日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く   作:アニキ イン ザ スペース

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第四十一話 それぞれのエピローグ【山内・田崎編】

中央歴1639年(西暦2015年)9月27日 日本国東京都千代田区有楽町 西礫(せいれき)デュアルタワービル CLUB ARTEMIS

 

街の一角に在る古ぼけたのビルの地下からけたたましい重低音が鳴り響き、過激なパーヴィースタイルの衣装を着た女性DJのミキシングに合わせて人々が踊り始める……オフィス街と官庁街の近くに在りながら都内でも屈指の大型クラブとして知られている「CLUB ARTEMIS」では、ロウリア事変終結を祝い「Victory Night Fair」と呼ばれるイベントが開催され今日も多くの人々で賑わっていた。

 

そんな音楽が鳴り止まないクラブの一画の奥に「VIP ROOM」と書かれた部屋の中では2人の男達が話会う姿が有った……。

 

「成る程……そのアデムとか言う野郎は結局、行方知れずと……!?」

 

長く茶色に染めた髪と派手なブランド物の背広を着た男がそう言うと、向かいの椅子に座っている紺色の背広に黒縁のメガネを掛けた大柄の男は話を続けた。

 

「はい、アデムはギムから逃亡後、自らの魔獣の軍勢と合流してジン・ハークまで移動したようです、どうやらそこでサーカス団に偽装して船で国外へ脱出したと……調査に当たっていたクワ・トイネ公国の情報部もそれ以上の情報は(つか)めていません。」

 

「やれやれ……こうゆう戦局の不利を判断して味方を置いて逃げる奴は、後で何を仕出かすか判んないから面倒なんだよな~!」

 

茶髪の男はそう呟きながらソファーにだらしなく座り込む……一見、軽薄なホストの様にしか見えないこの男こそ自衛隊の秘密組織、陸上幕僚監部運用支援・情報部別班の司令官、新門(しんもん) 隼矢(じゅんや) 一等陸佐その人で在った。

 

表向きは自衛隊を退官後、自ら立ち上げた興行会社(こうぎょうがいしゃ)の経営者を装っているが、別班のトップとして裏社会にまで張り巡らせた情報網を駆使し国内外から様々な情報を入手しており、ここ「CLUB ARTEMIS」も彼の情報収集の拠点として使われていた。

 

「政府は奴を戦争犯罪人として捕まえたい様だが……。」

 

「……今は無理ですね、そもそも自分達はこの世界の事を何も解っていません!」

 

新門 一佐の言葉に紺色の背広の男こと山内 哲也 三佐がそう答えると、ソファーにぐったりとした状態で座ったままの新門 一佐はダルそうな表情をしながら山内 三佐に顔を向ける。

 

「奴の事は公安外事課(ソトゴト)に任せるとしよう……それと山内、お前は半年近くクワ・トイネに出張してたんだ、俺の裁量(さいりょう)でひと月休暇をやるから、早く奥さんの所に帰ってやれ!」

 

「!?……家内がどうかしましたか?」

 

「昨日から絶賛徹夜作業中(ぜっさんてつやさぎょうちゅう)だ!」

 

「あちゃー!」

 

新門 一佐の言葉に山内 三佐は思わず頭を抱えてしまった……。

 

 

翌日 東京都杉並区和泉の住宅街

 

 

神田川から南へと坂を登った古くから在る住宅街の一画、送迎の車から降りた山内は「小美野(こみの)」と書かれた表札が掲げられた一軒家の前に立ち上まりインターホンを押した。

 

……しかし応答が無かったので、山内は鍵を取り出し扉を解錠すると、そのまま玄関内へと入って行った。

 

「あっ!」

 

玄関に入った山内の目の前には学校の校章が入ったジャージを着た野暮(やぼ)ったい感じの女の子が立っており、入って来た彼を見るやあたふたしながら騒ぎ始める。

 

「あーっ、すまねえ! おらインターフォンの使(つけ)ぇ方が分がんなぐで……はわわっ!!!」

 

「……ただいま、タエちゃん!」

 

山内の言葉に彼女は一瞬、固まった様に沈黙するが、すぐに大声を上げながらバタバタと部屋の中へと駆け込んで行く!

