日本国召喚 国際協力機構 異世界を往く クワ・トイネ編   作:アニキ イン ザ スペース

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“ 遥かなる昔、創世の神によりこの世界が創られ、その大地に新しい命を根付かせるべく、多くの神々が神の世界よりこの地へと降り立ちました。
その中の一人、ロデニウス大陸の森に降り立った『緑の神』は、この地に永きに渡り生きる種族エルフを創造し、過酷な森の中でも生きられる様に彼らに『魔法』を授けました。

ある時、森を出たエルフ達は草原で神に似せし種族で在る人間族と出会います……これを見た『緑の神』は彼らが争わない様に、出会った草原の土地に祝福を与え、その土地で生きて活ける様に『収穫を得る術』をエルフと人間達に教えると、この様に言いました。

「愛しき子達よ、私は貴方達が共に仲良く生きていける様、この地に祝福を与えました……これから貴方達の中で一番賢く、信頼される者が長となり皆を治めなさい……そして祝福されし大地より得た収穫を隔てなく皆に分け与える事で共に喜びを分かち合うのです……。」

こうして長となった者は『緑の神』の言いつけを守り、収穫を公平に分配し共存する事で繁栄を謳歌し、やがてロデニウス大陸最初で最大の国となる伝説の王国『ミズ・トイネ』が建国された事に『緑の神』は大いに喜び満足しました。

これを見た他の神々は自分達の眷属にも『収穫を得る術』を教えましたが、祝福を受けていない大地では収穫は思う様にままならず、長となった者達が少ない収穫と富を独占する様になった為、人々の間に不平と貧富が広がりました。

その様な中、神々の1人が不平を力で治めるべく人々に『武器』を教えてしまった為に、人々は手にした『武器』を使い、富と大地を巡る争いを始める様になり、創世された大地が人々の血によって穢された事に、神々は嘆き悲しみました……。

人々の愚行に多くの神々が失望し、神の世界へと戻って行く中、『緑の神』は愛し子で有るエルフ達の為にロデニウス大陸の森に残り、今も聖地アールス・ラーサの神殿より我らを見守っているのです……。”

― クワ・トイネ公国に伝わる神話の一節より ―


第七話 使節団と冒険者達

中央歴1639年(西暦2015年) 3月18日 ロウリア王国 東部の辺境地

 

ロウリア王国の東部、クワ・トイネ公国の国境であるリーン・ノウの森と接したこの草原は、遠くに見える緑豊かな森と対照的に草木は黄土色(おうどいろ)に枯れ果て、強い北風が吹き上げる度に乾いた土を巻き上げ荒涼(こうりょう)としていた……。

そんな荒れ果てた土地を見続けている初老の男は目を閉じ、昔の光景を思い出す……。

 

この領地は、緑豊かで肥えた土地だった……陛下が皇太子時代の時、東征(とうせい)に参加した私はこの土地に住んでいたエルフ達を駆逐(くちく)し、先王よりこの土地を拝命(はいめい)する事で、この地の領主となった……エルフ達が住んでいたこの地は、大地を耕し種を植えれば毎年の様に豊作が約束されると言う不思議な土地で有り、私は多くの農奴(のうど)をこの地に連れて来て、長きに渡りこの大地の恵みを享受(きょうじゅ)していた……だが、何時の頃からか土地は痩せ始め、収穫は年を追う事に減り、領民達が困窮(こんきゅう)し始めた……。

 

私は身を切る思いで同じ境遇の領主達と共に陛下に請願(せいがん)した所、陛下は「卿らの窮状(きゅうじょう)は既に聞き及んでいる……余はこの事態を解決すべく以前より、新たなる東征の計画を立てていた……クワ・トイネ、クイラ両国の亜人共を駆逐しロデニウス大陸をロウリアの旗の元に統一するのだ!! 卿らも兵を集め、この戦いに参戦せよ! さすれば褒美としてクワ・トイネの肥えたる土地を与える約束をしよう!!!」

 

陛下は我らの為に、開戦を決意されていたのだ……それを聞いた私は感激の余り涙を流し、王の旗の元に()(さん)じる事を誓った……。

 

「お館様、準備はできております……出陣のご命令を!!」

 

