日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く   作:アニキ イン ザ スペース

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第二十七話 マイハークの車輪【後編】

中央歴1643年(西暦2019年) 2月25日 神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス 対魔帝対策省

 

白く滑らかな壁面で造られた高層建築物が白磁(はくじ)摩天楼(まてんろう)の如く天を(ふさ)ぐ様にそびえ立ち、その眼下を魔導機関で稼働する高速列車が走り抜けて行く。

 

この異世界で最も(さか)え、栄華(えいが)を欲しいままにした不夜(ふや)の魔法都市、帝都ルーンポリス……皇帝の居城(きょじょう)たるアルビオン城と隣接する官庁街の一角に他の庁舎とは異なる重厚な造りの庁舎が存在する。

 

対魔帝対策省(たいまていたいさくしょう)……その復活が予言されている「古の魔法帝国」に対抗する為、古代の遺物や兵器の解析と運用を行う部署として古くから存在する特務機関(とくむきかん)で在る。

 

これまで表だって目立つ様な事は無かったが、グラ・バルガス帝国と戦端を開いた事と、先のバルチスタ沖にて行なわれた海戦で、虎の子の古代兵器「パル・キマイラ1号機」を失った事により、その損失を(おぎな)うべく職員が昼夜問わず働き続けている事で、庁舎には深夜遅くまで明かりが灯り続ける多忙な部署となっていた。

 

そんな庁舎の一角に在る「古代兵器分析戦術運用部(こだいへいきぶんせきせんじゅつうんようぶ)」と書かれている一室にて仮面を被った2人の男女が机を挟んで話し合う姿が有った……。

 

「ラハシア、例の『マイハークの車輪』に付いて調査に大きな進展が有ったと聞いたのだが……!?」

 

仮面の男こと古代兵器分析戦術運用部・部長、ヒルカネ・パルぺは、古くからの同僚でブロンドの髪を束ねた仮面の女性……古代遺物解析部(こだいいぶつかいせきぶ)の部長、ラハシア・ヨーランに問い掛ける。

 

「えぇ……ついに、あの『マイハークの車輪』に刻印された文字の解析……と言って良いのかしら? ()(かく)、何が書かれているかが解ったの!」

 

「それは本当かっ!!」

 

「パル・キマイラ1号機」失陥以来(しっかんいらい)、多忙により疲弊していたヒルカネの仮面の奥の目が大きく見開く! それは彼に取って驚愕すべき出来事で有った。

 

「マイハークの車輪」……今から約半世紀前、第三文明圏のロデニウス大陸にて発掘された遺物の名称で、一見すると白い布に包まれた黒色の大きな車輪で有るが、何故か古代の魔法で有る「時間遅延式魔法」が掛けられており、発見された当時から現在に至るまで、どう言う理由でこの魔法が掛けられているのか、まったく見当がつかなかった。

 

ヒルカネが若い頃、この「マイハークの車輪」を解析する為のプロジェクトに関わった事が在り、その時判明した事は……。

 

1.この遺物の素材は『魔導樹脂(まどうじゅし)』に類似した樹脂で作られているが、魔法由来の素材では無く、第二文明圏のムー国で開発された「ゴム」に非常に酷似している。

 

2.この遺物に「時間遅延式魔法」が掛けられたのは「魔素測定法(まそそくていほう)」によると今から約一万二千年前……神話の時代と呼ばれている頃で有り、同じ時代に「時間遅延式魔法」が掛けられたエモール王国の古代の遺産「龍魔戦争絵巻(りゅうませんそうえまき)」よりも新しい物で有ると推測される。 しかし「龍魔戦争絵巻」は滅亡した古代王国の悲劇を後世に伝える為に「時間遅延式魔法」が掛けられた所以(ゆえん)が記録されているが、この遺物に関しては記録に関する物が一切なく、どの様な理由で「時間遅延式魔法」が掛けられたのかが不明で有る。

 

3.この遺物には文字か記号らしきモノが刻印(こくいん)されているが「古の魔法帝国」を(ふく)め、これまで確認されているどの文字にも系統が当てはまらず解読がされていない。 発見されたロデニウス大陸は「太陽神の使者の神話」の発祥の地で有る事から「神の文字」とも噂されたが、現地で偶然に発見された『転送門』の遺跡とも合わせて関連が有るのか調査を行ったが、具体的な証拠が発見できず、謎のままとなっている。

