日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編   作:アニキ イン ザ スペース

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第三話 ようこそナエノデンエン村へ

中央歴1639年(西暦2015年) 3月3日  クワ・トイネ公国 マイハーク港沖に停泊中の輸送艦「くにさき」

 

機材を載せた車両の陸揚げを終え、比留川と牧田、そしてJICAの職員達は輸送艦「くにさき」へと戻り、クワ・トイネ公国へ先に入国していた牧田ら調査団の報告が「くにさき」の科員食堂(かいんしょくどう)にて行われていた。

 

「ナエノデンエンに行く前に言っておくッ! オレは昨日までクワ・トイネの農業という奴をほんのちょっぴりだが体験した、い…いや…体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……あ…ありのまま、起こった事を話すぜ!!」

 

「あのなぁ……まぁいい、続けてくれ!」

 

会議の席でネタを加える牧田に比留川は(あき)れつつも、話を聞き続ける。

 

「オレは農家の人々に話を聞いてみると、クワ・トイネの畑では……肥料も殺虫剤も無しで毎年作物が豊作で実るそうだ……。 

な……何を言ってるのか、わからねーと思うがオレも何がどうなっているのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……。」

 

「!?……。」

 

「魔術だとか超科学だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。」

 

「だから最後までネタで閉めるのはヤメレ!!」

 

興奮しているとも冗談を話している様にしか聞こえない牧田の報告に比留川がツッコミを入れるが、話を聞いていた全員がクワ・トイネの農業は生産植物学を専門とする牧田の理解を超えている事を理解し始める。

 

「ところで、こいつを見てくれ……こいつをどう思う……?」

 

牧田はバックの中から、サンプルとして持ち帰った穀物の入った袋を取り出し皆に見せる……袋の中からは大粒の麦や豆、そしてジャガイモの様な大きな穀物が入っていた。

 

「すごく……大きいです……。」

 

さっきまでツッコミ役だった比留川までつられてネタに走る様に皆が呆れるも、机に並べられた粒ぞろいの穀物に目を見張った。

 

「信じられないだろうが、このクワ・トイネでは、こんなりっぱな穀物が肥料も農薬も無しに毎年豊作で実ると言うから驚きだ! そして見ての通り、これらの穀物は地球……前世界で見られたモノと色や形、味までもソックリそのままなんだ! まぁ、オレ的には異世界なんだから薄気味悪いエイリアンみたいな奴を期待していたんだが……。」

 

牧田の冗談交じりの発言に苦笑いが起きる中、比留川の向いの席に座っていた眼鏡をかけたおかっぱ頭の若い女性が手を上げる。

 

「あっ……私、畜産関連(ちくさんかんれん)の調査を担当をしております大屋(おおや)と申します、先ほど牧田さんが穀物は前世界で見られたモノとソックリとおっしゃっていましたが、ここクワ・トイネで見て来た家畜……牛や馬、豚や山羊なんかも地球に居たモノとそっくりなんです! ただ……。」

 

「ただ!?」

 

彼女はスマートフォンを取り出し皆に写真を見せる、そこにはダチョウに似ている一匹の大きな鳥が写っており、色が黄色くダチョウよりも太く頑丈そうな足、そして大きな顔とクチバシを持つどこかで見たことがある鳥であった。

 

「こ…これって、チョコ……。」

 

「それ以上いけない!!」

 

思わずアノ鳥の名を口に出そうとした比留川を牧田が止める中、大屋は話を続ける。

 

「とにかく、地球に居るモノとそっくりな家畜については遺伝子レベルの検査をしないと詳細(しょうさい)は判りませんが、この異世界には地球に居なかった生物が家畜として飼われているのです! その最たるはワイバーンと呼ばれている人を乗せて空を飛ぶ事ができる翼竜なんですが……あのような生き物をどうやって騎乗できるまでに飼いならしたのか理解を超えています!!」

 

「つまり、この異世界ではオレ達が居た地球の常識では考えつかない事が平然と起こっているって事だ! なぁ比留川、オレが最初にクワ・トイネの畑では肥料も殺虫剤も無しで毎年作物が豊作で実るって言ったが、どうしてだか分かるか?」

