日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く 作:アニキ イン ザ スペース
中央歴1639年(西暦2015年) 8月15日 ロウリア王国 通称「
異世界に転移して初めての終戦の日を迎える日本では、前年の倍を超える人々が暑い中を靖国神社へと参拝し、ロデニウス大陸に派遣された自衛隊員の無事を
その頃、陸上自衛隊第四施設群の自衛官達はロウリア王国の中央に位置する
「隊長、もう外気温は45度を超えています! これ以上は危険です!!」
「……分かった、向こうの崖で停車して気温が下がるのを待とう!」
第四施設群の隊長で在る 諸星 一佐の指示で車列は崖の
「暑い……風が来ても熱風だし、ホントにこんな場所を通って行くの!?」
「えぇ、戦争を早く終わらせる為に……って言うけど、ちょっと無理が有ると思うわ……。」
女性自衛官で在る 有坂 樹里 二士と台 志保 一士 は余りの暑さに
クワ・トイネ公国の国境の街ギムとロウリア王国の王都ジン・ハークを直線で結ぶルートには広大な荒野となっている名も無き大地が広がっている。
そこは北の山脈から乾いた空気が盆地に吹き付け、夏場には50度近くに達する気温の上に川や泉と言った水源は皆無な為、生き物の生息すら許さない想像を絶する土地で在った。
有史以来、人の立ち入りを拒み続けた無名の大地……前世界の地球で観測史上最大の気温を観測した場所にも似ていた事から、自衛隊ではこの地を『
8月初め、RF―4E偵察機により撮影された航空写真を元に作成された地図にて、この土地での移動の可否を確認する為に偵察隊が現地へと派遣された。
偵察隊は過酷な環境に苦しみながらも『
この事で盆地からの移動は可能で有ると証明されるも、余りにも過酷な環境の為、部隊が移動する際には途中で補給と休憩を行う為の拠点が必要で有ると判断され、第四施設群により現地での設営作業が行なわれた。
「日が落ちてもまだ暑いな……頭痛がしたら、熱中症の初期症状だから注意しろよ!」
第四施設群隊長の諸星 一佐の指示の中、隊員達は汗だくになりながら作業を続ける……2つの月に照らされ外は幾分と明るいが、気温が30度を下回る事が無く、日中に熱せられた砂から暑さが込み上げる……。
「ここを作り終えたら次は仮設ヘリポートの設営だ! 身体が持てば良いのだが……。」
初期から異世界で活動している陸上自衛隊第四施設群の中でも、この『
中央歴1639年(西暦2015年) 8月29日 クワ・トイネ公国 ギムの街
ロウリア王国の手から
やがて進軍のラッパが吹き鳴らされると、騎士の一群は西へと進軍を始め、国境の川……アルース・ラーサ川の浅瀬を渡りロウリア王国の領域へと踏み込んだ。
「トウミ様、今回の遠征は二ホン軍の支援が無いと
一介の兵……ましてや従士たる彼が今回の作戦を知る由なぞ無く、トウミは少し思案してから彼の質問に答える……。
「ん〜!? そうだな……おいっ! 皆んな聞けっ!! 我等、勇猛なる銀山羊騎士団が敵の大軍に出くわしたらどうするかっ!!!」
その言葉に周囲の兵達が歩みを止め彼女の方に振り向くと、トウミはしたり顔をしながら言い放つ。
「決まっているだろう……尻尾を巻いて
その言葉に部下の兵達はゲラゲラと笑い始める中、少年従士が狐につままれた様な表情になるのを見た彼女は少しバツの悪そうな表情をしながら彼に答える……。
「ははっ、からかってしまって悪かった……今回、私達は
「えっ!?」
これまでロウリア領内の進軍しか知らされていなかった少年従士は彼女の口から初めて作戦内容を聞く事となった。
「今回は戦うにしても敵の
「それとニホン軍は近くにはいないが、支援は受けている……ほら、アレを見ろ!」
トウミはそう言いながらは空を指差す……少年従士は彼女の指差した先を見つめると、空に灰色の鳥の様なモノが飛んでいるのが見える。
「アレはニホン軍の空飛ぶ使い魔で「
彼女の説明を余所に少年従士は初めて見るドローンを
銀山羊騎士団の先遣隊は行軍を再開すべく、トウミは目線を再びロウリアの草原へと目を向けた……。
出撃前、トウミは決戦に参戦出来ない事に不満を持っていたが、今はこの行軍を楽しんでいた……するとニホンより
「トウミ様……ニホン軍より通信です、約6km先の丘の麓に30騎程の騎兵を確認したとの報告が有りました!」
「ほぅ……数からして斥候の様だな!? ならば、ご挨拶と行こうではないかっ! 我ら銀山羊騎士団がビーズルへ一番乗りするとな!!」
「おおおおぉぉ―っ!!」
トウミの言葉に兵達は大きな掛け声を上げ、前進を開始する!