 

 

この様に謎が多い(ゆえ)に対魔帝対策省内では謎の遺物こと「オーパーツ」のリストの筆頭(ひっとう)に挙げられていた……その謎の一つが解き明かされた事にヒルカネは軽く興奮するも、ラハシアはやや困惑した口調で彼に答える。

 

「確かに解ったのだけど……先ずはこれを見て!」

 

そう言うと彼女は板ガラスの様な端末を手に取り操作すると、2つの魔写が表示される。

 

「これは『マイハークの車輪』……待て、右側のは何だ!?」

 

端末に映写された2枚の魔写には同じ車輪が写っているが、過去に『マイハークの車輪』の実物を見た事が有るヒルカネは、右側に写っている車輪に違和感を感じ叫んだ!

 

「そう、左側が私達で保管している『マイハークの車輪』、そして右側は……在ニホン大使館付きのウチの調査員から送られて来たモノなの。」

 

「ニホンって……第三文明圏外国家の、あのニホンかっ!?」

 

「えぇ……彼の話ではフジと言う二ホンで一番高い山の(ふもと)に在る民間の博物館で見つけたと言っていたわ。」

 

ラハシアの言葉にヒルカネは驚愕する……ニホン国は転移国家を自称した国で、魔法が使えないムー国同様、科学技術と言う錬金術の出来損ないに頼る国だ! たまたまパーパルディア皇国を倒したと言う理由で辺境の列強国になっただけの国にどうして古代の遺物と同じ物が有るのかヒルカネは疑問に思う。

 

そんなヒルカネの目が端末にくぎ付けになっているのを見たラハシアは、ため息を付きながら話を続ける……。

 

「調査員の報告はまだ有るわ……これを見て、さっき見せた魔写はこの機体の車輪として使われていたの……。」

 

彼女が次に見せた魔写は同じ博物館で撮られた魔写で、そこには零式艦上戦闘機五十二型が写っていた。

 

「んっ……コレはグラ・バルガスの飛行機械ではないかっ!! こんなモノがどうして此処(ここ)にっ!?」

 

塗られた色こそ違うも、グラ・バルガス帝国の戦闘機「アンタレス07式艦上戦闘機」と瓜二つな機体が展示されている事にヒルカネが動揺すると、ラハシアは彼を(なだ)める様に説明する。

 

「落ち着いてヒルカネ! コレは「ゼロ戦」と呼ばれていて調査員の報告だと、70年以上前に二ホンで作られた物らしいの……。」

 

「70年前……? 現に我々の前に現れている機体だぞ! そもそもどうして二ホンに!?」

 

「えぇ……私も最初コレを見てそう思ったわ、でも次の魔写を見て気が変わったの……きっとこれまで以上に驚くわよ!」

 

ラハシアはそう前置きすると次の魔写を端末に表示する……それは博物館の屋外に展示された航空自衛隊のTー33A練習機と建物の屋上に置かれているFー104Jの姿で有り、それを見たヒルカネは目が点になった……。

 

「な・何だと……このエルぺジオにそっくりな機体はっ!?」

 

ヒルカネは魔写に写っていたTー33Aが自国の制空戦闘機型天の浮舟「エルペシオ」にそっくりな事に驚くが、次に見せられた魔写を見た瞬間、彼は一瞬で凍り付いたかの様になり、ようやく口を開くもその声は微かに震えていた……。

 

「ば……馬鹿な、『ラヴァナールの天の浮舟』だと……一体、どう言う事だ!!」

 

ヒルカネは細長く、先端が尖った形状のFー104Jの魔写を見て、過去に発掘された「天の浮舟」と遜色無(そんしょくな)い姿をしている事に言葉を失う程の衝撃を受ける……。

 

「どう……驚いたかしら、因みに二ホンでは魔写に写っている機体はどれも旧式化して使われていないって話よ……同行していた外務局員が『白銀貨(はくぎんか)10枚』で機体を譲る様、持ち主に交渉したけど『新世界技術流出防止法』を盾に断られたって話よ……。」

 

『白銀貨10枚』……日本円換算で約150億円と言うとんでもない金額と併せ、国家間の取引でしか使わない白銀貨で取引を行おうとする外務局員の話にヒルカネは苦笑いをする……彼は気を落ち着かせるとラハシアとの話を続けた。

