日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く   作:アニキ イン ザ スペース

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「んっ! ここは何処だ……!?」

深緑色の天幕に妙に明るい照明の中、男は目を覚ます……今まで着ていた鎧は横に脱ぎ置かれ、寝間着の様な服を着てベッドに寝ている事に気付くが、左足には白くて硬い物が巻かれている為、起き上がる事出来なかった……。

「あっ……起きられましたか!? 無理に動かないで下さい!」

そう言いながら、白衣を着た異国の容姿の男が彼の元へと駆け寄って来る。

「ここは……それにそなたは?」

男は身体を動かせない事にもどかしさを感じながらも白衣の男に問い掛ける。

「ここはギムの街に建てられました日本国陸上自衛隊の野戦病院で、私はその医官です……しかし運が良い方だ、左足を骨折していますが、此処に収容された怪我人で五体満足なのは貴方だけですよ!」

「野戦病院!? ニホン国の……医者だと!!」

医官を名乗る男の言葉に驚きながらも、男はこれまで何が起こったのかを必死に思い出す……。

(そうだ……ベルザー卿の指示で兵達を率い街を出て、陣形の列に加わった時だ……突如、轟音と共に鏃の様な怪物が頭上を飛び去り、その音に驚いた馬から余が落馬した瞬間、衝撃と共に視界が真っ白になり左足に何かが圧し掛かる感覚を最後に意識を失った……一体何がっ!?)

これまでの事を思い出しているとテントの入口から2人の男が入って来る……1人はクワ・トイネ騎士の衣装を着た若いエルフで、もう1人は緑の斑模様の服を着た大柄な男で在った……。

「ほう……お目覚めの様ですな、ジライアス殿!」

若いエルフの騎士が男の名を呼ぶと、男ことジライアスは訝しい表情で若いエルフに問い返す!

「貴様……何故、余の名を!?」

ジライアスの問いに若いエルフは冷徹な表情で答える。

「貴方がロウリア王国の東ハーグリア領主、ザイドス・ド・ジライアスで在る事は調査済みです……そして、その土地は以前『アルース・リ・マンサ』と呼ばれていた事も……!」

「なっ……その名前を知っているとは、貴様は!?」

「えぇ……私はロウリアの侵略で故郷で在るアルース・リ・マンサを追われた者です!」

その言葉にジライアスはそれまでの表情とは打って変わり、驚愕の表情で彼の顔を見つめる……若いエルフは続けて話をしようとするが、隣にいた大柄な男が彼に呼び掛けそれを制した。

「イシウスさん……悪いが、コイツには先に聞かねぇといけねぇ事が有るんだ!」

「はっ! すみませんヤマウチ殿、そうでしたね……。」

大柄な男の言葉にイシウスと呼ばれた若いエルフはため息を付きながらも引き下がった……。

「これは失礼、ジライアスさん……そう言えば紹介がまだでしたね! 彼はクワ・トイネ公国、軍務局情報課のライグライン・イシウスで、私は日本国、防衛駐在官の山内 哲也と申します。」

山内は右手を胸に当てながら挨拶をした後、手にしていた封書から数枚の写真を取り出しジライアスに差し出した。

「コレは……紙の魔写なのか? はっ!!」

ジライアスは写真を見るや忽ち青ざめた表情となり、身体を振るわせながら山内の顔を伺う……。

「ジライアスさん、ロウリア軍の将官は皆んな逃げるか死ぬかして、マトモに話せるのはアンタしかいねぇんだ! だから教えてくれねぇか……ココで何をやっていたのかを!?」

山内が差し出した写真は特戦群の偵察隊が撮影した物で、そこには街の郊外で山の様に積まれたギム市民の死体を穴に投棄しているロウリア兵達の姿が写っていた……。


第三十五話 終戦への道

中央歴1639年(西暦2015年) 7月28日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村

 

 

昨日、ラジオの速報でギムの街が奪還された事を知り歓喜したナエノデンエンの村人達はそれを祝うべく村総出の祝勝会が開催された。

 

村人達は持ち寄った料理と酒を振る舞い、歌と踊りに興じながら翌日まで飲み明かす……そして翌朝。

 

「ふええぇぇ〜っ! おじょうさま〜ごめんらぁさ〜い! きょうはおしごとむりでしゅ〜! うにゃ〜!!」

 

