緋村抜刀斎、彼が活躍したのは幕末の京都
その驚異的な刀捌き、そして、一瞬で人間を葬り去る抜刀術は幕府の要人、はたまた、志を同じくした幕末の同志からさえ恐怖を抱かせるものであった
そして、その彼は今、見知らぬ土地で殺し屋集団である『ナイトレイド』と呼ばれる彼等のアジトに連れられて足を踏み入れていた
「………ここがお前たちのアジトか」
「そうさ、まぁまぁ、そんな怖い顔しなさんなよ、私らは何も考えなしの殺し屋集団じゃないんだからさぁ」
そう言って、レオーネは警戒心を身体中から醸し出す剣心にニッコリとした明るい笑顔を見せそう告げる
それを見ていた剣心はそのレオーネの笑顔に眼を丸くし、そして呆れた様にため息をついた
そんな剣心を見ていたレオーネは笑顔を見せたまま、彼の腕に絡みつくと豊満な胸を押し当ててきながら、嬉しそうな表情を浮かべていた
「アンタが何者かはわからないけどさぁ、なかなか可愛い顔してるじゃん♪中性的っていうの?なんつーか、美人っていうか」
「レオーネ殿、歩きにくい……離れては…」
「あーもしかして照れてるのかな?可愛いなぁこのー」
先ほどまで敵意を向けていた自分に好意的な彼女の言動に行動に剣心は戸惑っていた
自分としては警戒すべき敵になりかねない人物なのだろうが、どうにもこのレオーネという女の行動には剣心も押され気味である
そうして、レオーネは自分が何故剣心にこれほどまでに親しいように接するのか、未だに警戒心を解ききれない剣心に向かい、こう告げはじめた
「なんとなくわかんだよねぇ、大体、人を殺す奴とか外道な奴とかの立ち回りとか匂いとか、アンタは多分、私らと同じ分類だと思うんだ、本来はさ、かなり優しい奴でしょ?」
「…何を根拠に…」
「勘に決まってるじゃーん、てか、あのアカメとやり合うなんてアンタも相当やり手だねぇ」
「根拠も無い勘なんてあてにならないものは無いわね…まったく」
「…ふふふ、まぁまぁ、とりあえずナジェンダさんに紹介するんでしょ?レオーネさん?」
そう言って、何処か剣心に対して馴れ馴れしい態度をとるレオーネに不満げな表情を浮かべるマインをなだめる様にして訊ねる眼鏡を掛けた女性
レオーネに絡まれる剣心はその言葉に反応し、彼女の方を向きこう訊ねる
「ナジェンダ…?」
「私らのボス、元軍人だけどね、元将軍だったとかなんだとか」
「まぁ、そういう事だ、私達のリーダーと言ってもいいだろう、私達、ナイトレイドの事や今の帝国の事を教えて貰うといい」
ナジェンダという人物に対して疑問を抱いていた剣心にそう告げる、マインとアカメ
彼女達が所属するナイトレイドのリーダーであり、実質的に言えば大黒柱の様な者である事はその話を聞いていた剣心にもわかる
そうして、暫しの間、剣心はアカメ達に連れられてアジトにある一部屋の前に連れて来られた
アカメが三度ほど扉をノックすると、扉の向こう側から透き通るような声で『入れ』と言った短い声が返ってくる
その透き通るような声質からして、部屋の中に入るのは女性である事は剣心にもよくわかった
アカメはその入室の許可を得て、剣心を引き連れて扉を開け、部屋の中へと入る
数メートル先、そこには椅子に座り、こちらを迎える様にして一人の短髪、銀髪の女性が居た
片目には眼帯をしており、恐らく右手は義手、殺人集団のリーダーがそもそも女性という点にも剣心は驚いたが、それ以上に、彼女には何処かそれに満ち足りている何かを秘めているようなそんな雰囲気を身に纏っているようであった
彼女は剣心の姿を確認すると、ゆっくりと口を開き、彼女は話し始める
「おや…、お前ら戻ったのか?そこにいる奴はなんだ?」
「俺は…」
「緋村だよ、緋村剣心、あの貴族の嬢ちゃんのとこに偶々いた流浪人…?だっけ?、まぁ、腕は確かだから無理矢理連れてきた」
「おい…」
剣心は自分が名乗る前にナイトレイドのボス、ナジェンダに勝手に語るレオーネを横目で見ながら思わず声を上げる
自分の素性は確かにそうであるが、正式に言えばまた違ってくる、今は流浪人ではあるが幕末にいた頃は長州藩お抱えの人斬りであり、維新志士の一人である
剣心はとりあえず、勝手に自分の素性を語るレオーネとは別にナジェンタにこう語りはじめた
「長州藩お抱え、維新志士が一人、緋村抜刀斎…、今は少しばかりの事情が重なり流浪人の緋村剣心として名乗らせて貰っている」
「緋村…抜刀斎、はぁ…お前さんはとりあえず何処か別の場所に所属していた暗殺者って事でいいのか?」
「…まぁ、そういう事になるか…暗殺者とは言ってもやっていた事はそちらの組織となんら変わりのない事だった…要人を斬り、世の中を変える…そういう輩だ」
「ほぉう…それは興味深いな」
そう言って、ナジェンダは座っていた椅子から立ち上がると品定めするように剣心に近寄る
そして、身立ち、顔、そして、腰に差してある刀、頭から足にかけて剣心の全てを見納めると彼女は何かに気づいたように剣心にこう告げる
「ところで…君は見たところ帝具を身につけていないようだが」
「あぁ…俺はこの国とは別の国…まぁ、、俺自身遠い国から来た事になるのか…、そちらの帝具とやらは知らぬし、別に無くとも困った事にはならん」
