学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~   作:大島海峡

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15.翻す理

「不足! 自らの世界を負って立つライダーとはこの程度かぁ! 貴様らが正義を標榜するならば、それをこのケルキーに示して見せよ!」

 『猪』以下、すでにその場の獲物を借り尽くしたその場にて、タートルディサイダーは吼える。

 だがそれに応える声は、すでに無い。

 

 ……だが。

 その時、彼の眼前を数人の集団が横切った。

 

「いやー、退散の間際に売店のおばちゃん助けられて良かったっすね」

「な、たまには良いことするもんだろ? 御礼も貰ったしな」

「御礼って、その大量のカレーパンかね」

 

 まるで平常時と変わりないように、わいわいと雑談を取り留めもなく続けて、ゾロゾロと緩慢な足取りで連れ立って練り歩く。

 おそらくはこの学園(巣穴)生徒(獲物)なのだろう。

 だが綱紀、校則など知ったことかとばかりに制服を個性的に着回している。

 しかしそれは取り巻きのみで、その中心にいる長身の男子生徒はきっちりとボタンを締めた、線の細い、文学青年的な優しげな面相だった。

 ただ、何故か紙袋に詰めた、大量のカレーパンを抱えていたが。

 

 あまりに場違いな連中に一瞬面食らったメルキーだったが、その竿を彼らに突きつけた。

「貴様らもライダーと見受ける。世の秩序のため、大人しくこのメルキーと勝負して果てるが良い!」

 と、兄に常日頃訓戒されている、()()()()()()()()を獲物たちに示しつつ。

 

 それに、ようやく彼らは反応した。と言うよりも、その最後尾にいた、白髪にキャップを被った男子が、さらに厳密に言えば、彼が伴う

「ヤバいヨヤバイヨー」

 と叫び回りながら飛び回る、布袋とも蝙蝠ともつかぬ白い飛行物体に促されて。

 

「呼んでるぞ、ボス」

 と、幽鬼のような陰鬱な面持ち、華奢な体躯の割に野太い声で、そう呼ばわった。

 ボス、と呼び止められた『文学青年』は、眠たげに顧みた。

 

「あの程度ならば、タイマンでやれるんじゃないのか?」

 と、野太い声が続いて問いかける。

 眉を吊り上げ目を眇め、メルキーをつらつらと眺めていた青年は、

 

「あー、まぁ」

 と声を伸ばし、

「頑張れば、ギリ行けるかな」

 口だけ動かして、フラットに答える。

 

「……は?」

 何気ないようでいて、それはメルキーにとってはこの上ない侮辱だった。

 どこの、どの系統のライダーかは知らないが、たかが一並行世界の一個体が、ディサイダーと同等だと?

 

 あまりの怒りに立ち尽くす彼を半ば無視するように、その少年は背後の下級生らしき色白の少年を顧みた。

 

「クロちゃん、ゲーム好きでしょ。だったら遊んでやれば?」

「冗談はよしてくれ。こんな悪趣味で低レベルなハンティングゲームに参加するつもりはない」

 その言葉に、彼は前髪をセンターで整えながら冷ややかに言った。

 

「僕ならば、もっとクリエイティブかつエキサイティングにゲームをメイクしてみせる! そう、それこそッ! 3.5次元のオーディエンスさえも魅了するGMとしてのこの(ブォク)の! (クァミ)の才能を以てしてなぁ!! ブーゥエハハハハハ!!」

 

 ……大人しかったのは、束の間のこと。

 陶酔と共にのけぞり、両の手を天へと衝き上げ揺らす少年。彼を生暖かい微笑みで見守っていた『ボス』は、

「いやお騒がせして悪いね、所謂『ダンクロト病』ってヤツだ。可哀想に、こんなトシで患っちまって」

 などとピントのズレた謝り方をした。

 

「何を意味の分からないことを……! 貴殿らに許されたのは、ただ滅することばかりである! そのせめてもの慈悲として、正々堂々挑む機会を与えてやろうというのだっ!」

 そう声を、意気を荒ぶらせるメルキーにも、まったく動じずに

「そうは言ってもなぁ……ほら、こんな手でスタンプ触れないだろ?」

 などと、油とパン粉にまみれた己の手を払ってみせる。かつ、その眉を蛇の如く歪ませ、

 

「だいたい、()()()()()()しておいて正々堂々もクソもないだろ」

 ど、メルキーの足下を見る。かすかに波打つ、その地面を。

 

(……こいつ……っ!)

