日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く   作:アニキ イン ザ スペース

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第三十話 名誉無き戦場

中央歴1639年(西暦2015年) 5月21日 クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ上空

 

 

「ねぇ、お兄ちゃん見て! 私たち空を飛んでいる!!」

 

まだら模様の緑の服を着た『太陽神の使者』のおじさんの案内で『空飛ぶ船』に乗り込んだパルンは、妹のアーシャの言葉に丸い小さな窓から外を覗き込むと、地上の木々が遠ざかって小さくなっていく光景を見て思わず声を上げる……。

 

「本当だ……僕達、空を飛んでいる……。」

 

国境近くの集落からロウリア軍から逃れるべくエルフの住民達と共にエジェイへと向かっていたパルンとアーシャの兄妹は道中、ロウリア軍の騎兵部隊に見つかり追撃を受けるも、突如空より現れた陸上自衛隊の第4対戦車ヘリコプター部隊と第1輸送ヘリコプター部隊により窮地(きゅうち)を救われ保護される事となった。

パルン達を乗せたCH―47JA輸送ヘリコプターは高度を上げながら東へと進路を取り始める……。

 

「お兄ちゃん、あれ……私たちを助けてくれた『空飛ぶ船』だよ!」

 

アーシャが眺めていた窓の向こうにはロウリア騎兵の部隊を文字通り吹き飛ばし壊滅させた、AH―1S攻撃ヘリコプターの飛ぶ姿が見え、アーシャとパルンが手を振ると前部座席のガンナーがそれに気が付き手を振り返してきた……。

 

「なんだろう……船と言うよりトンボを大きくした見たいだ……。」

 

パルンはローターを回転させ、前に傾きながら飛行するAH―1Sヘリコプターの姿を見ながらそう言葉を洩らす……。

 

やがてパルン達を乗せたヘリコプターの編隊は彼等の目的地で在るエジェイの街の上空へと差し掛かり、2人は食い入る様に小窓から城壁で覆われた重厚な街並みを見下ろす……初めて見る街の大きさに目を奪われていると、同じ様に窓から外を見ていた住民の1人が地上に何かを見つけ大声を上げる。

 

「砦だ! 向こうにも砦が見えるぞっ!!」

 

その言葉を聞くやパルンとアーシャは我を争うかの様に小窓に張り付きながらエジェイの東側を見渡す……2人が見つめる先には白い城壁で幾何学模様的(きかがくもようてき)(かこ)ったエジェイの街と同じ程の巨大な砦の姿が在った。

 

「アーシャ、見ろ! 地上に『空飛ぶ船』がたくさん列んでいる……あれは『太陽神の使い』の砦だっ!!」

 

パルンは砦に駐機しているヘリコプターの一群を見てそう叫ぶと、エルフの住民達は恐る恐るヘリの小窓を(のぞ)きながら声を上げる……2人を乗せたCHー47JAは少しづつ高度を下げると舗装された滑走路へと着陸し、機体後部の昇降ハッチが開き始めた……。

 

 

「エジェイ駐屯地へ到着しました……皆さんをエジェイの街へ送迎するバスの準備は出来ていますので、私に付いて来て下さい!」

 

エルフの住民達は輸送ヘリコプターから降り、自衛官達の案内で停車しているバスの方へと歩いて行く……。

同じ様に輸送ヘリから降りたパルンは、黒い小石を固めた様な地面の硬さに驚きながら周囲を見渡していると『太陽神の使者』と同じまだら模様の緑の服を着た若い女性がパルンの耳に付けたままだった耳栓を取り外してパルンに手渡した……。

 

「これはもう外していいわよ、はいっ!」

 

パルンは女性が『太陽神の使者』と同じ服を着ている事に驚くも、(りん)とした表情の異国の女性の姿を見て顔を赤らめてしまう……。

 

(このお姉さんもあのおじさんと同じ『太陽神の使者』なのかな……!?)

