学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~ 作:大島海峡
あらためて、お詫び申し上げます。
方々に注がれた光の柱が、突入していた鉄船の甲板に虹の如く集束する。
次第に薄らぐ妖光より、ディサイダー達が次々に姿を見せると同時に、彼らの母船は学園から、そして世界そのものから離れて浮上していく。
「さて、結果発表〜! 今回の狩りで最もポイントを稼いだのは……ダスク様でした! Congratulations!」
ハウンドが、銃型デバイスの口より、文字とも数字ともつかぬ未知の記号が、空中に投射される。
物言わぬ審判に代わってカリザキがダスクを拍手と共に表彰した。それを受けて、
「ま、誇りがどうのこうの言って非効率的なヤツよりゃあ、な」
と、セルケトを横目に勝ち誇る。セルケトは冷ややかに彼を見返した。
「いやいや、途中のフライングと、不意の反撃を喰らった分の失点で割と接戦でしたよ」
「えー、マジかよ」
「大事なのは、結果でしょ? ほら、みんなで学舎を背景に記念撮影するから、寄って寄って?」
「兄上、次こそは、次こそはこのメルキーめが功一等の栄誉に預かりたく存じます!」
「はン、あの体たらくじゃオメーには一生無理だよ」
などと言葉を飛ばし、船を飛ばす彼らは、もはや足下に伏すライダーたちには興味が失せたようだった。
それを止めたり、追う余力は、彼らにはない。
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船影ごと彼らが消失した後、陽が沈みかけてようやく、重苦しく沈んだ空気の中、学園側の生き残りは後始末にかかる。
まるで、暴君に嬲られた小娘や小姓が、事の痕の残された閨や着衣を整えるように、悄然と。
ミラーワールドから帰還した次郎丸とて、いつもの蛮勇はナリをひそめ、その場に肩を落としてへたり込んでいた。
夕暮れ時、破壊の跡。
もはや何処までが校庭で、何処からが校舎や寮であったか、分からない有様。
脇で、小野寺ユウスケに付き添われ、ストレッチャーで運ばれていくシンクローを、彼は力無く見送った。
「大丈夫か!?」
大音声と共に、ずいと大きな掌が正面から伸ばされた。
目線を上げれば、パンチパーマに緑色のコーデュロイに茶色のジーンズの上から、申し訳程度のブレザーを肩から引っ掛けた、到底学生とは思えない、昭和の風を帯びた男だった。
「……いや誰だよ」
「エクストラ科、炎寮!
「……そんな気はしてた。つかうるせぇ」
出自はともかく、寮は。
人間関係の潤滑化のため、元より同類が集められるのか。それとも共同生活の中で互いの人格が浸透するのか。とかく、各寮生は似たような気質の者は多い。
こと、炎寮においては癖の強い生徒が集まる。
「まぁ空元気なのか
そう言って、次郎丸はその手を掴み、立ち上がった。
「『ライダーたるもの、最後の一瞬まで己の足で立つことを諦めてはいかん』!! そう、学園長が言ってたッ!!」
「言うキャラじゃねぇだろ。あとさすがに声がデケェ……」
視線を外した先では、大振りの寸胴鍋の傍らで、メガホンを手にした、文学青年風の男とその連れ合いがいる。
こっちは有名人だ。もっぱら、ネガティブな方面で。
「えー、カレーの炊き出し始めまーす。食べる余裕のある人から取りに来てくださーい。無くなり次第終了となりますので、ぜひお早めにー。たったの五百円、たっての五百円でございまーす」
などと好き放題に喧伝しているのは、
「それとは真逆だが……あぁ言う図太さも」
金をとるのか呆れる一方で、認めざるを得ない。
「だが、我々は勝利した! 倒せずとも、撃退には成功したっ!!」
「この惨状を勝利と呼べるとは、呆れを通り越して賞嘆します」
そう冷ややかに水を差したのは、不二だった。
造り物の片腕がもげた彼女は、魚のように、あるいはおちょくるように不自然に上下に跳ねるそれを無事な方の手で掴んで抑えていた。
「よう不二。お互い、命があるようで何よりだぜ」
「命以上に、大事なものを奪われた気がしないでもありませんが」
そう言って、不二は視線を巡らせた。
先ほどまでの次郎丸と同様、その場に忘我したままに屈していた。
そうだろうよ、とは流石の次郎丸とて想う。
この場に招かれた以上、彼らもひとかどの
だがその彼らの力も、技も、信念も、あるいは存在そのものが、ディサイダーズにはまるで通用しなかった。一方的に蹂躙され、弄ばれた。
建比古は極限までポジティブに解釈したが、どう見てもこの場に打ち捨てられたのは、遊び飽きられた、ゲームの駒に過ぎなかった。
いくら次郎丸が勝気でも、その身に刻まれた実力差は、認めざるを得ない。
「それをおくとしても、なんという体たらく」
不二はなお重ねる。
「自らの無力を痛感するのは良い。だが、戦場でへたり込むなど、戦士としてはあってはならないことです」
「仕方ねぇだろ」
次郎丸は嘆息した。
「慣れてねぇんだよ。大半の連中は、こういう
そしてあらためて思う。ここに集められた、この光景を目にしなければならない、その意義を。
「……おそらく、生き残った者の多くも、心折れたまま、この学園を去ることになるでしょう」
不二は、冷徹だが現実味のある予想を告げた。
それでも、と義手を握りしめて顔を上げつつ。
「それでもなお――もう一度前へと歩き始めることの出来る者たちだけが、本当の――」
先はあえて言わず、ただ待つ。
黄昏。逆光を背に。
微少ながらも、あるいは互いを支え合う形であろうとも、よろめき震えながらも。
物言わぬ影たちの中、己の足で伸び上がった者は、確かに居た。
「同じことを、学園長が言ってたッ!!」
「いやだからうるせぇよッ!!」