日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編 作:アニキ イン ザ スペース
中央歴1639年(西暦2015年) 3月14日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村
村の川沿いにて建設が始まったJICAの施設は
「お前さん達のアレ!? くれーん……とか言ったな! 鉄で出来た
ダイスは対岸で稼働するクレーンを見つめながら、初めて見るプレハブ工法の建設の速さに感心していた。
「しかも後7日で完成とはのう……お前さん達の建築技術はワシらの理解を超えとるわぃ!! それより……ヒルカワ殿、この
「………駄目です!」
椅子に座らされ縄で
「まったくモロボシと言い、お前さんもいけずな奴じゃのう……。」
ダイスはしょげながらそう呟く……そんなダイスを見て比留川は少し気の毒に思うが、縄を解いたらまた建設現場に入り込むのが目に見えて解っているので、ここは
それから7日後、クワ・トイネ公国に初のODA(政府開発援助)を行う為の施設が無事完成し、比留川達JICAの職員と自衛隊員、そして村の人々でささやかな完成式が行われた。
中央歴1639年(西暦2015年) 3月23日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村 国際協力機構ナエノデンエン事務所
ナエノデンエン村の東より果てしなく続く草原から太陽が昇り始め、『国際協力機構ナエノデンエン事務所』と日本語と第三文明圏共通言語にて書かれた看板の向こうでは、年代物のラジカセから流れるラッパの音に合わせて新設されたポールに
ここ『国際協力機構ナエノデンエン事務所』には、主にミーティングと研修を行う『事務棟』と施設の中で最も大きく職員達の宿泊施設である3階建ての『宿舎棟』が有り、1・2階は男性職員が、3階が女性職員の部屋となっており、共用で有るが各階別々に、水洗トイレ、洗濯室、風呂場が揃っており、宿泊するJICA職員や自衛隊員からは「ようやく文明の
川の上流側には水の浄水設備が設置され、これは井戸の水でも
これは浄水設備と違い汚染の
こうして施設が完成した事によりJICAの農業技術指導も本格化し、比留川も春の作付けに間に合わせるべく日本から持ってきたトラクターの実演を行う事となった……車体に巨大なプラウを取り付け、砂ぼこりを巻き上げながら向かって来るダンボルギーニのトラクターを見て村人達にどよめきが起きる。
「これが二ホンの農機具なのか? まるで怪物ではないか……。」
「後ろに背負っているのは鉄の刃か!? 一体、何本付けているんだ!!」
ざわつきが収まらない中、停車したトラクターから降りた比留川が集まった村人達に向かって大きな声で話し掛ける。
「それでは、トラクター……この動く農業機械は説明よりも、実演を見て頂ければ、どう言う物か分かるかと思いますので!!」
比留川はそう言うとトラクターとの性能と比較すべく準備させていた、村で一番大きくて力が強い2頭の馬の横に並ぶ様にプラウを装着したトラクターを停車させた。
「笛の合図と共に草地の
同行していたJICAの職員が手にしていたホイッスルを吹き合図を送る、2頭の馬の御者は手綱を叩いて指示すると2頭の馬達は取り付けている
「おおおおおおっ……!!!」
「馬が引く犂よりもあんなに広く掘り起こしているのにもう追い越しやがった……。」
「魔法を使わないでこんな事ができる農機具があるとは……。」
犂を引いた馬達が片道150m程の草地を往復した頃にはプラウを装着したトラクターは既に4往復目を終えており、馬とは違い疲れる事無く固い草地を延々と掘り起こす二ホンの農業機械に村人達は
「スゲかったよな、二ホンの農業機械……アレが一頭いれば村中の畑を1日で耕してしまうぞ!」
「近いうちにアレと同じモノが二ホンから送られて来て、その扱い方を俺達に伝授するって話だったよな……こりゃ、村の畑ばかりか領主様の土地を全部耕せるかも知れねーぞ!!」
実演が終わった後も村人達は掘り起こされた草地を見ながら思い思いの感想を述べていた。
「今回は実演しなかったけど、畑の
「あぁ……荒起こしは人手もいるしキツイ仕事だから、それをやってくれるんだったら大助かりだ!」
「そうだな……んんっ! 人手と言えば、クイラの出稼ぎ連中がまだ来ていないよな……。」
「そう言えば、今の時期にはもう来ている筈なんだが……どうしたんだろ?」
ナエノデンエン村では農作期になると毎年、農作業や建築の手伝いとして隣国のクイラ王国から出稼ぎに来る人々がやって来る。
クイラ王国の中でも貧しい山間部からやって来る彼らに、手伝いの代価として収穫された農作物を渡す事で長きの間、共存していたのだ。
しかし、本来なら彼らが既に村に来て耕作の手伝いを行っている時期なのだが、今年はまだ誰も来ていないのであった……。
