学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~   作:大島海峡

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10.援軍たち(前)

 小野寺ユウスケを見送った後,おもむろに広子は上を仰ぎ見た。

 自分たちの上を、通り過ぎていく影がある。

 

 ハウンド。そう呼ばれていた顔の見えない尖兵。

 

〈ファイズ:現〉

〈エグゼイド:蔓延〉

〈ギーツ:失望〉

 

 彼もしくは彼女は、屋根伝いに駆け回り、ウルフオルフェノク、ソルティ、あるいはジャマトライダーバックルに侵食されたギーツなど、怪人怪物の類を、ディエンドライバーとは似て非なる銃器で召喚して回っている。

 

「あいつさえ、倒せれば……」

 一人変身も異形化もせず安全圏で動いているところを見るに、おそらく個人の戦闘力はないに等しい。そしてあの召喚能力を無力化さえ出来れば、怪人の増援は阻止できる。

 

 所有するシグナルバイクのうち、一際ユニークな形状とカラーリングのものを、広子はデンセツシューターと共に取り出した。

 

〈Legend in Ridden! Rive/Vice〉

 自分の世界では計画だけでついぞ完成しなかったリバイスシステム。

 一台に込めた、そのデータをシューターに読み取らせる。

「変身!」

 助走をつけながら飛び上がったそれは、バイクというよりはスカイモービル。その先頭に、恐竜の顔が取り付けられている。

 

 身体を浮き上がらせ、空を裂きながら、飛翔してそれを追う。

 追われることに気づかれたハウンドは、速度を上げて逃走を始めた。

 

 ……それからややして。

 息を弾ませながらライドが、その場所に飛び込んできた。

 

「おい、詩島広子来てるか!?」

 そう守りを固めるライダー達に所在を問えば、

「ついさっき、なんか飛んでったけど……」

 という答えが返ってくる。

「……〜〜ッ! なんで大人しくしねぇんだアイツはぁ!?」

 ライドは頭を抱えて絶叫を轟かせた。

 

 〜〜〜

 

「せぁぁっ!」

 メタルシャフトを振りかざし、ウェザーは鬼へと迫る。

 相手は避けない。避けようがない、というより避ける必要がない。

 組み打つ、というよりは、打ち込ませることを許すという塩梅で、受け太刀で迎える。

 

 開けられた攻め口、ベストな打撃、確かな手応え。

 にも関わらず、セルケトは微動だにしない。次いで繰り出す薙ぎや突きも、ただ一剣、一歩とて動くことなく手首の返しだけでいなしてくる。まるで、万里の果てまで敷き詰められた鋼鉄の塊を相手取っているかのように、有効打を与えられるビジョンが浮かばない。ツインマキシマムをもってしても、穿つことは容易ではないという確信がある。

 

 にも、関わらず。

 油断など、している余裕もなかったはずなのに。

 相手の蹴りが、構えをとる暇もなくシンクローに叩きつけられた。

 

 背に壁の分厚い感触が行き当たる。

 意識を保ち見れば、つい一瞬前まで眼前にあったセルケトの姿が、彼方果てに遠く小さく見える。彼が退いたのではなく、自分が押し退けられたのだ。ただ一度の、蹴りによって。

 

 アクセルドーパント――福井秀と対した時も、ゴールドクラスの幹部連中を相手取った時も、悔いや無力感はあってもこれほどの絶望感は無かった。

 

「何故」

 かろうじて膝を屈することは避けながら、シンクローは問うた。無駄とは先に悟っていたが、問わずにはいられなかった。

「これだけの力があるのに、ライダーを滅ぼし、他の世界を侵食する必要がある?」

 と。

 

「それが、正しいことだからだ」

 憚りなく鬼は答えた。

「強者が繁殖する弱者(ウサギ)を糧とし、その結果世界の均衡が保たれる。これ以上明確な正義が何処にある?」

 そう宣いつつ、一枚のカードを抜き取りながら。

「事実、その摂理を受け入れて、我々に賛同するライダーの世界も存在する」

「まぁー、奴らの本心としちゃあ、命惜しさの媚び売りだろうがなぁ!」

 

 頭上から、せせら笑う声が打撃音や射撃音と共に落ちてくる。

 校舎の上でマッドグリスと撃ち合い、競り合うダスクのものだった。

 

「嗤うな、ダスク。それも彼らなりに懸命に考えた上の生存戦略だ」

「何が、生存戦略だ! そんなの、ただの強い奴の奢りだ! 力づくで従わせているだけじゃないか!」

 埒外の方向に嗜めるセルケトに、シンクローは吼える。

 

