日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く   作:アニキ イン ザ スペース

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第六話 太古の伝承

中央歴1639年(西暦2015年) 3月6日 クワ・トイネ公国 ナエノデンエン村

 

朝食と魔信による放送が終わった後、村の人々はそれぞれ自分の職場へと向かって行き、ナエノデンエン村の一日が始まる。

 

諸星一佐は領主で在るノーグとJICAの施設建設の打ち合わせを行う為、この村で建築に詳しいダイスと一緒に川沿いの建設予定地へと向かい、農学者の牧田はこの村の農作物の調査を行うと言って飯島や他の職員を連れて村の農場へと歩いて行った。

牧畜を担当している大屋は獣人の女性と共に陸鳥の畜舎へとそれぞれが自分達の仕事を始める中、比留川はトラクター等の農業機器を本格稼働する前に村の周囲の状況を確認したいとノーグに相談すると彼の娘で有るジョレーンが自ら案内役を申し出てきたので有った。

 

「私もノーグ家の一員ですし、領地の案内ぐらいは出来ますわ!」

 

突然の娘の申し出にノーグは駄目だと言うも、他に村の周囲を知る物が全員出払っていた事も有りどうするか悩んでいた所、諸星一佐が部下の女性自衛官を2名同行させると提案した事で納得し許可を出す事となった。

 

ジョレーンが比留川達を領地へ案内すると聞いて、自分も同行すると言い張っていたメイドのリドルは目の前に有る自衛隊が用意した(ほろ)を外したパジェロこと1/2トントラックを前にして(おび)えるかの様に硬直(こうちょく)していた。

 

「お・お嬢様……本当にコレに乗って行かれるのですか……!?」

 

「あら? リドルは昨日、二ホンの自動車にすごく興味を持っていたじゃない!」

 

自動車を前にオドオドするリドルを見てジョレーンがくすりと笑っていると、車両の前で立っていた2名の女性自衛官がジョレーン達に敬礼を行う。

 

「本日、車両の運転を担当致します、(うてな) 志保(しほ) 一等陸士です!」

 

「同じく随行員(ずいこういん)有坂(ありさか) 樹里(じゅり) ニ等陸士であります!」

 

凛とした表情の台一士と色黒で180cm近く身長が有る有坂二士が自己紹介を終え、台一士はジョレーンを後部座席へと案内しシートベルトの付け方を教えている間、まだ車の前でオドオドしているリドルを有坂二士は後ろから抱え上げるとそのまま空いている後部座席へと降ろした。

 

「おや?……小さいから軽いと思っていましたが、意外とずっしりとしていますね!?」

 

そう言いながら有坂二士は座席に座ったまま固まってしまったリドルにシートベルトを装着させると彼女は助手席へと乗り込み、比留川は車両の荷台に有る予備座席へと座り込んだ。

 

「それでは準備は出来ましたね! では、ジョレーンさん案内をお願いします。」

 

「はい、今日は領地の最南端へと行きましょう! まずはこの村の道を真っ直ぐ進んで突き当りを左へと向かいます……その先に有る橋を抜けたら南へと進んで下さい!」

 

「分かりました、橋を抜けたら南ですね、では出発します!」

 

運転席の台一士がエンジンキーを回すと力強い音が鳴り響き、アクセルを踏み込むとパジェロが走り出す。

 

「まぁ! 馬の様な速さで走っても揺れがとても穏やかなんですね!!」

 

「はわわわっっ!! 動いた! 動いている!! はわ~!!!」

 

中型トラックならば1台通過できる木製の橋を越え、パジェロは小高い丘を登り始める、後部座席ではしゃぐジョレーンとパニックになっているリドルを見て比留川は「ジェットコースターじゃないんだから!」と呟きながら、眼下に広がるナエノデンエン村の光景を見渡す。

 

このナエノデンエン村、ノーグさんから聞いた話だと現在の村の人口は約700人程で、その内訳は……。

 

最も人口が多く、主に農業に従事する人族が人口の約4割、

 

領主で有るノーグさんと同じ種族で、森で採取や養蜂(ようほう)を行っているエルフ族が約3割、

 

そして狩猟や牧畜を行っている獣人族がおよそ2割、

 

最後に、醸造(じょうぞう)鍛治(かじ)、建築を行うドワーフ族が、全体の1割程の構成で種族事にそれぞれの役目を果たしながら生活している。

 

そんな他種族の人々が共存しているナエノデンエン村はおよそ16平方km程の領域だが、領主で在るノーグさんが管理している周辺の土地は、なんと2000平方kmと東京都の面積に近い広大な土地で有り、そのほとんどが耕作可能な肥沃(ひよく)な土地で在る事に比留川は驚きを隠せなかった。