 

パルンがその様に思っていると、機内からエルフの老婆を背負った背の高い女性がアーシャの手を握りながら降りて来るのが見えた……。

 

『有坂 二士、そのおばあちゃんは!?』

 

凛とした表情の女性自衛官こと、(うてな) 志保(しほ) 一士の言葉には老婆を背負っていた有坂(ありさか) 樹里(じゅり) 二士では無く、彼女と手を(つな)いでいたアーシャが答える……。

 

「あのぅ……このおばあちゃん『空飛ぶ船』の窓から外を眺めたら『本当に空を飛んでいる』事に驚いて、腰を抜かしてしまったんですぅ!……私じゃ無理だから、お姉さんにおばあちゃんをおぶってもらって……。」

 

アーシャは申し訳なさそうに話すと、背の高い女性自衛官こと有坂 二士が言葉を返す。

 

「初めてヘリコプターに乗って空を飛んだんだ、そりゃ驚かない訳がないよ……それにそこにいるお姉さんだって今でも高い所を怖がって、乗りたがらないぐらいだしねぇ〜!」

 

「ちょ…ちょっと、有坂 !!」

 

有坂 二士の言葉に凛としていた台 一士が急に慌て出すのを見てアーシャはクスリと笑い始める。

 

そんな3人を見て一緒に笑っていたパルンだったが、何処からか羽虫のような鈍い音が聞こえて来る事に気付き空を見上げる……すると北の空に巨大な翼を持つ何かが此方に向かって飛んで来ている事に気付いた。

 

「えっ……何アレ! だんだんこっちに近づいて……ねぇ、お姉さん! アレは!?」

 

パルンが見つめる先には物資を満載した航空自衛隊のCー130H輸送機が高度を下げながら近づいて来るのが見え、完成したばかりのエジェイの仮設滑走路へと着陸を行おうとしていた……パルンとアーシャ、そしてエルフの住民達は土煙を上げながら着陸するCー130Hの姿を見てただ呆然と立ち尽くしてしまう……。

 

「デカイ……アレも『空飛ぶ船』なのか!?」

 

「私達が乗っていた船も大きいのにそれより大きいなんて……。」

 

「驚いたでしょう! あれは「輸送機」と言って、私達の国から海を飛び越えてここまで飛んで来たのよ……。」

 

台 一士の説明も、低い音を響かせながらタキシングする巨大なCー130Hを前に圧倒されたパルン達には届かなかった……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 7月25日 クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ

 

 

間も無く満月を迎えようとする2つの青い月が夜空に浮かぶ中、草原の西から無数の篝火(かがりび)がエジェイの城壁へと近付いて行く……今日も松明を手にしたロウリア王国軍の一団が示威行動(しいこうどう)を取るべく来た事に警戒中のクワ・トイネ兵士が舌打ちをする。

 

「クソッ! 今日も時間通りに来やがった……。」

 

「だからって、弓を射るんじゃね〜ぞ! アイツらこっちの矢が届かないギリギリの位置でこっちを挑発してやがるからな!!」

 

城壁の兵士が不貞腐(ふてくさ)れなから見下ろす中、ロウリア兵達は大声を上げながら太鼓を叩き、剣を盾に叩きつけ騒音を鳴らし続ける……。

 

「畜生! アイツらこっちが手を出さないからって、いい気になりやがって!!」

 

「住民からうるさいから何とかしてくれって、苦情が来てたぞ!」

 

「あぁ……それでも『コッチから絶対に手を出すな!』が、上からの命令だ! まったく何時までこんな事が続くんだ……。」

 

侵攻してきた二万のロウリア軍に対し現地の指揮官で在るノウ将軍はエジェイの守備隊に対し、迎撃は行わず籠城(ろうじょう)する様に指示を行なったが、周辺の村々から徴兵されたクワ・トイネの兵士達は、日夜続くロウリア軍の挑発と近々10万を超える敵の主力がエジェイに現れると言う噂に、日を追う事にその士気が下がっていた……。

 

 

「今日もロウリア兵共が城壁前で騒いでおります……敵ながらああも馬鹿騒ぎが出来るとは(うらや)ましい限りですな……。」

 

エジェイの草原を一望できる城塞の作戦室からロウリア軍が灯す篝火の炎を見ながら、銀山羊騎士団のオコシ団長は対談相手で在るクワ・トイネ公国西部方面軍司令官で在るノウ将軍に対し話を続ける……。

