日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く   作:アニキ イン ザ スペース

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第三十二話 ギム住民救出作戦【後編】

中央歴1639年(西暦2015年) 7月27日 午前09時06分 ロウリア王国 ギムの街から36キロ離れたビールズへと続く街道

 

 

乾いた大地と赤い岩山が連なる荒涼とした大地……ここが嘗て『緑の神』の加護を受けた豊かな土地で在った事を今や知る者はいない……永き渡る戦乱により亜種族を迫害する思想がこの地に根付き、その加護を拝受(はいじゅ)するエルフ達は東の地へと去って行った……こうして加護を失ったロウリアの大地は赤茶けた荒野へと変貌(へんぼう)したのだ……。

 

荒れ果てた土地と化したロウリアの街道を馬車の隊列が西へと向かって走って行く……『人狩りジョコ』率いる160名の黒鎖騎士団は拉致したギムの市民600人を連れ、土埃を舞い上げながらロウリア王国の街ビーズルへと向かっていた。

 

「ふぅ……何とか怪しまれずにギムの街を出る事が出来たな、ここまでくればもう大丈夫だろう!」

 

ジョコはギムの街から何も怪しまれずに出れた事を屋根付きの豪勢(ごうせい)な馬車の中で安堵の息を漏らしながらそう呟く……だが彼の心は決して晴れる事は無かった、自らの後継者と目し遠征に同行させた息子のエストバンが非業の戦死を遂げてしまったからだ……息子の遺体を発見した偵察隊の話では遺体にはロウリア軍で使用されてる模様と同じ矢が刺さっていたが、恐らく味方に偽装したクワ・トイネの部隊に騙し討ちを食らったのだろうと話していた……。

 

問題はこれだけでは無い……当初、捕らえたギム市民を搬送する為に準備して来た牢馬車を国王の命により簒奪(さんだつ)した食料を輸送する為に徴用され、王都との往来(おうらい)で傷んでしまった馬車の修繕費を自前で払わなければならなかった為に手持ちの軍資金が尽きかけていた。

 

「エストバンが死んでしまうとは……まぁ、世継ぎの変わりはまだいるから何とでもなる、それよりも早く王都で奴隷を売らないとこのままでは大赤字だっ! えーっと、連れて来た成人の数が………。」

 

ジョコは亡くなった息子のエストバンの事はさほど気に掛けず奴隷の売却益を算段しようとすると、前方から「パンパンパンパン」と言う音が聞こえ馬車が急に止まりだした。

 

「ぐあっ!」

 

馬車が急に止まった勢いでジョコは身体を馬車に打ちつけると、怒りながら馬車の窓から顔を出した。

 

「馬鹿野郎、急に止まるんじゃねぇ!!」

 

ジョコは馬車を引いている御者に向かって怒鳴り散らすが、御者は何が起こっているのか解らずに戸惑っている……すると前方から部下の騎兵が慌てて駆け込んで来た。

 

「親分、敵襲だっ! 道端に赤茶けた服を着た奴等が現れたと思ったら、前を走っていた連中が急にバタバタ倒れやがっ……ぐあっ!!」

 

「パンパンッ!」と言う破裂した様な音と共に状況を伝えに来た騎兵が馬から倒れ落ちる……街道の両脇から現れた特戦群の隊員達は手にした銃でジョコの手下達を的確に撃ち抜き始める!

 

「なっ……!?」

 

唖然とするジョコの前で手綱を引いていた御者も崩れ落ち、馬車に銃撃を受けたジョコは本能的に馬車に身を隠した。

 

「ひいいっ! いったい何が……何が起こっているんだっ!!」

 

外では破裂する様な大きな音が幾度となく響き時折、部下の叫び声も聞こえて来る……ジョコは震えながら馬車の中で引きこもっていると、窓から何かが馬車の中に投げ込まれ彼の足元に落ちて来た。

 

「えっ……!?」

 

次の瞬間、投げ込まれた閃光手榴弾(せんこうしゅりゅうだん)が凄まじい光と轟音を放ちながら炸裂し、ジョコの視力と聴力を奪ってしまう……そして馬車の扉が開くと彼は凄い力で外へと()()り出されてしまった。

