日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編   作:アニキ イン ザ スペース

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第四話 太古の伝承

中央歴1639年(西暦2015年) 3月6日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村

 

朝の陽光(ようこう)が戸を閉めた窓の隙間を抜け部屋の中に差し込み、それに反応したかの様に比留川は目を覚ます……彼が今いる場所は自衛隊が用意したテントでは無く、ナエノデンエン村で一番大きな木造の建物であり、普段は行商人や農耕期に来る出稼ぎ労働者の宿泊施設として使用してるらしい。

JICAの職員は当面ここを宿泊施設として使用して良いと領主で在るノーグから許可が得られた為、テントで寝泊まりする自衛隊員には悪いと思いつつも昨日は一晩この一室でぐっすりと寝かせてもらった。

 

「よっと……。」

 

比留川は体を起こし、昨日の事を思い出す……昨日は村に到着して急遽(きゅうきょ)、歓迎会が開かれ村人達に様々な料理をふるまわれる中、陶器で出来た大柄なジョッキに魔法で冷やされたと言う冷たくも風味が香るエールが皆に渡され、クワ・トイネの風習に合わせ何度となくエールを飲み明かしていた……。

 

中でも乾杯の音頭と共に牧田の後輩にあたる農学者の女性である飯島(いいじま)が、その顔に似合わぬ豪快(ごうかい)な飲みっぷりで周りは喝采(かっさい)するも、彼女の横に居た牧田がいつの間にか居なくなったと思ったら、酔っぱらった飯島が隣に座っていた同僚の大屋と自衛官達に対し(から)み酒を始め、普段の大人し気な彼女から想像出来無い程の酒乱(しゅらん)ぶりに比留川は顔をひきつらせながら引いてしまった……。

 

後で牧田から聞いた話だと、彼女には『合コンブレイカー』の二つ名が有るらしく、その酒癖(さけぐせ)の悪さで壊滅した合コンサークルは一つや二つでは無いとのことらしい。

 

「やれやれ……他の皆が二日酔いになっていなければ良いんだが……。」

 

そう思いながら部屋を出ると広間に用意された桶の水で顔を洗い、両開きの大きな扉を開き外へと出る……外は近くの川から流れる白い朝靄と冷たい空気に包まれ、宿泊施設と繋がっているパン焼き場の煙突から白い煙と共にパンを焼く甘い香りが漂う中、広場では村の女性達が朝食の準備を行なっていた。

 

「いょう! 比留川、起きたか!!」

 

「おはようございます、比留川さん!」

 

牧田と大屋……そして牧田の後輩の女性、飯島の3人が挨拶してくる、昨日の歓迎会で絡んだ飯島に付き合わされた大屋は飲み過ぎた為か顔を青くしている。

 

「ふえぇぇ~っ! ひるかわしゃん、おはようござりま~す……うっう……。」

 

「大屋さん大丈夫ですかぁ!? 無理に起きない方がいいですよ~!」

 

飲み過ぎで気分を悪くしている大屋を飯島が心配しているが、どうやら彼女は昨日、自分が何をやったのか全く覚えていない様だ……。

 

「うぐぅ……でも今日は牧場の方から陸鳥を飼育している畜舎を見せてくれるって約束があるんですぅ……。」

 

「え~っ!? 陸鳥って、写真で見せてくれた大きな鳥さんの事ですね、私も見てみたいです~! 顔やクチバシが大きくて体が黄色いからまるでチョコ……。」

 

「それ以上いけない!!」

 

悪気も無くアノ鳥の名を口に出そうとした飯島を比留川と牧田が止めにかかる。

 

「おっ! それより朝飯の準備が出来ているみたいだぜ……行こうか!」

 

そう言いながら牧田は広場に準備された朝食のテーブルへと向かい3人も追うように歩き始めた。

 

 

広場に並べられたテーブルで村の女性達が朝食の準備を行う中、ドワーフのリドルは陶器で出来た大きな鍋をテーブルの上に置くと横で皿を並べているジョレーンに声を掛ける。

 

「お嬢様にまで手伝いをさせて申し訳ございません!」

 