 

「せんせー! ダンナさまがぁ、ダンナさまが(けぇ)ってぎだー!!」

 

地元の言葉丸出しで慌てる彼女を見て、山内は苦笑いをしながら靴を脱ぎ部屋へと入って行った……。

 

「おかえり〜、ゴリダンナ! 早く土産(みやげ)寄越(よこ)せーっ!!」

 

「スーパーアシが帰って来た! これで勝つる!!」

 

リビングに入るやソバージュヘアと長い髪をヘアクリップで留めた女性達が声を上げる! 山内は彼女達とリビングに乱雑に置かれた空のフードパックの山を見て、その女性とは思えぬズボラぶりに思わず呆れてしまう。

 

「コイツら……それよりアイツはどこにいる!?」

 

山内の言葉に2人は困った表情で顔を見合わせると薄暗い部屋の有る方向を指差した……。

 

「ん~! どれどれ……あっ!?」

 

山内が部屋を覗くと薄暗い部屋の奥にヘアバンドで髪を留めた小柄な女性が液晶タブレットに向かって()(とり)かれたかの様に作業を行なう姿が有った。

 

「あ〜! へんしゅうさんあとにさんぺーじ、さんぺーじですから……。」

 

彼女はそう言うと再びモニターに向かい作業を続ける……山内 哲也の妻で在り漫画家の小美野(こみの) 繭美(まゆみ)は今、連載漫画の締め切りに間に合わせるべく不眠不休で執筆(しっぴつ)を続けていた……。

 

「まったく……編集さんって、オメェの担当さんは女性だろう!」

 

「ゴリダンナ〜! 彼女、もう限界突破しているから今、作業止めると当分動けなくなるよ〜!!」

 

ソバージュヘアの女性がそう言うと、山内は「そうか……。」と言いながら顔を引きつらせる……彼女とヘアクリップの女性は妻で在る繭美の大学時代からの漫画仲間で執筆の手伝いで来ているのだが、山内に取っての彼女達は親の金で同人活動を行なうデリカシーの無い悪友でしか無かった。

 

「そ・そういえば、ター坊はどうしている……!?」

 

「ダンナさま、こちらです……。」

 

ジャージ姿の女の子……皆なから「タエちゃん」と呼ばれているアシスタントの彼女がもう一つの部屋へ山内を案内する……そこにはベビーベッドで寝息を立てながら眠る赤ん坊の姿が在った。

 

「ただいま、ター坊……しばらく見ない内にまた大きくなったな……。」

 

山内はそう言いながら赤ん坊の頭をそっと撫でる……転移前に山内と繭美との間に生まれた男の子は、山内が敬愛する亡き祖父の名を取り「太一郎」と名付けられていた。

 

「先生が急がしくてベビーシッターさんがいない時は、私がターくんの面倒を見てました……起きているとすごく元気な子で、寝ていると本当に天使見たいです!」

 

「ありがと、タエちゃん……ター坊も喋れる様になったら、きっとタエちゃんの事をママって呼ぶと思うぞ!」

 

「えーっ! そだの困りますぅ!」

 

山内の言葉にタエちゃんは地元の言葉丸出しで困り顔になる……そんな彼女を見て笑っていると、リビングから女性達の呼び声が聞こえて来た。

 

「お〜いゴリダンナ!『ちんぽこう』って沖縄のお菓子じゃない!! 異世界のお土産って無いの!?」

 

リビングの机に置いていた土産袋を繭美の悪友達が勝手に漁っているのを見て山内は再度、呆れつつも言い返す。

 

「テメェら何を勝手に……検疫の問題で食いもんは持ち込めねぇんだっ! だいたいクワ・トイネ饅頭でも有ると思ってんのか!? クワ・トイネの土産は一番奥の……コラッ、勝手に開けんじゃねぇ!!」

 