古参の老兵の呼ぶ声に私は振り返り、整列した兵達を見下ろす……多くの若者を徴兵し数を揃えて来たが、痩せている兵も多く見られる……だが、今は戦地へと赴き、ロウリア王への忠義(ちゅうぎ)を示さなければならない……私は色褪せた我が家の紋章旗を掲げ出陣の宣誓(せんせい)を行った。

 

太鼓の音と共に隊列が動き出す……それを見送る領民達は口にこそ出さないが、少ない蓄えを兵糧として徴収された上に働き手を兵として取られた事で、怨嗟(おんさ)のまなざしを領主で有る私に向けていた……。

 

(そう(うら)めしい目で見るで無い……この東征が成功すれば、そなた達を新たなる肥沃(ひよく)な土地へと連れて行けるのだ!)

 

そう思いながら私は隊列と共に荒野と化した領地を離れ一路、国境付近の集合地点へと向かって行った……。

 

 

中央歴1639年(西暦2015年) 4月7日 ロウリア王国 クワ・トイネ公国との国境付近

 

ロウリア王国とクワ・トイネ公国は国境で有る川を境にその植生が大きく変化しており、緑豊かな樹木が生い茂るクワ・トイネ公国に対しロウリア王国は木も草も(まば)らにしか生えていないサバンナの様な景色が広がっていた……そんな両国を結ぶ国境の街道から外れた赤茶けた丘の上で、川の近くに設置されたロウリア王国軍の野営地を見つめる3人の姿が有った……。

武器も衣装もバラバラな彼らは『冒険者』と言う職業を生業としており、使節の護衛としてロウリア王国からクワ・トイネ公国へと戻る安全な道を探るべく偵察を行っていた。

 

「むぅ……以前にここを通った時よりも天幕(てんまく)の数が倍……いや、それ以上に増えているでゴザらぬか!!」

 

大きな野太刀(のだち)を背負った剣士サンジュンが、遠くに見える無数の天幕を見て驚きの声を上げる……彼の横に居た黒騎士のスターンは、手にした望遠鏡を使い国境へと向かう道を(のぞ)き込むと、そこには街道を往来する多くの武装した兵士の姿が見えた……。

 

「街道もロウリア兵で一杯だな、いくら使節とは言えここを通るのは危険すぎる……。」

 

2人が街道を注視していると、周囲を警戒していた弓使いのミルが西の方角へと指を差す。

 

「スターンさん! 西の街道から、また隊列が来ました!!」

 

ミルの言葉に西の街道へ望遠鏡を向けてその隊列を観察していたスターンは有るものに気付き、望遠鏡を隣にいたサンジュンに渡す。

 

「サンジュン殿、あの隊列を見られよ!」

 

「あれで有るか!? んっ……何でゴザルかっ! あの不気味な旗印はっ!!」

 

スターンが指さした先を望遠鏡で見たサンジュンは隊列に掲げられた旗を見て目を見開く……それは黒地に白く髑髏(どくろ)と首輪、そして鎖が描かれている異様な旗で有り、その旗の後続には無数の(おり)を乗せた馬車が続いていた。

 

「あれは『人狩りジョコ』の紋章旗、ロウリア王国の西の果てに居を構えている奴がここまで来るとは……。」

 

その様に語るスターンが(にら)む様に見る『人狩りジョコ』とは、元は奴隷商人としてその悪名を(とどろ)かせ、亜人狩りを行う事でロウリア王の目に留まり、ついには爵位までも手に入れた貴族とは名ばかりの下劣な男で有る。

ロウリア王国はジョコの様な荒くれ者が活躍する事で周辺諸国を併合し拡大していったが、騎士道を軽んじる野卑(やひ)(やから)が貴族を名乗る事に嫌気が差したロウリアの騎士スターンは王への忠誠を捨て、戦場や探索で路銀(ろぎん)を稼ぎながら各地を放浪する『黒騎士』の道を選んだので有った……。

 

「後続の檻付きの馬車は捕らえた者を収監(しゅうかん)する為の馬車であろう……ジョコの奴め、二つ名通りの下衆(げす)ぶりは健在で有ったか。」

 

ジョコの悪行を知るスターンは不快感を隠す事無くそう呟く……。

 