「リドル、気にしなくて良いですわ……何しろ100人近い方がこの村に来るなんて初めての事ですし、領主の娘たる私も手伝わないと異国から来た方々をお待たせしてはいけませんわ!」

 

ジョレーンが皿を並べ終えるとJICAの職員と自衛官、そして村人達が食事の準備ができたテーブルへと集まり始める、同じ様に領主で在るノーグも広場へと現れ人々に話しかける。

 

「皆さん、おはようございます! 間も無く春小麦の作付け時期となります……それと昨日来られました二ホン国の皆さまが住まわれる建物が今日から建設を始めるので、皆さんの協力をお願いします! そして建物が完成次第、二ホンの皆さま方が持って来られました新しい農機具の使い方を皆さんに伝授されるとの事です……では!」

 

ノーグはそう言い両手を肩の高さまで上げると村人達は手を組み、食前の祈りの言葉を祈り始める。

 

「祝福されし大地より得られし恵みに感謝して、この食事をいただきます……緑の神よ、ここに用意されたものを祝福し、我らの心と身体を支える糧としてください……。」

 

クワ・トイネでは集落ごとに集まって食事を行う風習が在り、食前にその地区の年長者や(おさ)が祈りの言葉を述べてから食事を行うと田中大使が話していた事を思い出す。

彼らは他者に厳格(げんかく)さを求める事は無いとも聞いていたが、村人達が祈りを捧げている間、自分達が何もしない事に比留川達はちょっとした気まずさを感じてしまう。

 

「さぁ、二ホンの皆さんも頂きましょう!」

 

ノーグの言葉も有り、比留川はテーブルに並べられた木製の(さじ)と容器を手に取る……朝食は温かい牛乳で柔らかく煮たオートミールと思われる食べ物に焼きたての白パンとチーズ、それに容器に盛られた色取(いろと)()りのベリーと壷に入ったバターで有った。

手に持っていた容器のオートミールを食べてみるとほんのりとした甘さを感じるが何か物足りない味だった……どうやらテーブルに置かれているベリーを合わせて食べるらしく、試しに乗せて食べてみると甘酸っぱさが程よく淡泊なオートミールと合ってとても美味しい!

 

比留川が追加のベリーをオートミールの容器に入れようとしていると後ろから彼を呼ぶ声が聞こえた。

 

「ヒルカワ殿……じゃったのう!? 昨日はスマンかった……。」

 

振り返るとそこには、背が低いが相撲取りを思わせるがっしりとした身体と、赤色の顎髭(あごひげ)を蓄えたドワーフ族の男性の姿が有った。

 

「あぁ、ダイスさんおはようございます……自分は大丈夫ですので!」

 

比留川に挨拶がてら謝罪をするドワーフのダイスは昨日、停車したトラックのタイヤを見て興味を持ち始めたかと思いきや、家から持ってきたマサカリでタイヤを切り付けようとした為、比留川が慌てて止め様とするも「何で邪魔をするんじゃ!!」と言いながらその背丈から想像出来ない怪力で比留川を突き飛ばし、最終的に駆け付けた自衛官8人がかりで取り押さえる事態となった……どうやらタイヤの材質に興味を持ち、切って中身を確かめようとしたらしい。

 

「どうしても気になってしょうがなかったんじゃ! 後で見せてもらったらいいのじゃがのう……。」

 

「また斧で叩き切ろうなんてやらないでくださいよ! タイヤが破裂したら怪我ではすまないんですから!!」

 

「むぅ……でも触るぐらいならいいじゃろ……なぁ!」

 

そう言いながら、ダイスは大皿に盛られたパンとチーズを手でつかみ交互に食べ始める……ノーグさんの話ではドワーフ族は頑固かつ自分が興味を持ったモノに夢中になる傾向が有るらしく、それでも自分が危険な事をやろうとしていた事は理解し反省しているので今回は多めに見てくれないかと頼まれていたが、果たして本当に反省してるのやら……。

 

