殿で神職を勤めていた為、長い間家を留守にしていたらしく今回、『豊穣祭』に併せて村に戻って来たとの事だ。

 

「ヒルカワ様、正午前に御父様から魔信がございまして、今日中に村に戻ると言われていました。」

 

比留川はジョレーンの言伝(ことづて)に昨日、公都を発つ前に会ったノーグ卿の言葉を思い出す……「私はまだ諸用が立て込んでいますが、明後日の『豊穣祭』までには必ず戻ります……。」と話していた事を思い出す。

 

「あっ!? お嬢様、あれを……御館様が戻ってまいりました!」

 

そう叫んだリドルが指差した先にはワイバーンに騎乗した領主のレーキ・ゾラ・ノーグが村の上空を大きく旋回する姿が有った。

 

「ほぉ……少し留守にしていた合間に村も大きく変わったな!」

 

ノーグはニホン国によって建てられた鉄道駅やサイロ、そして建設中の風力発電所を上空から見渡すと満足気な表情を浮かべながら着陸の態勢(たいせい)へと入った……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 9月19日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村

 

 

翌日、絶好の晴天日を迎えたナエノデンエン村では、村人達全員が集まり『豊穣祭』唯一の儀式で有る『収穫の儀』が小麦畑に面した広場で行われ、比留川を始めとするJICAの職員も麦畑で行なわれる儀式を見守っていた……。

 

「……これにより我らクワ・トイネの民は『緑の神』より賜りし豊穣の大地より得られし神の恵みを同胞と友に、そして飢えに苦しむ人々の為、これを分け与え共に喜びを得る事を『緑の神』の名に於いてここに果さん……。」

 

麦畑の前に建てられた簡素な祭壇の前で、クワ・トイネの民族衣装を身に纏った領主で在るノーグ卿が祝詞(のりと)(そう)し上げると、鎌を手にして実がなった小麦を大きく一束刈(ひとたばか)り取る……そして、その束を祭壇に捧げ再び祝詞を奏し上げると、妻のシリカと娘のジョレーンがそれぞれ麦を一束ずつ手に取る。

 

「これより、享受(きょうじゅ)の儀を行なう! 代表者、前へ……。」

 

ノーグ卿の言葉にクイラ王国からの出稼ぎ人のリーダーで有る獣人のザンタスと日本国の代表として比留川の2人が前へと歩み寄る……。

 

「クイラの友邦達よ、我が村の為に共に汗を流した証として我らは『緑の神』の恵みを共に分かち合う事を望み、豊穣と享受の喜び、そして共に繁栄と調和があらん事を……。」

 

「享受の喜びと共に繁栄と調和があらん事を……。」

 

ザンタスはそう答えるとシリカから両手で小麦の束を受け取り深く一礼をする……次に小麦の束を手にしたジョレーンが比留川の元へと歩み寄って来る……。

 

「新たなる友邦たるニホンの民よ……我らクワ・トイネの民に新たな未来の道を示すだけで無く、邪悪なる手より我らを救い出した事に対し、この上ない感謝の意を贈る……我らと共に『緑の神』からの恵みを享受し、共に繁栄と調和があらん事を……。」

 

ノーグ卿が祝詞を言い終えると、ジョレーンは比留川に小麦の束をそっと差し出した。

 

「ヒルカワ様、お待たせしました……これでご恩をお返しする事が出来ます!」

 

「有り難う御座います、ジョレーンさん! 享受の喜びと共に繁栄と調和があらん事を……。」

 

比留川は小麦の束を受け取り一礼すると、振り返りながら小麦の束を天高く掲げる……するとJICAの職員を始め、村人達から拍手と歓声が沸き上がった!

