ここは帝国にある場内
そこではある事について、大臣を含んだ、数名の上部の者達による緊急会議が行われていた
将軍の地位を持つ彼女もまた、その集会に呼び出されていた、その緊急会議の件、それは…
「志士雄…一派ですか…」
「そうだ、エスデス将軍、奴らは弱肉強食を謳う、凶悪殺人集団だ…」
「ほう…して、その主犯格というのは…?」
将軍と呼ばれた女性、エスデスはそう言って深刻そうな表情を浮かべた大臣に訊ねる
しかし、大臣は複雑な面持ちで、訊ねる彼女から視線を逸らしこう述べはじめる
「志士雄真実…十本刀と呼ばれる殺人剣客集団を率いるカリスマ性溢れた男だ、全身に包帯を巻き、奴に斬られたまた葬られた帝国貴族、そして、軍人は合わせて100以上に上る、私も下手をすれば次の日には首だけで晒される事になる」
「お待ちください、何故、たかが賊如きに大臣が…」
「…我々、帝国上層部を含めた帝国幹部等は既に奴等との講和条約を結んだ、幼き皇帝を裏で操り政治を執るというのも、最早、夢物語と言って過言ではないだろう」
大臣はそう言って疲れ果てた様な表情を浮かべたまま、エスデスにそう語る
恐らくはその志士雄と呼ばれた男とも既に大臣は会っているのだろう、その表情は今までエスデスが見た事も無いようにやつれていた
そして、暫しの沈黙の間、大臣支持派の文官の一人が声を荒げる様に大臣にこう言い放った
「臆病風に吹かれましたか!大臣!我らの悲願をそのような賊の者達如きに…!?」
「…これは、エスデス将軍に言うか迷っておったが…護衛に出させて頂いていた三獣士の一人、ニャウですが…先日、志士雄一派の一人に斬殺され申した」
「…! …なんだと!?」
その言葉に大臣の周りにいた文官、軍人、貴族達は唖然としたように次々と声を上げる
エスデスもまた、護衛に出していた部下の一人がたかが賊にいとも容易く斬り殺されたと聞いて目を見開いた
「……して、大臣、ニャウを殺った者の名は」
「詳しくは分からんが…天剣と名乗っていたそうだ…一瞬の出来事だったと話は聞いている、ナイトレイドの暗躍もそうだが…今帝国は動乱の真っ只中にあると言っていい」
「反乱軍の動向もそうだが…まさか、三獣士が殺されたとは…」
「あぁ…我が国もこれまでか…」
その場にいた者達は大臣の話に項垂れながら次々とそう口にする、それを聞いていたエスデスは顔を険しくし、大臣にこう訊ねた
「しかし大臣、ブドー将軍は帝国に戻さないのですか?」
「奴は今、他民族との戦争で最前線にいる…呼び戻したところで志士雄という男に勝てるかわからん…」
そう言って、大臣は険しい表情を浮かべているエスデスに淡々と告げる
弱肉強食、確かにエスデスはその言葉も気に入っているし強者としての力も持っている
だが、屈服するいわれもないし、するつもりもない、自分は常に人を屈服させる側だと思っているからだ
エスデスは大臣に聞くその志士雄という男がどうにも気に食わなかった、たかがポッと出の賊にこうも容易く帝国の文官や貴族達が講和が仕方ないと言うのも納得がいかない
暫しの沈黙の間を挟み、エスデスは大臣にこう進言しはじめる
「大臣、ならば、その志士雄という賊、私が殺り……」
そうエスデスが告げる瞬間であった、
彼女の後ろの扉が開き、何者かがその緊急会議を行っている場に現れる
大臣を含め、上部の貴族、軍人達はその現れた者達に目を見開き、身体を硬直させた
「…ほう…おもしれぇ話してんじゃねぇか、俺も混ぜろよ大臣」
「し、志士雄真実!…き、貴様!なんでこの場に!」
エスデスは大臣のその言葉を聞いて会議場に現れたという志士雄と呼ばれた男の方に視線をやる
「志士雄…真実…?」
エスデスはその姿を見た、その姿は包帯を身体中に巻き、全身からは隠しきれない程の死の匂いを醸し出している
彼の横には遊女の様な女性が付き添うように側におり、彼は刀を携えた刀の柄に手を置いたまま会議場の中を見定める様に大臣達を眺めていた
そして、彼の後ろには連れられる様に並ぶ、十本刀と呼ばれる剣客集団が控えており、
その構成の中には帝国内でも有名な犯罪者、元暗殺部隊、元軍人の帝具使いばかりであった
「宗次郎…」
「はぁ、分かりましたよ志士雄さん」