「この街道から国境を抜けるのは無理な様だ……戻って、ローシュとスドウ殿に報告しよう!」

 

御意(ぎょい)!」

 

「わかりました!」

 

スターン達は丘の(ふもと)に待機させていた馬に乗り込み、仲間達が待っている荒野へと向かった。

 

 

街道から大きく離れた僅かな草木しか生えない荒野に一本の……まるでバオバブを思わせる巨大な(みき)を持つ大木に身を隠す様に一台の馬車とその木の下で休む、6人の人々の姿が有った。

 

6人の内、現地の人々とは異なる衣装を着た男は背伸びをしながら、木の根に腰掛けている似た衣装を着た中年の男性に話しかける。

 

「あ~! 須藤さん、ようやく国境を抜けられますね……一時はどうなるかと思いましたよ!!」

 

「城戸君、国境を抜けても、公都クワ・トイネまで2週間近くの道のりがあるんだ! まだ先は長いぞ……。」

 

声を掛けられた男性……日本国外務省ロウリア王国使節団政府代表の肩書を持つ、須藤(すどう) 健司(けんじ)は話しかけて来た随行員の城戸(きど) (まもる) 書記官にそう言うと、ため息を付きながらこれまでの出来事を思い返す……。

 

 

ロウリア王国への使節団派遣は最初から苦難(くなん)の連続だった……クワ・トイネ公国に仲介(ちゅうかい)して貰おうにも、「ロウリア王国とは大使が国外追放されて断交状態の為、仲介は出来ない」と言われ、距離や外交政策上の問題で船舶や車両での移動が出来無くなり、移動はクワ・トイネで買い入れた馬車を使用する事になった。

その為、使節団は代表で有る私と一名の随行員、そして長距離無線機を扱う技術者の3名だけとなり、クワ・トイネ公国から仲介して貰い、船舶とヘリコプターで移動する事ができた『クイラ王国使節団』とは大きな差が出てしまった事に私は不満を漏らした……。

 

また、クワ・トイネ公国の外務局から「クワ・トイネと違いロウリア王国は非常に治安が悪く、国境付近でも道中は獣だけで無く、越境(えっきょう)したロウリアの野盗団に襲われる危険が有る」との警告を受け出発を躊躇(ちゅうちょ)していた所、ヤゴウ氏より使節団の護衛と道案内を兼任出来る『冒険者』達を斡旋(あっせん)する『冒険者ギルド』を紹介され、6人の『冒険者』達を護衛として(仲介料を含めて金貨400枚と言う大枚を払う事になったが……)雇う事となった……。

 

そんな冒険者達は護衛や道案内だけで無く、道中での交渉や食料の調達、宿泊の手配と、現地に(うと)い我々に色々と便宜(べんぎ)を図ってくれた。

だが、驚くべきはロウリア王国の荒野で野盗団の襲撃を受けた際、30人以上の野盗相手に彼ら6人で一方的に相手を撃退してしまった事だろう……。

今回雇った彼らは、全員が冒険者ギルドより一流の冒険者の証で有る『二つ名』を与えられた冒険者達で有り、推薦してくれたヤゴウ氏の言った通りその名に恥じない活躍をしてくれた。

そんな彼らの助けも有り、我々使節団は無事にロウリア王国の王都ジンハークへと到着した。

 

王都ジンハークは岩山の頂上にそびえ立つ王城を中心に高く頑強な城壁に守られた城塞都市で、3層に渡る城壁の間に建てられた城下町は混迷としているが、隣国で有るクワ・トイネ公国の公都クワ・トイネを越える規模で有り、中でもワイバーンと呼ばれる人を乗せて空を飛ぶことの出来る巨大な翼竜が編隊を組んで街の上空を飛行している様に私達は仰天(ぎょうてん)した……。

 

ロウリア王国との交渉ではロウリア出身の冒険者で有る黒騎士スターンの伝手(つて)も有り、王城にてロウリア王国の外務卿との対談に()()ける事が出来た。

ロウリアの外務卿は贈呈(ぞうてい)した日本刀や真珠の装飾品と言った品々に大変満足した様子だったが、我々がクワ・トイネ公国と国交を樹立し、クイラ王国とも交渉を行っている事を伝えると外務卿の態度が急変(きゅうへん)し、この場で2カ国との断交を確約しないと貴国との交渉を中断すると迫って来たのである。