 

「トムキャットよりキングジョーへ! ハゲもといジョコを発見した、繰り返す、ジョコを発見した!!」

 

赤茶色の偽装服を着た田崎 三曹がジョコを押さえつけたまま、キングジョーこと次郎丸 一佐へ報告を行なう。

 

「キングジョーよりトムキャット、良くやった! 直ちに拘束しろ!!」

 

「トムキャット了解……あっ、逃げるなこのハゲ!!」

 

田崎は()いずりながら逃げようとするジョコの後頭部を踏み付けると、持っていた拘束用(こうそくよう)のタイラップで素早く両腕を締め付けた! 他の隊員達は銃を構えたまま、周囲の探索を続けていく……。

 

「クリア! クリア!!」

 

「こちらもクリア! 敵影無し……制圧完了!!」

 

分隊長の報告を聞いた次郎丸 一佐は市民の救出とジョコの確保をエジェイ駐屯地へ報告する様、通信士に伝えるとバッグからメガホンを取り出し、牢馬車に捕らわれたギム市民に向かって話かける。

 

「……私達はクワ・トイネ政府の依頼で貴方がたの救出に来ました、日本国の陸上自衛隊です! これから全員をエジェイの街へ送る為、安全な場所に移動します……不自由をおかけしますが、もう少しだけ馬車に居てもらう様お願いします……。」

 

次郎丸 一佐の言葉に牢馬車のギム市民達は互いに顔を見合わせてしまう……いくら助けに来たと言われても赤茶けた服のおよそ戦士らしからぬ姿で有りながら、奇妙な杖で爆音と共にジョコの私兵達を次々と倒してしまう一団で在る、そんな凄まじい力を持っていながら自分達にはやたらと親切に話し掛ける事に人々は戸惑いを感じずにいられなかった中、1人の男が次郎丸 一佐に話し掛けてきた。

 

「ニホン国! まさか……ニホン国の人なのかっ!?」

 

「おぃ、アイツ等を知っているのか!?」

 

服はボロボロだったが、商人らしい身なりの男の言葉に周りの人々が耳を傾ける……。

 

「あぁ……以前、公都に行った時に彼等が開いていた物産展を見に行った事が有る……魔法を使わずに熱い水を出す壺や太陽の様な光を発する燭台(しょくだい)……それに馬がいないのに早く走る荷車とか、信じられない物が色々展示されていたんだ! 成る程……ニホン国と言われれば今、起こった事も納得出来る……。」

 

「なぁ……だったら、彼等を信じて良いのか!?」

 

もう1人の男の言葉に人々は黙り込んでしまう……だが、ここから逃げ出すにも彼等の助けが無ければ、牢馬車から出る事すら出来無い以上、彼らを信じるしか無かった。

 

「余り時間が有りません! 安全な場所に移動する為、直ぐにココを出ます!!」

 

次郎丸 一佐はメガホンでそう伝えると、部下の隊員達へ移動の指示を出す……特戦群の隊員達は牢馬車に破損が無い事を確認すると御者席に乗り込み、馬の手綱を手に取った。

 

「よっと……!」

 

田崎 三曹は他の隊員達と一緒に拘束したジョコを馬車の中に放り込むと、御者席で事切れている御者を押し除け、手綱を手に取る。

 

「はぃやっ!」

 

彼がそう言いながら手綱を振ると、馬達が動き出し馬車を引き始める……馬車の中では手足を拘束され猿轡(さるぐつわ)をしたジョコがうめき声を上げながら藻掻(もが)いていた。

 

「このハゲ、大人しくしてろ!!」

 

隊員の1人がジョコの禿げた頭を叩くと「ペチッ!」と言う音が馬車に鳴り響く……特殊作戦群の隊員とギム市民、そしてジョコを乗せた31両の馬車の隊列は街道を外れ、回収地点で在る北の荒野へと向かって行った……。

 

 

同日・午前10時37分 ロウリア王国 街道から北へ6キロ離れた荒野

 

