日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く 作:アニキ イン ザ スペース
ロデニウス大陸の南東部、クイラ王国と呼ばれている荒涼とした大地が続くこの地の沿岸沿いに、僅かな草を求め痩せた牛達を連れ歩いている獣人の遊牧民の姿が在った。
永きに渡りこの渇ききった過酷な土地を彷徨うかの様に家畜達を連れながら渡り歩く彼等のその姿は、それが信仰が織り成すものか、自らに課せられた業苦なのか、答えを知る者はいない……ただ、自分と家族が今日の食にありつければそれで良いと彼等は言う……それが第三文明圏最貧の国、クイラ王国の日常だった……。
「あれ……なんだろう!?」
聞いた事の無い音が聞こえて来るのに気付いた獣人の牧童が空を見上げると、西の空に鳥や龍でも無い……強いて言えば昆虫に似た巨大な「何か」が羽ばたきとは思えない妙な飛び方で、東の砂丘を越えて飛んで行くのが見えた。
驚く大人達を尻目に、獣人の牧童は空を飛ぶ「何か」を追って砂丘を駆け上がって行く……。
「はぁはぁはぁ……。」
息を切らしながら砂丘を登りきった獣人の牧童は東に見える海を見渡す……青く輝く海の沖合いには巨大な灰色の奇妙な島が3つ浮かんでおり、その内の一つに空を飛んでいた「何か」が降りようとしていた。
「あれっ!? こんな所に島なんか……いや、アレは島じゃない! 船……巨大な船だ!」
獣人の牧童の後を追って大人達も砂丘を駆け登って来る中、彼は遠くからでも分かる程、巨大過ぎる船の姿に圧倒され呆然と立ち尽くすのであった……。
「おっ……クイラ王国の大臣が到着ですね……しかし、向こうに参列しなくて良かったのですか!?」
輸送艦『しもきた』の艦橋から、隣に停泊している『おおすみ』に着艦したМHー101ヘリコプターよりクイラ王国の大臣が降りて来る姿を見て『しもきた』の先任伍長で在る蒲生 海曹長は艦長席に座っている笹川 二等海佐に話し掛ける。
「んんっ……あっ、そう言うの全部『おおすみ』の艦長に任せているから! それよりも見て観ろよ……『おおすみ』型が三隻揃ったのは、随分と久し振りじゃないのか!?」
これまで日本とクワ・トイネ公国との間を輸送し続けた『おおすみ』型輸送艦は臨時埠頭が完成すると、休む間も無く次の任務が与えられる……それは港湾施設の無いクイラ王国に石油採掘技術者と共にその設備を輸送する任務で有る。
異世界転移以来、3隻の『おおすみ』型が集まって艦隊を組むのは今回が初めてで有り、それだけ重要な任務で有る事が伺えた。
「確かに……しかし、今回の任務の重要度を考えれば、この三隻でも足りていない状況だと言うのが……。」
蒲生 海曹長の言葉を聞きながら、笹川 二佐は机に置いていたコーヒーカップを手に取る。
「だからこそ式典なんぞ偉い人達に任せて、俺達は安全かつ確実に輸送を行う事に集中しなければならない……そうだろう!?」
笹川 二佐はそう言うと、手に取ったコーヒーカップが空で有る事に気付き、目の前の机にそっと戻した。
既に国内での天然ガスの備蓄は底を付き、石油備蓄量すら後5カ月以内で枯渇すると試算されている以上、クイラ王国での石油試掘事業はこれまで以上に日本の命運が掛かっている。
やがて『おおすみ』での式典が終了すると、車両や物資を登載したLCACが発艦を始め、クイラ王国の海岸に向けて物資の輸送を開始する……海岸に集まって来た遊牧民達が見守る中、国家の命運を賭けたもう一つの大事業が始まったのだ。
……その後の試掘調査にて、クイラ王国東沿岸地帯の浅い地層に想定を超えた埋蔵量の石油が発見され、大規模な油田が開発される事となる。
そして今日、クイラ王国の荒野に建てられた油井から無数の赤い炎が吹き上がる……その炎は日本とクイラ王国の友情と繁栄の象徴として天高く燃え盛るので有った……。
中央歴1639年(西暦2015年) 5月8日 クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ 銀山羊騎士団拠点の屋敷の中庭
エジェイの街の中心部で在る広場から離れた貴族や豪商達が住まう富裕層街の一角……現在は銀山羊騎士団の拠点となっている屋敷の中庭にてクワ・トイネ公国の騎士達が続々と屋敷へと集まって来る姿が有った。