ギムの解放を誰よりも喜んでいたメイドのリドルは羽目を外して飲み続けた為か、酒に強い筈のドワーフにも関わらず、呂律(ろれつ)が回らない言葉で呟くと酒瓶を枕にして床に眠ってしまう……祝宴の片付けを行っていた他のメイド達はそんな彼女に(あき)れつつもその寝顔を見て笑っていた……。

 

「ぐは〜っ! 久々に飲み過ぎたわぃ、コレだと今日は仕事にならんのぅ!」

 

ドワーフのダイスは自慢の赤髭を掻きながらそう言うと椅子に深く腰掛ける……すると彼の横の机にコーヒー入りのカップがそっと置かれた。

 

「お早う御座います、ダイスさん……コーヒーを淹れましたので、良かったらどうぞ!」

 

「おっ、これはヒルカワ殿にマキタ殿……しかし、良いのか!? これは貴重な飲み物だと聞いとるぞい!」

 

転移から半年近くが過ぎ、前世界で輸入に頼っていたコーヒー豆は今や店頭から姿を消し、一袋が万単位で高額取り引きされる程になっていた。

 

「これはこうゆう時の為の飲み物ですから、気になさらずにどうぞ!」

 

「そうか……すまんのう、では頂くとするか……。」

 

比留川の言葉にダイスはカップを手に取り、コーヒーを一口すすると深く息を付いた。

 

「くーっ、この風味と苦味が身体に沁みるわぃ!」

 

ダイスがコーヒーの味を満喫する中、比留川と牧田も席に着き、昨日のギムの奪還に付いてそれぞれ語り始めた……。

 

「もっと激戦になるかと心配していましたが、思った以上に早く事が終わってなによりです!」

 

「でも、まだ戦争自体は終わった訳じゃ無いからな〜。」

 

「そうじゃい! あの王の事じゃ、兵を揃えたらまた懲りずに攻めて来るぞぃ!!」

 

「はぁ……戦争を始めるのは簡単だが、終わらせるのは大変だとは良く言ったモノだ……政府はどうするんだろぅ!?」

 

比留川はそう言いながらコーヒーを口にし、ふっとため息をつく……そんな彼の心配を余所に、永田町では戦争の終結に向けての話し合いが行われていた……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 7月30日 日本国東京都千代田区永田町 首相官邸

 

異世界に転移して初めての夏を迎える日本は、周囲の影響で最高気温は幾分(いくぶん)か下がるで有ろうと言う気象庁の予想通り、東京の都市部の昼間でも30度前後の気温で落ち着いており、街を行く人々にも余裕の表情が伺えた……。

 

3日前、ギム奪還の報を受けた首相官邸だが、ギムの街の現状が伝わるに連れ、会議に出席していた大臣達の表情が(けわ)しくなっていく……。

 

「はい、現地で拘束した武装集団のメンバーを尋問した所、ギム市民の虐殺は副司令官で在るアデムと呼ばれる人物の主導(しゅどう)の元、行われたと証言しています……。」

 

「それで……街の住民の半数以上が虐殺されたと言う事か! なんてことだ……。」

 

現地入りしている防衛駐在官からの報告に内閣総理大臣は自身の決断の遅れが悲劇に(つな)がったのでは……と、自問しながら言葉を漏らす中、さらに報告が続く……。

 

「どうもそれだけでは無く、かなりの数の民間人がロウリア王国に拉致されているとの報告も有りました!」

 

「んっ……ちょっと待った! 拉致された人々は特戦群が救出したのでは無いのかっ!?」

 

特戦群が拉致された人々を全員救出し、首謀者を拘束したと言う快事を聞いていた副総理が身を乗り出して問い出すと、報告を担当している統合幕僚監部の三津木は副総理とは対照的に淡々と報告を行う。

 

「報告では特戦群が捕えた奴隷商人とは別に、王族や貴族の荘園(しょうえん)で働かせる為の農奴(のうど)として占領時の初期にロウリア本国へと拉致されたとの事です……正確な人数は現在、調査中です。」

 

「あぁ……何でこう彼等は、次から次へと将来に遺恨(いこん)を残す様な事をやってくれるのか!!」

 

その報告に法務大臣は戦後のやり取りが難しくなっていく事に嘆きながら頭を抱える……。

 

「法務大臣、今は戦後の事よりも戦争を早期に終結させる事が重要です! 外務大臣、外交面で何か動きは有りましたかな!?」

 

総理大臣は嘆く法務大臣をやんわり(いさ)めると、外務大臣に何か進展が有ったか問い出す。

 