 

馬車の車列は岩山が切り広がった分水嶺(ぶんすいれい)を思わせる傾斜地をゆっくりとした歩みで登って行く……手綱を手にしている隊員達は途中で馬達がへばらないか心配していたが、全ての馬車が脱落する事無く無事に頂上へと辿り着いた。

 

「回収地点が見えたぞ……後は坂を下るだけだ、急ぐぞ!」

 

その様に言う次郎丸 一佐の眼下には、広く開けた土地と陸標代わりに目印にしていた巨大かつ奇妙な1本の大木が聳え立っていた。

 

「しかし、変な木だな……平時なら観光名所になるな!」

 

田崎 三曹もその木を見て思わず呟いてしまう……幹が異常に太く木の先端部のみに葉が付いていると言う地球に自生していたバオバブの木を彷彿とさせる姿をしているが、40m程の高さに対し幹の太さが60m以上と、木の高さより幹の方が大きいと言う不思議な大木で在った。

 

馬車の列を大木の前に停車させると、特戦群の隊員達は用意していた工具を使い牢馬車の鍵を破錠(はじょう)し、中に閉じ込められていた人々を外へと解放した……。

 

「ありがとうございます……まさか、助けが来てくれるとは思いませんでした!」

 

手枷を外して貰った女性は特戦群の隊員に礼をしながら安堵の表情を浮かべる……すると後ろから聞いた事の無い音がする事に気が付き、彼女が振り返ると東の空に6つの箱舟の様な物が空を浮かぶ様に飛ぶ姿が有った。

 

「な…何だよ、アレは……。」

 

「えっ! 船が……飛んでいる!?」

 

ギムの市民達が見つめる中、6機のCHー47JA輸送ヘリコプターが着陸し、後部の昇降ハッチが開いた。

 

「ここから乗ってください! 女性と子供が先です、急いで!!」

 

「時間が有りません! 早く早く早く!!!」

 

以前、救出したエルフ達が中々ヘリに乗ってくれなかった事を聞いていた特戦群の隊員達は、やや強引に市民達を機内へと押し入れる。

 

「次郎丸 一佐! このハゲはどうします?」

 

田崎 三曹は馬車から引き摺り降ろしたジョコを指さす。

 

「その野郎は最後だっ! 吊り下げてでも持って帰る!!」

 

次郎丸 一佐はそう言いながら、ジョコの馬車に有った数冊の分厚い本をパラパラとめくりながら確認する……。

 

(何て書いてるかは解らんが、書き方からして帳簿の様だな……これは、拉致された人々の手掛かりに成るかも知れんぞ!)

 

定員ギリギリまで人々を搭乗させた6機のCHー47JA輸送ヘリコプターは昇降ハッチを閉じると次々と離陸を開始し、東の空へと飛んでいった……。

 

「これで半分かぁ……後は、何事も……。」

 

「一佐、殿の偵察隊より入電! 2000以上のロウリア騎兵が此方に向かっているとの報告です!!」

 

通信兵からの報告に次郎丸 一佐は眉間にしわを寄せる。

 

「くそっ……想定より早い上に数も多過ぎる! キングジョーより各員へ、ヘリが戻って来るまで可能な限り敵を足止めする! 田崎 三曹、急いでクレイモアを設置しに行け!!」

 

「了解、行こう!」

 

田崎は他の隊員と共にクレイモア地雷を詰めたバッグを手にして、坂道方面へと走り出した。

 

 

その頃、王都より進軍中だった2000騎を超える規模のロウリア軍騎士団の一群が馬車の通った跡を辿(たど)りながら分水嶺の坂道を駆け登って行く姿が有った。

 

彼等はギムへ向かう道中、主を失い彷徨い歩く馬達と無数の屍を発見し、まだ息が有る者を見つけ出して何が起こったのか問い合わせる……生き残った奴隷番曰く、街道を移動中に赤茶けた服を着た集団が突如として現れ、仲間を次々と倒して行くと奴隷を載せた馬車を乗っ取り、街道を外れ北へと向かって行ったと息も絶え絶えに報告してくれた。