彼女達は山内の言葉を無視して袋の奥に有った箱を開くと中から翡翠の枠に色鮮やかなステンドグラスで描かれた神々しい女性の御像(ごぞう)が出て来た。

 

「なに!? 食べ物じゃないの……えっ、何これ!? 何だろ……凄く綺麗……。」

 

彼女達は取り出したクワ・トイネの土産を見るや、その美しさに魅入られた様に見取れてしまう……。

 

「そいつは異世界の女神様を象った御像で本来、(ほこら)(まつ)られてた物を特別に貰ったんだ。」

 

この『緑の神の御像』は山内がクワ・トイネを去る前にオコシ団長から勲章の代わりに渡された物で、御像自体に不思議な力が備わっているとオコシ団長より聞かされていた。

 

御像を見つめている女子達を余所に山内はキッチンの冷蔵庫を開けるも、中には栄養ドリンクとミネラルウォーターしか入っていない事に思わず閉口した。

 

(やれやれ……ここにいる女共にメシなんか作らせたら、メシマズどころか命に関わるからな……毎日、美味いメシがやって来たクワ・トイネが懐かしいぜっ!)

 

山内はそう思いながら、近所のスーパーへと買い物へ出かける準備を始めるので有った……。

 

 

それから一夜が過ぎ、間も無く夜が明けようとする頃……。

 

「ふひ~っ、やっと終わった! ゴリダンナ~、後は宜しく!!」

 

「それではお疲れ様でした~!」

 

ようやく原稿が描き終わり、手伝いとアシスタントの女子達を見送った山内は玄関の扉を閉めながらため息を付く……。

 

(はぁ……家に帰るや料理に片付け、そしてター坊の世話だけでは無く、原稿の手伝いまで夜通しやる羽目になるとは……クワ・トイネに居た時よりもハードだぜっ!!)

 

彼がそう思いながら部屋に戻ると原稿を描き終えた繭美が彼を見るなり抱きついて来た。

 

「お・おい……どうしたんだよ!?」

 

山内が驚きながらもそう言うと、彼女は目に涙を溜めながら彼を見上げる……。

 

「……怖かったんだよ! (てつ)ちゃん、仕事でクワ・トイネに行くって言った後、すぐ戦争が起こって、連絡も哲ちゃんからしか出来ないし! もし、哲ちゃんに何か有ったら私……。」

 

「繭……すまん。」

 

山内は言葉少なげに答える……彼と繭美は高校時代からの付き合いで有り当時、チビでメガネなオタクと言うだけでイジメられていた彼女を山内が助けた事が交際の切っ掛けだった……。

 

高校の頃からコワモテの巨漢で、喧嘩無敗(けんかむはい)と言われた暴走族の総長をワンパンで倒し、ボロ屋に住む祖父の元には何故かニュースで見た事の有る(えら)い人々が頭を下げにやって来る……そんな彼が言葉を掛けてくれただけで彼女へのイジメはピタリと止んだ。

 

だが彼女に取ってそれより嬉しかった事は、自分が描いていた絵を山内が評価し()めてくれた事で有った。

その後、漫画家としてデビューするまで励ましてくれたのも、他ならぬ彼だった……。

 

山内は彼の胸で寝息を立て始めた彼女の髪をそっと撫でる……山内は彼女と結婚した時、姓を彼女と同じ「小美野」に変え、自衛隊を退職すると保守系の財団に転職し、シンクタンクの職員として働き始めた。

 

しかし、それは『別班』のエージェントとなる為に組んだ世間を欺く為の擬装工作(ぎそうこうさく)の一環で有り、そんな彼の正体を彼女は知る由も無かった。

 

(いや、繭の事だ……オレが何をやっているか薄々気付いているかも知れない……。)

 

山内はそう思いつつも右手で彼女を抱き止めながら、左手で机に置いていたタブレット端末を手に取った。

 

「クワ・トイネの写真を取って来たんだ、起きたらター坊と一緒に見ような……!」

 