「はい……会議の直前まで在日クワ・トイネ大使とその件で話し合いましたが、ロウリア王国は未だ外交魔信に応じる事が無く、逆に兵の招集(しょうしゅう)を強化する方向に動いているとの報告が有りました……。」

 

外務大臣の言葉に参加している大臣達の表情が更に険しくなった……。

 

「はぁ……やはりと言うか、相手は目的を全く達成出来ていない以上、そうなりますか……。」

 

総理は椅子を深く座り直しながらそう呟く……本来、異世界転移の混乱から脱却する為に使うはずの国家のリソースを今回の戦争に食い潰されている以上、長期化だけは何としても避けなければならないのだが、相手が停戦に応じる気配が全く無い事に総理は天井を見上げながらため息を付いた……。

 

その様な中、防衛大臣の隣の席に座っている統合幕僚長が発言を求め手を上げた。

 

「宜しいでしょうか……我々、自衛隊も作戦部を中心として早期に戦争を終結させる手段を模索(もさく)しています!」

 

斎藤 統合幕僚長がそう発言すると会議室のモニターにロウリア王国の地図が表示される……画面にはギムの街から王都ジン・ハークへと至る街道とそこに附随(ふずい)する各都市の名前が記載されていた。

 

「表示された地図を見る通り、ロウリアの首都ジン・ハークの西側には広大かつ未踏(みとう)の荒野が在る為、ギムと敵首都を直通する道は存在しません……その為、首都までの道は荒野を避ける様に作られた各都市を経由し、南に大きく()(えが)く様に()かれた街道のみとなっています。」

 

「見ての通り首都までの街道の距離は長く、道に沿った各都市を占領しながら敵首都を目指すやり方では距離と時間、そして兵站(へいたん)の面で負担が大き過ぎ、とても現実的では無いと結論づけています……。」

 

「ほぅ……するとナニかい、正攻法で攻めるのが無理だって言うのなら、プランBが有るって事だな!?」

 

副総理のやや意地悪じみた言葉に対し、斎藤 統合幕僚長は表情を変える事なく即答する。

 

「えぇ……まだ細部を詰めている途中ですが、早期に戦争を終結させるプランBは存在します!」

 

斎藤 統合幕僚長は作戦の概要(がいよう)を説明すると、その内容に大臣達がどよめく……その様な中、副総理は薄ら笑いを浮かべながら総理大臣に向かって話し出す。

 

「おもしれぇ! 今の日本にゃ、資源も時間も無ぇんだ……総理! どんなモンで有れ、俺はこのバクチに賭けてみますぜっ!!」

 

副総理の言葉を聞いた大臣達が呆れる中、総理大臣は静かに(うなず)く……そして、その後の会議にてロウリア王国との戦争を早期終結させる為の作戦が内閣に承認されると、陸海空の三軍は決戦へ向け動き始めた……。

 

 

同日 クワ・トイネ公国 マイハーク海岸 臨時埠頭

 

 

日本よりも南に在りながら、穏やかな夏日を向かえるマイハーク海岸では臨時埠頭の完成以降も浚渫船(しゅんせつせん)による港の増設工事が行われる中、日本から物資を積み込んだ船が次々と入港し、一部の船はクワ・トイネ産の穀物を積み込み日本へと出港して行く光景が見られた。

 

マイハーク海岸の内陸部に造られた農業用サイロに併設(へいせつ)された線路には、特製トレーラーに登載された巨大な車両をレールに移し替える作業が行われ、2台の大型クレーンを使って吊り上げられた車両は新設されたレールの上へと移される。

 

朱色と白に綺麗に塗り分けられた車両は長年使われていた為か傷んでいる箇所も見受けられるが、その巨大かつ無骨な姿にクワ・トイネの人々は思わず息を飲む……その様な中、赤銅色(しゃくどういろ)の肌をした初老の男が感慨深(かんがいぶか)い表情で車両を見ながら呟く。

 

「コイツとは本当に長い付き合いになった……まぁ、二度目の御奉公(ごほうこう)となれば、お互いまだ引退は出来ないな!」

 

男はそう言いながら、車両前面に掲げられたプレートを見ると、そこには『DD51 1188』と刻印(こくいん)がされていた……。

 

DD51形ディーゼル機関車、日本の高度成長期時代の終盤に生産され、長きに渡って国内の物流を支えて来たこの車両は一度は廃車になったが、東日本大震災を機に現役復活し男と共に被災地の救援へと活躍した……そして人知れずまた廃車になる所を今回の異世界転移の騒動により再び復帰を果たしたと言う数奇(すうき)な運命を辿(たど)った1両で在った。

