学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~   作:大島海峡

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4.運命の因子

「最悪だ……」

 レクリエーションルームのビリヤード台、その羅紗地に頬を押し付けながら、ライドはぼやいた。

 ピアノによる演奏に心の半ばを傾けつつ、牛乳瓶片手に。

 

「あれなのか……よりにもよって。あんなのが? ありえない」

「何を思い悩んで自棄牛乳呷ってるか知らないけど」

 

 と、鍵盤をたたきながら、上座シンクローは穏やかな口調で言った。

 

「新入生には優しくしてあげなよ」

「アホか。ガキの面倒見る時間も場所もねーだろ。俺は間違ったこと言ってねぇ。おかしいのはあの頭お花畑女の認識の甘さだ」

 

 と、一通り愚痴を聞き終え、二周目に突入しかけた辺りで、シンクローは溜息交じりに指を止めた。

 

「ライドさんはさー」

「あ?」

「俺が井坂深紅郎の並行同位体(バリエーション)って知った時、他の生徒とか割と微妙な反応して距離置こうとするのに、こうして一緒にいてくれるじゃない?」

「当たり前だ。なんで余所の知らないオッサンの所業に対して、お前が責任負わされなくちゃいけないんだよ」

「だよねー、自分の世界がどうだったからって、その物差しで他人のやその世界を測ろうとする奴とか、最低だよねー」

 

 細められた目は、暗に伝えてくる。

 ――要するに、()()と同じだろ?

 と。

 

 その視線と意図に触れたライドは、もたげた頭を掻いて唇を引き結んだ。

「分かったよ……分かりました。七三ぐらいの割合で俺が悪うございましたっ。ったくイヤミな野郎だ、京都人かっ!?」

「ノー、アイム風都人。風都、大スキー!」

 と、着ている寝巻のジャージは、『風都高校』と縫い込まれている。おそらく元の世界から引き継いだものだろう。

 両腕を広げて晴れ晴れとそれを披露するシンクローに、呆れるライド。

 そんな友人に視線を注いだまま、シンクローは穏やかに言った。

 

「君は詩島剛には悪の因子があると言ったけど、その理屈だと、息子である君にも、その資質は受け継がれているってことになるけど」

「あぁ……父親の血を、俺は何度呪ったか知れない」

 自らの掌に目線を落とし、ライドは忌々し気に、その皮膚の裏を流れる血の筋を睨みつけた。

 

「そういうことを、言ってるんじゃないよ」

 と、シンクローは窘めた。

「そんな込み入ったハナシじゃないんだ。人間には、誰にだって両方あるんだよ。良い面も、悪い面もね」

 そう説きつつ、彼は傍らに置かれた自らのガイアメモリ――純正化されたウェザーメモリを手にした。

 

「でもその自らの悪の因子や、その中に在る運命と向かい合い、自らが信じる良き方向に進むことこそが、仮面ライダーになる、ってことなんじゃないかな。少なくとも、俺はそのためにここにいる。俺の中にある井坂の運命は、必ず良い方向に使う。あの街に、風をふたたび吹かせるために」

「……」

「それはきっと、広子さんだって同じさ。『誰がそちらの世界でどうしたかのかは関係ない』。それは常日頃ライドさんが言ってることでしょ? 君にとっては滑稽に思えて、時として蔑むべき何かであったとしても、それは彼女にとってはライダーとしても人としても大切なことなのさ。それを頭ごなしに否定するのは乱暴だし、不毛なことだよ。――きっと君と彼女の邂逅にもまた、運命があり物語があるんだから」

「……おりこうさんな意見だな。立派だよ、皮肉じゃなく」

「知的好奇心からくる多角的見地と言ってくれ。もっとも、これも井坂深紅郎らしい、君で言うところの『悪の因子』かな?」

 

 悪戯っぽく皮肉を返すシンクローに、苦笑で返す。

 その苦さを口端にのぼらせたまま、ライドはいくぶんか軽くなった調子で言った。

 

「今度出くわしたら、頭下げてやるよ。それでいいな?」

「出来るならそうしてやってくれ。ライドさんがそうするところ、あまり想像できないけれど」

「言ってろ」

 

 かすかな笑みを残しつつ、ライドは対話の合間に空にした瓶を片手に、レクリエーションルームを後にする。

 再び演奏に戻りながら、シンクローは、

「――もっとも、そんな時間があると良いけど……」

 物憂げに目を伏せつつ、一つ一つ噛みしめるように、指で鍵盤を叩き始めたのだった。

 

 ~~~

 

 ライドに割り当てられた部屋。

 極端に合理性を追及した、生活感に乏しい無機質な一室だが、むしろそれこそが彼の生まれ育ったドライブピットを想起させ、郷愁(ノスタルジー)を抱かせる。

 

 彼の気質と実力を配慮した結果、ルームメイトはいない。彼から頼んだわけではないが、この方が都合が良いのは素直に認めるところである。

 

 たとえば、今のように。

 独りになりたい時。自省したい時――己が何のためにここに留まり続けているのか、それを顧みたい時。

 

 彼は次世代型マッハドライバーたる、ライドライバーはおもむろに床に置いた。

 そして起動スイッチをある手順で押すと、内蔵されていた秘密が立体映像となって開示される。

 

『よう』

 

 青白く明滅をくり返す男のホログラムが、ドライバーから部屋の中心に照射される。

 ぶっきらぼうに紡がれる短い挨拶が、いつだってその始まりだ。

 そして憎むべき男――詩島剛の神妙でバツの悪そうな顔つきが、ほの暗い部屋に浮かび上がったのだった。

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