日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く 作:アニキ イン ザ スペース
「何を言っているんですか、最高のラーメンと言ったら『わっかない一番』に決まっているでしょ!」
「きしゃん、何ょ言いよ―とる! 『はかたっちゃん』がいっちゃんやろ!!」
「いんや、こごは『ぺらんこらーめん』だっべ!」
ロウリア王国使節団随行員の城戸 守と大使館の職員達が地元の言葉丸出しで推しで有るインスタントラーメンの名前を上げる姿に、在クワ・トイネ日本大使で在る田中 一久はいったい何が起こっているのかロウリア王国使節団長だった須藤 健司に話を伺う……。
「あの〜、さっきからラーメンの名前を言い合っているアレは何ですか!?」
「あぁ……同行していた冒険者達に食べさせるインスタントラーメンについて口論している様で……。」
「!? 成る程、それは良くないですね……!」
須藤の言葉を聞いた田中 大使はそう言いながら城戸達の元へと駆け寄って行く。
「話は聞きました! 私としては『カクちゃんの正統麺』こそが相応しいと思います!!」
「はぁ!? えええぇっ!!」
突然の大使の乱入に城戸と職員達は驚くも、地元ラーメンの面子が掛かっている以上、臆する事無く自ら推しのインスタントラーメンの討論を続けた。
「だから、ここは一番売り上げ数の多い『正統麺』を!」
「いや! 単品で売り上げ一番の「わっかない一番」が!」
「ならばココは『塩レモンバターラーメン』をっ!」
「「ゲテモノは黙っていろ!!!」」
インスタントラーメンの討論がますます激しくなり収拾が着かなくなる中、一人の男が部屋に乗り込んできて職員達に向かって大声で叫んだ!
「おう! さっきから黙って聞いてりゃ、大事な客人に出す食事がインスタントラーメンだぁ!? 何考えてんだおめぇらは!!」
その声に驚きながら振り返ると、そこには薄汚れたコックコートを着た小柄な老人の姿が有った。
「あっ……
職員の一人がその名前を呼ぶと田中大使を含む全員が黙り込んだ……彼らの前に現れたのは、在クワ・トイネ日本大使館の料理長を務めている源さんこと
転移前は東京の下町で安くて味に定評の有る定食屋を切り盛りしていたが、異世界の未知の食材と料理を知るべく店の全てを甥に任せ、在クワ・トイネ日本大使館の料理人としてクワ・トイネへとやって来た……のちに「食の冒険者」の名で呼ばれる調理師で在った。
「全くテメェらは、料理長のオレを差し置いて勝手にメシの事を決めるたぁいい度胸だぁ!」
口の悪い江戸言葉で囃し立てるかの様に話す源さんに対し言い返そうする職員達を田中 大使は制しながら間に入った。
「確かに『おもてなし』と言う点ではインスタントラーメンは失礼かと思います……ただ当人からの希望も有りますので、ここは献立に『ラーメン』を加えて頂けますでしょうか?」
田中 大使のやんわりとした口調での要望に源さんは笑みを浮かべながら言葉を返す。
「お大使様の要望と合っちゃ、断われねーな! おぅ、だったら『ラーメン』をメインディッシュにして他は軽めに作るが、それで良いかい!?」
「お任せします……ただ材料の方は大丈夫なんでしょうか?」
田中 大使の質問に源さんは腕組みをしながら自信有りげに言葉を返す。
「食材不足を何とかするのは何時もの事でさぁな、そうだな……チャーシューは炒飯用に作り置きが有るから、鶏ガラと昆布出汁ベースで醤油味のチャーシュー麺ってのはどうだい!」
源さんの言葉に職員達から「おおっ!」とどよめきが起きる。