志士雄と呼ばれる男の一声に応えるように、後ろに控えていた十本刀の一人であろう少年が一瞬で彼等の目の前から消える
そして、次の瞬間だった
大臣の首元に刀が押し付けられ、宗次郎と呼ばれた少年は笑顔のままその刀を握っていた
「ダメだなぁ、大臣さん、志士雄さんに黙って、こんなこそこそしてちゃ…殺されても文句は言えないんですよ?」
「…ぐ!…くぅ…!わ、わかった!君達もこの会議に加わるといい!」
(…今何をした?…この私の眼を持ってしてもあの小僧の動きが見えなかった…)
エスデスは一瞬の出来事に唖然としたまま、内心驚きを隠せないでいた
宗次郎と呼ばれた少年が大臣に刀を首元に当てるまでの動き、それが長年戦場にいたエスデスにも見極める事ができなかったからだ
しかも、明らかに帝具という感じではなかった、瞬間的な高速移動、その類であることは違いないだろうがエスデスには今まで見た事がないその動きは、彼女の中の十本刀とその者を従わせる志士雄真実という男の実力の評価を改めるのに十分に値した。
「勘違いしないで欲しいが志士雄様のご慈悲によって貴様らは生かされておるのだ、汚職に塗れた貴族だろうが軍人だろうが、強ければそれが理といった道理でな、志士雄様の暗殺を企てるようなら粛清も…」
「方治、あんまし物騒な事言ってんじゃねぇよ、あいつらビビッちまってるじゃねぇか」
「お、お前達、外にいた警備隊達は…」
「あん?…そんなもん皆殺しにしたに決まってるじゃねぇか、…その宗次郎の刀もさっき血を吸ったばっかだぜ」
志士雄に話を聞いていた大臣は、押し当てられる宗次郎の刀を見てヒィッ!と怯えた様に声を上げる
そして、暫しの間をおいて、志士雄は貴族の一人を蹴飛ばし、彼が座っていただろう椅子を無理矢理奪うと、ドカリとそこに座りテーブルの上に足を置く
「さて、話を続けようか…諸君」
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剣心は唖然としていた
倉庫のそこら中に広がる血の匂いと死の匂い、そして、死体
幕末の京都、血を血で洗う修羅場で剣心は生き抜いてきたが、このような残虐で人道から外れた光景を目にする事はそうそうなかった
そして、牢屋の中からだろうか、倉庫に入ってきた剣心を見つけ、牢屋にいた一人の少年が彼に声を掛けてくる
それは剣心が見知った…いやこの帝都で探していた人物でもあった
「……剣心…?…剣心だよな…!」
「…!…その声は…」
剣心はその声を聞き、牢屋に視線を移す、そこにいたのは弱り切った面持ちをしたイエヤスの姿であった
イエヤス、サヨ、彼等は剣心がこの世界に来て出会った初めての者達、そして、身元がわからない剣心を優しく迎え入れてくれた存在なのだ
やつれきったイエヤスは、剣心を見て安心したのか牢屋に入れられたまま静かに涙を流す
「う…うぅ…!すまねぇ!すまねぇ剣心…!」
「イエヤス殿…何があった…サヨ殿は…」
剣心は宥めるようにイエヤスに告げながら、そっと牢屋に近づき腰を落として彼に訪ねる
しかし、剣心は直ぐにその普通とは違うイエヤスの体型体調から、ある事を察した
「…ッ!…イエヤス殿…お主…病に…」
「あ…あぁ…その女…!その女と両親から拷問をずっと受けて…見ての通りさ…ゴホッ……」
そう言ってイエヤスは巨大な鋏を喉元に押し付けられ、レオーネの横にいるアリアを示し、その事を剣心に伝える
剣心もまた、イエヤスが示した方へ振り返り、彼女を見た、その顔は見られてはいけないものを見られた様な表情と…
先程まで、見せなかったその醜いものを覆い隠そうとする下衆のような、そんな面持ちをしていた
剣心はひとまずサヨについての安否について、彼に訊ねた
「……それでサヨ殿は…」
「その女から拷問されて……殺された…」
「なん…だと…」
剣心はその言葉を聞いて固まった。
生まれた場所は違えど優しく迎え入れてくれた二人、その中でもサヨは何故か自分には気を使ってくれていた
そのサヨが死んだと聞かされた剣心は、やり場のない喪失感とイエヤスとサヨをこうなる前に助けてやれなかった後悔に押し潰されそうであった
