学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~   作:大島海峡

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13.異なる二人、絶対の盾

 ほぼ同時に上がった二つの火柱は、上空の広子も視認することが出来た。

 そしてもう一つ、最も巨大で鋭い、刀のような気配がこの世界から消えた。おそらくセルケトなるリーダー格を、この世界から隔離したのだろう。

 

 それらが意味することは、一つ。

(私たち仮面ライダーの、勝利!)

 かく言う広子もまた、追っていたハウンドを射程圏内に捉えた。

 

 自らの『車体(ボディ)』の下にて屋根を伝う猟犬に、急降下、急接近。ともすれば体当たりも辞さない勢いで回り込み、その進路を遮った。

 

「もうこれで終わりです! 観念してください!」

 そう投降を呼びかける彼女に、白き影は鐘楼に連なる屋根にて、無言で直立している。

 言葉が聴こえているのか。そもそも、形勢の優劣、事の是非を判断するだけの理性は備わっているのか。

 

 すると、ハウンドは自らのこめかみの辺りに指先で触れた。

 ヘルメットの側面には円形のボタンがあり、スーツに覆われた彼の、いかなる情報に反応したものか。その接点から光が波打つ。その波が、その身体を、ハウンドならざる姿へと変貌させていく。

 

 その身体はより骨格のはっきりした男性的なものに。

 衣装はフォーマルなスーツ姿へ。それに対して金色の刺繍をあしらったスカーフを合わせて。

 露わになった……否、上書きされるように現れたその肌は病的に白く、目は落ち窪んでいる。髪は乱れている。

 

 だがそれは――広子のよく知る顔だった。

 

「ダ、ディ……?」

 詩島剛、その人のものだった。

 

 同時に、手の銃器もまた、黄金のゼンリンシューターへと形状が置換される。

 愕然とする広子に容赦なく光弾を撃ちかけ、失墜させた。

 

「くっ……!」

 インリデン本来のフォームに姿を変えた彼女は、(タイヤ)にて軟着陸した。

「卑怯な! そんな幻影を使うなんてッ」

 父は自分の世界にいる。こんなところで悪事に加担することはない。

 それは分かっているのに――なぜか、否定できない感覚が、彼女の内で引っかかっていた。

 もし、こちらを騙したり動揺させたりする意図があるのなら、寸分違わず同じ姿に寄せるはずなのに。

 

「確かに幻かもしれないが、偽者というわけでもないよ」

 

 その違和感に、答える声がある。

 目の前の、『偽剛』のものではない。

 その隣に並び立つ、紅い外套の男のものだった。

 

SSS(シェープシフトシステム)。すでに滅びた世界、死んだ人間といったobjectを、彼自身に転写する。Occulticに言えば、降霊術、イタコの技術的再現ってところかな」

 

 どことなくスチームパンクチックなコート。モノクルを左眼に嵌め、その奥にて目を歪に細めている若く細身の男。

 そちらにも、広子には見覚えがあった。

「そして私は――紛れもなく本物さ」

 と嘯くその貌に。

 

「狩崎、さん……?」

 自分の知るそれよりいくらか若々しいものの、インリデンのシステム開発者、ジョージ・狩崎のそのものの、面持ちに。

 

 おや、と。

 軽く意外げな感じで、その男は眉を持ち上げた。

 

「君も別の私と知己というわけか。だが、一応名乗っておこうか。Nice to meet you, lady. 私の名前も、ジョージ・狩崎(カリザキ)。イーラブ様の筆頭助手であり、『ライダー博物館』の館長を任されている」

 そう言って慇懃な素振りで頭を下げるが、この自己紹介はすなわち、別の世界の狩崎であり、自分たちの明確な敵であることを意味していた。

 

「ライダー、博物館……」

「そう、私も他の狩崎(わたし)と同様、ライダーたちには愛着があってね。ユニークな造形、神秘的な技術、能力。ディサイダーたちの破壊は正しいものだとしても、それらが喪われることに心を痛み、また惜しんでもいた」

 

 だったら、どうしてその破壊者たちに味方するのか。

 そう問う前に、小脇に挟んだタブレットを抜き取り、彼が管理しているであろう施設の一部が映し出される。

 それは、筆舌に尽くしがたい屈辱と凌辱の様であった。

 

 戦士の証が、正義の意思が、それらを形としたものが、かつてそうであったものが。そのものだった剥製(アーマー)が。

 調度品として、展示品として。あるいは学術資料として、研究材料として、羅列されているその光景は。

 

 腹の底より、酸いものがこみあげてくる。

 

「だから――滅ぼした世界の遺物(アーカイブ)をこうして蒐集しているのさ! 私のcollectionとなって、私の保護と管理の下で、価値あるものとして輝き続けるっ! このSSSも、その回収方法の一環さ。まさに最高のガッチャだよ!!」

 などと握り拳を突き出し、カリザキは熱弁を奮う。

 

「実際、このMr.剛もまた、かつて存在していたのだよ。どうかな? 娘との感動の再会は」

「娘……?」

 不自然な角度で、骨が折れるような異音を鳴らしながら、その『詩島剛』も虚ろな表情のまま、首を傾げた。

 

「誰だ、こいつ?」

 という冷たい表情と言葉は、広子の心を抉るのに十分な精神的威力があった。

 

