日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く   作:アニキ イン ザ スペース

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第五話 朝食と魔信放送

中央歴1639年(西暦2015年) 3月6日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村

 

朝の陽光(ようこう)が戸を閉めた窓の隙間を抜け部屋の中に差し込み、それに反応したかの様に比留川は目を覚ます……彼が今いる場所は自衛隊が用意したテントでは無く、ナエノデンエン村で一番大きな木造の建物であり、普段は行商人や農耕期に来る出稼ぎ労働者の宿泊施設として使用してるらしい。

JICAの職員は当面ここを宿泊施設として使用して良いと領主で在るノーグから許可が得られた為、テントで寝泊まりする自衛隊員には悪いと思いつつも昨日は一晩この一室でぐっすりと寝かせてもらった。

 

「よっと……。」

 

比留川は体を起こし、昨日の事を思い出す……昨日は村に到着して急遽(きゅうきょ)、歓迎会が開かれ村人達に様々な料理をふるまわれる中、陶器で出来た大柄なジョッキに魔法で冷やされたと言う冷たくも風味が香るエールが皆に渡され、クワ・トイネの風習に合わせ何度となくエールを飲み明かしていた……。

 

中でも乾杯の音頭と共に牧田の後輩にあたる農学者の女性である飯島(いいじま)が、その顔に似合わぬ豪快(ごうかい)な飲みっぷりで周りは喝采(かっさい)するも、彼女の横に居た牧田がいつの間にか居なくなったと思ったら、酔っぱらった飯島が隣に座っていた同僚の大屋と自衛官達に対し(から)み酒を始め、普段の大人し気な彼女から想像出来無い程の酒乱(しゅらん)ぶりに比留川は顔をひきつらせながら引いてしまった……。

 

後で牧田から聞いた話だと、彼女には『合コンブレイカー』の二つ名が有るらしく、その酒癖(さけぐせ)の悪さで壊滅した合コンサークルは一つや二つでは無いとのことらしい。

 

「やれやれ……他の皆が二日酔いになっていなければ良いんだが……。」

 

そう思いながら部屋を出ると広間に用意された桶の水で顔を洗い、両開きの大きな扉を開き外へと出る……外は近くの川から流れる白い朝靄と冷たい空気に包まれ、宿泊施設と繋がっているパン焼き場の煙突から白い煙と共にパンを焼く甘い香りが漂う中、広場では村の女性達が朝食の準備を行なっていた。

 

「いょう! 比留川、起きたか!!」

 

「おはようございます、比留川さん!」

 

牧田と大屋……そして牧田の後輩の女性、飯島の3人が挨拶してくる、昨日の歓迎会で絡んだ飯島に付き合わされた大屋は飲み過ぎた為か顔を青くしている。

 

「ふえぇぇ~っ! ひるかわしゃん、おはようござりま~す……うっう……。」

 

「大屋さん大丈夫ですかぁ!? 無理に起きない方がいいですよ~!」

 

飲み過ぎで気分を悪くしている大屋を飯島が心配しているが、どうやら彼女は昨日、自分が何をやったのか全く覚えていない様だ……。

 

「うぐぅ……でも今日は牧場の方から陸鳥を飼育している畜舎を見せてくれるって約束があるんですぅ……。」

 

「え~っ!? 陸鳥って、写真で見せてくれた大きな鳥さんの事ですね、私も見てみたいです~! 顔やクチバシが大きくて体が黄色いからまるでチョコ……。」

 

「それ以上いけない!!」

 

悪気も無くアノ鳥の名を口に出そうとした飯島を比留川と牧田が止めにかかる。

 

「おっ! それより朝飯の準備が出来ているみたいだぜ……行こうか!」

 

そう言いながら牧田は広場に準備された朝食のテーブルへと向かい3人も追うように歩き始めた。

 

 

広場に並べられたテーブルで村の女性達が朝食の準備を行う中、ドワーフのリドルは陶器で出来た大きな鍋をテーブルの上に置くと横で皿を並べているジョレーンに声を掛ける。

 

「お嬢様にまで手伝いをさせて申し訳ございません!」

 

「リドル、気にしなくて良いですわ……何しろ100人近い方がこの村に来るなんて初めての事ですし、領主の娘たる私も手伝わないと異国から来た方々をお待たせしてはいけませんわ!」

 

ジョレーンが皿を並べ終えるとJICAの職員と自衛官、そして村人達が食事の準備ができたテーブルへと集まり始める、同じ様に領主で在るノーグも広場へと現れ人々に話しかける。

 

「皆さん、おはようございます! 間も無く春小麦の作付け時期となります……それと昨日来られました二ホン国の皆さまが住まわれる建物が今日から建設を始めるので、皆さんの協力をお願いします! そして建物が完成次第、二ホンの皆さま方が持って来られました新しい農機具の使い方を皆さんに伝授されるとの事です……では!」

 

ノーグはそう言い両手を肩の高さまで上げると村人達は手を組み、食前の祈りの言葉を祈り始める。

 