剣心はそっと静かに自分の頬に触れ、この十字傷がついた時の事を思い出す
(…巴……俺はまた……)
あの雪の中で、自分が誤って斬ってしまった女性…護るべき存在であるにも関わらず自分がその手で殺めた…、確かに護る権利などないとわかっていた、だが、自分はそれでも彼女を護りたかった
そして、人を護るためと再び握った刀…それもまた、自分を助けてくれた恩人すら今、護れないでいる
剣心はやり場のない怒りと、悔しさで静かに震える
そんな彼にイエヤスは、弱り切った身体でこう伝えはじめた
「…剣心…サヨは…サヨは最後まで諦めなかったぜ…、あいつは絶対剣心が助けに来てくれるって…、ゴホッ!…ゴホッ…!」
「イエヤス殿!それ以上は…」
「……剣心…あいつは…」
イエヤスは剣心の制止も聞かず、話を続ける、彼自身が自分の身体の事をよくわかっているのだろう
話を続ける彼は安心した様な…そんな、託すことの出来るような面持ちをしていた…
「……お前の事が…好き…だったって…言って……」
そう言って、イエヤスは事切れた様にドサリと身体を地面に落とした、身体はピクリとも動かずそれっきりであった
剣心は刀を取り、イエヤスが事切れた事を確認するとその場からスッと立ち上がり、静かにレオーネ達の元に歩き出す
「…わかっただろう、こいつらがどんな事をしていたのか…」
レオーネはそう言って汚物を見るような眼差しで隣にいるアリアを示し、剣心に告げる
刀を握った立ち上がった剣心はアリアを捕縛してる彼女達に静かに近寄ってゆく
その眼は今まで以上に冷たく、そして、普通の人間がする様なものではなかった
止めれば誰であろうが斬る、斬り殺すといった気迫、そして、殺気が彼の身体中から溢れ、それを、ナイトレイドの彼女達も感じ取っていた
「……そいつは俺が始末する…いいな」
その言葉を聞いて、巨大な鋏をアリアの喉元に押し当てていた眼鏡の女性はそれを仕舞い、静かに頷く
死の呪縛から解放されたアリアは束の間、再び目の前からくる死の恐怖にその場で尻餅をついた
だが、剣心は既にに静かに刀を抜き、彼女との間合いを詰めて完全に必殺の間合いとしていた、
立ち上がり走って逃げようとするなら、一瞬で斬り殺されてしまうだろう、もっとも、逃げなくても殺される事には変わりはない
アリアは、慌てた様に殺気の籠る眼を向け、刀を抜いて近寄ってくる剣心に弁解するようにこう告げはじめる
「ち、違うの!これは奴らが勝手に…!」
「弁解など不要…!!」
次の瞬間、
彼女の胴体に向かい剣心が振るった斬撃が腹部に直撃する、眼に見えない速さで放たれた必殺のそれは見事に彼女の身体に一文字に入り
彼女は悶絶する様に悲鳴を上げて腹部を抑えてその場に蹲る
「あ…あぁぁぁ!!…ぐぅ…!わ、わたし…はぁ…!」
「本来なら女を斬りたくは無いが貴様は血を啜りすぎた…」
そう言って剣心は、刀を振りかぶりそれを思いっきり腹部から血を流し悶絶する彼女の頭部に叩き落とした
その瞬間、まるで弾け飛ぶように彼女の頭部から背中に掛けて噴水の様な血が飛び散り、その返り血がべっとりと剣心の顔に付着する
そうして、数秒もしない内に彼女の身体は動きを止め、ピクリとも動かなくなった
剣心は汚いものでも斬ったかの様に刀を振り、彼女の血を落とすと、布で刀を拭き取りそれを腰に仕舞う
そして、剣心はその光景を見ていたナイトレイドの者達の方へ振り返ると冷たい眼差しのままこう告げる
「それで…貴様らはなんだ…俺とやり合うなら相手になるが…」
「…ならさっきの続きやる?」
「おいおい!どうしてそうなる…!」
そう言って、レオーネは再び殺気を出すアカメと剣心の二人の間に割って入り仲裁する様にそう告げる
剣心はその光景を見て、やる気が削がれたのか、構えを解く
それを見て、安心したのかレオーネを含めた眼鏡の女性とマインと呼ばれていたツインテールの少女は緊迫した雰囲気が解かれた事に胸を撫で下ろした
ひとまず、レオーネはターゲットであったアリアを始末し終わった事もあり剣心にとりあえずこう提案しはじめる
「積もる話があるだろうからさ…とりあえずアジトに場所を移そう、ここだと不味い」
月夜に再び蘇る十字傷
この出会いを経て、人斬り抜刀斎の伝説は再び胎動する