 

突然の牧田の質問に比留川は首を傾げる。

 

「そう言えば、さっきは魔術とか超科学でも無いって言っていたよなぁ……!?」

 

「ああ……聞いて驚くな! 聞いた話だと、なんと『神の加護』だとの事だ!!」

 

「か…神の加護!?」

 

報告会に参加している全員が驚きの余りに牧田が言った言葉をオウム返しに口にしてしまう。

 

「正直オレも信じられないのだが、今日、皆に会わせたノーグさんも大真面目にそう言っていたんだ! ここクワ・トイネでは魔法やら地球に居た時には考えられない事ばかり見ている手前、恐らくは本当の事なんだろう……だから(みな)(きも)(めい)じてくれ、この異世界では地球での常識は通用しない事を……。」

 

何時もおちゃらけている牧田のこれまでにない真剣な表情を見て、比留川はこれはただ事では無いと思いつつも明日の出発を迎える事となった。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 3月4日  クワ・トイネ公国 マイハークの街、郊外の丘の上

 

翌朝を迎え、比留川とJICAの職員、そして自衛隊の施設科の部隊は早朝にナエノデンエンへ向け出発する予定だったが、日が昇り切っても未だ出発出来ないでいた……領主で在るノーグがナエノデンエンまで護衛の兵士20名を同行させると申し出て来たのだが、その兵士達は徒歩で移動すると言い出したのである。

 

人の歩きに合わせて車両を移動させると燃料をあっという間に使い切ってしまう為、とてもでは無いが道中300km近く走破(そうは)する必要が有るナエノデンエンまでたどり着く事は出来ない……。

 

牧田と施設科の諸星一佐がノーグに出発出来ない理由を説明している間、比留川は用を足す為、待機していた車から降りて丘の奥の林へ踏み入れる……そして用を足し終え戻ろうとした時、林の向こうに何やら建造物の様なモノが有る事に気が付く。

 

「何だろう……遺跡かな?」

 

比留川が近づいて見てみると、林の開けた場所に直径6~8m程の頂上部分が欠けた、少し地面に埋まって垂直に立ってる巨大なリング状の物体がそこに有った……それは金属にも石にも見える物質で出来ており、環状に合わせて文字か記号の様なモノが掘り込まれていた。

 

「う~ん!? でもこれってどこかで……!?」

 

比留川はマイハーク湾に到着する前に輸送艦「くにさき」艦内で行われた上陸前の事前ミーティングが終わった時の事を思い出す…………。

 

 

――― 明日の上陸に向けての事前ミーテングが終了し、比留川は自衛官達と共に「くにさき」の科員食堂にて、日本人で初めて異世界国家と交渉した田中大使の話に耳を向けていた。

 

交渉が行われた公都クワ・トイネの風景、そこで出会った様々な種族の人々……やがて田中大使はクワ・トイネ公国の他に大陸の南に在るクイラ王国と呼ばれる国とも交渉を行っている事を話し始める……。

 

「で…そのクイラ王国ですが……これを見ていただきたいのです、これはマイハーク港を発見した翌日に別の哨戒機が撮影した航空写真ですが……。」

 

田中大使は手に持っていた数枚の写真を机に置き始める……その写真には黄土色の荒野に黒い池の様な物とその周囲に複数の遺跡と思われる構造物が写っていた。

 

「これは一体!?」

 

比留川と自衛官達は机に置かれた写真に目を向ける。

 

「撮影をしたP-3Cの乗員の報告では、ロデニウス大陸の山脈を抜けたクイラ王国の領内でこれを見つけたとの事です……驚くべき事なんですが、専門家の意見ではこの遺跡は構造からして、恐らく油田では無いかと推測されています……そして、黒く見えるのは地面から吹き出ている原油の様です!」

 

「げ・原油に……油田ですか! ならば石油を採掘している国が有ると言う事ですか!!」

 

事前の説明ではこの大陸の国々の技術水準は中世レベルと聞いていたので、近代技術の産物である油田が有る事に比留川と自衛官達は驚きの声を上げる。

 

