学園仮面ライダー ~インリデンとライド 乗り手求めて多重世界~ 作:大島海峡
王ならざる男
二〇一九年、『アポカリプス』。
喉が裂けんばかりの過呼吸を繰り返しながら、常磐ソウゴは頽れた女戦士を抱きかかえた。
彼女を、『アルピナ』を、彼女の世界の仮面ライダー、ツクヨミにする。
その起死回生の一手ごと敵に寝返ったと思われた彼女は、その実、首魁たる兄の背を撃たんとしており、そしてそれは果たされた。
……刺し違えるという、最悪の形で。
アナザーディケイドのウォッチごと野望を砕かれたスウォルツの肉体が、塵となって消えていく。
そして兄から同等の、最期の反撃を喰らった彼女の身体も、また同じく。
「ツクヨミ……!」
悲痛な声音で、最後に残された仲間を想い、呼ぶ。
「ごめん……ゲイツの言う通り、俺が、オーマジオウになってさえいれば……!」
血を滲むような悔恨を漏らすソウゴに、死に臨んだものとは思えない、穏やかな笑みを浮かべて、彼女は首を振った。
「良いの。そうさせないために……私はこの道を選んだんだから」
普段の精悍な彼女からは想像も及ばないような儚さのツクヨミの手を、ソウゴは必死にこの世に留めようと掴む。
「ソウゴには、そのままのソウゴでいて欲しい……私たちを、共に過ごした日々を忘れて、独り魔王になんて、ならないで……」
それが、最期の言葉となった。満足げに、光の粒子となって、真の時の王女はソウゴの腕の中からすり抜けていった。
地に落ちた彼女のライドウォッチ以外、何も、残らなかった。すべては幻であったかと、疑いたくなるほどに。
彼女の献身により、悪は潰えた。
だが、それでも世界の融合と崩壊は止まらない。無尽蔵に、魑魅魍魎たちは湧き続ける。
「犠牲は、あまりに大きかったが、これで王道を遮る者はいなくなった」
何処からともなくウォズは現れ、そして高揚と共に腕を振り上げ、言を献じる。
「さぁ我が魔王! 今こそ玉座に上ると良い! 君の夢は此処に成就する!」
と。
だが、対してソウゴの耳にはまだ、ツクヨミの言葉が響いている。呪いにも似た、その願いが。
「ごめん……でも、嫌だ」
ソウゴは震えの残る声で、それを拒んだ。
は? と怪訝にウォズが眉根を寄せる。
確かに、オーマジオウになれば、この状況は一変するのだろう。世界のリセットも可能になる。
何より、最高最善の魔王になることこそが、夢だった。
だが、その時自分はどうなるのか。孤独な魔王として、時の流れの輪から外れるのか。あるいは全てを忘れて、普通の高校生に戻るのか。
それは、駄目だ。
許されない。
「ゲイツやツクヨミのことを、忘れるなんて……できない!」
涙ながらにそう言い切ったソウゴは、
〈ジオウ・Ⅱ!〉
慟哭と雄叫びと共に変身し、ジオウⅡとなった。そして、剣を携えて敵中へと特攻をした。
その内側で、その先の未来で、魔王の気配、歴史は確かに消えた。
黄金の御簾で成る筈だった男は、果たしてその時、どんな顔をしていたのか。
〜〜〜
一部の人間のみが知る自身の居室にて。
未だ、傷痕の残る校内と窓越しに向かい合っていた『学園長』は、静かにその目を開いた。
「どうかしたかな」
その背後に控えるウォズは、そう問いかけた。
「少し重ね合わせていただけだ。かつての世界と私と、現状とを」
『黙示録の刻』を迎え、一度滅びかけていたこの世界は、すでに時間の本流から逸脱している。体感三十年の月日が、すでに経過していた。
金刺繍の縫い込まれたスカーフも、それをまとめる懐中時計型のブローチも、各時間軸に合わせて幾重にも両手首に巻かれた腕時計も、自然合った風格だけは、身につけていた。