 

奴隷番が指さした先には、街道を()れ北方向へと向かった馬車の車輪跡が残っており、まだ遠くに行っていないと察した騎士団長の命により、全軍で追撃を開始したので有った……。

 

「うむぅ……奴隷商のゴロツキが相手とは言え、これ程に戦えるクワ・トイネの部隊が居るとは……!?」

 

「魔法剣士の一団かもしれませぬ……しかし、数は少ない様なので我々は足の速さと物量で相手を容易に殲滅出来るでしょう!」

 

着飾ったプレートメイルを着た騎士団長に対し魔術師の衣装を着た参謀の男がそう答えると、先方を走る騎兵より魔信の報告が入った。

 

「先遣隊より報告、頂上より2キロ程先の大木の下に馬車の一団を確認!」

 

「ふむ……全軍に通達、敵を逃さぬ様に全速にて馬車の一団を包囲し、殲滅せよ!!」

 

騎士団長がそう指示を出すと進軍のラッパが鳴り響き、頂上で待機していた騎兵の一団が一斉に駆け降り始めた。

 

「う〜む! 馬車の周りには奴隷ばかりで、敵らしい姿が見えんぞ!?」

 

「はて……敵は奴隷を見捨てて逃げたのでしょうか?」

 

ロウリアの騎士団長と参謀は望遠鏡で敵の姿を探すも一向に見当たらない事に首を傾げていると、先頭を走る騎兵が「ドンッ!」と言う大きな爆発と共にバラバラに吹き飛んだ!!

 

「なっ……魔法かっ!? ええぃ構わん! そのまま突っ切って術者を見つけ次第、殺せ!!」

 

騎士団長はその様に指示を出すが、新たな爆発が次々と起き騎兵達を肉片へと変えていく……騎士団長の隣でその光景を見ていた参謀は何かが可怪しい事に気付く……。

 

(どう言う事だ……魔法なら術の詠唱時に魔力を感知出来る筈だが、全く感じ無いとは!?)

 

 

「次、8番!!」

 

ロウリア騎兵の侵入を確認した特戦群の隊員が無線式の起爆装置のスイッチを押すと設置されたM18クレイモア地雷が起爆する! 炸裂した地雷から700発の鉄球が放出され、突進して来るロウリア騎兵をズタズタに引き裂いた。

 

「ぐっ……おのれっ、左右に散開して魔術師を探せ!!」

 

騎士団長の新たな指示により後続の騎兵達は中央を回避し、左右に分かれ突進を行なう……だが、同じ様に左右に分かれ潜伏していた特戦群隊員達が銃を手にし待ち構えていた。

 

「来たぞ……各員、射撃開始! 撃て!!」

 

田崎を始め特戦群の隊員達は突進して来るロウリア騎兵に向かって射撃を開始する! M4カービンと5.56mm機関銃より放たれた銃弾は騎兵達を次々と薙ぎ倒していき、それを見たロウリア軍の騎士団長は驚愕の声を上げる。

 

「ば……馬鹿なっ、こんな……こんな事がっ!?」

 

頂上から手下の騎兵が倒れて行く姿を見て唖然としていた騎士団長だが次の瞬間、千切れる様な音と共に身体が真っ二つとなり、少し遅れて「ドーン!」と言う轟音が鳴り響いた。

 

「えっ……!? ひっ……ひいいぃぃっ!!!」

 

隣にいた参謀が上半身を失った騎士団長の姿を見て声にならない悲鳴を上げると、次は彼の頭が弾ける様に吹き飛んでしまった。

 

騎士団長達が立っていた頂上から1600m以上離れた場所にはM95sp対物狙撃銃を構える特戦群の狙撃手の姿が在り、指揮を取る者を見つけるや大口径の12.7mm弾を容赦無く撃ち込んだ。

 