「これは期待出来そうですね……是非、それでお願いします。」
「おぅ、任せときな! 早速、仕込みに言って来るぜ!!」
源さんはそう言いながら足早に厨房へと向かって行った……。
厨房に戻った源さんは冷蔵庫の中の食材を吟味をしながら、弟子で有る調理師達にテキパキと指示を出していく。
「おぅ、仕込みを始めるからズン鍋の準備をしろ、それとカッペリーニを4つ持って来い!」
「えっ!? カッペリーニってパスタですけど、いいんですか!」
調理師の質問に源さんは食材を選別する手を動かしながら答える。
「ソイツはシナ麺の代用品でな、重曹を入れて茹でると麺ソックリな味と歯応えになるんだ!」
源さんはそう答えると、沸騰し始めた寸胴鍋に取り出した鶏ガラと昆布、そして臭み消しの長ネギを入れ、コンロの炎を目分量で調整を始めると厨房に美味しそうな匂いが漂い始めた……。
「さて、具にもう一品欲しいトコだな……ナルトの代りに蒲鉾をを使うか……。」
そう言いながら冷蔵庫より最後の一品で有る蒲鉾を取り出し、自ら包丁を使いながら薄切りにしていく……こうしてラーメンは無事完成し、ロウリア使節団の護衛を行なった冒険者達を労う為の晩餐会で『異世界の料理』として非常に好評を得た。
そしてこの事は後に宝大陸社より出版された『世界面白歴史書』にて「ラーメンを初めて食べた異世界人」として6人の冒険者達の名が記載される事となった。
その後、源さんこと高柳 源は港で働く日本人労働者達の要望で洋食屋で有る『三毛猫亭』を新マイハーク港で開業するが、『ヨウショク』と言うニホンの料理を味わうべく多くのクワ・トイネの人々が多く訪れ、今日も賑わいの様相を見せていた……。
中央歴1639年(西暦2015年)11月28日 クワ・トイネ公国 レントの森
異世界転移から初めての冬を迎える中、ここクワ・トイネ公国も日を追う事に肌寒さを感じる季節となり、人々は冬への準備を備え始める。
ギムの街より北部の森林地帯、現地の住民すら決して踏み入れる事の無い『レントの森』と呼ばれる森の中を馬を引き連れた8人の冒険者達が奥地へと進んでいた……。
「むぅ……森の中とは言え流石にこの時期は冷えるな!」
「全くでゴザルなぁ、しかし本当に『ニホンのお宝』がこの森の中に有るのでゴザルかぁ!?」
「何だい、アタシの話を聞いて一番喜んでいたクセに今更、何を言ってんだい!」
野太刀を背負った剣士のボヤキにエルフの女性が厳しく口を
エルフの女性ことロデニウス大陸一の野伏と呼ばれている「赤毛のヘラ」はクワ・トイネ公国外務局からの指定依頼を終えた後、公都クワ・トイネに滞在していたが、そんな彼女の元に日本から一通の手紙が届いた。
手紙には大陸共通語で「森の案内をして頂いた事に対し部隊を代表し御礼申し上げます、御礼の品を泉の拠点に置いていますので、早い内にお引き取り下さい……フリッキーより」と書かれていた。
当初、ヘラと魔獣使いチチーナの2人で泉の拠点に行く予定だったが、彼女の知り合いで有る「砕刃のローシュ」よりニホンの使節団を護衛した時に多くのニホンの品物に触れる機会が有ったとの話を聞き、その
「赤毛のヘラ」「砕刃のローシュ」「黒剣のスターン」「斬馬のサンジュン」「兜抜きのミル」「聖域のルドミナ」「紺炎のカシュエル」そして魔獣使いのチチーナと
「しかし、いつ来ても迷ってしまう場所ですね……ヘラさんの案内が無いと絶対迷子になってますよ!」
メンバー最年少の弓使いこと「兜抜きのミル」が森の周囲を見渡しながら呟いている姿に、ヘラは彼女の案内が無くとも森を行き来していたニホンの兵士達の事を思い出す。