彼らは「決闘」が行われるとの話を聞き付け、季節の花々が咲き誇る屋敷の中庭に集まって来る……そして対戦相手が2人の男女で在る事に驚きつつも勝負が始まる時を今やと待ち侘びていた……。
「あ〜あ〜! やっぱ、やるなんて言わなきゃ良かったな〜!?」
中庭の中央にいる男こと日本国防衛駐在官の身分でエジェイに滞在している山内 三佐はそう呟きながらダルそうな様子で首の骨を鳴らし、同じく中庭の中央で彼と向かいながら剣を片手に持つ女騎士を見つめた……。
「ヤマウチ、貴様がこの決闘を受けた事を感謝しよう…… だが、ここで貴様から受けた屈辱を晴らさせて貰うぞっ!」
愛用の
何故、山内とトウミの2人が決闘を行う事態に成ったのか……? それは一昨日、屋敷での山内とオコシ団長との会食に
敵占領下のギムの街に潜入し、生存者との接触と連絡手段を確保した事の成功を祝い、会食に招かれた山内はオコシ団長と酒を酌み交わしながら談笑する中、彼から愚痴とも言える悩み事を聞く事となった。
それは、彼の姪でも在る女騎士のトウミが山内 三佐の一行と共にエジェイに帰還した後、彼女から提出された報告書を確認したオコシ団長が部屋を出て屋敷の外廊下を通り掛かった時の事で有った……中庭で治療師から治療を受けているトウミ配下の兵士が居る事を見つけ、労いの言葉を掛けようとしたら、彼等が話している内容が報告書と異なっている事に気付いた。
そこでトウミを呼び出し、この件に付いて問いただすと報告書を
更にこれ以上の屈辱に耐えられないからヤマウチへ『決闘』を申し込みたいと言い出しており、味方の駐在武官に対し女騎士が果たし合いを挑もうとする前代未聞の事態にオコシ団長は頭を痛めていると話してくれた……。
「軍規に沿えば彼女の任を解くべきなのだが……いや、本当は姪でも在るあの子を危険な戦地へ向かわせ無い為にそうしたいのだが、色々と事情が有ってな……。」
彼女は今回、病床の身で有る父親と幼い弟に代り女騎士として一家の代表として出征しており、それ故に家の名誉にこだわる事はまだ理解出来る……ただ面倒な事に
「それで私に決闘ですか……昔、我が国でも決闘を行う風習は有りましたが、まさかこの世界で挑まれる事になるとは……!?」
余りの事に山内は表情にこそ出さないが、思わず呆れてしまう……。
「余も援軍を送ってくれる味方の武官にその様な事で決闘を挑むとは何事! と戒めたのだが、あの子は『味方で有ればこそ我が家と騎士団の名誉は取り戻さねばならない!』と言い張って聞き耳を持たなくてな……。」
山内の考えを悟ったのかの様に、オコシ団長は口髭を擦りながらそう答える……どうやら彼女は以前、尻餅を付きながら剣を取られた所を多くの兵士と民衆に見られた事を『不名誉』と感じ『北の森』へと向かう山内達を執拗に追跡したのは、何とか不正を見つけ出し名誉挽回の機会を得る為だったと言う。
「成る程……ところでその『決闘』とはどう言うルールで行われるのでしょうか? まさか何方かが死ぬまで戦うとか、負けた側が処刑されたりとかでは……!?」
「いえ……ロウリア王国なら
オコシ団長曰く、クワ・トイネ公国では騎士や高名な戦士が己の名誉の維持又は挽回する為に審判を兼ねる立会い人の元、決闘が行われ戦闘不能か負傷した時点で試合を止めて両者の名誉は維持、又は回復したものと見なされるとの事らしい。
(因みにロウリア王国の『決闘』は負けた側が処刑されるとの事。)
オコシ団長の説明を聞いた後、山内は腕を組みながら少し考えるとこの様に切り出した。
「そう言う事なら、オコシ団長には世話になって居る以上、彼女との『決闘』を受けて立ちましょう!」
「なんとっ……宜しいのかヤマウチ殿!? 『決闘』には真剣を使う上に八百長は決して許されないのですぞっ!! それでも挑まれると言うのかっ!!!」
驚くオコシ団長に対し山内は笑みを浮かべながらこう答える。
「この『決闘』が彼女なりの妥協案ならば、受け入れるべきでしょう! それと女とは言えケンカを売りに来た以上、私としては言い値で買わざる得ません……そうそう、嫁入り前の娘を傷付け無い様に
山内はそう言いながら固く握りしめた拳をオコシ団長に見せ付けると……彼は「正気か!?」と呟きながら目を丸くした。
斯くして日本国防衛駐在官の山内 三等陸佐と銀山羊騎士団の女騎士トウミとの『決闘』が行われる事となり、その話はエジェイ駐在の他の騎士達にも伝えられた……そして当日を向かえ2人は屋敷の中庭にて相対する事となった。