 

「斥候の報告では我々が破壊してきた集落の井戸は既に修復されて使われているとの事です……諸部族連合だけで攻めて来た時代なら兎も角、ロウリア軍にギムの街を兵站拠点として使われている以上、このまま10万とも言われる敵の主力と合流されエジェイが完全包囲されれば、住民を巻き込んでの兵糧攻(ひょうろうぜ)めを受ける事になりましょう……。」 

 

「う……うむぅ……。」

 

オコシ団長の忌憚無(きたんな)き言葉にノウ将軍は顔を歪めながら唸る様な声で頷くしか無かった……2万に及ぶ兵力のロウリア王国諸部族連合軍がエジェイの草原に現れた時、「小規模の騎兵で良いから敵の後方を撹乱(かくらん)すべく撃って出るべし!」とのオコシ団長の意見具申を尽く却下した事で、敵に補給線の確保を許すだけで無く、籠城を徹底させた事で兵達の士気が下がり不満を言う様になって来た……このままでは敵の主力が来る頃には満足に戦え無くなると言う不安をノウ将軍は内心抱き始めていた……。

 

「そう遠くない時期に事態は決するでしょう……その時、籠城戦となれば、我ら銀山羊騎士団も馬を降りて戦う所存で有ります……では!」

 

そう捨て台詞を残し、オコシ団長は作戦室から退出する……護衛の部下と共に魔法を使った街灯に照らされた夜の街を抜け拠点で在る屋敷へと到着すると、そこには彼の帰りを待っていた2人の男の姿が在った……。

1人はエジェイの駐在防衛官で在る山内 三佐、そしてもう1人は緑の斑模様の服を着用する白髪混じりの頭をした男性で在った……オコシ団長はその男性の姿を見るや、右手を胸に当て恭しく礼をする……。

 

「これはオオウチダ将軍……夜半にも関わらず此方に来られるとは……!」

 

オコシ団長の礼に挙手の敬礼で答えるこの男性は、陸上自衛隊クワ・トイネ派遣部隊のトップで在り、その中核となる第7師団の師団長でも在る大内田(おおうちだ) 和樹(かずき) 陸将 その人で在った……。

 

「いえ、我々もオコシ団長に嫌われ役を演じさせる様な事をさせて申し訳無い……それよりノウ将軍との対談はどうでしたか!?」

 

大内田 陸将はオコシ団長に頭を下げながら、ノウ将軍との対談の成果を問うと、オコシ団長はしたり顔で答える。

 

「はい、対談ではノウ将軍はヤマウチ殿の予想通り兵達の士気の低下を大変気にしており、このままでは戦闘の支障となる事を意識してますが、彼や側近らの言動から見てこれと言った対策は持っていない様ですな……余の発言にも何の異議も唱えなかった事から、内心かなり参っていると思いますぞ!」

 

オコシ団長の報告に山内 三佐と大内田 陸将は互いに顔を見合わせ頷く……。

 

いくら助けに来たとは言え勝手に領内で行動を取るのはクワ・トイネ公国から不評を買ってしまう為、大内田 陸将は、現地の指揮官から行動の同意を得ようとしていたが、エジェイ防衛の指揮官で在るノウ将軍はその性格から此方の直談判(じかだんぱん)には応じないと判断し悩んでいた……。

 

その時、エジェイの防衛駐在武官で在る 山内 三佐より『周囲の味方から状況が不利で有る事を語らせる事でノウ将軍を追い込んで、彼に自衛隊の活動を同意させる』との案が提案され、協力者として銀山羊騎士団のオコシ団長を紹介された……。

 

彼に事情を話すと以前からノウ将軍の指揮に不満を持っていたオコシ団長はその案を心良く受け入れ、他にも協力者を募ってノウ将軍に自衛隊に協力を仰ぐ様にさせるべく、対談を通して彼の心象を変えようとしていた。

 