 

「成る程……それで、これらの中に『マイハークの車輪』と同じモノが有ったと言う事か……だとしたら、あの車輪の刻印は何と書かれているのだっ!?」

 

「これよ……調査員がこれを発見して撮影したのは去年の8月で、解読に関しては現地のニホン人に直接聞いた内容を元にしたと言っていたわ!」

 

ラハシアはそう言いながら端末を操作すると、ミリシアルで使われている文字と『マイハークの車輪』に刻印された文字の解読図が表示され、そこにはこの様に書かれていた……。

 

・昭和17年10月製 縦磯護謨製造株式會社(たていそごむせいぞうかぶしきかいしゃ) 600×175 常用気圧(じょうようきあつ) 4(キログラム)平方糎(へいほうセンチ)

 

「『マイハークの車輪』の文字が、ニホンで発見された車輪と同じニホンの文字と仮定して翻訳するとこうなったわ。」

 

ラハシアは解読した内容を一つずつヒルカネに説明する。

 

「まず、この昭和と言うのはニホンで使われている元号で、今から77年前と言う話よ……次に縦磯ゴムと言うのはこの車輪を作ったニホンの会社で今も存在しているわ、そして最後は車輪の大きさと空気圧を示した単位……この車輪は私達の魔導樹脂と違って空気を入れて弾力を調整しているの。」

 

ラハシアが説明した内容にヒルカネは理解が出来ず、声高に叫んでしまう。

 

「待ってくれ! つまり77年前に作られた物が、一万二千年もの大昔に『時間遅延式魔法』を掛けられた……と言う事か!?」

 

「信じられないけどそうなるわ……この車輪に付いてはこの後も現地のニホン大使館で外務省、情報省の職員と合同で調査を行なったけど、どう調べても辻褄(つじつま)が合わないと言う理由で上への報告は先送りにされていたの……!」

 

その説明を聞いたヒルカネはこの問題の深さを理解し、ため息を付きながら答える……。

 

「成る程……それが今回のバルディスタ沖の惨状を見て、居ても立ってもいられなくなって報告したって事か! こっちとしては良い迷惑だが……。」

 

ヒルカネはそう言いながら手にしている端末を操作すると、画面には調査員が書いたと思われる今回の調査の総括(そうかつ)が表示される……。

 

そこにはニホンには魔導技術に応用出来る優れた技術が書物として入手出来るが、翻訳が難解な事と今回の様な調査を行う為に、他の省庁と合同で対応する必要が有る事が記載されていた。

 

(そう言えばニホンへの大使館設立は情報省のゴリ押しで、外務省との確執が有ったと言っていたな……情報省の奴等はニホンに付いて最初から何かを(つか)んでいたのかっ!? いや、今は省庁同士でいがみ合っている場合では無い……!)

 

考え込んでいるヒルカネの姿を見てラハシアは話を切り出す。

 

「どうやらお互い、ニホンと言う国の見方を改める必要が有る様ね……だから正直に言うわ、魔帝の発掘物の解析が資料不足で停滞しているの! もし調査員の報告通りニホンの技術が役に立つのなら、彼の言う様に省庁の垣根(かきね)を越えて合同で対応する必要が有ると思うの。」

 

彼女の言葉にヒルカネも思う所が有った……未だその能力の半分が解明されていない海上要塞パルカオンの解析も思う様に進んでおらず、魔帝の復活が示唆(しさ)されている中、もはや()()を言える状況では無くなっていた。

 

ヒルカネは自らの仮面に手を掛けながら、彼女の意見に答える。

 

「君がそこまで言うとは……解った、この件に関して先ずは長官に話して見るよ、私もニホンに有る遺物と機体の謎に興味が出て来たからね……!」

 

ヒルカネは部長クラスの役職だが、ミリシアル皇帝から勅命(ちょくめい)を受ける古代の超兵器の運用責任者で在る事から省内での立場は高く、その意見も通り易い。

 

その言葉を聞いたラハシアは仮面の下で笑顔を浮かべる。

 

「ありがとう、ヒルカネ……私の後輩で外務省の局員をやっているフィアームって()が居るの! 以前、使節団としてニホンに訪れた事が有るから彼女に話をして見るわ、きっと力になってくれると思う。」