使節団にはそこ(まで)の権限は無い事を伝えると外務卿は「これ以上の対談は不要だ!」と言って衛兵を呼び出し、我々は王城から追い出されてしまった……。

 

翌日、「王城へ行くのは危険だ!」と言うスターンの警告を聞き入れずに再度、交渉に望むべく王城へと向かったが、我々使節団を待ち受けて居たのはロウリアの外務卿では無く、武装した王城の衛兵達で有った……そんな窮地(きゅうち)に立たされた我々を救ったのは、護衛として同行していた黒騎士のスターンと魔導士のカシュエルで、衛兵達を物ともしないスターンの剣技とカシュエルが放った霧の魔法で危機を脱した我々は、城壁の抜け道を知るスターンの案内で追手を振り切り、他の冒険者と魔信で連絡を取り合ったカシュエルにより、一足先に城外へ脱出していた冒険者達と合流する事が出来た……。

 

ロウリア王国との交渉は失敗に終わった……王都ジンハークから離れた荒野にて長距離無線機を使い本国へ現状を報告したが、無線を聞いていた局長から「無理をさせ過ぎてすまない……。」と言う言葉と共に帰国命令を受け、大使館が設立されたクワ・トイネへと戻る事になった。

帰国への道中、行きでは(ほとん)ど見る事の無かったロウリア王国軍の部隊とすれ違う様になり、冒険者達が集めた情報によると、近くクワ・トイネ、クイラの両国と戦争になると言う噂が街々に出回っているらしい……。

国境付近ではロウリア王国の軍勢が集結しているらしく、下手をすると両国との戦争の巻き沿いを喰らう恐れも在る、今は偵察に出ているスターン達の帰りを待ち、その報告を元に今後どうするか彼らと話し合う必要が有るだろう……。

 

 

……その様に今までの出来事を振り返っていると、さっきまで馬車の近くで休んでいた無線技士の持山(もちやま) 和彦(かずひこ)が長距離無線機のアンテナの設置を始めている事に気が付く。

 

「そうだった……今日は定時報告の日だったな!」

 

そう呟きながら須藤はポケットからスケジュール帳を取り出し、定時報告する内容をどうするか(まと)め始めた……。

 

 

無線機のアンテナを組み上げるべく、ロウリア王国使節団の中で唯一の民間人で有り通信社から無線技士として出向して来た持山は馬車に積み込まれた袋を引き出し、中に入ったアルミ製の骨組みを組み上げ始めた。

 

「モチヤマ殿、私も手伝いましょうか。」

 

「カシュエルさん、助かります!」

 

紺色(こんいろ)のローブを着た中年の男性が持山の元に駆け寄り、短波通信用のワイヤーアンテナの設置を手伝い始める。

 

「しかし、この様な小型の装置で3000キロ以上離れた本国と通信できるとは……同じ事を魔信で行うならば、部屋いっぱいの設備と大量の魔石が必要になると言うのに……。」

 

「そうですか……!? 私は魔法で火の玉を造り出した貴方に大変驚きましたけど!」

 

そう言われたカシュエルは持山と一緒にお互いに笑いだす……。

 

彼は冒険者ギルドより『紺炎(こんえん)のカシュエル』と言う『二つ名』を与えられる程の冒険者で有り、その名の通り紺色に燃える炎を魔法で造り出す事が出来る。

野盗団の襲撃を受けた際は、彼が造り出した紺色の火の玉を野盗達の前で爆発させ、見ていた使節団の面々の度肝(どぎも)を抜かせた。

 

「カシュエルさん、支持ワイヤーを引っ張りますのでポールが倒れない様に支えて下さい!」

 

カシュエルは言われた通りポールを支え持山がワイヤーを張り終えていると、大木に登って見張りを続けていた筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)な戦士で冒険者達のリーダーでも有る、ローシュが木から降りて来ている事に気が付く。

 

「スターン達が戻ってきた!」

 

そう言いながら木から降りて来たローシュが見る方向には馬に乗った3人の姿が有った。

 