「皆さんにも事前に説明した通り、この国では魔法を応用した技術は存在しますが、陸では馬車、海では帆掛け船が使われて、我々の世界で言う所の中世時代の技術しか持っていませんし、石油を精製して使用していると言う話も聞いていません……この製油所らしい施設が有った場所も、人はおろか草木も生えていない荒野のど真ん中に有ったとの報告を受けています。」

 

「ちょっと失礼!」

 

比留川は机に置かれていた写真の一枚を手に取り見つめる……写真に写った油田と思われる遺跡は見た感じかなり古くから在る様だが、ほぼ原形を保ったまま朽ち果てる事無く残っている様子が窺える、だが写真の左上にこれらの建物とは異なる巨大なリングを立てた様な奇妙な構造物が有る事に違和感を感じた。

 

(この原油溜まりの上に有る(やぐら)の様なものが油井(ゆせい)で、配管みたいな物がこの遺跡に続いて……これは製油所!? これがもし製油所で、出ているモノも配管だとしたら、このリングみたいな構造物で途切れているのはどういう事だ!?)

 

「配管らしきものがこのリング状の様な物に集まって、ここで途切れている……これはいったい何なんでしょう!?」

 

隣に居た施設科の諸星一佐と一緒に写真を見ながら首を傾げていると田中大使がそれについて話しだす。

 

「この写真を見た専門家の方々もこの環状の構造物に付いては誰も分かりませんでした、それと撮影された辺りは雨はおろか強い風も吹かない場所……例えば、地上絵の有るペルーのナスカ高原の様な環境らしいとの気象学者からの意見が有ったので、かなり昔の建造物でも風化せずに残っているのでは? との話です……兎に角、原油が産出するとなれば我が国にとって…………。」 ―――

 

 

クイラ王国の話で出てきた謎のリング状の構造物の遺跡……それと同じ物がこんな所に存在するとは! そもそもこれは一体何だろうか……。

 

比留川はスマートフォンを取り出し遺跡の写真を取っていると、彼を探しに来たクワ・トイネの兵士達がやって来て出発の準備が完了したとの報告を受ける、どうやら牧田達はノーグを説得して従者と案内人のみを車両に乗せて一緒に移動する事に合意させたらしい……遺跡から立ち去る前に兵士達にこの遺跡は何なのか聞いて見たが、若い兵士達は誰も知らないと言うだけで有ったが、一人古参の兵士だけは「何の遺跡かは知りませんが、かなり昔からこの場所に有ったとは聞いています!」との回答が有った……。

 

 

「結局、何の遺跡かは分からずじまいかぁ……。」

 

広場では各車両が出発の準備を終えており、比留川は待っていた車に乗り込む、やがて出発を開始した30台を超えるJICAと自衛隊の車両は車列を組み移動を開始する、護衛の任務から外された兵士達は巨大な車両が次から次へと移動する様に恐れおののく中、車列はナエノデンエンへと向かうべくマイハークの海岸の丘を後にした。

 

 

同日 正午過ぎ クワ・トイネ公国 マイハークを抜けた先の大草原

 

マイハークを出発した車列はクワ・トイネの案内人を乗せたパジェロこと1/2トントラックを先頭に資材と人員を載せた多数の大型トラックと重機やトラクターを積載したトレーラーなど30台を超える車両が列をなして時速3~40Km程の速度で、未舗装だが大型トラックが通れるだけの幅が有る街道を進んでいた。

 

「これだけの速度を出しても、座り心地も良く不快さも感じない……これが自動車と言うモノなのか!」

 

ノーグは従者と共に牧田が運転するJICAが用意した4WDのワゴン車に比留川や諸星一佐と共に乗車しており、固い椅子で地面の振動が直に伝わる馬車とは違い、柔らかな椅子と車体の穏やかな揺れ、そしてその大きさからは考えられない程の速度……騎馬隊の行軍よりも遥かに早い速度で移動できる事に二ホンを訪問した使節団の報告通り……いや、それ以上のモノだと関心していた。

 