 

 

豊穣祭が終わると広場で待機していた収穫機のエンジンが咆哮(ほうこう)の様な(うな)りを上げながら次々と起動し、小麦の収穫を開始する。

 

巨大なリールを回転させながら次々と麦を刈り取る収穫機を見て村人を始め出稼ぎの獣人達もその姿に驚きながら目を見張る。

 

「スゲエなぁ、こりゃ……これじゃ俺達の出番、全くねぇじゃねぇか!?」

 

「まったくだな、ザンタスよう……でも、これで腰を痛めずに収穫出来て、それで麦や豆を貰えるんだから良いことづくめじゃねぇか!」

 

「ガハハ……そうだな!」

 

2人の獣人達はそう言うとお互い笑い始める、そんな2人の横では比留川と牧田の2人が万感(ばんかん)の思いで収穫作業を見つめていた。

 

「この半年は本当に長かった……しかし、色々と苦労した筈なのに、不思議とそうは感じ無い、むしろ楽しかった……。」

 

「あぁ……オレも村での生活が長くなっちまったせいで、ここを出て行くのが惜しくなってきたぜ!」

 

そう語る比留川と牧田の横を巨大な収穫機が土煙を上げながら横切って行く……広大なナエノデンエンの畑には小麦だけでは無く、大豆、落花生、そして甜菜など多くの作物が収穫の時を待っている。

 

収穫された作物の一部は既に専用貨車に積み込まれており、明日にはマイハークを経由して日本へと運ばれて行くだろう……そして遥か南のクイラ王国では油井から採掘された原油がタンカーへの積み込みが開始されたとの報道がラジオから流れてきた。

 

異世界転移から239日……遂に日本国は建国以来最大の危機を脱し、この異世界で生存する(すべ)を見出したので有った。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 9月23日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村

 

 

作物の収穫作業が終盤を迎える中、ナエノデンエン村に常駐している国際協力機構のメンバーも交代の時期を迎え、新たに赴任して来た隊員達との引き継ぎを終えると帰国の途へと付いていた。

 

その様な中、初期のメンバーで畜産学を専門とする大屋 香澄は、日本へは帰国せず新たな土地を目指す事となった。

 

「大屋さん、本当に行かれるのですか……。」

 

「えぇ…引き継ぎも終わりましたし、許可も貰えましたので!」

 

比留川の言葉に彼女は屈託(くったく)の無い笑顔でそう答えながら、(まと)めた荷物を背負い込む……大屋は出稼ぎから戻る獣人達の一行に同行して、現地で飼育されている珍しい家畜の調査を行なう為にクイラ王国へ向かう事を決めたので有る。

 

「ヒルカワさん、貴方達は我々に色々と良くしてくれました! この御恩(ごおん)に報いる為、彼女の身の安全は我ら一族の名に賭けて必ずや果します……どうかご安心を!」

 

獣人達のリーダーで有るザンタスが力強い口調で伝えると、比留川は少したじろぎながら彼の言葉に答える。

 

「わ…解りました……是非、彼女の事をお願いします! それとザンタスさん、馬車の調子はどうです……?」

 

話題を替えた比留川の言葉にそれまで険しかったザンタスの表情がぱっと明るいモノに変わった。

 

「ヒルカワさん、すごいの一言です! まさか鉄の馬車を作って頂ける何て夢にも思ってなかったですから!!」

 

ザンタス達は使用している馬車の整備を毎年、ナエノデンエン村を訪れる事にドワーフのダイスに頼んでいたが、今年は馬車に酷くガタが来ているとの報告を受けていた……そんな時、牧田より「事故で廃車になったトラックが有るから、ソイツの部品で作り直すってのはどうだい!」との提案が出された事で、新たに馬車が作られる事となった……。

 

馬車の車体は廃車になったトラックのフレームから作られ、これまで以上に頑強かつ多くの荷物が積める様になり、リーフサスペンションを流用した事で以前の馬車とは比べ物にならない程、揺れが穏やかになった……そして滑らかに回るタイヤのお陰で牽引するヤイクン達の負担が大幅に減ったとザンタスは喜びながら話していた。

 

だが比留川自身が最も驚いた事は、溶接機の使い方をドワーフのダイスに教えた所、2日もしない内に使い方を覚えるだけで無く、熟練工並の溶接が出来る様になっていた事だろう……ダイスいわく「鉄の筋目を感じながら溶接棒をなぞっている。」と言っており、太古の昔から金属の加工に秀でた種族の能力を垣間見た事に、比留川は驚きと共に感動を覚えるので有った……。

 

多くの作物が満載された馬車に、来た時よりも丸々と太った2頭のヤイクンが繋がれ、ザンタス達の故郷に帰る準備が整った……。

 