彼が小声でそう言うと、眠っていた繭美が目を覚ましタブレット端末をばっと奪い取る! そして、さっきまで寝ていたと思えない速度で端末を操作し始めた。

 

「おお〜っ! コレが異世界国家ですかっ、凄くファンタジーな建物!! うおっ、これはエルフにネコミミまで!? こんな所に行って来たなんて、ズルイぞっ哲ちゃん!!!」

 

彼女が目をキラキラと輝かせながらタブレット画面を見つめる姿に山内は呆れ果ててしまう。

 

「いいから寝ろ!!!」

 

本職よりハードな彼の休暇は始まったばかりで有った……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年)11月27日 クワ・トイネ公国 ギムの街

 

 

国境の川の西の対岸に半壊した建物が建ち並ぶ街並みにクワ・トイネ公国の国旗たる緑の神の肖像が西風に緩やかに靡く……。

多くの建物が破壊されたギムの街は解放から5カ月が過ぎてもその復興は道半場(みちはんば)で有った。

 

街の人々の多くがロウリア軍に殺害され、生き残った人々も奴隷としてロウリア王国に拉致されたまま未だ帰ってくる目途(めど)が付かない為、街の復興を担う人々にはクイラ王国から来た出稼ぎの獣人やドワーフ達の姿が多く見受けられた。

 

そして破壊を免れた西側の市街地ではエジェイの街から両親の元へと帰って来たアメリア姉妹が復興を指示する父の手伝いを行なっていたが……。

 

「もう……カエラったら、ボンヤリして〜! またお母さんに怒られるよっ!!」

 

姉のアメリアが窓の外をぼおっと見ている妹のカエラに注意をするが、カエラは外を見つめたまま呟くかの様に話し出す……。

 

「ねぇ……あれって、ニホンの飛行機械だよね!?」

 

「……あっ!?」

 

2人はギムの街の上空を編隊を組みながら飛行する自衛隊のヘリコプターを見上げる……エジェイの街に居た時は何度か飛ぶ姿を見ているが、ギムの街に戻って来てからヘリコプターを見るのは初めてで有った。

 

「あれにタザキ様が乗っているのかな〜!?」

 

「タザキ様……。」

 

2人は自分達を助けてくれた二ホン国の戦士タザキの事を思い出す……端麗な容姿とロウリア兵を物ともしない強さ、エジェイに避難した後も姉妹達の事を気遣ってくれるだけでなく、ギムの街に潜入し両親と祖母の無事を知らせてくれた事で、姉妹達に取っては命の恩人で有り憧れの人でも在った。

 

しかしエジェイ防衛戦以降、タザキは姉妹達の前に姿を現さなくなり、彼と同行していたエルフの冒険者によると「元いた部隊に戻って行った」と話していた……。

 

「お姉ちゃん、タザキ様……まだクワ・トイネに居るのかしら!?」

 

カエラの言葉にアメリアは通り過ぎて行くヘリコプターの編隊を見上げながら笑顔で答える。

 

「タザキ様がクワ・トイネに居るのなら、きっとまた会えるわよ!」

 

2人はタザキの事を思いながら、ヘリコプターが見えなくなった後も空をずっと見続けていた……。

 

 

同日 ロウリア王国 ビーズルの街の郊外

 

 

君主たる国王が敵国に拉致されると言う前代未聞の事態で敗戦を迎えたロウリア王国は戦争終結から3ヶ月近くが過ぎても混迷(こんめい)の中に有った。

 

クワ・トイネ公国の国境に最も近い都市、ビーズル郊外の荘園(しょうえん)も、戦争により君主と働き手を失った事でその土地は荒れるがままとなっていた。

 

そんな主を失った筈の荘園の邸宅前には、豪勢な装飾を施した馬車が数台停まっており、顔を仮面で隠した身なりの良い人物が次々と邸宅の中へと入って行く。

 

「此方です、どうぞ!」

 

仮面を付けた太った貴族らしき男は赤紫色のローブを着た初老の男により邸宅のホールへと案内される。

 

