日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く   作:アニキ イン ザ スペース

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第二十六話 マイハークの車輪【前編】

ー 神話の時代 太陽神の使者の帰還から3ヶ月後 ロデニウス大陸 マイハーク海岸

 

物語は一万二千年の時を(さかのぼ)り、神話の時代……ロデニウス大陸の北、後にマイハークと呼ばれるこの場所は『太陽神の使者』こと大日本帝国海軍異世界方面艦隊の補給拠点として使用されていた。

 

獣人達の手によって巨石を投じて造られた沖まで続く埠頭、海岸の高台に建てられた金属素材を作るドワーフの工房と秘術と言われている『複製の術』を行うエルフの(やかた)……そこでは異世界から来た戦士達を支援すべく、様々な種族が集い巨大な街を思わせる賑わいを見せていた。

 

しかし、この場所も『太陽神の使者』の帰還後、人々は故郷に戻るべく1人また1人とこの場所を去って行き、遂には人の居ない無人の地と化してしまった。

 

そんな高台の拠点から少し離れた場所には不思議かつ巨大なリング状の物体が立っていた……。

 

転送門(てんそうもん)』……エルフ達の魔法の中で秘中の秘とされる転送術によって建てられた『転送門』の間を距離に関係無く自由に行き来出来ると言う驚異的な魔術で有る。

 

そのリングの向こうには対となる転送門が有るクイラの地……日本軍により建てられた油井施設(ゆせいしせつ)がボンヤリと浮かんで見えていた。

 

そんな転送門の周囲をエルフの魔導師達が囲むかの様に立ち並ぶ……。

 

「これより閉門(へいもん)の儀を始める……。」

 

老エルフの言葉を合図に魔導師達は一斉に呪文を唱え始めた。

 

「ო, ქარიშხლის ღმერთო, გვიჩვენე შენი ძალა და დაანარყევე ცა მგრგვინავი ქუხილით ქვეყნის კიდეებამდე!」

 

魔導師全員が呪文を唱え両手を高く上げるとリングの真上に光球が現れ、(まぶし)い光と轟音と共に巨大な雷がリングの頭上に直撃する!

 

周囲が静寂(せいじゃく)に包まれる中、雷の直撃を受けたリングの上部は破片すら残さず消滅し、さっきまで見えていたクイラの油井施設の姿は見えなくなっていた……。

 

「ふむ……これで『転送門」は二度と使えなくなった……。」

 

「……神官長、ここまでやる必要は有ったのでしょうか!?」

 

若い魔術師が神官長ことイルカンレシスに尋ねると彼は破壊された『転送門』を見ながらこう答える。

 

「まだ魔王が健在で在る以上『転送門』は破壊する必要が有る……魔王は我等(われら)の追撃を受けその力は弱まっているが、もし力を取り戻し『転送門』の存在を知れば、その魔力で『転送門』を乗っ取り、直接このロデニウスの地に大軍を送るやかも知れぬ……。」

 

『転送門』はその作成にエルフの魔導師30人分と言う膨大(ぼうだい)な魔力を必要とする魔法で有るが、一度造ってしまえば常時使用可能と言う非常に便利な魔法で有る。

 

しかしリングが魔力で具現化されている関係上、探知魔法を使える魔術師なら遠く離れた場所でもリングの解析が可能で、解析から複製したリングを作成し、そこに膨大な魔力を注ぎ込むとリングの乗っ取りが可能となる……最悪、魔王がリングを解析し『転送門』を乗っ取る事態となれば、魔王軍はグラメウス大陸から直接ロデニウス大陸への侵攻が可能となる。

 

この事態を防ぐ方法はただ一つ、どちらかのリングを物理的に破壊して使用不能にする事で有る……しかし魔力を具現化したリングは非常に固く魔導師7人の電撃魔法でようやく破壊する事が出来た。

 

「これで(うれ)いの一つは絶ったかのぅ……しかし、精油技術(せいゆしせつ)内燃機関(ないねんきかん)……カネコ殿から何度、説明を受けてもチンプンカンプンで最後まで理解出来んかったが、手放すのはやっぱ惜しいのぅ!」

 

立ち合い者の一人で在るドワーフが見えなくなった油井施設が使われていた時の事を思い出しながら一人呟く。

 