「皆さん……今年もお世話になりました、また来年も手伝いに来ますので!」

 

ザンタスと獣人達は見送りに来たノーグ卿とダイス、そして村人達に別れの挨拶をすると、ヤイクンの手綱を手に取り街道を進み始めた。

 

「では比留川さん、遅くとも来年の春には戻って来ますので!」

 

「分かりました……では、大屋さんもお元気で!」

 

大屋は比留川達に一礼すると、陸鳥の頬を撫でながら獣人達と一緒に歩き始める……大屋の手の中で生まれた陸鳥は何時しか人の背丈を超えて重い荷物も運べる様になったが、相変わらず大屋の前では甘えた声で鳴きながらその後ろをトコトコと付いて行くので有った……。

 

「さて……俺達も帰る準備をするか。」

 

比留川は大屋達の姿が稜線(りょうせん)の向こう側に消えて行くのを見ながら寂しげにそう呟いた。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 9月25日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村 ナエノデンエン駅

 

 

そして遂にナエノデンエン村を離れる日がやって来た、まだ朝霧が地面を漂う早朝にも関わらず、多くの村人達が駅のホームへと集まり日本へと帰国する比留川と牧田の見送りを行なった。

 

「比留川さん、牧田さん、今まで有り難う御座いました……御二人にこれからも『緑の神』の加護があらん事を!」

 

客車越しにノーグ卿が2人に別れの言葉を述べると、娘のジョレーンが手にしていた袋をそれぞれ2人に手渡すと笑顔で答えた。

 

「ヒルカワ様、マキタ様! その袋にはシュリッペと言うパンのお料理が入っています、これから鉄道が東へと延びて行って……この村にも色々な人が来ると思うんです! そんな人達に食べて貰おうって思いながら試しに焼いてみたんです。」

 

渡された袋からはとてもいい匂いがしてきて比留川と牧田の2人は思わず顔を(ほころ)ばせる……。

 

「ジョレーンさん有り難う御座います、帰りの旅の楽しみにします。」

 

比留川がそうジョレーンに礼を言うと、駅長のホイッスルが場内に響き渡り列車の出発時刻が迫って来た。

 

「ノーグさん、ジョレーンさん……皆さんお元気で!!」

 

窓を開けた客車の向こうから比留川がそう言うとディーゼル機関車の汽笛が大きく鳴り響き列車は動き出す、村人達が手を振って見送る中、列車は金属がぶつかり合う音を(かな)でながら徐々に速度を上げて行く……。

 

「これでこの村も見納めか……今度は観光で来て見たいな。」

 

「あぁ……そうだな!」

 

走り行く列車からナエノデンエン村の姿を見ながら、2人はそう寂しげに語り合う……1両だけ客車を連結した混合列車は汽笛を鳴らしながら終点マイハークを目指し一路、北へと進んで行った……。

 

斯くて、7か月近くに及ぶ『国際協力機構 クワ・トイネ公国現地技術協力プロジェクト 第一次派遣隊』は団長で在る比留川 克義と副団長の牧田 祥吾の帰還により無事にその目的を達成する事となった。

 

 

同日 クワ・トイネ公国 新マイハーク港 飛行艇桟橋

 

 

臨時埠頭の建設でクワ・トイネ最大の食料積み出し港となった新設港は『新マイハーク港』と呼ばれる様になり、穀物の積み出しが行なわれる中、港を拡張すべく日本からやって来た浚渫船(しゅんせつせん)やコンクリート工事船による工事が続いていた。

 

臨時埠頭の端に建てられた桟橋には旅客用に改装されたUSー1A救難飛行艇が停泊しており、まだ飛行場の無いマイハークと公都クワ・トイネ、そして日本本国を繋ぐ数少ない拠点として機能していた。

 

「おい、比留川……結構滑るから気を付けろ!」

 

比留川達の到着前にマイハークに降り注いだ通り雨が飛行艇桟橋の塗装しただけの鉄板を濡らし、歩き難くなっていた。

 

「わかっている……っとっとっ、うあっ!!」

 

牧田に言われたにも関わらず、比留川は足を滑らせてしまい手にしていた荷物を桟橋から落とさない様に手放してしまった為、逆にバランスを崩し海へ落ちてしまった!