M95sp対物狙撃銃は有名なバレットM82狙撃銃をブルパップ・ボルトアクション式に改良した銃で有り、コンパクトで有りながら非常に優れた射撃精度を誇る……普通の銃では弾すら届かない長射程の目標に命中させる事が可能で有り、狙撃手の優秀さも相俟(あいま)って、1600m以上離れた標的を一撃で見事に射抜いた……だが、ロウリア騎兵は指揮官を失っても止まる事無く、突進を続けて来るので有った。

 

「くそっ……指揮官らしい奴を倒しても、まだ突っ込んで来るぞ!」

 

次郎丸 一佐がそう毒づくと、置いていた無線機からコール音が鳴り響いた。

 

「…………ゴーストホークよりキングジョーへ、間も無く該当空域へ到着する!」

 

手に取った無線機からUHー60JAヘリコプターの通信が入る。

 

「キングジョーよりゴーストホークへ……此方はロウリア騎兵の襲撃を受けている、至急援護を要請する!」

 

「ゴーストホーク了解、敵に鉄のシャワーを浴びせてやる! そちらの位置を送られたし、どうぞ!!」

 

「キングジョーよりゴーストホーク、こちらの位置はスモークで送る……色は赤、間違っても味方を撃つんじゃねぞー!!」

 

次郎丸 一佐はそう伝えると、バッグの中から発煙筒を取り出しピンを抜いて地面へと投げる……発煙筒からは赤い煙が空へと立ち昇っていく……。

 

「キングジョーより各員へ……ヘリの援護が来る、各員はウサギ飛びで赤のスモークまで後退しろ!」

 

「……聞いたか、先に後退しろ!」

 

田崎 三曹がそう言うと隣にいた隊員は移動を始める……各隊員達は交代で射撃と移動を行ないながら、赤い煙が立ち昇る場所まで下がって行った。

 

「!?……来た!」

 

M4カービンの弾倉を交換していた田崎の前を2機のUHー60JAヘリコプターが低空飛行で飛び去ると、2機の機体はロウリア騎兵達の上を(かす)める様にして通過し大きく左旋回を始めた。

 

「うわっ! な、何だ……アレは!?」

 

「ワイバーンじゃ無い! それに何か載せているぞ!!」

 

初めてヘリコプターを見たロウリア騎兵達は驚きの余り馬脚を乱し大混乱に陥る……騎兵の中の1人が機体の横に付いている弩砲(バリスタ)の様な物が自分に向けられている事に気付くが、自らの運命がこの時点で決まっていた事を知る由は無かった……。

 

「ブブヴヴヴヴヴヴゥゥゥゥゥンン!!!」

 

UHー60JAヘリコプターの左側に搭載されたM134ミニガンがロウリア騎兵の隊列に向かって凄まじい弾幕を放つ! ロウリア騎兵達は鉄の豪雨を浴び悲鳴はおろか苦痛も感じる事も無く身体を引き裂かれていった。

 

「ひいっ! こ……こんなの無理だぁ!!」

 

「逃げろ、逃げるんだぁ!!!」

 

ここまで仲間の屍すら乗り越えて突進して来たロウリア騎兵達だが、空からの凄まじい攻撃を目にして遂に撤退を始める……しかし、逃走先が狭い分水嶺の間の坂を上らなければならず、UHー60JAヘリコプターの執拗な追撃を受けた事で、2000騎を誇った精鋭のロウリア騎士団で生き残った騎兵は50騎にも満たなかった……。

 

 

激しい戦闘が終わり、東の空より迎えのヘリコプターの一群が見えてくる……着陸したCHー47JAは再びギム市民を乗せてエジェイへと飛び立っていく中、田崎 三曹は残った馬達を馬車から解放すべく(くつわ)を外しながら労いの声を掛ける。

 

「ご苦労さま……ここまで良くやってくれた! お前達を連れては行けないけど、お礼代わりに馬車から外してやるよ。」

 

田崎が最後の馬から轡を外し解放すると、馬は嬉しそうに田崎に顔を寄せた後、待っている仲間達の元へと向かって行った……。

 

一方、手足を拘束され猿轡を嵌められたままのジョコは涙を流しながらロウリア騎兵の屍が広がる荒野を見続ける……。

 

(こんな……こんな事があり得るのか……俺達は……どうして……。)