中央歴1639年(西暦2015年) 3月24日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村 国際協力機構ナエノデンエン事務所
トラクターの実演を無事終えた翌日、比留川は春の作付けに合わせこれからの方針を決めるべくミーティングを行う事にした。
事務棟の会議室に職員達を集め会議を始めると、隣の席へと座った牧田が手に持っていた小さな壷を比留川の前に置いて見せた。
「牧田、その壷は?」
「こいつはお前さんのトラクターの実演が終わった後、ノーグさんの相談に乗った時に貰ったもんでな……中身は開けて見てみな!」
ミーティングの参加者に割り箸を渡しながら牧田はそう話し、壷を手にした比留川が蓋を開けて見てみると壷の中には薄い
「こいつは見ての通り水飴……ここでは『太陽の
壷の中身を訝しげに見つめる比留川に対し牧田が話しかける。
「太陽って……『太陽神の使者』の事か!!」
「そうだ……この前、お前さんが話してくれたクワ・トイネの昔話の事なんだが、名前が気になってノーグさんに聞いて見たんだ! そうしたら乾燥した
「味見していいよ!」との牧田の言葉に甘味に飢えていたのか、早速と割り箸を使って水飴をすくい始める女子達を横目に狐につままれた様な顔をしている比留川に対し牧田は話し続ける。
「まぁ……その話は置いといて、ノーグさんの相談事は、この水飴……『太陽の滴』はこの地方の特産品で、外国に輸出する程の商品だったんだが最近、南方から入って来る砂糖に押されて輸出が伸び悩んでいるらしく、新たに輸出できる物が無いかこのオレに相談に来た訳だ……そこで!」
牧田は封書からコピーした紙を取り出してミーティングの参加者に渡し始める、紙には村で収穫できる作物の種類とそれに類似した地域の気候グラフが記載されていた。
「オレ達はまだこの世界に来たばかりで、そもそも地球の気象学がここで通用するか不明だが、これまでの聞き取りでこの地方の大まかな気候が解ってきた、このナエノデンエン村は標高が300m程度で、沖縄よりも南に有るにも拘わらず何故か
「…………
「その通り! クワ・トイネでも飼料用に類似したモノが有るんだが、ノーグさんは『そんなモノで砂糖が作れるとは!?』って驚いていたよ……ただサトウキビと違って製糖設備がやや複雑になるけど、技術の供与の問題については甜菜の製糖は18世紀に確立した技術だから『新世界技術流出防止法』には抵触はしないだろう……それに今や砂糖の原料は『重要確保物資』の一つになっている! これでオレ達、日本とクワ・トイネとの利害がまた一致したと言う事だ!!」
ドヤ顔の牧田が語り終えると、次に牧田の後輩である飯島が手を上げ発言を始める。
「私からもノーグさんに提案をしました! ここは天候には左右されるけど、肥料も農薬も無しで作物を実らせてくれる不思議な土地が有るのだから『温室』を作って外の気温に左右されずに作物を育てる方法を伝えました……温室の気温を維持する為の熱源等の問題が有りますが、もし『重要確保物資』のゴムが見つからない場合はこの方法で栽培する事も出来ます! それにバナナやメロン等の南方の果物が作れる事や、換金作物になる
大人し気な顔つきの彼女がここまで鼻息を荒くして話すのは、好物のフルーツの栽培方法が見つかったからだと牧田が耳打ちする……動機は兎も角、試験的にビニールハウスを作って作物が育つか試して見る価値は十分に有る。
「それなら、次の船の入港に間に合うよう早急に手配出来る様にしよう……飯島君は温室を作る為の部材のリストを作成してくれ!」
「ありがとうございます! すぐにリストを作成しますのでよろしくお願いします!!」
飯島と一緒にミーティングに参加している女子達も喜んでいる、ここでは甘いものと言ったら日本から持ってきたお菓子と村の森で収穫できるベリー類の果実と蜂蜜ぐらいしか無い為、甘味が恋しいのだろう……。
さて、次は自分の番かと比留川は発言する前に内容を整理する……今現在、事務所にはダンボルギーニ社のトラクターが2台有るのみだが、明日にはヤンボー社の大型トラクターが12台が到着し、さらに14名の社員が運転指導員や整備士としてこの事務所に派遣されるのだ。
これなら耕作と合わせて技術指導も大きく進展できる、さて……その事を発言しようと思ったら、何やら外が騒がしい事に気が付く、窓から外を見ると外で作業をしていた台一士と
「比留川さん! ワイバーンです! ワイバーンが飛んできました!!」
そう叫ぶ彼女が指さす方向を見ると、ノーグさんの屋敷の上を旋回しながら降りていく一騎のワイバーンの姿が有った。
「何だろう……伝令か何か!?」
「いや、ここには魔信とか言う通信手段が有るからそれは無いだろう……。」
比留川と一緒に窓から外を眺めていた牧田がそう答える。
「牧田、何か嫌な予感がする! ノーグさんの屋敷に行ってみよう!!」
「おぅ! その予感が当たってなければ、いいんだがな!!」