 

「うあああぁぁぁっ……あれっ!?」

 

転落した比留川の目の前に海が迫って来るが海に落ちる寸前で動きが止まり、左足を凄い力で(つか)まれてるのを感じるとそのまま桟橋へと引き上げられた……。

 

(おい、嘘だろ……片手で人を持ち上げているぞっ!?)

 

1人の男が比留川の片足を掴んでそのまま持ち上げる姿を見て、牧田は茫然となる……男は比留川をゆっくりと桟橋に下ろすと心配そうに声を掛けてきた。

 

「大丈夫ですか……少し無理に引き上げたので、何処かを痛めていませんか!?」

 

自衛官の制服を着た男は大柄でコワモテな容姿にも関わらず、優しい口調で比留川に話し掛けながら手を差し出す。

 

「大丈夫です……それより、ありがとうございます! 帰国だと言うのに滑って海に落ちたなんて笑い話にもならなくなる所でした……。」

 

男の差し出した手を取り立ち上がりながら比留川はバツが悪そうに笑うと男も笑みを浮かべた……。

 

立ち上がった比留川が男の制服の右胸に付けられた名札を見ると、そこには「陸上自衛隊 山内」と表記されていた。

 

 

比留川と牧田、そして山内 三佐の3人はUSー1A救難飛行艇へと乗り込み離水の時を待つ……やがて機内にブザーが鳴ると飛行艇はターボプロップエンジンの音を鳴り響かせ桟橋を離れ離水を開始する。

 

USー1A救難飛行艇は水鳥の様にふわりと海面から離れると高度を上げながら北の空へと飛び去って行く……マイハークの海岸には子供達が離水する姿を見ながら一緒に走って行く姿も有り、空の彼方へ飛び去って行く飛行艇を海と砂浜の間で見えなくなるまで見つめていた……。

 

離水を終えたUSー1A救難飛行艇は雲へと入り日本本土へと飛行する中、席を立った比留川は後部座席に座る山内 三佐の席へと行き彼に声を掛けた。

 

「先程は有り難う御座います……御礼と言っては何ですが、現地の村で頂きましたパンを宜しければどうぞ!」

 

比留川はそう言いながら袋の中からシュリッペを取り出し山内 三佐に差し出す。

 

「おっ! これはいい匂いがしますね、宜しいのですか!?」

 

これまでクワ・トイネで現地の料理を食べて来て、その美味しさを知る山内は比留川が差し出したシュリッペを喜びながら受け取る。

 

「そうそう、検疫(けんえき)の問題で持ち帰りは出来無いのでここで食べないといけませんよ!」

 

「えっ? そうなんですか……では、遠慮なく頂きますか!」

 

比留川と山内、そして牧田も加わりジョレーンが作ったシュリッペを食べ始める。

 

「おおっ! コレは美味いなぁ!!」

 

カリッと焼き上がったパンの中に味付けされた根菜と鶏肉がパンと混じって入っており、中の柔らかいパンの食感とマッチして絶妙な味わいが口の中に広がる、

 

3人がシュリッペの味覚を味わっていると飛行艇は雲を抜け機内の窓に光が差し込む、その眼下の先には広大な緑の大地……ロデニウス大陸の姿が有った。

 

「あれが俺達が半年間居た異世界の地か……。」

 

「あぁ……今、思い起こせば色々有ったな……。」

 

「まったく、色々な事があり過ぎてカミさんにどう伝えれば良いのかホント迷うな……!」

 

比留川と牧田、そして山内の3人はそれぞれの思いの中、遠ざかるロデニウス大陸を見つめるので有った……。

 

 

次回、最終回




戦争が終わり日本への食料安定供給が始まった事で、役目を終えた比留川と山内の2人も無事に日本に帰還する事となり、物語も終演を迎える事になりました……2年近く掛かりましたこのお話も次回で最終回となります。

