学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~ 作:大島海峡
それから、ちょうど一週間が経過した。
元より周囲に打ち解けやすく、高い順応性を持つ広子は、身も心も馴染んでいた。
「……それは、けっこうなことなんだけど」
と、いつになく低い声でシンクローは言った。
「なんで、俺を間で挟むかな」
そう、両脇の『詩島両氏』に投げかけた。
二人とも
「教室移動だからだよ」
「そうそう、マネして同じコマとってたんで」
「マネしてねぇ。俺の方が先だ……クソッ、こんなことなら二年の時にとっとくんだった、ゲーム病理学」
「勉強不足ですねっ」
「定型でしか人とコミュニケーションとれねーのか? ナード女」
「今のは津上翔一のマネじゃないですぅー!」
自らを飛び交う剣呑な調子に、シンクローは穏やかな表情を取り繕いながらも、どこか辟易したようだった。
「ライドさーん?」
曰くありげにライドに目線を傾けるも、彼はそっぽを向いてしまった。
「さ、こんなヒトほっといてさっさと行きましょっ」
と、広子はシンクローの腕を引く。
「色目使うのは勝手だが、そいつ年上趣味だぞ」
ライドは冷ややかに釘を刺した。
「え、そうなんです?」
「うーん……性悪な感じながら蠱惑的で、才女感あって、自分が失態さらした時に見限られそうなアブない感じの人が好みです」
「なんか二重でフラれたー!?」
「つか、癖が倒錯し過ぎだろ……」
などという丁々発止を繰り広げていた。
――その日常が、ふと止まる。
まず異変を嗅ぎ取って止まったのは、ライドだった。
おもむろに分厚い灰色の雲が覆う空を仰ぐ。シンクローも一転して厳しい表情で、それに倣った。
「え、二人とも……どうしたんですか?」
不穏な空気への変化は、彼らと、一部それに似た反応を示した周囲の様子とで、広子もまた感じ取っていた。
「なんか、やばい」
ライドが漠然と、おそらくそれしか見つからなかったであろう言葉を紡ぎ、
「雲行きが、怪しくなってきた」
シンクローは、似たニュアンスを彼なりの感性で呟いた。
――かくして、あるものは多分な実戦経験からくる感覚で。
「どうした、スチームライナー? なに、そんなに怯えて……」
「尋常ならざる殺気也」
ある者は、人ならざる相棒の助けを借りて。
「世界の境界に高エネルギー反応! 防壁を破って侵入してきますッ」
「なんだ……この
ある者は、実質的な観測データの異常により。
『おいおい、俺よりヤバイのが近づいて来てるぞ? どうする不二ィ?』
「オイ不二、どうした? 独りで急に立ち止まって」
「…………なんでも、いえ……ただちに、戦闘準備を」
「は?」
ある者は、その
「ボス、授業どうする?」
「そうだなぁ……あー、やっぱやめだ」
「そろそろ出ないと、青ウォズさん、今度こそキレちゃうよ?」
「俺様はどこぞの猪と違って、分の悪いケンカはしねーの」
「ほう、それはどういう……」
「すぐここから離れるぞ。ボスの勘は絶対だ」
ある者は、天性の嗅覚で。
――日常の終焉、地獄の始まりを、悟り得た。
瞬間、世界が割れた。
校門の一帯。正式にはその位相。そこに、空間の亀裂が入り、何名かの生徒を巻き込みながら、巨大な鉄塊が突っ込んできた。
飛行艇か、装甲車か、はたまた戦艦か。
それ自体は、セピアカラーの、鉄錆びた質感の無骨な拵えである。
だが、車輪に当たる部分は無く、人や物の数百は軽々収容出来そうなその巨体を牽引するのは……無数の、バイクや車といったマシンである。
その意匠は種々様々で統一性は感じられず、あえて言うならヒロイックなものが多い。
分厚い鉄鎖で戒め、馬力以上の何物も許されていないそれが、かつては誰かの持ち物であったことは明白だった。
悲鳴にも似た甲高くブレーキ音を鳴らしつつ、減速して停まった。
甲板に相当する部分からタラップの如きものが垂れて、そこを伝って五人の男女がゆったりとした降りてくる。
「こんな
と、先頭を切るのは二メートル近い長躯の男。見た目だけでは年齢がいまいち分かりづらい、ふてぶてしさを前面に押し出した顔立ち。
オールバックを基本系とした髪型、茄子紺の前髪が一房、右目を覆っている。その肩には、鈍器と見まごう重火器を担いでいる。
「慢心はするな。獲物には常に敬意を払え」
次いで降りたのも、また男。跳ねっ返りの強い癖毛を後ろで短く束ねた、侍を想起させる端正な若者。その細い腰には、無駄の一切を削ぎ落とした直刀を帯びている。