その広大過ぎる面積の土地に対して住んでいる人々の人口は合計で約1500人未満……ナエノデンエン村以外には、200人程が暮らす集落が4つ程点在するだけとノーグさんは話されていた。

 

5人を乗せたパジェロは1時間近く同じ景色が続く丘陵地帯を走り続けている……ジョレーンさんが言うには中間点である林はとうに過ぎているので(どれがその林なのか全く分からなかったが!?)道中の半分は(すで)に越えているらしい。

この辺は一度も耕作されていない土地だと言われたが、地面にはシロツメクサやレンゲに非常に似た背が低く柔らかい草しか生えておらず、時たま小さな広葉樹(こうようじゅ)の林が見かける程度と言う、まるで人の手が掛かった休耕地(きゅうこうち)の様にしか見えない……ここは全く人がいない所なのでどうしてこの様な植生(しょくせい)になっているかは謎で在った……。

 

「ウテナさん、あの一番高い丘の頂上に着きましたら車を止めてください!」

 

「右側の丘ですね、分かりました。」

 

パジェロは小高い丘を力強く登り抜け指定された丘の頂上へと到着した、比留川が車から降りて周囲を見渡すと北側には何処までも続くなだらかな草木の丘陵地帯が広がり、南側に目を向けると丘の(ふもと)に小さな川が流れており、その先には南の大地を(おお)わんばかりの広大かつ美しい森林地帯が広がっていた。

 

「これは……スゲェや!」

 

比留川は目にする景色に圧倒される中、パジェロを降りたジョレーンが彼に話しかける。

 

「ヒルカワ様……ここが先祖代々、我が一族が大公様(たいこうさま)より(たまわ)った領地の最南端となり、(ふもと)に見える川辺までが領主たる父の所有する土地となります!」

 

彼女の説明ではこの土地はこの国の元首たる大公より受領された土地になるとの事らしい……そう言えば田中大使が『クワ・トイネ公国は共和制(きょうわせい)立憲君主制(りっけんくんしゅせい)混在(こんざい)する政治制度の説明が難しい国』と言っていた事を思い出すが、比留川はそれより気になった事をジョレーンに質問してみた。

 

「ジョレーンさん、御父上(おちちうえ)の領地の境界はあの川までとおっしゃっていましたが、そこから南の森林は別の貴族の領地なのでしょうか……!?」

 

比留川の質問が意外だったのか、ジョレーンは首を(かし)げ少し悩んだ表情を見せた後にこう答える。

 

「いいえ、目の前に見えます森……『リーン・ノウの森』と呼んでいるこの森は私達エルフにとっては神聖なる領域(りょういき)となる為、治める領主は存在しません、強いて言えばそこに住まうハイエルフ様達の土地……と言えばいいのでしょうか?」

 

『神聖なる領域……』と言う言葉に比留川は彼女らの禁忌(きんき)に触れたのではないかと(あせ)りを覚えるが、彼女の様子から見てそうでは無い様だと安心しつつ彼女の話を聞き続ける。

 

「取り分けこの先の森は大古の時代、魔王の軍勢から人類を救った『太陽神の使者の遺産』が眠る聖域(せいいき)と言われていて、大公様ですら立ち入る事が許されない場所なんです!」

 

ジョレーンの口から以前も聞いた『太陽神の使者』と言う言葉が出て来た事に比留川は驚きの声を上げる。

 

「太陽神の使者!? 実は一昨日も貴女の御父上が、その『太陽神の使者』と言う言葉を口にしていましたが……それは、いったいどの様な存在なのでしょうか?」

 

その言葉にジョレーンは一瞬キョトンとした顔をするが、何かを理解したらしく笑顔で比留川に話し掛ける。

 

「ヒルカワ様は私達とは違う世界からやって来たと言うのはどうやら本当の話みたいなんですね、これは私達の世界で伝わる話となりますが、少し長い話となります……。」

 

そう前置きしたジョレーンは遠くに広がる森を見つめながらこの世界の伝承について話し始めた……。

 

 

「遠い昔……この世界の遥か北の果てに在るグラメウスと呼ばれる不毛の地よりノスグーラと呼ばれる恐るべき力を持つ魔王が突如現れ、魔獣の軍勢を率いて人々が住む世界へと侵攻して来ました……多くの国々が魔王軍に蹂躙(じゅうりん)され滅亡していく中、人々は国や種族の差を越え協力して魔王軍に戦いを挑みましたが(かな)う事が出来ず、戦火は海を越えてここロデニウスの地にまで及び、遂にはエルフの故郷たる神森…このリーン・ノウの森にまで迫ってきました……。」

