学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~   作:大島海峡

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9.もう一つの空、もう一人の我

 耳鳴りの波の向こう側、意識の霞の彼岸。

 誰かが、自分を呼ぶ声が聴こえる。

 自分の上の影が父の剛のものかと思ったが、そんなはずはない。次第に輪郭がはっきりしてきて、それが上座シンクローのものだと判ると同時に、広子の意識は現実に戻ってきた。

 

 だが、そこには悪夢のような光景が広がっている。つい一瞬前まで、穏やかで賑やかな学生生活が営まれていたとは思えない。果たして、どちらが夢であったのか。

 

「良かった、気が付いたね」

 目の焦点が定まった頃合いを見て、シンクローは軽く頷き、手を差し出した。

 その好意に甘んじ、引き上げさせられる。

 

「いったい、何がどうなったんですか……?」

「終末だよ」

 

 吐き捨てるような、ライドの答え。

 声はすれども、姿は見えない。

 倒壊した校舎の向こう側に、気配を感じる。

 

「崩壊の序曲は、いつだって唐突に奏で始められるのさ……だが、だがまさか()()()()()とはな……『詩島剛』め……今が、その時だってんだな……」

「いや、なに気取ってるんですかっ!」

 

 仮面ライダーたちが、各世界から集められた勇者たちが、今この時にも、何ら手を講じることもできず、鎧袖一触に蹂躙されていく。

 彼らのファンとしても、そして自身が端くれのライダーだとしても、看過できない光景だった。

 

「それで、特攻しようって? むざむざ死にに行くようなもんだ」

 冷ややかに嗤う音。

「奴ら、本格的な侵攻の前にこうやって分断にかかった。手慣れてんだよ、戦い……いや、『狩り』にな。個人的抵抗なんざ、小鳥が囀る程度のものだろうさ」

「貴方の言い訳を聞きたいわけじゃないですから」

 冷たくそう跳ね除けた広子だったが、

 

「違う……命の賭け時と、力の使い方を考えろってんだよ!」

 という怒喝が、転身せんとした広子の足を止めた。

 

「お前はなんだ!? あいつら全員ブチのめせる最強の戦士か!? 違うだろ! 今のお前は誰かに乗られるのがせいぜいの、ただの乗り物だろうがッ。だったらそこに怪我人や動けなくなった奴を引っ張って避難させることがお前が担える役割だろ! 学園長とか教師どもんとこ、さっさと行け!」

 

 納得は、いかない。一方的に言われて自分が何者か、どうすべきかを断じられることに腹が立つ。

 だが、正しいとも思う。本当に怒りを感じているのは自分自身の非力に対してだ。

 

「行こう、広子さん……経験者の言葉だ。そこは素直に従っとこうじゃないか」

 そうシンクローに促されたことが、決定打となった。

 

「おい、広子」

 その別れ際、ぞんざいにライドはファーストネームを呼ばわった。

「貴方は気軽に呼ばないでください」

「しょーがねーだろっ、どっちも詩島だ! ……別件でお前に用がある」

「用?」

「時機を見て合流してやる。それまで無茶すんなよ」

 

