時は幕末
京都、様々な思惑が渦巻くこの場所では人斬りが暗躍し、そして、様々な者達が日本の未来と夜明けの為にもがいていたまさに動乱の時代
暗い夜道、姿を現したのは三人の男達だった、先頭が提灯を持っているおかげで、その三人の顔はよく見えた、前から順に、優しそうな青年、好々爺に見える老人、筋骨隆々な大男と続いていった
「遅くなりましたね、少し急ぎましょう」
先頭を歩いていた青年が、後ろの老人へと話しかけた。老人は頷くと、朗らかな口調で青年に話しかけた
「聞いたぞ清里、来月祝言だそうじゃないか、あの幼馴染の器量良しを貰うか、果報者め」
清里、そう呼ばれた青年は幸せそうな笑みを浮かべた会話の内容から、あの青年が結婚するんだということは分かる
そんな中で祝福の言葉を周りから貰った青年は照れ臭そうに彼等にこう告げる
「あはははは…、でも、悪い気もするんですよ。世の中が荒んでいるというのに自分だけ…」
「コラコラ、何を言っとる」
どこか申し訳なさそうにする清里に対し、真ん中を歩く老人は優しくそう諭した
めでたい事には違いないし、得れる幸せを咎めるのは誰もする権利などない
「世の中がどうであろうと、人一人が幸せになろうとするのが、悪いわけがなかろう」
そう言って、共に笑い声をあげ楽しげに会話を弾ませる武士達、だが、そんな彼等の耳に透き通った死神の言葉が舞い込んでくる
それは、凍りつくような殺気に満ち溢れた言葉であった
「京都所司代、重倉十兵衛殿とお見受けする」
その者は小柄なれど確かにその立ち方、そして、異様な雰囲気からただ者でない事を伺わせる
そして、彼が次に繋ぐように口を開き、三人に向かって冷たく言い放たれたそれは死刑宣告にも等しい言葉であった
「これより、天誅を加える」
天誅、つまりは暗殺
この男は一人で臆する事なく彼等にそう言った、それは、一人の青年の幸せを祝福していたその場を静まらせ、そして殺気が漂う修羅場に変えるにはそう時間は掛からなかった
他の三人は慌てて刀の柄を手に取って叫ぶ
「刺客か!!?」
「たかが剣のひと振りで、世が動くと思うておるのかっ…!?」
「名乗れ!!!」
一番強そうな大男が、剣心に向かって叫ぶ。しかし、彼は何も言わず只そこに佇むばかり、だが、その眼は殺しをする時のそれであった
「名乗らんかぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」
痺れを切らしたのか、男は大声を上げて突進した
男は刀を振りかぶり、佇む男へと振り下ろさんと間合いを詰め、勢いよく柄を握る
だが、それが叶う事はなかった
佇む男は迫り来るそれを刀の鍔で受け止めると、おもむろに鞘尻を男の目に向かって抉るように突き立てたのだ
「あがぁっ……!!!」
バキッと、嫌な音を立てて悶絶する男、そして、それも束の間、閃く一筋の光、一瞬のうちに横一文字に斬られた男は、その腹に真っ赤な血しぶきを咲かせて、そして崩れ落ちた
その間にも男は次の標的である他の二人に向かって駆け出し、一気にその距離を縮めていく
二人も突然の出来事に呆気にとられていたが、すぐさま本能的な危機を悟ったのか、刀を構えた
だがもう間に合わない。重倉と呼ばれた老人は、清里という青年を突き飛ばして彼を庇った
「清里、お前は今死んではいかん!!!」
その次の瞬間に、重倉の顎から脳天に向かって刀が深々と刺さっていた。暫し沈黙の後、男は重倉に突き刺さる刀を強引に引き抜いた
重倉は顔から血を流し、そのまま力なく倒れていく
「し、重倉さん!!!」
清里がそう叫んだ時には、男は清里に刀を振りかぶっていた
清里は、奇跡的な反応でそれを防いだが、そのまま刺客の男に壁へ押し迫られていく。何とか切り返しその剣幕から逃れた清里は、改めて刺客の男と対峙した
なんの躊躇もなく、刺客の男は人を殺した
それでいて、彼ね表情は依然として変化を見せず、感情のない眼で構える清里を睨んでいる
死への恐怖を感じながらも、勇気を振り絞り必死で刀を構えている清里に対し、刺客の男はどこまでも冷たく言い放った
「……諦めろ」
生きること全てを捨てさせるような言葉、絶望しか見えてこないような言葉と状況であっても、清里は諦めず、刀を握る手を強くした、
自分には生きる意味がある、諦める訳にはいかない、待つ人のところへいかなければならないと
「そうはいかん!!」
清里は立ち向かった、拙い剣術ながらも、それでも必死に刺客の男へ食らいついていった、だが、徐々に実力の差が現れ始めたか、刀で身体を斬られていく
(死ねない…今死ぬわけにはいかない…)
腹を斬られ、思わず、動きを止めて悶絶するも清里は必死の思いで刀を振るう、流血し、立っている事が苦しい、しかし倒れる訳にはいかない
(死にたくない…死んでたまるか…!!)