「実はお前さん達が『たいや』と呼んでいるヤツじゃが……昔、ワシがマイハークの遺跡でそっくりなモンを見つけた事が有るんじゃ!」

 

「??……えっ! タイヤにそっくりなモノが遺跡に……ですか!? 」

 

ダイスの言葉に比留川は思わず驚きの声を上げる、話を聞いて見ると(ダイスが食べながら話す為、話の半分ほどしか聞き取れなかったが)彼は昔、冒険者としてマイハークの近くで偶然発見された遺跡を探索した時、赤黒い炭ばかりが落ちている部屋の中で白い布に包まれた黒い車輪の様なモノを見つけた事が有り、その材質が昨日見たタイヤとそっくりだったとの事らしい……その時見つけた発掘品は西の大陸から来た『コレクター』を名乗る仮面の男が高額で買い取ったらしく、その男は「過去に様々な発掘品を見て来たが、失われた古代の保管魔法が()けられた品物は初めて見た……。」と言っていたが、それが何なのかは彼でも解らなかったらしい。

 

「むぐ……まぁ、その時にノーグと出会って、今はこの村にやっかい……もぐもぐ……それよりお前さん、早く食わんと朝飯が終わるぞい!」

 

ダイスにそう言われると比留川は周りが食べ終わっているのに気が付き、大急ぎでオートミールの残りをかきこみ始めた……。

 

 

朝食を終え、食べ終えたオートミールの容器を村の女性に渡して一度部屋へ戻ろうとすると、なにやら広場の一画に村人達が集まり始めており、その中には朝食時には見かけなかった獣人族の人々の姿も有った。

村の通りを見ると隣の集落から来たと思われる村人達が広場へと向かって歩いている姿が見え、ざっと見るだけでも200人近くの村人達が広場へと集まって来ている。

 

「あ~、今日は放送の日じゃったのう……忘れとったわぃ!」

 

「放送の日?」

 

「見た方が解るじゃろ……ついてこい!」

 

比留川はダイスと一緒に広場の一画に向かうと、そこには高さ3m程の四角錐(しかくすい)の物体……地球にも存在したオベリスクを思わせる物の周りを村人達が囲むように集まっており、村人の様子から見ると何かを待っているかの様だった……。

 

「あの……これは一体!?」

 

「もう少し待つんじゃ……おっ、始まったぞぃ!!」

 

オベリスクの様な物体の底部(ていぶ)が青白く光りだすと雑音と共に少しずつ音声が聞こえてきた……。

 

「ザザッ……ちらは……ワ・トイネ中央魔……ザッ……信放送……この放送は……ザザーッ……魔信属性比(ましんぞくせいひ)、風12、雷37でお送ります……豊穣なる大地と緑の神への感謝を込めて…………。」

 

「これは……ラジオ放送!?」

 

「ほ~ん、魔法で通信する仕組みが在ると聞いていたがやっぱ在るんだ~! 公衆用の放送が……まるで地元の公園に有った『ラジオ塔』そのまんまだな!」

 

比留川が驚く中、いつの間にか横にいた牧田が発光しながら音声を発する装置を興味深そうに(なが)めながら呟くとダイスが驚きの声を上げる。

 

「なんじゃ! その話し方だと、お前さん達の国にもコレと同じモノが有るのかっ!!」

 

「ええ……おそらく仕組みは違うと思いますけど、確かに似たようなモノなら我が国に有ります。」

 

(う~む……この魔信放送受信機(ましんほうそうじゅしんき)と似た物が二ホンにも有るじゃと? ノーグの話じゃと二ホン人は魔法が使えんと言っとったが、一体どうやって動かしとるんじゃ!?)

