学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~   作:大島海峡

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2.異世界のライダーたち

 ――求ム、ライダー!

 

 これほど、場を弁えない文言もそうはあるまい。

 ただ単純に空気がどうのこうの、という問題を度外視するにしても――そもそも、周りにいるのは全員その『仮面ライダー』なのだ。

 

「……なーんだ、アレ」

 目にした生徒の総意を『彼』は、自身のサボリ場所たる万年桜の植樹上にて、そのまま口にした。

 だが、いささかも恥じる様子も見せず、新入生らしき黒髪ロングは大仰に咳払い。

 

「えー、バイク! バイクいりませんかー!?」

 と、大音声で宣い始めた。

「自分のスペックに合ったマシンがない! 先の戦いで破れちゃった! 敵の妨害工作でガレージに眠らせておくしかない! そもそも専用バイクが無くて現場に徒歩で駆けつけるしかないっ! そんなお悩みニーズに、すべて答えるスーパーマシンが、ここにはありますっ! 一台、どうですかー!? あッ、そこのゲーマドライバーのお兄さん、ひょっとして『爆走バイク』持ってないとかありません!? あ、どーみても一年生の人、まだトライチェイサー乗れる齢じゃないですよねっ」

 などと、手当たり次第に売り出し始める。

 なるほどライダーとは仮面ライダー、の意に非ず。純粋な乗り手(ライダー)であったらしい。

 

 だが、それは逆効果で、ますます周囲の困惑と怪訝の度合いを強める結果に陥った。

 ……そこに割り込んで、助け船を出す義理も心の強さも、少年は持ち合わせていなかった。

 

 もっとも、わざわざ気を揉むこともなかった。

 彼女と同じぐらい、空気を読むことを知らない猪突猛進ぶりで、その前方から男子生徒が現れたからだ。

 

 それで強く見せられるとでも思っているのか、あからさまに着崩した制服。青いメッシュを一房垂らし、それ以外はばっちりワックスで固めた頭髪。

「おうおうおう」

 と鳴き声めいたものを漏らしながら、前傾姿勢で鼻っ柱の強そうな顔を突き出す。

 これ見よがしな、不良生徒(バッボーイ)だった。

 知らない顔ではない。手あたり次第に絡んでくるから、自分も食ってかかられた経験が一、二度ある。

 

「いつからここは中古バイク屋になったんだい」

「中古じゃありません、新品ですっ」

 

 その不良の煽り文句に、ピントのズレた返答を返す。

 肩透かしを食らい、周囲からの失笑を買ったごろつきの様は、少し痛快だった。

 

「というか、貴方はどちらさんです?」

 そう尋ねられて彼は気を持ち直した。

「本当はそっちから名乗るのが礼儀ってもんだが……訊かれた以上は特別に答えてやるよ」

 実際にはよくぞ聞いてくれました、という心持ちであることを隠しきれていない。

 

 口端を歪めながら、ブレザーから引き抜いたのは、メタリックブルーの方形――カードデッキ。どこからともなく飛来してきたドローンが、彼の横に滞空し、鏡面を広げた。

 銀色の猪のエンブレムを浮き上がらせたそれを鏡像に移し込むと、そこに移ったベルトが平面的に回りながら、男子の腰周りにスライドした。

 そして握りしめたデッキで自らの額を小突かせた後、馴れた手つきでそれをバックルの横から装填した。

 

「変身」

 そしてこの学園の者なら誰しも知り、かつ多くが日常的に唱えるその(ことば)を紡ぐ。

 

 鏡像が左右より彼を挟み込むかたちで彼の姿をその宣言通りに『変身』させる。

 デッキと同じカラーリングの、重装甲。尖らせた頭部と無機物的なマスク、赤いバイザーの下、突き出るように盛り上がった猪の顔を模した胸部装甲は、その中でも格別に、何者をも撥ね飛ばすごとき威圧感を帯びている。

 

「ミラー科二年、次郎丸(じろうまる)(あつし)。仮面ライダーカリュドーン! この学園で一番の仮面ライダーだ!」

「下からですか? それとも、気持ちだけの話ですか?」

 

 冷ややかな差し出口は、少女のものではなかった。

 それより背も年齢も上の女子生徒。

 冷気のごとき冷たさとカリュドーンに負けない鉄の頑なさを持ち、短く切り揃えられた質感の硬い髪は、いかにも規則的で無機質的だ。

 その面持ちと、分厚い毛皮のついたミリタリージャケット、何重にも首から掛けられた五色分のドッグタグは、如何にもマッチした雰囲気だ。

 

 ――ボトル科三年、鉄耶(かなや)不二(ふじ)

 学年も科も変身形態も世界も人間性もまるで違うはずなのに、妙に次郎丸とつるんでいることの多い、問題児の一角だ。

 