「ノウ将軍は自ら構築したエジェイの防護を過信し過ぎて、戦争で何が起こるのかを見落としていた事は本人も認めています……しかし、彼は未だエジェイの守りに自信を持っている以上、ニホンの部隊がタイダル平野の砦から出る事をまだ容認しないでしょう!」

 

オコシ将軍はノウ将軍の頑迷固陋(がんめいころう)ぶりを知る以上、彼がこの程度の事で態度を変え無い事を大内田 陸将に伝えるも、彼からは以外な答えが返って来た……。

 

「解りました……ならば明日基地から出る事無く『後方支援』を行う旨をノウ将軍に打診します! 了承が取れ次第、直ちに『後方支援』をロウリア軍……武装組織に対して実施致します。」

 

「何と! 砦から出る事無く、後方……支援ですか!?」

 

大内田 陸将の言葉にオコシ団長は思わず首を傾げる……そもそも『後方支援』とはいったい何を行うのか、まったく分からぬまま明日を向かえるので有った……。

 

 

翌日 正午前 クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ

 

 

その日の午前、今後の在り方に付いて有力な騎士達を集め会議を行っていたオコシ団長の元に伝令の従士が駆け込んで来た。

 

「会議中、失礼します……オコシ団長、ニホン国駐在武官のヤマウチ殿より、ノウ将軍から『後方支援』の許可が降りた為、これより実施する! との言伝(ことづて)が有りました。」

 

「!?……何とっ! ヤマウチ殿は今、何処に居られるかっ!!」

 

オコシ団長は会議を中断して屋敷の玄関を出ると、何時もの茶色の服では無くニホンの兵士達が着ている緑の斑模様の服を着たヤマウチと従者のタザキの2人が彼が来るのを待っていた……。

 

「お早う御座います、オコシ団長……司令部からノウ将軍より『後方支援』の了承を得たとの報告が有りました! これより我々自衛隊はエジェイ防衛の為『後方支援』を実施します。」

 

オコシ団長は山内達の服装が何時もと違う事に加え、昨日話した事が今から実施される事に驚きを感じた……。

 

「ヤマウチ殿、その『後方支援』とやらが何かは解らぬが、我々もそれを見る事が出来るのか!?」

 

「西門の城壁ならば問題無く見れます……既に我々の観測員が現地入りしていますので、今から向かいましょう!」

 

山内の言葉にオコシ団長と副団長のフミスキに騎士団専属の魔術師、そしてトウミと会議に参加していた騎士達が彼と共に西門の城壁へと向かって行く……。

 

「ねぇ、タザキ! 『コウホウシエン』って何をするのかニャ……!?」

 

いつの間にか冒険者のヘラとチチーナが一緒に付いて来ている事に田崎は驚きつつも、チチーナの質問に答える。

 

「自分達の基地からロウリアの陣地に『砲撃』を行ない(げき)た……エジェイを防衛します……と言えば良いでしょうか!?」

 

「『ホウゲキ!?』……何だかよく分からないけど、オモシロそうだにゃ〜っ!!」

 

「いぇ……決して面白いモノでは有りません、それよりも凄く大きな音がしますから注意して下さい!」

 

「にゃっ?」

 

チチーナは田崎が言った言葉の意味が分からずに首を傾げるが、エルフの感性で彼の言葉に哀れみと悲しみが入り混じった感情を感じ取ったヘラは「何か想像し得ない事が起こるのでは!?」と不安を感じるので有った……。

 

山内達一行は早足でエジェイの西門前へと到着し、息を切らしながら階段を登り終えると城壁の屋上には不安そうな表情で外を見張るクワ・トイネ兵士達と観測機器を設置し終えた陸上自衛隊の観測員達の姿が在った。

 

「俺は外務省付き駐在防衛官の山内 三佐だ! ここの責任者は誰かっ!?」

 

「はっ! 自分こと片桐 三尉がここの責任者で有ります!」

 

山内の声に1人の自衛隊員が挙手の敬礼をしながら応えると、周りの自衛隊員も次々と敬礼を行う。

 

「観測任務ご苦労、任務を続けてくれ!……片桐 三尉、状況はどうなっている!?」

 