 

比留川の返事にダイスは自らの顎鬚をさすりながら唸り声を上げる……。

 

「そう言えばダイスさん、さっき『今日は放送の日』って言っていましたが、この放送は決まった日に行っているのですか?」

 

比留川の問いにダイスは腕を組み渋い顔をしながらも答える。

 

「あぁ……昔は毎日、放送をやっとったんじゃが、今は3~4日に一度しかやらんようになってしもうてのう……。」

 

「それは、何か理由でも……?」

 

「この魔信放送受信機を動かすのに魔石が必要なんじゃが、その魔石がここクワ・トイネや隣国のクイラでは(ほとん)ど産出されんのじゃ……今まではロウリアから穀物との交換で手に入れておったんじゃが、ここ数年、輸入を止められてしもうてのう……ここではノーグが何とか調達しているけど、他の村じゃ魔石が手に入らなくて放送が聞けなくなっとると言う話じゃ。」

 

「輸入を止められている? ロウリアって確か……。」

 

「ロウリア王国……この大陸の西側に在る国らしい、田中大使が使節団(しせつだん)を派遣したって話だったが……。」

 

そう答える牧田がロウリアへの使節団派遣の話を口にするとダイスの表情が急に険しくなる。

 

「ロウリアは昔から酷い国じゃが、今の王になってから更に酷くなった……アイツ等はワシらの事を『亜人』と(さげず)んで子供にまで剣を向ける(やから)じゃ! あの国と関わってもロクな事にならんぞ!!」

 

ロウリアへの怒りが(こも)ったダイスの言葉に比留川と牧田は驚きを隠せず、互いの顔を見合わせる。

 

「この国の外交事情は全く分かんないけど、そのロウリアって国とは関係が良くないみたいだな……。」

 

「ああ……今は外務省の連中が上手くやってくれる事を祈るしかね~な!」

 

比留川と牧田はこの異世界にも、やはり国同士の対立は有るんだなと思いつつも、何も起きなければ良いのだが……と不安を感じるのであった。

 

 

朝食と魔信による放送が終わった後、村の人々はそれぞれ自分の職場へと向かって行き、ナエノデンエン村の一日が始まる。

 

諸星一佐は領主で在るノーグとJICAの施設建設の打ち合わせを行う為、この村で建築に詳しいダイスと一緒に川沿いの建設予定地へと向かい、農学者の牧田はこの村の農作物の調査を行うと言って飯島や他の職員を連れて村の農場へと歩いて行った。

牧畜を担当している大屋は獣人の女性と共に陸鳥の畜舎へとそれぞれが自分達の仕事を始める中、比留川はトラクター等の農業機器を本格稼働する前に村の周囲の状況を確認したいとノーグに相談すると彼の娘で有るジョレーンが自ら案内役を申し出てきたので有った。

 

「私もノーグ家の一員ですし、領地の案内ぐらいは出来ますわ!」

 

突然の娘の申し出にノーグは駄目だと言うも、他に村の周囲を知る物が全員出払っていた事も有りどうするか悩んでいた所、諸星一佐が部下の女性自衛官を2名同行させると提案した事で納得し許可を出す事となった。

 

 

ジョレーンが比留川達を領地へ案内すると聞いて、自分も同行すると言い張っていたメイドのリドルは目の前に有る自衛隊が用意した(ほろ)を外したパジェロこと1/2トントラックを前にして(おび)えるかの様に硬直(こうちょく)していた。

 

「お・お嬢様……本当にコレに乗って行かれるのですか……!?」

 

「あら? リドルは昨日、二ホンの自動車にすごく興味を持っていたじゃない!」

 

自動車を前にオドオドするリドルを見てジョレーンがくすりと笑っていると、車両の前で立っていた2名の女性自衛官がジョレーン達に敬礼を行う。

 

「本日、車両の運転を担当致します、(うてな) 志保(しほ) 一等陸士です!」

 

「同じく随行員(ずいこういん)有坂(ありさか) 樹里(じゅり) ニ等陸士であります!」

 

凛とした表情の台一士と色黒で180cm近く身長が有る有坂二士が自己紹介を終え、台一士はジョレーンを後部座席へと案内しシートベルトの付け方を教えている間、まだ車の前でオドオドしているリドルを有坂二士は後ろから抱え上げるとそのまま空いている後部座席へと降ろした。

 

「おや?……小さいから軽いと思っていましたが、意外とずっしりとしていますね!?」

 