「我らの手に余るモノで有る以上、やむ得ぬが手放すしかなかろう、それにまだ一つ……肝心(かんじん)なモノが残っておる……さて、どうしたものか……。」

 

神官長イルカンレシスは立ち合いのドワーフにそう言いながらため息を付くので有った……。

 

 

それから三ヶ月後……神森の北部、(かつ)て種族間連合軍と魔王軍との間で激しい決戦が行われた戦場跡で在る草原に一つだけポツンと建てられていた大きなテントの姿が在った。

 

有る物を雨露(あまつゆ)から防ぐべく約2年近く、その場所に建てられていたテントは数十人のエルフ達の手により解体されると、中から飴色(あめいろ)に塗装された一機の機体が姿を現した……。

 

零式艦上戦闘機二十一型……太平洋戦争序盤、圧倒的な力で連合軍を恐怖に(おとしい)れ、異世界でも無類の強さを誇ったこの機体を異世界の人々は畏敬(いけい)(ねん)を込め『空飛ぶ神の船』と呼んでいた。

 

2年前の神森の戦いで日本海軍航空隊は魔王軍に大打撃を与えるも、一機の零戦が機関の故障で不時着を余儀無(よぎな)くされた。

 

不時着した零戦は後日、回収される予定で有ったが、日本軍は魔王軍の撃退と追撃に()かりきりとなった為、回収が先送りとなり、遂には回収されぬまま日本軍が元の世界へ帰還してしまったので、この地に置き去りとなってしまった。

 

「さて……始めるとするか。」

 

神官長イルカンレシスは飴色の機体を見つめながらこれまでの顛末(てんまつ)を思い返す……。

 

(こと)発端(ほったん)は『太陽神の使者』達が帰還した後に行なわれた「種族連合会議」での事で有る。

 

その時の主な議題は「世界の扉」に配属される兵と補給の問題、魔王軍残党への対処等が話し合われたが、その議題の中で「神森北部で放置された空飛ぶ神の船」をどの様にするかが話し合われた……。

 

2年前の戦い以来、雨露をしのぐテントが建てられた後、ずっと放置されていた『空飛ぶ神の船』は、塗装が剥げた箇所から錆びない様にドワーフ達の手により油が塗られ防錆処理(ぼうせいしょり)が成されていたが「神の眷族(けんぞく)の所有物」で有る事から、持ち出しや調査は行われずそのままとなっていた。

 

会議で話し合われた結果、いつか『太陽神の使者』が再来した時『空飛ぶ神の船』を返還出来る様に『時間遅延式魔法(じかんちえんしきまほう)』を掛け、何時でも返却出来る準備をしておこうとの結論が出た……しかし、『時間遅延式魔法』の提案者で有るイルカンレシスより一つの問題が有る事が提示される。

 

彼曰く、これまで異世界から来た『太陽神の使者』達に治療魔法を(ほどこ)した実績から彼等にも魔法の効果が有る事は確認していたが、これ程大きな異世界由来の無機質の物体に魔法を掛けた例が無い為、魔法の影響により機体が崩壊する危険性が有る事を指摘し、何らかの方法で安全を確認する迄は現状のままにするとの方針となった……。

 

その後、補給所となっていた海岸の洞窟倉庫の奥で片付けの手伝いを行なっていたエルフの魔術師が、その中で有るモノを見つけた。

 

それは『太陽神の使者』達が「タイヤ」と呼んでいた黒い車輪で有った。

 

弾力性の有る不思議な素材で出来たそれは『空飛ぶ神の船』や『鉄の荷車』の車輪として取り付けられていた物で、修理の為に「複製魔法」を行うエルフの館へと持ち込まれたが、素材となる「ゴム」と呼ばれる材料が無かった為、洞窟倉庫に置かれたままとなっていたらしい……試しに1本の「タイヤ」に『時間遅延式魔法』を掛けてみた所、何も問題が無い事が明らかになった。

 

こうして異世界由来の物質に『時間遅延式魔法』を掛けても問題無い事が明らかになり、遂に『空飛ぶ神の船』への時間遅延化がエルフの魔導師達により開始される。

 

「これより悠久(ゆうきゅう)の時の儀を始める……各自、心して掛かる様に……。」

 

神官長イルカンレシスの言葉により零戦を囲う様に並んだエルフの魔導師達は精神を集中し、ゆっくりと呪文を唱え始めた。

 