郊外の集落を抜けるとすれ違う人々や馬車の数も段々と少なくなり、やがて車列は大草原と呼ばれている平野部へとやって来た。

 

「おお~っ!! もう大草原まで来たと言うのか!!」

 

ノーグと従者達は、マイハークからここまで馬でも丸一日掛かるこの距離を二ホンの自動車は1両も脱落する事も無く、それも日がまだ高い内に到着している事に驚きの声を上げる。

 

「ノーグ殿、ここで小休止を取りましょう!」

 

諸星一佐がそう告げると車列は街道を()れ地面が固くなっている広場に停車を行う……比留川は停車した車から降りて背伸びをしながら周囲を見渡すと、山も木も無く起伏すら無い真っ平らな草原だけが、ひたすらと続く不思議な光景が広がっていた……。

だがそれ以上に驚いたのは、遥か地平線の向こうから南北を横切る巨大な建造物が有る事に思わず目を見張った。

 

「これは水道橋!? 古代のローマの水道橋みたいな……いや、それ以上のモノだそ!!」

 

それはフランスに在る世界遺産『ポン・デュ・ガール』を更に大規模にした様な建造物で、遠くから見ても解るほど見事に加工された巨大な石でアーチ状に組まれた構造物(こうぞうぶつ)が10数キロにも渡って建設されている。 良く見ると最近、修繕(しゅうぜん)したと思われる個所が見受けられ現在も使われている様だ、そして比留川以上に彼の隣にいた諸星一佐も驚きの表情で双眼鏡を手に水道橋を見つめていた。

 

「これは凄い! あの様な巨石を隙間(すきま)なく組み上げるとは我々の技術でもそう簡単にはいかんぞ!! ノーグ殿、あの建造物はどういった目的でいつごろ造られたモノなのですか!?」

 

諸星一佐が興奮した(おもむ)きでノーグに(たず)ねる。

 

「この大水道橋は遥か大昔、公都クワ・トイネが都市として建設された際、不足がちな水を供給する為に同時期に建設されたと聞いています……たしか最初に造られたのは一万二千年前だったかと……。」

 

「い…いちまんにせんねん!!!!」

 

比留川と諸星は年月を聞いて驚きの声を上げる……一万二千年前と言えば日本ならばまだ縄文時代で、古代ローマの水道橋ですら二千年前の建造物なので、それよりも遥か大昔にこれだけの高度な技術を要するモノが造られている事に絶句する。

 

「はい、言い伝えでは北の大陸で『太陽神の使者』から建築技術を学んだドワーフの石工の一族が800年以上の年月を掛けて造り上げたとか……その後も補修や拡張を行って今に至ります。」

 

(太陽神の使者……!?)ノーグさんの言う通りならこれらの高度な技術はクワ・トイネの人々が編み出した技術では無く、高度な技術を持つ先史文明の様な存在に伝授(でんじゅ)された事になる……そう言えばクイラ王国に在ると言う謎の製油所らしい建物、あれもその様な存在が造り上げたモノなのだろうか!?

 

比留川は『太陽神の使者』についてノーグに聞いてみようと思ったが、出発の時間となり次は比留川が車を運転する番だった為、聞くのは何時でも出来るだろうと思い車へと戻っていった。

 

 

同日 夕刻近く クワ・トイネ公国 サージレイ丘陵地 トアル村

 

再び動き出した車列は大草原を抜けサージレイ丘陵(きゅうりょう)と呼ばれる丘陵地に在るトアル村と呼ばれる村へと到着したが、ここで思わぬ足止めを食らってしまった。

 

ここに来るまで何度か川を渡る事が有ったが、いずれも深さ30cm程の浅瀬だったので各車両は問題なく川を渡ってこれた……しかし、ここトアル村を流れる川には馬車が通れるほどの大きな橋が架かっていると聞いていたが、現地に到着して確認すると馬車1台がやっと通れるほどの古い木製の橋で、これでは重い車両が通る事も出来ず、更に川幅が30m程有る上に水深も1m以上有る為、車両が川を渡れない事も分かりここに来てJICAと自衛隊の車列は停止を余儀なくされる。