トウミ率いる銀山羊騎士団の先遣隊は自衛隊から
彼女達の活躍によりロウリア側は日本、クワ・トイネ連合軍がビーズルに攻めて来ると思い込み、より一層の警戒をビーズルに向けた為、相手が道無き荒野を乗り越えて直接王都ジン・ハークへ向かって来るとは夢にも思わなかった……。
中央歴1639年(西暦2015年) 9月1日 ロウリア王国 通称「
満天の星々が深夜の夜空を彩る中、不毛の地に建てられた施設から発電機とエアコンの室外機の音が鳴り響く……日中の移動は危険だと判断した作戦部の指示により荒野に造られた「避難場所」とも言える無数の施設に6000人近い第七師団の自衛隊員達が「
やがて日付が翌日へと変わり2つの月が地平線へと消えて行く頃、ギムの街を出発した燃料タンク車の一団が「避難場所」へと到着すると、施設から自衛隊員達が次々と外へと出て来た。
隊員達は車両が日中の光で熱くならない様に被せていた白い布を外すと給油を開始し出撃の準備を始める……。
「ふぅ……真夜中だと言うのにまだ暑いのか!?」
隊員達と共に外へと出た大内田 陸将はその暑さに思わず
(昨日は日中の気温が50度を超えたと言っていたから、何とか夜明け前に盆地を越えて王都へ到着したいな……。)
星空の下、出撃の準備を行なう隊員達を見ながら大内田 陸将はそう考える……既に海・空の自衛隊は敵戦力に大打撃を与え、クワ・トイネ軍もビーズルへの敵の陽動に成功させている。
(全ての
作戦の目標は奇襲による王都ジン・ハークの包囲と、ロウリア王を逮捕するまで武装集団の戦力を
「大内田 師団長、出撃の準備が完了しました!」
戦車連隊長の報告に大内田 陸将は静かに頷くと、前照灯を点灯させた車列へと歩き始めた。
「出発!!」
大内田 陸将が無線で訓示を述べた後、87式偵察警戒車を先頭に第七師団の車両が一列となって夜の荒野を進み始める……やがて夜が明け始め、車両の一団が盆地を抜け山の
(遂にここまで来たか……さて、ここからが
大内田 陸将は心の中でそう呟くと、無線機を手に取り指示を出し始める。
「各戦車隊へ、斜面を降りた後、横隊にて散開……そのまま指示が有るまでジン・ハークへ向け前進せよ!」
「ナナイチ了解……戦車前へ!」
交信の後、けたたましい音と共に90式戦車が次々と斜面を降りて行く……のちに「ジン・ハーク攻防戦」と呼ばれる一大決戦が幕を開け「ロウリア事変」はクライマックスを迎えるのであった……。
中央歴1639年(西暦2015年) 9月2日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村
間も無く収穫期を迎えるナエノデンエン村に夕闇が迫る中、広場に多くの村人達……普段は広場に来る事の無い離れた集落の人々も詰めかけ、中央に設置された短波ラジオの放送を待ち侘びていた……。
「二ホンがロウリアの王都に攻め込んだ!」
今朝からナエノデンエン村の人達の間ではこの話が話題となり仕事がままならない状況となっていたが、夕方にニホンから発表が行なわれると知るや彼等は仕事を早く切り上げやって来た。
領主の娘、ジョレーンもメイドのリドルと共に放送が始まるのをラジオの前で待ち続けていた……。
もはや聴き慣れてしまったニホンの音楽の後、時報が鳴り終えるとラジオから夕方のニュースを伝えるアナウンサーの声が聞こえて来る。