「ო, დროის ღმერთო, ო, წარსულის, აწმყოსა და მომავლის მმართველი სამი ქალღმერთო, მიანიჭეთ მარადიული სიმშვიდე ზეციდან ჩამოსულ ხომალდს, რომელიც სხვა სამყაროდან მოვიდა!」

 

呪文を唱え終えると、零戦の機体が青白くぼんやりと輝き始め少しづつその光が消えて行く……やがて何事も無かったかの様に元の状態へと戻った。

 

「悠久の儀は成功した……!」

 

イルカンレシスは額に汗を流しながら魔導師達に告げる……一見、何も変わっていない様に見えるが、不時着から2年が経過しても時折(したた)り落ちていた黒い油が今にも落ちそうな水滴の形のまま動かなくなっており、この機体が世界の時の流れから切り離された証でも有った。

 

「皆の者、もうひと踏ん張りじゃ……最後に聖域(せいいき)の儀を開始するぞ!」

 

疲れた顔を見せている者もいる魔導師達にイルカンレシスは最後の儀式を行う事を告げる、『時間遅延式魔法』が掛けられた零戦の周りをエルフの少年少女達が植物の種を蒔き始め、魔導師達は再び呪文を唱え始めた……。

 

「ო, ნაყოფიერების ქალღმერთო, ელფების ღმერთო, გთხოვთ, გადასცეთ ეს თქვენს მეგობარს, ღრმად მწვანე ღმერთს, ხეების სულს: ჩვენი კეთილისმოსურნისგან ბოძებული საგანძურის დასაცავად, ამ მიწას ახალ მწვანე სავანედ ვაქცევთ.」

 

すると蒔かれた種から次々と芽が生え始め、零戦をドーム状に大きく囲いながら凄い速度で成長していく……。

 

やがて周囲を完全に囲うと自ら白く光り始め、零戦を包む光のドームが完成した。

 

「皆、良くやってくれた……これよりこの地は聖域となり、千年を掛けて守護の木々が育ち新たな森となろう……。」

 

こうして『空飛ぶ神の船』を守る聖域が完成し、神森のエルフ達は長い年月の間、この地を守り続けた。

 

そして『時間遅延式魔法』を掛けられた「タイヤ」はイルカンレシスの指示で洞窟倉庫に戻された後、その入口は人が入って来ない様に岩で塞がれた……。

 

何故、イルカンレシスがその様な事をしたのかは不明だが、それから一万二千年後……岩の崩落により古代の遺跡の入口が発見され、ドワーフのダイス、獣人のザンタス、エルフのノーグ達を始めとする冒険者達の調査により遺跡の奥から奇妙な遺物を発見し持ち帰ったので有った。

 

続く




用語

クイラの油井施設

神話の時代、異世界方面軍の工兵部隊により設営された「クイラの黒い沼」で原油の採掘と精製を行う施設で「転送門」を通じて設置されたパイプを使い、埠頭に停泊している油槽艦に直接、燃料となる重油の給油を行っていた。
(航空機や戦車の燃料となるガソリンや軽油は油槽車やドラム缶を使用して輸送していた。)

転送門

「時間遅延式魔法」「複製の術」と共に並ぶ失われた古代エルフの魔法の一つで、物語の時代には一部の魔術師を除き、その存在すら忘れられている。
「転送門」と呼ばれている膨大な魔素を魔力で具現化したリング状の物体の間を距離に関係なく一瞬で移動する事が可能となる。
事前に決め合った魔法陣の形状を鍵として移動したい場所に「転送門」を設置する事で使用可能となるが、エルフの魔導師30人分の魔力と触媒となる大量の魔石が必要となる。
神話の時代、マイハークに設営された補給処と原油が取れるクイラの荒野との間に「転送門」が設置され、現地で精製した重油やガソリンを異世界方面軍へ輸送する為に使われていた。
「転送門」自体が魔力の固まりの為、存在と位置が判れば探知魔法の応用で遠距離からでも構造の解析が容易な為、簡単に妨害や乗っ取りが行える問題が有り、作中でもイルカンレシスが魔王軍に乗っ取られるのを恐れて「転送門」を破壊している。
ただし物質としては非常に強固な為、壊すのは容易では無く、一万二千年以上経過した物語の時代でも風化する事無く残っている。
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