 

初めて見る二ホンと言う国から来た巨大な自動車の車列をトアル村の村民が遠くから恐る恐る見守る中、車から降りたノーグは想定外の状況に頭を抱えていた。

 

「まさか橋を渡れないなんて……ここを抜ければナエノデンエンまでもう少しだと言うのに、一体どうしたら……。」

 

この付近に浅瀬になっている場所は無く、他の場所より川幅が短く浅瀬だったと言う好立地の場所だった為、この場所に橋を架けた事をノーグは思い出す……彼が途方に暮れていると橋の上で調査をしていた諸星一佐が戻ってきた。

 

「やはりこの橋では重量の有る車両が渡るのは無理な様です……そこで、橋の横に車両が通れる橋を新たに架設(かせつ)したいが許可を頂けますでしょうか。」

 

諸星一佐の突拍子(とっびょうし)も無い発言にノーグは驚きつつも答える。

 

「いいですが……まさか橋を今から造るのですか!?」

 

「そこは我々にお任せください……ノーグ殿から許可が降りた! 架橋(かきょう)の準備に取り掛かれ、81式(はちひとしき)前へ!!」

 

諸星一佐はニヤリと笑うと部下達に指示を出す。 すると車列の中から巨大な鉄製の構造物を乗せたトラックがゆっくりと前に出て来て、後進しながら川の手前までやって来た。

 

「諸星殿、あれは……。」

 

「あれは81式自走架柱橋(はちひとしきじそうかちゅうきょう)と呼ばれている持ち運びができる橋です、これで車が通れる橋を造ります!」

 

「まさか、は…橋を持ち運んでいたのですか!!!」

 

諸星一佐の回答にノーグは言葉を失う……そうしている合間にも諸星の部下達は慣れた手つきで橋脚(きょうきゃく)橋桁(はしげた)が組み合わさった大きな構造物を川へと運び込み橋を掛けていく、更に驚く事にこれらの橋は重い鉄で出来ていると言う事だ! 石で出来た橋ですら大きな都市に行かないと見られない物なのに、鉄で出来た橋ともなれば列強国でも無ければ造る事すら(かな)わないだろう……そんな鉄の橋を彼らはここまで持ち運んで今、目の前で組み上げているのだ! ノーグと従者達、そしてトアル村の人々は初めて見る鉄の橋が組み上がる様に驚きを隠せぬまま、ただただ見入っていた……。

 

そうこうしている間に架柱橋は対岸にまで達し無事開通したが、既に夕闇が迫っている為、本日はここトアル村で宿泊する事となりJICAの職員と自衛隊員達は川の高台で宿泊用のテントを建てる中、ノーグは村長宅の一室を借り一晩過ごす事となった。

彼はパーパルディア製の携帯魔導(けいたいまどう)ランプの明かりを頼りに今日の出来事を振り返りながら日記に書き留める……。

 

 

“ 今回の一件、我が国の国政を担う首相であり無二の親友でも在るカナタの頼みと有って引き受けたと言うも、二ホン国の一団と会合してから毎日、驚かされる事ばかりである。

 

今日は二ホンの自動車に乗る機会に恵まれたが、これは馬車よりも早く乗り心地もとても良いと言う使節団の報告通りの物であった……最初に使節団の報告を聞いた時は余りにも荒唐無稽(こうとうむけい)過ぎると一笑(いっしょう)()したが、私自身が二ホンの技術に接した今となっては彼らの報告は事実で有ったと言えよう、取り分け二ホンの工兵達が持ち運び出来る頑丈な鉄で出来た橋を日が沈む前に対岸まで架ける光景を見て言葉に出来ないほどの衝撃を受けた。

 

さらに驚く事に、重い鉄の塊を動かす程の力が働いていたにも拘わらず魔術が使われた形跡(けいせき)が全く無いばかりか、それを操作する二ホン人達からは何の魔力も感じられなかったのだ! 彼らは魔法が使えない民族で有るとの報告が在ったが、そんな魔力の無い彼らがどの様な理屈であれだけの事が出来るのかは未だ謎で在る。