ニホンの兵士達は目に見えない薬剤を木々に塗り付けそれを目印に森の中を移動していたが、それでも道に迷う事が度々有ったらしい。
その時はどうしたのか聞いて見ると、レントを見つけて「泉の拠点」の方角を教えて貰ったと聞いた時は流石の彼女も目が点になった……。
やがて一行は目的地で有る「泉の拠点」へと到達するが、以前と様子が違う事に冒険者達は気が付く。
「!?……前回ここを訪れた時にはレントは泉からもっと離れた場所に居た筈だが……。」
「黒剣のスターン」は、泉の近くで根を下ろすレントを見てそう指摘すると、今度は泉の近くに建てられた丸太小屋を見てローシュは驚きの声を上げる。
「おい、アッチに建っている小屋、木を伐って作られていないか? 一体、どうやってこんな事を……!?」
この『レントの森』で、木を伐り倒してレントの怒りを買おうものなら、例え「二つ名」を持つ彼等で有っても生きて帰れる保証は無い……メンバー達が驚く姿を見て、ヘラは苦笑いの表情で答える。
「あぁ……信じられないかも知れないが、ニホンの兵士達はレントと話す事が出来るんだ!」
「はぁ、今なんと……!?」
ヘラの言葉にチチ―ナを除く全員が驚きの表情を浮かべる。
「彼等はレントから若木の生育に邪魔な倒木を退かす様に依頼を受けたって言ってたんだ、それでその倒木を使って小屋を作り始めたんだけど……アタシもレントの目の前で木を切っている姿を見た時は本当にびっくりしたよ……。」
「なんとっ! 確かにニホン人は他の国の者と違って
魔導士で在る「紺炎のカシュエル」がヘラの言葉に思わず呟く中、チチーナが小屋を指差しながら皆に話す。
「ねぇ!『ニホンのお宝』って、あの小屋の中に有るのかにゃ?」
「おおっ!」
チチーナの言葉にメンバー全員が色めき立ち、中でも野太刀を背負った「斬馬のサンジュン」は我先にと丸太小屋へと駆け出して行く。
「ムホッ! お宝と聞いて、辛抱たまらんでゴザルょ!!」
「も〜う! サンジュンったら、抜け駆けは駄目だよ!!」
サンジュンとミルの掛け合いに他の冒険者達は笑いながらも、一行は丸太小屋の入口へと向かった。
特戦群の偵察隊によって建てられた丸太小屋は周囲の外観に溶け込む様に外壁の丸太に苔が貼り付けられ、
「ほう……これは!」
丸太小屋に入ると中は以外と広く、冒険者達8人が入っても窮屈さを感じる事も無い普通の家を思わせる程に作られていた。
「これは……丸太小屋とは思えないぐらい内装がとてもキレイに作られているわ!」
「外の光を取る窓も広く取られて……むぅ、これはガラスでは無いな!?」
「聖域のルドミナ」が内装の作りに驚いていると、カシュエルは透明アクリル板で作られた窓を興味深そうに眺める……そして木で作られた机の前には『お宝』で有ろう4つの大きなバッグが目の前に置かれていた……。
「むぅ……コレが『ニホンのお宝』でゴザルかぁ!?」
サンジュンは緑色の軍用バッグを見ながらそう呟くと、ヘラが笑いながら彼に答える。
「あぁ……この鞄だけでもニホンの物だから値打ちものだけど、本当の『宝』はこの中だよ!」
ヘラはそう言うと軍用バッグを開け、中に入っている物を取り出した。
「おおっ! これはっ!?」
軍用バッグの中からニホンのお菓子が出て来た事に冒険者達は歓喜の声を上げる。
「すご〜い! これ、キドさんから貰ったのと一緒だっ!!」
ミルはスナック菓子を見るや子供の様にはしゃぎ始め、手に取って開けようとするが、ヘラに止められる!