 

戻ってきた冒険者達の報告を聞く前に、3人を労うべく須藤はコーヒーを入れる事にした。

火を起こそうにも焚き木では煙でロウリア軍の斥候(せっこう)に見つかる危険が有り、冒険者達が使う魔導焜炉(まどうこんろ)では魔法を感知される恐れが有ると言うので、日本から持ってきたガスカセットコンロを使ってお湯を沸かし始める。

 

「ほう……これだけ強い炎を出しても煙を全く出さないのか!? それに魔力を全然感じないとは……。」

 

「炎の明かりが有るから夜中に使うのは危険だが、小さくて使い勝手も良さそうだ!」

 

冒険者達がカセットコンロに関心する中、ケトルの中の水が沸騰し始め白い蒸気を吹き出す……須藤はカバンの中から転移により貴重品となってしまったインスタントコーヒーを取り出し、冒険者達が準備したカップへと一匙ずつ入れお湯を注ぎこむ……。

 

「は~っ! この『こうひぃ』と言うお飲み物、ほんのりと香ばしい湯気の香りと苦くても芳酵(ほうこう)な味が身体に()みる様で、とても落ち着きますわ~!」

 

女祭司のルドミナは和んだ表情でコーヒーを飲んだ感想を口にする……。

 

「良ければコーヒーのお代わりと砂糖も有りますから。」

 

そう言いながら須藤は砂糖の入った紙製のスティックを取り出すと苦いのが苦手だったミルの顔が綻ぶ。

 

「ありがとうございます! でも、いいのですか……!?」

 

この世界で砂糖は、文明国と呼ばれる上位の国家の上流階級が口にする高級品で、ミル達が住む文明外国家の国々では手に入れるのも困難な代物で有る。

 

「とか言いながら、もう封を切って『こうひぃ』に入れているではゴザラぬか……全くオヌシは!」

 

「え~っ! だって、コレ苦いんだもん! そう言うサンジュンだって砂糖2個も入れてズルいよ!!」

 

ミルとサンジュンのやり取りに笑いながらも皆が落ち着いたと言う事で、須藤とローシュは偵察に行ったスターン達の報告を聞く事にした。

 

 

「そうか……嘘だと思いたかったが、それ程の軍勢が集結してるとなると戦争は間違いなく起きるな。」

 

ローシュは祖国で有るクワ・トイネが戦場と化す事に(うれ)いの表情を浮かべる……。

 

「それにロウリアの王都から二ホン使節団の手配書が回っている可能性も有る、そうなれば街道から国境を抜けるのは無理だろう……。」

 

スターンの報告を聞き終えたローシュは鞄から布に書かれた地図を取り出し地面に広げる。

 

(うへぇ……こんな絵にしか見えない地図で俺達は旅していたのかよ!)

 

城戸は測量術(そくりょうじゅつ)が普及する以前の古地図にしか見えない地図を見て呆れつつも、ローシュの言葉に耳を傾ける。

 

「今いるのがここ、ギムの街から25キロ程の地点……報告の通り東の街道はロウリア軍に抑えられて通れない、ならば……国境の川沿いを3日程北上した所に馬が渡れる浅瀬が有る、ここを抜ければ遠回りになるがクワ・トイネへ入国できます。」

 

ローシュは地図に描かれた川を指差し、川をなぞりながら指を地図の北側へと動かして須藤達に説明する。

 

「よろしいでしょうか!? 地図を見た所、北上するとギムやエジェイの街から遠ざかる様なので……例えば、この南に有る森から抜ける道は無いのですか?」

 

「スドウ殿、それは無理でゴザルな……南の森は『リーン・ノウの森』エルフ達の聖地で在っても、森が望まぬ者が入ろうものなら生きては出られぬ魔境(まきょう)でゴザルよ!」

 

「ま……魔境ですか……。」

 

屈強(くっきょう)な剣士で有るサンジュンから魔境と言う言葉が出てきた事に須藤は驚く……後に知る事で有るが、リーン・ノウの森には何らかの力が働いており、森の住民で在るハイエルフ達の案内無しで森に入れば『神森の戒め』と呼ばれる謎の力により方向感覚を失って森を彷徨って行く内に身体が徐々に衰弱して死に至ると言う話で有り、この不可思議な力によりロウリア軍の侵攻ルートが限られている事や、神話の時代には魔王軍の進軍すらも阻んだとも言われている。