広いホールの周囲は帯剣した用心棒に囲われ、用意された机と椅子には彼と同じ様に仮面で顔を隠した貴族、商人、富農達が座っており、中でも舞台の前に座っていた黒いビロードのフードと銀色の仮面を被った2人の男達は、机に置いた袋から金貨を取り出しジャラジャラと鳴らしながら袋に落とす事で大金を持ってる事をアピールしているかの様だった。

 

最後に案内された客が席に付くと、榛摺色(はりずりいろ)の上物な服を着た奴隷商人の男が舞台に上がって来た。

 

「皆様、ようこそお越し下さいました!」

 

奴隷商人の男が挨拶をすると、手枷と首輪を嵌められた薄着の少女達が舞台へと上げられた。

 

「それでは『人売りガドゥ』のオークションの開催です!」

 

男はそう言いながら邪悪な笑みを浮かべると、1人の少女が舞台の前へと連れ出されて行く……。

 

主を失ったこの邸宅は今や人身売買組織のオークション会場となっており、戦争の混乱に乗じて拉致してきた人々を奴隷として売買していた。

 

奴隷にされた少女達はオークションで次々と落札され、その金額の高さに沸き立つ会場は彼女達のすすり泣く声をもかき消していく……そして次に獣人族の少女が舞台の上に立たされた。

 

「さぁ、次は今回一番の商品で有る『牛角族(ぎゅうかくぞく)』の少女だっ! 見て下さい、この容姿ながら識字も出来て処女ときている滅多に出ない掘り出し物ですよっ……開始金額は金貨100枚からとさせて頂きます。」

 

頭に短い角と平たい耳を生やした獣人族の少女の横で『人売りガドゥ』がそれまでよりも高い開始値を告げると周囲から驚きの声と共に競りの掛け声が次々と上がり始める。

 

「120!」「150!」「170!!」……「200!!!」

 

あっという間にオークションの最高金額を越え会場は熱狂に包まれるが、それまでオークションに一言も発しなかった黒いビロードのフードを被った男が大きく手を叩き始める。

 

最初は競りに夢中になっていた男達だが様子がおかしい事に気付き、競りの掛け声を止め最前列の男の方へと顔を向ける……。

 

銀色の仮面の男……陸上自衛隊特殊作戦群司令官で在る、次郎丸 尊 一佐は周囲が静まるのを見ると振り返りながら叫んだ!

 

「聞けっ! お前達全員をこの俺が買い取る、金額は……『ゼロ』だっ!!」

 

次郎丸 一佐がそう叫ぶと、ホールの左右の壁が爆発し、近くに居た用心棒達を吹き飛ばす! 穴の開いた壁の中から銃を持った黒づくめの隊員達が次々と現れ、逃げようとした者達を取り押さえながらホール内を包囲していく。

 

「なっ……何だキサマ等っ!? おいっ!!!」

 

『人売りガドゥ』がそう叫ぶと舞台の奥から剣を持った用心棒達が現れ、次郎丸 一佐を捕らえるべく向かって来た。

 

すると、それまで席に座っていたもう一人の男が黒いビロードのフードと銀色のマスクを脱ぎ捨て立ち上がる。

 

脱いだマスクから見える端麗な容姿と黒いベレー帽を被ったその男こそ陸上自衛隊特殊作戦群の隊員、田崎 蓮 三等陸曹その人で在り、向かって来る用心棒達に臆する事無く僅かな笑みを浮かべた。

 

田崎は金貨の入った袋に手を突っ込み中に隠していたソーコムMk23ピストルを取り出すと、向かって来る用心棒達を次々と撃ち倒し、驚愕する『人売りガドゥ』へと詰め寄って行く……。

 

「なっ……く・来るなっ、コイツがどうなってもいいのかっ!!」

 

『人売りガドゥ』は獣人族の少女を羽交い締めにすると持っていた短剣を彼女の首に突き付ける。

 

田崎はその行動に一瞬、動きを止めるがソーコムMk23ピストルに付けられたレーザー照準器を起動させ『人売りガドゥ』の目に直接レーザー光を照射した。

 

「ぐわっ!!」

 

両目にレーザー光を当てられた『人売りガドゥ』が悲鳴を上げ、その(ひる)んだ隙に田崎は獣人族の少女を自分に抱き寄せると左足で『人売りガドゥ』を蹴り飛ばした! 