「こらっ! 皆で分けるんだから、勝手に食べないのっ!!」
ヘラの言葉にミルはシュンとしながら手を引くと、ルドミナがある品物を見て目を輝かせる。
「まぁ……これ、コーヒーにチョコレートですわ! ニホンでも貴重な品物だと言われてますのに……。」
彼女は以前、その味の虜になったコーヒーが有る事に顔を綻ばせ、貴重品を自分達に渡してくれた事に感謝の言葉を述べると、今度はサンジュンが
「なんとっ、これは……カ・カップらぁめんでゴザらぬかっ!!」
それは冒険者達が公都クワ・トイネの二ホン大使館に招かれ、
サンジュンは目の前に置かれたカップラーメンを見て興奮の余り取ろうとするがヘラに手を叩かれ、慌ててその手を引っ込めた。
「全く! アンタ達は油断も隙もありゃしないねっ!!」
「もう~! ヘラ殿はイケずでゴザルなぁ……。」
フェン王国の名だたる
「さ〜て! この『お宝』は事前の打ち合わせ通り、皆で山分けの約束だ!!」
ヘラの言葉にそれまで和やかだった冒険者達の表情が変わる。
「まずは欲しい物を一つずつ希望を上げていこう、まずアタシはこのバッグだね!」
ヘラが冒険者達に向かってそう言うと、彼女は大きな軍用バッグを手に取った。
「じゃあ、ボクはこのお菓子で!」
「ならば拙者はこのカップらぁめんをば!」
「では、私はこのインスタントコーヒーを宜しいでしょうか?」
それぞれが欲しい品物を順番に上げ、揉め事になる事も無く無事『ニホンのお宝』の分配は終わった。
「ムフフッ……夢にまで出て来た、あの『カップらぁめん』をまた食べれる日が来ようとは……大使館で食べた『らぁめん』も美味かったでゴザルが手軽に頂けるコチラの方が拙者の好みでゴザルよっ! あぁ……もう待ちきれ無いでゴザル!!」
小屋の外に出たサンジュンがワクワクしながら火でお湯を沸かすべく周辺の小枝を集め始めると、それを見ていたローシュとスターンが呆れた表情で彼に告げる。
「サンジュン、ここで本当にお湯を沸かすつもりなら、俺達からもっと離れた場所でやってくれよ……!」
「そうだな、
2人の言葉にサンジュンは「あっ!?」と言いながら有る事を思い出し、そっと後ろを振り返る……そこには森の番人で在るレントの「泉の見張り役」が彼をじっと見つめる姿が有った……。
「あーっ! こ……これは、決して火を点けようとした訳では無いでゴザルよっ!!」
レントの姿を見てあたふたと慌て出すサンジュンの姿に冒険者達は笑い出す。
その後も「赤毛のヘラ」を始めとする冒険者達は日本国の依頼を受け、数々の冒険を繰り広げる事となる。
そして、その冒険談は後世の人々によって様々な物語として語り継がれるので有った……。
中央歴1640年(西暦2016年)2月23日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村
冬の枯れ草から
開通当初、混合列車だった旅客車両はクワ・トイネ公国の最東端の街ヤキノハータへの鉄道開通を機にマイハーク〜ヤキノハータ間の旅客専用列車が開業すると、公国ではこれまで「一生に一度の長旅」と呼ばれていた「リーン・ノウ拝殿への巡礼」が列車で気軽に行ける様になった為、ちょっとした旅行ブームに湧き立っていた。
そして今日もマイハーク発、ヤキノハータ行きの旅客列車がナエノデンエン駅の旅客列車用のホームへと停車する……開いたドアから深くフードを被った巡礼者と思わしき若い2人の女性がホームへと降りて来た。
「お客様……リーン・ノウ拝殿へ向かわれるのなら、次の駅になりますよ!」
巡礼者が駅を降り間違えたと思い駅長自らが駆け寄ってそう話掛けるも、彼女達は落ち着いた様子で駅長に乗車券を渡した。
「いや……ここ、ナエノデンエンで問題無い!」
駅長は乗車券の行き先がナエノデンエン駅で有る事を確認すると、恭しく礼をしながら彼女達に乗車券の返却を行なう。
やがて旅客列車は次の駅へと出発を始め、ホームを降りた彼女達は汽笛を鳴らしながら去って行く列車を見送りながら深く被っていたフードを脱ぎ払った。
1人は長いストレートの黒髪、もう1人は緩やかなウェブが掛かった金髪を共にそよ風に靡かせる……。
「ほぅ……噂には聞いていたが、これがナエノデンエンかぁ……。」
黒髪の女性こと、マイハーク防衛騎士団長のイーネは丘の向こうに建てられた風力発電機の巨大な風車が回る光景に圧倒されながらもそう呟く……。