「……午後6時のニュースをお送りします……速報です! 陸上自衛隊クワ・トイネ派遣隊により昨日から行われていた『自称ロウリア国』の首都包囲について内閣官房長官より緊急会見が行われる為、首相官邸より中継を行ないます……。」
アナウンサーの言葉の後、首相官邸の記者会見室へと切り替わるとシャッターが切れる音がラジオに鳴り響き、内閣官房長官が会見を始めた……。
「発表します……本日、深夜1時に陸上自衛隊第一空挺団により『自称ロウリア王国』の拠点の捜索を行なった所、ギムでの住民虐殺を行なった『武装集団』のリーダーで在る『ハーグ・ロウリア34世』を発見し、一連の事件の首謀者として『超法規的措置』にて逮捕・拘束しました……。」
ラジオの発表にナエノデンエンの村人達はどよめき立つ!
「……また先程、『自称ロウリア王国』の外務卿より『停戦交渉に
「……ニホン軍はロウリア王を捕らえたと言うのか!!」
「停戦交渉って……もうロウリアは攻めて来ないの!?」
「戦争が終わった……俺達は勝ったんだっ!!!」
その言葉を機に村人達から歓声が上がり、戦争が終わった事を皆が喜ぶ……人々が勝利に浮かれる中、母親達は
中央歴1639年(西暦2015年) 9月5日 ロウリア王国 王都ジン・ハーク 北側の港
王都ジン・ハークの宮殿より約40km程北に位置し、ロデニウス大陸で最大の規模と栄華を誇った軍港も自衛隊の攻撃により全ての施設と軍艦を破壊され見るも無惨な状況となっていた。
破壊を免れた桟橋に停泊している商船の甲板より旅芸人の装束を着た1人の男が破壊され尽くした港を見つめながら苦々しい表情で呟く……。
「これが負けると言う事か、実に惨めだ……。」
そんな景色をうんざりとしながら見ていると、男の後ろで何か騒がしくなっている事に気付く……振り返ると商船の船長がローブを着た男と口論になっており、それを見た彼はやれやれといった顔つきで船長の元へと近付いて行く……。
「これは船長さん、どうかされましたかな……。」
男が笑顔を浮かべながら問い掛けると、ツバの広い帽子を被った商船の船長は困った表情で彼に話し出す。
「聞いてください……先に船に乗せた『魔獣』何ですが、船員達が怖がってるので魔獣使いに本当に安全なのか説明を求めたのですが、さっきから『問題無い』の一点張りで話にならないのですよっ!」
船長の疑問に男はにこやかな表情をしながら回答する。
「あぁ〜、その事ですか! 船底に居る『魔獣』達なら全て『冬眠魔法』を掛けていますので起きる事は有りません……ですから馬や牛等の家畜を船に積み込むよりもずっと安全・安心ですよ! それでもご不満がお有りならば船を替えてもいいのですけど……!?」
男の言葉を聞いた船長はあたふたと慌てだす……『魔獣』を積むと言うだけで、通常よりも高い運賃を彼から既に受け取っており万が一、返金となると大きな損失となってしまう。
「はいっ……い・今の説明で皆を納得させますので、どうかソレだけはっ!!」
船長の慌てぶりに男は内心笑いながらも彼を安心させるべくこう答える。
「いいえ、その様な事はしませんので……そうそう、もしシオス王国では無くパーパルディア皇国まで直接行くとなるとどれくらい日数がかかりますか?」
「はぁ……!? この船はシオス王国行きですが、もしパーパルディア皇国に直行しますと、おおよそ10日程掛かるかと思います!」
「成る程、ソレだけ掛かりますか……おや、他の乗客もやって来た様ですね!」