 

「ロウリア軍は大群を持ってギムの街を強襲すると思われます、ならば時間を掛けて迂回する様な戦術は取る必要が無いので川の北側には兵はいないでしょう……ただしこのルートは対岸沿いに『北の森』を迂回するルートなので、時間も掛かる上に森の北側を出るまで集落が有りません。

あと『北の森』を突っ切ってギムの街へ行くルートは道中、獣や怪物が出て危険な上に森は馬が通るのがやっとの小道なので馬車は置いていく事になります……。」

 

「……分かりました、機材を載せた馬車を置いて行く訳には行きません、『北の森』を迂回するルートで行きましょう!」

 

スターンの意見に須藤は頷く、『新世界技術流出防止法』の事も有り馬車に載せた無線機材を放置する事は出来ない(万が一の時は焼却処分する様に指示されている)為、国境の川の浅瀬を渡った後に『北の森』を迂回しながら川沿いを北上するルートで移動する事に同意する、ローシュの話だと北側の浅瀬は街道側の浅瀬と同じ3km程の川幅の浅瀬が有り、ここを最後に川幅は500m程に狭まるが川は深くなり流れも早くなる……ロウリア側の川岸は海まで高い崖が続き、クワ・トイネ側は川岸と森の間が狭い草地となっている為、馬や馬車での移動は可能で有るが道中に集落は無く、森を迂回し北側に在る集落まで約7日間の野宿を余儀なくされるとの事で有った。

 

「水は川沿いを移動するから問題無いとして、食料はビールズの街で買って来たから10日は大丈夫かな!?」

 

馬の鞍と馬車の荷物を確認するミルの言葉に城戸は天を仰ぎながら呟く……。

 

「当面は、固いパンとボソボソとしたチーズに干した肉と果物ばかりを食べる日々が続く訳ですね……あぁ、日本のラーメンが恋しくなるよ!」

 

「ほぉ、キド殿が恋しがる……その『らぁめん』とは如何(いか)なるモノでゴザルかっ!?」

 

城戸の発した食べ物の言葉に興味を持ったサンジュンが顔を寄せて来る。

 

「サ・サンジュンさん……インスタントで良ければクワ・トイネに戻った時にご馳走しますよ!」

 

「おおっ……それはかたじけない! クワ・トイネに戻った時の楽しみがデキたでゴザルのう!!」

 

「もぉっ! サンジュンばっかりズルいよ、ボクも食べてみたい!!」

 

再び始まったミルとサンジュンとのやり取りに皆が笑う中、須藤は城戸に声を掛ける。

 

「城戸君、方針も決まったから外務省に定期報告を入れるよ! 持山君、無線機は使えるね!」

 

「無線機の準備は出来ています……しかし、ソーラーパネルの充電が十分で無いので、交信は10分程が限度です!」

 

「ここ数日、曇り続きだったからね……仕方ない。」

 

須藤はそう答えると無線機のプレストークボタンを押し外務省と交信を行う……。

 

その後、日本国外務省ロウリア王国使節団は冒険者達と共にロウリア軍との接触を避けるべく、国境の川を北上し浅瀬を渡りクワ・トイネ公国入りした後、『北の森』を大きく迂回するルートを通り、4月24日に公都クワ・トイネの日本大使館に無事帰還する事が出来た。

その後、冒険者達に振る舞う一番美味いインスタントラーメンはどれかを決めるのに田中大使を巻き込んだ大使館職員達の騒動については別の機会に話すとしよう……。

 

 

同日 ロウリア王国 クワ・トイネ公国との国境付近 ロウリア王国東方征伐軍 先遣隊野営地

 

クワ・トイネとロウリアの国境の街道沿いに最初の東方征伐軍の野営地が設置されてから2カ月近くが経過し、日を増す事に増え続ける天幕が地を覆いつくす様は対岸側のクワ・トイネ公国軍の監視哨からも確認が出来る程で有り、監視を行うクワ・トイネの兵士達の不安を増長(ぞうちょう)させていた。

 