「Oh, Sorry! そう言えば、君の息子は別にいたんだったねえ。たしか――詩島雷弩くん、だったかな?」

「え……?」

「本人が知っているかはさておき、彼が逃げ去った後の世界は、それはそれは無惨なものだったそうだよ」

 

 カリザキはせせら笑う。

 

「まぁ、元々保護する価値もない最悪の世界線だったがね。その中で、この彼は邪悪な錬金術に傾倒し、自身の姉やその夫を手にかけた、最低最悪の個体だよ。あまりにレア過ぎてせめて生体データなりともコレクションしておこうと思ってね」

 

 という言葉は、剛自身にも、広子にも響いていない。

 

 ――救うべき価値のない世界に生まれた、貴方にとっては。

 だから。

 

 ――主下らねぇ言い訳並べて、世界の危機に半歩退いて人任せにするなんてバカはいなかった。

 ――みんな最後の一瞬まで、誇りと信念をかけて、全身全霊で戦い、そして死んでいった……

 

 だから、(ライド)は、あれほどの憤りと苦しみを持て余し、独り抱えて……!

 

「――それでも」

「ん?」

「貴方がたが正しいとは思えないし、もう終わりですっ! 外から来たライダーや、先生方が、貴方のご主人様たちを倒しました! それにまだ学園長先生もいらっしゃいます!」

 

 そう気を吐いた広子に、

「HA!」

 とカリザキは陽気に笑い飛ばす。

 

「レジェンドが歴代のライダーの力を駆使してダスク様を圧倒した? 二十年後の錬金術を駆使したマジェードがレベルナンバーXの同時錬成でイーラブ様を焼いた? 究極の闇を超えたクウガがセルケト様に一撃を食らわせた? で、トドメはオーマジオウかはたまたその手前の力って? それとも創世の力を持つギーツやオーバーロードの鎧武でも連れてきて畳み掛けるかい? ……バカ言ってるっ!」

 そう言って上体を揺すっていた彼だったが、ややあってから笑いを収めて、息を整える。そして唖然とする広子の手前、彼は静かに、だが確信めいた語調で断じた。

 

 

 

「出来ないんだよ。そんなことは、絶対にね」

 

 ~~~

 

 揺らめく陽炎を前に、黄金の輝きはなおさらに際立つ。

「他愛もない」

 本来の姿に戻ったレジェンダリーレジェンドは、軽やかにそう締めくくって、背を向けた。

 

 ――だが、

 

 

「あーあ」

〈Meta Verse:Agito〉

 

 

 嘆く声が、不毛な電子音が、その業火の中から響いた。

 そしてその中を、黒い八又の蛇の鎌首が、たゆたっている。

 

「なんだと……!?」

 驚き顧みるカグヤの身体に、焔の幕を突き破って、槍の如きその影が叩きつけられた。

 

()()()()()()()()()使()()()()、そのまま押し切ってりゃ、あるいは勝てたのになぁ」

 多頭の蛇が、そのまま帳の内に引き下がっていく。それらは人の形へ結集し、あの、ドラゴンディサイダーの姿が炎熱を払って現れた……無傷で。

 

「わざと好きに使わせてたんだよ。こんな挑発と擬態に簡単に引っかかりやがって。たとえ獅子の爪牙を持っていても、精神(なかみ)がヒヨコじゃなぁ」

 そう嘆く

 

「そして必殺技は、ターゲットを確実に射程に捉えて使うもんだ」

 と、彼は赤い甲虫の戦士のカードを抜き出した。

 

〈Attack Verse:Kabuto〉

 

 そこに封じられていたらしい、機械の昆虫――ゼクターたちが、紙面より飛び上がる。

 だがその自由は、束の間のものだった。

 

 砲の炉より伸び上がった火の蛟竜が、彼らを余さず捕らえてなお戦場に燻る業火さえも巻き込んで、砲身の中へと飲み込んでいく。

 そして、再び砲口に集約された極光が、レジェンドの至近で放たれた。

 

 さながら衝き上げる柱の如く。

 神速の勢いでそれはレジェンドを飲み込み、校舎を裏から表へと突き抜け、各校舎の中心に位置する中庭へと彼を墜落させた。

 隕石の如く地表に叩きつけられたレジェンドから巻き起こるその粉塵が、太陽を覆わんばかりだった。

 

「馬鹿な……っ」

 黄金の変身の剥がれたカグヤは、自らのその惨状が信じられない、

 

「いくらユニバースのため、報酬(ゴホービ)も出るったってよ」

 倒れ臥した彼の下に、超速でダスクは降り立った。

「おんなじ事の繰り返し、おんなじ奴を倒して倒して……そんな周回プレイ、かったるいだろ?」

「何を……何の話だ……っ?」

 目線を持ち上げたカグヤを見下ろしながら、

「だから、ある程度の簡略化も娯楽には必要だろ?」

 そう嘯く彼の意図を、今この状態に至る異常な出来事から明敏なるカグヤの頭脳は汲み取り、その目を見開いた。

「まさか……」

 そして彼の最悪の予想に違わぬ事実を、邪竜は冷然と突きつけた。

 

 

 

「そう、ディサイダーはな……一度倒したことのあるライダーの攻撃や能力を、全て無効化出来るんだよ」




読者さん「どうすんだよこれ……」
作者「どうすんだよこれ」

いつまでも敵の無双シーンばっか続いてもウンザリするので、お辛いパートは今回と次回の半分とででまとめ終えます。
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