学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~ 作:大島海峡
カリュドーンの周りを、ハウンドが呼び出した怪人たちが取り囲んでいる。
液体化した地面、歪められて波打つその表面を、サブマリンマルガムやピスケスゾディアーツなど、メルキーが使役する遊泳する。そして彼が一瞬でも隙を見せれば、飛び上がって襲いかかる。
まさしく立場は絶海の孤島、そこに取り残された哀れな被捕食者といったところだ。
「卑怯だぞくぉらぁ! 直接勝負しろおらぁ!」
「獣の遠吠えは聞くに堪えないな……この程度の敵がちょうどいいなどと、ダスク殿はこのメルキーを見誤っておられる」
次郎丸は知恵のない、姿通りの猪武者だ。
本体であるメルキーを叩く攻め時が分からず、攻め口も読めず、手立ても持たない。ガムシャラに突っ込んでは押し返され、沈みかけて退いては、「次こそは」とまた同じことを繰り返す。
だが諦めはしないし、相手がそれで己より勝るなどと考えてもいない。最後には必ず勝つと信じて疑わない。
持ち前のこの自己肯定感こそが唯一無二、彼を支える信念だ。
「もう良い。さっさと餌になれ」
という無慈悲な宣告の後、陸水の怪異たちが時津波となって押し寄せる。
「来いやぁッ」
すでにして満身創痍。肩で息をし、アーマーには真新しい大小の傷が残る。
だがなお意気軒昂。迎え撃つ覚悟をするカリュドーン。
〈Stomring the End!〉
転瞬、刹那。
霰を孕んだ嵐が吹き荒れて敵陣を一撫で。凍てつき、氷像と化した怪人たちが、後続の風たちにさらに薙ぎ倒されて追い討ちをかけられ、粉砕していく。
「おっ、お前らは!?」
次郎丸は、思わず声をあげた。
未だ無事の地面。あるいは液体化の中にあっても暗礁ともいうべき、沈み切らぬオブジェや瓦礫。
そうしたスポットに的確に着地した一団がある。
そしてその中心、その先陣に立つ者は、皇帝ペンギンにも似たマスクをかぶった戦士である。
その腰にはサイクロンライザーとマリンブルーのプログライズキー。
初号機たる1型を基本系とし、ヒレのごときアーマーパーツを取り付けた流線形のシルエットを持つライダーであった。
「私の速度に……風に立ち向かえるならやってみるがいい!!」
などと嘯くや、メルキーに肉薄する。
繰り出すラッシュは、神速にして変則。
「くっ……!」
曲線を描いてタートルディサイダーに打ち込まれる手足は、その一打一打が空気の壁さえも破り、
――ボボボ
と爆ぜるが如き音が鳴り、
――パンパン
外殻とも肉ともつかぬその身体や、竿の如き長得物に炸裂する。
手数だけで言えば、単騎彼と対抗していた。いや、ともすれば上回るかもしれない。
聞いたことがある。
特に成績優秀者を選抜し、心技体ともに優れたエリート集団たる疾風寮。
その中で頭角を現す女傑の名を。
それが、
仮面ライダー
また、彼女が従えるライダーたちも、世情や周囲など知らぬと猪突する次郎丸でも知る者たちばかりである。
「おぉっ、あれはスードゥ」
〈仮面ライダー、ライダー、ライダー、ライダー!! スードゥ!!〉
ライドストライカーにまたがり、ジクウドライバーを腰に、ジカンギレードを片手に、水色と銅色を主軸とするライダーが敵陣を駆け巡る。
「あれは
〈ヒマワリアームズ!! 使いこなせ!! 己の武器を!!〉
ロックビークル、サクラハリケーンにまたがり、無双セイバー一本で暴れ回る、雑兵足軽まがいの量産型然とした戦士。
だがその貧相な見た目に反し、乗り物を巧みに操り、牽制、陽動、タンクと多岐にわたって役割を果たす。
「そしてお前は――
その中心に、腕組みする中性的な若者を見た。
〈スクランブル!! ハシビロコウ!! トリケラトプス!! 仮面ライダーシエメル!! シエメル!!〉
敵を掻い潜って、キメラドライバーのバイスタンプを引き倒し、トリケラトプスの顔面とハシビロコウの嘴を模した
その他も皆、精強揃いであり、瞬く間に怪人たちの数を激減させていった。
「っし」
「ゴキゴキ」
「フー」
「……嵐子様」
――この事態を予期していた学園長は、疾風寮を主軸とする精鋭部隊を解放した。
いずれもこの日に備えて独自に研鑽を重ねていた優秀な戦士・有力者達で、学園の根幹を務めるべきライダー達である。
「助けに来てやったぞ、弱き
「あぁ!?」
晴々しくそう宣う嵐子に、次郎丸は眉を逆立てた。
弱き者。言い訳と虚勢だけは一丁前で周囲に迷惑をかけ通しの武道家くずれがそう蔑まれるならいざ知らず、たとえ悪意のない一言だけであったとしても、彼にとっては聞き捨てならない言葉であった。
「テメェもう一度言ってみろやコラ!?」
そう声を上げて足を勇ませた矢先、カリュドーンの身がざんぶと水音を立てて消えた。