その様な野営地を黒と銀で装飾されたサーコートを着た2人の男達が道に垂れ流される汚水を避けながら歩く姿が有った。

 

「なぁ、親父……野営地に着いたばかりなのに、いったい何処に行くんだ!?」

 

「エストバン、儂の事は父上と呼べ! 今のお前は貴族なんだぞ……これから向かう所は、東方征伐軍の副将であるアデム様が滞在(たいざい)されている指揮所だ、くれぐれも非礼の無い様にしろ!」

 

人狩りジョコこと、ベンセラス・ド・ジョコは息子のエストバンにそう言いながら丘の上に設置された天幕へと歩いて行く。

 

(何だよ……貴族と言っても騎士爵じゃ、俺は後継ぎになれねえじゃねーか!)

 

エストバンはそう思いながらも父親の後を付いて行く……丘の上の天幕の前に到着すると、ジョコは天幕の前に立つアデムの部下の魔獣使いに謁見(えっけん)に来た事を告げる。

 

「どうぞお入り下さい、アデム様が中でお待ちしています……。」

 

灰色のローブの男は天幕の入口の布をめくり中へと案内する……灰色のローブから見えた魔獣使いの男の手は使役した魔獣の毒に侵されたのか、紫色に変色してただれている事に2人は驚く……ジョコ達が天幕の中へと入って行くと地図を広げたテーブルの横に甲冑を着こんだ細い吊り目の男の姿が有った。

 

「ベンセラス・ド・ジョコと我が黒鎖騎士団(こくさきしだん)! 騎兵82名と従兵103名を連れ只今、到着しました!!」

 

ジョコは恐怖で強張りつつ声が裏返りながらも、甲冑を着た吊り目の男……ロウリア王国東方征伐軍、副将のアデムに部隊の到着を報告する。

そんなジョコに対し、テーブルに置かれた蝋燭(ろうそく)の明かりに照らされるアデムの顔が不気味な笑みを浮かべる……。

 

「これはジョコ殿、到着が遅れた事は良いとしましょう……来なければ一族郎党(いちぞくろうとう)(まと)めて殺してしまう所でしたよ……!」

 

「ア…アデム様、お(たわむ)れを……。」

 

その狂気じみた目線にジョコは背に汗を流しながら恐怖を感じる……このアデムと言う常軌(じょうき)(いっ)した男の事を知っている以上、今の発言がとても冗談とは思えないのだ!

 

「そうそう……私達、先遣隊はパンドール将軍の本隊が来る前にギムの街を墜としますので、そのつもりでいて下さい……それと亜人の奴隷を捕らえる時は先に私に言って下さいね! でないと私、つい皆殺しにして仕舞いますので……クックック」

 

謁見を終え天幕を出たジョコは顔を青くしながら逃げる様に自分達の陣地へと戻って行く中、息子のエストバンが心配そうに声を掛ける。

 

「親父……大丈夫か!? しかし何なんだ、あのアデムとか言う不気味な野郎は!!」

 

「あ……あぁ、いいかエストバン! 間違っても、あの男を怒らせたり機嫌を損ねる様な事を起こすんじゃないぞ!!」

 

ジョコはこれまでもアデムの正気とは思えない行為を目の当たりにして来た……中でも長年、抵抗を続けて来た亜人達の砦を自らの魔獣を使って陥落(かんらく)させた時に『余興(よきょう)を行いましょう!』と言いながら捕らえた亜人の親達の前で、その子供を巨大な魔獣に生きたまま食わせると言う(おぞ)ましい行為を行い、同行していたジョコと諸侯達は気を失わんばかりに恐怖する中、アデムだけは酒を飲みながら笑い楽しんでいたのだ。

これ以外にも、戦場では魔獣を吶喊(とっかん)させ敵味方共に全滅させたとか、食料となる家畜の調達で数が足りないと言う理由で担当者を魔獣の餌にしたとか、アデムには狂っているとしか思えない話が絶えない……。

 

それでもロウリア王はアデムにクワ・トイネ征伐軍の副将の地位を与えたのだ、我が王は実力が伴えば後はどうでも良いと言うのだろうか……。

それから5日後、ジョコは燃え盛るギムの街で再びアデムの狂気を目の当たりにする事となった……。

 