 

しかし、この目で見た彼ら二ホンの力は本物で有り友好国となった彼らの力が、恵まれているが故に停滞している我が国に新たな光をもたらさん事を願うばかりである……。”

 

 

ノーグは日記を書き終えると携帯魔導ランプの明かりを消し用意されたベッドに横になる……そう言えばナエノデンエンへの到着は出発から2週間近くの日程を予定していたが、この分だと明日には到着してしまうだろう……。

 

そう思いつつもベッドに横になるや、今日一日の疲れからかノーグはそのまま沈むように寝入ってしまった。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 3月5日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村

 

翌日、朝食を済ませ再び4WDワゴン車に乗り込んだ比留川達は自衛隊が架設した架柱橋にて無事に川を渡り終え、ナエノデンエンへと向け出発を再開した。

 

道中、短い草が生えたなだらかな丘ばかりの景色に牧田が「まるでパソコンの画面を見ているみたいだ!」との冗談に笑いながらも、丘陵地を進む車列が小高い丘を昇り終えると、ノーグが比留川達に呼び掛ける。

 

「ようやく到着しました! ここが皆さんに農地を提供する私の領地、ナエノデンエンです!!」

 

目の前には色取り取りの花を咲かせた土地とその向こうに広がる広大な農地、そして石造りの家々や風車が建ち並ぶ中世ヨーロッパの農村の様な牧歌的な景色が広がっていた。

 

「わぁ~っ! ここがナエノデンエン村ですかぁ……まるで絵画の様ですね!!」

 

車の窓から見えるナエノデンエン村を見て、車の後部座席に座っていた大屋が歓喜(かんき)の声を上げる……車列が村に入って来るとここでも他の村と同じ様に村の人々は驚いて家の中に入ってしまったが、領主で在るノーグが車から降り村人達に呼び掛けると、人々はこちらを(うかが)いつつも家から出て来て集まって来た。

 

 

同時刻  ナエノデンエン村 ノーグ家の屋敷

 

「ねぇ、リドル……何やら外が騒がしい様ですね、広場に大きな荷馬車の様な物がいっぱい来てますが、あれは何なのでしょうか……?」

 

ナエノデンエン村を一望出来る小高い丘の上に建つノーグ家の屋敷にて、ノーグの娘である若きエルフの少女ジョレーンと、ノーグの屋敷でメイドとして働いているドワーフの少女リドルの2人は外の騒ぎに気付いて何事かと窓を覗き込んでいた。

 

「ジョレーンお嬢様! あれは魔獣の類かもしれません、危険ですから窓から顔を出さないで下さい!!」

 

リドルはそう言いながらつま先立ちでふらつきながら窓から外の様子を窺っていると、馬車の様な物から誰かが降りて来た……すると、それまで家に閉じこもっていた村人達が次々と外へと出て来た。

 

「あら? でも何だか皆さん集まっている様ですよ!? あっ……あれはお父様! もう帰って来られていますわ!!」

 

外の広場に父親であるノーグの姿を見つけたジョレーンはすぐさま屋敷の扉を開け外へと飛び出して行った。

 

「ちょっとお嬢様!? お・お待ちください~っ!!」

 

走り出すジョレーンを追ってリドルも慌てて外へと走って行く……。

 

 

村の広場では停車している車列を背にノーグがこれまでの事を集まってきた村人達に話していると、屋敷の有る丘の方から自分を呼ぶ声が聞こえて来た。

 

「お父様~!!」

 

「おおっ! ジョレーンかぁ、今帰ってきたぞ!!」

 

ジョレーンが父であるノーグの元へと駆け寄って行く、その後ろではメイドのリドルが息を切らせながら付いて来る。

 

「お父様、あの方たちは!?」

 

ジョレーンは車列側の見たことの無い異国の衣装を着た人々を見ながら父親に訊ねる。

 

「あぁ……あの方々は、以前話していた二ホン国の方だよ! 国との協定で我が村の未耕作地を二ホン国に貸し出す事になったんだ、ヒルカワ殿、モロボシ殿……こちらは私の娘、ジョレーンです!」