「まぁ、君たちの立場からすれば、溜まったものではないのだろうな。憐れみを感じているのは、紛れもない本心だ。だからこそ、獲物には敬意を払う。でなければ」

 そう言いさした鬼剣士は、手の直剣のスロットに、カードを装填した。

 

〈Attack Verse:W〉

 そこに映し出されるのは、シンクローもよく知る左右二色のライダーの肖像。その最終形態たるサイクロンジョーカーエクストリーム。

()()()()()()()()、やろうとさえ思えばできる」

 宣う彼の手が、厳密に言えばその剣の拵えが、渦巻く竜巻と共に変異する。

 

 すなわち、攻防複合の武器、プリズムビッカーに。その剣の根本に、エクストリームのダブルの頭部……を模したと思われる装飾が鍔代わりに突き刺されている。

 それを盾より分離させると同時に、彼の周囲には白き四本の、まったく同じ青端子のガイアメモリが浮かび上がり、ビッカーのスロットを埋める。

 

〈エターナル!〉

〈エターナル!〉

〈エターナル!〉

〈エターナル!〉

〈マシキマムドライブ!〉

 

 瞬間、シンクローの全身を電流が襲った。

 脱力感、苦悶の絶叫と共に膝を折る彼だったが、セルケトの身体また、蒼き劫火と翠風と紫炎とに苛まれていた。

 

「大人しく従え。それが敗者の道理であり赦された矜持だ」

 暴れ狂う力に向けたものらしいその静かな一喝が、それら一切を吹き飛ばし、かつ鎮めた。

 

「その気になれば君たちの力を封じる方法は、いくらでも存在する。世界もろともに、滅ぼすことさえ容易だ」

 無情なる宣言を機として、反発していた力は、その剣に収束する。薄緑の水晶光(プリズム)が宿る。

 

「だが……あえてそれを見せつけ、如何ともしがたいその差を思い知らせることも必要ということか」

 そう呟き、突き上げた切先が光となって伸び上がり、天を衝く。時空を引き裂き、宙の果てが亀裂より覗く。亀裂がますます広がっていく。

 世界を永遠に葬らんばかりの斬光は、ゆっくりと振り下ろされていく。

 否、そう体感しているだけだ。その証左に、手足は重加速にでもかかったように鈍重で、避けることも防ぐこともできない。走馬灯めいたものが脳裏を駆け巡る。

 

 無念と諦めの境地に達したシンクローだったが、その視界の片隅に、黒き影が、弓をつがえているのが見えた。

 

 そしてセルケトの死角より放たれた一矢は咄嗟に振り返った彼の盾に命中し、エターナルメモリの一画を貫いた。

 エラーを感知したビッカーが機能を停止し、刃から光が霧散した。

 

「はぁっ!」

 その影……小野寺ユウスケ、仮面ライダークウガ ライジングアルティメットはライジングペガサスボウガンを投げ捨てると、拳を突き出しオーガディサイダーへと挑みかかる。

 

「しっかりしろっ、シンクロー! 風都でお前の帰りを待ってる奴らがいるんだろ!?」

 その最中に飛ばされた檄によって、シンクローは我を取り戻した。

 そして地面に転がるエンジンブレードの残骸に駆け寄り、拾い上げると、

「小野寺先生!」

 と、彼に向かってそれを投げ渡す。

 

 ユウスケがそれを手にした瞬間、折れた武装は電光と共に長大な剣、ライジングタイタンソードへ変換(モーフィング)された。

 その刃を翻すや、振りかざされたセルケトの剣を支える形で防ぐ。

 行き場を失ったエネルギーが風圧となって、一帯に、一時的な嵐を巻き起こした。

 

「これを防ぐとは中々やるな、小野寺ユウスケ。曲がりなりにもディケイドの旅の供ということか」

 片腕のみで彼を圧しながら、鬼は古代の超戦士を静かに評した。

「俺だってこの十五年間、無意味な冒険(たび)をしていた訳じゃない……! お前達に対する備えは、してきた! 皆と一緒にっ!」

 

 そう言い放つや、必死の覚悟と意思力でもって、わずかながらにセルケトの一太刀を押し返したのだった。

 

 〜〜〜

 

 弓に変じたデンガッシャーから、筒のごとき矢が発せられる。

 着弾と同時にそこから吹き出した蒸気が、煙幕となって一帯に立ち込める。イーラブの視界を塞ぐ。

 

「何処かな何処かなー?」

 だが妖怪熊は動揺した様子もなく、わざとらしく探すふりなどして見せる。

 

 その慢心が、個々への関心の薄さこそが、つけ入る隙だ。

 瞬間、

 