「オホン……これより我れこと、カラグワ・デ・オコシと銀山羊騎士団を始めとする騎士達一同の立会いの元、ニホン国駐在武官、テツヤ・ヤマウチと銀山羊騎士団所属騎士、トウミ・デ・オコシの決闘を行う!」
「この勝負、『緑の神』と立会い人たるカラグワ・デ・オコシの名の下、何方かが負傷するか戦意を失うまで行う事とし、背を向けて逃走せぬ限り敗北してもその名誉は守られるものとする……しかしヤマウチ殿、そなたは本当に武器を持たなくて宜しいのか?」
立会い人を務めるオコシ団長は彼が本当に武器を何も手にしていない事を気にし、見学の騎士達からも驚きと
「オコシ団長、武器なんぞ手の延長にしか過ぎません……そもそもこの前、兜に大穴を空けた武器なんぞ使ったら、勝負にならないでしょう!?」
「くっ……言わせておけば、ヤマウチ! 素手で私に挑んだ事、後悔させてやる!!」
山内の挑発的とも言える言葉に対し、トウミは彼を睨みながらそう叫ぶと、手にしている剣を抜き鞘を放り投げる! するとそれに応じるかの様に山内も着ていた上着を脱ぎ捨て、服で隠れていた
「何とっ……鋼の様な凄まじき筋肉! まるで神話の勇者、キージの様だっ!?」
「それでは両者とも周囲は騎士達に囲まれている以上、逃げ場は無い事を理解されたな……では『緑の神』の名の下に、尋常に……勝負!!」
「でやゃゃっ!!!」
開始の合図と共にトウミは一気に間合い詰め、掛け声を上げながら山内に向かい剣を振り下ろす! それに対し山内は直立不動の姿勢のまま剣の軌道を見透かしたかの様に寸前で避け、勝負を見ている騎士達を驚かせる……。
「にゃーっ! あの女騎士さま、あんなに
「ヤマウチもあの体格であの
騎士達に混じって2人の勝負を見ているチチーナとヘラは山内が武器を持たずに戦っている事を心配し、腕を組みながら横で見ている田崎に尋ねる。
「んんっ……あぁ、大丈夫ですよ! あの人、素手で武器を持っている相手とやり合ったのは一度や二度どころの話では無いですから。」
「!?……やり合った??」
「ええ……正確には『
「にゃ!? 何それ、怖い……!」
田崎は山内の随行員になる前に特殊作戦群の隊長から聞いた前世界での山内の活躍を思い出す……隊長が知る限りでは過去に三度、素手で武器を持った相手と対峙しており、何れも『素手で相手を殴り殺した』と伝えられている。
それもただのチンピラ等では無く、公安外事課が要注意人物としていた北朝鮮の工作員、中国黒社会の名うての殺し屋……どれも常人ではとても敵わない相手を拳だけで倒したと言う嘘みたいな話だった……。
そんな凄い過去を持つ男が、彼の前で剣を手にした女騎士……それも予想以上に腕が立つ剣の使い手と目の前で闘っているのだ!
(こいつはそうそう拝めるもんじゃない! まったく……ワクワクが止まらねぇぜっ!!)
田崎はまるでバトル漫画に夢中な子供の様な気分で2人の対決を見続けるのであった……。
(くっ……体格差のせいで間合いを見誤ったか!? いや、この私が素手の男にプレッシャーを受けているのか……!?)
トウミは得意の連続斬りを難なく
(落ち着け、奴は武器を持っていない……だから近づかず此方の間合いで斬り込めば……。)
彼女はそう考えながら再度、山内に向かって剣を掲げジリジリと間合いへと詰め寄って行く。
(ふぅ……剣筋が素直だから見て避けれるが、此方の動きを読まれて斬り込まれるとヤバイぞ! しかも剣を取られるのを警戒してか、剣を引く際に刃の向きを変えてる上に、あんな細い剣じゃ
これまで直立の姿勢のままトウミの剣撃を避けて来た山内が空手や中国武術とも違う構えを取り始めた……それを見た田崎は驚きの余り声を上げる!
「あれは
田崎がそう言った瞬間、山内が「ダンッ!!」と中庭に響く大きな踏み込みの音と共に一気に間合いを詰め寄る! トウミはそれに反応しカウンターの突きを素早く振るうが、目の前に居た山内が視界から消えた瞬間、彼女は下から突き上げられる様な衝撃を受け宙へと飛ばされる。
「なっ……いったい何が起こった!?」
「一瞬でトウミ殿が吹き飛んだぞ!」
対決を見ていた騎士達にどよめきが起きる……山内は大きく真っ直ぐに踏み込んだ後、トウミの剣の突きを地を
190cmを超える大男の強烈な体当たりを受けたトウミは5m以上飛ばされ地面に叩き付けられた!!