 

「レーキ・ゾラ・ノーグの娘、ジョレーンと申します、二ホンの皆さま、ナエノデンエン村へようこそ。」

 

ジョレーンは両手でスカートの(すそ)を軽く持ち上げ挨拶を行う……リドルはまだ警戒しているのか、ジョレーンの後ろに隠れながら一緒に挨拶していた。

 

( あの方々が、お父様が話していた新しく国交を結んだ二ホン国の人々ですかぁ……皆さん人間族の様ですが、黒目の黒髪で顔が平たい方達ばかりで……奇妙な緑色の服を着ている方々がいっぱい居ますが、ベルベットの様な明るい色の不思議な生地の服を着ている方もいますわ……。)

 

ジョレーンは初めてみる二ホン人達が着ている服装に興味を持っていると、横にいたリドルが大きな声で騒ぎだした。

 

「お・お嬢様……この荷車、鉄で出来ていますわっ!! それにこんな大きなガラス……私、初めて見ます!!!」

 

自衛隊の73式大型トラックを見てリドルは驚きの声を上げる、木や石で造られた物ばかりの土地で住んでいた彼女にとってこんなに大きな鉄で出来た物は初めて見る上に、ナエノデンエン村ではノーグの屋敷にしか使われていないガラスが……しかも大きな一枚ガラスが荷車に使われている事に驚くも、ジョレーンの反応が鈍い為、リドルは捲し立てるかの様にしゃべり続ける。

 

「だ・だってお嬢様! お屋敷の窓ガラスよりも大きなガラスなんですよー!! それに大釜よりも大きな鉄で出来た物が動くなんて!!!」

 

立て続けにしゃべりまくるリドルの「大釜」と言う言葉を聞いてジョレーンは何かを思い出す……。

 

「ん~!? 大きな釜??……あ~っ!! 大変ですわ、お父様~!!!」

 

比留川達と会話を続けていたノーグに対し、ジョレーンがおっとりとした口調で父親に話しかける。

 

「お父様達が早く戻って来られるものだから、歓迎の準備やお料理も何も出来ていませんわ~!」

 

彼女の言葉に比留川は、そう言えばまだ昼食を取っていない事を思い出すと、何処からか「ぐう…」と誰かの腹が鳴る音が聞こえてきた。

 

続く




日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く、第三話にてようやく本篇の舞台であるナエノデンエン村に到着しました。

次回はクワ・トイネでの事務所建設と調査を中心に異世界の伝承で在る『太陽神の使者』の足跡を辿って行く話が中心となります。

用語

大水道橋

大草原と呼ばれる平野部を横切る、南部の水源地から公都クワ・トイネへと水を供給する為に造られた総延長500kmを超える水道橋、魔王軍の侵攻で破壊されたミズトイネ王国の王都(後の公都クワ・トイネ)を再建する際、人口増加により将来的に水不足が発生する事を見越して、かつて世界の門の建設に携わったドワーフ族の工匠達により800年以上の歳月を掛けて建設された。
現在でも補修と拡張工事が行われて、クワ・トイネ公国の貴重な水資源として利用されている。

トアル村

ナエノデンエン領では無いがノーグが統治しているサージレイ丘陵地の有る村、村の対岸へ行く為の大きな木造の橋が架かっているが、強度の問題でトラック等の車両の通行は不可となっている。
最初は『トリアエズ村』と呼ばれる予定でした。

リング状の構造物の遺跡

クワ・トイネ公国のマイハークとクイラ王国の高地にのみ存在する輪っかを立てた様な形をしている謎の遺跡、直径約6~8m程の環状に合わせて、どの異世界国家の文字とも系統が異なる謎の文字が刻まれている。
クワ・トイネ公国側はリングの頂点部分が破壊されており、クイラ王国側にはリングの周囲に原油が噴き出している油田らしきものと精油所を思わせる古い遺跡が存在している。
かなり古い遺跡で有る以外、クワ・トイネ公国でもこの遺跡に関する伝承等が無い為、誰が何の目的で作られたかも謎となっている。
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