「見ぃつけたァ!」

 サイキョージカンギレードが、蒸気を突き破る。そして、融汽のマスクの中心を貫いた。

 

 だが、その全身が、霞となる。蒸気と同化し、彼女の四肢にまとわりつく。転瞬、それらは鋼の錠鎖となって、イーラブを縛る。

 錬金の秘術である。

 

「今だ!」

 間を置かず、()()()ノコが、そして城介が煙幕の中より打って出た。

 

〈フルチャージ〉

〈ザクロスパーキング!〉

 それぞれにエネルギーをチャージした武器を撃ち出し、突き出す。

 

「いやん、はなーして」

 と、イーラブは軽い調子で身を捩った。

 

 ただそれだけで。

 拘束は外され、必殺を期した技は無力化される。その身は吹き飛ばされ、命綱たる煙幕は晴らされた。

 

「今度こそ、見ィつけた」

 その着ぐるみに表情がついていたのなら、口端はおぞましいばかりに吊り上げられていたのだろう。

「うーん、なんて涙ぐましい、無駄な努力なの! 大丈夫? 泣いちゃう? イーラブちゃんのハンカチ、貸したげよっか?? うぇーん、うぇーん、かわいそー」

 そう言いつつ、手の中でタカのコアダルを二つに割った。

 左右に自身の目に当てはめて、半目を模してみせる。

 

「どう? ちゃんと泣き顔に見えてるー?」

「――外道が」

 耐え兼ねて、錫杖を支えに身を起こした城介が吐き捨てた。

 

「えー、アタシたちがもいた木の実をどう加工しようと、勝手じゃない? ヘルヘイムの果実をロックシードに変換するのと、変わりナイナイ! そんなコトも分かんないよーな、コはぁー!」

 

 拾い上げた自らの斧に、欲望の業火が宿る。

 いかな装甲をも溶かし、どんな防火性能をも超えて焼き焦がすほどの超火力を帯びたその刃が、伐折羅を呑まんとした。

 

 だが、横から飛んだ影が、その彼の身柄を自ら諸共に突き飛ばした。

 赤黒い異形の身体、長い手足は、ライダーではない。ディサイダーでもない。

 突き出た鼻が小鬼を想わせる――イマジンだった。

 

「ふぃー、間一髪だったなぁ」

 そのいかめしい風貌とは裏腹に、気さくな調子で額をぬぐう素振りを見せる。

 

「フーさん!」

 と、ノコは彼、フータロスをそう呼んだ。

「もー、何処行ってたのさ」

「学園長さんに言われて、色々根回ししてたんだよ。ったく、イマジン遣いの荒いオッサンだぜ。あれがソウゴの一つの未来だと思うと、それこそ泣けてくるな!」

「色々って?」

 

 ノコが問いかけた矢先、

〈トルネードアロー!〉

 と、先までいた屋上の辺りから、矢音が鳴った。

 放たれた一矢は火の鳥の形をとりつつ、ベアディサイダーを狙う。

 難なくそれを払いのけた彼女だったが、弾かれたその火箭は分裂。魔法陣のように熊を取り囲み、焔の檻と化してその勢いを猛らせる。

 

 ノコは、射線を眼で辿ると同時に

「げ」

 と小さく声を漏らした。

 

〈ナンバーX! ガッチャ! ガイアード!〉

 仰ぎ見た先に、女性らしいシルエットが見えた。

 その(スーツ)は紅蓮に染まり、燃えるマントを背に負って、そのドライバーは火焔の翼を広げている。

 その眼には惑星の蒼き光が湛えられ、その右腕には、一片の慈愛を示すかのごとく水の舞うイメージが浮かび上がっている。

 

「ふうが…………ノコ!」

 奇妙な沈黙の後ノコの名を言い直す。

 そしてその手の内にある鉄塊を、彼女はノコに投げ渡した。

 

「これは……」

 とノコが見下ろせば、それは先にダスクによって吹き飛ばされたゲネシスライダー『イーノック』、その形見たるマロンエナジーロックシードの残骸だった。

「選択肢は二つ! このまま私にすべてを委ねるか!?」

「『貴方が未来を掴むか!?』でしょ? 二択とかそんなケチくさいこと言わないで、時間稼ぎ手伝ってよクドーちゃん!」

 そう言い返しつつ、ノコはその錠前を、錬金術でもって解析し始める。

 

 天性の感覚で、構造術理を把握――

 果実状態へ逆転し、その生命力を活性化。欠損部分を自己修復――

(さて、こっから本番!)

 新たな、より強固なロックシードへの再錬成を開始したのだった。

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