 

……それから2日後、DD51形ディーゼル機関車はレールを始めとした多くの資材を満載した十数両の無蓋貨車(むがいかしゃ)牽引(けんいん)すべく、黒煙を高らかに上げゆっくりと力強く動き始める……列車は今年の収穫期が始まる前までに穀倉地帯で在るナエノデンエンへと向け、総延長300kmに及ぶ線路敷設の工事を行なう資材を運搬(うんぱん)すべく進み出した。

 

「まぁ、気張らずに行こうや!」

 

初老の運転士はそう呟きながら計器を見渡すと手慣れた手付きでマスコンを操作する……雪が積もる山線を苦労して登った4年前と違い、窓ガラスの向こうには緑の草木と色とり取りの花々が咲き誇る光景が広がっている。

 

「ほぅ……これは、今まで頑張ってくれたコイツに神様がくれたご褒美(ほうび)なんだろうな……。」

 

周囲の草花がたおやかに揺れる楽園の様な景色の中、ディーゼル機関車は短い汽笛を鳴らしながら一路南へと向かって行った……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 8月3日 ロウリア王国の都市 ビーズル

 

 

過酷な土地が多いロウリア王国の中でも比較的肥沃(ひかくてきひよく)な土地に(めぐ)まれ交通の要所(ようしょ)でも在る都市ビーズルはクワ・トイネ侵攻の中継拠点として機能していたがギム失陥後(しっかんご)、クワ・トイネ公国との国境から離れているにも関わらず日本、クワ・トイネ連合軍の襲撃を恐れ、街の東側では軍夫達による土塁(どるい)の工事が急ピッチで行われていた。

 

石造りの重厚(じゅうこう)な屋敷の会議室にて街の防衛を担当する将軍が参謀と共に広げた地図を見ながら工事の進捗(しんちょく)を確認していると、入り口の扉をノックする音が聞こえて来た。

 

「失礼します、閣下……王都より『魔封筒(まぶうとう)』が届いております!」

 

「来たか……どれ、此方に。」

 

将軍の言葉に入室して来た伝令は羊皮紙を手渡すと足早に部屋を去って行く……将軍は羊皮紙の封を解き魔法陣で封印された文章を読むべく呪文を唱えると、魔法陣が消え文字が浮かび上がって来る。

 

「…………………………」

 

書かれた文字を読み終えると男はため息を付きながら羊皮紙を参謀に手渡した。

 

「これは……やはり駄目でしたか。」

 

「大魔導師と言えど、所詮は象牙(ぞうげ)(とう)(こも)隠者(おんじゃ)()ぎぬと言う事だ……。」

 

参謀が手にしてる羊皮紙はロウリア王国の王宮主席魔導師(おうきゅうしゅせきまどうし)で在るヤミレイからの手紙で有り、そこにはビーズルへの魔術師の派遣依頼を断わる内容が書かれていた。

 

「しかし、このままでは十分な守備を得ぬまま敵と対峙するやも知れません! 我が王はビーズルを捨て石にする気なのか!?」

 

「参謀、口を(つつし)め……今や何処で誰が聞いているかも分からぬのだぞ!」

 

将軍は参謀を(たしな)めると、腕を組みながら深いため息をついた……。

 

先月末、ギムの街と連絡が取れなくなり当初は魔信の不調だろうと思われていたが、その2日後に東の街道から無数の諸侯連合軍の兵士達が着の身着のままの姿で現れ、彼等の証言によりギムが陥落(かんらく)した事を知らされた。

 

ギムより逃げおおせた将兵達の証言を元に、将軍はロウリア王にビーズル防衛の増援を請願(せいがん)するも、逆に虎の子で有るワイバーンの部隊を半数以上を王都に戻す様に要請され、代わりに送られる(はず)の諸侯の部隊も一向に来る様子が無かった……。

 

だが何よりも気掛かりなのは、逃げて来た兵達の証言の異常さで有ろう……雷鳴の様な音と共に炎を吹きながら素早く飛ぶ灰色の竜、展開した部隊を吹き飛ばした謎の大爆発、そしてクワ・トイネ騎兵と共に現れた鉄で覆われた巨大な怪物……どれも疑わしい証言で有るにも関わらず、複数の兵達が同じ事を話すのでとても嘘だとは言い切れなかった。

 

一介(いっかい)の兵士から諸侯の(おさ)まで、皆が同じ事を口にしている……一体、ギムの街で何が有ったと言うのだ!?」

 

「一部では、パーパルディア皇国の軍が介入しているとの噂が立っております!」

 

「いや、それは有り得ん……そもそもパーパルディアは我々の……? 何だ、雷かっ!?」

 

兵達の証言や噂に辻褄(つじつま)を合わせるべく悩んでいると、外から雷の様な音が聞こえて来る事に気が付く……。

 

「はて……外は晴れている筈ですが? この鳴り止まない音は一体……!?」

 

参謀がそう答えると、ドアをノックする音が聞こえ伝令が慌てた様子で入って来た!

