学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~ 作:大島海峡
「変身」
父によく似てはいる声質。だが低く淀んで、鐘のように、頭の芯にまで響く。
揺らめく陽炎を破り、タイヤ型のエネルギーリングに嵌まって現れたのは、下卑た金色を総身に、眼光に血の色で染めた
そして躊躇いなく、その変容変色した銃器……ゼンリンシューターの亜種で、広子を撃った。
「くっ」
咄嗟に我が身をターンさせる。着弾て爆ぜる光の弾は、避けなければ確実にタイヤを抜いていた。
それもそうだ。彼は、それを『皮』として被る何者かは、父ではない。明瞭なほど敵だった。
広子は逆立ちの要領で逆ウイリー。持ち上げた後輪、そこに付随するデンセツシューターにて弾を散らす。
一旦中空に留まった弾は、剛とカリザキに向けて雨霰と降り注ぐ。
だが、
「Start my chemistry」
と呟くや、剛は自らの改造ゼンリンシューターのタイヤを手回しした。
すると、黄金の波濤が地面に向けて放射され、それを浴びた足場が隆起し、障壁と化す。
さらにその内の一部が、高架の如きものと化す。
自動で空を裂く。自走で地を這いずる。
広子の足元伸びる。そのホイールを絡げる。
転瞬、インリデンは天上に打ち上げられ、そこから頭から屋根へと叩きつけられた。階下に貫通こそせずとも、大きく窪ませ、車体が本来あり得ない、鞠の如き軽々しさでバウンドした。
一瞬の喪神が、バイクを人間の姿へと戻した。
「Hey Hey Hey! もう少し粘ってくれないと困るよ。映像も貴重な資料なんだ。君の醜態は、ディサイダーの狩猟の光景として、君自身がスクラップになった後も後世まで語り継がれなくてはならない! だから弱小とは言え、できる限り長引かせてくれた方が助かるんだ」
倒れ臥す少女に接近しつつ、カリザキは嘆いた。おそらく本心から、己が探究心がために。
「何、を……」
「別に良いだろう? ……彼を見たまえよ」
そうカリザキは、ゴルドマッハを流し見た。
かつて忌んだ父、蛮野天十郎と同じ悪の色に染まった詩島剛。その姿に、広子は目を逸らす。
「
そう言って、悪の科学者は不敵に笑む。
「醜悪で、間違いだらけで脆弱な紛い物。本来であれば、目を背けたくなるようなゴミ溜め。それが君たちの世界だ。かく言う私もまた、その事実を知らされた時はそれはもう落胆したものだが……だが、ディサイダーズと出会い、自らの意味を知った! 彼らの供物としてライダーたちを捧げ、その遺産を輝かしきディサイダーズの歴史として、後世まで残すと言う使命を悟った!」
熱に浮かされたように、据わった目で笑う。
その言葉が、状況が、広子の気焔を消し飛ばさんとしている。
この剛が変身する直前、ディサイダーに大半のライダーの攻撃が通じないと告げられた。またしても、自分の憧憬の者たちは、世界の無常さに何の力も発揮できない。
それでも。
「笑うな――!」
それでも看過出来ない者がいる。看過出来ない言葉を放つ。
それに対する憤りを支えに、広子は上体を反らすようにしてもたげた。
「ん?」
「確かに……私たちの存在は、間違いから生じたものかもしれません……! その中には、悪が勝った世界もあるのかもしれません! だけど、私たちの存在自体が、間違いだなんて言わせない! そこに住まう人々の命は、偽りなんかじゃないっ! 無意味なんかじゃないっ!!」
なるしかないというのなら、なる。人々の平和と自由を守るヒーローに。
他に声をあげられる者がいないというのなら、覚悟を示して立ち上がる。
自らが生まれ育った世界を担う、仮面ライダーに。
「ようやくテメェの言葉で、マトモなこと言ったじゃねぇか」
ふと、そんな言葉が背後から聴こえた。
〈シグナルレジェンド・ダブル!〉
湾曲する数筋の射光が、広子の両脇を通り抜けていく。そして、敵と彼女の間に割って入り、月の煌めきとなって爆ぜる。
顧みれば男子生徒が、肩でせわしなく上下させていた。
「うろちょろしやがって。派手に墜落してくれたおかげで、やっと居場所が割れたがな」
などと、憎まれ口を叩く余裕はあるらしい彼に、
「ライドォ……」
かつて父だったモノが、声と息を絡ませる。
~~~
それを二人の詩島は、一瞥する。
その詩島剛を、ゴルドマッハを。
褪せた金の戦士の末路は、ライドにそれが幻影ならざることを悟らせるには十分だった。
「ライドさん、その……貴方の世界は」
まずそれを、明言しなければいけない。が、正面からは伝えづらい報せを言いよどむ広子に、
「あぁ、だろうな」
ぞんざいかつ鷹揚に頷き返す。
「だから、最後の始末ぐらいは、つけないと」
と、正規のゼンリンシューターの銃口を、ゴルドマッハらへ突きつける。
「笑わせんな」
骨の音を頚部から鳴らしながら、異様な角度でシューターを向け返した。
「オレからも世界からも逃げたお前が、今更いったい何になるってんだ?」
成れの果てにそう問われ、少年は不敵に嗤う。
「『父親』なのに、知らねぇのか?」
と。
「俺の名前は、ライド。憧れに使役される存在から、己の意思で戦い、人々を護る進化を望み、仮面ライダーの名を掴んだ戦士、仮面ライダーライドーーらしいぜ。少なくとも、今のところは」
そう晴れ晴れと宣いつつ、彼は己のベルトに純正に、黄金に光るシグナルバイクをセットする。
「おい、詩島広子。この程度でヘバるようなら、プレゼントはやれねぇぞ」
という挑発に、広子もまた背を伸ばす。
「貴方から貰うようなものなんて何も無いですけど……こいつらブッ倒すために、力は貸してもらいます」
そう言って、あらためてデンセツシューターを再起動させる。
だがライドの側は、
(渡す意味は、見出した。十分だと思えた)
たとえ絶望的な世界だったとしても、滅んで然るべき末路だったとしても。
そこに、何かの意味を見出してくれる誰かがいたのなら。そう言ってくれる誰かがいてくれたのなら。
息を自然整わせ、発する。
――変身!
その、決まり文句を。
〈疾風・迅雷・いずれも伝説! Kamen! Ride! Ride! Ride!〉
〈Mach in ridden! Rider! in ridden!〉
両輪が彼らを周囲を巡る。戦士とバイク――否、戦士と戦士の姿に、変身させる。
ふたりのベルトとデバイスの間を、赤雷のごときものが駆け巡った。
「さぁ、反撃開始ですっ」
その宣言通りに、真一文字に斬り込む広子はさておき、その現象に気づいたライドは、
「やっぱりか……」
と、独りごちたのだった。