続く




ついに戦争が始まりました……。
次回は、戦争の勃発により比留川達、JICAの職員とナエノデンエン村の人々に動揺が広がる中、情報部別班の山内は特戦群の田崎と共に城塞都市エジェイにて新たな冒険者達の案内の元、戦火に燃える国境の街へと向かいます。


護衛の冒険者達

この世界の冒険者にとって『二つ名』とは技量と実績を表す証で有り、功績の内容によって冒険者ギルドより与えられる事で、一流の冒険者として扱われる。
今回、日本国の使節団の護衛を行った冒険者達も全て二つ名を持つ者ばかりで有り、エルフやドワーフと言った亜人達の入国を認めないロウリア王国へ入国する都合上、人族の冒険者で編成されている、メンバーは以下の通り。

砕刃のローシュ

クワ・トイネ公国出身の戦士、大斧を武器とする冒険者達のリーダー

黒剣のスターン

ロウリア王国出身の黒騎士、騎士道に準じる聡明な男

斬馬のサンジュン

フェン王国出身の剣士、剣技を極めるべく国を出て冒険者となった

兜抜きのミル

シオス王国出身の弓使い、若くして二つ名を持つメンバー最年少の冒険者

聖域のルドミナ

マール王国出身の大地神の女祭司、教団から冒険者ギルドへ派遣されている

紺炎のカシュエル

パンドーラ大魔法公国出身の魔導師、知見を広める為に冒険者として各地を回っている


用語

神森の戒め

『リーン・ノウの森』で起きる、現地の住民で在るハイエルフの案内無しで森の中に入ろうとすると、方向感覚の喪失と身体が徐々に衰弱し森から出られないまま死に至ると言う謎の症状。 これは森を危害を加えようとする人間や魔獣に対し、緑の神の退魔の加護が作用している為に発生する。


黒鎖騎士団

ロウリア王国の新興貴族で在るベンセラス・ド・ジョコが率いる騎士団の名称、隊旗には髑髏に首輪を取り巻く鎖が描かれている。
騎士団と言っても団員は全て奴隷商人だったジョコの私兵で有る荒くれ者の人狩り達で構成されており、騎士道を尊う騎士とは程遠い存在で有る。


国境の川

クワ・トイネ公国とロウリア王国との西の国境線となっている、ロデニウス大陸最大の川。
クワ・トイネ公国の南部、リーン・ノウの森の最奥を源流とし、ロデニウス大陸北部までおよそ3000キロ近くの長さ誇る。
ギムの街周辺のみ3キロ程の川幅の浅瀬が在り、それ以下の場所はロウリア側は険しい崖で、クワ・トイネ側は河口付近まで森(北の森)が続いている為、双方を行き来するルートは陸路はギムの街付近の浅瀬のみとなっている。
「国境の川」と言う名称は両国が外交上の諍いを回避する為に付けられた通称で有り、クワ・トイネ公国での名称は「アルース・ラーサ川」と呼ばれており、ロウリア王国側では「大ロウリア川」と呼ばれている。

冒険者ギルド

登録した冒険者と呼ばれる人々に仕事を斡旋する組合で、仕事内容は未開地の探索や魔物の討伐、はては街のゴミ拾いまで幅広く紹介される。
文明国と繋がりが有れば、非文明国でも大きな街に行けば支店となるギルドが必ず存在し、異世界では数少ない世界規模で連絡を取り合ってる組織の為、拠店同士の情報の伝達は驚く程、早い事でも知られている。
実は古の魔法帝国や世界中の情報を得る為に神聖ミリシアル帝国が作り出した組織で有り(表面上は何処にも属さない組織とされており、これは現皇帝ミリシアル8世自らの提案だとされている。)列強国にすら大使館を設立するのが稀で有る神聖ミリシアル帝国の有用な情報収集拠点として活用されている。


魔導焜炉

魔法陣が彫られた金属性の鍋状の物に魔石を触媒として湯を沸かせるだけの熱を発生させる事が出来る魔道具。
煙は出ないが火属性の魔力を放出する為、魔法感知には引っかかるので冒険者達はロウリア軍陣地の近くでは使用しなかった。
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