「うっせぇぞ、不二! ……まぁ良い。お前新入生だろ。なのにクソ生意気にも、このオレに断りなく、オレより目立った詫び代だ。そのバイクとやら、貰ってやるよ」

「ライドシューターじゃミラーワールドしか行けないですからね」

「だからうるせぇって! まぁそんなワケだ。ほら、さっさと出しな」

 

 ――どの世界でも言えることだが、それを強請(ゆすり)と呼ぶ。

 資質どころか善悪さえも拘らず、あらゆる世界よりライダーを集めるものだから、ああいう『粗悪品』も少なからず、混じる。

 

 だが、あのアピールでは貰い手なんぞは現れまい。相手を選ばなければ、ここが売り時だ。

 

「あ、お断りします」

 両手を突き出して振るようなオーバーなリアクションとは裏腹に、ナチュラルな語調でにべもなく、新入生はそれを拒絶した。

 

「あァ? なんで、どんなポンコツか知らねぇけど、乗るヤツ捜してんだろうが」

「馬はその乗り手を選び、道具は遣い手を選ぶ。確かに広く求めていますが、運命のお相手は、ただ一人。そしてそれは私自身の眼で見定めます。よって貴方はノーサンキューです。なんか乗られたら潰れそうだし……ていうか、契約モンスターがよりにもよってシールドボーダーって……」

 

 周囲の空気が、一回りほど冷えた。次郎丸の人間性を知る者、知らない者でもその物々しい装甲を想えば、その揶揄混じりの物言いの先に何が待つのか、容易に想像がついた。

 

 果たして、寒々とした空間の中、その中心にいるカリュドーンだけが熱しているようだった。

「――変身し(かまえ)やがれ!」

 嚇怒し、足踏みと共に地を揺らす。

 

「次郎」

 たしなめるように平らかに、不二が略称で彼を呼ぶ。抜け目なく、自らのエボルドライバーをそれとなく抜き出すことで脅嚇も行いつつ。

 

「良いだろ別にッ、テメェの世界救おうってヤツが、初っ端からボコボコにされるようならハナシにならねぇだろ! 学園なりの歓迎ってヤツを、オレが代表してやってやんよ!!」

 暴論ではあるが……まぁある種の筋は通っている。

 そういう想いが多かれ少なかれあればこそ、周りの『仮面ライダーもどき』どもも余程の事態にならない限りは動くまい。深刻になれば不二が抑える。

 

(――ま、そろそろあいつが飛んでくる頃合いだろうしな)

 それまでの一、二分。カリュドーンを足止めできれば御の字だ。

 

「うわー、なんて定番で強引な展開。でもこのスピード感、嫌いじゃないですわ」

 よほどの自信があるのか、ただただ物を知らないだけなのか。

 超常の装甲戦士相手に敵意を叩きつけられようとも、少女に動揺は見受けられない。

 

「でも、こっちのが分かりやすいですよね――なんで、私が乗り手を見極めたいのか、その理由が」

 

 そう言って、下した荷物をまさぐる。

 あぁでもないこうでもないと荷物を混ぜっ返し、茶を濁した後、彼女の手にはパステルカラーのデバイスが握られていた。

 

 それが(あらわ)になった瞬間、少年の腿に熱と電流のようなものが奔った。厳密には、彼が腰に帯びた、その装置(ドライバー)が。

 抜き取って見れば、その表層には磁気嵐のごときものが表れ、明滅を繰り返していた。

 

「ちっ」

 聴こえないよう、舌を打つ。

 

 少女が手にしていたのは、タイヤのついた奇形の銃型デバイスであった。

〈Mach in ridden〉

 そこに白く小さいバイク型のユニット――所謂シグナルマッハに似たものをセットする。

 彼女の手にはやや大振りのそのデバイスに腕ごと大きく縦横に回すと、指で敬礼まがいのポーズを取ると、

「変身ッ」

 と、音声を発す。銃口より、光線が発せられる。

 

 それは彼女を彩る花火となり、一つ塊となって一台のビークルのイメージとなる。その像が両手を広げた少女と重ね合わさる。

 

〈Rider! in ridden!〉

 そして出来上がった姿は、人にあらず。

 同アイテムでもって変身する仮面ライダー、マッハにあらず。

 

 件の銃を車体の、排気口の辺りに据え置いてこそいるが、マッハの愛機、ライドマッハーそのものであった。

 

「コレこそが、仮面ライダーインリデン! 私こそが、そのスーパーマシンですっ!」

 バイクとなった少女は、何に恥じることも怖じることもなく、強く気を吐いたのだった。




見落としてた設定があったので修正いたしました。
失礼いたしました。
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