学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~ 作:大島海峡
炎寮が、その文字通り火炎に包まれている。
無造作に放たれたドラゴンディサイダーの銃撃は、単騎で総てを掃討した。
後に残されたのは、一人の例外も無く倒れ伏すライダー達と、元の形さえ残らず、ただ
その中心で、咆哮の如くに仰け反り、邪竜は高く、笑う。
――その情景が、有り得た可能性が、収縮する。
一つの手の中に収められ、そして砕かれ、そも存在しなかったものとなって消散する。
〈ジオウ・Ⅵ!〉
その手を広げた男。歴戦の
『ライダー』の四字を、そうとは一瞬見えないほどに崩したバイザー。その顔を象った金時計は、ジクウドライバーを挟み込む。だがその全身は金ならぬ赤錆と赤銅に染まり、マントに代わり、時針のごとき突起が肩より左右三本ずつ垂れる。
「あ、あれ……?」
「俺ら、死んだはずじゃ……」
当惑する他のライダーには一瞥もくれず、
「ほう、錆びついてても、かつては時の魔王に列しようってところに手が届いた変異体か」
と、ダスクは嘆を放ち、銃器を肩に担ぐ。
「可能性の感知、結果の改変……さぁーて、これはディサイダーにとっても脅威だなァ」
と、茄子紺のマスクに手をやり、嘆く――正確には、嘆いて
「なんて、言うとでも思ったか? そこが、お前さんの限界なんだろう? 数ある選択、可能性! シミュレート、やり直し! それでもギリギリのとこ、極力被害を最小限に留めて、
ジオウⅥは、『学園長』は答えない。反応のない相手に大仰に肩をすくめてから、ダスクは天を仰ぐ。その視線の先より、落ちてくる光がある。
「まぁ、良いさ。気が向いたらまた遊びに来てやるよ。その時はせいぜい足掻いて、俺様らを楽しませてくれや」
そう言い置いて、彼はその光のなかへと飲まれていく。そして、その転移技術らしきものによって、その場から離脱した。
地に落ちていたカードを、不二は拾い上げる。
それは、先んじてダスクに敗れたゲネシスライダー。おそらくは、不二とカグヤの反撃によって取りこぼしたものらしい。
さらに彼女の手から、学園長がそれを取り上げる。摘み上げた指先で、光の泡となって、風に溶けていったのだった。
〜〜〜
爆炎の帷の向こうに、影が揺らめく。
だがそれは、ふざけたテディベアのそれではない。
無駄のないシルエットの巨躯。持ち上げられた太い右腕。一本一本が斧の剣呑さと鋭さを帯びた、巨大な爪。紛れもなくそれは、獣のものだ。
そして人の面影を残す、左指にライダーカードが挟み込まれている。
〈Attack Verse:Ohma-Zi-O〉
〈Attack Verse:Eldo〉
地の底より響くが如き音。
『黄金の時、貴様らも刻まれたいか』
まるで色の異なる声そのものに、重圧があった。途端に、三人が身じろぎ一つ取れなくなるほどの。
「……なーんてね。ウソウソ☆ キミら相手に
と声色が戻った時、少女のごときものが炎の帳を飛び越えてきた時、その呪縛から解き放たれた。
「ていうか、ゲーム終了だし? 勿体ないけど、終わっちゃったら景品貰えないしね」
と好き放題に言ってのけてから、天より注ぐ輝きに、飛び込んでいったのだった。
「……どう? 追う?」
「今は唯、自愛、忍耐、嘗胆あるのみ」
フータロスが、ノコから分離するとともに、変身もまた解ける。支えを失ったその小柄な痩躯は、その場にへたりこんだ。
と同時に、伐折羅の変身も解除される。自発的にではなく、核となっていたカチグリロックシードが何処ともなく消滅したがために。
あれ? とノコが眼を瞬かせた直後、それと入れ替わりで、緒戦で敗退していた消滅していたライダー、マロンエナジーを本来持っていたライダー、イーノックが突然湧いて出た。
――ついぞ敵に届かなかった、拳を突き出して。
そしてそれは、見事にクリーンヒット。ディサイダーならぬ、城介の顔面へと。
拳に視界を潰されたまま、彼は静かに合掌。
「無明よ……」
という独語と共に、そのまま倒れ伏した。
「センパァァイ!?」
慌ててノコは這い寄る。
果たして城介の中で鳴り響いていたのは、衝撃の余韻か、ノックダウンのゴングか、晩鐘か。
「やったァァァァァ! 勝ったぞォッ」
そんな彼を尻目に、誰を殴ったのか理解していない風で、口吻冷めやらぬイーノック――ナッコォ・
~~~
鏡面を切り裂き、鬼が現れる。
その斬撃が音さえ追従を許さず、散らばる硝片を間を抜けていく。
そして剣風のみで、メルキーを追い討たんとしていたカリュドーンは彼方まで吹き飛ばされた。
彼が体勢を立て直した時にはすでに、ダウン状態のメルキーは、セルケトに介助されていた。
「その健気なる気骨と機略に免じ、今日のところは見逃してやる。だが次に会った時は、こうはいかない……そうだな? メルキー」
セルケトは、『弟』の意思を確かめるようにそう問う。
穏やかな語調だった。実際に血の通い合った生物かはさておき、そこからは確かに、肉親の情めいたものを感じた。
だが――獣性からくる次郎丸の本能は、同時に感じていた。
もしメルキーがその答えることに躊躇したり窮するようなことがあれば、セルケトは彼を躊躇いなく、斬り捨てる、と。
メルキーはこくこくとせわしなく首を上下させる。
それを受けて、セルケトは再び刃を閃かせ、空間に二人分の穴を穿つ。その中にまず弟を押し込み、次いで己が歪なその門をくぐる。
「へっ……上手いこと、逃げやがって……」
強弁するのは次郎丸とて同じ。だが、それに追いつかんとする意志は、震え萎える足にはなく、ただその場に身を投げ出したのだった。
――そして、襲来して来た者たちは、悠々と退き始めたのだった。
追撃の心配など、脅威など、まるで意に介さないかのように。