 という不得要領で不遜な物言いとともに、ライドの気配が向こう側から消えたのだった。

 

 ~~~

 

 そして、退路の中で怪我人や倒れている人間を介助し、あるいは学友たちの生きた証たるカードを可能な限り回収しつつ、有事の際の集合ポイントまで移動していく。

 

 ……だが、その中で不穏な気配を常に感じ取っていた。

 その視線だけで、まるで肌は切り裂かれそうなほどの。

 

「君も気づいたか」

 と、シンクローは立ち止まって言った。

 

「奴は俺が食い止める。君はみんなを連れて先に行け」

「え、でもっ」

「だいじょーぶ。これ、フラグとかじゃないから」

 

 そう気軽にシンクローは返したが、それが虚勢であることは暗雲のごとく彼の周りに立ち込める空気から察するにあまりあった。

 だが、それしか選択肢(みち)はない。唇を噛みしめながら、広子は傷つく数人の生徒たちを伴って先発する。

 

「どうか、無事で……!」

 と、唯一無二、許された激励(いのり)を残して。

 

「――そいつは、中々難しい相談かな……」

 そう苦笑をこぼしつつ、あらためて背後を向き直る。

 不意打ちを仕掛けるでもなく、その剣鬼はまっすぐに、慌ても走りもせず、剣を手に接近してくる。

 

 もちろん、若き戦士たちは、ただそれを傍観したり逃散していたわけではない。

 シンクローが挑むより先に、囲む複数人分の影がある。

 

 それは絶えず、そして気配を限りなく消して跳ね回り、牽制と陽動により相手の隙を作らんと努めている。

 だが――オーガディサイダー、セルケトの剣気は、いささかも揺らぐことがない。まるで鋼鉄を重ねた地層だ。

 

 ついに『彼ら』は、己が身を挺して埒を開けんと急襲した。

 花火や十手や苦無など、様々な忍具暗器を自身のベルトや両手に帯びた、シノビライダーたち。

 

 セルケトの身体の表裏より、声も無く殺到し、挟み込む。

 だが、心火を灯した刃が、セルケトを傷つけることはなかった。そも、触れさえもしない。

 

 いずれもその手前で、しめやかに爆発四散した。

 ――彼の周囲を、忍たちを超える超速で何かが駆け巡っている。

 

〈ヤキイモ! ホクホク!〉

「良か死に場所じゃ! あぁ良か死に場所じゃ!」

〈ヴォルケーノ!〉

「チェストォォォ!!」

 

 ……その後も、サツマイモの色、形状の棍棒だとか、火柱をあげるライドスクレイパーだとかで蜻蛉の構えをとり、ライダーたちが吶喊していくが、その士魂が報われることは無かった。

 

 そしてついに、その意識がシンクローへと向けられた。

 瞬間、忍者たちを射抜いた何かが、音を置いて彼へと飛んできた。

 

(目で追っても無駄だ)

 とシンクローは判断。目視以外でその正体を、推理し、パターンを探る。

 見えているのはセルケト自体。そして彼の持つ剣。

 そこに、あったはずのものが、敵を刺し貫く切先がないことを察すると同時に、シンクローは横に飛んだ。

 

 仮面ライダーアクセルのカードの傍ら、打ち捨てられたエンジンブレードを持ち上げ、自らの前方へと振り抜く。

 

 激しい金属音。手が吹き飛ぶのではないかという衝撃を受け流してもなお、身体が浮く。弾ける刀身と引き換えに、彼を狙う凶刃の軌道を、ミリ単位で受け流すことができた。

 

 風破るそれは、磁力めいた効果により、セルケトの剣先へと引き戻されていく。

 

「……名は」

 元通りになった直剣を突きつけて、セルケトは問うも、シンクローは彼らしからぬ冷ややかさで、視線を返した。

 

「訊くなよ、大して興味もないことを」

 いくら武人然と振る舞っていても、そうでなければ、こんな惨い仕打ちは出来ないはずだと、見抜いた上で。

 

「せめてもの情けと礼節だ。一定の水準の獲物には敬意を払うさ」

 と、思った通りの傲慢な答えが返ってくる。

 

 もはや、問答は無用だった。

 相手は犯罪者ではない。別種の生き物だ。どれほど言葉を重ねても、この殺戮者たちと理解し合える時は、永遠に訪れないのだろう。

 

「翔太郎さん、フィリップさん……力を貸してください」

 世界の不具合(バグ)により、時と風を止められた街。そこで自分の帰りを待つ先輩たちに祈りながら、自身のメモリとドライバーを取り出す。

 

〈ウェザー!〉

 それら一式を身につけることを、セルケトが妨害する様子はない。相手を全力を出し尽くさせたうえで、正面から粉砕するのが、彼の矜持らしい。

 自らの胸の前に、『W』を形作った手を置くと共に、シンクローは意気を研いで叫ぶ。

 

「変身っ!」

〈ウェザー!〉

 ガイアメモリをセットしたスロットを傾ければ、白雷と共にピアノの伴奏が奏でられる。

 彼の身体が、一種のドーパント体へと変異する。

 

 そして異界の戦士、仮面ライダーウェザーとなった彼は、電光迸る拳を握り固め、侵略者へと挑みかかったのだった。

 

 ~~~

 