 

「報告します、正体不明騎の飛来を確認! 現在、街の上空を旋回しています!!」

 

「!?……何だ、その正体不明騎とは!!」

 

要領を得ない報告に将軍は語気を荒げながら聞き返すと、伝令は慌てながら追加の報告を行なう。

 

「はっ……報告では灰色の竜らしきモノが、雲を引きながら飛行しているとの事です!」

 

「雲を引きながら飛行だと……本当かっ!?」

 

自身が竜騎士だった為、雲を引きながら飛行するには特殊な条件が必要で有る事を知っていた彼は、その条件の1つでも有る高高度での飛行が行われていると考え、それを確かめるべく部屋を出てベランダへと駆け上る。

 

「なんと……あんな高度を! 高い、高いぞっ!?」

 

ベランダから空を見上げた将軍は点の様なモノが雲を引きながら街の上空を飛んでいる光景を見て驚愕(きょうがく)する……彼の目から見てソレはワイバーンの上昇限界高度よりも(はる)か上を飛行しているのだ!

 

「閣下! 迎撃のワイバーンが上がります!」

 

参謀の言葉に振り返ると、西のワイバーン厩舎より4騎のワイバーンが翼を羽ばたかせながら上昇を行なっていた……だが次の瞬間、巨大な矢の様なモノが高速で飛来し、上昇中のワイバーンに突き刺り爆散した!

 

「なっ! 何が起こった!?」

 

そう言う合間にも更に3本の巨大な矢が3騎のワイバーンに命中し、将軍が見ている前で肉片を散らしながら街へと墜落していく……。

 

「ああっ……将軍、アレはっ!?」

 

信じられぬ光景に唖然(あぜん)とする将軍と参謀の前を2機のF―15J改が爆音と共に飛び去って行く……彼は肩を震わせながら叫んだ!

 

「これが灰色の竜……!? 何なんだ! こんなモノを相手に、どうすれば良いのだっ!!!」

 

将軍がそう嘆く中、ワイバーンを撃墜したF―15J改は急上昇を行ない蒼空(そうくう)へと消えて行った……。

 

その後、将軍は再度王都へ応援を求めたが、事実を把握し切れていなかった王宮の動きは鈍く、8月29日になって敵部隊がギムから動き始めたとの報告を受け、ようやく伏兵(ふくへい)としての部隊をビーズルへと派遣した。

 

だが、この部隊の派遣により王都を手薄にした事がロウリア王国に取って致命的な(あやま)ちになろうとはこの時、誰も思わなかった……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 8月5日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村

 

 

夜明け前のひんやりとした空気がナエノデンエン村を包む中、日の出の気配を感じた獣人族のザンタスは寝床から起き上がる……。

 

時計も無く太陽を示す位置が時間の基準で有るクイラの地で生まれ育った彼に取って、日の出と共に起きる事は些細(ささい)な日常でしか無く、他の出稼ぎ仲間も同じ様に起き上がると、他愛ない会話を交えながら昨日の夜に用意した朝食のシュリッペを平らげた。

 

「……準備は出来たか!? じゃあ、行こう!」

 

ザンタスはそう言うと身支度を終えた出稼ぎ仲間達と共に宿舎を出て、川沿いに在る『国際協力機構ナエノデンエン事務所』へと歩き始めた。

 

「お早う御座います、コンドウの親方!」

 

「おう、今日も宜しく頼むぜっザンタスさん!」

 

事務所の駐車場にて白髪でニッカポッカを履いた男が気さくに挨拶をして来る……男の名は近藤(こんどう) 政伸(まさのぶ)橋梁工事(きょうりょうこうじ)の為に日本からやって来た建設作業員の1人で在る。

 

「皆んな集まってんな……なら車に乗ってくれ、今日も仕事は一杯あるぞ!!」

 

「へへっ……今日も稼がせて貰いますぜ!」

 

「ホント、村に帰る頃にはアタシたち大金持ちになっちまうね〜!」

 