(がはっ! 何だ……今の馬に跳ねられた様な衝撃はっ……くっ……た…立ち上がらないと……。)
トウミは身体全体に痺れる様な痛みを感じながらも何とか立ち上がる……すると目の前には仁王立ちの山内が待ち構えており、その鬼神を思わせる表情から彼が「まだ戦えるだろう……かかってこい!」と語っているかの様に見えた……。
「くっ……そうだ、私はまだ戦えるぞっ!!」
トウミは力が入らない右手に「意地と気合」だけで剣を握らせ、足の震えを抑えながら再び構えを取る……。
「いややゃっ!!」
彼女は残された気力を振り絞りながら山内に向かって剣を振る! しかし、踏み込みに力が入らない剣撃となってしまい、あっさりと躱されてしまう……そして自らの間合いに踏み込んだ山内はトウミの腹部にそっと左手を添え、もう片方の右手の手のひらで自らの左手の甲を強く叩いた!
「ぐはぁっ!!」
古武術の打撃技『
「そこまでっ、勝負あり!……勝者ヤマウチ!!」
「おおおおぉぉぉっっつ!!!」
オコシ団長の掛け声と共に中庭が騎士達のどよめきと興奮で包まれる。
「あのトウミを素手で一方的に倒すとは……何と言う強さだ!」
「あんなに強いのならば、ロウリア騎兵を倒したと言う噂はやはり本当なのか!?」
騎士達が様々な言葉を口にするなか、山内はオコシ団長に一礼した後、投げ捨てた上着を拾いながら倒れたトウミの元へ歩いて行く……するとトウミの配下で在る少年の従士が彼より早く彼女の元へと駆け寄って来た。
「トウミ様!!」
「私なら大丈夫……ぐっ!!!!」
トウミは気丈に振る舞い自ら起きようとするも、痛みに耐えかね膝を着いてへたり込んでしまう……山内が放った「鎧通し」は肉体では無く体内の神経を
(ほう……あの技を喰らってまだ動けるとは、たいした女だ!? しかし、部下達にはかなり慕われている様だな……。)
トウミの周りには最初に駆け寄って来た少年従士の他に兵士達が集まって来ており、皆が起き上がれない彼女を心配しながら見つめている……だが少年従士も含め、集まって来た兵士達は皆『北の森』のレントから受けた痣や傷跡が有る事に山内は目を細める……。
「ヤマウチ……そなたを
トウミが力無く言う言葉に対し、山内はこう答える……。
「お互いの意地を張り合って最後までやり合ったんだ、もう恥じる事は無いだろ……。」
脱いでいた上着を着直した山内はそう言いながら、トウミに手を差し出す……彼女はおずおずとその手を掴むと少年従士に支えられながらも立ち上がる……。
「……だが、一言だけ言わせて貰う! アンタはお貴族様だから『名誉や誇り』と言ったモノに拘るのは理解出来る……それでも名誉に
山内の言葉にトウミは傷だらけの部下達を見ると
「いいのです……トウミ様」
その言葉を聞いた山内は僅かに微笑みその場を立ち去ろうとするが、オコシ団長に呼び止められる。
「ヤマウチ殿、宣言通り素手でトウミを打ち負かすとは……その技量に皆、感服しましたぞ!」
「有り難う御座います……しかし、成り行き任せで『決闘』を行なった事は本当に良かったのか、今頃になって悩んでいますよ……。」
「トウミがやりたかった事を受けてくれたのだ……後は何とでもなる、それに余が彼女に言わねば成らぬ事を
オコシ団長はそう言いながら山内に右手を差し出し、2人は握手を交わす……。
すると山内の勝利を祝すべくクワ・トイネの騎士達が次々と拍手を始める……日本の自衛隊員とクワ・トイネ騎士が決闘を行なったこの出来事は日本では秘匿とされたが、クワ・トイネ公国では「騎士の物語」として永く語り継がれる事となった……。
続く
いきなりの決闘回となりましたが、意外と書いていて楽しかったりするんだな……。
次回は遂に本編での主人公的スタンスなイケおじのあの方が登場します。
用語
手力流吽形の構え
手力陽流活人拳に置いて数少ない構えの一つで有り、仁王像の吽形を思わせる構えを取る事で知られており、攻撃に徹する「阿形の構え」に対し「吽形の構え」は相手の攻撃を誘いカウンターを狙う事に重きを置いている。
一説では手力陽流活人拳の対となる暗殺拳、手力陰流殺人拳の「修羅の形」「羅刹の形」に対抗する為の構えで有ると言われているが真意は不明で有る。
明民書房 「日本古武術大全」より抜粋 ―