 

無数の騎兵の姿を見た時、ジョコは助けが来たと胸を踊らせたが、そのロウリア騎士団は目の前で壊滅し、彼の希望は完膚無きまで打ち砕かれた……まさか50人にも満たない数で2000の騎兵を撃ち倒すとは夢にも思って見なかった。

 

「おらっ! ハゲ野郎、行くぞ!!」

 

「ひいっ!!」

 

ジョコは両脇を特戦群隊員に抱えられUHー60JAへと乗せられると特戦群隊員と共に空へと飛び立った。

 

「と……飛んでいる、本当に飛んでいるのか!?」

 

ジョコは自らが囚われの身で有る事と空を飛んでいる恐怖で身をすくめながらも外を見ると、荒野の中を田崎が解放した馬達が群れをなして東へと駆けて行く姿が見えた。

 

……馬達は賢い、これまで馬車を引かせる為に散々こき使ってきたが、ひとたび解放されるや何も無い西のロウリアでは無く、水も草も豊富な東のクワ・トイネへと振り返る事すら無く向かって行く……。

 

ジョコは走り行く馬達を見ながらその様に思っていたが、自由になった馬達と違い、自分の今後の事を考えると気が重くなり、そのまま機体の席へと(うずくま)った……。

 

その後、『人狩りジョコ』ことベンゼラス・ド・ジョコは身柄をクワ・トイネ側へと引き渡され、裁判により死刑を求刑されたが、日本側より司法取引の提案がなされクワ・トイネ司法がそれを了承した事で、ジョコは自分が知る全ての情報を日本、クワ・トイネ両国に提示し、死刑を免れる事となった……その後、情報提供の功績からか刑務所ではそこそこの待遇を受けつつも彼は長い刑期を送る事となった……。

 

そして次郎丸 一佐が率いる、特殊作戦群は戦後もしばらくロデニウス大陸に残り、ジョコからの情報を元に大陸に蔓延(はびこ)る人身売買組織を壊滅させた事も付け加えて置こう……。

 

 

同日・同時刻 クワ・トイネ公国 ギムの街から南東へ約10km離れた丘陵地帯

 

 

群青の大空に雷とは違う轟音が幾度となく鳴り響き大地を揺るがす……。

ギムの街が展望出来る丘の上から、オコシ団長を始めとする銀山羊騎士団の面々が神妙な面持ちでギムの街の方向を見つめていた……。

 

「おおっ……また空に炎がっ!!」

 

騎士の1人がそう叫ぶと、遅れて「ドーン!」と言う爆音が聞こえて来る、爆発は幾度と続き大気を震わせる……やがて2機のFー15Jイーグル戦闘機が轟音と共に彼らの真上を通過して行った。

 

「うおっ! 何と言う速さ……これがハンキ将軍が言っていた、火を吹きながら飛ぶ鉄竜かっ!!」

 

「ワイバーンが全く相手にならぬ……まさかこれ程とは……!」

 

オコシ団長はそう言いながら遠ざかって行く機体を目で追いかける……。

2機のFー15Jは上昇旋回を行なうと再度ギムの街へと向かい、街の上空を右往左往しているロウリアのワイバーンを次々と火達磨へと変えていった……。

 

「オコシ団長、オオウチダ将軍がお呼びです!」

 

丘を駆けながらやって来た伝令の報告にオコシ団長はゆっくり頷くと、武人の表情で騎士達に伝える。

 

「行こう、皆の者! 我等の出番ぞっ!!」

 

そう言うとオコシ団長は騎士達を連れ、丘の下に設置された臨時指揮所へと歩いて行った……。

 

続く




今回はギム市民の奪還と奴隷商の首班を捕らえるべく活躍する特殊作戦群の話がメインとなりました。
特殊作戦群がハゲに厳しいのは別に恨みが有る訳では無く、作者の家訓が反映されているだけです!

次回、遂に陸上自衛隊中央即応連隊と第7師団、そしてクワトイネ公国・銀山羊騎士団がギムの街の奪還に動き出し、物語はクライマックスを迎えます!
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