そう笑いながら、獣人達は大型バンへと乗り込んでいく。

 

クイラ王国の寒村から出稼ぎに来た彼等は、ここナエノデンエン村で温室の建設等の手伝いを行っていたが、「銀貨2枚」の日当にてトアル村で行う鉄道橋建設の作業員を募集していると聞いて、ドワーフ以上の力自慢を誇る彼等全員がこぞって応募した。

 

「マイハークで荷積みの仕事を受けても銀貨1枚が関の山なのに、その倍貰えるんだせ!」

 

「しかも、昼食は村で出してくれるんじゃ!……最高じゃわぃ!!」

 

最貧国と称されるクイラ王国では多くの人がクワ・トイネ公国へと出稼ぎに行くが、日当で銀貨が出る仕事はそうそう在りつけない……そんな中、今回の仕事は彼等に取ってまず有り得ない破格の条件なのだ! 

 

道中、獣人達は和気あいあいと話し合う中、彼等を乗せたバンは鉄道橋の建設現場へと到着した。

 

 

現場監督で有る近藤は獣人の作業員達にテキパキと指示を出す、男性達は運ばれて来た部材の対岸側への搬送(はんそう)、女性達には蛇籠(じゃかご)を組んで石を入れて貰う作業を行う様にした。

 

「よっと!」

 

ザンタスは人間の男性では持ち上げる事すら出来無い鉄材を軽々と持ち上げ、架設橋(かせつきょう)を渡りながら対岸へと運んで行く……。

 

「ザンタスよう! また張り切って、後で腰が痛てぇなんて言うんじゃね〜ぞ!」

 

「うるへ―! てめぇこそ、さつきから軽い荷物ばかり運びやがってコノヤロー!!」

 

そんな光景を眺めながら、視察に来た比留川と近藤は作業の状況に付いて話し合う……。

 

「近藤さん……獣人族の作業員を紹介したのは私ですが、どうです彼等は!?」

 

「いぇ……紹介してくれて本当に感謝していますよ、言葉は問題無く通じるし作業も直ぐに覚えてくれる、地球にいた時の外国人労働者よりも全然、役に立ってくれます!」

 

近藤は比留川の質問に笑いながら答えると、ザンタスが彼の元へとやって来る。

 

「コンドウの親方、言われた荷物は全て対岸に運びましたぜ! 次は何をすれば……!?」

 

ザンタスの言葉に近藤は腕時計をちらりと見つめながら答える……。

 

「いい時間だ、みんな昼メシにしよう! 比留川さん、一緒に如何がですか!?」

 

その言葉を聞くと獣人達は笑顔になりながら作業の手を止め、現場を離れる……全員が力仕事をしている筈なのに誰も疲れた表情をしていなかった。

 

その後も作業は続き、鉄道橋は予定通りの日に完成を迎える……。

 

そして8月後半には全てのレールが敷かれ、ついに目的地のナエノデンエンへと到達する……初めて見る列車の姿に村人達は驚きと共に喜びながらこれを盛大(せいだい)に迎えるので有った。

 

続く




ギムの街が解放されその惨状が明らかになって行く中、久しぶりにナエノデンエン村のパートを書く事が出来ました。
鉄道が開通した事で今後、村がの姿が大きく変わっていきます……。
次回は戦争に終止符を打つべく、自衛隊史上最大の作戦が展開されます。


用語

東ハーグリア

ロウリア王国東部に位置する、四半世紀程前に当時皇太子だったハーグ・ロウリア34世により行われた東征により平定した新興の領土で、現在の領主はザイドス・ド・ジライアス。
元はエルフ族の居住地で在り、アルース・リ・マンサと呼ばれていた。
『緑の神』の加護を受けた豊かな土地で在ったがエルフ達の追放後、徐々に土地が痩せて行き、ここ数年は不作続きとなっていた。
この土地での不作がロウリア王国のクワ・トイネ侵攻の引き金になったととも言われている。

魔封筒

魔法を使用した暗号書の一種で密書等で用いられる。
見た目は封がされた羊皮紙で有るが、特殊な呪文が羊皮紙に施されており、専用の解呪の呪文を唱えないと書かれている文字が読めない様になっている。
ロデニウス大陸の非文明国家では機密文書等に良く用いられているが、列強国クラスの魔法レベルになると簡単に解読されてしまう為、これらの国では複数の暗号魔法陣を掛け合わせて使用する「魔導暗号機」なる装置が使用されている。
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