そう言いながら有坂二士は座席に座ったまま固まってしまったリドルにシートベルトを装着させると彼女は助手席へと乗り込み、比留川は車両の荷台に有る予備座席へと座り込んだ。

 

「それでは準備は出来ましたね! では、ジョレーンさん案内をお願いします。」

 

「はい、今日は領地の最南端へと行きましょう! まずはこの村の道を真っ直ぐ進んで突き当りを左へと向かいます……その先に有る橋を抜けたら南へと進んで下さい!」

 

「分かりました、橋を抜けたら南ですね、では出発します!」

 

運転席の台一士がエンジンキーを回すと力強い音が鳴り響き、アクセルを踏み込むとパジェロが走り出す。

 

「まぁ! 馬の様な速さで走っても揺れがとても穏やかなんですね!!」

 

「はわわわっっ!! 動いた! 動いている!! はわ~!!!」

 

中型トラックならば1台通過できる木製の橋を越え、パジェロは小高い丘を登り始める、後部座席ではしゃぐジョレーンとパニックになっているリドルを見て比留川は「ジェットコースターじゃないんだから!」と呟きながら、眼下に広がるナエノデンエン村の光景を見渡す。

 

このナエノデンエン村、ノーグさんから聞いた話だと現在の村の人口は約700人程で、その内訳は……。

 

最も人口が多く、主に農業に従事する人族が人口の約4割、

 

領主で有るノーグさんと同じ種族で、森で採取や養蜂(ようほう)を行っているエルフ族が約3割、

 

そして狩猟や牧畜を行っている獣人族がおよそ2割、

 

最後に、醸造(じょうぞう)鍛治(かじ)、建築を行うドワーフ族が、全体の1割程の構成で種族事にそれぞれの役目を果たしながら生活している。

 

そんな他種族の人々が共存しているナエノデンエン村はおよそ16平方km程の領域だが、領主で在るノーグさんが管理している周辺の土地は、なんと2000平方kmと東京都の面積に近い広大な土地で有り、そのほとんどが耕作可能な肥沃(ひよく)な土地で在る事に比留川は驚きを隠せなかった。

その広大過ぎる面積の土地に対して住んでいる人々の人口は合計で約1500人未満……ナエノデンエン村以外には、200人程が暮らす集落が4つ程点在するだけとノーグさんは話されていた。

 

5人を乗せたパジェロは1時間近く同じ景色が続く丘陵地帯を走り続けている……ジョレーンさんが言うには中間点である林はとうに過ぎているので(どれがその林なのか全く分からなかったが!?)道中の半分は(すで)に越えているらしい。

この辺は一度も耕作されていない土地だと言われたが、地面にはシロツメクサやレンゲに非常に似た背が低く柔らかい草しか生えておらず、時たま小さな広葉樹(こうようじゅ)の林が見かける程度と言う、まるで人の手が掛かった休耕地(きゅうこうち)の様にしか見えない……ここは全く人がいない所なのでどうしてこの様な植生(しょくせい)になっているかは謎で在った……。

 

「台さん、あの一番高い丘の頂上に着きましたら車を止めてください!」

 

「右側の丘ですね、分かりました。」

 

パジェロは小高い丘を力強く登り抜け指定された丘の頂上へと到着した、比留川が車から降りて周囲を見渡すと北側には何処までも続くなだらかな草木の丘陵地帯が広がり、南側に目を向けると丘の(ふもと)に小さな川が流れており、その先には南の大地を(おお)わんばかりの広大かつ美しい森林地帯が広がっていた。

 

「これは……スゲェや!」

 

比留川は目にする景色に圧倒される中、パジェロを降りたジョレーンが彼に話しかける。

 

「ヒルカワ様……ここが先祖代々、我が一族が大公様(たいこうさま)より(たまわ)った領地の最南端となり、(ふもと)に見える川辺までが領主たる父の所有する土地となります!」

 

彼女の説明ではこの土地はこの国の元首たる大公より受領された土地になるとの事らしい……そう言えば田中大使が『クワ・トイネ公国は共和制(きょうわせい)立憲君主制(りっけんくんしゅせい)混在(こんざい)する政治制度の説明が難しい国』と言っていた事を思い出すが、比留川はそれより気になった事をジョレーンに質問してみた。