 

田崎の蹴りをまともに受け、吹き飛んだ『人売りガドゥ』は舞台の壁に背中を強打するとそのままもたれ掛る様に倒れた……。

 

 

会場に居た奴隷商人やオークションに参加していた貴族達は次々と逮捕され、着陸してきたCH-47JA輸送ヘリコプターに次々と収監(しゅうかん)されて行く……途中、ロウリア軍のワイバーンが飛来してくるが、上空をF-15J戦闘機が飛行しているのを見るや直ぐに引き返していった。

 

日本国政府は一向に進まぬロウリア王国との拉致者の解放交渉に業を煮やし、密かに関係者を拘束して『直接交渉を行う』手段へと打って出た。

 

陸上自衛隊特殊作戦群は司法取引に応じた『人狩りジョコ』の手を借り、人身売買組織の情報を入手するやその拠点を強襲する事で次々と捕らわれた人々を救出していった。

 

「大丈夫!? 怪我は無かった……。」

 

田崎は獣人族の少女の手枷と首輪を外しながら優しく話しかけると、少女は顔を赤くしモジモジしながら答えようと声を出す……。

 

「あ・ありがとうございます……お・お強いの……ですね……わ・わたしと……つ……つ……。」

 

田崎は獣人族の少女の言葉に首を傾げた瞬間、彼女は大声で叫ぶ!

 

「私と『つがい』になって下さい!!」

 

「はぁ……!?」

 

その言葉に田崎を始めそれを聞いた周囲の特戦群の隊員達全員の目が点になる、獣人族の少女は周囲を気にする事無く田崎に()()り目を(うる)ませながら話し続ける……。

 

「つ・つがいが駄目なら、一度でいいですから私と『交尾』をっ!!!」

 

彼女はそう言いながら自らの胸を押し当てながら田崎に抱き着いて来る。

 

「おいっ田崎、つがいに交尾って何だよっ!?」

 

「知りませんよ!!」

 

田崎は離れようとしない獣人族の少女に困惑しながらそう答える……後で解った事だが、一部の獣人族の女性には本能的に強い男性を求める傾向が有り、奴隷商人達を次々と倒した田崎を見て彼女の獣人族としての本能を呼び起こしてしまった様だ。

 

結局、彼女はエジェイ駐屯地に戻るまで田崎にずっと抱きつき、道中のヘリコプター内では隊員達の冷たい視線が田崎に降り注いだ……。

 

続く




本編が終了しましたので、登場した人物のその後の話、別班、特戦群コンビの山内・田崎編です! 残念な事に文字数が多すぎる為に、最終回にならず3部構成となりました。
今回で山内のカミさんの正体が判明し、彼の私生活の一部が垣間見える回となりました。
次回は「赤毛のヘラと女騎士のトウミ編」となります。

用語

牛角族

獣人の一種で顔の両側に湾曲しながら横に伸びる角と平たい耳と尻尾を持っている。
男女共に人間よりも大柄で温厚な性格を持ち、農業に従事する者が多く見られる。
なお、古代に伝わる怪物「ミノタウロス」は古の魔法帝国が牛角族の男性を生体改造した生体兵器で有る。

緑の神の御像

山内が帰国する際、オコシ団長より受け取った神秘的な御像。
翡翠の枠に豊穣の女神で有る緑の神の肖像がステンドグラスで描かれている。
元はとある祠に祀られていたが、災害で破損した物をオコシ団長が譲り受け修繕した物で、永く祀られて来た為、少なからず緑の神の力を受け継いでいる。
その後、日本の小美野家のリビングに飾られながらも、小美野家を始めその周囲に神の加護を与え続ける様になった。
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