学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~   作:大島海峡

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8.蹂躙される学園

 俯瞰すればそれは。

 四つの個、それに従う影たちに追い立てられる、群れであった。

 

「おらよっ」

 軽い掛け声と共に、ダスクが柱の如き砲撃が飛ぶ。

 それは校舎の一角たる尖塔を破壊して、地に落とす。

 

 その混乱と恐慌の中で、変身者、非変身者問わず狙撃していく様は、鴨撃ちのごとくである。

 

「野郎ッ!」

〈リキッド! マロンエナジーアームズ!〉

 

 三年生の一人が、ゲネシスドライバーに栗のエナジーロックシードを装填して変身する。

 頭部より展開し、茶褐色の分厚い装甲と、棘付きのグローブで弾幕を防ぎ、皆の盾となりつつ突撃する。

 

「おっ、イキが良いねぇ」

 と感心しながら、飛んで来たテレホンパンチを身を仰け反らせて躱す。

 背に回り込んだゲネシスライダーの方をゆっくり顧みつつ、ダスクが自らの得物から手を離した。

 

「ほら、チャンスやるよ。この場から動かねーでやるから、攻撃、当ててみな」

 と空いた両手で手招きする。

 

「くそっ、ナメやがって!」

 気炎をあげて彼はその挑発に乗った。いや、実際露骨に慢心している今こそ、唯一無二の好機であることに変わりはない。本来狙撃手にとって接近戦は死を意味するのだから。

 

 彼は、ダスクに間断なく拳を浴びせにかかった。

「おぉっ、良いじゃん、良いじゃん、スゲーじゃん?」

 頭に戴く蛟竜よろしく身をくねらせそれをいなしつつ、ダスク、もといドラゴンディサイダーは、相手の健闘を称賛する。

 ……が、一撃たりとも攻撃が掠めていないという事実を想えば、それが揶揄であることは明白だった。

 

「だったら、これでも……喰らえーっ!」

〈マロンエナジースカッシュ!〉

 

 シーボルコンプレッサを押し込んだライダーは、赤熱の棘針(イガ)を飛ばし、次いで鉄拳でもって殴りかかる。

 針は首から上の動きのみでかわされた。だが、その間隙に、繰り出された拳は側頭部、有効打圏内にすでに入っている。直撃すれば、並の怪人であればまずひとたまりも無かろう。

 

「はい、時間切れ」

 だが、その拳はダスクを打つことなく、直前で止まった。否、止めさせられた。

 柱のように地に置かれた重火器。そこから生えた影のごとき紋様が地を這い、ライダーの影を絡め取っていた。

 

「そういや、お前らアーマードライダーってのは、確かダンサーが本業なんだろ? じゃあ今から俺様が歌ってやるから、踊ってみせろよ」

 そう冗談めかしく言いつつ、彼は再び銃器を手にする。その砲身の上に取り付けられたレバーを引くと、中が露わとなる。

 そこには、さながら煉獄のごとく、炎が滾っていた。溶鉱炉であった。

 その火中にダスクは、紫のコアメダルを数枚、事もなげに投じる。焚べる。

 

 矛盾した表現ではあるが。

 その炉火が冷え冷えとするような紫色に変わる。

 

「プットティラーノヒッサーツ♪」

 そしてその宣言通りに、口ずさむ。

 滅びの歌を。毒紫の放光と共に。

 

 その光が爆ぜ、ゲネシス以下その射線上にいた複数のライダーを巻き込み、呑み込む。それに遅れて、轟音が鳴り響く。

 

 それぞれの存在した証は、無惨な破壊の軌跡と、カードに刷られた絵姿のみ。それ以外は悉くが消し飛んだ。

 

「あーらら、踊る前に消し飛んでやがんの」

 と、ダスクも不本意げに嘆いてみせて、そのうちの一枚……彼が対峙した、もとい弄んだマロンエナジーアームズの彼を摘み上げて、

「ゲネシスライダーだが、とんだ期待外れだったな。獲物ガチャ失敗。レア度星3が良いとこだな」

 と抑揚なく呟いた。

 

 そうしている内に、戦火は奥へ奥へと拡大の一途を続けている。

 

〈Set:Armed Dagger〉

〈Set:Armed Spear〉

〈Set:Armed Scissors〉

 

「一気に仕掛けるわよ!」

「おう!」

 と、デザイアドライバーを身につけ、動物の面を被ったかつてのデザイアグランプリの参加者たち。

 ワリカ、ゴージュン、ドーフィン。いずれも水棲生物モチーフのライダーである。

 

 彼らはメルキーを囲む。

 物量で押す。数で恃む。その考え自体は間違っていない。そも、それ以外に太刀打ちの方法はない。

 