「君も世界も、あそこからよくぞ持ち直した、と褒めてあげようか」
あからさまに揶揄するウォズは、あの時とは老いもしていないが、それでも決定的に違っている点がある。
装いは青いスーツとなり、小脇に挟むのはもはや意義を失った『逢魔降臨暦』ならぬ生徒名簿。
「今になって労ってくれるのか? 君からこの三十年、祝福を受けたことはなかったが」
「するわけがないだろう」
……そして、自分への態度は、冷淡そのものだ。
「君はゲイツ君や君に力を託した多くのライダーの想いを裏切って、ここにいる。ありとあらゆる世界線の常磐ソウゴの中で、最も愚かで、下らない選択をした。そんな君が、やれライダー学園だハーメルン計画だなどと謳い、いずれ潰えるのがさだめの未熟な戦士たちを寄せ集めて世界の危機に立ち向かうことが、茶番以外のなんだって言うんだ?」
かつての常磐ソウゴは、顧みて校長室の机を見た。遺影の如く並べられた、時を止めたライドウォッチの数々。
ゲイツ、ツクヨミ、三人のクォーツァー達。そしてかつての自分のもの。合わせて六つが、据え置かれている。
「だが、私はそれでも、最後まで君に従おう。忘恩亡国の我が学園長。その滅びを、見届けるために」
そう表情を浮かべず、慇懃無礼に低頭する。
厚い扉がノックされたことで、会話はそこで打ち切られた。元より、それ以上の答えの出ない対話ではあったが。
「えぇーっと……呼ばれたから来たけど、大丈夫?」
入ってきた男は、何処となく二人の間に流れるヒリついた空気に、気後れしたように両者を窺った。
雷寮統括――小野寺ユウスケ――仮面ライダークウガ ライジングアルティメット。
「問題ない」
言葉寡なに、学園長は言った。
軽い安堵をしたユウスケは、背後で控える同志に目線で促す。程なくして、一組の男女が入室した。
アイパッチを左目に当て、裾を焦げ付かせた錬金アカデミーの教師服を纏う、険しい表情でやや近寄りがたく黒い長髪の、妙齢の美女。
炎寮統括――九堂りんね――仮面ライダーマジェードデイブレイク。
猫背気味で、表情に乏しく隣の彼女以上に偏屈で他を受け入れざる雰囲気を醸す、茫洋とした顔立ちの科学者然とした男。
「で、あとおやっさんは、えーと」
「『依頼は果たす。が、ガキの面倒を見るつもりはない。二人以上では手に余ることは、俺が一番よく分かってる』だそうだ。彼らしくはあるが、こちらの負担になるのは勘弁願いたいね」
疾風寮統括――は不在である。
葛城巧は、それに対して不平を零した。
「問題ないよ。彼からの調査報告は既に上がっている。疾風寮生たちのサポートやカウンセリングについては私の推薦で代理を立てている」
「聞いていないぞ、誰だ?」
巧が胡乱げに尋ねる。
「状況が状況だ。こちらにも守秘義務というものがある。だが、仮面ライダーに造詣が深く、判断力に優れ、未熟だったライダーを最強格まで育て上げた実績もある男だ。よって学生たちの活動に支障が出ることはない」
そう言って教頭に当たる青いスーツのウォズ……通称青ウォズは、それとなく部屋の片隅に視線を投げた。
――そこには、厳かな内装や瀟洒な家具類からは浮いた、陶器の置物が、目を細め頬杖を突いて鎮座していた。
『一部を除き、役者が揃ったようだな』
そして窓の外の風景がブラックアウトし、部屋は暗闇に包まれた。
直後、新たなる輝きが、モニターより溢れ出て部屋を照らす。
外部からの特別協力員――鳳桜・カグヤ・クォーツ――仮面ライダーレジェンド。
彼が映し出されたことによって。
学園長は画面に頷き、そして居並ぶ教員たちを見回した。
「では始めるとしよう。臨時会議、我らパラレルライダー達の、今後を決める話し合いを」