 獲物を挑発し、他と同様に怪魚ひしめく亜空間に沈み込ませる。そういう算段であった。

 それを、瞬時に見抜いたというのか。

 

「じゃ、そゆことで」

 そう言って彼らは、踵を返した。

「待て! 逃がすと思うのか!」

 そう我から進み出たメルキーだったが、背を向けたその少年は、

 

「せめて()()()に勝ってから吼えろ」

 そう、言い放った。

 

 ――転瞬。

 メルキーは足からバランス感覚を失い、不意から自由を奪われ、引かれ、そして転がった。

 

 ~~~

 

「ぐっ!?」

 身体を何度か反転させた後、メルキーは強かに背を打った。もんどり打って、組み付いていた何者かも等しく転がった。

 

「いったい、何が」

 誰が。

 そう思って正面で起きかけているそいつを見遣れば、あの猪のライダー。

 先の資料(ずかん)の調べでは、たしかカリュドーン――次郎丸厚だとかいう三流ライダーだ。

 つい先ほど、亜海の中に沈めたはずの。

 

「馬鹿な……こいつ、どうやって」

 当惑をそのまま口にするメルキーだったが、そんなことにはお構いなしに、カリュドーンは蛮勇と蛮声をもって、彼の胸部に飛び蹴りをかました。

 

 だが――そんなものは、回避も防御も必要ない。メタバースシステム――既存のライダーに対する無敵の盾の発動条件に合致しなくとも、そんなものさえ必要ない。

 

「どうして這い上がって来たかは知らないが」

 持ち前の防御性のみで攻撃をほぼ無効化した一歩さえ揺らぐことなく、その足首を掴んだ。

「貴様ごとき雑魚ライダーが、ディサイダーとの戦力差を埋められると思ったかっ?」

 そう言って、再び地面へと叩き戻す。跳ねる図体に、拾い直した竿を何度も鞭のごとく叩き込み、身をもって己が愚かさを教え込んでやる。

 そしてトドメとばかりに、重量を込めて青いボディを踏みつけた。

 

「本当に、この私に勝てるとでも!?」

 こんなものがちょうど良い相手と嘲笑ったダスク、半ば無視するように通り過ぎていった先の悪童ども。彼らに対する怒りも相まって、何度も足裏を叩き込み、にじりつける。

 

 苦悶の声を断続的に発しながらも、

「あぁ――たぶん、オレにはな」

 と、次郎丸厚は呟いた。

 

 何のことかと、足で彼を地面に拘束したまま、周囲を見る。来援が着くというのならまとめて返り討ちにするまでだ。

 だが、そこにはライダーの一体も居合わせはしなかった。やはり虚言であったかと嘲笑った直後に、別の異変を察知した。

 

 人気が、無さすぎる。

 逃げ惑うライダーのみならず、他のディサイダーの気配さえも、この学園から消えていた。

 

 そして視認する。

 反転した案内板の文字を、そもそも入れ違ったその設置場所を。

 窓ガラスの向こうに映った、()()()()()を。

 

 炭酸に浸けられたが如く、泡沫となって溶けつつある己が外殻を。

 

 そして知る。

 沈んだはずのカリュドーンが、今まで何処に潜んでいたのか。どうやって切り抜けたのか。

 ここが――何処なのか。

 

「そうだよ……っ!」

〈ガードベント〉

 悲鳴を上擦らせるメルキを、カリュドーンは下から猪牙を持つ大盾で押し上げた。答えを、叩きつけた。

 

「あの時、オレが沈んだのはお前の『海』じゃねぇ……水面を利用して、ここに、ミラーワールドに来てたんだよッ! 真っ当(マットー)なライダーなら敵とはいえこんなやり方まずしねぇんだろうけどな! くそっ、気分悪ぃ」

 そう、舌打ち混じりに。

 

「馬鹿な……バカな!」

 どう翻ったところで敵わぬ相手ならば、世界そのものを翻す。

 世界の(ギミック)を利用し、これを除く。

 

 偶然と奇跡と思いつき、そしてメルキー自身の慢心による、一瞬の不覚。

 だがそれらが合わさった結果、凡そ力を持たないライダーが、ディサイダーなるものを打倒する最適解を導いたのだった。

 

 本能的に。

 メルキーは獲物に背を向け、鏡面に、現実世界に逃げ込もうと駆けた。

 

「逃すかッ!」

 すでにして引き当てていた切り札を、カリュドーンは己の胸部に装填する。

 

〈ファイナルベント〉

 盾を擲った次郎丸の背後に召喚されたミラーモンスター、シールドボーダーが覆い被さるようにのしかかる。猪の顔面を模した、さらなる重装甲が、右肩を基点として彼の身体に組み合わさった。

 そしてさながらラグビーのタックルの如く、その肩を突き出すようにして駆ける。その前進は嵐を呼び、地を削りながらメルキーの背後を突いた。

 

「ぐあっ!」

 甲羅で受け止めるも、流石に必殺の衝撃までは逃し切れず、メルキーは吹き飛ばされ、逃げようとしていた鏡面を自らの身体で打ち砕いた。

 

「こんな、ことが! こんな雑魚にィィ!」

 声を絞りながら、亀は地を這いずり、活路を模索する。

 だがついには

「助けて! 兄上、助けてェェェエエッ!!」

 プライドを感じさせない、子どもじみた調子で、甲高く叫んだのだった。

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