 思い思いの武器と半身の胸甲をまとい、息の整ったプレーで攻め立てる。

 だが、その足下が、突如として沈む。まるで底なし沼に嵌まったがごとく、液状化、もとい完全に液体化をしているコンクリートに腰まで浸かる。身動きが出来なくなった三者を、その灰色の波紋を縫うようにして小型の凶器が駆け巡る。

 

〈エクシードジョーズ!〉

 

 それは、鋭い歯を己が前面に突き出した、銃弾のごとき銀色のボット。正体は鮫型の擬似餌(ルアー)である。

 それが、メルキーの操る竿の動きに合わせて跳ね上がって宙に浮き上がる。

 本能的にそれを目で追う。仰ぎ見る。

 だが、その瞬間。

 コンクリートのプールが、突如として大きく泡立つや、そこに蠢く何者かに彼らは引きずり込まれた。

 

 戦士らしからぬ悲鳴、苦悶がかすかに聴こえる。やがてそれは泡と共に止む。

 ライダーたちと入れ替わる形で勢いよく顔を覗かせたのは、グンダリ、ピラニアヤミーなどの異界異形のクリーチャーたちが顔を覗かせた、その口からカードを吐き出した。

 その波の上に立っているのは、メルキーもといタートルディサイダーである。

 

「ふん、他愛もなし」

「そりゃあ他愛もねぇだろうよ」

 

 嘯くメルキーに、ダスクが毒づいた。

 

「こんなデザドラの雑魚ども、何匹狩ったところで点数になるかよ。せめてバッファ程度は仕留めねぇと、ディサイダーズの一員とは認められねぇなぁ」

「ダスク殿、メルキーはすでに一人前の男ですっ。半人前扱いは止めてください!」

「まぁ、そんでもお前には『狐』狩りはまだ早ぇかな。どれ、お前に適当なターゲットは、と……」

 

 と、品定めのためにかざしたダスクの手が、歯を軋らせる小兵――次郎丸厚に向けられる。

「お、あれなんかちょうど良さそうだな。で、俺様は……次はアレだな」

 そしてダスク自身はその銃口を軽々と、不二へと持ち上げた。

「へぇ、お前……面白いな。『二枚抜き』ってとこか?」

「なんだ、やんのかコラァッ!?」

「おぉっ、吼える吼える……じゃ、そっちはそっちで遊んでてくれ」

 

 身を強張らせる次郎丸にはもはや関心を寄せた様子もなく、あからさまに背を向けて、ダスクは不二と対峙する。

 

「気を取り直して、いざ――」

 と、メルキーは竿を傾けて構える。

 