肩を斬られ、血が噴き出すも、清里は耐えて立ち上がった、意地でも生き残るその一心で
「死なん…絶対に……っ」
最早ボロボロの状態にも関わらず、それでも清里は諦めなかった、おそらく待っているだろう婚約者を想って、その先の幸せを掴む為に彼は最後まで刀を振るう
だが、終わりの時はやってくる
清里は最後の抵抗を試みる、刀を突き出し、大声を上げて刺客の男へと特攻をかけた
「うおおおおおおおおおおああああああああああああああああああ!!!!!」
だが、彼の振るった最後の灯火は刺客の男へと届く事はなかった
「がっ…ぁ…!」
交差気味に走ってきた刺客の男のすれ違いざまの一撃、それが清里への止めの一撃となった。清里は真っ赤な血の雨を撒き散らしてその場に倒れ込む
「…死に…た…く…ない…」
頬から涙を流し、彼は無念の言葉を漏らす、多分、普通に大切な人の幸せを願っただけ、こんなことになるなんて、きっと夢にも思わなかったことだろう
「今は…まだ………死に…たく…ない…」
刺客の男は、彼がまだ生きていることを知ると、真剣を向けてこちらにゆっくりとやって来た。その目は、どこまでも感情のない瞳をしていた
「と…も…え…」
その最後の言葉を遺して、清里は事切れた、否……刺客の男が清里の首筋向けて剣を突き立て、息の根を止めたのだった
彼の左頬には、静かに一つ目の傷が出来ていた
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帝都、
栄えたこの街はそう呼ばれている
しかし、犯罪、腐敗した貴族、そして、圧政に苦しむ人々、その中心の都市であるといってもいい
そしてこの街にある者が現れた
刀という武器を腰に差し、風変わりな格好をした小柄な男
身体はローブを纏い、そして、彼は周りの人々と変わらぬ様に街を闊歩する
彼は一人で地図を懐から出すと不満げにこう呟いた
「イエヤス殿達がこの街に来てるというから、赴いたが…やはり来るだけ無駄だったか…」
彼はそう言って広げた地図を一通り確認すると再びそれを折りたたみ懐に仕舞う
最近では、帝都の重役や富裕層を狙う殺し屋集団『ナイトレイド』という者達が暗躍しており、判明している四人の中には、まだ少女と呼べる年齢の者も混じっていた
彼が帝都に来た理由、それは、重税により貧困にあえぐ村を救うために立ち上がった彼が出会ったサヨ、イエヤスという二人の少女と少年の影響である
全てを話してしまえば、彼はこの国…いやそもそもこの世界の住人ではない、雪の降る中で意識を失い気がつけば彼等の村で看病を受けていた
彼等のお陰で拾った命、恩返しという名目で彼等と共に帝都に向かって来たわけであるが、道中、盗賊に襲われその殿を勤めたせいで男は彼等と離れ離れになったという訳である
「致し方ない…今日は野宿しかないだろう…な…」
彼はそう呟いて、近くにあるベンチへ腰を降ろした
腰にある得物もそうだが、その格好や風貌から珍しそうに周りの視線はやはりしばしば彼にへと降り注ぐ
そんな中で男は静かに眼を瞑り、その中でふと別れた二人の事を考える
この先、どうすれば良いのか…、皆目検討もつかない、目的地には頼れる人間もいない上、自分はただの流浪人…
この世界に目指すべき志も見つからなければこの刀も技も振るう事さえ叶わない宝の持ち腐れである
「あの…すいません?お困りですか?」
そんな中、彼にふと声をかけて来る人物がいた、いかにもといった具合に格好も高貴らしく、良い育ちのお嬢様といった感じであった
彼は彼女の顔を一瞬だけ見ると、貴族の少女に訪ねるようにこう告げ始める
「…俺になんの用だ…」
「いえ…なにやら宿無しでお困りのようでしたので…まぁ、その珍しい格好もあって、偶々眼に止まったのですけどよければ、うちに今晩だけ泊まりませんか?」
そう言って少女は男に微笑み、優しげな雰囲気を纏いつつそう告げる
男としても宿無しはきつかったところである、むしろ泊めて貰えるというならばこの際どこでもよかった
どうせ野宿しか選択肢がなかったところに舞い込んで来た話だ、どちらにしろ二人が居ないとわかった今、一晩過ごして帝都から立ち去ればなんの問題もない
男はどのような思惑を秘めているかは別としてこの時は素直に彼女の善意に応える事にした
「それでは言葉に甘える事にしよう…感謝する…丁度宿が欲しかったところだ…」
「いえいえ…、ではついて来てくださいな♪」
そう言って、貴族の少女は男を歓迎するように自分の屋敷へとついてくるようにそう言って促す
男は腰にある刀を引っさげ、静かにその後ろをついて行く様に歩き出した
そうして、数分歩いた後、少女に連れられて彼は屋敷へとやってくる、彼女は後ろからついて来た彼の方に振り返るとこう告げる
「着きましたここですわ、…あっそう言えばまだ、貴方のお名前を教えて貰っていませんでしたね…」
「……………」
「教えて貰ってもよろしいでしょうか?」
彼女はそう言って、連れて来た彼に訪ねるように訊く
この帝都に住んでいる者では無い事は姿やその外見から想像がつく、しかし、そのどれもが今まで見た事が無いようなものであり彼女には珍しいものであった
彼女から名前を聞かれた男はゆっくりと被っていたローブを取り、その容姿を露わにする
左頬にあるのは十字の傷、そしてその中性的な顔つきと妙な雰囲気を身に纏う彼はどこか儚げで美しくもあった
そうして、彼はゆっくりと彼女に向かい自分の名前を語り始める、どうせここは幕末の京都では無いしそもそも日の本の国ですら無い事はこの男にもわかっている、だから名乗るのにはなんの躊躇もなかった
「…緋村だ…緋村剣心…今晩だけ世話になる…」
静かな物腰で語る名前
それが、彼が貴族の少女に告げた名前であった…