「祝福されし大地より得られし恵みに感謝して、この食事をいただきます……緑の神よ、ここに用意されたものを祝福し、我らの心と身体を支える糧としてください……。」

 

クワ・トイネでは集落ごとに集まって食事を行う風習が在り、食前にその地区の年長者や(おさ)が祈りの言葉を述べてから食事を行うと田中大使が話していた事を思い出す。

彼らは他者に厳格(げんかく)さを求める事は無いとも聞いていたが、村人達が祈りを捧げている間、自分達が何もしない事に比留川達はちょっとした気まずさを感じてしまう。

 

「さぁ、二ホンの皆さんも頂きましょう!」

 

ノーグの言葉も有り、比留川はテーブルに並べられた木製の(さじ)と容器を手に取る……朝食は温かい牛乳で柔らかく煮たオートミールと思われる食べ物に焼きたての白パンとチーズ、それに容器に盛られた色取(いろと)()りのベリーと壷に入ったバターで有った。

手に持っていた容器のオートミールを食べてみるとほんのりとした甘さを感じるが何か物足りない味だった……どうやらテーブルに置かれているベリーを合わせて食べるらしく、試しに乗せて食べてみると甘酸っぱさが程よく淡泊なオートミールと合ってとても美味しい!

 

比留川が追加のベリーをオートミールの容器に入れようとしていると後ろから彼を呼ぶ声が聞こえた。

 

「ヒルカワ殿……じゃったのう!? 昨日はスマンかった……。」

 

振り返るとそこには、背が低いが相撲取りを思わせるがっしりとした身体と、赤色の顎髭(あごひげ)を蓄えたドワーフ族の男性の姿が有った。

 

「あぁ、ダイスさんおはようございます……自分は大丈夫ですので!」

 

比留川に挨拶がてら謝罪をするドワーフのダイスは昨日、停車したトラックのタイヤを見て興味を持ち始めたかと思いきや、家から持ってきたマサカリでタイヤを切り付けようとした為、比留川が慌てて止め様とするも「何で邪魔をするんじゃ!!」と言いながらその背丈から想像出来ない怪力で比留川を突き飛ばし、最終的に駆け付けた自衛官8人がかりで取り押さえる事態となった……どうやらタイヤの材質に興味を持ち、切って中身を確かめようとしたらしい。

 

「どうしても気になってしょうがなかったんじゃ! 後で見せてもらったらいいのじゃがのう……。」

 

「また斧で叩き切ろうなんてやらないでくださいよ! タイヤが破裂したら怪我ではすまないんですから!!」

 

「むぅ……でも触るぐらいならいいじゃろ……なぁ!」

 

そう言いながら、ダイスは大皿に盛られたパンとチーズを手でつかみ交互に食べ始める……ノーグさんの話ではドワーフ族は頑固かつ自分が興味を持ったモノに夢中になる傾向が有るらしく、それでも自分が危険な事をやろうとしていた事は理解し反省しているので今回は多めに見てくれないかと頼まれていたが、果たして本当に反省してるのやら……。

 

「実はお前さん達が『たいや』と呼んでいるヤツじゃが……昔、ワシがマイハークの遺跡でそっくりなモンを見つけた事が有るんじゃ!」

 

「??……えっ! タイヤにそっくりなモノが遺跡に……ですか!? 」

 

ダイスの言葉に比留川は思わず驚きの声を上げる、話を聞いて見ると(ダイスが食べながら話す為、話の半分ほどしか聞き取れなかったが)彼は昔、冒険者としてマイハークの近くで偶然発見された遺跡を探索した時、赤黒い炭ばかりが落ちている部屋の中で白い布に包まれた黒い車輪の様なモノを見つけた事が有り、その材質が昨日見たタイヤとそっくりだったとの事らしい……その時見つけた発掘品は西の大陸から来た『コレクター』を名乗る仮面の男が高額で買い取ったらしく、その男は「過去に様々な発掘品を見て来たが、失われた古代の保管魔法が()けられた品物は初めて見た……。」と言っていたが、それが何なのかは彼でも解らなかったらしい。

 

「むぐ……まぁ、その時にノーグと出会って、今はこの村にやっかい……もぐもぐ……それよりお前さん、早く食わんと朝飯が終わるぞい!」

 

ダイスにそう言われると比留川は周りが食べ終わっているのに気が付き、大急ぎでオートミールの残りをかきこみ始めた……。

 

 

朝食を終え、食べ終えたオートミールの容器を村の女性に渡して一度部屋へ戻ろうとすると、なにやら広場の一画に村人達が集まり始めており、その中には朝食時には見かけなかった獣人族の人々の姿も有った。

村の通りを見ると隣の集落から来たと思われる村人達が広場へと向かって歩いている姿が見え、ざっと見るだけでも200人近くの村人達が広場へと集まって来ている。

 

「あ~、今日は放送の日じゃったのう……忘れとったわぃ!」

 

「放送の日?」

 

「見た方が解るじゃろ……ついてこい!」

 