「変身!」

「変身……っ」

 二人の『獲物』はライダー、マッドグリスとカリュドーンと変わりて、二人の狩人に挑みかかる。

 それがただ、おのが身を供する行為であったとしても――

 

 ~~~

 

「どっこいしょー!」

 天高く、熊越ゆる――

 あらゆる攻勢魔法を跳ね除けて、ボディプレスを魔法使いにかましたイーラブは、そのまま馬乗りになって斧を振りかざす。

 

「やめ――」

 周囲が引き剥がそうとしても微動だにせず、そして魔法使いの女子生徒自身が止める間もなく、斧刃は無惨に股下の彼女に何度となく叩き込まれ、やがて彼女の中の魔力が、与えられ続ける付加に耐えきれず、暴走して絶望の中で爆散した。

 

「やたー、今度は綺麗にとれたー」

 とポジティブな感情を示すのは、ウィザードリングを両手に挟み込んだ熊の着ぐるみのみである。

 だがそれも、筆舌に尽くしがたい労苦の果ての成果であった。

 

 ……その涙ぐましい努力の痕跡ともいえる、同系統の魔術師(ライダー)たちのドライバーや粉砕された魔宝石(まほうせき)が、骸代わりのカードが、彼女の周囲に散乱していた。

 

〈ラビット イン ビルドチャージ!〉

「はぁっ!」

 その油断も油断のタイミングを狙い、壁伝いに、その頭上に回り込んで地の利を得た影がある。

 スクラッシュドライバーを身に着け、その装甲を洗練された紅のクリアパーツに置き換えた並行世界のビルド――仮面ライダービルドチャージが奇襲を仕掛ける。

 

 そして、功有り。有効なり。

 突き出したツインブレイカーは「はえ?」とあどけなく向けられた顔面の正中に命中した。

 

 その弾力に跳ね返されたビルドチャージだったが、手ごたえは

 

「いたーい、目が取れちゃったー」

 というイーラブ自身の自己診断通り、そのボタンの両目が吹き飛んでいる。

 くすんくすん。哀れ熊は太い両手で顔を覆う。

 

 だが、ビルドチャージは攻めの手を緩めない。それを許してはならない残虐な光景を、今目の当たりにしていたのだから。愛と平和のため――これは、滅ぼさねばならない。

 

「なんちゃって☆」

 ――それ自体が、誘引の罠であったと気づかず。

 

 失われた彼女の両目は、すでに補填されていた。

 新たなる眼、紫の眼魂と、オレンジのロックシードがはめ込まれていた。

 

〈ノブナガ! オメガドライブ!〉

〈ロックオン! オレンジチャージ!〉

 その彼女の周囲に、ガンガンハンドや火縄大橙DJ銃が転送され、無尽蔵に増産されていく。

 三段横列のつるべ打ちが、仮面ライダーたちを撃ち抜いていく。

 

「お次はー、コレだ! 割って、差す! ……だったけ?」

 

 その手の中で、重ねられたライドウォチを強引に二つに、三時方向と九時方向に分ける。

 イーラブが蒐集したらしい戦利品(コレクション)、ジオウライドウォッチⅡだった。

 

 それを眼魂代わりに両目に当てはめると、丸々とした両手の先に、サイキョージカンギレードが転送された。

 それはまたたく間に黄金の長大な刀身に伸び上がり、片仮名がそれになぞって浮き上がる。

 

「イーラブちゃん、サイキョーブレードッ!」

 少女は片足立ちで大きく腰を捻り、一閃。

 横倒しに振りかざされたその光刃に、数多の逃げ遅れたライダーたちが飲み込まれ……

 

 

 

 ――万物は、これなる電者(いかずちもの)の王道として繋ぎ紡ぐ

 

 

 

 瞬間、剣閃の軌道上ある空間一帯が、四分五裂した。

 またそれにより歪められたパイプが線路上に組み上がって剣閃を阻む。

 

 その間隙を、高速で駆ける列車が煙を吐き、風を切って急行し、ビルドチャージらを含めた敗残者たちを奪い去った。

 それは、ケミーが一種。機関車型のスチームライナーだった。

 

「ごめん、僕にはコレが精一杯」

 雷光を帯びて輝く指輪を突き出した中性的な若者――風芽ノコが、その背からまだかろうじて被害を免れている校舎の屋上へと飛び降りた。

 その矮躯を守る線路に運ばれ、救出された生徒たちが転がされる。

 

 ケミーカードに自らの相棒を戻しつつ、

「キミらは退却を」

 とビルドチャージらに促す。

 

「あ、いーないーな! ウチのライナーちゃん、ガタきちゃって取り換え時なんだよー」

 そう無邪気に手足をバタつかせるが、イーラブの言動は、その存在のおぞましさを助長させるのみである。

 

「どうして、こんなマネを……」

 と、普段のノコらしからぬ重苦しい口調で困惑まじりの怒りを吐き捨てる。

 

「ノコ氏、無駄ぞ」

 並び立つ白咲城介が、静かにたしなめた。

「アレは見てくれこそ愛らしいが、羅刹女の類よ。人の(みち)を説いたとて、通じまい」

「だろうね」

 

 そう言い合わせた若き旅人と僧兵は、それぞれのベルトを手にし、腰周りに展開した。

〈ザクロ!〉

〈スチームッ!〉

 ザクロのロックシードをセットされた城介の戦極ドライバーから和風のロックが、ノコの細腰に一気に巻かれたユウキベルトから汽笛の音が響いて、それぞれの身を奮わせる。

 

「変身」

〈ザクロアームズ! 乱れ咲き、サンクチュアリ!〉

 拝むが如くに手を突き立てた城介が、もう一方の手でカッティングブレードを振り下ろせば、基本世界の同一ロックシードとは異なる音声が呼応する。

 彼の世界と、クラック越しに繋がる。そこから落下してきた朱き身を頭から被れば、それは展開して鉢金つきの大頭巾となり、白き装甲と法衣となり、仮面の戦士の姿となる。

 紅の錫杖を武器として構える。

 それが、彼が数多の戦場を渡り歩き、生き抜いた戦装束――アーマードライダー伐折羅(バジャラ)だった。

 

「変身!」

 ノコが、スチームライナーのケミーカードを、挿し込んだライダーパスを指に挟む。腰を捻り、バックルに読み取らせつつ、錬金術師としての印を結ぶ。

〈スチームフォーム〉

 平坦な声とともに、小型化したスチームライナーのヴィジョンがその身の周辺を駆け巡り、彼とノコとを時の漂泊者として再錬成する。

 

 紫色に鈍く閃く両目。突き出す黒き煙突。両肩に蒸気機関車の頭部を模した装甲が、胴体を線路が駆け巡る姿は、まさしくスチームライナーを九、風芽ノコを一つ者として融合させた姿――融汽(ゆうき)だった。

 

「――時は、有限だ」

 砂粒を噛みしめるような口調で呟くと、ノコは腰の複合武器デンガッシャーを汲み上げて、手動と磁力と錬金術とで弓型に変形させる。

「てことで、敵わないまでも一秒一瞬でも皆が逃げる時間稼ぐよっ、センパイ!」

「承知!」

 

 そして屋上飛び降り空滑り、イーラブ……ベアディサイダーへの特攻を開始したのだった。

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