次回は伏線を回収しながら、比留川や山内達のその後を畫く最終回『それぞれのエピローグ』をお送りします。


用語

アル―ス・ラーサ勲章

クワ・トイネ公国に於いて最高位の勲章で有り、国家・国民に対し最も敬服すべき活躍を行なった人物に対し授与される勲章で有る。
選考を行うのがクワ・トイネ公国の評議会や公王では無く、リーン・ノウの森に住まうハイエルフの長老会により審議され全員の一致が必要な為、これまで誰も受賞した者が皆無で、大内田 陸将が史上初の受賞者となった。
クワ・トイネ公国の勲章の中で唯一、希少金属で有る『白銀』で造られており、他にも複数の魔石が散りばめられて装飾されている。
菱形の中央に『豊穣石』と呼ばれる非常に希少な魔石を手にした『緑の神』の彫像が施されており、その周りを古代エルフ語で『豊穣と享受、繁栄と調和』と書かれた文字が刻印されている。
魔石と白銀の効果により勲章自体が非常に強力な魔法防護力を持っており、大魔導士クラスの最大攻撃魔法すら無力化する力を持っている。
受章は公王では無くハイエルフの代表(今回は初と言う事も有り実質的なトップで在る森の大神官が出席した!)により授与される。

クワ・トイネ黄金武功騎士章

クワ・トイネ公国で武勲に優れた軍人に授与される武功騎士章の最上位となる勲章で、軍務局の推薦によりクワ・トイネ評議会と公王に選考された軍人に対し与えられる。
今回の『ロウリア事変』に置ける受章者は2名(トウミ・デ・オコシと海上自衛隊第三護衛群司令官)となっている。
ちなみに、クワ・トイネ公国軍西部方面師団司令のノウ将軍と銀山羊騎士団長のカラグワ・デ・オコシは1ランク下の『銀武功騎士章』を中央即応連隊隊長の滝田 一佐と第三護衛群の各艦艇の艦長と共に受章している。

大公の森

公都クワ・トイネのおよそ三割程を占める古来から存在する森の名称。
森の中には大公宮を始め蓮の庭園等、主要な政府施設が点在している。
森の中に建物が建てられているのは、クワトイネ公国の前身となる古代の国で在るミズトイネ王国の王都が森の中に建てられた事に由来し、この森自体も神話の時代、ラヴァナール帝国や魔王軍の侵略で焼き払われたミズトイネの王都の森で唯一、焼け残った場所でも在る。

ハイエルフ長老会

リーン・ノウの森に住まうハイエルフの年長者達により不定期に開催される会議の名称。
今回、大内田 陸将へのアル―ス・ラーサ勲章の授与について会合が行われ、史上初めて全会一致での受賞が決まった。
『ハイエルフ長老会』と言う名称はクワ・トイネ評議会が議事録上、勝手に付けた名称で、ハイエルフ側では『集まり』『集会』と呼ばれ決まった名称は存在しない。
ここで話し合われた合議は(必要で有れば)クワ・トイネ評議会に報告され国政にも大きく反映される。

森の大神官

ハイエルフ長老会を束ねる長の1人で在り、リーン・ノウの森の奥深くに建てられた緑の神の神殿で在るアルース・ラーサ神殿の大神官を務めるハイエルフの女性で、普段は神殿内で『森の御言葉』を聞きながら悠久とも言える時を過ごしている。
見た目は若く見えるが伝説の大神官イルカンレシスの生前の姿を知る存在でも在る為、相当長い年月を生きている事が伺える。
彼女が公都クワ・トイネに訪れるのは今回が初めてで有り(これまで公王の崩御や戴冠式には代理を送っていた。)ハイエルフの首長が来る事に公王を始め評議会を騒然とさせた。

リーン・ノウ拝殿

ナエノデンエン村の遥か南、リーン・ノウの森の前に建てられた拝殿で、『緑の神』を祀るアルース・ラーサ神殿の外宮として、リーン・ノウの森に入る事が出来無い一般の信仰者の参拝先となっている。
拝殿は周辺の領主達により合同で運営されており、輪番で神職となる人物がアルース・ラーサ神殿から派遣される神官の補佐を行なっており、物語ではジョレーンの母で在るシリカが神職として派遣されていた。
リーン・ノウ拝殿は人里遠くに建てられており、全ての神職は長い間、拝殿での生活を余儀無くされるが、ハイエルフの神官に接する事が出来ると言う事で、クワ・トイネの人々から名誉有る職とされている。
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