比留川はダイスと一緒に広場の一画に向かうと、そこには高さ3m程の四角錐(しかくすい)の物体……地球にも存在したオベリスクを思わせる物の周りを村人達が囲むように集まっており、村人の様子から見ると何かを待っているかの様だった……。

 

「あの……これは一体!?」

 

「もう少し待つんじゃ……おっ、始まったぞぃ!!」

 

オベリスクの様な物体の底部(ていぶ)が青白く光りだすと雑音と共に少しずつ音声が聞こえてきた……。

 

「ザザッ……ちらは……ワ・トイネ中央魔……ザッ……信放送……この放送は……ザザーッ……魔信属性比(ましんぞくせいひ)、風12、雷37でお送ります……豊穣なる大地と緑の神への感謝を込めて…………。」

 

「これは……ラジオ放送!?」

 

「ほ~ん、魔法で通信する仕組みが在ると聞いていたがやっぱ在るんだ~! 公衆用の放送が……まるで地元の公園に有った『ラジオ塔』そのまんまだな!」

 

比留川が驚く中、いつの間にか横にいた牧田が発光しながら音声を発する装置を興味深そうに(なが)めながら呟くとダイスが驚きの声を上げる。

 

「なんじゃ! その話し方だと、お前さん達の国にもコレと同じモノが有るのかっ!!」

 

「ええ……おそらく仕組みは違うと思いますけど、確かに似たようなモノなら我が国に有ります。」

 

(う~む……この魔信放送受信機(ましんほうそうじゅしんき)と似た物が二ホンにも有るじゃと? ノーグの話じゃと二ホン人は魔法が使えんと言っとったが、一体どうやって動かしとるんじゃ!?)

 

比留川の返事にダイスは自らの顎鬚をさすりながら唸り声を上げる……。

 

「そう言えばダイスさん、さっき『今日は放送の日』って言っていましたが、この放送は決まった日に行っているのですか?」

 

比留川の問いにダイスは腕を組み渋い顔をしながらも答える。

 

「あぁ……昔は毎日、放送をやっとったんじゃが、今は3~4日に一度しかやらんようになってしもうてのう……。」

 

「それは、何か理由でも……?」

 

「この魔信放送受信機を動かすのに魔石が必要なんじゃが、その魔石がここクワ・トイネや隣国のクイラでは(ほとん)ど産出されんのじゃ……今まではロウリアから穀物との交換で手に入れておったんじゃが、ここ数年、輸入を止められてしもうてのう……ここではノーグが何とか調達しているけど、他の村じゃ魔石が手に入らなくて放送が聞けなくなっとると言う話じゃ。」

 

「輸入を止められている? ロウリアって確か……。」

 

「ロウリア王国……この大陸の西側に在る国らしい、田中大使が使節団(しせつだん)を派遣したって話だったが……。」

 

そう答える牧田がロウリアへの使節団派遣の話を口にするとダイスの表情が急に険しくなる。

 

「ロウリアは昔から酷い国じゃが、今の王になってから更に酷くなった……アイツ等はワシらの事を『亜人』と(さげず)んで子供にまで剣を向ける(やから)じゃ! あの国と関わってもロクな事にならんぞ!!」

 

ロウリアへの怒りが(こも)ったダイスの言葉に比留川と牧田は驚きを隠せず、互いの顔を見合わせる。

 

「この国の外交事情は全く分かんないけど、そのロウリアって国とは関係が良くないみたいだな……。」

 

「ああ……今は外務省の連中が上手くやってくれる事を祈るしかね~な!」

 

比留川と牧田はこの異世界にも、やはり国同士の対立は有るんだなと思いつつも、何も起きなければ良いのだが……と不安を感じるのであった。

 

続く




本編の舞台となるナエノデンエン村に到着する中、比留川はドワーフのダイスより隣国、ロウリア王国との不穏な状況を聞かされます。
次回はクワ・トイネでの事務所建設と調査を中心に異世界の伝承で在る『太陽神の使者』の足跡を辿って行く話が中心となります

用語

コレクター

文明圏内外問わず、古代の遺物が発掘されると何処からか現れ、遺品の品定めを行う仮面を被った謎の人物。
その正体は神聖ミリシアル帝国魔帝対策省の職員で有り、主に古の魔法帝国の遺物の収集を目的としている。
その遺物が古の魔法帝国や失われた古代魔法由来の物で有れば高額(この世界で最も価値の有るミリシアル帝国の通貨で払われる)で買い取る事でも知られており、冒険者達の間ではコレクターが高額で買い取る遺品を見つける事が一流の証とも言われている。

魔信放送受信機

現代世界におけるラジオに該当する魔信による広域放送を受信する魔道具、ナエノデンエン村に設置されてる受信機は150年以上前のパーパルディア製の物である。
電波の放送と違い、風魔法で送信する方向を指定したり魔力を高める事で送信距離を伸ばす事が出来るので、公都クワ・トイネの中央魔信放送局から広大なクワ・トイネ全土に魔信放送の送信が可能で有る。
近年は魔信の触媒に使用する魔石の不足により放送時間の制限や受信が出来ない地域が増えている問題を抱えている。
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