 

「ジョレーンさん、御父上(おちちうえ)の領地の境界はあの川までとおっしゃっていましたが、そこから南の森林は別の貴族の領地なのでしょうか……!?」

 

比留川の質問が意外だったのか、ジョレーンは首を(かし)げ少し悩んだ表情を見せた後にこう答える。

 

「いいえ、目の前に見えます森……『リーン・ノウの森』と呼んでいるこの森は私達エルフにとっては神聖なる領域(りょういき)となる為、治める領主は存在しません、強いて言えばそこに住まうハイエルフ様達の土地……と言えばいいのでしょうか?」

 

『神聖なる領域……』と言う言葉に比留川は彼女らの禁忌(きんき)に触れたのではないかと(あせ)りを覚えるが、彼女の様子から見てそうでは無い様だと安心しつつ彼女の話を聞き続ける。

 

「取り分けこの先の森は大古の時代、魔王の軍勢から人類を救った『太陽神の使者の遺産』が眠る聖域(せいいき)と言われていて、大公様ですら立ち入る事が許されない場所なんです!」

 

ジョレーンの口から以前も聞いた『太陽神の使者』と言う言葉が出て来た事に比留川は驚きの声を上げる。

 

「太陽神の使者!? 実は一昨日も貴女の御父上が、その『太陽神の使者』と言う言葉を口にしていましたが……それは、いったいどの様な存在なのでしょうか?」

 

その言葉にジョレーンは一瞬キョトンとした顔をするが、何かを理解したらしく笑顔で比留川に話し掛ける。

 

「ヒルカワ様は私達とは違う世界からやって来たと言うのはどうやら本当の話みたいなんですね、これは私達の世界で伝わる話となりますが、少し長い話となります……。」

 

そう前置きしたジョレーンは遠くに広がる森を見つめながらこの世界の伝承について話し始めた……。

 

 

「遠い昔……この世界の遥か北の果てに在るグラメウスと呼ばれる不毛の地よりノスグーラと呼ばれる恐るべき力を持つ魔王が突如現れ、魔獣の軍勢を率いて人々が住む世界へと侵攻して来ました……多くの国々が魔王軍に蹂躙(じゅうりん)され滅亡していく中、人々は国や種族の差を越え協力して魔王軍に戦いを挑みましたが(かな)う事が出来ず、戦火は海を越えてここロデニウスの地にまで及び、遂にはエルフの故郷たる神森…このリーン・ノウの森にまで迫ってきました……。」

 

「人々が滅んでいく姿を見て(うれ)いたエルフの神でも有る緑の神は、この世界を創世(そうせい)した神へ祈りを捧げ、自らの名を引き換えに太陽神の眷属(けんぞく)を援軍としてこの世界へと呼び寄せました……巨大な神の乗り物に乗って現れ『日輪(にちりん)(ほのお)』を発する強力な神の武器を手にした彼らは『太陽神の使者』と呼ばれ、迫りくる魔王の軍勢を『日輪の炎』で焼き払い、遂には魔王ノスグーラをグラメウスの地に放逐(ほうちく)した事でこの世界の人々を滅亡から救いました。」

 

「こうして役目を終えた太陽神の使者達が神の世界へと帰って行く中、一つの動かなくなった神の乗り物がこの地に残されました……それは『空飛ぶ神の船』と呼ばれた、竜よりも早く空を駆け、光の矢で魔獣を(つらぬ)き倒した神の乗り物だと言われています、当時のエルフの長達はいつか『太陽神の使者』達が再び戻って来る日の為に『空飛ぶ神の船』が()()て無い様に『悠久(ゆうきゅう)の時の魔法』を掛け、周囲に守護の木々を植える事でこの地を新たな聖域にする事にしました……そして『空飛ぶ神の船』はかつての長達の意思を次いだハイエルフ様達の庇護(ひご)の元、今もこの地で長き眠りに()いていると言われています……。」

 

 

「……これが私達の世界に伝わる『太陽神の使者』の話ですわ、お役に立ちましたでしょうか……?」

 

「ジョレーンさん、ありがとうございます……話を聞く限りですと、かつて私達と同じ様に異世界から来た存在が居た事と、その遺産がこの森に存在するんですね!」

 

(太陽神の使者とはこの世界の先史文明では無く、自分達の様に違う世界から来た人々の事だったのか!? 水道橋を作る様な高度な技術はともかく彼らは元の世界に戻って行ったと言っていた……ならば自分達も元の世界に帰る方法が有るのでは……!?)