「あぁ……私もこの場所に来るのは初めてだが、コレがニホンの恩恵を受けた村の姿か……。」
金髪の女性こと、銀山羊騎士団の女騎士トウミも、村の建物全てに窓ガラスが在る事と公都でもニホン大使館の公用車でしか見かけ無い乗用車が走っている事に驚きを感じていた……。
今回、2人は巡礼者に扮してお忍びでここナエノデンエン村へとやって来た。
巡礼地へ行く一つ前の駅で降りる彼女達を怪しむ者は有れど、それが騎士団団長と国民的英雄だと言う事に誰も気付かなかった。
「イーネ様、トウミ様、ナエノデンエン村へようこそ!」
そんな彼女達にドワーフのメイドを連れたエルフの少女が微笑みながら挨拶をしてくる。
「!?……ジョレーン! 私達の仲だろう、様付けはよしてくれないか!」
「そうだ、そうじゃ無いと私達も『ジョレーン様』とお呼びしないといけなくなる!」
イーネとトウミがそう言うと、3人は笑いながら互いの手を取り合った。
旧知の仲で有る3人は最近、旅人の間で話題になっている「ナエノデンエン駅で売られているシュリッペ」を食べてみたいと言うトウミからの要望を受け、互いに連絡を取り合いながら二人が巡礼者に扮してナエノデンエンへ向かう事を話し合っていた。
「しかし驚いたよ、そのシュリッペをまさかジョレーンが作っていたなんて……。」
「うふふ……お陰様で大好評ですわ!」
トウミの言葉にジョレーンは笑みを手で隠しながら答える。
「ここで立ち話も何ですから駅の応接室をお借りしていますので、そちらに行きましょう。」
ジョレーンはそう言うと、イーネとトウミを駅舎へと案内した……。
駅の応接室は日本から輸入された大きな窓ガラスが使われており、3人が村の景色と紅茶を
「そうだっ! イーネには聞きたかった事が有るんだけど……オオウチダ将軍とは上手くいっているの!?」
トウミの言葉にイーネは飲んでいた紅茶を吹き出しそうになり、それを見ていたジョレーンはキョトンとした表情でトウミに問い合わせる。
「あら、オオウチダ将軍って確かニホンの『緑の猛将』って呼ばれている御方ですよね〜! それに『上手くいっている』って、どう言う事なんでしょうかぁ〜!?」
ジョレーンの質問にイーネがあたふたする中、トウミはニヤリと笑みを浮かべながらこれまでの事を話した。
「あぁ……私の聞いた話では、何でもマイハークの街で道に迷っていたニホン人のイケオジにイーネから話し掛けたらしい、それで道案内次いでにデートスポットで有名なディスウール教会に案内したって話だ……要するに『逆ナン』だな!」
トウミの話にその時の事を思い出したのか、イーネは顔を赤くしながら俯いてしまう……それを見たトウミは楽しげに話を続ける。
「そして、その翌日に開催された晩餐会で逆ナンしたイケオジが『緑の猛将』ことオオウチダ将軍だと知って目の前で卒倒してしまったと……。」
「あ〜ら! イーネったら思った以上に大胆なんですね〜!?」
その言葉にイーネは更に顔を真っ赤にし、今にも火を噴きそうな程になっていた。
「しかし、イーネにはイケオジさまの御相手が居るだけでも羨ましいですわ……あ〜ぁ、イーネの様にニホンになら素敵なエルフの殿方が居るのでしょうか?」
ジョレーンのとぼけた発言にトウミは呆れながらツッコミを入れる。
「ジョレーン、ニホンにはエルフは居ないぞっ! はぁ……私なんか『有名になれば婿探しには苦労しない』なんて伯父上に言われたが、男子共から『ギム解放の英雄に近づくなぞ畏れ多い!』なんて言われてんだぞっ!!」
トウミが自虐的に近況を話すと、今度はイーネがお返しとばかりに言い出す。
「トウミ、いくら何でも公王様の前であんな事をやれば、それはそうと言われるわ!」
「うぅ……。」
「あ~ら! トウミも何か有ったのですか!?」
イーネの言葉にトウミは公都での『やらかし』を思い出す……それは大公宮に飾られる新たな絵画のお披露目会に出席した時の事で有る。
大公宮の広間に公王夫妻と多くの貴族達が集まる中、巨大な絵画に掛けられた幕が外された……そこにはギム奪還戦で山内 一佐により撮影され、彼女をクワ・トイネの英雄にまで祭り上げた写真の一枚が壮大な絵画として描き写された事に人々は驚嘆の声を上げた。
「………何だ、コレは!」
しかし、天蚕のドレスを着て式典に参加していたトウミは絵画を見るや、優雅な粧いからは想像出来無い程の怒りで肩を震わせながら叫んだ。
そして周囲の貴族達を押しのけながら絵画を描いた宮廷画家の元へと向かいその胸ぐらを掴んだ!