男がそう言うと商人らしき一団が桟橋のタラップから船へと上って来る姿が見え、中でも豪華な服と指にいくつもの指輪をはめた成金風の太った中年の男がキョロキョロと辺りを見回しながら船に乗り込む様を見て、つい吹き出してしまう。
(プッ……何ですかアレは! 大方、戦争投資に失敗して借金取りから逃れるべく船に乗り込んだ、と言う所でしょうか……。)
男がそう思っていると商人達は船室へと入って行き、やがて船は出港の時間を迎える……桟橋からの舫いが解かれ、商船は目的地で在るシオス王国へと出港を開始する。
残骸と化した軍艦の横を通り抜け、港を出た商船は北へと進路を取り始める……船上には旅芸人の装束の男とローブを着た魔獣使いが、遠ざかって行くロデニウス大陸を見つめながら話し合っていた……。
「アデム様、これで追手から逃れた……と言う事で宜しいのでしょうか?」
「えぇ……ここまで来れば大丈夫でしょう、せっかくクワ・トイネ征伐軍副将と言う地位に就けたのに、この様な結果になるとは思いませんでした……今頃、クワ・トイネとニホンは私の事を
旅芸人の装束を着た男ことアデムは部下の魔獣使いの問いにそう答える……ギム市民虐殺の首謀者で在るアデムと部下の魔獣使い達は、エジェイ攻略戦の大敗後に軍を離脱し、魔獣を見世物としたサーカス団に
「取り分けニホン国にはひと泡吹かせて上げないと気が済まないですね……。」
アデムは自身の野望の邪魔をした日本に対して並ならぬ憎悪を抱く様になり、復讐の機会を伺う様になっていた……そして次に行なう事を部下の魔獣使いに伝える。
「先ず、船長には行き先をシオス王国では無くパーパルディア皇国に変更する様にさせます……シオスの様な小国ではニホンの手が回っているかも知れませんし、奴らに
「それと……邪魔な乗客の皆さんには腹を空かせた魔獣の餌になって貰いますか!」
アデムはそう言うと不気味な笑みを浮かべ、パーパルディア皇国へと至る北の海を見つめながら新たな野心を抱き始めた。
それから一月以上が経過し、パーパルディア皇国のエストシラント港の桟橋の一角に長い間停泊したままのシオス王国船籍の商船に対し皇国軍の
続く
遂にロウリアとの戦争に終止符が打たれました。
その為か、時系列が進む事にアッチにコッチと場所を飛びまくるややこしい回となってしまいました。
今作ではロウリア王の逮捕に付きましては小説版のSATでは無く、コミック版と同じく第一空挺団より「超法規的措置」にて逮捕を行っています。
(警察庁が海外での逮捕権が無い事で最後までゴネたと言う裏設定の為。)
鉄道が開通したり、アデムが逃げ出したりして、物語は終演を迎えますが、まだまだ最終回じゃ無いのよ!
用語
死の谷(デスバレー)
ロウリア王国の国境付近の東側から王都ジン・ハーク付近まで広がる広大な盆地で、周囲を山で囲まれている。
原作ではロウリア側より『大草原』と呼称されていた場所で在るが、今作では生物の生存を拒む過酷な乾燥地帯の盆地となっている。
一年を通じて乾燥しており、夏場には50度に達する気温の上に川や泉等の水源も無い環境の為、これまで人が立ち入る事が全く無かった。
環境がアメリカ合衆国カリフォルニア州に存在するデスバレーに非常に酷似していた為、自衛隊内ではこの名前で呼ばれる様になり、後にクワ・トイネ、ロウリアでもこの地名が定着した。
陸上自衛隊第七師団はこの不毛地帯を通過する事で王都ジン・ハークへの奇襲を敢行し、ロウリア軍を一方的な防戦へと追い込み戦争終結への糸口を掴んだ。