 

「人々が滅んでいく姿を見て(うれ)いたエルフの神でも有る緑の神は、この世界を創世(そうせい)した神へ祈りを捧げ、自らの名を引き換えに太陽神の眷属(けんぞく)を援軍としてこの世界へと呼び寄せました……巨大な神の乗り物に乗って現れ『日輪(にちりん)(ほのお)』を発する強力な神の武器を手にした彼らは『太陽神の使者』と呼ばれ、迫りくる魔王の軍勢を『日輪の炎』で焼き払い、遂には魔王ノスグーラをグラメウスの地に放逐(ほうちく)した事でこの世界の人々を滅亡から救いました。」

 

「こうして役目を終えた太陽神の使者達が神の世界へと帰って行く中、一つの動かなくなった神の乗り物がこの地に残されました……それは『空飛ぶ神の船』と呼ばれた、竜よりも早く空を駆け、光の矢で魔獣を(つらぬ)き倒した神の乗り物だと言われています、当時のエルフの長達はいつか『太陽神の使者』達が再び戻って来る日の為に『空飛ぶ神の船』が()()て無い様に『悠久(ゆうきゅう)の時の魔法』を掛け、周囲に守護の木々を植える事でこの地を新たな聖域にする事にしました……そして『空飛ぶ神の船』はかつての長達の意思を次いだハイエルフ様達の庇護(ひご)の元、今もこの地で長き眠りに()いていると言われています……。」

 

 

「……これが私達の世界に伝わる『太陽神の使者』の話ですわ、お役に立ちましたでしょうか……?」

 

「ジョレーンさん、ありがとうございます……話を聞く限りですと、かつて私達と同じ様に異世界から来た存在が居た事と、その遺産がこの森に存在するんですね!」

 

(太陽神の使者とはこの世界の先史文明では無く、自分達の様に違う世界から来た人々の事だったのか!? 水道橋を作る様な高度な技術はともかく彼らは元の世界に戻って行ったと言っていた……ならば自分達も元の世界に帰る方法が有るのでは……!?)

 

比留川はその様に考えるが、『太陽神の使者』については一度戻って、この丘陵地の奇妙な植生と共に牧田達に話してみる事にした。

 

「では、調査はここまでにして村に戻りましょう!」

 

「!?……えーっ! ま…また自動車に乗るのですかぁ!!!」

 

比留川の言葉を聞き、車を降りてからさっきまで放心状態でヨタヨタと歩いていたリドルが叫び声を上げる!

 

「おや……リドルさんはここから歩いて帰られますか!? 歩きですとここから村まで3日は掛かると思いますし、この辺は狼が出ると言う話ですよ……ですから!」

 

有坂二士はそう言うと再び後ろからリドルを抱え上げ、勢いよく後部座席へと座らせると手際よくシートベルトを装着させる。

 

「ひゃっ!! はわ……はわわわっっ!!」

 

後部座席へと座らされたリドルが固まっている間に比留川達はパジェロに乗り込み、運転席の台一士がエンジンを起動させる……パジェロは草を巻き上げながら小高い丘を下り始める……。

 

「ぎょわわゎゎ~っ!! 動いた! 早い! 早い! 早すぎる~!!」

 

(さわ)やかな風がそよぐサージレイ丘陵の草原にパジェロのエンジン音と共にリドルの悲鳴が(ひび)き渡った……。

 

続く




ナエノデンエン村にて、JICA一行の活動が本格化して来ました。
比留川達の農業指導やインフラ整備が進む中、ロデニウス大陸に不穏な影が差し始めます。


用語

日輪の炎

古代の伝承に伝わる『太陽神の使者』が使ったとされる神の武器の総称。
伝承では『太陽神の使者』は巨大な神の船から1人の戦士までもが『日輪の炎』で武装しており、その雷鳴の様な轟音と共に噴き出す業火の如し炎と爆裂で魔王の軍勢を焼き払ったと言われている。
近年、伝承の広がりと永きに渡りほぼ口承で伝えられた事も有り『日輪の炎』と言う言葉は使われ無くなって来たが、『空飛ぶ神の船』の聖域から近く、多少でもハイエルフとの交流が有るナエノデンエン村では、今でも伝承としてこの言葉が使われている(ただしナエノデンエン村の伝承では何故か、時空遅延魔法と言う魔法の言葉が使われ無くなっている)。
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