「先程、武装集団に警告を促すビラを散布したヘリが帰還した所です! 見ての通り武装集団は撤退する事無く、陣形を組み始め、城壁から2キロほどの位置を陣取っています!」

 

「ちょっと待ってくれ『警告した』って事は、相手に今から攻撃すると伝えたと言うのか!?」

 

2人の話を聞いていた副団長のフミスキが間に割って入る、彼は奇襲と言う攻撃側の優位性を自ら捨て去っている事に疑問を感じ、つい口を挟んでしまう。

 

「副団長、我々は武装勢力と交戦する際『事前に降伏か撤退する』通達を行う様、日本政府から指示されています! もっとも今更、陣形を組んで身構えても無駄なんですが……。」

 

山内の含みを持たせた様な言葉にフミスキ副団長は(いぶか)しがるも、彼は有る事を思い出す……そう言えばロデニウス沖海戦でもニホンは圧倒的な数の不利に関わらずロウリアに対し撤退する様に事前に通達していた……そして、その結果はどうなったのかを……。

 

「MLRS、初弾発射! 弾着まで……」

 

無線機を手にしていた観測員の言葉の後、チチーナの耳が何か捕らえたかの様にぴくぴくと動いた……彼女が東の空を見上げると、雲一つ無い青空に白い線の様なモノが何本も立ち昇る姿が見えた……。

 

「ねぇ、タザキ……アレは……!?」

 

「チチーナさん、耳を塞いだまま、そのままでいて下さい……皆さん! この後、非常に大きな音がしますので耳を塞いで下さい!!」

 

田崎の言葉にチチーナとヘラは言う通り耳を塞ぐが、クワ・トイネの兵士と銀山羊騎士団の騎士達は言葉の意図が理解出来ず、耳を塞ぐ者はいなかった……。

 

「だんちゃーく、いまっ!!」

 

観測員の合図の後、陣形を組んでいるロウリア軍を見ていたクワ・トイネの兵士と騎士達は、敵軍の上空で何かが割れたかと思った瞬間、無数の爆発が地上に炸裂しロウリア兵を包み込む光景を目の当たりにする……その後、何が起こったのか理解出来ていない彼らに腹の底から響く様な凄まじい衝撃音が襲い掛かった!

 

バババババババババババババババン!!!!

 

「うああぁぁっ!!」

 

「きゃぁっ!!!」

 

「な……何が起こった!?」

 

ロウリア軍の陣形を飲み込んだ爆発は幾度と続き、その衝撃はエジェイの頑強な城壁をも揺るがすかの様に思えた! その凄まじさにクワ・トイネの兵士と騎士達は耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込んでしまう!

 

「こ……これは、いったい!?」

 

「にやぁぁぁっ……ナニ……コレ!!」

 

田崎の言う通り耳を塞いでいたヘラとチチーナだったが、余りの事態に呆然と立ち尽くしてしまう……その様な中、山内と田崎、そして自衛隊の観測班は衝撃に動じる事も無く爆煙が漂う草原を見つめていた……。

 

「おいおいおいおい……コイツはクラスター弾じゃねぇか! まったく、ウチの大将はエグい事してくれるなぁ!!」

 

「総火演で使えない在庫処分って、この事だったんですね……。」

 

山内と田崎は地獄絵図と化している草原を見つめながらそう口にする……。

 

エジェイ駐屯地にて待機していたMLRSから発射されたM26ロケット弾は、M77対人対装甲用子弾を644発登載するいわゆるクラスター弾で有り、不発弾が多発し危険だと言う事で、2009年に締結したクラスター弾の使用を禁止する『クラスター弾に関する条約』にて処分される予定だったが、様々な理由で今日(こんにち)まで弾薬庫に保管されていた。

 

その後の日本の異世界転移に伴い、地球で締結していたクラスター弾禁止条約は無効になったと判断した防衛省幹部により、クワ・トイネ派遣部隊で有る第7師団と共にエジェイ駐屯地へと送られて使用される事となった……もっとも、この危険過ぎる弾薬が使用されるもう一つの理由に砲弾の数が不足しており、全国の部隊から掻き集めても、クワ・トイネに派遣される部隊への砲弾不足が懸念されていたと言う理由も有った。

 

「自走砲、初弾発射! 間も無く着弾……だんちゃーく、いまっ!!」

 

今度は99式155mm自走砲から発射された砲弾がロウリア軍の本陣に着弾し、諸部族連合軍陣地に有るあらゆる物を炎と爆風で吹き飛ばす! 