「広子ちゃん、こっちだ!」

 奥へ奥へと逃げていく最中、広子たちを呼び止める声が、死角から聴こえた。

 声の側に首を振り向ければ、雷寮に続くその曲がり角に、一人の男が広子と同様、生徒たちをかくまっているのが垣間見えた。

 デラさん、と呼ばれていたあの非常勤教師。ファーストコンタクト以来、すぐにどこかに消えてしまったから、二度目の邂逅だった。

 

「まだ戦える奴だけ、ここに残ってくれ。あとは寮で守りを固めてくれ」

「でも! シンクローさんが向こうで敵に!」

「分かってる。そっちは俺に任せて」

 

 溌剌とした声音や表情とは裏腹に、芯のところが定まって落ち着いた眼光が広子たちを宥めすかした。

 

「……彼ら、一体何なんですか?」

 一呼吸置いて、広子は教師に尋ねた。

 

「奴らは、ディサイダーズ。士がいなくなった後、ある時間軸に唐突に現れたライダー狩り専門の種族だ」

「ライダー、狩り……?」

「奴らは特定の世界を持たない。物語も、善悪もない。仮面ライダーやその世界を破壊し、その時に発生するエネルギーを糧に存在を確立している。そういう存在なんだ」

「士って……門矢士、仮面ライダーディケイドですか?」

「確かに、話だけ聞くと似たようなもんだが」

 生徒間で囁かれる問いや戸惑いに、デラさんは首を振った。

 

「破壊には、再生が伴う。けどあいつらは、その再生のために必要なエネルギーさえ喰らってしまうんだ。そんなものは、あいつの望んだ『破壊』じゃない。あいつは俺にとっても最後までよく分かんないヤツだったけど、それでもこんな弄び方をするような男じゃなかった。あいつはあいつなりに、世界と向き合って、旅をしてきたんだ!」

 まるでディケイド個人と関わりがあるような物言い、苦しげな横顔に、広子の知識が呼び起こされる。

 

(あぁ――そうか、この人は)

 デラさんというその姓が、何の略かを悟る。

 そこから繋がるその名を、戦士としての名を、自分は憧憬と共に知っているはずだった。

 

「ライドから、君のことは聞かされている」

「え?」

「あいつから合流するって言われてるんだろ? 会いに行ってやれ」

「ど、どうして……?」

「今は分からなくても良い。でもきっと、それが君の運命の始まりだ」

 

 何が何だか分からない。だが、静かに背を押されたような心地だった。

 あの忌まわしい男の子に対して、そう信じてしまえるような。

 

「……分かりました。でも、大丈夫ですか」

 か細く問う広子に、屈託なく笑って彼は前へと進み出た。

 

「平気だよ。だって、俺()、クウガだし」

 と、突き出した親指を青天へと向けて。

 

 広げた両腕の間に、彼自身の腹に内蔵された超兵器アークルが起動して浮き上がる。

 

 それに左手を添え、右手を突き出し、そして駆け出した。

 

「変身!」

 脇腹のスイッチを押すと同時に、ベルト中央の霊石が輝きを増し、放たれる光が渦となる。

 全身から立ち上って揺らめくは、闇を払いて超える、黄金の蜃気楼。

 それが彼に、甲虫を基とした、黒と金の生体甲冑を纏わせる。

 一度は地の黒に染まった瞳に、赤い情熱の意志が宿る。

 

(なんで、気づかなかったんだろう)

 若干の悔しさと多大な憧憬を、膨れ上がったその背に向けた。

 

 資料の中で見た彼の姿は今よりずっと若かったがためだとしても、もっと早くに、気づけたはずだった。

 

 彼の名前(フルネーム)は、小野寺(おのでら)ユウスケ。

 仮面ライダーディケイドの旅の仲間だった男。

 

 もう一人の、仮面ライダークウガ。




没キャラの没キャラ

・仮面ライダージゲン スイートポテトエナジーアームズ
本当はヴァレイ(焼き芋)、サツマメイジ(ヴォルケーノ)の代わりに突っ込ませる予定だった武家者(ボッケモン)
果実でもフルーツでもないので不採用

・仮面ライダーダークガタック
謎の男が変身する黒いガタック。
かつてはネット上の都市伝説で別の名前で呼ばれていた。
コラのパロディとか笑えないジョーク過ぎるし、そもそも元ネタ分かる世代の人、もういないと思うの。
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