そう淡白に応える剣心、だが、その言葉を聞いたレオーネやアカメ、そしてマイン達は思わず唖然とした
遠い国の住人、確かに長州藩なんて場所も聞いたこともないし、何より剣心の身立ちや身に纏う雰囲気は何処かここにいる者達とは異質的であると感じていた
彼らのボスであるナジェンダはそれが法螺話ではない事を語る剣心の眼差しを見てそれが真の事であると信じてみる事にした
しかし、彼女はふと思った、ならばこの帝国に来る過程、はたまた、危険種と呼ばれるモンスターがいる外でどうやって生き残ってきたのだと
「またまた興味深い話だなそれは…遠い国?、そんなとこから…いや、まぁそれは置いておこうか、それで?帝具が無くて困った事にならないとは?」
「…俺はこの刀と剣術があれば十分だ、これで生き残って来たし、大勢の人間を斬ってきた、そして、それはこれからも変わらない」
ナジェンダはそう語る剣心の眼差しを見る
血に飢えた狂犬、いや違う、そんな眼ではない、人を生かすために人を斬ってきたという矛盾を孕んできたその眼は哀しげでもあり、
そして同時に、研ぎ澄まされた刃の様なものであった、見たところ自分よりも若い出で立ちをした青年はその年で既に殺した者達を背負う覚悟というものをしているのだろう
ナジェンダはそんな剣心を見てある事を語り始める、それは、彼をこの組織、ナイトレイドへ迎えたいと思ったからだろう
「成る程、君が今までどのような人生を歩んできたかはとりあえず詮索はしない、君は剣術と言ったか?流派は?」
一応、この世界にも剣術の流派は存在する、型やそう言ったものだが、ナジェンダは元軍人でありそう言った事には詳しい
もっとも、帝具も持たない暗殺者を今から組織に勧誘しようとしているわけであるからして、その力を把握しておきたいというのは当たり前の事なのだろう
剣心もその事を承知しているのか、ナジェンダの質問に対し、静かな声色で自分が使う技について語り出す
「飛天御剣流…、一撃必殺を極意とした一対多数の戦いを得意とする実戦本位の殺人剣だ」
「飛天御剣流…やはり聞いたことは無いな…」
ナジェンダはそう言うと、思案するような素振りを見せ、剣心を真っ直ぐに見ながらその眼を見る
確かに自分が聞いたことがない、とはいえ、異世界の剣術であるため当たり前の事であるのだが、その技を見ない限りは評価のつけようがない
その様子を見ていたアカメはナジェンダに進言する様にこう告げはじめる
「ボス…一度この男と手合わせしましたが、腕は間違いありません…、あのまま続けていれば私は斬られていたかもしれませんでした」
「あぁー…ちょいといざこざがあってね、でも、ま、間違いなくあの剣速や技は超一流だったよ、アカメが言ってる事は間違いない、私の眼でも抜刀の瞬間や技を見極めるのには至らなかったからね」
そう言って、アカメの言葉をフォローする様に笑みを浮かべながらつげるレオーネ
彼女は剣心を横眼でチラリと見ながら、その事に対して同意する様にアイコンタクトを送る
剣心はそれに気づいたのか、少しばかり短い溜息を吐くと、ナジェンダにこう告げた
「…それで、俺はどうすればいい?門前払いというならば、ここからも帝都からも出て行く予定だが」
別に剣心はこの組織にどうしても所属したいわけではない、サヨ、イエヤスが亡くなった今、帝都に残る理由も残ってはいないのだから
荷物を持って、明日にはこの街から出ようとも考えていたぐらいである、その事を聞いたナジェンダは考えがまとまったのか剣心にこう告げはじめた
「いや、君は私達のアジトを知ってしまったし…何よりその腕は惜しい…そこでどうだろう?かつて君が志した様にこの帝都、そして民を護るため剣を握ってはくれないか?」
「……………」
「私達はこの帝都に蔓延る悪を斬る為に集った同志だ、緋村…あの貴族の屋敷を見てどう思った?…あんな人道から外れた事を私達は許しては置けない」
そう、剣心に語りかけるナジェンダの眼差しは真剣そのものであった、彼女も元は軍人、戦、そして、貴族による民の蹂躙
その事を目の当たりにして立ち上がったのだろう、剣心は彼女の強く意思が込められた言葉から感じとった
それに…自分が使う飛天御剣流、それは…
「御剣の剣、即ち、時代時代の苦難から弱き人々を守ること」
「…?…それは、」
「飛天御剣流における、流派の理だ…、民のため、そして、俺が再び人を斬る事でそれが守れるのであれば…」
剣心は一息ついて、ナジェンダを真っ直ぐに見据えた、
これが自分がこの世界で改めて志したものであり、そして、それはこれからこの帝都に生きていく人達を救う為に覚悟をした事であるのだから
剣心の頭にはサヨ、イエヤスの顔が浮かぶ、自分が選ぶ道はきっと修羅の道であるし、この剣は未来を切り開く為に自分は振るう
もう、自分や巴の様な者達を出さぬように…そして、自分はこの場所で自分の剣を握る答えを見出せるそう信じて
緋村剣心はナジェンダにこう告げた
「…これより、ナイトレイドとして剣を握らせて貰う、もう…誰かの哀しむ姿を見なくても済むように俺が止める…それが俺が今、ここで決めた答えだ」