学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~ 作:大島海峡
1.求ム、ライダー!
「よし……っと」
大小の荷物を一つのデイバッグに押し込めて、過積載のそれを上体を曲げながら背負い込む。
そしてその重さに長い黒髪と、白と赤の縞で編み込まれたマフラーを巻き込まないように掬い上げ、風に乗って浮かび上がらせる。
「ハンカチ良し、ティッシュ良し! うなぎパイ良し! 変身アイテム一式よし! オールオッケーですっ!」
荷物のハンデを感じさせない大仰な敬礼、溌剌と笑顔を、門出の見送りに来た両親に向ける。
「ぃよーっし! さっすが、俺らの娘!」
「何が、さすがなんだか」
遠慮なしに前髪を混ぜっ返し褒めそやし、かつそれを喜んで受け止める父と娘の様子を、呆れながらも温かく母が見つめている。
「危ないことは
「もー、それはムリな話ですよっ、マミィ! 」
「それでもっ、怪しい人にはついていかない。困ったら、信じられる人を頼ること。それぐらいは、きっちり見定めてね?」
「はーい」
どこにでもある世界、どこにでもある我が子の巣立ちとそれを心配する両親。どこにでもある家族の光景だ。
――ただ、その背の空間に靡く鈍色のオーロラと、それを両端より繋ぐ物々しい機械を除けば。
「そろそろ良いか?
そう、タッチパッド片手に色の濃いサングラスをかけた、パーマ姿の博士が言った。
「了解です、ドクター
「おう、それまでこの世界は、オレらがきっちり守ってやるからな」
「はいっ……ぜったい、絶対に! この世界を救う術、学んでここに戻ってきますからっ」
と、それ以上の会話は未練になると、颯爽、意気揚々と踵を返し、少女はそのカーテンをくぐって、外へ出る。世界の、外へ。本。来ならば侵して超えることのできない、境界の先へ。
「……行ったね。でも、絶対に守れるって、本当に信じてる?」
さすがは、元は嘘を弄んでいた女。その辺りの機微には聡いらしい。
探るような目つきの妻
「たとえ無理でも、あっちにいる限りはあの娘は大丈夫さ。無事やっていける。あの場所――ライダー学園なら」
~~~
ライダー学園。
単調きわまるその名称は、その一校を示す言葉であると同時に、広い意味ではそれが中央に存在する世界そのものを指す。
『学園長』――そう呼ばれるある変異体を首座に戴き、彼の発案によって作られた。
その意義とは、すなわち世界の維持。一つの世界ではなく、今や無数に存在する
すなわち――仮面ライダー。
顔を隠し名を伏せ、姿を変えながらも、陰に陽向に各々の世界を生き抜いた戦士たち。
その中でも次世代の希望と自由を担う若者たちの、学校だ。
無限に近い可能性より見出されたその数は、現時点で数百とも数千ともいわれている。
そして同じく、自ら世界の危機に瀕した少女にも、その特異性が見込まれ、白羽の矢が立った。
彼女は決意し、その濃緑のブレザーに袖を通し、その門を叩いた。
「うわぁ……!」
だが、薄れゆくカーテンをくぐり抜けた先に広がる光景に、その使命をしばし忘れ、目を奪われた。
東西に王宮の如く、あるいは翼を広げた鷹の如く広がる白亜の校舎。
あらゆる世界の、数多の技術の粋を結集した設備の数々。
そしてそれぞれの変身がための媒体をスキャンして、それぞれの使命を秘めた学生たちが、その校舎へと入っていく。
「おぉぉ~、あはァ~!!」
その瞬間瞬間を切り取るように、取り出したカメラのシャッターを、時折奇声を漏らしながら興奮気味に連打する。
そうして学生たちの間を右往左往し、趣味と実益を兼ねた撮影会を一方的に始めた彼女を、
(また変なのが来た……)
と言いたげな目つきと共に、避けて通っていく。
別段、その視線に気がついたわけではないのだが、彼女はハッとおもむろに、我に返った。
「そうだったそうだった、思い出しました!」
もちろん世界の救済が彼女最大の目標なわけだが、そのための第一歩はすでに決めている。
そこに思い至った少女は、負っていた大荷物を下ろし、その内から組み立て式の棒を取り出し伸ばし、かつ幟をくくりつけた。
そしてそのまま、コンクリートの地面に突き刺さんばかりに音を鳴らして打ち立てた。
〈求ム、ライダー!〉
――肉厚の書体でそう染め抜かれた旗が、世界を吹き抜ける風をはらんで靡く。