比留川はミーティングを中断し、牧田と一緒に事務棟から外へ出ると、パジェロに乗った諸星一佐がクラクションを鳴らし屋敷へと向かう彼らを呼び止める。
「私も屋敷に行きます、2人とも乗ってください!」
比留川と牧田がパジェロの後部座席に座ると、運転席の諸星一佐はアクセルを踏み込みノーグの屋敷へと向かっていった。
地上に降りたワイバーンを遠目に見ながら集まっている村人達の合間をくぐり抜け、屋敷の入口前に到着すると3人は車から降り屋敷へと向かう。屋敷の横の広場には巨大なワイバーンをなだめる竜騎士と、広場の地面に模様を描いた様に掘られた浅い溝の上にズタ袋から取り出した砂利を敷き詰めている屋敷の使用人達の姿が有り、比留川達が恐る恐るワイバーンの横を抜けると、開いている屋敷の扉から竜騎士と同じ革で出来た鎧を着こんだノーグと彼を追うように娘のジョレーンとメイドのリドルが外へ出て来た。
「ノーグさん! これは一体……。」
比留川が駆け寄ると、竜騎士が被る兜を手にしたノーグが話してくる。
「西の国境で大規模なロウリア王国の軍勢が集結しているとの報告が有り、評議会の緊急招集が掛かりました……私はこれから公都へと向かいます!」
「集結!? 一体、何が起こっているんですか!!」
「戦争が始まるかもしれません!!!」
「………!!!??」
言われた事態の衝撃に比留川は驚きの余り声を失う……ノーグは彼の横で涙目になっているジョレーンの頭を撫でながら話しかける。
「ジョレーン……私が公都にいる間、お前がこのナエノデンエンを治める事になる……大丈夫、お前は村の者達に好かれているし、屋敷の皆も支えてくれる! それと、二ホンの方々の話を良く聞いて親切にするんだよ、あの人達はこのクワ・トイネを新しい未来へと導いてくれる……わかったね!」
「お父様……。」
ノーグはそうジョレーンに伝えると、ワイバーンの背に乗り竜騎士から手綱を受け取る……ワイバーンは模様が掘られた広場へと歩むと翼を大きく広げ、声高く
「スゲェ! あの砂利は魔石だったのか……。」
牧田が興奮しながらそう叫ぶと、ワイバーンは魔法陣の上で羽ばたき始め、風を捉えたかの様にふわりと浮き始める……皆が見守っている中、ノーグを乗せたワイバーンは上昇気流に乗り空高く舞い上がると西の空へと飛び去って行った……。
ワイバーンが飛び去った後に3人が広場へ向かうと、そこには魔法陣を描きながら溶けて固まった魔石が残っており、牧田が足で踏むと「パキッ!」と言う音と共に砕け散った、魔石の後片づけを始めた使用人の話だと、この魔石は魔方陣に合わせて敷くとワイバーンの離陸を助ける効果が有るが魔石の質が悪い為、一回しか使用できず、使用後はこの様に
だが、その様な発見よりも以前抱いた不安が現実になろうとしている事に比留川は動揺していた……。
「比留川、どうやらお前さんの嫌な予感が当たった様だな!」
「比留川さん、牧田さん……この事を大使館が把握してるか、確認した方が良いかと思われます…………比留川さん!?」
「…………………。」
牧田や諸星一佐の言葉に何も答えず、比留川は足元に有った黒く固まった魔石の破片を手に取る……それは非常にもろく比留川の手の中でパリパリと音を立てて崩れ始めた。
もし今、戦争が起きてここを出て行く様な事態となったら……始まったばかりの事業や村人達を
比留川は自らの手の中で崩れていく魔石がボロボロとこぼれ落ちていくのをただ見つめていた……。
続く
ナエノデンエン村にもJICAの事務所が完成し比留川達の農業指導が本格化する中、遥か西から戦禍の嵐がその姿を現し始めます……。
次回は突然の事態に日本政府が困惑する中、1人の男がクワ・トイネの地へと降り立ち、彼を中心に知られざるもう一つの物語が始まります。
用語
国際協力機構ナエノデンエン事務所
異世界で初めて開設されたJICAの施設であり、ナエノデンエン村を流れる川沿いに建設された。
プレハブ工法で建設されている『事務棟』と『宿舎棟』の他に車両の整備場を兼ねた建設中の倉庫とディーゼル発電機や浄水設備、下水処理施設等のインフラや外部との連絡を取る為のアンテナ塔が設置されている。
現時点での職員数はJICA職員18名(男性:13名、女性:5名)、施設の建築や設備の維持管理を行う自衛隊員が24名(男性:20名、女性:4名)が在住している。
重要確保物資
異世界転移後に日本政府が発布した「国民の安定した生活に欠かせない各種資源」リストの総称。
石油や穀物と言った必需品からコーヒー豆やダイヤモンド等の嗜好品まで国内で採取困難な品々がリストとして挙げられている。
翼竜離陸補助魔法陣
離陸時にある程度の滑走が必要なワイバーンの離陸を補助する風属性の魔法を発する魔法陣、使用時は書かれた方陣に合わせて魔石を敷く必要が有る。
質の良い魔石の確保が現在クワ・トイネでは困難な為、ノーグ家では一度しか使えない質の悪い魔石が使われている。