「貴様、これはどう言う事だっ! あの魔写には一緒に戦った二ホンの兵士が写っていた!! なのにこの絵はクワ・トイネの兵士に差し替えられている……誰の指示でそうした!!!」
展示された絵画には彼女の奥に居た自衛隊員の姿が全てクワ・トイネの兵士に描き換えられており、その事に激怒したトウミは鬼の形相で宮廷画家に詰め寄る。
宮廷画家は驚愕の余り言葉を出す事すら出来ず、ある方向に目を向けた……トウミがその方向を見るとそこには彼女の母親の姿が有った。
「母上の指図だと言うのか……。」
トウミの言葉に宮廷画家は首をぶんぶんと縦に振る、彼女は宮廷画家から手を放すと今度は母親を睨み付ける……。
「トウミ……これは貴方とクワ・トイネの……」
「黙れっ! いくら母上の指示と言えど、私はこんな絵に描かれて飾られたくは無いっ!!」
トウミは彼女を
「二ホンの兵士達は私達と一緒に戦ってくれた、彼等がいなければ私達はギムの解放は
トウミはそう言うと燭台を振り回して絵画のキャンバスを切り裂いた! そして燭台を置き、公王夫妻に一礼すると彼女は泡を吹いて倒れている宮廷画家や呆然としている母親と貴族達を尻目に広間から立ち去っていく……途中、オコシ団長に目を合わせるもオコシ団長は彼女に
「なにそれ……! 貴方、本当にそんな事やったのっ!?」
驚くジョレーンの言葉に対し、トウミは罰の悪そうな顔をしながら答える。
「あぁ……陛下からのお
「全く、トウミは
「はぁ……それは伯父上にも同じ事を言われたよ!」
イーネの言葉にトウミはため息を付きながら肩を落とす……。
室内が重い空気に包まれそうになった時、入り口のドアをノックする音が聞こえた。
「お嬢様、焼きたてのシュリッペをお持ちしました!」
メイドのリドルが大きなトレイを手にして応接室に入ると美味しそうな匂いが部屋に漂い、それまでの空気を完全に吹き飛ばした。
「リドル、いいタイミングですわ……では
ジョレーンの自信有りげな言葉にイーネとトウミはトレイに置かれたシュリッペを手に取る……程よく焼けた丸いパンの上にチーズの様な柔らかいモノが乗っており、2人は少し首を傾げるも余りの匂いの良さに迷うこと無くシュリッペを口にする……。
「むっ……コレは!?」「美味しい!!」
表面の程よい固さと中の柔らかいパンには甘辛いソースが掛かった鶏肉と野菜が入っており、これまで味わった事の無い味覚が口の中に広がる。
「どうかしら、私自慢のテリヤキシュリッペは!?」
「すごい! とても美味しいわ……しかしテリヤキって何の事なの?」
「それと、このシュリッペの上に乗っているのはチーズとは違う様だが……?」
2人の質問にジョレーンはにこやかに答える。
「テリヤキとはニホン国由来の肉の調理法でして、ショーユと呼ばれているニホンの調味料をベースにしたソースを使ってますの! それとシュリッペの上に乗せているのはマヨネーズと言う卵を使ったものでして、コレもニホンの調味料ですわ……!」
ジョレーンの解説に2人は手にしていた食べ掛けのシュリッペを見ながら唸る……。
「ニホンのモノを使うとこんなに美味しくなるのか……。」
「これは公都でも食べる事の出来無い贅沢なものだぞっ!」
イーネとトウミはトレイの上に有ったシュリッペをあっという間に平らげると、今度は愛らしい衣装を着た若いエルフの少女が次の一品を持って来た。
「コレは新商品のフルーツシュリッペですの、試作品は取り合いが起きる程に好評でしたから御二方もきっとお気に召しますわ!」