 

斯くして、ヒルカネの提案により外務省、情報省、対魔帝対策省の3省合同での「|科学技術関連書籍翻訳室《かがくぎじゅつかんれんしょせきほんやくしつ》」の部署が立ち上がり、日本国で入手した科学技術本の翻訳が開始された。

 

『マイハークの車輪』の謎こそ解明出来無かったが、翻訳された日本の技術はミリシアル帝国の魔導技術の解析と発展に大きく貢献する……そして彼らはこの技術を元に夢の超兵器「誘導魔光弾 ウルティマⅠ型」の開発に成功するので有った。

 

次回こそ最終回




終盤恒例の伏線回収話です、相変わらずダラダラと書いているので予定の2000文字を大幅に越え8000文字に達してしまったので、前後編と分けました。
物語で語られている富士山の麓に在る私設の博物館は実在し(河口湖自動車博物館・飛行館)作中と同様、零戦の復元機やT-33AとF-104Jの実物が展示されています。
次回こそ、登場人物のその後が語られる最終話「それぞれのエピローグ」となります。

用語

科学技術関連書籍翻訳室

対魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部・部長のヒルカネ・パルペの提唱により設立された主に日本の科学技術関連の書籍を翻訳する為に設立され、外務省・情報省・対魔帝対策省の合同部署として日夜翻訳作業を行なっている。
日本政府も公安警察を介してこの部署の存在を把握しているが、一般の書店で購入出来るレベルのものなら問題無しとされ黙認されている。
逆に日本から魔法技術関連との情報交換を提示され、専門家を派遣して貰った事で翻訳作業が劇的に進み、ミリシアル帝国の魔導技術向上に大きく貢献している。

白銀貨

高純度の白銀で造られた通貨で、白銀貨1枚で金貨1万枚の価値を持ち、日本円で約15億円程となる。
通常の商取り引きでは使用されず、主に国家間の取り引きで使用されている。


マイハークの車輪

物語の半世紀前、クワ・トイネ公国のマイハーク海岸にて岩の崩落で発見された洞窟(元は魔王軍に対抗する為の隠し砦だったが、異世界方面軍来訪後は倉庫として使用された。)内で発見された「時間遅延式魔法」が掛けられた車輪の名称。
その正体は旧日本海軍の航空機用のタイヤで、神話の時代に不時着した零戦二十一型に「時間遅延式魔法」を掛ける前にタイヤの一つに試験的に魔法が掛けられた。
その後、発見された場所へと戻されるが、一万二千年の時を得て冒険者達により発見され、コレクターへと売却された。
現在はミリシアル帝国の対魔帝対策省内に保管されており、幾度と無く調査が行なわれたが未だ解明には至っておらず、省内では謎の遺物「オーパーツ」として扱われてきた。

魔素測定法

現代世界に於ける炭素測定法の魔法版で、魔導機具で魔素の属性変質を測定する事で年代を測定する事が出来る。
ただし測定は魔素を含む魔法由来の物のみに限る。

魔導樹脂

ミリシアル帝国内で使用されている「魔導車」の車輪として使用されており、やや灰色っぽい色を除けば見た目や性能はゴムタイヤと大差が無い。
空気圧により調整を行なうゴムタイヤと異なり、風属性・土属性の魔法を掛ける事で車輪の固さや弾力性を調整している。

龍魔戦争絵巻

神話の時代、ラヴァナール帝国との戦争で滅亡した竜人達の古代国家インフィドラグーンの悲劇を描いた刺繍画で、日本人から見ると「バイユーのタペストリー」を彷彿とさせる絵巻で有る。
作成当時から次世代に悲劇を伝える為に製作されたと記載されており、全ての絵巻に「時間遅延式魔法」が掛けられている。
記録では戦争から逃れた竜人族の氏族により全13巻が製作されるも、魔王軍のミリシエント大陸侵攻により6巻が失われており、現在はエモール王国の国宝として残りの7巻が受け継がれている。
残された絵巻には亜神龍を動員したインフィドラグーンの大攻勢の敗北と王都の壊滅が描かれており、中でもラヴァナール帝国が使用した「コア魔法」の威力と被害に付いて明確な記載がされており、魔帝が大量殺戮兵器を躊躇無く使用していた事がこの絵巻からも窺える。
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