 

比留川はその様に考えるが、『太陽神の使者』については一度戻って、この丘陵地の奇妙な植生と共に牧田達に話してみる事にした。

 

「では、調査はここまでにして村に戻りましょう!」

 

「!?……えーっ! ま…また自動車に乗るのですかぁ!!!」

 

比留川の言葉を聞き、車を降りてからさっきまで放心状態でヨタヨタと歩いていたリドルが叫び声を上げる!

 

「おや……リドルさんはここから歩いて帰られますか!? 歩きですとここから村まで3日は掛かると思いますし、この辺は狼が出ると言う話ですよ……ですから!」

 

有坂二士はそう言うと再び後ろからリドルを抱え上げ、勢いよく後部座席へと座らせると手際よくシートベルトを装着させる。

 

「ひゃっ!! はわ……はわわわっっ!!」

 

後部座席へと座らされたリドルが固まっている間に比留川達はパジェロに乗り込み、運転席の台一士がエンジンを起動させる……パジェロは草を巻き上げながら小高い丘を下り始める……。

 

「ぎょわわゎゎ~っ!! 動いた! 早い! 早い! 早すぎる~!!」

 

(さわ)やかな風がそよぐサージレイ丘陵の草原にパジェロのエンジン音と共にリドルの悲鳴が(ひび)き渡った……。

 




本編の舞台となるナエノデンエン村に到着し、JICA一行の活動が本格化して来ました。
この先、比留川達の農業指導やインフラ整備が進む中、ロデニウス大陸に不穏な影が差し始めます。


用語

コレクター

文明圏内外問わず、古代の遺物が発掘されると何処からか現れ、遺品の品定めを行う仮面を被った謎の人物。
その正体は神聖ミリシアル帝国魔帝対策省の職員で有り、主に古の魔法帝国の遺物の収集を目的としている。
その遺物が古の魔法帝国や失われた古代魔法由来の物で有れば高額(この世界で最も価値の有るミリシアル帝国の通貨で払われる)で買い取る事でも知られており、冒険者達の間ではコレクターが高額で買い取る遺品を見つける事が一流の証とも言われている。

日輪の炎

古代の伝承に伝わる『太陽神の使者』が使ったとされる神の武器の総称。
伝承では『太陽神の使者』は巨大な神の船から1人の戦士までもが『日輪の炎』で武装しており、その雷鳴の様な轟音と共に噴き出す業火の如し炎と爆裂で魔王の軍勢を焼き払ったと言われている。
近年、伝承の広がりと永きに渡りほぼ口承で伝えられた事も有り『日輪の炎』と言う言葉は使われ無くなって来たが、『空飛ぶ神の船』の聖域から近く、多少でもハイエルフとの交流が有るナエノデンエン村では、今でも伝承としてこの言葉が使われている(ただしナエノデンエン村の伝承では何故か、時空遅延魔法と言う魔法の言葉が使われ無くなっている)。

魔信放送受信機

現代世界におけるラジオに該当する魔信による広域放送を受信する魔道具、ナエノデンエン村に設置されてる受信機は150年以上前のパーパルディア製の物である。
電波の放送と違い、風魔法で送信する方向を指定したり魔力を高める事で送信距離を伸ばす事が出来るので、公都クワ・トイネの中央魔信放送局から広大なクワ・トイネ全土に魔信放送の送信が可能で有る。
近年は魔信の触媒に使用する魔石の不足により放送時間の制限や受信が出来ない地域が増えている問題を抱えている。
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