銀色のトレイには先程のシュリッペと違い、柔らかそうな白パンの間に見た事の無い果物の実と白くてふわふわしているモノがたっぷりと盛られているのを見ると2人は本能的に「これは絶対に美味しい!」と感じるや迷う事無く口にほお張った……。
「「◎△$♪×¥●&%□?@#……!!」」
極上の甘味が彼女達の舌をなぞり脳をも刺激する……イーネとトウミはこれ迄味わった事の無い甘さにしばらく言葉を失ってしまった……。
「な・なんだ……この甘くて白いフワフワしたモノは! それにこの果物も初めて食べるぞっ!!」
「この宝石みたいな透き通ったモノは……果物なの!?」
2人は口に生クリームを付けたままジョレーンに向かって次々と質問を投げ掛ける、そんな彼女達の質問にジョレーンは笑いながらも答える……。
「ふふっ……そんなに慌て無くても質問にはお答えしますから、まずその白いのは生クリームと言いまして、少し煮詰めた牛乳をフワフワになるまで
「種が無い木の実!? そんなモノが有るのか……。」
「それよりも今、砂糖と言ったよな!!」
ジョレーンの言葉に2人は目を見開く、砂糖と言えば文明国でも贅沢品として扱われる品物で、その様な貴重品が惜しみ無く使われている事に彼女達は驚いた。
「このお砂糖は村で採れた
その言葉に2人は一瞬、手に持っていたフルーツシュリッペを落としそうになった……どう作られているかすら分からない砂糖がこの村で作られている!? それはこの村が文明国すら
「砂糖を……村で作っているだと……!?」
「えぇ……甜菜からお砂糖を作る方法をニホンの方から教わりましたの、それが何か……?」
フルーツシュリッペを食べ終えたトウミは身体を震わせながらイーネとジョレーンに向かって叫ぶ!
「決めたぞっ! 今日から銀山羊騎士団トウミ隊はここナエノデンエン村を駐屯地とする!!」
「えええぇっ!!!」
突如の言葉にイーネとジョレーンは座っていた椅子からずり落ちそうになった。
「ちょっとトウミ! 何言ってんのよっ!?」
突拍子も無い発言にイーネは口を挟むが、トウミは瞳を輝かせながら話し続ける。
「イーネよっ、判らんのか……このナエノデンエン村はクワ・トイネの新たな産業で有る砂糖の一大生産拠点だ! そして私の甘味…もとい、重要拠点の守護は我が銀山羊騎士団の責務で有るぞ!!」
「「要するに、甘いモノが食べたいだけでしょ……。」」
イーネとジョレーンの容赦ない指摘と冷たい視線に流石のトウミも何も言えなくなり部屋は少し気まずい沈黙に包まれる……すると外からバタバタと言う聞き慣れない音がしている事に3人は気が付く……。
「あら〜、空に何か見えますけどアレは何でしょうか!?」
「ん~!? あれは二ホンのヘリコプターだな!」
「へりこぷたぁ??」
「あぁ、人を乗せて空を飛ぶ二ホンの飛行機械だ! 公都やマイハークではたまに飛んでいるのを見かけるぞ……。」
ジョレーンの質問に2人は答えながら窓から外を覗くと一機のヘリコプターが此方へと向かって飛んで行く姿が有り、ジョレーンは初めて見るヘリコプターを興味深そうに眺めた。
「とても不思議なモノですね……しかし何処に向かっているでしょうか?」
ジョレーンがそう呟く間にヘリコプターは駅の上空を通過し、険しいローター音を残しながら南へと飛び去っていった……。
次回、最終回
ロウリア王国使節団を護衛した冒険者達のラーメン伏線を回収する話はその後の女子達の会話が長くなった為、また本文の字数が一万字を超えそうになりました。
女子達の話は無駄に長くなるのは何時もの事、仕方ないね……。
次回こそ本当の最終回、エンディングまで泣くんじゃ無い!