学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~   作:大島海峡

2 / 34
前編
1.求ム、ライダー!


「よし……っと」

 大小の荷物を一つのデイバッグに押し込めて、過積載のそれを上体を曲げながら背負い込む。

 そしてその重さに長い黒髪と、白と赤の縞で編み込まれたマフラーを巻き込まないように掬い上げ、風に乗って浮かび上がらせる。

 

「ハンカチ良し、ティッシュ良し! うなぎパイ良し! 変身アイテム一式よし! オールオッケーですっ!」

 荷物のハンデを感じさせない大仰な敬礼、溌剌と笑顔を、門出の見送りに来た両親に向ける。

「ぃよーっし! さっすが、俺らの娘!」

「何が、さすがなんだか」

 

 遠慮なしに前髪を混ぜっ返し褒めそやし、かつそれを喜んで受け止める父と娘の様子を、呆れながらも温かく母が見つめている。

 

「危ないことは

「もー、それはムリな話ですよっ、マミィ! 」

「それでもっ、怪しい人にはついていかない。困ったら、信じられる人を頼ること。それぐらいは、きっちり見定めてね?」

「はーい」

 

 どこにでもある世界、どこにでもある我が子の巣立ちとそれを心配する両親。どこにでもある家族の光景だ。

 ――ただ、その背の空間に靡く鈍色のオーロラと、それを両端より繋ぐ物々しい機械を除けば。

 

「そろそろ良いか? ()()()()()オーロラカーテンシステムは、未だ完璧とは言えない」

 そう、タッチパッド片手に色の濃いサングラスをかけた、パーマ姿の博士が言った。

「了解です、ドクター狩崎(かりざき)! それじゃっ、行ってきます、ダディ、マミィ!」

「おう、それまでこの世界は、オレらがきっちり守ってやるからな」

「はいっ……ぜったい、絶対に! この世界を救う術、学んでここに戻ってきますからっ」

 

 と、それ以上の会話は未練になると、颯爽、意気揚々と踵を返し、少女はそのカーテンをくぐって、外へ出る。世界の、外へ。本。来ならば侵して超えることのできない、境界の先へ。

 

「……行ったね。でも、絶対に守れるって、本当に信じてる?」

 さすがは、元は嘘を弄んでいた女。その辺りの機微には聡いらしい。

 探るような目つきの妻令子(れいこ)の肩をそっと抱き、詩島(しじま)(ごう)は微笑んだ。

 

「たとえ無理でも、あっちにいる限りはあの娘は大丈夫さ。無事やっていける。あの場所――ライダー学園なら」

 

 ~~~

 

 ライダー学園。

 単調きわまるその名称は、その一校を示す言葉であると同時に、広い意味ではそれが中央に存在する世界そのものを指す。

 

 『学園長』――そう呼ばれるある変異体を首座に戴き、彼の発案によって作られた。

 その意義とは、すなわち世界の維持。一つの世界ではなく、今や無数に存在する多重並行世界(マルチバース)の存続にあり、互助と独立性の確保のため、それを可能とする若者たちを養成するため結成された超世次元教育機関である。

 

 すなわち――仮面ライダー。

 顔を隠し名を伏せ、姿を変えながらも、陰に陽向に各々の世界を生き抜いた戦士たち。

 その中でも次世代の希望と自由を担う若者たちの、学校だ。

 無限に近い可能性より見出されたその数は、現時点で数百とも数千ともいわれている。

 

 そして同じく、自ら世界の危機に瀕した少女にも、その特異性が見込まれ、白羽の矢が立った。

 彼女は決意し、その濃緑のブレザーに袖を通し、その門を叩いた。

 

「うわぁ……!」

 だが、薄れゆくカーテンをくぐり抜けた先に広がる光景に、その使命をしばし忘れ、目を奪われた。

 

 東西に王宮の如く、あるいは翼を広げた鷹の如く広がる白亜の校舎。

 あらゆる世界の、数多の技術の粋を結集した設備の数々。

 そしてそれぞれの変身がための媒体をスキャンして、それぞれの使命を秘めた学生たちが、その校舎へと入っていく。

 

「おぉぉ~、あはァ~!!」

 その瞬間瞬間を切り取るように、取り出したカメラのシャッターを、時折奇声を漏らしながら興奮気味に連打する。

 そうして学生たちの間を右往左往し、趣味と実益を兼ねた撮影会を一方的に始めた彼女を、

(また変なのが来た……)

 と言いたげな目つきと共に、避けて通っていく。

 

 別段、その視線に気がついたわけではないのだが、彼女はハッとおもむろに、我に返った。

「そうだったそうだった、思い出しました!」

 もちろん世界の救済が彼女最大の目標なわけだが、そのための第一歩はすでに決めている。

 

 そこに思い至った少女は、負っていた大荷物を下ろし、その内から組み立て式の棒を取り出し伸ばし、かつ幟をくくりつけた。

 そしてそのまま、コンクリートの地面に突き刺さんばかりに音を鳴らして打ち立てた。

 

〈求ム、ライダー!〉

 ――肉厚の書体でそう染め抜かれた旗が、世界を吹き抜ける風をはらんで靡く。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。