城壁の観測員が効力射を要請すると、砲弾が鉄の雨の如く無慈悲に降り注ぎ、地上に残された物……そして僅かな命すら全てを破壊尽くし消滅させた……。

 

「……何だ、いったいコレは……何だと言うのだ!?」

 

トウミは目の前で起こっている、地上の地獄とも言える光景を見て肩を震わせながら叫んだ!

 

幼い頃、祖父にせがんで聞かせて貰った(いくさ)の話、幾度と読み返した戦闘教本、そして自らの青春その物と言える剣術への鍛錬……今ここで起こっている事はそれら全てを嘲笑い、否定しているかの様に思えた彼女は怒りの余り、隣に居た山内の胸ぐらを掴みこう叫んだ!

 

「何だコレは!? こんなのが……こんなのが、貴様らの戦争だと言うのかっ!!!!!」

 

トウミに胸ぐらを掴まれるも、山内は動じる事無く彼女に面と向かって答える……。

 

「そうだ! 破壊と殺戮を究めた俺達は目の前に居る数万の兵士を破壊する力を手にし、命令一つで街に居る女子供にすらその力を向ける事にも躊躇はしない……これが俺達の戦争だ……。」

 

その言葉を聞いたトウミは涙をポロポロと流しながら山内に平手打ちをする! 彼女の平手打ちを躱す事無く受け止めた山内は静かに目を伏せる……。

 

(俺達は彼女が(いだ)いていた……そして、この異世界に残っていたで有ろう戦争の栄誉(えいが)や誇り、そして憧れや浪漫(ろまん)すらこの戦いで奪い取ってしまったのか……。)

 

そう思いながら彼が再び目を開くと、爆煙が晴れたエジェイの草原には幾万もの骸が無惨に横たわる地獄の様な光景が広がっていた……。

 

屍と共に地面に転がる無数の折れた剣、引き裂かれ僅かな断片となりながらも風に靡く軍旗……それらは戦場の夢の終演を静かに物語っていた……。

 

続く

 




「戦争からきらめきと魔術的な美がついに奪い取られてしまった。 アレキサンダーや、シーザーや、ナポレオンが兵士達と共に危険を分かち合い、馬で戦場を駆け巡り、帝国の運命を決する……そんなことはもう、なくなった。」

サー・ウィンストン・チャーチル 著「世界の危機」より一部引用

イギリスの歴史的宰相、サー・ウィンストン・チャーチルは数々の新兵器と長引く戦争で夥しい死者を出した『第一次世界大戦』を、現代の戦争が殺戮システムに成り果てた事に警鐘し、戦争から心躍らせるモノは失われたと、その著書に記述しました……。

「剣と魔法」の世界に置ける(物語の舞台で在る、第三文明圏での)戦場とは『降り注ぐ矢と魔法の中、敵兵の槍を躱し本陣へと肉薄し敵将と相見える……。』と言った感じ(それでもワイバーンやリントヴルム等、とんでもないのが存在しますが……)で、夢や浪漫が感じられる世界かと思われますが、その様な世界に現代戦の大量破壊システムが持ち込まれたらどうなるのか……。
『日本国召喚』本編でもその悲惨過ぎる結末は幾度と畫かれていますが、今回は味方サイドの視点で書いてみました。

最初はタダの『くっころ女騎士』として登場させただけのトウミさんがこの様な演出をするキャラになるとは思いもよりませんでした……(当初は決闘に負けた際、罰ゲームとしてエジェイの道具屋で展示されていた「ビキニアーマー」を着せられる予定でしたが、話の進め方に無理が有ったのでボツとなりました。)

この物語も予定の残り三話では完結がつかなくなりましたが、次回はギム奪還作戦前に特殊作戦群により行われた「もう一つの戦い」の話となります。
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