「私一人でも片付けられます! 兄上はどうか後方で私の狩猟ぶりを見てください!」
そう意気込むのは、目鼻の形こそ端正だが、首から下は、小柄でずんぐりとした体型の少年。その背には、彼自身を上回って余りある釣り竿のごとき長大な得物を負っている。
「んまぁ、メルキーちゃん、怖いお顔。せっかくの獲物さんたちが怖がって逃げちゃうわ」
鈴の鳴るような可憐な声色と共に咲うのは、その四人の中でもっとも幼く華奢な、亜麻色の長髪を分けて流した、虫も殺さぬような清楚な少女。
それに見合わないハンドアックスが、両手で浮き彫りになっている。
いずれもマゼンタカラーの、近未来な素地の話に黒い十文字を縫い込んだ外套を、それぞれの顔や身の丈に合うように着合わせていた。
その最後尾、狗の耳のついた、白いフルフェイスのヘルメットで頭部全体を覆った、痩せ型の影が追従する。
「
と、馴れ馴れしい調子と流し目で、その影を振り向く。
応も否もなく、淡々と無言で、彼は銃器の体を為した、平たいデバイスを腰より抜き取った。
そして、ライダーの肖像が浮かび上がる、バーコード付きのカードを銃身のソケットに挿み入れる。
〈ダブル:分断〉
銃口に、Wの文字を模したクレストが浮かび上がり、引き金を弾くとともに発せられた光線により、それが砕かれる。
二分された紋章が、二つの異形の影となり、彼らに先んじて地上に降り立つ。
疾風をその身に宿す緑青の怪人――サイクロンンドーパント。
かすかな紫光を秘めた黒き影――ジョーカードーパント。
どことなく女性的なシルエットのそれは、奇声もしくはうめき声をあげながら彼らに手を突き出した。
サイクロンの名の示す通り、その手から発せられた竜巻。
それに乗って、ジョーカーが自らの腕に精製したカードデッキから切られたトランプカードが無尽蔵に学生たちに向けて飛来し、彼らを襲い、刻む。
悲鳴と鮮血があがる。学園生活は一瞬にして、叫喚地獄に堕ちた。
「くっ……敵か!?」
その渦中において、一人立ち上がった男子学生がいた。
彼はひと昔前のガラケーを手にし、己の腰に手ずからベルトを巻くと、素早くボタンを連打し、
「変身ッ!」
と、フォトンブラッドの閃きと共に、ファイズの装甲をその身にまとう。
「ハァァァッ!」
そしてファイズエッジ片手に、敢然と侵略者たちに挑みかかった。
「おいおいおい、失礼なことを言うなよ。オレらは敵じゃねーよ」
と、さも嘆かわしげに宣いつつ、先手の大男がゆっくり肩から荷を下ろす。
瞬間、それが手の中で爆ぜた。
爆音と共に飛来した砲丸のごときものが、並行体ファイズの胴体を貫き、勢いそのままに彼を果ての校舎の渡り廊下まで吹き飛ばした。
「が……は……ッ?」
おそらく、己に起こったことは、その身を襲う激痛以外理解しえなかっただろう。
「敵ってのはなぁ、ある程度渡り合える相手に対して初めて言えることだ。オレらは狩人。お前ら仮面ライダーは、狩られるだけが能の小動物だ」
という低い恫喝めいた返しも、もはや耳に届くことはない。
ずるりと項垂れた彼の身体から、ファイズのメットが転がり落ちる。
その中はかつて少年だった灰で埋まりそのまま青い炎に包まれてすべて崩れ去った。
ただ一つ――ファイズの顔が映し出された、カードだけがその残骸に突き立った。
それは力なく浮遊するとともに、吸い寄せられるように、その魔弾の射手の手元に舞っていった。
「あっ、ダスクちゃんずっるーい、フライングだぁ」
と、唇を尖らせて、少女が彼を非難する。
おぞましき行いそれ自体ではなく、彼が仕掛けたタイミングに対して。
「アホかイーラブ。こんなザコ、点数にも入んねーよ」
と、かつて少年だったそのカードをひらひらとさせながら、不敵に嗤う。
「口を慎め、ダスク。彼らにも慈悲が必要だ――我々が、己が何者かを知るより先に狩り尽してしまっては、あまりに哀れすぎる」
と、直剣の士が纏う雰囲気の相応の鋭い気配を滲ませつつ、窘めた。
「後輩が失礼した。あらためて名乗らせてもらおう。今君たちに粗相をしたのは、先駆けのダスク、彼女が開発担当イーラブ、弟のメルキー。追い込み役のハウンド。そして僕は、まとめ役をさせてもらっているセルケト――以上」
一応の体裁を整えて、さも恭しく彼は言ったが、ドーパントたちの攻撃は、緩めさせることはない。
「我らディサイダーズ。ディケイドに代わる、新たなる世界の破壊者だ」