瞬間的に怒りが沸騰し、記憶も認識も全て飛散した結果、液体化した地面をむざむざ踏み込み沈んだのだ。
「…………」
敵も味方も、一同して無言でその波紋や泡などが浮き上がる様を見送った。
だがその後一向に浮上することなく、泡もやがて弾けて消えた。
「オーノーだズラ。あいつ、もうダメだズラ。逆に沈没しちまったズラ」
雑利こと、
憮然としたまま直立する嵐子の下に、スードゥがバイクごと接近し、彼女に耳打ちした。
「社長、学園長よりの
「なに、じゃあ
「『捨て置け』だそうです。おそらくこの未来も、彼の視界のうちなのでしょう」
「致し方無し……」
飛電嵐子は腕組みし、沈思黙考。
呆気にとられていた敵が立て直す数秒の後、マスクの奥で開眼し、大音声の号令を下した。
「
と。
「
と。
あるいは持ち前の愛機で、あるいはそれに相乗りし、精鋭部隊は反転して駆け去っていく。
「……」
立ち尽くすメルキーを、反応できないままに置いていくほどに。
この日最もスムーズな『動き』だったという。
まさに疾風であった。
〜〜〜
散弾が、天空を旋回していたマッドグリスに叩きつけられた。
「がっ……!」
制空能力を失い、きりもみしながら障壁の上へと落下し、醜い鉄音を立ててバウンドする。
「まさに飛ぶ鳥落とす勢いってか? こないだのタジャドルもこーやって仕留めたっけかな?」
ダスクが含み笑いと共にそう言い放ち、重火器を肩に担ぎながら慌てもせず歩み寄ってくる。
もはや不二の身体には、飛び上がる余力もなく、起き上がる体力さえなく。
だが数センチでも、這って身体を動かし続ける。その心火の種を残し続ける。それこそが、戦場では必要なことだと教えられた。
そんな彼女の手元から、二つのボトルが転げ落ちた。
フルボトルならぬ、容器。
ピストン機能とビルドのシンボルマークのついた、無骨な黒いボトル。
恐竜の造形が口を開ける、ダークグリーンのボトル。
取りこぼした。まさか。すべてのフルボトルは己の身体に収容されている。
それが起こりうるのは――内部より何者かが、押し出した場合のみだ。
『助けはいるか? お嬢ちゃん』
と、そいつは内側より囁き続ける。自分の意思とは反して伸びたその左手が地面のボトルを拾おうとするのを、逆の手で制する。
『おいおい、意地張ってる場合かぁ? 俺にも手伝わせてくれよ。滅びる
「黙れ……! すっこんでろ!」
意思に応じて、義腕の隙間より吹きこぼれる、毒気を帯びた色味の
――射程圏内に、ドラゴンディサイダーが立っていた。
そして彼女の様子をつらつらと眺めつつ、あぁー納得の呼気を漏らす。
「やっぱお前、
せせら笑いながら問いつつも、その銃口は狂いなく不二へと向けられている。
「まぁどうでも良いことだ。オレにとっては……文字通りの、一石二鳥だ」
問いを重ねたのは好奇心のためではない。彼女の精神を嬲るがためだ。
それにさえ飽いたとばかりに、無慈悲に引鉄に指がかかる。銃口に渦巻く光の妖しさが、彼女と彼の間で勢いを増していく。
だが、雲を裂き、天より降り来る黄金にして真なる煌めきが、それを消し飛ばした。
もうもうと立ち込める煙。その中を揺らめくオーロラ。それらが晴れると同時に、不二達の中心に一人の若者が屹立していた。
「以前会った時も、こんな壁の上だったな」
意識するでもなく、ごく自然に伸びた背筋、そこが戦場の中心地であることを忘れるほどの、優雅な立ち姿。身につける物と所作のことごとくが、超のつく一流であった。
「だが、相変わらず泥臭い戦いをしているようだな。ゴージャスには程遠い」
「……貴方は、その輝きは……」
一度見たら、忘れようもないその背を、憧憬と共に不二は見つめ、そして呟いた。
「Mr.ゴージャス……!」
熱に浮かされたようなその呼び名には特に反応を示さず、ただ彼女なりの敬意は受け入れて、超越者然としたその青年は少女を顧みた。
「もう一度拝ませてやろう。世界を救う、本物の輝きというものを」
そう高らかに宣言すると、
仮面ライダーレジェンド。その
言い訳
前半に出てきた面々は栗助様のオリジナルライダーとなっており、後日公開予定の、本シリーズの三次創作に登場するキャラクターとなっております。
栗助様のご提案により、お送りいただきました数多くのキャラの内、特に個人的に好みだった数名をピックアップさせていただきました。
ただなにぶん急ではあったもので、設定やキャラを把握して残り少ない作中に反映させることは難しく、結果としてお茶を濁すような書き方となってしまったことを深くお詫びいたします。
ついては、彼らのその後の活躍や魅力は栗助様の作品にお任せすると共に、読者の皆様におかれましては、「◇この本編と違うキャラクターは……!?」とか戸惑いや本作における各キャラのイメージやノリなどをあちらに持ち越さないようお願い申し上げます。